ようやく続きを書けそうです。
大変お待たせしました。
感想をぜひお願いします。
「大丈夫だ、雫。大迷宮さえクリアできれば、俺達だってカービィは兎も角、南雲くらい強くなれる。いや、南雲が非戦系天職であることを考えれば、きっと、もっと強くなれるはずだ」
「だな。どんな魔法が手に入るのか楽しみだぜ」
「うん、頑張ろうね!」
カービィやハジメの強さは神代魔法だけが要因ではないのだが、その辺はスルーして光輝がグッと握り拳を作った。龍太郎や鈴も気合十分なようだ。
「みなさ~ん、着きましたよぉ~」
光輝達が燃え上がっていると、シアが肩越しに振り返りながら大樹への到着を伝える。濃霧の向こう側へ消えていくシアを追ってカービィ達も前へ進むと霧のない空間に出た。前方には以前見た時と変わらない枯れた巨大な木がそびえ立っている。
「これが……大樹……」
「でけぇ……」
「すごく……大きいね……」
頭上を見上げ、大樹の天辺が見えないこと、横幅がありすぎて一見すると唯の壁のように見えることに口をポカンと開けて唖然とする光輝達。きっと、初めて訪れたとき自分達も同じような表情になっていたのだろうなと、ハジメとユエ、カービィは顔を見合わせて小さく笑みをこぼした。
ハジメは、〝宝物庫〟から今まで攻略して来た大迷宮の証を取り出しながら根元にある石版のもとへ歩み寄る。石版も以前と変わらず、七角形の頂点に七つの各大迷宮を示す紋様が描かれており、その裏側には証をはめ込む窪みがあった。
しゃがみこみながら、ハジメが計五つの証を掌で弄んでいると、光輝達もようやく大樹の偉容から解放されて正気を取り戻しハジメのもとへ集まって来た。ここからは何が起こってもおかしくない本当の魔境だ。気を引き締めろと、ハジメは鋭い視線を光輝達に飛ばした。
「カム、何が起こるかわからないからハウリア族は離れておけ」
「了解です、ボス。ご武運を」
フェアベルゲンとの交渉で、大樹近辺から南方はハウリア族の土地になったので付いてきたカム達だったが、ハジメの言葉に少し残念そうな表情になりつつ、それでも一斉にビシッと敬礼を決めて散開していった。
それを確認すると、ハジメはおもむろに【オルクス大迷宮】攻略の証である指輪を石版の窪みにはめ込んだ。一拍置いて、石版が淡く輝き出し文字が浮き出始める。
〝四つの証〟
〝再生の力〟
〝紡がれた絆の道標〟
〝全てを有する者に新たな試練の道は開かれるだろう〟
「これも前と同じだな。使う証は……【神山】以外のでいいか」
ハジメは呟きながら一つずつ証を石版にはめ込んでいった。【ライセンの指輪】【グリューエンのペンダント】【メルジーネのコイン】……
一つはめ込んでいく度に石版の放つ輝きが大きく強くなっていく。そして、最後のコインをはめ込んだ直後、その輝きが解き放たれたように地面を這って大樹に向かい、今度は大樹そのものを盛大に輝かせた。
「む? 大樹にも紋様が出たのじゃ」
「……次は、再生の力?」
ティオが興味深げに呟いた通り、大樹の幹に七角形の紋様が浮き出ていた。トコトコとその輝く紋様に歩み寄ったユエは、そっと手を触れながら再生魔法を行使する。
直後、
パァアアアアア!!
