歪でも、いいですか?   作:うたた寝犬

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「歪でも、いいですか?」前編

幼い頃から、漠然とした違和感があった。

1番最初のきっかけは、両親からのプレゼントを受け取った時だった。詳しくは覚えてないけど、確かその頃流行っていた人気のおもちゃだったと思う。それがどんなものだったのか、細かいところは本当に覚えてないけど、それを受け取った瞬間、はっきりと「嫌」だと拒絶したのは、気持ち悪いくらい明確に覚えてる。

周りの友達と、何かが違った。何が、と言われても、幼かった頃のオレには分からなかったし、その『何』がどれだけ歪な違いなのか、まるで認識してなかった。

 

その歪に向き合わざるを得なくなったのは、小学生になってすぐの頃。自分の心に従って行動する度に、何かを言う度に、周りからは「気持ち悪い」「頭がおかしい」そんな言葉を当たり前のように投げられた。

それに疑問を持った担任の先生は、オレと両親にある診断を受けるように勧めてくれた。幼いオレは両親に病院に連れていかれて、言われるがままに診断を受けた。そして、

 

「これは恐らく……、ーーーー障害とだと思われます」

 

医者の口からはっきりと、自分がまともでは無いのだと告げられた。

 

それがどういう障害なのか当時のオレはしっかりと理解していたわけでは無いけど、何となく、想像ができた。むしろ、

(ああ、オレが感じてた違和感は、そういう名前なんだね)

そんな風に、納得した記憶すらある。

それでも、自分のことを普通じゃない、おかしい、異常だと完全に認めてしまうことは、できなかった。

 

ただ、オレより……、両親の方が、自分たちの子供にそんな障害があるなんて認めたくないという思いが強かった。

 

その日を境に、2人は変わった。口を揃えてオレに、

「普通になりなさい」「それはおかしい」「普通の子なら、そんなことを言わない」「おかしくない子なら、そんなことしない」「普通になりなさい」「普通になりなさい」「普通になりなさい」「普通になりなさい」「普通になりなさい」「普通になりなさい」「普通になりなさい」「普通になりなさい」「普通になりなさい」「ふつうになりなさい」「ふつうになりなさい」「ふつうになりなさい」「フツウニナリナサイ」「フツウニナリナサイ」「フツウニナリナサイ」「ふつうになれ」「ふつうになれ」「ふつうになれ」「ふつうになれ!」「ふつうになれ!」「ふつうになれ!」「ふつうになれ!!」

『普通』であることを、まるで呪いのようにオレに押し付けてきた。

 

初めこそ、自分の感覚に……、心に素直になりたかったオレだけど、次第に心が折れていった。狂ったように普通であることを強要してくる2人に従う形で、オレは自分の心に嘘をつくようになった。

(本当はこうしたいけど、普通の子ならこうする)

何かする度に自分にそう言い聞かせて、自分の心を偽って過ごすようになった。それはそれで辛かったけど、自分らしくしていてあの2人に普通を強要される生活よりも楽だったし、何より、

「普通になってくれたのね」

と喜んでくれる2人の姿を見ると、きっと自分を偽っている今の方が正しいんだろうなと、思えた。

 

 

 

 

自分を偽り続けていたオレに転機が訪れたのは、高校生に上がってしばらく経ってからだった。買い物のために街中に出ていたら、星をモチーフにしたマークが刺繍された赤いジャージを着た爽やかイケメンに声をかけられた。

「あの、いきなりですみません。自分は『界境防衛機関ボーダー』という組織の嵐山准と言います。もし良かったら、少しお時間を頂けますか?」

界境防衛機関ボーダー、という名前には覚えがあった。数年前に、ここから少し離れた『三門市』という街で、違う世界から異形の兵器が攻めてくる、というにわかには信じがたい事件があった。しかしその事件では1200人の死者と400人の行方不明者が出ていて、近年稀に見る大災害、として今でもニュースに取り上げられている。ボーダーというのは、その違う世界とやらの技術を独自に解析して、三門市の事件を収束させたという組織だ。

 

()()()この国で生きていれば知り得る情報であったことに気づいたオレは一瞬だけ自嘲気味に笑ったあと、嵐山という爽やかイケメンの声に答えた。

 

「ええ、いいですよ」

それから嵐山は、ボーダーという組織について、三門市の現状、そして今でも違う世界の兵器……『ネイバー』が、絶えず三門市に攻めてきていることを、丁寧に説明してくれた。

