静かな教室に泰輝の笑い声が響いた。その隣で楓太も同じように笑っていた。
「え、ふ、2人とも来てたの!? てか、見てたの!?」
「ああ。いくら待っても教室に帰ってこないから、迎えに来たんだよ。そしたらなんか机寄せてるし、天井裏探してるし、入団断られてショック受けてるし……ははは」
「なんだか表情がコロコロ変わってて面白かったよ!」
「う~……」
(今度は誰だ?)
泰輝と楓太は今、教室の出入り口近くで直也のことを笑っていた。しばらく直也もその2人と会話していたが、ぽかんとしている探偵団に気づいたのか、2人のことを紹介し始めた。
「もう、あんまり関わらないかもしれないけど、一応紹介するね。こっちの黒髪でつり目でいつもポケットに手を突っ込んでる方が泰輝」
「よろしくな」
「そして、こっちのふわふわ茶髪の、僕らの中では一番大きい身長の子が、楓太だよ」
「よろしくね!」
「う、うん……」
5人は、詳しく言うなら3人は、戸惑った様子で応えた。直也は批難するような視線を泰輝と楓太に向ける。
「いや、だから、もう関わらないかもって言ってるでしょー? 宜しくもなにもないよ」
「は? あ、あー。そういやまだ言ってなかったな、楓太」
「そうだったね、忘れてたよー」
「へ?」
直也は目を丸くする。2人はそんな直也を見て笑い、少年探偵団の3人を見やる。
「あのね、君たち少年探偵団に、依頼があるんだ!」
「依頼っ!!」
依頼という言葉を聞いた3人は目を輝かせた。そして次々とどんな依頼なのかと詰め寄り、やはり楓太を困らせていた。
「あ、ちゃ、ちゃんと話すから落ち着いて、ね!」
「す、すまねぇ……」
「気をつけます……」
「ゴメンなさい……」
「うん! 反省したなら大丈夫だね!」
楓太は感心したように頷き、ようやく依頼の内容を話しだした。
「あのね、僕の家の猫を探して欲しいの!
楓太がふわりと笑顔でそう言えば、なぜか空気が硬くなった。
「……なんでぇ、ただの猫探しかよ」
「え」
「僕たちはもっとこう、スリルのある事件とか、宝探しをしたいんですよ」
「え、探偵団ってそんな組織だったの」
「歩美、ただ猫ちゃん探すなんて、いい加減飽きたよー」
「なんだよこいつら、依頼人にケチつけてるぞ」
「おいこらお前ら、本気で失礼だろ」
楓太の依頼内容を聞いた元太たち三人は急に渋りだした。それをコナンが窘める。
「それに急に態度が変わりすぎだ。楓太さんなんて固まってるだろ」
「だってコナン君、僕らはもうすでに猫探しなんかよりもっとすごい事件を、いくつも解決してるんですよ? そんな僕らがまた猫探しをするなんて、とてもじゃないですけど、嫌ですよ」
「そうだそうだ! 俺たちにはもっとすごい事件がお似合いだぜ!」
「歩美も、もっと謎解きとかしたーい!」
つまり彼らは依頼内容に対して舐めた態度を取っているのだ。これには直也も参った。
「だからってお前らなー」
もっと言い方あんだろが、とコナンが窘める横で、楓太は泣きそうな顔で直也の肩に頭を乗せる。
「楓太……?」
「……ボクにとっては、大事件だよ」
鼻声でそう告げる楓太の様子に、コナンたちはもちろん、いままで愚痴をこぼしていた三人も口を閉じた。
楓太はそのままの格好で続ける。
「もう、ルールー、一週間は帰ってきてないんだ。ボク、帰ったあと、心当たりのある場所に探したりしてたけど、全然見つからなくて……。どこで何してるかも分かんないし、ちゃんと食べてるかどうかも分かんない。もし、もし何も食べてなくて、おなかを空かせてたら、どうしよう……、どうしよう……」
「楓太……」
鼻をすする音がした。楓太の手はズボンを握りすぎて白くなっている。
その様子を見た泰輝と直也は大袈裟にため息をつく。オデコを置いていた肩が急に動いたことに驚いた楓太は顔を上げるが、振り向いた直也に頭を撫でられた。
「え、直也……?」
「もう! なんで僕たちのことを頼らないのさ!」
「そうだぞ楓太。こっちには強いどころか最強の味方がいるんだぞ?」
「うわ、自分で最強とか言ってるよ泰輝。痛いな~」
「お前のことだよ直也」
「僕かよ」
他に誰がいるんだよ。いや、最強じゃないからと言い合う二人を見てしばらくポカーンとしていた楓太だったが、急に我に返り、二人に尋ねる。
「え、いいの!? いつも二人とも、忙しそうにしてるのに……」
「えー、そんなの気にしなくてもいいのに! 僕らは何なの? はい泰輝!」
「しんゆーでーす」
「正解!! だから楓太、悩み事はいつだって僕らに相談してよね!」
「直也、泰輝……ありがとう」
楓太は涙を拭って、またふんわりと笑った。
「じゃあこんな生意気な奴らは置いていって、俺たちだけで探しに行くか」、と泰輝が言い、教室から出ていこうとした、その時だった。
「あ、あの! 僕も一緒に行っていいですか?」
急にコナンが猫探しに名乗りをあげたのだ。
「え、コナン君? 急にどうして?」
「その、人手は多い方がいいかな……って」
楓太はどうしたらいいのかと迷いながら二人を見る。直也はニコッと笑い、泰輝は「勝手にすればいいんじゃね」と言いながらそっぽを向いた。
「……コナン君、だっけ? よろしくね!」
「うん!」
「じゃあ私も参加しようかしら」
「えっと、君は、灰原 哀ちゃんだったよね」
「ええ」
「そっか。よろしくね灰原ちゃん」
楓太とコナンと灰原が挨拶を済ませた後ろで、元太、光彦、歩美の三人は気まずい雰囲気になっていた。助け舟を出してやるかと、泰輝は三人の方に向き直る。
「で、お前らはどうすんだ?」