トラウマ克服祝いのパーティーが幕引き、俺たちは帰路に着いた。泰輝さんと颯太さんと別れ、元太、光彦、歩美ちゃんとも別れる。探偵事務所までの道のりを、灰原と一緒に歩く。
「何か、気になることでもあるの?」
「え?」
「顔に書いてあるわよ」
顔に出てたか。そうだ。俺は、まだ不思議に思っているんだ。
「なんで、直也さんは少年探偵団に入る、なんてことをするんだ? 何か、目的があるとしか思えねぇんだ」
「確かに、そうね。学年も違うし、普通なら入ろうとは思わないわね。自分たちで名乗ったほうが早そうだし」
「自分たちでって……。泰輝さんは『楽しそうだから』って言ってたって言うけど、本当かどうか、怪しいところだ。俺たちを、利用しようとしてるんじゃないか?」
「利用? 何に」
それはまだ分からない。だが、「楽しそう」という理由だけで、事件に巻き込まれてまで探偵団に入るのは、余りにもリターンが少なすぎる。直也さんは知らなかったのか? 俺たちが、いくつも殺人を含む事件に巻き込まれてきたことを。
「利用って言うなら、もしかしたら、怪盗キッド絡みかもね」
「は? なんでだよ」
「あなたも見て、驚いたじゃない。神崎さんの部屋の壁に貼られた、等身大ポスター。あれは相当なファンね」
確かに、そんなのもあったな。そのポスターの横には使い込まれたトランプや、手作りらしいキッドのぬいぐるみ、他にもマジックグッズや、傷だらけのヘルメットも置いてあった。普通の子供部屋の中で、あそこだけ異様な雰囲気を漂わせていたことを覚えている。
「キッド絡みで? ファンだから、キッドに近づけるから、探偵団に?」
「探偵団というより、あなた狙いかもね」
「俺?」
「だってあなた、“キッドキラー”でしょう?」
新聞で取り上げられてしまい、俺にはその呼び名もついてしまった。そのことを知っていたとしたら……?
「相当、演技うまいぞ、直也さん。挨拶したとき、俺に対して一時も含みを持った目線を向けてきてない。気づいてないだけかもしれないが……」
「そうね……。フフッ」
「なんだよ」
「いいえぇ? もしかしたらってこと、思いついただけよ」
「もしかしたら、って、なんだよ」
灰原はクスクス笑うだけで、答えを教えてくれない。推理してみようと思ったが、やっぱりよくわからない。「降参だ」といって、俺は答えを再び求めた。
灰原は言った。
「彼の特殊能力を思い出してご覧なさい」
「特殊能力……? ま、まさか……」
「ありえない話じゃないわ」
「おいおい、嘘だろぉ……それが真実なら、あいつ、とんでもない行動派じゃないか……」
「何をわかりきったことを」
よく知りもしない組織に入ろうとしたのも、事件を解決したのも、全ては怪盗キッドに近づくため。突発的な行動は、絶対に考え練られたものじゃないだろう。あいつの行動は全て。
「勘、かよ……」
場所は変わって、直也の部屋。彼は破損した自転車用のヘルメットを小脇に抱え、等身大の怪盗キッドのポスターを見上げていた。
「少しでも、チャンスを多くするため」
直也はヘルメットを両手に持ち直す。
「いくら、勘に背こうとも、覚悟したことは、曲げない」
その目には、かつてのような濁りはない。
「キッド。お前に、会ってやる」
あるのは、純粋な覚悟だけだった。
勘。
ココカラアトガキ
ここまで作品をご覧いただき、誠にありがとうございました。これにて、『勘。』は完結とさせていただきます。
理由は、ここまでしか書いてないからです。あと、キリがいい。
この先は少年探偵団絡み、怪盗キッド絡みの事件に少し顔を出す程度で、直也くん自身はきっと、「僕より幼い子達の成長を見届けないとだよね」とか考えて、あまり手出ししないことでしょう。危険と勘がお告げすれば、相応の行動はします。あと、コナン君の行動はよく監視してます。(小五郎さんポジション)
残りのお話は、ぜひ、皆様の脳内で保管していただけましたら、幸いでございます。
それでは、また、次の機会にお会いしましょう。