 

「それは……、とても大変そうですね」

説明に区切りがついたところで、オレは他人事のように答えた。だって、実際に他人事だったのだ。大きな事件だっていうのは理解しているし、そのせいで今でも苦しんでいる人がいることも知っているし、今聞かされた。でも所詮それは対岸の火事で、オレには直接の関わりがない事だった。

突き放すようなニュアンスを込めたオレの言葉を聞いても、嵐山はめげなかった。むしろ、

「はい……。それで、もしよかったら、ボーダーで防衛隊員として一緒に働きませんか!?」

「は?」

なぜかオレを強引にスカウトしてきた。思わず「こいつ何いってるんだ?」という含みを持たせた「は?」を言ってしまったが、オレは悪くないと思う。

 

それからまた嵐山は、ネイバーの技術……、『トリガー』と呼ばれる技術について説明を始めた。どうやらそのトリガーとやらは、使えば誰でも同一の効果を発揮する、というものではないらしい。詳しくは説明できないということで誤魔化されたが、適性というか相性というか、何かしら個人にある差が如実に現れる兵器だと、オレは理解した。そして嵐山が言うには、オレはそのトリガーを扱うのにとても優れたものがある……、らしい。なんでそんなことが分かるんだと訊きたかったが、嘘をついている感じがしなかったからやめた。その代わりに、オレはもう1つの疑問を訊いた。

「いやでも……、いくらそのトリガー…?というのを上手く扱えたとして、普通にネイバーとかと戦うのって危ない気がします」

ニュース等でネイバーの遠巻きの姿を見たことがあるが、デカいなと思ったのを覚えてる。そこらの家とかよりずっとデカくて、あんなのに踏み潰されたらひとたまりもないと思う。

 

オレが尋ねた疑問は、恐らく嵐山は何度も言われて来たのだろう。そう思えてならないほどに、そこからの嵐山の答えは素早かった。

「その点は大丈夫です!トリガーを使って戦う際は生身ではなく、戦うための身体に換装されます!生身の身体の安全は保障されています!」

「……かんそう?」

何気なく説明に出てきた『かんそう』という言葉が咄嗟に『換装』だと分からずに首を傾げたオレを見て、嵐山はほんの一瞬だけ悩んだ様子を見せたあと、分かりやすい言葉に言い直してくれた。

「変身、みたいなものですね」

嵐山はきっとこの時、何気なく誰にでも分かりやすいということで『変身』という言葉を選んだんだと思う。でもその一言は、オレの心に小さな針を刺した。そして、

 

「……すみません、その戦うための身体っていうのは……」

 

あることを、質問した。

 

その質問に対して嵐山はとても不思議そうな表情になったが、

「ええ、おそらく可能ですよ」

それでも、オレの疑問を肯定してくれた。

 

嵐山がそれを肯定してくれた瞬間、オレは半分反射的に、

「入ります。ボーダーに、入れてください」

彼の手を取りながら、入隊を志願していた。

 

 

 

 

オレは帰ってすぐに、両親を説き伏せた。

普通であれと語る2人は、初めこそ訝しむような表情を見せて反対しそうな雰囲気を出してたけど、

「あの大事件から2年経った今でも、三門市には苦しんでる人がいる。それを助けたいと思うことは、悪いことなの?」

見ず知らずとはいえ苦しんでいる人を助けたいという、品行方正な我が子の熱意(を装った演技)に打たれたのか、三門市に行くことと、ボーダーに入ることへの許可を出してくれた。薄っすらと涙を浮かべて、「人のことを考えれる子に育ってくれて嬉しい。誇らしい」と語る彼らを見て、望んでいたのは「普通の子に育つこと」じゃなくて「人様に自慢できる子に育つこと」だったんだなと、オレは冷えた心でそう思った。

 

それからオレは生まれ育った街や、見知った人たちに対して何の感慨を抱くこともなく、三門市へと1人で移り、界境防衛機関ボーダーへと入隊した。

 

 

<><><><><><><><><><><><><><><><><><>

 

防衛任務に就くことが許可されるボーダーの正隊員には、順位がある。各隊員が使う武器には組織内模擬戦、通称ランク戦や防衛任務に応じた功績がポイントという数値として記録され、それによって順位がつく。

