海賊と〇〇、時々鉄の華 作:鉄のクズ
「―――どうも初めまして。
「あ、ああ。CGSのアタマ張ってるマルバ・アーケイだ。こちらこそあの『
「その渾名は今は忘れてください。今日は海賊としてではなく、ただのベンチャー企業の社長としてここに来てるんですから。あくまでビジネスの話です、そう固くならないでください」
出されたコーヒーに口を付ける20歳前後の青年は、付け焼刃ではなく身体に染みついた自然かつ綺麗な作法であり育ちの良さを窺わせる。それに対して持て成す側の強面の中年男性は、引き攣った内心を必死に笑顔で覆い隠しながら、それでも強いストレスと警戒心が大量の冷や汗となって現れている。何も知らない人間からすれば異様としか思えない光景だろう。
しかし当事者であるマルバからすれば気が気でない状況だ。何せ火星でもそれなり以上に名の通った武闘派海賊であるブルワーズ、その腸を食い破って旗揚げされた新進気鋭の海賊団『ナグルファル』―――その頭目が目の前に居るのだ。数だけは多いモビルワーカーを揃えている程度のマルバ達と、20以上のMSおよびその乗り手を抱えている海賊では喧嘩にすらならないのは明白だ。
かといって海賊相手に下出に出過ぎるというのも却って危険。彼らはどうか知らないが、仁義を知らない破落戸は相手の弱さには徹底的につけ込み無茶苦茶をする。だから礼を欠かさず且つ頭を下げ過ぎない微妙なさじ加減が重要なのだが、それらはマルバの胃を加速度的に痛めつけている。何より話が突然過ぎるのだ、心の準備が何も出来ていないというのが彼の本心である。
「アンタ方は今話題の腕利き達だ。俺達零細民兵風情が肝を冷やすなってのは無理がある。……それで?今日は一体どういった用向きで?」
「ええ。私の大切な社員である昌弘―――ああ、貴方から見て一番右側に居る彼ですね―――の生き別れの兄弟が此処で働いているという情報を得たものでして。名前は昭弘君と言うそうです、間違いでなければ是非再会させてあげたいと思って参上した次第です」
目の前の優男の発言にマルバは心の中で、買い物等の用事で壱番組(特にササイ)を放り出していた自分の先見の明を褒め称えていた。先に連中を部屋に通した時、ガキ共の背中の一部が少し膨らんでいた。つまりはそういうことなのだろう。だというのに、この男はガキ共を
さてどうするか。昭弘は2つの阿頼耶識を埋め込むという自殺紛いの行為を行った甲斐もあってか、参番組のNo.2ではある。ではあるが所詮ヒューマンデブリ、あのナグルファルと誼を得るためなら安すぎる対価だ。普段であればマルバも二つ返事で即答していただろう。
ところが現在CGSは少し厄介なヤマを抱えている。火星で最もホットな人物である『革命の少女』の護衛を、何の気まぐれかこの民間傭兵企業に依頼してきたのだ。しかも物好きなことに少年兵しかいない参番組を御指名ときた。弾除けのガキ共に看板背負わせなきゃならないこの状況で戦力低下は厳しい。しかもお嬢様がやってくるのは明日となっている。
だとしても、それを馬鹿正直に連中に言う訳にもいかない。そもそもマルバが最初に散々冷や汗をかいていたのも、クーデリアの存在を嗅ぎ付けられたものだとばかり思っていたからだ。彼女は火星において熱狂的な支持を得ている。任務に失敗しても横から掻っ攫われてもCGSは終わりだ。これまでの実績は無に帰し火星で仕事が出来なくなるのだから。戦力差など言い訳にもならない。悩んだ末に出した答えは………。
「―――話はわかった。良いだろう、そこまでの熱意をお持ちならこちらも手放すのも吝かじゃない。ただし今すぐに、とはいかん。こいつらにはちょいと大きなヤマが控えてるからな。取引はそれが済んでからにしてもらいたい」
