海賊と〇〇、時々鉄の華   作:鉄のクズ

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第10話

 

 

 

 

 

 

「――――送られてきたぜオルガ、()()()()組合ってのが良く使う集会所の傍だ」

 

「……やっぱりそうか。ライド、一応聞くが送り先の逆探知は出来るか?」

 

「残念ながら無理っす、使ってる機材の質が違いすぎます。プロテクトもセキュリティも段違いだこりゃ」

 

 イサリビではあの後送られてきた座標を見ながら、ユージン、オルガ、ライドは指定された時間いっぱいまで頭を悩ませていた。この後自分達が何を取捨選択するかで、全員の命運が決まると言っても良い。

 

 このまま無視する、というのは論外だ。ビスケット達を見捨てるなどありえないし、例えその選択肢を取ったとしても連中は“次”を用立ててくるだけだ。相手の思惑に乗っかるふりをする以上これからそれなりの人員が降りなければならず、そうなれば全員を守りきるのは難しい。鉄華団で誰よりも賢く冷静なビスケットがSOSすら出来なかったことから、連中はかなりの強硬手段に訴えてくる可能性が高い。

 

 かといって無策で突入するのもなしだ。こちらはクーデリアの命は勿論、その名に瑕が付いた時点で負けなのだから。どうにも良い一手が思い浮かばず頭を悩ませている彼等の後ろから、自動ドアが開く音が響いた。

 

「うん?クーデリアさんか、悪いが今忙し―――」

 

「オルガ団長、もう時間がありません。私は今からドルト5に降ります」

 

「―――ッ!気は確かか!?連中が何をしようと考えているか、わかってんだろッ!!」

 

 いつの間にか外行き(メディア用)の恰好に着替えたクーデリアが、覚悟を決めた表情で入室してきた。フミタンの危機に自分だけ隠れ潜んでいるような正確でないことは知っているが、だからといってオルガ達はその蛮勇を肯定できるはずもない。しかし彼女は努めて冷静に、自分の考えを口にする。

 

「彼らの狙いは私の命です。ですが厳密に言えば“無辜の民の為に、鮮烈に散ったクーデリア”を求めています。ならば降りた途端に殺される、ということはまず無いでしょう。態々組合の方々と引き合わせようとしていることからも、それは明らかです」

 

「けど、連中はアンタ一人で来るように注文も付けてる。腕利きの軍人に掛かりゃ、アンタを殺すのは造作もないんだぞ!」

 

「ご心配ありがとうございますユージンさん。でも、逆に言えば彼らの目線を私一人に釘づけるチャンスとも言いかえられます。私という本命が狩場に現れた以上、近くに来ていなければ貴方達への警戒は疎かになるでしょうし、態々人手を割いてまでビスケットさん達を殺しに向かわせることも有り得ません。

 私は自分が出来る限りの手段で時間を稼ぎます。その間に皆さんが人質を救出できれば、彼らの要求に従う必要はない。それに頭領さんの計画通りに行けば寧ろ返り討ちにすることも出来るかもしれない」

 

 その言葉に、オルガ達は口ごもるしかなかった。彼女の言ったことはあまりにも行き当たりばったりの無謀な策だが、さりとて代案があるわけでもない。そしてそれを議論する時間も、既に残っていないのだ。

 

「わかってるのか?アンタが死んだら何もかも御破算になる、それどころか火星が火の海に包まれることを覚悟して言ってるんだな?」

 

「……ええ、私の生死は既に私だけの問題ではありません。本当は危険を冒すべきではないのでしょう。しかし、親友の危機に怯え震えているだけの小娘に、私を信じてくれる人たちを幸せに出来る筈がありませんッ!フミタンを見殺しにするということは、自分のために誰かの犠牲を正当化するということ。そんなギャラルホルンと同じ手段を肯定する人間の言うことを、他でもない私自身が信じられなくなるッ!!」

 

 目を逸らさず言いきったクーデリアを、オルガは鬼気迫る表情で見据えていたが、降参とばかりに力を抜いて肩をすくませ笑いかける。

 

「わかった、俺達は二人の救出に全力を尽くす。もし間に合わなかったときは、俺達を恨んでくれ」

 

「それだけはありえません。私は、貴方を、三日月を……鉄華団を信じていますから」

 

 そう言って彼女は指定されたドルト労働組合の集会所へ赴いていった。彼女の姿を見た人々は歓喜した、彼らはナボナより事情を聞かされておりそれ故クーデリアは身の安全の為に姿を現さないだろうという、勝手ながらも失望を抱いていたからだ。

 