と言っても、何もそれは1位から最下位まできっちりと順位があり、常にそれを意識しているというわけでは無い。成績上位者の目安、という認識が最も近いだろう。

そして現在、順位において1位に君臨しているのは、太刀川慶という男だった。顎髭とふわっとした髪が特徴的なその男は、日本刀を模した『弧月』と呼ばれるトリガーを両手に持った二刀流のスタイルでランク戦を勝ち抜いて1位の座につく、まぎれもない強者である。

 

そんな太刀川には最近、楽しみが出来た。それは、入隊直後から頭角を現してあっという間に正隊員へと昇格した、ルーキーだ。嵐山隊が他県からスカウトしてきた彼に興味を持った太刀川は、正隊員昇格直後の彼に声をかけて剣を交えた。結果としては1位である太刀川の圧勝だったのだが、彼の剣には眼を見張るものがあり、太刀川としては日々成長する彼と切磋琢磨する毎日が、楽しかった。

普段は自身がリーダーを務める『太刀川隊』という部隊で三門市の警戒区域内を防衛する太刀川だが、今日はスケジュール調整の都合で部隊ではなく、太刀川とその彼が2人で組んで任務につくことになっていた。

 

日が落ちて暗くなった警戒区域を、太刀川は隊服である黒のロングコートを揺らしながら、彼と並んで歩く。

「そういや、千景(ちかげ)と組んで2人での防衛任務は初めてだよな」

ちかげ、と呼ばれた少年は首を少し動かして横目で太刀川を見てから会話に応じる。

「そう、ですね。いつもは他の隊員もいますし……。太刀川さんとは防衛任務よりも、ソロ戦ばっかりしてる気がします」

千景の口調は物腰柔らかく丁寧だったが、どこか皮肉っぽさが混ざっていた。

 

年相応に線の細い身体を、正隊員昇格時に支給される濃紺の隊服で包む千景に向けて、太刀川は肩をすくめた。

「はっはー、千景もだいぶ言うようになったな」

「でしょうね。出会った時こそは、『おお、この人が1位か……』って尊敬する心も、ちょっとはあったんですけど、太刀川さんは知れば知るほど、残念な人でしたから」

「おいこら」

「すみません」

「ったく……」

 

千景はわずかに少年らしさというかあどけなさを残した整った顔立ちを崩して笑い、図星を突かれた太刀川はそれを誤魔化すように頭を数回掻いた。

 

 

 

 

太刀川は今でも、初めて千景と会った日のことを覚えている。

すごいルーキーがいる、と噂を聞きつけて会いに行ったものの、その時の千景は正隊員に昇格した直後だった。正隊員の土俵に上がったばかりの千景に、太刀川は遠慮なく声をかけた。

『お前が最近噂の、水瀬千景ってやつか?』

ランク戦ロビーの椅子に座っていた千景は背後からの声に振り返り、穏やかに笑んだ。美少年、と形容するに相応しい笑顔で、千景は答える。

『噂の……かどうかは知らないですけど、オレが水瀬千景ですよ』

『ほほう、お前が……。俺は太刀川。いきりなりで悪いんだが、ちょっと手合わせしないか?もちろん、ハンデはやる。俺は弧月一本だけしか使わないし、お前が負けてもポイント移動は無しでいい』

『随分破格な条件ですけど、本当にいいんですか?』

『もちろんだ』

自信に満ちた太刀川を見て、千景は好戦的な眼を向けた。

『ええ、いいですよ。やりましょう。それにしても太刀川さんこそ、噂通りの戦闘マニアなんですね』

その短い会話だけ交わして、2人は出会って5分もしないうちに剣を交えていた。結果としては太刀川の完勝だったが、内容としては正隊員に上がりたての千景はかなり善戦したものだった。

 

ランク戦が終わると、2人の心は程良い充実感のようなもので満たされており、まるで試合後のスポーツ選手のように握手を交わした。

『ナイスガッツ。千景、お前中々やるな』

『どうも。太刀川さんこそ、流石一位だなって思える強さでした』

互いに誉めあった後、太刀川は戦いの最中に感じたことを口にした。

『千景は戦ってる時、スゲーいい笑顔だな』

『えー?そんなにオレ笑ってましたか?』

『めちゃくちゃ笑ってたぞ。戦えるのが楽しくて仕方ない、って感じだ』

『自分じゃ気付かないものですねぇ』

指摘された千景はそう言って、ため息混じりに微笑んだ。

 