「………」
敢えて情報を匂わせて
それと同時にオルガ達を見捨てて一人逃げ出すなんてのも無理だろう。せめて仕事が終わらせてからじゃないと筋が通らない、なんて言い出せば完璧だ。噂通り手駒のデブリを溺愛してる『
「分かりました、あまりごねて話を拗らせてもお互いに得がありません。具体的な日取りや話の詰めは後日にしましょう。それより、その件の少年が本当に我々の探している人物か確かめさせてもらっても?」
「それは勿論、ではこちらにどうぞ。見張りが交代する時間だからちょうど戻ってきてる頃だろうさ」
マルバが席を立つのに合わせてドレイクも腰を上げる。若造共に背を向けて歩きながら、マルバはこっそり溜まった息を吐きつつ思案する。一時はどうなる事かと頭を抱えたが、どうやらツキが向いてきたらしい。
しかし
連中は自転車操業中のジャンク屋を幾つか抱え込み、自分の縄張りに漂うジャンク品を監視(と言う名の護衛)の下発掘・修理させ相応の価格で買い取っている。ジャンク屋は海賊の庇護と安定した取引を得る対価としてガキどもに技術やノウハウの習得をさせてるそうだ。そして海賊は同盟相手の賊仲間やコネクション相手に完成品を売りつけて儲けてるって寸法だ。
その他にも、本業で稼いだ資金をそのジャンク屋にロンダリングさせて土地の買い取りを行っているそうだ。二束三文で買った不毛の地で何を企んでるのかまでは不明だが碌なもんじゃないだろう。
あと有名なのは、地球へ戻る船ばかり襲ってるが圏外圏の船に関しては縄張りに入った奴以外手は出さないのだとか。流石に地球とセブンスターズ絡みの
海賊と言えば馬鹿が好き勝手に襲って奪って売って殺すってのが相場だが、随分仕事を選り好んだりあれこれ手を出したりしているようだ。どうやってそれで儲けを出しているのか知りたいものだ。
そうやって益体なく考えていたマルバであったが、目的の人物が見えたので思考を切り替える。まずは目の前の儲け話をまとめてからだ、と筋骨隆々とした少年へと声を掛けた。
□□~~~□□
「―――そうかぁ、お前は頭領って人の下で上手くやっていけてるのか。良か……よかった、い゛きてて……くれて、よかった。昌弘お゛ぉ」
「な……なんで、良かったって言うんだよ。兄貴は今も、大変なのに俺だけ…今、楽しくて、腹いっぱい食べれて、俺だけ、おれだけ、なのに」
「ばぁか、お゛まえが、嬉しいのが、嫌なわけないだろッ!ごめん、昌弘のこと、守ってやれなくて……その人と会えるまではお前の方がずっと辛かったのに……すまねえ、許してくれとは言わねえ。けど、ごめんな昌弘……」
「―――ッ!あ、にき……にいちゃ、ぅ゛、ふぁ、ああああ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!」
滂沱の涙を溢しながら、それでもお互いに『また会えて良かった』と嗚咽交じりに言い抱きしめ合う兄弟。それを見て参番組の面子から貰い泣きをしている者がちらほらと見える。
しかし反対に、ナグルファルの乗組員達は茫然と、訳が分からないといった風に見ていた。もちろん昌弘が兄に再会できたことは喜ばしいことだし、自分のことのように嬉しい。しかし、
「……なんで、あんな風に『良かった』って言えるんだ?昌弘だけ先に良い思いしてたのに、嫉妬も恨みもなく、あんなに嬉しそうに」
ポツリ、と昌弘の戦友であるアストンがこぼした言葉が彼らの総意だった。もし自分達が逆の立場だったなら?兄が先に自由の身になっていて、自分がブルワーズのあの糞溜まりに今も居たとしたら?……あまつさえ、向こうに居る同年代の人達と仲良く暮らしていたとしたら?多分許せない、自分勝手で不毛な嫉妬だと分かっていても感情が爆発していただろう。
