勘。   作:めもちょう

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5、最強の味方はパンダなのか、狸なのか。

 米花町のとある住宅街で、子供たちの声が響き渡っていた。

 

 

「おーい、ルールー!」

「お願いだから出てきてー!」

「ほら、煮干しもありますよー」

「鰹節もあるよー!」

 

 

 声の正体は、依頼人の猫を探す少年探偵団の元太、光彦、歩美の三人、そして依頼人本人の楓太だ。

 

 三人は懸命に声を張り、猫を探すが、なかなか見つからない。それもそうだ。声を掛けてすぐに見つかるものなら颯太だって依頼しない。

 楓太はそれでも探してくれる三人を見て微笑み、隣にいる泰輝の方を見遣る。

 

「ありがとね、泰輝。泰輝のおかげでこの子達もやる気出たみたいだし」

「たかがヤイバーカードのゴールデンなんかで釣れるなんてなー」

 

 泰輝はカラリと笑う。

 

 教室で三人が猫探しに協力すると言ったとき、それでもその時の彼らは渋々、といった様子だった。気まずい空気の中で無理やり言わされたようなものなのだから、当たり前の感情と言えるだろう。

 

 そんな三人の様子に気づいた泰輝が、もし猫を探し出したなら、追加で報酬を出すと言ったのだ。条件付きではあったが。その報酬の内容とは、泰輝が個人的に収集していた、ヤイバーカードのレアカードだ。

 

 報酬の中身を聞いた少年探偵団の三人は急に目を輝かせ、元気よく協力すると宣言したのだった。

 

 そして現在、彼ら三人はこうやって声を張り上げて猫を探している。

 

「みんなが仮面ヤイバーのこと好きでよかったね。でも、よくそれを報酬にしようと思ったね。泰輝結構好きだったでしょ?」

「……そろそろ卒業しようと思ってたんだよ。いつまでもガキっぽいもの見てるって思われたくねぇし」

「僕らの中では一番遅かったね」

「うるせぇ!」

 

 泰輝と楓太は三人の後ろについて歩きながらただ駄弁っていた。本気で探しているのかとも思われても仕方ない光景であったが、2人の心境は非常に穏やかで、落ち着いたものだった。

 

「でも、まぁ、見つかるだろうな。ルールー」

「うん。見つかるね、きっと」

「なんせ、最強の味方が、直也が探してんだ。見つからねぇわけがない」

 

 彼らとは別行動ではあったが、直也もまた、楓太の猫を探している。

 

「正直、あいつにだけ頼めば話は早かった気がするけどな」

「いいじゃん、ついででさ」

 

 今度は颯太がカラリと笑う。

 

「それにしてもさ、ホント泰輝って交渉上手だよね」

「ん? あー、そうか?」

「そうだよ」

「そうか」

 

 泰輝はとりたてて何ということもなく空を見上げる。薄い空だ。

 

「だってさ、こっちが協力してもらってるのに、条件なんて普通付けないよ」

「なんだよ。ゴールデンだぞ、ゴールデン。それなりに働いてもらわなくちゃならんだろ。ただのやる気の起爆剤じゃないんだからよ」

「あはは、やっぱ好きなんだ」

「悪いか!」

「ううん」

 

 楓太は笑うと、泰輝と同じように空を見上げる。なんか薄いね、と言葉を漏らした。

 

「ま、早いもん勝ちだと、またやる気が出てくるだろ。あいつらが先に見つけて、ゴールデンをゲットするか。直也が先に見つけて、少年探偵団に入団するか」

「ちょっと楽しみかもね」

 

 二人は声を潜めて笑った。

 

 

 

 

 

 コナンは疑問に思っていた。

 

 

「直也さん、どうしてあの二人と一緒に探さないの?」

 

 

 一つは、直也が個人で捜索していること。

 

 

「んー? 手分けしたほうがいいと思って」

「そっか。……んで」

「何かしら」

「なんでオメー、あいつらと一緒じゃなかったんだよ灰原」

 

 もう一つは自分と直也の他に、灰原が同行していることだ。

 

「別にいいでしょ。あっちには5人もいるんだし。それに、あなたにも興味があるから」

 

 灰原は直也を見上げ、薄く笑みを浮かべながら言う。

 

「え、そうなの? ちょっと嬉しいかも! ね、どこに興味持ってくれたの?」

「そうね、あなたの勘の良さにかしら」

「やった!」

 

 何がそんなに嬉しいのだろうか。

 コナンの疑問は尽きない。

 

