何故こんなことをしてしまったのか。いつ自分は、自分たちは道を踏み外してしまったのか。
嶺井は1人、苦しんでいた。
昔から、嶺井と笠原はぶつかり合っていた。
些細なことで喧嘩もし、たまに斎藤も交えて討議も行った。お互い、考えることが違っていた。それでも、必ずどこかで馬が合い、仲が良かったはずだった。
しかし、年齢を重ねるにつれ、性格が変わったのか、生活で何か不満でもあったのか、もしくは、だんだん上手くやれなくなったのか。
嶺井と笠原は、ただ、喧嘩することが多くなっていた。発する言葉には優しさがなくなり、相手を傷つけるだけとなった。昔は探していた相手の良いところを、妬みの一因としていた。
しかし、こんなことをしていたのは自分だけだったことにも、嶺井は気づいていた。斎藤がいない時、笠原は喧嘩の合間に「もう止めないか」とこぼしていたのだ。
嶺井も分かっていたのだ。自分と笠原の喧嘩に意味がないことなど。しかし、それを笠原に言われるとどうしてか腹が立った。そうして無益な言い争いを続けたのだ。
馬が合わないのではない。単に嶺井が笠原に恨み、嫉妬、悪意を持っていたのだ。
嶺井は自身でもう既に答えを出していた。はっきりしよう。笠原を殺したのは嶺井だ。近くにあったゴルフクラブで笠原を殴り殺したのだ。そこに計画性もなかった。しかし普段から持っていた殺意が嶺井を動かした。証拠もできる限り隠滅したし、誰にも見られずに現場から逃げることができた。凶器もこの家のことを知らない人間には決して分からない場所に隠した。
長年敵対していた人間を殺せたことに嶺井はしばしの間幸福感に満たされていた。あくまで、しばしの間。
ふと我に返ると、嶺井は激しい後悔に襲われた。自分はなんてことをしたんだと。友人を、幼い頃から共にいた親友を、自分はこの手で殺してしまったのだ。
笠原と討議することも、自分が、二度と出来なくさせてしまったのだ。
嶺井が激しく後悔している間に警察が訪れ、数時間前まで居た笠原の家に連れてこられた。
そして今、警察に「犯人に心当たりはないか」などと答えが分かりきった質問をされた。
嶺井は覚悟を決めた。今、目の前にいる刑事に自白しようと。
一種のけじめで、これから償うために、これまでの生活との区切りを付けるために。
伏せていた頭を上げると嶺井はどきりとした。2人の小学生と自分をここに連れてきた警察官が、巨大な本棚の前に立っていたからだ。
違和感の原因を直也は納得していた。
最初の違和感は「窓」だった。
始めこの家を訪れたとき、一度家の周りを探索した。
その時、直也は家の側面に小さい窓があったのを目撃した。最初は気にも留めなかったが、家の中に入るとそこには天井スレスレまで高さがある本棚がなんと三つもあるではないか。
あの窓は一体何だったのかという話だ。
二つ目の違和感はその「本棚」だ。
わざわざ大きい本棚で窓を隠す意味はあるのか? そこで直也は考えた。
そもそも、隣も民家であるのに、しかも近くに更に大きい窓があるというのに、明かり取りの役割しかないような小さい窓など必要だったのだろうか。いや、隣の民家で光が入ってこない以上、明かり取りの役割も果たせない。
しかし、そんな意味もないような窓を隠すためだからといって、巨大な本棚を設置する理由にもならない。
これはほかに何か別の役割があるのだ。
そうでなければ、これは一体何なのだ。
直也は本棚の下にあるキャスターを見て1人笑う。
勘が確信に変わる。
直也はそのキャスターに手を伸ばし、かかっていたロックを外す。四隅と真ん中に取り付けられたモノのうち、前方だけを外す。後方のキャスターには手が届かないということもあるが、老人が、嶺井がそこまで気が回るとは考えられなかったからだ。
3つ全ての本棚のキャスターのロックを外したあと、直也は一息つきながら立ち上がった。
後はこれを動かすだけ。直也の心は舞い上がる。
「なんでキャスターが本棚に……」
千葉の発したその声でようやく背後の人間の存在に気づいた。直也はそちらを向き、また笑う。
「ねえコナン君……は、さすがに無理だから、隣の刑事さん。本棚動かすの手伝ってよ」
千葉はそう言った直也に底知れない恐怖を感じた。
「助けてあげるからね、ルールー」
直也と千葉はいよいよ本棚を動かし始めた。
そこに現れたのは、1つの引き戸だった。