もしも次、生まれたなら   作:銭湯メイド

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終わりと始まり

 VRMMORPG《ユグドラシル》。

 人間をはじめとしたエルフなどの人間種はもちろんのこと、異形種と呼ばれるモンスターにさえなれる選択肢の広さが人気を呼んだオンラインゲーム。そのユグドラシルに無数に存在するギルドの一つ『アインズ・ウール・ゴウン』のギルド長モモンガこと鈴木悟。彼ははぁ、とため息を吐く。

 

「どうかしましたか、センパイ………」

「ん?あ、いや……」

 

 それに反応したのは彼の隣に住み彼を起こしたり食事を作ったり掃除をしてくれる彼の後輩。この時代、わずかな調味料ですら高価だというのにそれを複数使いクソまずい料理をここまで良くするのだからもはやそれは一つの才能だろう。上流階級に生まれてたら一流の料理人になっていたに違いない。

 

「実は女、カップル限定イベントとかが最近増えてね。珍しいアイテムもあるのに、ギルドの女性プレイヤーとタイミングが合わなくて。クソ運営め、リア充ばかり優遇しやがって!」

「あー、センパイ本当ユグドラシル好きですね」

 

 と、笑う後輩。馬鹿にしてると言うよりは子供っぽいと微笑ましく思われているのだろう。

 

「でもこんなご時世、確かにネットしか楽しめませんしね。仕事も忙しい人ばかりだし、休みが被るなんて稀でしょ?」

「そーなんだよ。しかもうち基本的に嫌われてるから、ギルド以外のフレンド少ないしその少ない中に女性プレイヤーいないし…」

「親しくて、かつ休みの合う人ですか~………あ、じゃあ俺なんてどうです?」

 

 後輩が己を指さし言うと悟はえ?と首を傾げる。

 

「ほら、ネカマ?って言うんですか……?俺が女性アバター作って、それで行きましょう。同じ会社の同じ部署、休みも同じですからね」

「え?いや、良いの?ネカマなんて……」

「所詮ゲームですし?まあ変わりにセンパイにも掃除とか手伝ってもらいますけどね」

「よし!それだけならお安いご用だ!あ、アバター作りはちょっと待って!ギルメンと相談して作ってみる!」

 

 

 

 

「それで、ギルメンさん達と作ったアバターがこれですか………すっごい美少女」

 

 ゲーム世界の鏡に映る己の姿を見てその場でクルリと回るアバターネーム『レイ』。メンバーの一人の声優のコネを使ったプロの絵師に描かせたキャラを忠実に再現したらしい。嘘、胸だけは再現してない。レイは当たり判定が多そうだからやだ、と消したのだ。つまりペッタンコ。バードマンが興奮していた。

 

「それにしても、人間種なんですね。センパイのギルドは異形種オンリーでは?」

「レイは別にこの世界で何かしよう、とかないだろ?ならいっそ人間種限定のイベントとかも代わりにやってもらおうかな、と思ってさ」

「後輩使いの荒い人ですね。ま、良いですけど。ですけどオレはこの世界では全くの素人。強くなれるように訓練お願いしますね?」

「………見た目は女、中身は男。これもこれで、堕ち描写があれば。出来れば百合のネコとして………よし、シャルティアに設定追加しとこう」

 

 と、バードマンがどっかに行った。あの馬鹿弟と、男性のあれみたいな肉の塊もどっか行った。ちなみにその肉の塊、このアバターのボイスサンプル。彼女の出たアニメを見てみたが、声優は凄いと思った。声は同じ筈なのにアニメはロリロリ、こっちはしっかりした感じ。

 

「それじゃ早速始めましょうか。やはり戦士職ですか?」

「いいや、高火力の魔法職に決まってんだろ。な?」

 

 聖騎士と悪魔の言葉にふむ、と考え込むレイ。この場合、どちらを取るのが正解なのだろうか?生憎ゲームは素人。魔法職と戦士色のどちらが優れているのか解らない。先輩の悟………こっちではモモンガは魔法職らしいし魔法職を勧めてくるだろう。それは良くない。こういうのは自分で決めなくては………

 

「………あ、というかそもそも俺は先輩が参加できないイベント参加するために来たわけですし、戦士職オンリーのイベントがくる可能性も………うーん、いや、収集家気質な先輩のためにいっそ生産系に………」

 

 

 その一年後、あっという間に頭角を現した。

 世界級(ワールドアイテム)の『鍛冶神の背負い袋』《ヴェルドンド・ナップザック》という素材が無尽蔵に取り出せるアイテムをゲットした彼女は早速様々な武器防具を生み出した。そのどれもが一級品。

 素材は売れないが製作したアイテムは売れるという鍛冶職達からすれば億万長者への近道、当然狙われたがレイの客達から攻撃を受け滅ぼされた。ユグドラシルにレイ以上の鍛冶師が居ないからだ。

 しかし、ある出来事をきっかけに人間種達全てがレイの命をねらい出す。

 とあるイベント、『婚約』というシステムが実装され執り行われたイベントにてレイが最悪のギルドと呼ばれる『アインズ・ウール・ゴウン』ギルド長モモンガと共に参加したのだ。

