海賊と〇〇、時々鉄の華 作:鉄のクズ
「―――おい聞いたかよ」
「ああ、ドルトの重役が臨検を外注しやがった件だろ?何考えてんだか」
「“例の作戦”へのせめてもの抵抗だろうさ、馬鹿な野郎だ。黙ってVIPルームで震えていれば良いモノを。余計なことをするから『人員整理』のリストに載る羽目になるのさ」
「違いない。まあ『お客様』が到着したならその何とかいう会社も見せしめにされるだろうよ」
ドルト5の往来を闊歩しながら、GHの駐屯兵はそれぞれ無駄話を溢していく。本来なら箝口令が敷かれているだろう内容にも拘らず、彼らは気にした風ではない。どうせ聞かれたところで何も変わらない、都合の悪い情報は規制され邪魔な人間の口が塞がれるだけだ。そんな傲慢が透けて見えた。
そんな彼らを不快そうに見据えながら、主要道路に面するオープンカフェに二人の人物が身を寄せ合って話をしていた。
「……いよいよ“作戦”まで一週間になりました。今日まで何とか話し合いでの解決を試みましたが、何の成果も挙げられず面目ありません」
「そんなことを言わないでくださいサヴァラン君。専務からも聞きましたが根本からどうにもならない状況だったじゃありませんか。そんな中でも腐らず闘い続けてきた君を尊敬こそすれ、卑下するなど有り得ません」
そこに居たのは労働組合のナボナと、組合と会社の調停役を努めるサヴァラン・カヌーレだ。彼はヒース専務が海賊という無法で動く傍ら、法の下での解決に尽力してきた。しかし以前にも取り上げたが地球に居る政府担当者への繋がりが会長にしか存在せず、調停役などというのは飾りに過ぎなかったため、現在では労働者達へのヘイト集めに利用されている有様だ。
「残念ですが、こと此処に至った以上貴方に出来ることはもうありません。いや、貴方がすべきはこの後の始末です。我々はどう話が進もうと、今の立場には居られないでしょう。ですが直接関与していない君だけは別です。“事件”の後で理性的に交渉できる人間がいれば、我々の犠牲が無駄にならないかもしれない。
ですが、“あの方”が依頼を達成してくだされば、あるいは……」
「……ナボナさん。例の人物は、本当に信頼できるのですか?この状況を覆すなど、魔法か奇跡でも起こさなければ不可能としか思えません」
「分かりません。しかし、既に賽は投げられました。後はもう祈るしかありません」
□□~~~□□
「―――やあオルガ団長、思ったより早い再会でしたね。順調な航海だったようで何よりです。
……そちらは確かタービンズの名瀬さん、でしたね。またお会いするとは奇遇ですね」
所変わってイサリビでは、オルガと名瀬がE.R.Cとしてやってきたドレイク達を出迎えていた。といっても知った顔は彼だけあり、他はドルトの作業着を着た中年男性が数人いるのみである。
「あれ兄貴、団長とは顔見知りだったんで?」
「ああ、一度だけな。ちょいとテイワズのゴタゴタに巻きこんじまったというか、巻き上げられたというか……」
「……???」
珍しく言い淀んだ兄貴分に、オルガは訝がな表情を浮かべる。揉めたと言うが、ドレイクはいつもの営業スマイルであり、大した揉め事ではないかと安堵した。しかし彼の次の一言で思わず吹き出しそうになった。
「そうですね、あのアゴが下品な方が難癖付けて “戦争”になった時以来ですね、テイワズの方とお会いするのは」
全く平和的ではなかった、それどころか洒落にならない大揉めらしい。ドレイクは自分のしたことを大げさに言う人物ではないし手柄を誇る性質でもない。この人が“戦争”と言ったなら、つまりはそれだけの大規模な抗争になったということだ。しかしもしそうならオルガには疑問が残る。
「……あの、それだとお二人は不倶戴天の敵の筈ですよね。険悪って感じじゃねえようですが」
「ああ、まあ他はともかく俺達は寧ろ貸しを作った側だからな。説明してやりたいところなんだが、俺の口だと身内の贔屓目が入りそうだ。悪いがアンタの口からレクチャーしてやってくんねえか、海賊さんよ」
「おやおや、その方が都合が良いでしょうに相変わらず律儀な方だ。そうですね、じゃあ事の背景から話していきますか。
