夜中、激しいビル風が吹き付ける中、少年は黒い服装を身にまとい、地味な色に塗られたクロスバイクに跨がっていた。
遠くでは、人々の歓声やヘリコプターのプロペラ音、警察のパトカーのサイレン音が混じり合い、騒音となっている。
「毎度のことながら、うるさいな……」
少年は人通りのない道路で一人、そう愚痴りながらフルフェイスのヘルメットをかぶる。これで少年の顔は見えなくなった。
なぜ、少年はこんなことをしているのだろうか。何が目的なのだろうか。
その問いに答えるのならば、まずこの数日の間に起こった出来事について話さなければならない。
数日前、米花町ではとある美術館が宝石展の開催を予定していた。そこへ、怪盗キッドの予告状が届いたのだ。
そこで開催を中止にすればよいものを、宝石展の開催者が無理やり決行することにしたのだ。なんでも、良い宣伝になると考えたらしい。盗られてしまっては意味はないのだが、防犯システムに自信があるらしく、警察が言っても聞かなかったらしい。
そして宝石展開催二日目、つまり予告状当日。警察も協力し、万全の防犯体制で怪盗キッドを捕まえようとしていた……という訳だったのだが。
「けっきょく今日も捕まえられなかったんじゃん。宝石も盗まれちゃって、警察も開催者も散々だね」
少年は耳から下げているイヤホンを通じてラジオを聞いていた。ラジオからは怪盗キッドが見事宝石を盗み出し、美術館から逃げ出したという中継が流れている。
警察も防犯システムも申し分ない。むしろ普通なら逃げることは不可能に近い。しかしそれでも捕まえられないのは、ひとえに、怪盗キッドの方が一枚も二枚も上手だからという他ない。
遠くに聞こえていたサイレン音がさらに遠くに行ってしまった。少年は苦々しく大きく舌打ちする。
「相変わらず無能だな、警察は!!」
少年は瞳を怒り狂った猛獣の如くぎらつかせ、クロスバイクで走り出した。
少年は予告状の内容も、今回狙われた宝石のことも何も知らないし、本人は知りたがってもいない。別に宝石に興味がある訳ではないのだ。
では何故こんなにも、飢えた猛獣のごとく怪盗キッドを追いかけるのか。
それはただ単に、恨み、憎しみ、嫉妬がそこにあるからだ。
「今日こそ捕まえるぞ、怪盗キッド!」
少年がクロスバイクで走る先に、ジェット噴射をするローラーシューズのような機械で逃走する怪盗キッドが現れた。怪盗キッドは驚いたのか、少年を見て少しバランスを崩したが、これまで幾度となく追いかけてきた少年に慣れていたのだろう。すぐに少年との追いかけっこを楽しむように、少年をチラリと振り返る余裕まで見せた。
何故キッドが現れるであろう場所に少年は待ち伏せすることができたのか。それはひとえに、少年の“勘”が良いから、としか言えない。
「待ちやがれ! 怪盗キッドォオッ!!」