 

 

あの日以来、太刀川と千景は度々ランク戦で斬り結んだり、一緒に防衛任務をこなして、親睦を深めていった。年は2つ離れていたが、年上らしからぬ太刀川のあっけらかんとした態度と、千景の柔らかく接しやすい雰囲気が相まって、先輩後輩といったような年の差を感じさせない付き合いになっていた。

現に今も、いつネイバーが攻めてくるか分からない警戒中であるにも関わらず、2人はまるで気負っていない、リラックスした状態で警戒区域を歩いていた。

 

隣を歩く千景に、太刀川は何気なく思ったことを呟いた。

「前から思ってたが……、千景って、歩き方がなんかカッコいいよな」

「なんですか、それ?歩き方にカッコいいも何もないと思うんですけど……」

「カッコいいっつーか、こう……。あ、千景だ、ってわかる感じの歩き方」

「なんかますます分かんなくなったんですけど……」

げんなりとした視線を千景に向けられて、太刀川は「気にするな」と言って笑って誤魔化した。しかし笑いながら、太刀川は心の中で、

(カッコいいっつーより……、綺麗、なんだよな。育ちが良い……、いや、厳しく躾けられたみたいな感じがあるけど……)

漠然と、そんなことを思った。

 

何気ない会話を交えながら歩く2人に耳に突如、仕事の開始を告げるサイレンの音が鳴り響いた。

『ゲート発生、ゲート発生。座標誘導誤差0.25』

サイレンに混ざって流れるアナウンスが耳に入る頃には、2人の顔つきは戦士のものへと変わり、それぞれが腰に刺した獲物に利き手を伸ばしていた。

 

空いている左手を耳に当てた千景は、任務をサポートしてくれるオペレーターへと通信を繋いだ。

「すみません、ゲートの位置を……」

「いや千景、それはいらない。もう見えてる」

太刀川の視線の先には黒い穴、とでも言うべき形をしたゲートが見えており、それを視認した千景は頷いた。

「ですね。オペレーターさん、追加でゲートが来るようなら教えてください」

千景がオペレーターへの指示を訂正したところで、2人は同時に駆け出した。生身よりはるかに高い身体能力を誇る戦闘体こと『トリオン体』の性能をフルで活かして、ゲートの元へと急行する。

「太刀川さん、作戦は?」

「とにかくぶった斬る」

「了解です」

作戦の体をなしていない太刀川の言葉だが、2人にはそれで十分だった。

 

ゲートから現れた、違う世界の兵器……通称『トリオン兵』は、5体。「バムスター」と呼ばれる個体が3体、モールモッドと呼ばれる個体が2体だった。

2人はそれぞれの判断でトリオン兵に攻撃を仕掛ける。

 

千景が狙ったのは、バムスターだった。二階建ての民家を優に超える巨体を4本の足で支えるそのトリオン兵は、千景がボーダー入隊前に、「踏みつけられたらひとたまりもない」と感じていた相手だった。その時のことを思い出した千景は、思わず口元を綺麗な三日月型に歪めた。

「あの頃は怖かったけど、今はそうでもないな」

言い切ると同時に千景は素早くバムスターの足元に踏み込み、抜刀した弧月を鋭く振り抜いて脚を斬り裂いた。バムスターの全身の装甲はどこも分厚いのだが、千景の攻撃はまるでそれを感じさせない滑らかなものだった。

脚を失ってバランスを崩したバムスターの頭部……とも言うべき場所にある弱点である眼に向けて、千景は跳躍して斬撃を加えた。初撃と同じ滑らかな斬撃でバムスターの命を刈り取った千景は、空中で太刀川へと視線を向けた。

 

太刀川は千景が一体のバムスターを倒す間に、2体のバムスターを屠っていた。

「相変わらずだな、太刀川さんは」

呆れと関心が入り混じった表情で、千景は次の行動に移る。持っていた弧月を空中にいながら真上に、空高く放り投げた。そしてフリーになった両手で、腰に差していた別の武器へと伸ばす。

手にしたのは、鈍く黒い輝きを放つハンドガン。両手に持ったハンドガンを残ったモールモッドに向けて左右交互に引き金を引き、連続でダメージを与える。全弾命中、とまではいかないものの殆どの銃弾はモールモッドのボディにめり込み、2体の動きを僅かに鈍くした。