 しかし彼女は姿を現した。結局は我が身が可愛い扇動家とは違うと感じた彼等は彼女の言葉に耳を傾けた。さらに大きな要因として、彼女が自身の思いを包み隠さず打ち明けたことがより人々の心を惹きつけた。

 

―――皆さんの助けになりたいという気持ちは本当です、ですが此処に来た本当の理由は、非道な罠に掛けられた親友を助けるためという私個人の我儘なのです。そしてその犯人は、恐らく皆さんを窮地に陥らせた犯人の共犯である可能性が高い。今私の恩人たちが命を賭けて彼らの野望を打ち砕こうと戦っています、どうかお力を御貸し頂けませんか。

 

 何とも自分本位な願いである。自分達のことで精一杯な彼らにしてみれば随分虫の良い話であるが、この荒んだ世情では聖人より俗人の言葉の方が受け入れられやすい。さらに『自分達をここまで追い込んだ連中の野望を打ち砕ける』という部分に彼らは惹かれた。

 

防諜の都合で計画の細部は教えられなかったが、上手くいけば犠牲は最小限で済み、尚且つ状況の改善がなされるかもしれない。ここ半年暗雲が立ち込めたドルトで初めて湧いた希望に、彼らは自分達の命を賭けることを決心した。

 

 希望という光によって繋ぎ止められたドルト組合の忍耐は、この計画の最後のピースである『時間』を稼ぐことに成功した瞬間であった。

 

 

 

□□~~~□□

 

 

 

「――――い、たたた……。ここは、倉庫……かな?」

 

 うめき声をあげながら意識を覚醒させたビスケットは、周囲の光景や音から自分が人通りのない倉庫か貨物室にいると判断した。頭部からの痛みから殴られて気絶したのだと、少しずつ何があったのか思い出し始めていた。

 

 オルガ達が今後について検討した結果、表面上はイズナリオやノブリスの筋書きにそうと決めた。そのため荷物や人員を降ろすために書類手続きに明るいフミタン、そしてある程度ドルトの地理が分かるため案内役兼護衛としてビスケットが一足早く港で諸々の処理に動いていた。

 

 ところが、ちょうど手続きが終わりイサリビに連絡した瞬間、GHの兵隊と思わしき連中に囲まれ、有無を言わさず連行されてしまったのだ。何とかフミタンだけでも逃がそうと抵抗したビスケットは袋叩きにされ、その時強かに頭を殴られたことで気絶してしまったのだ。

 

「あいつら、非常時用のGPSをワザと壊してた。多分オルガ達に知らせておびき寄せるつもりだ。何とかフミタンさんと合流して脱出しないと!」

 

 はっきりいってこの状況は最悪に近い。GHの全員が、などと暴論は吐かないがこの一連の事件に関わっている連中が、人の命を紙屑くらいにしか思っていないことは分かっている。自分が今もこうして生きていることが奇跡なくらいだ。奴等には自分達など生きている“かもしれない”という事実だけで十分なのだから。

 

 万一の時を考えて腕時計に仕込んでいたナイフで縄を切りながら、周囲に目を配るビスケットはふいにポツリと溢した。

 

「そう言えば……どうして僕らがクーデリアさんの関係者だって気づいたんだろう?僕は鉄華団関係で顔出ししたことはないし、フミタンさんだって唯の女給で顔割れ何て――」

 

 言い終わるより先に、入口と思わしきシャッターが稼働したことで警戒を一気に引き上げる。しかしその先に現れた人物を見て、その感情は驚きに置き換わった。

 

「――――ッ!あなたは……ッ!?」

 

 

 

□□~~~□□

 

 

 

「お嬢様……結局、こうなるのですね私は」

 

 ドルトカンパニー本社前、駐留部隊だけでなくアリアンロッドの先遣陸戦隊まで揃って陣を敷いている姿を見ながら、フミタン・アドモスは一人言を呟いていた。

 

 一連の流れについては彼女も驚いていた。何せ“宙の悪魔(エルドラゴ)”が鉄華団に『計画』を持ち込んで来た時点で、彼女はノブリスを裏切ることを決めていたからだ。

 

ノブリスの企みはイズナリオという劇薬を取り込んだ時点で致命的な歪みを生んだ。その所為で企みが失敗すればエリオン公及びアリアンロッドとの確執が生まれ、成功すればファリド家という後ろ盾を得るが、今度は仲間を失い復讐者と化した鉄華団と何より全てを台無しにされ顔に泥を塗られたナグルファルが敵に回る。だからこそフミタンはクーデリアを誘導するという指示は無視することにしていた。

 

しかし以前通信で口答えしたことがノブリスの琴線に引っかかったのか、まさか自身を目印に鉄華団の一員を誘拐しようとするなど想定外も良い所だった。恐らくノブリスは自身をここで切り捨てる算段だろう。

