海賊と〇〇、時々鉄の華   作:鉄のクズ

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第11話

 

 

 

「―――今状況はどうなってるのかなあ……?タカキさん、下からは何も連絡は来てないんですか?」

 

「うーん、ここにはテレビなんてものは無いからなあ。けど今回MSは使わないんだし、知らせが無いってことは問題なく進めてるって思うことにしよう」

 

 イサリビに残された整備班組であるヤマギとタカキは手持無沙汰な様子で話し込んでいる。普段であれば戦場と連動して忙しくなる彼等だが、今回鉄華団に派手なドンパチは無い為時間を持て余していた。

 

 そうしてヤキモキしている彼等だったが、ドタバタと走り込んでくる音に注意を向けると、そこには血相を変えたおやっさんが整備室に転がり込んでいた。

 

「どうしたんですかおやっさん、地上で何かあったんですか!?」

 

「あ、ああ。いや、そっちは問題ねえ。寧ろさっきオルガから『ビスケットを()()()見つけた』って連絡が来た」

 

「本当ですかッ!!良かったあ……でも、じゃあ何でおやっさんそんなに慌ててるんです?」

 

「お、おおッ!そうだった、お前らアインの奴見てないか!?」

 

 落ち着いたかと思いきや、またも慌てだすおやっさんに二人は顔を見合わせる。思い返せば今日は朝から見ていないが、彼は用事がなければ基本的に与えられた個室に引き籠っているので全く気にしていなかったのだ。

 

「僕達は見てないけど、それがどうかしたの?」

 

「いや、ちょいと前から悩んでるみてえだったからな。今は手持無沙汰だし、ビスケットの安否に気を遣ったまま仕事すんのも不味いだろ?だから気を紛らわせるのを兼ねて相談に乗ってやろうと思ったらあいつ、どこにも居やがらねえんだよ!?」

 

 

 

□□~~~□□

 

 

 

「――――――え?」

 

 その呟きは誰のものだろうか。甲高く響いた銃声に爆発したように広がる悲鳴と喧騒。そんな中、彼女()は思考が追い付かず呆然としていた。

 

 ―――最初に気付いたのはフミタンだった。ふと視界の端に反射光が見え、視線を向ければそこには明らかに平静を欠いた件の殺し屋と血相を変えた監視役がいた。

 

 それを認識した瞬間、彼女はクーデリアの前へ飛び出した。一刻の猶予もない、何故ノブリスの信任の厚い彼らが正気を失っているのかは不明だが、あれはこの期に及んでクーデリア暗殺を遂行しようとしている。そう思えば考えるより先に体が動いていた。

 

 そうして鳴り響く発砲音。すぐに訪れるであろう痛みを想像しこらえるフミタンであったが、不思議といつまで経ってもそれは来ない。そして冷静さを取り戻せば、頬に何か温かい液体が着いていることに気付く。

 

「が――――は……ぁッ」

 

「………そんな、どうして貴方が…?」

 

「え―――だ、ダルトンさんッ!?」

 

「は、はや゛く隠れろッ!?狙いはぎみだちだろう゛ッ!!」

 

 腹に穴が開き、血反吐を吐きながらも必死の形相のまま二人を路地裏へと突き飛ばすアイン。思わず躓きそうになる彼女達だが、異常を察したナボナ達労働組合の人々が支え二人を誘導する。GH陸戦隊は作戦の為に実弾を携行していなかったが、即座に催涙弾を装填しビルへと発射、二度目の狙撃を封じ込めた。

 

 ガスに巻かれ、いよいよ進退窮まった殺し屋達は何とか外へと逃げ出すが、そこにある筈の逃走用の車は完膚なきまで破壊されていた。それだけでなく彼らを待ち構えていたのは、ビスケットと無事合流し、仲間を傷つけた外道どもを前にいきり立つ鉄華団の面々だった。

 