―――先程ジャスレイ氏が難癖付けてきたと言いましたが、まず前提として普段ならこんな無駄なことをする人じゃありません。ヤクザと同じく争いの玄人である海賊とやり合っても被害が出ますし、組織に属してないから感情で延々絡まれますから。ですがそんなリスクを度外視してでも、飛ぶ鳥を落とす勢いだった当時のナグルファルを討ち取って名を挙げようと彼は焦っていました。その要因は大きく分けて2つです。
まず一つ目は、テイワズの大親分であるマクマード氏が当時後継者を指名していなかった点です。ジャスレイ氏は自他共に認めるテイワズのNo.2ですが、あくまでテイワズの時期頭領としては“候補”止まりな訳です。しかも彼はワンマンな気質だったこともあり、常に暗殺に怯えて周囲を威嚇してきました。まあこれは自分がそういう手段を用いてきたから自業自得もありますがね。まあ要するに余裕が無かった訳です」
付け加えて言うと、幹部同士に明確な地力の開きが存在しなかったことも要因に上げられる。歳星は厄祭戦前から存在する歴史あるコロニーであり、テイワズという組織もそれに沿う形で古くから存在している。
しかしその所為か組織の上澄みが家や組織で固定され、流動性というものが失われてしまった。中興の祖であるマクマードが鉄火場に立っていた時分に大分引き締めが行われたが、それでも幹部の顔ぶれはほぼ変わらなかったことから筋金入りであるといえよう。
さらに、抱える物が多い人間というのは守りに入るもので、ボスの一声に殉じて一番槍を担おうという気概を持った幹部は極少数だった。その数少ない例外がマクマードの舎弟として数多くの鉄火場に立った経験のあるジャスレイであり、マクマードからの覚えも目出度く幹部筆頭の自負もあった。しかし―――。
「二つ目が、強力なライバルの出現と周囲の幹部達の動きですね。此処で対抗馬となる新幹部、名瀬・タービンが登場します。組織が停滞し長らく新参が現れなかった状況下での幹部入りは、特にジャスレイ氏には衝撃的だったでしょうね。
しかも他の幹部が挙って名瀬さんを気に入り味方に付き始めた事実が、その不安を煽ることになりました。元々仁義に欠く部分があったジャスレイ氏は人望がいまいちでしたし、我が強いですから古参の連中にとって扱い辛かったのでしょう。それに加えて名瀬さんは任侠を重んじる方であり、かつ地盤も強い訳じゃないから与しやすいと思われたんでしょうね。
かくして風向きが一気に悪化したジャスレイ氏ですが、タービンズとの内部抗争は出来ません。ヤクザにとってはタブーの一つですし、今まさに注目の的である彼に手を出しても皆がジャスレイ氏の仕業だと判断しますから。窮した彼は自分の地位を確固たるものにするために、一つの冒険をします」
「―――それが頭領との抗争、いや“戦争”だった訳か。で、そいつをアンタは返り討ちにしちまった訳だ。テイワズのNo.2すら下すなんざどういう手品を使ったんです?」
「まあウチはガルム・ロディだけでも28機ありますし、銃撃戦で敵を減らせますから数の差はハンデになりにくいんですよね、後は秘密兵器を少々。まあそれはともかく、こちらとしては何の関係もない事情で喧嘩吹っかけられたのですから手心を加える理由はありません。しかしマクマード氏から直々に“お願い”されたので殺さず生け捕りにし、身代金をせしめたことでこの話はお終いです」
喋り過ぎて疲れました、とアトラから飲み物を貰うドレイクを見ながら、そりゃ兄貴の口からは言えんよな、とオルガの表情は引き攣っていた。命懸けのドンパチを一方的に吹っかけといて、親から手加減してと手回しされたなど同じ組織の人間(しかも相手は上役)としちゃ口にし辛いなんてもんじゃない。
「あれ、今の話だと兄貴に貸しはないっすよね?ジャスレイさんは今も幹部に居ますし」
「あー、内輪の話は海賊さんも知らんか。流石に自分の都合で始めた抗争の始末を親父にやらせて無罪放免とはいかなくてな、一時叔父貴はJPTトラストの代表も解任させられて親父の鞄持ちに降格してたんだよ。
まあそれは建前で、実際は次期頭領への教育を親父がつきっきりでやってたんだけどな。親父も自分が後継者争いの一因であることに思うところがあったらしい。で、ほとぼりが冷めたころに親父の口から正式に叔父貴を後継ぎに指名した訳だ」
