もしも次、生まれたなら   作:銭湯メイド

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人類最強と人類最高

 レイはあれ?と周囲を見回す。気が付いたら、知らない場所にいた。

 何でここに?確か、自分はモモンガと共に居た。何か爆音のような物を聞いたような気がして、気が付けばここにいた。

 掌をみる。リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンが握られている。良かった、これを使えばモモンガ達の下に行けるだろう、と装着する。

 

「転移、ナザリック地下大墳墓…………」

 

 指輪は、何の反応も示さない。あれ?と首を傾げる。アインズ・ウール・ゴウンのギルメンから聞いた話ではこれでナザリックに転移できるはずなのだが。突然変な場所にきたし、何かのトラブル?と、その時───

 

「ねぇ、貴方今どこからきたの?」

「………え?」

 

 その声に振り返ると、そこにはキョトンとした顔で此方を見る可愛らしい少女が居た。左右で別れた黒髪と銀髪。間違いなくゲームキャラ。NPCだろうか?それともプレイヤー?

 

「えっと、それが解らないんです……気づいたらここにいて。俺も何がなんだか」

「俺?貴方、男?」

「ん?えっと、まあ……こんな格好だけど………」

「ふうん?女の子だと思ったんだけどな………ま、良いわ。じゃあ、殺し合いましょう?」

「え、何で?────ッ!?」

 

 キィン!と金属音が響きレイの身体が吹き飛ばされる。少女が、いきなり身の丈程はある鎌を振るいレイは咄嗟に剣で受け止めた。吹き飛ばされ、床をこするレイ。少女は楽しそうに笑みを浮かべる。

 

「へぇ、今のを止めるんだ。フフ、良いね、そうこなくちゃ」

 

 楽しそうに笑う少女から猛攻が続く。新たな剣をアイテムボックスから取り出し二刀流で攻撃を捌く。

 

「───っ!」

 

 強い。数合打ち合い、相手の実力を吟味する。

 装備は駆け出しから中堅と呼ばれるようになる頃のプレイヤー程度の貧相な物のなのに、そのステータスは完全にカンストプレイヤー。

 しかし動きはどこか拙い。カンストプレイヤー並みのステータスを持ちながらプレイヤースキルは素人より上程度。鍛冶職メインでありながら戦士職のカンストプレイヤーとも渡り合えるレイの敵ではない。

 

「ふっー………はっ!」

 

 呼吸を整え、一気に攻める。笑みを浮かべ続けていた少女の顔に初めて焦りが入る。しかしそれは一瞬。レイの突きが己の頬をかすると、とても嬉しそうな顔をした。

 一度距離をとり、剣を構える。と、同時に少女は鎌を振り下ろしていた。

 

「───ッ!?」

 

 咄嗟に突きを放つが身体をひねり回避し、その勢いのまま横凪ぎの鎌が迫る。地面にしゃがみ足を狙い剣を振るうが、足が消える。振り返れば鎌の柄の先端を床に突き刺し、軽業師のように棒を掴み逆さまになった少女の姿。ポールダンスのように棒を掴み回転し背を向けた。しかし、隙ではない。

 グン、と鎌を振り抜く。床に深く刺さっていたのか一瞬しなり、床が砕けると同時にこれまでにない速度と威力の一撃が迫る。

 

「あ、く──!?」

 

 ギリギリ回避するが砕けた床の破片が飛んでくる。一瞬判断が鈍り、鎌の刃が頬を切り裂く。

 

「…………?」

 

 何か、おかしい。この女、速くなってる?いや、強くなってる。

 スピードが上がったわけではない。力が上がった訳じゃない。でも、初速があがった。一撃の放ち方も。

 強くなっている。間違いない……プレイヤースキルが上がってる?それも、物凄い速度で。

 てっきりゲームの才能のない玄人かと思った。しかし、これでは初めからカンストキャラを与えられた素人が、漸く互角の相手に才能を開花させ始めたみたいだ。

 ふー、と細く息を吐き、頬の汗を拭う。ヌルリと血が滑る。

 

「…………え?」

 

 血?

