海賊と〇〇、時々鉄の華 作:鉄のクズ
第八話
ナグルファルと別れた鉄華団は、GHのキナ臭さから後ろ盾を欲してテイワズへの参入を求めていた。ナグルファルは唯の海賊ではないとはいえあくまで規模は単体であり、何よりドレイクが『上下関係とか組織が嫌いで無頼気取ってるので勘弁してください』と断られてしまったからだ。流石に自分達だけでは色々と不安が付きまとう
そんな彼らの元に、夜逃げしていたマルバがテイワズ傘下の武闘派兼運び屋の『タービンズ』を連れてきたので、これ幸いと接触。マルバの失言とオルガの奇策、そして何より三日月達MS乗り組の奮闘もあってタービンズは鉄華団の要求を受諾した。そして緊張して臨んだテイワズの
「―――あ、三日月!今ちょっと良い?」
「別にまだ時間はあるけど、どうしたのアトラ?」
まだ時間があったのでテイワズの本拠地“歳星”に降りずに『イサリビ』にいた三日月は、後ろから賄い係のアトラから声を掛けられたので振り返る。すると彼女は何やら困ったような様子である。
「えっとね、もし時間に余裕があればで良いんだけどお弁当を“あの人”に持って行ってくれない?私一人だと万が一があったらってユージンさんとかがうるさいし。心配してくれるのは嬉しいんだけどね」
「大丈夫だと思うけどユージンがそう言うのも仕方ないかな、初対面がアレだし。わかった、渡しとく」
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「――――ってアトラに言われてるから、適当に食べといて」
「……いつも言っているが、私の扱いは君達の捕虜だ。同じ食事を出すのは経費の無駄ではないか?もっと雑なものにしてくれる方が有難い」
「そんなこと俺に言われても困る、そういうことはオルガに言って」
アトラの言う“あの人”とは、鉄華団で捕虜兼MS整備補佐として乗っているアイン・ダルトンである。ある程度技術を持った捕虜を同じ場所に置くのは色々面倒とのことで、クランクはナグルファルで預かっている。こうしておけばお互いの身の安全のために変な気は起こさないだろう、という判断での処置だ。
それだけでなく、クランクから鉄華団を通じて“自分の信念”というものを身に付けろと言い含められている。どうにも意思決定や信条というものを他者に依存しがちな彼に必要なのは自分ではなく、自分達の意志で立ち上がった鉄華団から学んでほしい、とのことだ。
あまり顔色の良くない表情で弁当を受け取ったアインを見て、特に何を言うでもなく個室から出て行こうとする三日月。そのまま扉を閉めようとした彼だったが、中から呼び止められたのでそちらに視線を戻す。
「君は……君は随分ここの団長を慕っているな」
「……それが何?」
「いや、別に他意があるわけじゃないんだ。気に障ったのなら謝罪する。だが、そんな君にどうしても尋ねたいことがあるんだ。………もし、もし仮にだがそのオルガ団長の考えや目的が、世間や周囲から“悪”と断じられたなら、君はどうする?そのまま従うのか、それとも諌めるのか……」
聞きようによってはかなり危うい質問だと理解しているのか、聞き辛そうにしながら三日月に問うアイン。聞かれた三日月も微妙な表情を向けるが、本人の言うとおり揶揄する感情は見当たらず、それどころか縋る様な気持ちさえ伝わってくる。
真剣な話ということで三日月は室内に戻り、適当な椅子に腰掛けた。普段のマイペースで誤解されがちだが、敵以外の人間に対して彼は割と誠実な方である。……少しばかり行動が野性的なだけで。
「……アンタがどういう答えを聴きたいのか知らないけどさ、“正しさ”って必要あんの?」
「え……?」
首を傾げて数秒悩んだ後、ポツンと溢された言葉にアインは目が点になる。その反応には目も呉れず三日月は続ける。
「オルガは俺達の為を思って行動してる。本人は頭も良いし要領も良いから、自分のことだけならどうとでもなるのにね。なのに参番組の時は誰かを庇って殴られたり、仲間が死なない様に必死で頭を働かせてた。そんなオルガの言うことだから、俺はどんな指示でも従うんだよ。
それに、アンタの言う“世間の正しさ”でいくと俺達は『ニンゲンですらないネズミ』なんだろ?別に要らないでしょ、そんな正しさ」
あっけらかんと言う三日月を、アインは何か別の生き物の様に感じた。だが恐らくそれは間違っていないのだろう。例え火星生まれだと蔑まれていても、アインはれっきとした
しかし三日月達にとって正しさとは寧ろ敵に等しい存在である。さも偉そうに存在していながら自分達を助けるどころか見て見ぬふりをする。周囲の大人が言う“正しいネズミの生き方”をすれば5年と生きては居られまい。だからこそ自分で考え、自分自身で“信じられるもの”を取捨選択しなければならなかった。法の内側では無法者と蔑まれるかもしれない、だが彼らは揺るがないしブレもしない。
信念とやらはまだ見えはしないが、自分と彼らの違いについては輪郭程度なら掴めた。そのことに対して礼を言おうとしたアインだが、その前に三日月はさっさと出て行ってしまった。だが入れ替わる様に別の人物が顔を覗かせた。