 例え腕利きの殺し屋達といえど、目も鼻も潰された現状では適うはずもなく。汚い手で仲間を傷つけた“落とし前”を存分に付けさせられた後、彼らは取り押さえられた。

 

 彼らは致命的な過ちを起こしてしまった。アリアンロッド艦隊が労働組合に“協力を募った”という路線を発表した時点で逃げるべきだったのだ。この期に及んでクーデリアを害しても、それをGHの仕業に持っていくことは不可能に近く、ならば誰の仕業かなど様々な物的証拠から容易く推測できてしまう。いや、少しでも風評被害を抑えたいアリアンロッドが是が非でもそう仕向ける。今なら自分達に冤罪を擦り付けようとした恨みもプラスされるから尚更である。

 

 それはさておき、狙撃手が無力化されたことを知ったクーデリアとフミタンは再び広場に戻ってきた。勿論周囲をアリアンロッドと労働組合、そしてこちらの加勢に回された三日月がガッチリ固めた上でだが。彼女達が目指している場所は、陸戦隊より迅速な応急手当てが行われているアインの傍だ。

 

「血が、こんなに…どうして貴方が……?」

 

「――――ぐッ……イサリビの乗員は全員、突然の事態に浮き足立っていた。自分への監視もおろそかになるほどに。だから、グリフォンと貴女が乗った連絡艇に……こっそり同乗させてもらった」

 

 歳星付近での例の通信を聞いて以来、アインは何か自分に出来ることはないかと必死に頭を回していた。捕虜の身分では証拠もなしに相談しても、フミタンのこれまでの貢献を考えれば余計な不信や不和を買ってしまい碌な事にならない。かといって先手を打つ方法も思いつかない。普段フミタンは艦首の通信機前に常駐しており二人きりになる機会がない。

 

 実際にドルトに着いてみれば、ドレイクによって状況が伝わったので杞憂に終わったとほっとしたのだが、ビスケットと二人で降下すると聞き慌てる余り密航と言う暴挙に出た。状況が許せば説得に動き、もし相手が先に行動してきた場合でもビスケットと二人でなら金持ちの私兵程度なら何とかなると深く考えずの行動であった。

 

 しかしその行動が結果としてビスケットを救う事になった。何とかフミタンと接触しようと伺っていたアインが見たのは、私兵ではなくGHの駐留部隊が包囲している状況だった。飛び出すことも考えたが、相手に殺意が無かったため様子見に徹し、その後を尾行することでビスケットの監禁場所へと迅速に駆け付けることが出来たのだ。

 

 フミタンの所在は『デモ隊へとクーデリアを誘導する』と聞いていたのである程度予想が付く。明らかに生かしておく価値の薄いビスケットの救出を優先、彼には合流を急がせ自身はその足でカンパニーへと向かったおかげで間一髪間に合うことが出来たのだった。

 

「だからッ!どうしてそんな真似をしたのかと聞いているんです!!ビスケットさんを助けるだけならともかく、こんな重傷を負ってまでどうして()()助けたのですか!?」

 

 しかしそんなことをフミタンは聞きたいのではない。ビスケットやクーデリアを助けるというのなら、贖罪ということで納得できる。だがあの時飛び出したのは、間違いなくクーデリアを庇う自分の身代わりになるためだった。自身が裏切り者だと知っているなら、クーデリアの保護を優先するべきなのに、だ。その問いに対するアインの答えは―――。

 

「……まだ、お礼を言えてなかったから、かな」

 

「お―――れい……?」

 

「三日月もそうだが、貴女との会話で自分がどうありたいのか、何となく見つけられた気がしたんだ。自分のことなのに人に指摘されないと分からないとは、我ながら鈍感すぎるとは思うが……」

 

 これ以上は傷に障ると陸戦隊の人に止められ、アインは担架で運ばれていった。ただ最後に『君は今日十分に“罰”を受けただろう、なら後は進むだけだ』とだけ言い残して。その言葉にどう応えて良いか分からず立ち尽くすフミタンの両手を、クーデリアは優しく自分の手で包み込む。普段そうしてくれているように、今は自分が彼女を支えようというかのように。