 この世界で?ここは、ゲームの中の筈なのに?

 

「────っ!」

 

 意識したとたん、ズグンと痛み出す。痛い痛い痛い!何で、何が?

 頬を押さえ混乱するレイに、少女は首を傾げる。

 

「どうしたのかしら、切られたら血が出るなんて当たり前でしょ?そんな事も知らなかったの?」

「だ、って……ここ、は……ゲーム………」

「げいむ?ああ、あなたぷれいやーだったの………なら、残念ね。ここはそのげいむとやらじゃないわ。ここは、現実よ………」

 

 現実……?現実?

 痛みがある、殺されれば死ぬ、現実?

 殺されれば…………死ぬ……………

 

「………あら」

 

 レイは武器を変える。禍々しいオーラを放つ魔剣。銘を、『ミシャンドラ』。ウルベルトの協力の下作られたソロモン72柱剣番外(イレギュラーナンバー)。ランクは神話級(ゴッズ)

 相手は、自分よりステータスは上。プレイヤースキルは発展中。武器の性能で、押し切る!

 

「へえ、凄い剣ね……こっちでは神器って言われて、崇められてるのよ、それ」

「そうなのか。俺の作った武器が崇められるとしたら、鍛冶師冥利に尽きるね!」

 

 ユグドラシルでは人類最高ともユグドラシル最高とも呼ばれた鍛冶師。その武器は彼女の持つ鎌とは比べ物にならない。しかし、恐らくだが彼女は何かを隠している。それを使われる前に、倒す。

 

 

 

(………倒す気はあっても、殺す気はなさそうね)

 

 人類最強と言われる法国の最終兵器、絶死絶命は殺気を感じないことにつまらそうに嘆息する。とはいえ、都合はいいのか。何せぷれいあーだ。生きて仲間にしたいのが法国の本音だろう。

 が、絶死絶命はこう思う。殺す気でいったら、殺す気で来るだろうか?

 使命感などない。ただ、他にしたいことがないから法国に従ってやっているだけの彼女は、ニタリと笑みを浮かべる。数十年ぶりに、武技を解放した。

 

炎火神葬(えんかしんそう)

「────!?」

 

 鎌を炎が覆い、振るうと放たれる。炎の津波に飲まれるぷれいあー。この程度、大したダメージにはならないことは解っている。だが視界を奪うには十分。追撃を放とうとして───

 

 

 

 炎が覆う。

 この光景を、何処かでみた。

 炎が、身を包む。炎が、身を焼く。炎が、命を燃やす。

 

「────か、あ───」

 

 熱い。赤い。痛い。死ぬ、死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!

 

「あああああ─────ッ!!」

 

 

 

 

「…………あれ?」

 

 追撃しようとした鎌を止める絶死絶命。炎の中から聞こえた叫び声。痛みによる絶叫、ではない。これは、恐怖による絶叫?

 炎が晴れると案の定ダメージを受けた様子のないぷれいあー。しかし、目の焦点は合わずガタガタと震え、頭を押さえる。

 

「………ねえ」

「ひっ!?あ、あぅ………っ!」

 

 声をかけるともの凄い勢いで後ずさる。涙を流し小さくなり震える様は、まるで子供だ。何が起きた?自分の炎は単なる武技で発生させた属性付与。精神を汚染する力はない。となると、彼自身が炎に対して何らかのトラウマを持っていた?

 

「………ま、良いわ。私より強いか解らなかったけど、それでも十分でしょ」

 

 種としては申し分ない。震える頬にそっと触れるとビクリと反応する。誰かを可愛いと、初めて思った。

 既に壁際、逃げられない獲物をなぶる猫のような笑みを浮かべ、しかし不意に止まる。無表情になった絶死絶命はスンスンと鼻を鳴らし首筋に顔を埋めて、ペロリと赤い舌で白い首筋を撫でる。

 

「何だ、やっぱり女の子じゃない………どうしようかな」

 