「ねえ直也さん、直也さんって、どうしてあんなに勘がいいの?」

「え? ……それは、入団してからの秘密だ」

「勘がいいことに理由なんて必要なの?」

「まったく必要ありません」

 

 珍しくキメたと思えば灰原に糾弾されヘコむ直也。勘がいいことに特に理由は無いらしい。

 

「そうだ、そういうコナン君たちも、なんで僕についてきたの? 僕一人でも大丈夫だよ?」

「え、いや、……人手は多い方がいいし、ね?」

「そっか。でもなぁ、うーん……僕、いきなり皆からするとわけが分からない行動とかするし、付いてくるの大変だと思うよ?」

「大丈夫よ。江戸川君もかなりそういうことする人だから」

「おい、灰原……」

「尚更相性悪いよ……。ほんとに大丈夫? 僕、勘に頼って行動している時、人の言葉とかほとんど入ってこないし、大変だよ?」

「だから、大丈夫ってば! ほら、ルールーだっけ? 探そうよ!」

「そ、そうだね! 先に見つけて、少年探偵団に入団するんだー!」

 

 そのまま拳を天に突き上げて「おー!」と直也は声をあげた。

 

 

 

 直也のことを観察して、コナンは幾つかのことに気が付いた。

 まず、直也はよく喋る。入団試験の時は集中していたのかあまり喋らなかった為、おしゃべりという印象は薄かったが、普段はよく口が動くようだ。なかなか会話が途切れない。

 

 次に、彼は感情の起伏が激しい。これは入団試験の時に気づいた。表情も豊かだ。

 

 三つ目に、彼は楽しいことが好きらしい。コレは彼の友人の泰輝から何気なく聞いた。入団希望の理由も、それから来ているらしい。

 

 四つ目に、コレは顔の話だが、彼は言われてみれば可愛らしい顔の割に、意外とつり目だ。言動や行動、仕草を見ていると、その目をしているのは意外で、気づいたときは軽く驚いた。黒いまつげで縁取るそれは、意思の強さを感じさせた。

 

 

(パンダみてぇな奴だな)

 

 

 パンダのようにのんびりしているわけでもなければ大人しいわけでもないが、コナンはそう思った。

 可愛らしい、愛くるしい見た目、仕草からは想像できないが、パンダも実はつり目だ。

 そのくらいしか共通点は無いが、コナンは確かにそう思い、失笑してしまった。

 

「何? コナン君。え、もしかして僕を見て笑ったー?」

「あ、ゴメンなさい。なんか直也さんって、パンダみたいだなって思って」

「パンダ?」

「ああ、可愛らしい顔の割に、つり目な事?」

「え、つり目なのは分かるけど、僕可愛いの?」

 

 コナンが灰原の言葉に頷き同意する横で、直也は困惑の表情を浮かべる。それから小声で「カッコイイって言われたいのにな……」とつぶやいたのが聞こえ、またコナンと灰原が軽く失笑する。

 

「ていうか、僕パンダみたいって言われた事初めてだよ。僕あんな葉っぱばっかり食べないし……って待って。パンダってつり目なの!?」

「うん。目の周りの模様でたれ目っぽいけど、意外とつり目なんだよ」

「そ、そうなんだ……」

 

 パンダ苦手になりそうだなぁと直也は零した。

 軽くへこんでいる直也に灰原が問う。

 

「じゃあ、あなたって普段はどんな動物に例えられてるの?」

「へ? え~っと確か、狐とか、狸って言われるかな~」

「へぇ、意外ね」

 

 どんなところがそう見えるのだろうか。狸なら確かに、目も髪の色も焦げ茶色であるから頷けるのだがとコナンは内心考えていた。

 

「うん。僕もそう思って理由聞いてみたら、狐も狸も化けるからってさ」

「化ける?」

「うん」

 

 直也は前を向く。そのまま遠くに視線を送り、だらりと腕を垂らした。

 

「僕もよく、集中すると、化ける、から……って」

 

 ゆっくりと言葉を口にした後、直也は住宅街の道の真ん中で立ち止まる。

 

「どうしたの、直也さん。急に立ち止まって」

「もしかして、猫の居場所が分かったの?」

 

 直也は二人の問いには答えず、そのままの体制で首だけを右に回し、一軒の家を見る。

 コナンからは家を見る直也の顔が、感情が読み取れないほど真顔なのが見えた。それだけしか見えなかった。

 

 灰原は異常だと感じた。首だけを回した姿を。体はまったく動かない姿を、異常だと感じた。

 

 

 

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