〈泰輝視点〉
「用意は出来てるか、直也」
扉の奥が見えないように、体を横にして隙間を潜るように入室する。ベッドの上で蹲っていた筈の直也は、リラックスした様子で寝転んでいた。颯太がそうさせたんだろう。さっきまでの不安定さは無くなっていた。ただ、泣き止んではいるが、目は少し充血している。
「用意って、何すればいいの。パジャマから着替えたほうがいい?」
「うんにゃ、立ち上がれるならそれでいいぜ。あとは、そうだな。両手は空けててくれ」
「? 分かった」
了承した直也は、首を少し傾けて、「そっちこそ、もう準備はいいの?」と聞いてきた。そうだな、こっちは準備万全、あとは俺から、あちらに合図を送るだけ。大丈夫だろう。
「大丈夫だ。お前の覚悟が決まってるならな」
「じゃあ、早速行こうか!」
余裕の見せつけか。直也は飛び起きてみせた。
「じゃあ、俺がノックして、あっちに合図を送る。それから、3からカウントダウンして、『GO!』って言ったら、一気にドアを開けるんだ。分かったな」
「了解!」
「直也、なるべく無心でね!」
「それも了解!」
颯太に支えられながら、直也はドアの前に立つ。笑って余裕ぶってはいるが、さっきから足元は震えてる。まだ大丈夫そうだが、いつまで持つか。時間がないなら、速攻だ!!
「じゃあ、いくぞ」
合図のノックを三回。息を吸って、声をあげる。
「3!」
直也が震える手で、ドアノブを掴む。
「2!」
颯太が直也を力強く支えなおす。
「1!」
掴んだドアノブを、ひねる。
「GO!!」
立て付けのいい扉が、直也自身の手によって、勢いよく開け放たれた!
パンッパパンッ
クラッカーのはじける音が、三発。飛び出た紙吹雪が、驚いて固まっている直也の頭に、いくつか降りかかった。
そんな、呆けた直也の目の前にいるのは、少年探偵団の五人組。皆が皆、満面の笑みを浮かべて、歓迎の空気を作っている。
「直也お兄さん!」
「「「少年探偵団へ、ようこそ!!」」」
元太の手によって掲げられているのは、小学一年生らしい、まだたどたどしい文字とクレヨンで書かれた、カラフルな賞状だ。
「え、えぇ? どうして……」
「どうしてって、本気か直也」
「合格条件、忘れちゃったの?」
目の前の光景に理解が追い付いてない直也。颯太に言われて、ようやく思い出したらしい。
「そうだった……。僕、ルールー、見つけたんだった……」
それからバッと颯太に向き直って口をパクパクさせた直也。言いたいことが分かったんだろう、颯太は笑って言った。
「怪我はしてるけど、命に別状は無いって!助けてくれて、ありがとう、直也」
「……うん!」
「さ、これで心置きなく、目の前のそれを受け入れられるな!」
直也は鼻を大きくして、息を一杯吸うと、めっちゃ嬉しそうに「うん!」と言った。
「こんな僕を受け入れてくれて、本当にありがとう! これから、よろしくお願いします!」
元太から賞状を受け取った直也。その満面の笑みは、安堵の色が濃かった。
「直也さん、あの時は本当にすみませんでした……」
「え、どうしたの光彦くん?」
「あの時、推理と勘は別物だ、なんて……」
「ああ、そのこと」
リビングに降りてきた俺たちは、直也のお母さんが用意してくれていたお菓子とジュースで、軽くパーティーをしていた。歓迎パーティーは別日にやるらしいから、これはトラウマ克服祝いってとこか。
マフィンを食べていたら、目の前で湿っぽい話が始まった。
「事件のこと、コナン君から聞きました。直也さんは、勘と推理で、事件を解決して、猫ちゃんも助けたんですよね。すごいです。そんなすごい人を、勘だけに頼ってるわけじゃない直也さんのことを、僕は……」
「気にしないで。僕、光彦君に言われて、目が覚めたんだ。勘だけに頼ってちゃいけないって。だから、昨日のことも、解決したと思ってる。落としてくれてありがとう、光彦君」
「直也さん……!」
これから仲間になるんだ。確執は少しでも少ないほうがいいよな。ちゃんと謝れて、えらいじゃん。その子の隣の、元太と歩美ちゃんも、謝ってる。いい子たちだな。
なら、あのことも謝ってくれるよなぁ?
「それから、颯太さん……」
「え、ボク?」
「はい。あなたの依頼に対し、非常に失礼な態度をとったこと、本当に、申し訳ありませんでした!!」
「ごめんなさい!」
「本当にごめんなさい!」
「ちょ、三人とも……」
うわ~! 俺の中で探偵団の評価爆上がり~!! いい子たちー!
「……謝ってくれて、ありがとう。三人の反省、ちゃんと伝わったよ。ルールーのこと、一緒に探してくれて、ありがとう。そうだった! ボク、皆に報酬渡したかったんだよ!」
「あ、そうだったな」
探偵団の三人については、夕方になるまで必死に探してくれてたから、俺も颯太も許してた。たまにちらちら、こちらを申し訳なさそうに見てたから、あの時から反省してただろうし、あんな必死に、猫がいそうなところとかを考えながら探してる様を見せつけられたら、許さずにはいられない。渡さずにはいられない。
「ほい、仮面バイヤーの、ゴールデンレアカード」
「「「え、ええええええっ!!?」」」
「探してくれた報酬と、これからもよろしくっつー、あいさつ代わりにな」
俺の宝物、大切にしてくれよな。
次回、最終話。