海賊と〇〇、時々鉄の華 作:鉄のクズ
第一話
P.D.323年、火星テラフォーミングが完了した後の時代――――
地球圏の統治機構を滅ぼした「厄祭戦」が終結してから約300年が経過、次世代の
その有様たるや無辜の人々を蹂躙しておきながら、その対岸に居座る海賊をはじめとした非合法組織への取り締まりは杜撰と言う本末転倒具合。腐敗した彼らからすれば、
さて、世界の軸ともいえる警察・治安機構がこの様であれば、当然それらに付随する諸々もまたその煽りを受ける。その代表と言える存在が二つあった。
一つは『ヒューマンデブリ』。意味は戦争によって生まれた、宇宙に散らばる屑鉄と同程度の価値しかない人間とのこと。人間が宇宙へ進出する以前に比べて、どれほど命の価値が下落したのかを最も端的に表した言葉といえよう。大昔も決して楽園とは言えなかっただろうが、少なくともこんな言葉が公衆の面前で、声を大にして言えるかという意味では上等だったのだろう。
もう一つは、といえばそれは『海賊』である。宇宙を海に例えるとは洒落が効いているが、実態はと言えばまさしく洒落になっていない。何せ賄賂を贈るなり尻尾を振るなり、人に言えない
性質が悪いのは彼らの存在がギャラルホルンにとって寧ろ好都合である、と言う点だ。世界の警察だ、と声高に吠えている
しかし海賊という脅威がある限りそれを切り出すのは難しい、何故なら地球の経済圏は選挙制度が採用されているからだ。実害が出てしまえば政治生命に差し障るという及び腰がギャラルホルンの増長の一因なのは言い過ぎではあるまい。
さらには、海賊という存在は先に述べたヒューマンデブリとも密接な関係にある。組織と言うものは兎角金を喰う。その中でも最も大きな割合を占めるのが人件費である。しかし『宇宙に漂う塵と同じ値段』で取引できる人材があるのだから、計画性のないゴロツキでも意外と経営が何とかなってしまうのだ。そして少し頭のまわる海賊が、需要と同じくらい供給側にも回るのでデブリは年々加速度的にその数を増やしている。そして海賊から身を守る側の傭兵や民兵組織もまた彼らに対応するためにデブリに目を付けるという悪循環が発生している。本当にどうしようもない世の中になってしまっている。
―――さて、前置きが随分と長くなってしまったことをお詫びしたい。だが、これから始まる物語には、これらの前話が重要になってくる。これより始まるのは、命の糧を得るべく戦場を掛ける
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――――火星からほど近いとある宙域、公に拓かれた航路より外れた所謂『裏ルート』とでも呼称される場所で、2隻の艦が対峙していた。
と言っても、その言い方は少々語弊があるかもしれない。方や推進システムを的確に破壊され完全に停止した商船(と毛が生えた程度の護衛艦数隻)で、通信設備から流れる降伏宣言がなくてもどちらが勝者か一目瞭然である。
対してもう片方の艦はというと、ハーフビーク級戦艦を一回り程大きくしたようなサイズであり、型に目立った所は無いがカラーリングが不自然なものになっている。まるでパッチワークのような、所々にメインカラーと異なる色をした装甲に覆われた仕様になっている。その所為で手入れが行き届いているのにジャンク品の様に見えてしまう。
これだけであれば、地球の外ではどこでも見られる海賊の襲撃である。しかし普通の海賊ではありえない、ある特徴があった。それは――――。
「―――船内への催涙ガス注入完了。あ?降伏した?ふざけんな向こうが俺達が考えるより屑だったらどうするつもりだよ。顔も知らねえ奴より仲間の命の方が万倍大事だろうが。ほら、さっさと行くぞッ!」
「周辺宙域にハイエナの痕跡はないっす。もし獲物がSOSを出してても、最短で着くのは最低でも6時間後っすから慌てなくても大丈夫ですよ!」
