よく晴れた昼下がり。直也は友人たちと駄弁っていた。給食を食べたあとのこの陽気は心地良く、眠気を誘う。
「なー直也、足もう大丈夫なのか?次、体育だぜ?」
「んー? ふーあっ、うん、もう大丈夫だよ。サッカー早くやりたいね!」
「そうだね!」
そう駄弁る間にも直也は小さくあくびを繰り返す。それに続くように友人2人も順番にあくびをする。伝染ったのだろうか。少し間を空け、3人で笑った。
「眠くなるよねー、今日あったかいから」
「うん、何か面白そうなことがあれば起きるのにね~」
「面白そうなこと、ねぇ」
相変わらず楽しいこと好きだねーと笑う友人の楓太に対し、もうひとりの友人、泰輝は思案顔をしていた。
「え! 何かあるの泰輝?」
「ん? ああ、そう! 最近、1年B組の何人かが、『少年探偵団』、なんてものを結成したって聞いてさ」
「えー!? なにそれおもしろそー!」
神崎 直也は楽しいこと、面白いことが好きだ。全力で楽しむ為なら、努力を惜しまない節がある。
「ま、大体が犬とか猫とかを探す手伝いをしてる感じらしいけどな」
「僕の天職じゃん、楽しそー!」
「えー? ただ探し物をするだけなんてつまんないよ」
「そんなことない! 絶対楽しーよ! よし!!」
「え、まさか直也?」
そしてその行動力は、とても速いのである。
「僕、少年探偵団に入る!」
楓太は溜め息をつき、泰輝はやっぱりな、と笑った。
「光彦、歩美、コナン、灰原、帰ろーぜ!」
「はい、今日は帰ったら何しましょう?」
「歩美、博士の家でゲームしたーい!」
「そういえば、新しいゲームができたって言ってたわね」
「本当、哀ちゃん! じゃあそれで決まりだね!」
放課後の帝丹小学校1年B組では、噂の少年探偵団の5人が帰ろうとしていた。
「じゃあいったん帰って、それから博士の家に集合な!」
少年探偵団の1人、小嶋 元太が言うと4人も賛同の声を上げる。
ランドセルを背負い、教室から出ようと大きな黒板の方の扉に近づいた時だった。
「たのもー!!」
コナンたちが出ようとした扉の反対側から、上級生らしき少年が大声をあげながら入ってきた。教室に残っていた生徒はその大声に驚き、固まっていたが、少年はそれに気づいていないのか、そのまま近くで固まっていた女子生徒に声をかけた。
「ねえねえ、このクラスに少年探偵団の人達がいるって聞いたんだけど、今いる? もう帰っちゃった?」
「え? あ、ううん、いるよ。あの子たち……」
女子生徒は困惑しながらも答え、今まさに帰ろうとしていた元太ら5人を指差した。
「なんだおめー、あ! もしかして事件か!?」
「え! 依頼なんですか!」
「わーい! 久しぶりの依頼だー!」
指さされた少年探偵団の内、元太、光彦、歩美は少年の元へ行き、キラキラとした目で見上げる。しかし、「え、え?」と今度は少年が困惑していた。
「違うの? お兄ちゃん」
その様子に気づいたコナンが助け舟を出す。そうでなければ少年はずっと3人に質問攻めにされていただろう。
「そ、そうなんだ。ごめんね、依頼じゃなくて」
「ちぇー、なんだよ、期待させんなよなー」
「ちょっと元太くん、ダメですよそんなこと言っちゃ」
「そうだよ元太くん。それに、事件なんてない方がいいんだから!」
そうですよね! と光彦が同意するのを見て、コナンは溜め息をつく。
(その事件を期待してたのは誰だよ……。だが、そうじゃないなら何の用なんだ?)
「じゃあ私たちに何の用?」
コナンが疑問に思っていたことを灰原も思っていたのか、代わりに言った。少年は安堵の表情へ変わり、さらに笑顔となってとんでもない事を言い放つ。
「あのね! 僕、君たち少年探偵団に入団したいんだ! よろしくお願いします!」
突然の入団希望発言に、元太、光彦、歩美は顔を見合わせた。
「えーーーーっ!?」
(おいおい、マジかよ……)
「あら、賑やかになるわね」
コナンは見るからに幼そうな少年を見て、子守が面倒そうだと、また溜め息をついた。
人の少なくなった校舎の1年B組の教室。そこでは奇妙な光景が広がっていた。
「それでは、あなたの名前と学年、特技なんかを教えてください」
「はい! 帝丹小学校4年A組、神崎 直也、年齢10歳。特技は特にありませんが、自転車に乗るのが得意で、勘が鋭いのが自慢です!」
机を向かい合わせにし、まるで刑事ドラマの取り調べのようなことを、1年生が4年生にしている光景だ。
取り調べをしているのは元太、光彦、歩美で、それぞれ向かいの席に座ったり、別の席に座ってメモをとったり、怪しい人物を見るように睨みつけながら周りをうろついたりしていた。
逆に取り調べされている側、直也は背筋をピンと伸ばし、向かい合う席の片方に座り、目をキラキラと輝かせながら質問に答えていた。因みにコナンと灰原は少し離れた場所から一人は面白そうに、もう一人は呆れたように眺めていた。
「勘、ですか?」
「はい! 小さな頃から勘だけは鋭くて、いろいろ人を助けたり、これに助けられたりしました。僕の勘はなっかなか外れません! 外れて欲しくても外れません!」
(なんだそりゃ……。てか、素直すぎんだろ)
直也は実にハキハキと向かいの光彦に素直に対応する。どちらが年上か分からないとコナンは苦笑を浮かべた。
「え~! 勘が絶対当たるなんて、すっごーい!」
「なんでぇ、そんなの信じられっか!」
直也の勘が鋭いという発言に歩美が食いつき、すぐに元太が噛み付いた。
自分の個性を否定された直也は少しムッと唇を尖らせたあと、今まで良くしていた姿勢をふんぞり返ったものにして、フフンと鼻を鳴らした。
「じゃあ、試してみます?」
「まさか、ここまでするとは思わなかったよ」
「じゃあ着いたら耳をふさぐね」
「あ、はい」
現在直也はタオルで目を覆われ、さらに背後から歩美に耳を手で塞がれる約束をしていた。ここからさらに教室の外へ出て行き、離れたところで数分待機することになる。
何故こんなことになったのだろうと、直也は歩美と灰原と一緒に廊下を歩きながら、せめて目的地についてから目隠しして欲しかったなと愚痴りながら考えていた。
その頃、元太たちは直也の筆箱をどこに隠すかを相談していた。
「なあなあ、これどこに隠すんだ?」
「あ! ここなんてどうでしょう?それに、当てるチャンスを1回きりにするとか!」
「それいいな! そうしよーぜ!」
決していじめではない。直也の勘の信頼性を試すものである。
「おいオメーら、遊んでんじゃねえだろーな。だとしたら失礼だぞ」
「違いますよコナン君、僕らは真剣なんです! ほら、コナン君も手伝ってくださいよ」
「ったく……しゃーねーな」
わざわざ勘の良さを試すなんておかしな話だろとコナンは言うが、実は直也の勘の良さが気になっていた。
何度も物を隠しても隠しても、その在処全てを当てたのだ。しかもあちらも真剣なのか、一度も外れない。奇妙な話だ。先程の話しは本当だということなんだろうか。だとしたら少し恐ろしい話だなとコナンは軽く天井を見上げ、その後2人にアドバイスする。
「なぁ元太、光彦。あそこなんてどうだ?」