海賊と〇〇、時々鉄の華 作:鉄のクズ
ナグルファルの面々は一度火星にある拠点へと帰還した。話が済んだ以上もうCGSに用はなく、日取りも未定なら火星に留まる理由もない。何よりマルバが『もうすぐ躾の成ってない連中が帰って来るからお目を汚してしまう』と焦っていたのが最大の理由だ。
昌弘は泣き疲れて眠ってしまい、後から仲間に弄られて真っ赤になっていたが同時に肩の荷が下りたかのようにリラックスしていた。何せ昨日までもし拒絶されたら、と夜も眠れなかったのだから。蓋を開けてみれば文句なしの名場面だったので喜びも一塩だろう。
ともあれ火星での用事はほぼ完了した。次の仕事は地球にほど近い場所にあるコロニー群『ドルト』。此処から少し距離はあるが時間的にまだ余裕がある。CGSの参番組隊長とかいう少年には縄張りの航路図と連絡先を寄越すのが最後の仕事だ。火星から出る際にエスコートくらいはするが、その後は航路図通りに行けば問題は無い。地球への突入は単独では不可能だろうが、その頃には向こうから連絡が入る手筈になっている。
妨害はあるかもしれないが本番は地球に入ってからだろう、というのがドレイクの予想であった。さっそく彼と部下が調べてみたところ、CGSの依頼内容はノアキスの7月会議で一躍有名になった“革命の少女”クーデリア・藍那・バーンスタインの護衛だという。となれば手を出してくるのはハーフメタル利権に関与している金持ち連中だろう。もしくはクーデリアの交渉相手である蒔苗・東護ノ介氏の政敵も考えたが、交渉中の
――――だからこそ、念のため張っていた網に『GHから多数のMSが出動した』という情報が引っかかって来ても、すぐには対応することが出来なかった。彼等が大型改造トレーラー2隻で急行した時には、既に衝突は佳境を迎えていた。
「頭領、目視可能位置まで到着しました。CGSは結構な被害を出しているようですが、突出した2機のMWが敵前線を食い止めて拮抗状態に持ち込んでるようです!」
「わかりました、敵MSの方に動きは?」
「あ、はい!数は3つ、距離およそ2キロ先にある丘で待機している模様。……前線のMWは敵戦力の測定、そのための“捨て駒”と思われます」
吐き捨てる様にいったオペレーターの言葉には侮蔑の色が濃くあった。MSが3つもあれば、威力偵察はその内の1機で十分だろう。ましてや天下のGHならCGSに使えるMSが無い事も事前に知っているだろうに。警察機構が三流海賊と似たような真似をしている事実に、オペレーターだけでなく全員が不快感を露にしていた。
「――――ッ!?敵MSが行動を開始!1機がCGSのMW隊に強襲!残りも続けて前線へと移動を始めました!」
「どうすんです頭領!?このままじゃ昌弘の兄貴は――『ハロ!コンテナノハッチ開閉!ハッチ開閉!』―――何だッ!?」
□□~~~□□
――――CGS参番組に所属している少年、ダンジ・エイレイは走馬灯を見ていた。無慈悲に、しかし確かに中に人が乗っていることを感じさせる悪意を持って仲間と
彼に前線を任せたオルガの、悲鳴のような叫びも虚しく振り下ろされようとした凶器は―――――しかし軸足の方が宙を舞ったことでそうなる未来は潰えた。
「………へ?なに――『ドゴォッ!』――ってうわあッ!!?」
武道で言う『足払い』を受けたような恰好で宙を舞ったMS【グレイズ】は、当然の自然法則で地に堕ちる。運悪くグレイズの腕がMWを掠めたことで、ダンジと機体は後方へと吹き飛ばされた。
「ダンジッ!おい無事か、返事をしろォッ!!」
「落ち着け、あの当たり方ならコックピットは無事だ。けど一体――『さぁせるかああッ!!!』―――この声……まさか、昌弘!?」
取り乱す年長組の一人、ノルバ・シノを宥めた明宏はついで聞こえてきたスピーカーの声に驚愕する。ついで視線を声の方へと向ければ、ガルム・ロディにスラスターを増設させたカスタム機がGHとCGSの間に割り込む様に飛び込んで来た。
仲間と共に戦況を見ていた昌弘はMSの存在を知った時点で居ても立っても居られず、コンテナ室にいた戦友を説き伏せ独断で収納されていた護衛用MSを駆り戦場へ飛び出したのだ。ブルワーズ時代のトラウマを抱える彼らにとってMSとは=死だ。そんなもの相手に
「CGS、アンタ達に策は?こっちは俺以外に戦力が出せるか分からないし、出せてもあと一機だけだ!」
「―――ああ、手はある!こっちのMSを今準備してるところだ。だからあとほんの少し連中を抑えてくれ!!……それから、ダンジを救ってくれて、感謝する」
『な、ロディ・フレームッ!?CGSにMSがあるなどという報告は……』
『今は後だアイン!早く後退しろ、そのMSは普通じゃない。距離を取るんだ!』
敵味方双方が乱入者に困惑するが、ほぼ同じタイミングで態勢を立て直した。再び攻勢に出るグレイズ2機であるが、明らかにその動きは先程よりも精彩を欠いていた。原因は未だに地べたを這いずっている同僚機にある。どうやら狙撃された脚部が完全にコントロール不能に陥っているらしい。ナノラミネートで覆われたMSを銃撃で無力化した、その前代未聞の事実が彼等に強行突破を躊躇させていた。
加えて、ナグルファルで戦い続けた昌弘の技術は既に円熟の領域に入っており、立ち回りが非常に上手い。相手の及び腰につけ込み、的確な射撃と高機動で相手を誘導している。常にCGSへの進路を塞ぎながらも隙を見せない昌弘に、グレイズを駆るクランク・ゼント二尉とアイン・ダルトン三尉は攻めあぐねていた。