「すんませーん、頭領は手ぇ空いてますかー?頭領が言ってた通りのブツが出てきたんで指示をください。俺達にはガラクタにしか見えないんで」
「ああ、お手柄ですよペドロ。まあガラクタにしか見えませんよね?何せ君が言っている通りのスクラップですから。まあ世界で殆ど現存していない、という但し書きが付く代物ですが。―――それはともかく皆さんご苦労様です、港に着いたら臨時給を出しますので有給申請をお忘れなく」
『おっしゃあぁッ!!』
――――
意気揚々と戦利品を曳行しながら凱旋する彼らは、かつてブルワーズと呼ばれる海賊に『所有』されていた元ヒューマンデブリと彼等に手を差し伸べた元用心棒である。
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――――俺、昌弘・アルトランドは今仲間たちと一緒に服屋に来てる。なんでこんな食い物もない場所に来たかといえば、ヒューマンデブリとして売られる時に離ればなれになった兄貴が見つかったって頭領が言ってて、次の航海で火星に行くから舐められない格好にしろ、だってさ。
ここのコロニーは元々ブルワーズの縄張りだったこともあって、街の奴は大体俺達を知ってる。だから昔を知ってる奴は俺達がガキだからって喧嘩売ってきたりしないし、今を知ってる奴は輪をかけて絡んでこない。頭領って見た目は良いトコのボンボンだから下に見られるけど、怒らせたらブルックやクダルより遥かに恐ろしい。此処の連中が俺達にまで下手に出るのも、あの二人の『末路』がどうなったか知ってるからだしな。
店に行ったら頭領がもう注文を出してくれてたらしくて、そこには全員分の新しい制服が用意されてた。難しいことはよく分かんないけど、これ来たまま白兵戦が出来るくらい防刃防弾加工がされた代物で、かなり値が張る特注品らしい。
火星で会う奴等は民兵組織らしく、下手に着飾るよりこういったものの方がよっぽど効くらしい。連中の見る目の無さによってはその場で『御仕事』になる可能性があるから、それを踏まえた衣装らしい。……何かむず痒い、俺達なんかにこんなにしてくれてどんな顔すれば良いか分からない。
皆で着替えて店を出た後、全員で美味い飯屋に繰り出して騒いで帰る。正直今こうしていても信じられない、俺達がこんな風に笑って過ごせる日が来るなんて。
あの人が現れてたのは2年前、グダルが大きい仕事があるからと言って連れてきて、俺達と同じ部屋に居るようにって顔合わせさせられたのが始まりだった。擦れてはいるけど見るからに『育ちがよさそう』だったからみんなで警戒したし、必死で息を潜めてた。だって俺達が知ってる『大人』はみんな俺達のことをネズミかゴミ呼ばわりしてきたからな。しかもグダル達が雇うくらいだから俺達よりよっぽど強い訳だし、何されてもどうにもならないって不安だった。
でもあの人はびっくりするくらい無害だった。殴るどころか手当やMSの修理をタダでしてくれたり、時々だけど自作したっていう素と合成食材で“カレー”を振舞ってくれたりした。ヒューマンデブリになって以来、腹一杯メシにあり付けるなんて初めてでつい涙が零れたのを覚えてる。流石にグダル達も私物のことで部外者にあれこれケチを付けられないし、あの人の腕を知ってからは文句も言えないみたいだった。
何より有難かったのは、あの人が無茶苦茶強かったことだ。使ってるのはギャラホの代名詞のグレイズを弄った奴なんだけど、どうやってそういう風に操縦してるのかすら理解できなかった。しかもグダル達と違って俺達を盾にしたりしなかった。それどころかまるで自分を盾にして俺達を守るような動きをしてて、一体何の冗談だとあの人の正気を疑ったこともあった。でもお陰で仲間が戦死する機会が激減したし、何より『この人の言う通りにすれば生き残れる』って希望が何より有難かった。