 

如何に秘書兼世話係とはいえ彼女の立場では鉄華団はともかく、ノブリス達上流階級との会合に同席することは出来ない。にも拘わらずノブリスが自分を目印に出来たということが何を意味するのか、鉄華団の敏い人物や“宙の悪魔(エルドラゴ)”が気付かない筈がない。もうあの船に自分の居場所がないのだという事実が嫌でも頭をよぎる。

 

それでも最後の奉公として、ビスケットを生かしておくよう進言した。ノブリス達は確かに強大な金と権力を抑えているが、軍事力は全くといって言いほど無い。精々が腕利きの殺し屋を抱えている位であり、後のことなど考えず死に物狂いで襲い掛かってくる暴力には酷く脆い。そしてそれを良く自覚しているだけに説得はそれほど難しくはなかった。

 

(そして今はお嬢様の『的』としてここにいる。逆らえば撃ち殺すと言われても、このままなら遠くない内に死ぬでしょう。野垂れ死ぬか裏切りの代償として殺されるか、どの道死ぬのならいっそ――――)

 

 唯々待ち受ける自身の末路に嫌気がさしたフミタンは、狙撃手が居ることも頓着せずその場を離れようとする。しかしその判断は少しばかり遅く、向こう側から聞こえてきた多数の足音にそれを察した。急いで足を動かそうとするが、何時も聞いていた“彼女”の声に身動きが止まる。

 

「――――フミタンッ!!」

 

「ッ!?お嬢様……」

 

 列を乱して飛び出した彼女に、慌てて傍へ駆け寄る組合の人々。そしてフミタン自身も人の波に呑まれ、気付けば周囲を囲まれながらもクーデリアの目の前に引きずり出されていた。

 

「お嬢様……、何故このような場に出てきたのですか!?貴方も鉄華団の方々も、この状況がどれほど危険か分からないわけではないでしょう!」

 

「もうッ!やっと会えたのに第一声がそれって酷いじゃない!どれだけ心配したと思ってるのッ!!」

 

「心配、私を?……御冗談はおやめください、何故顔も売れていないビスケットさんがピンポイントで狙われたのか、お嬢様も気づいているでしょう?」

 

 その言葉にクーデリアも口を紡ぐ。それはそうだ、態々顔の割れていない人間二人を派遣したのに襲撃を受けたのだから、誰が原因かなど小学生でも分かる。だというのにクーデリアの表情には嫌悪も蔑みも見当たらず、それが却ってフミタンの感情を刺激し言わなくても良いことを吐き出させる。

 

「ええ、その通りですお嬢様。私とお嬢様の繋がりなど初めから偽りだったのですよ!私はノブリスが送り込んだ監視役、この事件の片棒を担いだに等しい裏切り者なのです」

 

「………では、ビスケットさんはもう既に?」

 

「いえ、あの方は今の所無事な筈です。……ああ、彼の居場所が分からない所為で逃げられなかったのですね。彼の監禁場所なら教えられますから今すぐ此処を―――」

 

「―――やっぱり、フミタンはいつも私を助けてくれるね。もし裏切り者ならそんな風に焦って私を逃がそうとするはずないもの。そして私だけじゃなくビスケットさんも助けてくれた。この事件の黒幕がそんな“余分な真似”する筈がない。なら、貴方がそう仕向けてくれたんでしょう?

 ……ねえ、一緒に帰りましょう?今なら誰も犠牲になってない、必ずオルガ団長たちを説得してみせるわ」

 

 そう断言しクーデリアが差し延ばした手を、震える瞳で見つめたまま動けずにいる。そんな彼女の背を押す様に、殊更に笑顔で待つ彼女に手を伸ばそうとした瞬間―――、激しい爆発と衝撃が響き渡った。

 

「な、これはッ!?」

 

「……やはりそういう手を使ってくるのね。フミタン、伏せてッ!!」

 

 

 

 

 

□□~~~□□

 

 

 

 

 

「―――チッ、始まったか。出来ればクーデリアが凶弾に倒れて、それに激昂した住民からの発砲ってのがベストだったが」

 

「ああ、火星ガキ共だけなら筋書き通りでも良かったんだがな。まあ結果オーライだろう」

 

 カンパニーの傍にあるビルの一室に、物々しい狙撃銃を構えた男と双眼鏡を持った男が厳めしく広場を見据えていた。彼らはノブリスの子飼いの殺し屋であり、クーデリア暗殺の命を受け潜んでいた。本来であれば当の昔に撃ち殺していた所だが、組合の人間が二人を引き摺りこんでしまった所為で見失い、迂闊に手を出せないでいたのだ。