「クソ、クソッこの私がこのような恥を!!クランク共は何をやっている!たかが無頼のMSに二人掛りで――――ひでぶッ!」
右足の制御が効かず、そのことに焦るあまり援護射撃すら頭にないGH兵士のオーリス・ステンジャは自分のことを完全に棚上げしたまま戦闘を続ける同僚を罵倒していた。彼らが手間取っている理由の一つに、丁度良い場所で動けなくなっている自分が進路を塞いでいることが挙げられるなど、当然彼は気付いていない。
しかしそんな時間の無駄をしていた彼の思考は、唐突に人生諸共中断させられた。真後ろの地面から突如現れた新手のMSが、勢いよく着地した場所に偶然存在したコックピットを踏み潰してしまったのだ。
「あれ、なにか踏んだ?……まあ味方じゃないからいいや。あれ?俺がいた時よりMSが増えてる……オルガ、どうすれば良い?」
「待ちかねたぜミカ!!あっちのゴツイのは昭弘の弟で俺達の恩人だ」
「わかった、じゃあ俺がやる事は変わってないね」
「ああ、やっちまえッ!!」
巨大な槍とメイスを併せたような武器を構えるMS【ガンダム・バルバトス】を見て、昌弘は戦闘を中断し擱座したMWの救助へと回る。初めて見るMSに知らないパイロットでは連携は不可能であり、下手に誤射をすると取り返しが効かないからだ。ただしいつでも援護できるよう射線だけは開けながら行っている。
『更に新手だと!?民兵風情がMSを2機も……それに先程のMSの声、まさか―――』
『お、オーリス隊長……ッ!貴様、無抵抗の人間を殺すなどなんと卑劣なッ!?』
『―――なッ!?待てアイン!』
スクラップと化したグレイズを見た瞬間、激情に駆られたアインがバルバトスへ突貫する。彼の頭の中ではオーリスは既に戦闘不能な非戦闘員であり、加えて地上に出たばかりで状況が分からなかった三日月の視点は全く考慮されていない。この素晴らしい自己解釈はギャラルホルンの教育の賜物か、はたまた持って生まれた感性なのかは不明である。
しかしその蛮勇は、この戦いが初陣である彼がして良い行動ではない。アインが銃を構えバルバトスへと意識を集中した瞬間、横から飛来した弾丸が肘部分へ命中。オーリス機と同じく機能不全を起こす。
『うわあッ!!?』
「ありがと、援護助かる」
ここぞとばかりの支援に三日月は礼を言いつつアインへと突撃する。それに対して昌弘はアインの練度の低さに溜息が出そうだった。いくらこちらが救助活動に出ていたとはいえ、あれほど警戒していた自分を意識から外すとは思わなかった。加えて先程の発言も併せての視野の狭さ、こんなのを法律無視の非合法作戦に使うGHがどうかしてると昌弘は頭を抱えたかったが、気を取り直してクランク機へと牽制射撃を放ち加勢を妨げる。
そうこうしている内に戦局は終わりに向かっていた。片腕でしかも武装がアックスのみでは隙だらけも良い所だ。相手がマニュアル通りの動きならともかく、生物的な動きが出来る阿頼耶識搭載機なら尚のこと。
アインの目の前に武器を投げつけ視界を土煙で殺した三日月は、レーダーだけを頼りに迎撃してきたアインのアックスを地面すれすれにホバリングすることで躱そうとする。途中で推進剤が切れてしまったものの、咄嗟にスライディングに切り替えることでアックスを潜り抜け、そのまま叩き込んだ蹴りで脚部を破壊する。
慌てて起き上がろうとするアインだったが、それより早く態勢を立て直したバルバトスに背を踏みつけられてしまう。そしてそのまま拾い上げたメイスで止めを刺そうとするが、間一髪追い付いてきたクランクの銃撃で阻止されてしまい、下がった瞬間にアインを回収しそのまま離脱されてしまった。
「まだだ……ッ!このまま逃がして―――」
「いや、追う必要はないさ。あいつらはもう詰みだよ」
□□~~~□□
「アイン、無事か!」
「―――ッ!はい。何とか」
「良し。我々はこのまま離脱―――『させると思いますか?』―――な、うおおあッ!?」
アイン機を抱えながら一目散に逃走するクランクであったが、突然聞こえてきた通信と同時に飛来した弾幕を受け転倒してしまう。しかも両機共に手足とメインカメラを撃ち抜かれてしまい、もはや仰向けになることすら出来ない有様である。
「ぐぅ……ッ!ま、まさか伏兵がまだいたとは。それにこの速度で動くMSを正確に狙い撃つだと?―――む、これが弾丸か。これは……実弾ではない?」
アイン機が影となって辛うじて無事だった左腕で傍にある弾丸を拾い上げる。それは弾頭がまるで4本の帯もしくは花弁のような形状となっており、しかも材質は鉄ではなかった。
『ええ。物質に命中する直前に返って来る風圧に反応して変形し、このように強力かつ特殊な振動を叩き込む特製ゴム弾。ナノラミネートは衝力を吸収、分散することで銃弾を無力化する仕組みです。なので内側に抉りこむ様に衝撃を加えてやれば、吸収し過ぎた振動が内部の駆動部分または装甲同士の継ぎ目を破壊します。
――――我々ナグルファルが常勝不敗である理由のひとつですよ』
「ナグルファル……だと?まさか貴様は―――」
『ギャラルホルン、貴方方の身柄は我々が預かります』
今回出てきた特殊ゴム弾の元ネタは、漫画『からくりサーカス』にてルシールが