まあそういうことが続いたからか、自分でもびっくりするくらいあの人に懐いた。俺だけじゃなくみんながそうだった。ブルックがそんな俺達をみて何か妙だってあの人を警戒し始めたけど、残念ながらその反応は遅すぎたんだ。
ある日、いつも通り狭い部屋に押し込められていると突然凄い銃声が響き渡った。
とにかく初めての事態に慌てた俺達は、普段立ち入りを禁止されてる船の中心部に入り込んだ。ここから聞こえてきたぞって扉を開くと、そこは既に血の海だった。生きてたのはブルックとグダルだけで、他は全員穴開きチーズみたいな姿になってた。
ブルワーズの連中はクソみたいな奴等だったけど、それと同じくらい用心深く手は抜かない奴等だった。初めて会った時もあの人は入念なボディーチェックを受けてたし、コックピットの中から武器の持ち出しも厳重に取り締まってた筈だった。普段のあの人は服と時計、あとは金属でできた玉みたいなものを持ち歩くだけだった。それにしたって一度分解して安全だと証明した上でだ、どうやって数人とはいえ相手の縄張りで乗組員を抵抗すらさせずに殺せる装備を用意したんだろう?今でも全く分からない。
この組織の正式な代表になってるブルックと、ブルワーズの看板役のグダルだけは生かされてたけど、虫の息のまま縛り上げられてた。俺達はビビりながらどういう事態ですかって聞いたら、あの人は最初からこうする心算で船にやってきたんだって言ってた。
しかもブルックが最初に言ってた『大きい仕事』もあの人の仕込みだったらしい。なんでそんな手間のかかることをってグダルが喚いてると、あの人は一言。
「いや、この数年で職場を2度も失ってしまったもので。もういっそこうなったら自分で組織を旗揚げしようと思い立ちましてね?でも一から作るのも大変な上時間が掛りますし、海賊家業をコツコツ準備してというのも変な話でしょう。海賊家業の立ち上げ、いわば最初の御仕事なんですから、やっぱり『略奪』が一番
首を小さく傾げながら悪戯が成功したような人好きのする顔でそういう頭領は、手に持ってるゴツイ拳銃と不釣り合い過ぎて無茶苦茶背筋が寒くなった。笑顔は自然界では威嚇を意味してるってどこか昔に聞いた覚えがあるけど、まさにその通りだと思った。
早い話がこの人、ブルワーズが持ってる財産・戦力・名声その他をまるごと頂戴しようって企んでた訳だ。ブルワーズは『夜明けの地平線団』を除けば海賊の中でも屈指の武闘派だ。その看板は取引や威圧に十分有用だし、話が分かる奴にはそのブルワーズすらあっさり潰した奴が現れたんだっていうアピールにもなる。それらを一人で用意するのは面倒臭いってさ。……出来ない、じゃないんだ。
まだギャンギャン騒ぐ二人を物理的に黙らせた後、あの人はこっちに向き直って『君達はどうするんですか?』って聞いてきた。正直俺達もすげえビビってたから声が裏返ったけど、返事はみんな速攻で『着いて行きます』だった。
だって、暴力が震えなくなったあいつらへの感情なんて『死んじまえ』か『ざまあみろ』しかないし。それに比べて頭領が俺達に暴力を振ったり怒鳴りつけたことは一度もないし、何より強い。誰に着くかなんて考えるまでも無かった。
―――そんな騒動があってからの2年間、頭領と一緒に色々やってきたけど今でも全員一人たりとも欠けずに生き残ってきた。まあ7割くらいは頭領のビックリ箱みたいな引き出しのお陰だけど。MSにしろ設備にしろ、あの人どっから調達してくるんだろう?何回聞いても絶対教えてくれないし。あと常に頭領の傍で浮いてる丸いのも変だ、『ハロハロ』とか『イッテコイ、イッテコイ!』とか何かしゃべってるし。他所であんな奴見たこと無いんですけど……。
まあいいや。そんなことより大事なのは、あの人の傍にいれば『生きていられる』ってことだ。ゴミとしてじゃなく、人間として生きられる場所は此処にしかなかったんだから。
―――待っててくれ兄貴。もし頭領が言ってた通り本当にアンタが生きててくれたなら、その時は頭領に土下座でも何でもしてでもアンタと一緒にまた………。