マクマードから相当しごかれたのか、それとも“テイワズの後継者”という自覚がそうさせたのか、再び幹部に返り咲いた際は以前とは見違える面構えだった。マクマードの口から指名された以上どれだけ担ごうが名瀬は対抗馬足り得ず、元々野心の薄い名瀬自身その決定に異を唱えなかったことから和解は時間の問題だった。寧ろ商業部門を取り仕切るジャスレイと輸送部門のアタマである名瀬の仲が悪いこと自体、組織として異常だったのだ。
現在では、相変わらず女しか船に乗せないことに小言を言われこそするが、以前と比べ遥かに良好な関係を築けている。もしあの冷戦状態が続いていれば、どこかで限界が訪れ取り返しのつかない事態に発展していたかもしれない。そういう意味ではナグルファルはタービンズの恩人といえよう。まあ名瀬からすれば得体が知れなさ過ぎて関わり合いになりたくないのだが。
「まあ昔話はこんな所で良いでしょう。現実逃避の時間はお終いです」
「……そうっすね。とはいえこんなもんどうしろって話ですがね」
三人のトップが揃って向けた視線の先には、“資材”と言う触れ込みで運んできた“武器庫”が変わらず鎮座していた。銃火器だけでも数十では聞かず、十分な整備と補給がされたMWも5台収納されている。これでどういう“労働”をしようとしているかなど、どれだけ学が無くとも分かりきっている。
「俺達はテロの片棒を担いだ極悪人って訳か。筋書きを書いたのは……十中八九ノブリスだろうな」
「ん?ノブリスってあのノブリス・ゴルドンか?武器商人の積荷としちゃおかしくないがなんでそいつの名前が出てくる」
「ああ、そういや兄貴にはまだ言ってなかったか。実はですね――――」
オルガは火星のコーラル元支部長が言っていた件を話し、それを補足する形でドレイクが今回予定されているアリアンロッドの作戦とその背景を語る。最初は半信半疑だった名瀬も二人の話を結び合わせると、合点が言ったように頷いた。
「……なるほどな。たかが金持ち風情が親父をアゴで使うなんざ不可能だが、あのセブンスターズ直々となれば
「け、けど今ならまだ間に合う。荷を偽られたとありゃ話を無かったことにしても筋は通るでしょう?後はこいつらをコロニーに降ろさなけりゃ……」
「そんなことで彼らは止まりませんよ、組合の方々はもちろんギャラルホルンは特にね。荷が着こうが着くまいが、アリアンロッドはあと一週間後に来るんです。それまでに仕事を終えていなければ駐留部隊全員の首が飛びます、比喩的にも
いざとなれば自前の輸送船をドルト5に不時着させ、そこに乗っている
「……それが法治組織のすることかよ」
オルガの言葉を『今更』などと笑う人間は居ない。何せ本当に洒落になっていないのだから。
経済圏はこれまで一度も独自の軍事力と言うものを
だが現代においてGHはその要求に応えているとは言い難い。そもそも厄祭戦時から規模がほぼ変わっていないことと、現在の外敵である海賊達でモビルアーマーに匹敵する脅威など存在しないことから、軍事力が過剰に過ぎるのだ。
バブルで膨らみすぎた会社は、弾けたなら業務整理や合理化等規模縮小を行うのが自然であるが、GHはその当然を不当だと拒否し続けた。それどころか少しでも釣り合いを取ろうと、強大な海賊やテロリストへの対処を消極化するという本末転倒なやり方に走るようになった。
その無茶苦茶のツケが今回のような弱者虐殺による見せしめだ。そしてGHはそんな非道を押し通してきた。どれほど不満を抱えようが、結局GHを止める“力”を持つ組織など存在しないのだから。
――――ただし、
「……ですが、今回は手が無いわけではありません。この数か月で裏を取りましたが、やはりこの騒動の発端はファリド家現当主の暴走です。アリアンロッドはそのとばっちりを受けた形なので、交渉の余地はあるかと」
「そりゃ難しいんじゃないか?さっきアンタ自身が言ったがこいつはギャラルホルン最高幹部会の決定なんだ、セブンスターズが唯一縛られる決定を覆すのは無理ってもんだろう?」