「……貴女は、確か――――」
「フミタンと申します。クーデリアお嬢様に仕える女給で、現在は船の通信オペレーターをさせて頂いております」
その言葉に思わずアインは目を背けてしまう。それはつまり、自分達に紙屑の様に始末されかけた一人だと言ったに等しい。しかも三日月達のような戦いを生業にしているならともかく、抵抗する術を持たない彼女は紛れもなくGHの犠牲者だ。
「ああ、その罪悪感はお嬢様だけで十分です。私があの場に居たのは『それが仕事だった』というだけですから。貴方があの場に居た理由と同じで、仮に私が貴方の立場だからといって結果は変わらなかったでしょうし。ですから、私に貴方を責める気持ちはありません」
「しかし、そんなことは罰せられない理由にはならない。少なくとも『何故自分は目の前の“人”を殺すのか?』すら考えようとせず、あまつさえそれを“正義”などと宣う外道は、許されるべきじゃない」
「罪滅ぼしを行う人間を外道とは言わないと思いますが?軍事訓練を受けている貴方なら、態々MSの整備を請け負わずともずっと此処に籠っていても苦にならないはずです」
「……」
しかしフミタンは決してアインを非難しない。自身も命を狙われ、怪我まで負ったという話なのに、だ。しかしアインは彼女の割り切れ方を訝しみつつも二の句が告げないでいた。
アインがMSの整備を手伝うことになったきっかけは、昌弘が人手を欲しがったからだ。というのも、整備班の責任者であるおやっさんがMSに関してあまり造詣が深くないからだ。彼の専門はMWなので仕方がないが、そうなると昌弘の負担が大きくなりすぎる。幾らナグルファルで仕込まれているといっても、ガルムロディ・バルバトス・グシオンの3つ全てをやれと言われては圧倒的に手が回らない。
そこで昌弘が目を付けたのがアインだった。ガンダム・フレームはともかく、GHで専門知識を培った彼なら、最低でもロディ・フレームは何とかなるだろう、と。勿論監視付でという条件であり十中八九断られると思っていたので、アインが了承したことに昌弘達は驚いていたが。
「罪滅ぼし……か。ああ、確かにきっかけはそうだったと思う。あとはクランク二尉―――じゃなかった、クランクさんの課題として彼らを知りたいという打算もあった。といっても、すぐにやりたくても出来なくなると思っていたんだがな」
当然のことながら、鉄華団の彼を見る視線は友好的からは程遠かった。たとえ直接手に掛けた者はおらずとも、嬉々として羽虫の様に仲間を踏み潰した男の同僚なのだから。しかし、彼らはそれ以上は行動に起こさなかった。
MSの整備は無重力下でもかなり危険な作業であり、やろうと思えば背中を少し押すだけでも大怪我で済まなくなる。これはアインの実体験から来ている。“火星人とのハーフ”というレッテルは、僻地に飛ばされ腐っている連中にとってとても都合の良い玩具であり、MS乗りであっても整備不良が怖くて自分で調整していたし、その時に『事故』が起きかけたことも少なくない。クランクが居なければ悲惨なことになっていたことだろう。
「―――それに引き換え、鉄華団の子供たちはオルガ団長ほか幹部の目が無くともそんな下種な真似はせず、食事や寝床についても過剰なくらいだ。彼らを薄汚いと蔑む連中の方がよほど……などと考える自分が何より嫌になる。捕虜に堕ちた途端他人事など、どれだけ当事者意識がないんだと、我ながら呆れる」
「そう卑下する必要はないかと。一度離れることで初めて見えてくるということは良くあることでしょう。……ですが、貴方が求めているものはこんな慰めではありませんね。
――――――“罰されたい”のでしょう?」
再び沈んでいたアインは、その言葉に勢いよく体を起こす。この女性はどこまでこちらの胸の内を見透かしているのかと見上げてみれば、そこにはいつものすまし顔ではなく自嘲のような感情が漏れていた。
「貴方とは理由が異なりますが、私もそれを求めているので良く分かるのですよ。どうか取り返しがつかなくなる前に私を……」
「……?それは―――」
―――どういう意味か、そう問う前にフミタンを呼ぶ声が遠くから木霊した。どうやらクーデリアの準備が整い、歳星に降りる時間が来ていたらしい。彼女は既にいつもの表情に戻っており、無駄のない所作で出口に向かっていた。
「――――言い忘れていましたが、盗み聞きなどというみっともない真似をしてしまい申し訳ありませんでした。それに不躾な質問に付き合って頂いたことも感謝しております。此処に居る皆さまは純粋で真っ直ぐな方ばかりで、こういう会話はなかなか出来ないものでしたから、つい話し過ぎてしまいました。ではこれで失礼します」
アインは辛うじて返事を返したが、何ともいえない表情で出口を見つめ続けていた。
――――それから数日後、式は滞りなく終わり鉄華団の面々が打ち上げで色々な体験をしてきた後、いざ地球へという前にマクマードからの依頼でドルト・コロニーへと立ち寄ることになった。何でも急に捻じ込まれた案件で、労働者組合へ資材の輸送をという何の変哲もない内容だったこともあり彼らは快諾した。