「まあ、あの子が『お兄ちゃん』だってことですよ。そりゃ聖人君子じゃありませんから君達が思うとおりの感情だってあるでしょう。でもそれ以上に優先する感情があるから、ああして何でもない顔して背伸しちゃうんでしょうね。誰でもできることじゃありません、昌弘は果報者ですね」
そんな彼らを見たドレイクが苦笑混じりにそう告げる。今のご時世、圏外圏では貧困と人身売買が横行し過ぎて、家族愛を認識できない子供は少なくない。死別・口減らしその他様々な理由で人の価値が失われている。自治区や圏内では例が少ない為取立たされないが、かなり深刻化している問題だ。
「……よく、わかりません。俺は家族の顔すら覚えてないし。でも、いつか分かるようになるかな?」
「ええ、このまま生き抜いていけばいずれ必ず。世の中捨てたものじゃありませんよ、
「あー、でもなんとなく分かるっすね。俺も昔は良く怪我してたけど、その代わりにみんなが無事だったらへっちゃらだったし。だから“トクベツ”ってやつならもっと、すげえってことっすよね!俺もかわいい彼女とか……って、そういえば頭領『ハロ』は?いつも頭領の周りでふよふよしてるのにいないっすけど」
「ん?ああ、多分この施設の地下でしょう。前もって聞いてるので構いません。何でも“古馴染み”に会いに行くそうですよ」
「……???ロボなのに古馴染み?」
□□~~~□□
「―――――ん?なんだこれ?」
上で感動の再会が行われている頃、CGS参番組の一員である三日月・オーガスは地下の動力室に来ていた。途中までは相棒のオルガ・イツカと一緒に地上にいたのだが、なんとも言葉にし辛い感情からここに足を運んでいた。今日は壱番組は全員出払っており、たまたまおやっさんこと雪之丞も居ない。なので一人になれるかと思いきや、見たことのない鋼の球体が転がっていた。何かの部品かと思い拾い上げてみると―――。
『ハロ!ナニモノ、ナニモノ!』
「…しゃべった。いや、お前が何者だよ」
表情には全く出ていないが、本人的にはそれなりに驚きながら手を放す。すると球体はふわふわと独りでに浮き始める。耳らしき部分がせわしなく動いているが、多分浮力とは関係ないだろう。
「それでアンタはなんだ?何か今日来てた人達の仲間?それとも敵?」
『ハロ!【ヨシュア】トケイヤク!【ヨシュア】トオトモダチ!』
「ヨシュア?あの頭領とか呼ばれてた……でもあの人『ジョシュア』じゃなかったっけ?」
『ウエニイタダロ!イタダロ!ナンデココニ!』
「聞いてないし……。さあね、何となくここに来たかっただけさ」
マルバのお客さんの持ち物を壊すわけにもいかず、大したもの(三日月視点)もないからと、とりあえず適当な場所へ腰かける。鋼の球体は先程までじっと見ていた『人型のデカブツ』から視線?を外し、三日月の周りをぐるぐる飛び回り始める。
『ハロ!ソレシッテル!【ウレシイ】!ケドイッパイダカラツライ!ムジカク!ムジカク!』
「辛い?嬉しいのが多いと嫌になるの?」
『ニンゲン!カンジョウガイッパイダトナク!カナシクテモウレシクテモナク!ナケル!――――【アグニカが一番愛した色だ】』
「……は?」
先程までの機械音から急に流暢な声――しかも妙に不吉な感じをさせる―――にポカンとしていると、何時の間にか球体は外の方へと向かっていた。
「―――あ、おい」
『ハロ!ソロソロジカン!カエル!カエル!』
ふわふわと飛んで行ってしまった不思議物体を、三日月は何とも言えない表情で見送っていた。