今までの比ではない光が大樹を包み込み、ユエの手が触れている場所から、まるで波紋のように何度も光の波が天辺に向かって走り始めた。
燦然と輝く大樹は、まるで根から水を汲み取るように光を隅々まで行き渡らせ徐々に瑞々しさを取り戻していく
「あ、葉が……」
シアが、刻々と生命力を取り戻していく大樹にうっとりと見蕩れながら頭上の枝にポツポツと付き始めた葉を指差す。まるで、生命の誕生でも見ているかのような、言葉に出来ない不可思議な感動を覚えながら見つめるカービィ達の眼前で、大樹は一気に生い茂り、鮮やかな緑を取り戻した。
少し強めの風が大樹をざわめかせ、辺りに葉鳴りを響かせる。と、次の瞬間、突如、正面の幹が裂けるように左右に分かれ大樹に洞が出来上がった。数十人が優に入れる大きな洞だ。
カービィ達は顔を見合わせ頷き合うと、躊躇うことなく巨大な洞の中へ足を踏み入れた。
ハジメが少し懸念していたこと――実際に四つ以上の大迷宮を攻略していないメンバーは樹海の大迷宮に挑戦できないのではないかという点については、どうやら杞憂だったようである。問題なく全員が洞の中へ入ることが出来た。
今回のメンバーは全員で挑む。
数秒後ローアがやって来てマホロア達もやって来た。
おそらく他の大迷宮と同じく、「入りたければ、あるいは入れるものなら入ればいい。但し、生きて出られる保証は微塵もないけど」というスタンスなのだろう。
ハジメは視線を巡らせる。だが、洞の中は特に何もないようだった。ただ大きな空間がドーム状に広がっているだけである。
「行き止まりなのか?」
光輝が訝しそうにポツリと呟く。
直後、洞の入口が逆再生でもしているように閉じ始めた。
徐々に細くなっていく外の光。思わず慌てる光輝をハジメが一喝する。入口が完全に閉じ暗闇に包まれた洞の中で、咄嗟にユエが光源を確保しようと手をかざした。が、その必要はなかった。
なぜなら、足元に大きな魔法陣が出現し強烈な光を発したからだ。
「うわっ、なんだこりゃ!」
「なになに! なんなのっ!」
「騒ぐな! 転移系の魔法陣だ! 転移先で呆けるなよ!」
動揺する龍太郎や鈴にハジメが注意した直後、彼等の視界は暗転した。
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「っ……ここは……」
再び光を取り戻したハジメ達の視界に映ったのは、木々の生い茂る樹海だった。大樹の中の樹海……何とも奇妙な状況である。
「みんな、無事か?」
光輝が軽く頭を振りながら周囲の状況を確認し仲間の安否を確認した。それに雫達が「大丈夫」と返事をする。全員が問題はないようで、周囲を警戒し鋭い視線を飛ばしている。
「南雲、ここが本当の大迷宮なんだよな? ……どっちに向かえばいいんだ?」
ハジメ達が飛ばされた場所は、周囲三百六十度、全てが樹々で囲まれたサークル状の空き地であり、取るべき進路を示す道標は特に見当たらなかった。
頭上は濃霧で覆われているので飛び上がって上空から道を探すことは出来そうにない。なので、光輝はどうしたものかと大迷宮経験者であるハジメに尋ねたのだ。
「……取り敢えず、探すしかないな」
ハジメは、どこか不機嫌そうな表情でそれだけ呟くと、近くの木の幹に手を当て〝追跡〟を発動する。魔力的なマーキングがなされ、進行方向を示すように矢印型の紅い光が木に貼り付いた。
それを見て光輝達が頷く。目印を残しながら探索するしかないと理解したようだ。そして、大迷宮の試練をクリアしたのだと認められなければ神代魔法を授かれないと聞いていたので率先して歩き出した。
ぞろぞろと、他のメンバーもその後を付いて行く。しかし、ハジメだけは、どこか瞳に冷たさを宿しながら何故かその場を動かない。歩き出して、それに気がついたシアが頭上に〝?〟を浮かべてハジメの方へ振り返った。
「……ハジメさん? どうし――」
シアが、ハジメに声をかけた……その瞬間、
シュバッ!