 

「……あの方の部屋を立ち寄ったことに、大した意味はありませんでした。お嬢様や鉄華団の皆様は私には眩しすぎて、民間人を躊躇なく殺せるような人間の傍の方がマシだろうと」

 

「―――うん」

 

「結局はあの方も境遇に反して純粋な人でしたが……それが無性に羨ましくて好き勝手なことを言っただけでしたのに……あんな馬鹿な真似を」

 

「―――うん」

 

「挙句にそんなことにまで恩義を感じて、こんな私などの為に命まで賭けて。私は、どうやって報いれば良いのですか?」

 

「―――なら、今度はフミタンがお礼を言いに行きましょう?それもあの人がびっくりするくらいのお土産を持って。きっとアインさんはそんなことをする必要はないって言いそうだけど、その時は貴方が言われたことをそのまま返せば良い。そうでしょう?」

 

「……お嬢様」

 

「そのためにも、こんな所でさよならなんてさせないわよ?アインさんにお礼を返す為にも、オルガ団長に頭を下げて乗せて貰わないと」

 

「それは……幾らなんでも厚顔無恥が過ぎるのでは?」

 

「そんなこと気にしてられないでしょ、自分の“我”を通す為なら。今回の件では本当に思い知らされたわ」

 

 一連の事件、そしてその顛末はクーデリアの価値観をこれ以上なく刺激した。アリアンロッドは別に義侠心で方針転換した訳ではない、単に利害の一致とイズナリオへの意趣返しという旨味に釣られたに過ぎない。そこに思うところはあるが、もし救いたい・救われたいという自分達の考えに基づいて行動していれば、取り返しのつかない犠牲が出ていたことだろう。

 

 なにより、生まれや育ちこそ違えどドルトの人々は、火星に住む人と変わらない虐げられる側(彼女が救いたい人達)だ。その彼等に降りかかった危機に何も出来なかったという事実は彼女を打ちのめした。勿論クーデリアによって労働組合の人々がより団結したことは犠牲を抑える最後の決め手となったのだが、そもそもアリアンロッドを説得出来なければどうしようが蹂躙されるだけだ。故に彼女の頭の中では自分は何も出来なかったと判断している。

 

 だから彼女は考える。自分には何が出来るのか、もし似た状況が火星で引き起こされたなら?敵すら味方に巻き込む策を、今度は自分達でそれを成さなければならない。今度も都合よく助けてくれる“誰か”がいるとは限らない、彼女は今一度喝采を叫ぶ人々を見てそう思った。そして、出来ることならその傍らにはフミタンが居てほしいと。

 

「何と言うべきか……変わられましたねお嬢様。私も……変わることが出来るでしょうか?貴方やダルトンさんの様に」

 

「フミタンなら出来るわ、私が保障する。だから、私にも手伝わせて?貴方が今まで私の手を引いてくれたみたいに」

 

 ようやく表情に小さくだが笑みを浮かべたフミタンに、クーデリアは同じく笑みを浮かべ、握り返してくれた両手を嬉しく思う。そして騒ぎが鎮まりだした頃合を見計らって陸戦隊と鉄華団の面々が近づいてきたので、二人は彼らの元へと向かっていった。

 

 

 

□□~~~□□

 

 

 

「―――という訳で無事大団円、といったところでしょうか。ご協力感謝しますよ」

 

『なに、こちらとしても利が大きいから動いたまで。お陰でアフリカンユニオンに大変な貸しが出来た。しかし用意の良いことだ、あの手土産の所為で私は動かざるを得なくなった』

 

「いえ、単に馬鹿が網に飛び込んで来ただけですよ。ああいう策士気取りの連中は、詰めの一手を自分で刺したがる人種ですから」

 

『……耳に痛い話だな』

 