 

「……銃声も止んだ。立ってる奴は居ないが、クーデリアの奴は死んだか?」

 

「ちょっと待て、流石に数が多い。こうも折り重なってると……いや、見つけたぞ。見ろ、傑作だ!あのお嬢よりにもよってあのカス(フミタン)を庇って逝ったようだぞ」

 

「は、最後まで報われん小娘だな。まあ火星人が悦に浸って背伸びするからそんな目に遭う……ちょっと待て、何か妙だぞ」

 

 組合のデモは鎮圧と言う名の虐殺で幕を閉じた。作戦は完璧に上手くいった、その筈なのにアリアンロッド陸戦隊は駐留部隊に銃口を向けている。味方からの洒落にならない行動に連中は泡を食って抗議しているが、こちらとしても訳が分からない。こんなことはファリド家の遣いから何も聞かされていない。

 

 同じように慌てふためいている殺し屋二人は、一瞬視界の端に違和感を感じた。そして()()を見た瞬間、幽霊でも見たかのように顔を青褪めさせた。ある意味間違ってはいない、彼らにとって“死んだはずの人間”が動き出したのだから、正鵠を射た反応と言える。

 

『あいったたたた……。ペイント弾って結構痛いんだな、本当に死んだかと思った』

 

『だが、もし“あの方達”が居なければ痛いでは済まない所だった。見ろ、今頃身体が震えてきやがった』

 

 口々に言い合いながら、何事も無かったかのように次々起き上がり始めるデモ参加者。その姿に驚愕する駐留部隊を尻目に、陸戦隊の指揮官らしき人物が拡声器で声を張る。

 

『ドルト労働組合の皆様ッ!本日は我々の作戦にご協力いただき、誠に感謝に耐えません!!おかげさまで無事作戦通り“地球圏反乱分子”を炙りだすことに成功しました』

 

 歓声を上げる市民に反して、駐留部隊は度肝を抜かれた表情のまま固まっている。だがそんなものは完全に無視したまま指揮官は彼らを睨みつける。

 

『貴様らの企みは全て把握している。よりにもよって我々アリアンロッドに偽の作戦書を掴ませ、市民を虐殺させようとするとはッ!経済圏とギャラルホルンの関係を悪化させることで社会の不安定化を図ったのだろうが、そうはいかんぞッ!!』

 

 ようやく頭が回り出した駐留部隊が反論するが、欠片も耳を貸さない。いや、彼らも分かっているのだろう。この光景は何度も見ているのだから、違いはする側から()()()()に回っただけだ。ありもしない虚構を“事実”に変えるGHの常套手段、その犠牲として駐留部隊は切り捨てられたのだ。

 

 それでも諦めきれない彼らを容赦なく制圧する姿を、暗殺者二人は茫然と見ているしかなかった。しかし、はっとした風に狙撃手が銃を構え直す。

 

「ちょっと待て、こいつらが生きてるってことはまさか―――」

 

 スコープの先には、彼らが想像した通りの姿が映っていた。そこには当然の様に無傷のまま、周囲の人々と計画成功を喜ぶクーデリアの姿があった。

 

 これがドレイクが計画した“ドッキリ”である。セブンスターズの決定である以上、ドルト鎮圧作戦の中止は不可能。であるのなら、作戦目標を変えることで無辜の犠牲を防ぐしかない。

 

 幸いと言うべきか、今回はドレイクにラスタル・エリオンを動かすだけのネタがあったこと、そして彼がドレイクの齎す“利”に応じて迅速に動いたこと、さらにクーデリアが組合の信頼を勝ち得て軽挙を慎ませたことで、この無茶な作戦は実行に移され成功を収めた。

 

 駐留部隊とノブリス達の失敗は、不自然さが出ない様に作戦の主導権はおろか全貌すらアリアンロッドに任せたことだろう。おかげで自分達の銃まで組合にしたように“細工”がされていることに気付けなかったのだ。弾はMWも含め全て非殺傷性のペイント弾であり、

これで人を殺すのはかなり難しいだろう。事実犠牲者は一人も出ていない。

 

「馬鹿な……こうなってしまっては、作戦の続行はもう……」

 

「失敗、だと?そうなっては我々の命は……。いや、まだだッ!まだクーデリアを殺せればッ!?」

 

「おいやめろッ!何を考えてる!?この状況で奴を殺せたとしても、何も解決は――――」

 

 必死に相方が止めようとするが、失態を犯した部下への粛清を恐れ錯乱した狙撃手はもう止まらない。引き攣った表情のまま、男は照準の先に居るクーデリアへと向かって引き金を引いた。

 

 

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