「コピー能力バーニング!」
そんな風切り音が響いたかと思うと、一瞬でユエとティオ、、龍太郎、そしてマホロアたち、がワイヤーに巻き付かれた挙句、両端の球体が空中で固定され拘束されてしまった。ハジメが、神速で〝宝物庫〟から拘束用アーティファクトであるボーラを取り出し投げつけたのである。
そしてカービィはそれにバーニングで体当たりした。
ジタバタともがくユエ、ティオ、龍太郎、マホロア達、そんな彼女達を見て光輝達が唖然とする。しかし、直ぐに正気を取り戻すとキッと音がしそうな強い眼差しをハジメに向けた。
「南雲!カービィ! 一体、なんのつもりだ!」
光輝が思わず怒声を上げる。雫達もどこか緊張したような表情でハジメに視線で事情説明を求めた。
「……少し黙ってろ」
「わからないの?」
しかし、ハジメとカービィはそれだけ言うと光輝達の疑問には答えずユエのもとへ無言、無表情でスタスタと歩み寄った。
そして、自分を困惑したように見上げるユエの額にゴリッとドンナーの銃口を押し付けた。その瞳には絶対零度の冷たさが宿っており、ハジメが激烈な怒りを抱いていることが示されていた。
「ハジメ……どうしっ」
ユエが、自分に銃口を向けるハジメを見て信じられないといった表情をする。そして、ハジメの名を呼びながら疑問の声を上げようとした。
が、その直後、
ドパンッ!
ハジメは躊躇うことなくドンナーの引き金を引いた。樹海に、乾いた炸裂音が木霊する。一応、銃口は額から外されてユエの肩に向けられていたが、それでもハジメが最愛の恋人を撃ったことに変わりはない。
その事実に、光輝達は当然のことシア達は激しく動揺する。カービィはニンジャで分身してシアたちを足止めする。
そして、ハジメの正気を疑うような眼差しを向けた。
「な、何をやってるの! 南雲くん!」
「ハジメくん! やめて!」
光輝がハジメを取り押さえようと今にも飛びかかりそうな雰囲気だったが、それは、次ぐハジメの言葉で霧散することになった。
「許可なくしゃべるな、偽物。紛い物の分際でユエの声を真似てんじゃねぇよ。次に、その声で俺の名を呼んでみろ。手足の端から削り落とすぞ」
「ボクは騙されないよ!」
ハジメとカービィが声を発した瞬間、まるでその場が極寒の地にでもなったかのように冷気で満たされた。実際に気温が下がっているわけではない。その身から溢れ出る殺意が、生命の発する熱を削ぎ落としているのだ。心なし、周囲が暗くなった気さえする。余りに濃密な殺意に、光輝達の呼吸が自然と浅くなり冷や汗が滝のように流れ落ちた。
「お前は何だ? 本物のユエは何処にいる?」
「……」
ユエの姿をした〝何か〟は表情をストンと落とすと無機質な雰囲気を纏って無言を貫いた。〝何者〟ではなく〝何か〟なのは、撃たれた肩から血が流れ落ちないからである。明らかに〝人〟ではなかった。
ドパンッ!
ハジメは、今度は逆の肩を撃ち抜く。しかし、ユエの偽物は表情一つ変えることはなかった。どうやら痛覚がないらしい。ノイントよりも尚、人形のようなイメージを受けるそれは、あるいは本当に意思を持っていないのかもしれない。
「答える気はないか。……いや、答える機能を持っていないのか。ならもういい。死ね。カービィ!」
「コピー能力ガン!」
ドパンッ!
パァン!