名瀬の疑問にドレイクは首を振る。確かにこれがエリオン公の本意であればどうにもならない。
「ええ、ですがこのまま行けばアリアンロッドだけが割りを食う事になります。経済圏からは虐殺の実行犯として忌避されますし、ファリドとアーヴラウの癒着が盤石となるのを指を咥えて見るしかなくなります。
しかもファリド家は後見役としてイシュー家の投票権を掌握しており、政略結婚でボードウィン家も時期手に入ります。あそこの次期当主は……少々脇が甘すぎるのでいつでも失脚させられますからね。そうなればセブンスターズ会議は実質ファリドの一強体制に移行してしまいます」
「……そうなりゃ真っ先に狙われるのはエリオン公一派か。目の上のタンコブといえる最大軍閥だ、今回の事件は恰好の材料って訳だ。自分で仕組んでんだから証拠は幾らでも揃えられる」
「後はアーヴラウに命じてギャラルホルンではなくアリアンロッドを非難する形に持っていけば手を汚さず内輪揉めを有利に進められます。さて、これだけ嫌な未来予想が立っているのに黙って見ているほどエリオン公が愚鈍だと思いますか?」
その問いに二人はそれぞれの反応で“No”を示す。基本的にアーブラウの首都エドモントンかGHの本拠ヴィーンゴールヴに居るイズナリオを誰にも怪しまれず暗殺するのは困難であり、同じセブンスターズでは強権を使うのも不可能。となれば、エリオン公は合法的な手段でこの局面を踏破しなければならず、こちら側の協力に乗ってくる可能性は高い。
「さらに言うと、この数日で向こうが食いつきそうなネタが
「……毒を以て毒を制す、か。少しは目が出てきたじゃねえか、俺達は何をすれば良い?」
「名瀬さんはテイワズの柵で矢面に立てませんから後方で全体を監督して下さい。出来れば緊急時の通信役を担って頂ければ言うこと無しです。オルガ団長、貴方達はしばらく連中の脚本に沿って行動してください。今私が連れてきた人達が“仕込み”をしていますので」
「それは構いませんが、あの人たちは一体?ドルトのつなぎに見えるが、作業員って感じじゃなさそうなんだが」
再び視線を“武器庫”の方へと向けるオルガ。そこには今この瞬間も休まずひたすら細工をしている連中が映っている。銃火器に対して淀みなく作業をする姿は、服装に反して堅気らしくない。オルガが視線を戻すと、そこには状況にそぐわない悪戯でもするかのような表情でドレイクは笑っていた。
「実はある程度向こうとは下話が済んでいましてね、急ぎで派遣してくれた工作員ってところです。
――――言ってしまえばアリアンロッド、ドルト、そして我々で『茶番』を演じるのですよ」
□□~~~□□
「―――それでは私はすぐに『ナグルファル』でアリアンロッド艦隊へ向かいます。現場の人間に話を通さないといけません。申し訳ありませんが、コロニー内のことは頼みます。とにかく気を付けるべきはクーデリアさんの保護です。ノブリスは必ずここで仕留めに掛かるでしょうから」
自分の船に乗り込む前に忠告を一つ残してドレイクは去って行った。心得ています、と返事をしたオルガは、となりの兄貴分が眉をしかめていることに気づき声を掛ける。
「……いや、海賊の旦那が何を目当てにしてるのかが分からなくてな。好き嫌いで引っ掻き回す手合いだから単純に気に入らないって線もあるが、それにしてもリスクがデカすぎる。正義の味方を気取ってるって訳でもねえし、そこがちと腑に落ちなくてな」
「そういえば確かに。俺達にもに損得がどうとしきりに言ってたあの人らしくないですね。とはいえ今は気にしている暇はないでしょう、俺達に損があるわけじゃなし」
「お前さんの言うとおりだ。そんじゃ―――『団長、大変ですッ!!』―――あ?」
突然血相を変えて飛び出してきたライドとタカキに、二人は嫌な予感を感じながら落ち着いて何があったか話す様に促す。すると―――。
「入港手続きに降りてたフミタンさんとビスケットさんの連絡が途絶えて……その後すぐにこんな電子メールがッ!」
そこには消えた二人が拘束されている写真が添付されており、メッセージには『こちらが指定する場所へ“革命の少女”を一人で行かせろ。さもなくばこいつらの命は無い』とだけ記されていた。