 ぷれいあーだ。上層部どころか法国の人間なら誰でも諸手をあげて喜び崇めるだろう。が、今の彼女は怯える幼子そのもの。落ち着けば戻るかもしれないが、炎という最大の弱点を抱えている。

 普通に考えて神人の量産道具しか使い道無いのでは?戦争に火は付き物だろう。そうなると、まあ候補は……名前何と言ったか、取り敢えず槍持ってる隊長──だったか、自分からすればしょっちゅう代わるから忘れた──だろう。

 あんな雑魚に、この子の血が、強者の血が汚される?それは流石に我慢できない。と、気配が近づいてくるのを感じる。さて、何と誤魔化すか………

 

「あれ、この子の剣……こんなのだったかしら?」

 

 不意に、彼女が持っている剣が先程とは異なる剣になっていることに気づく。

 

「サ、サルガタナス!」

「────!?」

 

 恐らく剣の名前なのだろう。それを叫ぶと同時に、彼女の姿が消えた。ちょうど良いタイミングで槍を持った漆黒聖典の隊長が現れる。

 

「番外席次!今のは何事ですか!?」

「………侵入者。もう終わったわ」

 

 と、焼け焦げた通路を指さす。別に嘘はついていない。通路がああなる攻撃を放った時点で、決着はついたし殺したなんて一言も言っていない。が、どうやら勝手に灰すら残さず焼いて殺したと勘違いしたらしい。

 

「………………」

 

 疲れたように報告してきます、と去る隊長の背中を見送ることもなく先程の少女を思い出す。

 強かったな。きっと強い子を産むだろう。男じゃないのが残念だ。それにしても………

 

「可愛かったなぁ、あの子」

 

 あんなに可愛いんだ。きっと何処に行っても寄ってくる男はいるだろう。出来れば強い子供を産んでほしいものだ。

 

 

 

 

 サルガタナス。地獄の三大支配者直属の部下六柱の一柱。空間跳躍能力を持つ悪魔の名を名付けられた魔剣はその名に恥じぬ能力で少女を離れた場所に転移させた。

 荒い息を吐き壁に手を突きフラフラ歩く少女。その顔はとても整っており、人気のないその場に屯う男達の何名かが嫌らしい笑みを浮かべ近付き………

 

「ひっ!?」

 

 肩に触れた瞬間、彼女が何気なく払った腕が上半身を消し飛ばす。

 その光景に驚いたのは、むしろ少女自身。目を見開き、その場から逃げ出した。

 

 

 

 逃げ出して、足を絡ませ転ぶ。ビシャリと泥が跳ねる。何時の間にか雨が降っていた。

 ここは、どこだ?解らない。怖い。近付こうとする者全てが敵に思える。と……

 

「貴方、どうしたの?大丈夫?」

「───ッ!!」

 

 声をかけられ慌てて起き上がり離れる。心配そうにのぞき込んでくる幼女の顔が見えた。

 輝いているのかと錯覚するほど可愛らしい顔立ち。黄金色の髪と相まって、まるで黄金の美しさを擬人化させたような、そんな人外じみた綺麗な容姿。それが今、心配そうに歪められている。

 

「……こんなに怯えて、かわいそう……安心して、何もしないから」

「………………」

 

 ニコッと陽光のような笑みを浮かべる幼女。その笑みに、少しだけ落ち着く。

 

「貴方、お名前は?」

「………レイ」

「レイ……レイね。レイはどうしたの?何か、怖い目にあった?」

「………火」

「……火?」

「火が……燃えて、熱くて、痛くて…………」

 

 はて、ここ最近火事などあったろうか?あるいは、何処かの裏組織に変態趣味の客に何かされたか?その割には火傷などをした様子はない。というか彼女の服、ずいぶんと上等すぎやしないだろうか?自分より上質かもしれないし、こんな意匠見たことがない。

 

「レイは何処から来たの?」

「何処から………?何処、から………あ、あれ?」

 

 記憶喪失?演技では無さそうだ。幼女は頭を撫で、安心させるように微笑む。

 

「かわいそう……ねえレイ……私と一緒に来ない?」




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