 事件から数日後、ドレイクは後から“商談”に参加してきた取引相手であるエリオン公と連絡を取っていた。

 

『実に都合の良い“前払い”だったよ。ユニオン政府との交渉、小心者のファルク公への離反工作と諸々にね』

 

「金持ちが持ってきた作戦に便乗したのがそもそもの間違いでしたね。よりにもよってドルトで虐殺など、後先考えていないにも程がありますよ」

 

 ドレイクがエリオン公に用意した“ネタ”の一つが、『改竄されたアリアンロッドの作戦計画書』である。ラスタルは敵には一切の容赦をしないセブンスターズきっての武闘派だが、特段争いを好む性格ではないし、利益もないのに敵を過剰殺人(オーバーキル)して悦に浸る様な変態でもない。であるならユニオンへの配慮や自身の艦隊に余計な醜聞が出ない様配慮して被害を最小にするのは当然の判断だ。しかしそんな“しょうもない”被害ではユニオンやアーヴラウに非難声明を出させられないと判断したイズナリオは、お得意の諜報工作でラスタルの出した指令を艦隊に届くまでに改竄した。

 

 イズナリオがノブリスの案に便乗した大きな要因は、ドルトコロニーの人間が差別されているといえど“れっきとしたアフリカンユニオン国民”であるという点だ。GHの運営費が経済圏からの出資である以上、彼らの経済活動には最大限配慮するのは当たり前だ。利潤を生みだす土地を持たないGHの数少ない泣き所の一つであると言えよう。だからこそ今までの弾圧は主にヒューマンデブリや圏外圏からの流民を被害の中心に据えてきた。

 

 だが今回の虐殺対象はドルトに欠かせない専門技術を持った労働者諸兄であり、当然だが数が減ったのですぐに補充、とはいかない。減り過ぎればマニュアルに残せない口伝や感覚的なノウハウを失伝してしまい生産効率は段違いに低迷する。そもそもヒューマンデブリは暗黙の了解、完全な裏方なら兎も角、政府が公営会社で採用するなど出来る訳がないのだ。

 

 それ故にユニオンは今回の件を穏便に済ませるなど出来ない。契約違反も良い所だし、なによりイズナリオがアンリ・フリュウを通じて『穏便に終わらせない』。賠償やら説得やらに手間取っている間にアーヴラウの選挙を終わらせるという算段だろう。

 

『まあ理には適っているだろう。成功すればユニオンは“労働者がデモを起こせば虐殺するような政治体制”というレッテルを張られる。何せドルトカンパニーは公営企業だからな、彼らの方針に責任を持つのは政府だ。そうなればドルトに就職するような人間は他殺志願者以外なく、アーヴラウや他の経済圏から怒涛の糾弾が成される。最悪の場合は、厄祭戦以前の状態まで経済格差が広がりかねんな。

そして“時代遅れの支配者を啓蒙する”という大義名分で内政干渉を実施する、その先頭に立つのは葬られるはずの真実を最初に糾弾したアーヴラウ。アンリ・フリュウの当選祝いとしてこれ以上はない、という訳か』

 

「成功していれば、の話ですがね。失敗した以上ファリド公はもう取り返しがつかない所まで追い詰められてしまった。独断で艦隊の命令書の内容を変更した挙句、その内容はスポンサーであるユニオンと致命的な確執を生みかねないもの。加えて、ノブリスの部下が公衆の面前で“第三勢力”に見える形でクーデリア嬢暗殺を実行、しかも下手人が捕えられ同じく窮地に追い詰められた協力者がいる。少し助け舟を用意してやれば罪を擦り付けるために幾らでも吐いてくれるでしょうね」

 