ハジメは、ドンナーの銃口をユエの額に向けると今度こそ頭部をレールガンで撃ち抜き吹き飛ばした。
カービィはコピー能力ガンを使いユエの形をした物を蜂の巣みたいにした。
ユエ(偽)の後方に、何かがビチャビチャと飛び散る。
思わず顔を背ける雫達だったが、堪えてよく見てみれば飛び散ったのは脳髄などではなく赤錆色のスライムのようなものだった。頭部を失ったユエ(偽)の胴体は、一拍おいてドロリと溶け出すと、同じように赤錆色のスライムに戻りそのまま地面のシミとなった。
ハジメとカービィは続けてボーラで拘束しているティオと龍太郎の頭部も撃ち抜く。弾け飛んだ二人に思わず総毛立つ光輝達だったが、やはりユエ(偽)と同じように赤錆色のスライムに戻るとそのまま地面に吸い込まれていった。
カービィはコピー能力クリエイト『ガン、ガン、ガン、ガン』でマホロア達の偽物を撃ち抜いた。
「チッ。流石大迷宮だ。いきなりやってくれる……」
ハジメがドンナーをホルスターに仕舞いながら悪態を吐く。
「ハジメさん、カービィさん……他の人達は……」
「転移の際、別の場所に飛ばされたんだろうな。僅かに、神代魔法を取得する時の記憶を探られる感覚があった。あの擬態能力を持っている赤錆色のスライムに記憶でも植え付けて成り済まさせ、隙を見て背後からって感じじゃないか?」
ハジメが恋人をダシにされて不機嫌そうに表情を歪ませる。ハジメの推測を聞いて雫と鈴が感心したように頷いた。
「なるほどね。……それにしてもよくわかったわね」
「うんうん、鈴には見分けがつかなかったよ。二人ともどうやって気がついたの?」
鈴が、また成り済ましで仲間に紛れられたら困るとハジメに見分け方を聞いた。光輝もはぐれた親友の安否を気にしつつ興味深げにハジメを見やった。
そんな疑問に対するハジメの答えは……
「どうって言われてもな。……見た瞬間、わかったとしか言いようがない。目の前のこいつは〝俺のユエじゃない〟って」
「「「「「……」」」」」
ある意味、惚気とも言えるような回答に全員がガクッと脱力した。
「ボクも見た時にわかったかな。なんか…違う人の雰囲気で…、ボクの星にも、鏡の大迷宮って場所でボクと同じような姿と能力を持ったひとがいたから。(鏡の大迷宮のシャドウカービィや色違いのカービィの事)たとえ見た目が違ってもボクはわかったって所かな…。」
「「「「「!?」」」」」
カービィの回答に予想外だった全員は驚いた。
「じゃあ、他の皆さんは?」
「一度、偽者がいるって分かれば、後は注意して見れば〝魔眼石〟で違和感を見抜くことは出来るんだよ。だから、今後は俺といる限り心配無用だ」
そうですかぁ~と、光輝達はどこか呆れたような眼差しをハジメに向けた。そんな中、シアが何か思いついたようにハッとすると、もじもじしつつ期待を含めた眼差しでハジメに問う。
「あの、ハジメさん、カービィさん……私でも、見た瞬間に気づいてくれますか?」
「!」
シアの問い掛けに隣の香織が反応し、視線で「私はどうかな?」と問いかける。何となくハジメに視線が集まる。微妙に甘酸っぱい雰囲気の中、ハジメは特に気負った様子もなくあっさり答えた。
「さぁ? 見た瞬間は無理じゃないか?」
「「……」」
「ボクはわかるよ!」
普通は空気を読んで「もちろん、気が付くに決まっているだろ?」と答えるべき場面であるが、そこはハジメクオリティー。容赦なく思ったことをそのまま伝える。
カービィは自信を持って答えた。
思わずジト目になるシアと香織だったが、そんな二人の視線などどこ吹く風といった様子でハジメは樹海の奥へスタスタと進み始めてしまった。
「神経が太すぎるのも考えものね……」
「あぅ、カオリン、シアシア、元気だして!」
「香織は本当に、何だってあんな奴を……」
ハジメとカービィの後に続きながら、雫達が頬を膨らませて不機嫌さをアピールしている香織とシアをチラ見する。一行は最初から色々問題を抱えつつ樹海の中へと足を踏み入れるのだった。
ちなみに、内心では「シアなら分かる」と、ハジメは思っていたりするのだが……素直に態度で示そうと決めたばかりなのに、つい素っ気なくしてしまうところはやはりハジメもツンデレと言えるかもしれない。
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ブゥウ゛ウ゛ウ゛ウ゛!!