そのタイミングで、千景は叫ぶ。

「太刀川さん!」

「おう!」

千景の意図を察した太刀川は、答えると同時に弧月を振り抜いた。弧月には刀身の長さを瞬間的に拡張させる『旋空』というオプショントリガーが存在しており、太刀川は攻撃に合わせて旋空を起動して遠くにいたモールモッドを2体纏めて切り裂いたのだ。

胴体を真っ二つにされたモールモッドが生きていられる道理もなく、2人の戦闘はここで終了した。

 

20秒にも満たない戦闘を終えた千景はハンドガンをホルスターに格納し、落ちてきた弧月の柄を何気なく掴んで鞘に収めた。

「ナイス千景。相変わらず、いい動きしてるな」

「どうも」

「でも、討伐数は俺の勝ちだ」

「1位の太刀川さんに華を持たせるつもりで、勝たせてあげたんですよ」

「はっはー、そりゃあ、ありがたい」

微苦笑しながらハイタッチを交わす2人は、まるで旧知の仲であるかのような親しみがあるように見えた。

 

 

 

 

太刀川と千景は倒したトリオン兵の残骸を引き取りに来る回収班を待ちながら、近くの民家の塀に背中を預けながら夜空を見上げていた。

「千景。お前、いい加減どこかのチームに入らないのか?」

「チームか……」

太刀川自身が太刀川隊というチームに所属していることで分かるが、正隊員になると隊員同士で部隊(チーム)を組むことができる。強制ではないが、正隊員の中でも上位の存在であるA級に昇格するためにはチームを組むのが絶対条件となるため、上を目指す隊員は自然とチームを組むことになる。

 

しかし千景はチームを組んでおらず、ソロで活動する正隊員だった。

「俺だって別に、チーム入りを強制するつもりは無いが……。千景の実力はB級上位クラス……、相性次第じゃ、A級相手でもまともにやり合えるだろ?ぶっちゃけ、勿体無いぜ?」

「勿体ない、ね……。でも太刀川さん、それっぽいこと言ってるけど本音は?」

「A級になったお前と、チーム同士で戦いたい」

しれっと言い放った太刀川の本音を聞き、千景は小さく吹き出した。

「すごく、太刀川さんらしい理由ですね」

「おい千景、誤魔化すな。お前いつもチームの話題になると、そうやって煙に巻くよな?」

「……」

太刀川の鋭い指摘を受けて、千景は口を噤んだ。太刀川の言うように、毎回、チームの話題になるたびに手を替え品を替え誤魔化してきたが、とうとうそれも出来なくなったんだと思い、話す覚悟を決めた。

 

モヤモヤとした気持ちをため息に全て乗せて吐き出してから、千景は太刀川に心の内を語った。

「大したことじゃないんです。ただ、昔からあまり、集団には良い思い出が無いんです。同じメンバーの中で長い時間過ごすことに、オレはどうしても向いてないみたいで」

「そうか?お前普通に気を使えるし、戦闘の立ち回りだって上手い。メンバーの中に、よっぽどの問題がある奴とかがいない限り、うまくやれるんじゃないか?」

 

何気なく話す太刀川を見て、千景は心の中で静かに思った。

(太刀川さん、あなたはきっと本心からそう言ってて……、そしてそれは、間違いじゃないと思います。でも、だからだめなんです。チームの中に誰がいたとしても、よっぽど問題がある奴がいるから(オレがいるから)、ダメなんです)

 

心の中にある、偽らざる本音を隠しながら、千景は笑う。

「……太刀川さんがそこまで言ってくれるなら、そのうち、どこかのチームに入ってもいいかもしれませんね」

 

根拠はない。なぜ、どうしてそう感じたのか説明は出来ない。

それでも太刀川は、夜空を見上げながら話す千景のその言葉を嘘だと思った。

(きっとコイツは、どこのチームにも入る気は無いんだな)

 

心の中にある根拠のない確信を、太刀川も彼と同じように隠しながら、笑う。

「チームに入ったら、すぐに教えろよ。俺の楽しみが、また一つ増えるんだからな」

 

仲良く本音を隠した2人の笑い声は、回収班の足音が聞こえ始めた警戒区域の夜空へと消えていった。




最後の防衛任務の時点で、原作開始の一年前くらいをイメージしています。太刀川さんが19歳、嵐山さんが18歳、オリジナルキャラクターの水瀬千景が17歳。
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