 ファン達はモモンガ潰す!と叫び、アインズ・ウール・ゴウンの強化を危惧した人間種達のギルドもレイからアイテムを奪おうと考えたのだ。

 まあ、アインズ・ウール・ゴウンおよびレイの客達による同盟軍。さらにはレイ自身に返り討ちにされたが。

 レイは戦士職も取っていた。知識ではなく体感として武器の性能やモンスターに対する相性を知っておきたいから、だそうだ。

 ちなみにそのイベントで指輪ともう一つの世界級(ワールドアイテム)を手に入れたが今のところ使う予定はなく、しかし誰かに渡すのは勿体ないと二人のアイテムボックスに仕舞われている。

 

「俺もすっかり有名人ですね~。あ、センパイアイテム買います?」

「もらう。レイの作ったソロモン72柱剣シリーズ、今何本だっけ?」

「69本ですね。後でもっかい悪魔の特徴調べないと………ウルベルさん、次何時これますかね?」

「明日あいてるってさ」

 

 魔導師姿の骸骨にドイツ軍服を纏った女。何とも珍妙な組み合わせで、しかし彼等は夫婦でリアルでは先輩後輩関係の男同士。何とも不可思議な関係だ。

 

「あ、そうだ。帰ったらご飯にします?お風呂にします?」

「ご飯かな……お風呂はその後で」

「了解です………って、なんかこれ本当に夫婦みたいですね」

「………俺はたまに此奴何で女じゃないんだろう、って思うよ」

「あはは。センパイって面倒見よくてしっかりしてるけどたまに抜けてて可愛いところもあって、俺が女だったら絶対惚れてませんね」

「………え、今の流れで?」

「だって、センパイ重いんですもん」

「ええー………」

 

 と、情けない声を出す骸骨にケラケラ笑うレイ。

 

「冗談ですよ。俺が女なら、間違いなく惚れてました」

 

 イシシ、と笑うレイ。モモンガはポリポリ頭をかいた。アバターだから痒くなんて無いけど。

 

「尊い………」

「黙れ、姉」

 

 

 

 

 こんな風な友情が何時までも続くのだと思っていた。しかしそれは唐突に終わる。

 レイだけ残業する事になり先に帰った悟は今ネカフェにいますというメールに喜びすぐにログインした。待ち合わせ場所は、花畑。もはや現実で見ることの叶わぬその場を、レイは好む。ブループラネットとも仲が良い。

 

「よく見つけたねこんな所」

「今度ブループラネットさんもつれてきましょう」

「ははは。きっと喜ぶよ……なんかもう、ほぼギルメンだよねレイは」

「俺は異形種じゃないですけどね」

 

 アインズ・ウール・ゴウンは異形種ギルド。人間種のレイは彼等と交流が多くてもギルドには正式に加入していない。

 

「その事だけど、ギルメンで話し合って、ギルドに加入させないかってなったんだ」

「え?」

「ほら、他のギルドから勧誘しつこいだろ?もちろんレイが他に入りたいギルドがあるなら、止める権利は俺にはないけど」

「そ、そんな!嬉しいです!本当に、良いんですか!?」

「あ、ああ……あまり近づくな。ハラスメント警告が出る」

「あ、そういえば俺女でしたね今……」

 

 そう言って離れる。モモンガがギルド申請を行うと迷いなくYESを押すレイ。ギルドメンバーの証である指輪を渡し、それじゃあ報告に行こうとナザリックに転移しようとした瞬間、レイが消える。

 断線か?と思った。いったんリアルに戻る。メールは、ない。普段なら直ぐに謝罪のメールが来るのに。

 ユグドラシルに戻り持つ。レイは、現れることはなかった。

 

 

 

 

「…………………」

 

 モモンガ改めアインズ・ウール・ゴウンと名を変えた死の王はふとそんなことを思い出す。

 本来なら加わるはずだった43人目のメンバー。自分にとって、親友だった後輩。我ながら死者に想いを馳せるなど未練がましい。アルベドにもモモレイが好き、などとぶくぶく茶釜みたいな設定付け足しちゃったし……。

 

「火事、か………」

 

 彼の泊まっていたネットカフェが火事になり、彼はそこで命を落とした。ゲームではない、本物の死。

 酷く空虚になり、しばらくはログイン出来ず、ログインしても彼とよく行った場所ばかり回っていた。人化の腕輪・極なんて持ち歩く癖が付いたのは彼と居たからだろう。

 

「………女なら、惚れてくれていた、か」

 

 懐かしい言葉だ。単なる冗談なのだろう。

 だけど、と少しだけ期待が募る。この異世界転移。自分はサービス終了まで居たからだとして、本当にそれだけだろうか?もし、ログイン中に死んだ、というのも条件に入っていたら?

 

「もしそうなら、お前は今女なのだろう?」

 

 なにせアバターは確かに女だ。もし、この世界に女として生を受けていたのなら………

 

「なんてな。普通に、友達に戻れれば十分だ」


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