まるで扇風機を最大速で動かしているような、そんな音が樹海に響く。一つや二つではない。おびただしい数のそれは羽音だ。超高速で羽ばたかれる半透明の羽が、既にそれ自体攻撃になりそうな騒音を撒き散らしているのだ。
「うぅ~、キモイよぉ~、〝天絶ぅ〟!」
「泣き言いわないの! 鈴、そっち行ったわよ!」
「くっ、素早い! 〝天翔剣〟!」
鈴が相対する魔物の姿に生理的嫌悪感を抱いて泣きべそをかく。
それも仕方ないかもしれない。何せ、羽音の元は幼児サイズの〝蜂〟だったからだ。フォルムを例えるならスズメバチだろう。超巨大な蜂型の魔物が、強靭な顎と尾の針を凶器に群れをなして襲いかかって来ているのだ。
黄色と黒の毒々しい色合いと、ギチギチと開閉される顎、緑色の液体を滴らせる針、わしゃわしゃと不気味に動く足、そして赤黒い複眼……確かに直視は避けたい生き物だ。
しかも、この蜂型の魔物、動きがやたら素早く群れで連携までとってくるので厄介なことこの上なかった。更に、尾の針は射出可能で飛ばした直後には新しいものが生えてくるので、中距離からマシンガンのように掃射されると厄介どころでは済まない脅威であった。
何とか鈴の障壁が毒針の攻撃を防ぎ、雫が速度で相手の連携を崩して、生まれた隙に光輝が強力な一撃を叩き込むという方法で対抗しているが、視界を埋め尽くす蜂の群れは一向に減った様子がなかった。
「くそぉ、こいつら、まるで魔人族の魔物みたいだ!」
「いや、逆だろう? 奴らの魔物が大迷宮の魔物に近いんだ」
必死の形相で聖剣を振るう光輝が、少し前に経験した修羅場を思い出して思わず悪態を吐いた。大迷宮の魔物の強さに余裕が全くないようだ。
そんな光輝の背後から今にも奇襲を仕掛けようとしていた体長二メートルはあるカマキリ型の魔物を、歯牙にもかけずに瞬殺しながらハジメがツッコミを入れた。
ハジメから少し離れた場所では、シアが、これまた三メートルはありそうな巨大なアリ型の魔物をドリュッケンの一撃で地面ごと爆砕し周囲に屍の山を築いている。香織も負けずに、次々と銀羽を飛ばして既に三十体近い蜂型の魔物を分解・撃墜していた。
光輝は視界に入ったその光景を見て、改めてハジメ達との実力差を感じ悔しそうに歯噛みする。
「〝天絶ぅ〟〝天絶ぅ〟! もう、ダメだよっ。押し切られちゃう!」
既に半泣きの鈴が展開する幾枚もの輝くシールドは、破壊されては新たに作り出されてを繰り返し、鈴の魔力を容赦なく削り取っていく。
〝天絶〟は、確かにシールド自体の強度はそれほどでもなく展開数を重視した障壁ではあるが、それでも〝結界師〟である鈴が張るものであり並みの魔物なら一枚割るにも数度の攻撃が必要なくらいの強度があるのだ。
しかし、蜂型の魔物が射出する毒針の前では文字通り紙屑のように一瞬で破壊されてしまい、鈴は現在、かつてない速度での障壁展開を余儀なくされていた。