 ドレイクの予想通り、顔面蒼白となったノブリスは事情聴取も兼ねて連絡したラスタルに完全降伏を掲げていた。最大の支援者を名乗っておきながらその対象を暗殺しようとしたと知られれば、今まで築き上げてきた実績も塵と化す。当然火星に敷いた太いパイプも御破算となり、今まで抑えつけてきた競合相手から徹底的に追撃される。待っている未来はクーデリアのシンパや始末してきた邪魔者の縁者による暗殺か、落ちぶれた果ての自殺か、碌なものではないだろう。それが分かっているから命懸けでイズナリオを売り込んで来た。

 

 既にラスタルの頭の中ではイズナリオとの抗争は決着がついている。しかし悩みの種は尽きない。それはドレイクが持ちこんだもう一つの方の“ネタ”が理由だ。

 

『しかし、私としては此方の方が深刻だな。自分の養子を送り込んであるからといって、まさかセブンスターズの殺害に踏み込むとは』

 

 ラスタルほどの大物が頭を抱える“厄ネタ”とは、彼に無断で、何時の間にか艦隊に乗り込んでいたガエリオ・ボードウィン特務三佐に暗殺部隊が差し向けられていたことだ。ちなみにラスタルがドレイクに言われるまでその事実を知らなかった理由は、強制送還されることを恐れたガエリオがアリアンロッドの面々にボードウィン家名義で箝口令を強いたからだ。

 

もし知っていれば、所属も派閥も違う人間がいきなり私情でやって来て、食料や補給を強請っておきながら作戦には『こんな下劣な作戦に参加しろとでもいうのか』などと一切協力しないのだから、ラスタルでなくとも『帰れ』と言うだろう。当たり前の話だ。

 

 嘘だと思いたい案件だが、現実にドレイクがファリド家御用達の秘匿任務用の艦と“戸籍も名前も存在しない”工作員、そして高硬度レアアロイ製ではないとはいえ、条約禁止兵器まで現物を寄越してきたので信じる他なかった。ドレイクの自作自演でないと判断した理由は、そんなことをする愉快犯では無い事と、兵器の発射方法が『船を乗組員ごと効率的に爆破することで発射する』という、証拠隠滅を兼ねた仕組みだったからだ。

 

「殺しても直系の妹御がいますから最後の一線は侵していないと主張できるかと。それに自分の欲求に正直すぎるあの男がいずれ当主を継いだら、碌に手綱も取れない暴走特急になるだけです。どうせ始末するなら、エリオン家との対立が不可避になるこのタイミングが最も都合が良い、という訳ですね。

 ただし、火星監査組は未だ地球に到着していない以上、お坊ちゃんの独断専行が漏れるルートは一つしかない。養子殿が痴呆にでも掛っていなければ、彼に気付かせずに密告出来るような人物はいない。となれば親友に警告の一つも送ってきそうなものですがねえ。尤も、“本当に親友だと思っているのなら”ですが」

 

『ふむ、()()()()()に対して随分手厳しいな。だが、これでイズナリオを失脚させて無事安泰、という訳でないことが分かった。出来ればこの機会にまとめて始末したいところだが―――』

 

「勘弁してください。殿上人のじゃれ合いでここまでの被害が出てるんですよ?これが“殺し合い”になればどれだけ巻き添えが出ると思ってるんですか。はっきり言って迷惑です。それに、替えが効かない“セブンスターズ”の席を減らして後釜はどうするんです?

下手を打つと『現役のセブンスターズを滅ぼせば次の席に座れる』なんて考えが生まれて内戦になりますよ。特に貴方が膝に抱えてる方なんて格好の狙い目ですね」

 

『……イオク、か。我ながら指導力の無さにあきれるよ。イシュー家のフロイラインが羨ましいな、“宙の悪魔”の縁者を副官に据えてから、随分活躍しているそうじゃないか。私自身“エリオン家を守る駒”としての教育しか受けてこず、駒は創れても後継を育てる方法を知らんのだ―――などと言い訳にすらならんな。』

 

