「おい元太、光彦。そろそろ見つかりそうだから戻ってきてもいいぞ」
『な、なんだって!? そう簡単に見つかる訳ねえだろ!?』
「いいから。早く戻ってきて、机寄せるの手伝えよ」
(……何で会話してるんだろう)
コナンが探偵団バッチで元太らを収集している様子を見ながら、直也は今度は大きな教卓を運ぼうと動いていた。
現在教室には机を寄せたことで中央に大きく道ができており、そこを利用して教卓を運ぼうとしているのだ。運ぶ先は、教室の後ろの窓側。
「よっと……重っ」
「あ、ちょっと待って直也さん、今元太たちが来るから」
「そうなの? 元太君って、あの大柄な子だよね? 助かるな~」
「戻ったぜ~」
「ただいま戻りました」
「あ、いいところに! 早速だけど元太君、教卓運ぶの手伝ってくれる?」
「お、おう。任せろ!」
戻ってきた元太と共に直也は教卓を教室の後ろに運ぶ。時折引きずってしまい、嫌な音が鳴ったりもしたが、なんとか運ぶことに成功した。
「ふう、ありがとう元太君。助かったよ!」
「おう! ……それで、筆箱の在処、もう分かっちまったのか? チャンスは1回だぞ!?」
「うん、まだ自信はないけど、探さなきゃ探し物は見つからないわけだしね。勇気出してここ、探すよ!」
そう高らかに宣言しながら指差した先には、天井にある、小さな戸があった。
ある者は不思議そうに首を傾げ、ある者は秘密ごとがバレたように焦り出し、ある者はやっぱりなと脱力した。
「ちゃ、チャンスは1回だけなんだぜ!? そんなところより、もっと現実的なところを探したほうがいいんじゃないのか?」
「いいや! 僕の勘がここにあるって言ってるんだ! 僕の勘は外れて欲しくても外れないんだから!」
元太の言葉に逆に奮い立った直也は近くの席から椅子を持ち出し、それを教卓の上に乗せ、補強の為に光彦と元太に支えるように頼む。さらにその上に自身も上り、ようやく届いた天井裏に繋がる戸に手をかける。
「あー。筆箱、無事でありますように!」
それが掛け声だったのか、慎重に戸を開ける。天井裏は思ったとおり埃まみれで、直也は思わず咳き込んでしまった。
「直也お兄ちゃん、大丈夫?」
「あ、ゲホッ、ゴホッ! ……い、一応大丈夫だよ」
目の前に浮かぶ埃を手で払うと、直也は暗い天井裏を目を凝らして見る。するとすぐそばに、見慣れた形があるのが確認できた。その下にはご丁寧にも新聞紙が敷かれている。
「あ! あったよゲホッゴホッ!! おえっ、埃がうえっ! ゴホッ」
「あぁ~暴れんなよ!」
「落ちちゃいますよ!」
「ご、ごめん、すぐ降りるから……」
直也は咳き込みながら目の前の己の筆箱を手に取り、椅子と教卓の上から降りた。
「ふう、まあ、これでミッション完了!」
「文句が付けられませんね、こりゃ」
「ホントに一発で見っけたんだろうな?」
「もちろん!」
直也は服についた埃を叩き落としながら、元太らに向かって笑みを作る。
「なるほどね。“普段から掃除されない場所だから、すごく汚れている”、“普段、意識されない場所”。そこに当てはまるのは、天井裏って訳ね」
「え、どうして?」
「ほら、教室の天井裏なんて掃除なんてされないし、天井自体、私たちは普段意識しないで生活してる。私はてっきり掃除用具のロッカーに隠してあるものだと思ったけれど」
「な? 意外だったろ?」
「ええ。でも、よく思いついたわね、天井裏なんて」
「いや、偶然目に付いたんだ。しかし、どんなに勘が良くたって、そこは無理だろうと踏んだんだがな」
そこで机を元に戻していた直也がコナンたちに振り返った。
「だから言ったでしょ? 僕の勘は外れないって!」
それより、机元に戻すの手伝って、と直也は笑顔で頼んだ。
「あの、それで、試験の結果は……?」
緊張した面持ちで直也は光彦に詰め寄る。緊張しすぎなのか、胸を手で押さえている。
光彦も真剣な表情で、直也に結果を伝える為に口を開く。
「皆で話し合った結果、神崎 直也さん、あなたは……」
ゴクッと、直也の喉を鳴らす音がする。緊張感が静かな教室を満たしていく。
光彦の口が開く。
「あなたは、不合格です」
「ふごう、かく……」
光彦の発した言葉を反芻する直也。意味を理解したとき、彼はガクリと膝を折り、項垂れてしまった。なんでそんなに探偵団に入団したいんろうとコナンは不思議に思っていた。
「散々試験をした後に気づいたのですが、そもそも僕らは子供とはいえ探偵団。推理をしなければならないのです。考えなければならないのです!」
「……あぁあっ!!」
光彦の言いたいことが分かった直也は更に床に手をついて叫び声をあげる。光彦は続ける。
「あなたは確かに探し物をすべて当てました。しかし、そのときあなたは考えるのではなく、勘で当てました。そう、勘。そんな探偵なんていません!! いや、それは探偵でもありません!」
「……」
床についた手が握り拳を作る。
「ですから、申し訳ありませんが、入団は諦めてください」
「……仕方、ないです、ね……」
直也は力なく立ち上がる。その瞳は涙を浮かべ、自白する犯人のような、諦めた笑顔を浮かべている。
なんでこんなシリアスな空気になっているんだろうとコナンは1人冷めていた。
「……入団試験、お付き合いくださりありがとうございました。それじゃ……」
「ははは、直也お前、入団できてないじゃねえか!」
どんよりと沈んだ静かな教室に、場違いな笑い声が響いた。