少しずつ、少しずつ、障壁の展開が遅れがちになり飛んでくる毒針が徐々に距離を詰めてくる光景は、まるで真綿で首を絞めるかのように鈴の精神にもダメージを与えていた。
「奔れ、〝雷華〟! 刻め、〝爪閃〟!」
雫の詠唱と共に、宙に雷の華が咲き、風の爪痕が刻まれる。黒刀の能力をいかんなく発揮させ迫る蜂型の魔物に振るっていく。
その鋭い太刀筋は、確かな手応えと共に蜂型の魔物を切り裂いていった。スピードファイターである雫と蜂型の魔物は相性がいいのだろう。〝無拍子〟を利用した緩急自在のスピードで連携を乱しつつ、一体一体確実に屠っている。
しかし、蜂型の魔物の強みはその数の多さだ。倒すことは出来ても雫には圧倒的に殲滅力が足りなかった。それ故に、戦局は徐々に押され始めており、それに気がついている雫の表情は苦々しい。
「刃の如き意志よ、光に宿りて敵を切り裂け! 〝光刃〟!」
光輝が、雫のおかげで出来た隙に詠唱し、聖剣に光の刃が宿らせる。
その光刃は、聖剣の先から更に伸長し二メートル近い長さとなった。光輝は、巨大な光の刃を振りかぶると体を回転させながら一気に振り抜き周囲の蜂型の魔物を纏めて切り飛ばす。
しかし、隙の大きいモーションをとってしまったために技後硬直を狙われ魔物が殺到。体当たりを受けて後方へひっくり返ってしまった。
「くっ、このっ!」
「光輝!」
顎をギチギチ鳴らしながら毒針を突き刺そうとする蜂型の魔物だったが、幸い、光輝の纏う聖なる鎧が針を寄せ付けず、光輝はその隙にどうにか頭部を切り飛ばして起き上がろうとした。
雫の心配する声に応える余裕もない。次の瞬間には、再び大量の魔物が体勢を立て直しきれていない光輝に襲いかかったからだ。
「うぉおおおお!」
雄叫びを上げながら聖剣を振る光輝だったが、一度晒してしまった決定的な隙を簡単に立て直しさせるほど大迷宮の魔物は甘くない。遂に、聖剣を掻い潜って背後に回り込んだ蜂型の魔物が、そのスパイクのような足でがっちり背中に組み付き、凶悪な顎で光輝の首筋を噛み千切ろうとした。
「ッ!?」
声にならない悲鳴を上げる光輝。
刹那、
ドパンッ!
銃声一発。
今まさに蜂の顎が光輝の首に突き刺さろうとした瞬間、横合いから空を切り裂いて閃光が迸り、蜂型の魔物の頭部をあっさりと吹き飛ばした。
その余波でフラつく光輝は、首筋に感じるヒリヒリした熱さを無視して取り付いている蜂型の魔物の残骸を引き剥がす。九死に一生を得たものの、更に群れをなして押し寄せる魔物に光輝の頬が引き攣った。
――押し切られる
そう確信した。そんな光輝の耳に何の焦りも感じていない声が届く。
「動くなよ、天之河」
直後、無数の流星が蜂型の魔物を容赦の欠片もなく無慈悲に蹂躙した。
ドォオパン! ドォオパン! ドォオパン! ドォオパン! ドォオパン!