しかし歳星からドルトまではそれなりに距離がある。途中で海賊に遭遇する、などというイベントもなかったため最短ルートを進んでいるが、それでも数週間ほどの時間はかかる。既に歳星で十二分に手入れがされ、手を加える必要も無い事から整備班も久しぶりに長期休暇に入っている。
故に暇になったアインは、先日の話を思い出したことで三日月とフミタン其々に会話の礼と話の続きをしようと行動した(ちゃんと部屋から出る許可は取っている)。まず三日月に会いに行ったのだが、偶然彼がクーデリアに接吻している時に出くわすという、最悪の間の悪さにより無駄に取り乱してしまったり(その所為で結局礼は言えなかった)、フミタンを探している途中昭弘とシノに出くわしたためにシミュレーターの対戦相手をすることになったり、と寄り道が過ぎて夜になってしまった。
火星生まれという風評の所為で免疫がなかった色事や、久しぶりのシミュレーションでアインはそれなりに疲れていた。しかし何となく今日会っておかなくてはという気持ちでいた彼は、シノから『フミタンさんなら今日当直で、今は多分一人で艦首のソナーを見てると思うぞ?』と聞いたのでそこへ向かっていた。
不用心と思うかもしれないが、現在は名瀬率いるタービンズも随伴しており『もうすぐ忙しくなるだろうから今は休んどけ。見張りは俺達がやっとく』という言葉があったからだ。ちなみに早くもワーカーホリックを発症した団長殿は、ベッド移送係(アトラ命名)に任命された三日月に運ばれてベッドの上の住人だ。無謀にも抵抗した所為で、少し首が曲がってはいけない方向に行ってしまったので当分起き上がってはこないだろう。
あの矮躯の何処にそんな怪力が……と訝しんでいる内に着いたのは良いが、中から聞こえてくる
(誰か他にいるのか?シノとやらは一人でいると言っていたが―――『ドルトへ着いたらクーデリアをデモ隊に誘導しろ。そこが彼女の死に場所だ』―――ッ!?)
「……それについてですが、懸念事項がございます。先に話した例の海賊がお嬢様達に要らぬ知恵を吹き込みました。彼女自身はともかく周囲の人間はこちらの思惑に載ってこない可能性が濃厚かと。……作戦の見直しをご検討すべきでは?」
聞こえてきた信じがたい内容に、アインは思わず口を押え声が漏れないようにする。コーラルの件は彼もその場に居たので、連絡先の人物には心当たりがある。しかし何でよりにもよって彼女が、とアインは気配を消して扉に耳を寄せる。それにもう一つ疑問なのは、彼女の声音がいつもよりほんの僅かだが焦りを含んでいる点だ。まるで必死に屁理屈を捏ねてその場を乗り切ろうとしているような、少なくとも誰かを陥れる様な人物のそれではない。
『―――なに?ふむ、たかが無頼の分際で目障りなことだ。だがな、既にことはコーラル如きとの商談ではなくなったのだ。『彼女がドルトで非業の死を遂げる』という筋書きは、彼のセブンスターズの一家からの強い要望だ。何らかの形で応えねば私の立場が少し悪くなってしまう。
……予定に変更はない。どんな手を使ってでも革命の少女をドルト2へ連れてこい、これは命令だ』
その言葉を最後に通信が途切れる。気配に鋭いフミタンにばれない様にその場を離れたアインは、自室で必死に頭を回していた。はっきりいって経験不足な彼には荷が勝ち過ぎる案件だが、軽々に相談できるものでもない。それに彼女の反応には腑に落ちない点もある。
ドルトに到着するまでの間、アインは寝る間も惜しんで対策に没頭することとなった。
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―――それから更に時間が経過し、資材と言われている物・思惑・疑念・不安と、様々なものを乗せたイサリビは、とうとうドルト・コロニーが目視可能な距離まで辿り着いていた。女性陣がやれ買い物に繰り出そうと楽しそうに話していたり、幹部達が積荷の受け渡しについて話していると、突然通信設備が受信反応を示した。慌てて彼らがモニターに反映させるとそこには――――。
『あー、あー、マイクテス、マイクテス。どうも御無沙汰しております、
「……え、ナグルファルの頭領?なんでここにッ!?」
『…………こいつか。ジャスレイの叔父貴の件で会って以来だが、相変わらず背筋が寒くなる野郎だ。こいつと取引なんざ、ドルトは何企んでやがる……?』
オルガは目を点にした状態で、名瀬は苦虫を百匹ほど噛み締めたような表情で其々で迎え、
「―――と、頭領の目が笑ってない……もうだめだぁ…おしまいだぁ………」
「ま、昌弘!?おい、しっかりしろ、まさひろぉーーーーッ!!?」
久しぶりにトラウマを刺激された昌弘がショック症状を起こし、それを兄が必死に介抱したりと、妙な騒ぎが起こっていた。
―――鉄華団、クーデリア、ドルト・コロニー、そしてGHの分岐点となる一歩は、何とも締まらない形で始まるのだった。