 セブンスターズは300年前から一度として変化していない。それは組織を維持するうえで重要なファクターとなってきたが、同時に腐敗の発生源でもある。例え馬鹿でも暴君でも替えが効かないので上に戴くしかなく、そういう連中のやらかしが現代に響いている件も多々ある。それになまじ固定し続けてきたせいで、今更半端に体制改革を行っても騒乱の種にしかならないのだ。

 

『やはり、セブンスターズもギャラルホルンも限界が来ている。改革か完全な建て直しか、どちらにしても動くしかない――――と言えば君の計画通りかな?』

 

「私だけでなく、恐らく穏当に生きたい人間全ての悲願だと思いますよ。さて、そろそろこれからの話をしましょうか。貴方が上手くユニオン政府を突いて下さったので、トラブルに見舞われながらも予定通りのタイミングでクーデリア嬢と鉄華団は地球に降下できそうです。ファリド公の動きはどうでしょう?」

 

『流石に時間が足りん。正規部隊に撤退命令は出すが、それでもイズナリオの私有軍はかなりの数だ。アーヴラウ政府からの“イズナリオ個人に”治安維持協力の要請撤回も厳しい。奴はかなり前からアーヴラウと繋がっている、その影響力は警察どころか裁判所にすら及んでいるのだから流石と言えよう。尤も、それが奴の“趣味”を満たすためというのがきっかけなのだから、人間何が助けとなるか分からんものだな?』

 

「最高に不愉快な話ですね」

 

 珍しく不快感を露に吐き捨てる。イズナリオとは個人的に因縁もあるのだが、それ以上にアーヴラウに辿り着いた後に待ち受けるトラブルに嫌気がさしたからだ。

 

 ラスタルから事件の詳細を聞かされ、泡を喰ったように取り乱したユニオン政府は慌ててドルト労働組合との関係改善に動いた。本音を言えばGHの政争に巻き込まれたことに文句を言いたいだろうが、自分の庭の掌握すら出来ていないから利用されるのだ、と言われれば二の句が出ない。それに、有り得た未曽有の風評被害と経済的損失を思えば、文句を言う前に迅速に火消しを行うのが先だ。

 

 かくしてドルトカンパニーと組合の間で労働環境の改善および和解が正式に行われ、今やクーデリアと“革命の乙女”の名は最も熱いものとなっている。この世間の追い風と、馴染の伝手を利用した“特急便”で一気に押し込もうとドレイクは計画していた。

 

 しかし、ラスタルから聞いた情報からすると、この状況下でもアーヴラウに巣食う膿共は

徹底抗戦を掲げるだろう。イズナリオと彼らは立場が違う。変態はどれほど失脚したとしても替えが効かない“血”が命と生活を保障する。少なくとも直系の子孫を生ませるまでは。

 

 だがアーヴラウの要人は違い、癒着が明るみになれば待っているのは破滅だ。況してや利益の為に男色家に無垢な少年を供物に捧げ、その隠蔽に加担してきたのだ、それに相応しい末路が待ち受けているだろう。それが分かっているからこそ死に物狂いで抵抗してくるはずだ。

 

『セブンスターズの私兵だけでも脅威だが、今度は“国”そのものが敵だ。少なくとも蒔苗氏がいない今のアーヴラウはな。鉄華団とか言ったか?少年少女たちには荷が勝ち過ぎるのではないかね?』

 

「それを判断するのは私ではありません。それにあくまで鉄華団との契約は地球に降下するまでですから、それ以上深入りするつもりはありません」

 

『自分達はあくまで海賊だから、かね?私からすれば我々より余程ヒーローになれていると思うが。では、そんな欲深い海賊達に法外な報酬を積む奇特な依頼人の登場を期待するとしよう』

 

 その言葉を最後に通信は終了した。ドレイクの視界の片隅にある新聞に、サヴァランとユニオン政府が握手する写真と和解が正式に行われたこと、そして一番隅に『反乱を企てた元駐留部隊の処刑が本日執行』という一文がノックスの名義で載せられていた。

 

 

 

 


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