一発分に聞こえる銃声は、その実、六条の閃光を生み出している。
紅く輝く光の槍は、たった一発で射線上の魔物達を後方まで貫き一瞬で絶命させた。更に、計算され尽くした射角で解き放たれた弾丸は、あろう事か空中で他の弾丸とぶつかり、微妙に角度を変えた上で、より効率的に敵を撃ち抜いていく。
見方によれば、まるで敵の方が自ら弾丸に飛び込んでいるようにすら見えた。そんな絶技とも言うべき銃技で、光輝が散々苦労した魔物を圧倒するハジメは、手元に転送した弾丸をガンスピンさせて次々とリロードしながら、更にドンナー・シュラークを乱れ撃つ。
……全ての片がつくのに一分もかからなかった。まさに秒殺。
瞬く間に蜂型の魔物を殲滅してしまったハジメは何事もなかったようにドンナー・シュラークをホルスターに仕舞うと、呆然とする光輝達を放置して倒した魔物に近寄った。
「ちっ、喰っても意味なさそうだな……」
「く、喰う? えっ、南雲くん、これを食べるつもりだったの? 本気で?」
思わず、先の蹂躙劇を忘れてドン引きしながら雫が聞いた。
「言ってなかったか? ……自分と同等以上の魔物を喰うとな、相手の固有魔法を自分の物に出来ることがあるんだよ。奈落の底じゃあ、喰うものなんて魔物くらいしかなかったからな。あぁ、お前らは真似するなよ。まず間違いなく死ぬから」
「頼まれたってしないわよ。改めて聞くと本当に壮絶ね……」
雫が、どこか複雑そうな眼差しをハジメに向けた。本当に頼りになるし今まで何度も助けられてきたのだが、その強さのもとが余りに壮絶な経験の果てのものであると改めて実感し、素直に感心していいものか迷ったのである。
「で、でも、じゃあ何でこれは食べないの? いや、鈴としては、そんな捕食シーンは見たくないから食べないにこしたことはないんだけど……」
「今、言っただろう? 自分と同等以上じゃないと意味ないって。この辺の奴等じゃあ雑魚すぎるんだよ。それにカービィに料理してもらうから大丈夫だ。」
「……そっかぁ~。南雲くんにとって、この魔物は雑魚なんだぁ~。そっかぁ~、アハハ」
「鈴、気持ちはわかるから壊れないで。戻ってきなさい」
若干、壊れ気味に乾いた笑い声を上げる鈴を、雫が嘆息しながら正気に戻す。
「……」
「コピー能力コック!」
カービィはカンカンと調理道具を鳴らし鍋に素材を入れてハジメに食べ物を渡す。
そんな中、光輝だけはハジメが撒き散らした魔物の残骸をギュッと拳を握りながら見つめていた。自分が危うく死にそうになる程の強敵を相手に、まるで何の価値もない路傍の石の如き評価を下すハジメを見て、その隔絶した実力差を嫌というほど感じているのだ。気がつかないふりをしているが、心の内には、かつて感じた黒い感情が湧き出している。
無言で佇む光輝をハジメはチラリと見やった。
「……天之河」
「っ。な、何だ?」
「今は、お前の幼馴染を探し出すことだけ考えとけ。あれこれ悩むのは、やることやってからで十分だろ」
「あ、ああ。そうだな、早く龍太郎達を見つけないとな……」
多少どもりながらも、ハジメの言葉にしっかりと頷く光輝。行方不明の幼馴染を思って気を引き締め直す。
ハジメは、そんな光輝をしばらく見つめたあと興味を失ったように視線を逸らした。
実のところ、ハジメには光輝が今感じているものが何なのか手に取るように分かっていた。劣等感や焦燥感、強さへの嫉妬……かつて、ハジメも感じたことのある感情だ。
まさか、何でも持っている光輝が、そんな感情をよりにもよってハジメに感じるとは何とも皮肉な話である。そんな事を思いつつもハジメに光輝を慮る気持ちは皆無なので、あっさりスルーした。先の言葉だけでもハジメからしてみれば大盤振る舞いなのである。
「ハジメさん、向こうは掃討しましたよぉ~」
「ふぅ、こっちも終わったよ」
そうこうしている内に、香織とシアも魔物を片付け終わって戻ってきた。
「よし。それじゃ、出発するか。ユエとティオのことだから大丈夫だとは思うが、少しでも早く合流できるに越したことはないからな。坂上は……まぁ、なるようになるだろう」
「ちょっ、龍太郎の扱いが雑すぎない? いえ、恋人が大事なのはわかるのだけど……」
ハジメの物言いに雫が困った表情でツッコミつつ、一行ははぐれた仲間を探して樹海の奥へと進んでいった。
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