Sky Blue   作:そらかどせきね

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5月21日は鷹原羽依里くんの誕生日です!


突き刺さる藍色の視線-羽依里の誕生日前日-

 すれ違う多くの人々、行きかう車の音。

 島にはない、ちょっとだけ騒がしい都会の風景がそこにはあった。

 

「なあ、蒼…」

「んー? どうしたの?」

 

 急に止まった俺に、反応し、隣を歩く蒼がこちらを向いて同じく止まる。

 いつになく真剣な声色のせいか、蒼の表情も引き締まる。

 華奢な腕を引いて、体をやや強引に引き寄せ、耳元に唇を持っていく。

 この間、僅か一秒。

 耳たぶに触れるか、触れないか、ギリギリの位置まで辿り着き、声を発しようとするが――

 

「えっ、ちょ、こ、ここで!? 家に帰るまで我慢しなさいよ!」

 

 きっと頬は真っ赤染まっているであろう蒼が、先に耳元で叫ぶ。

 

「…あー、そういうのじゃないから…」

「じゃ、じゃあ…なによ…」

 

 若干、気落ちしたような印象を受ける。

 いくら俺でも、こんな街のど真ん中で発情したりはしない。

 ………。

 発情したり…しない…!

 本題に戻る。

 

「後ろからすごーい、視線を感じるんですけど…」

 

 背後に視線を向けると、視界の端、電柱の影…あれで隠れているつもりなんだろうか。

 蒼の双子の姉である、空門藍の姿があった。

 見た目が美少女でなければ、確実に不審者である。

 いや、美少女であっても、あの行動は不審者に該当するが。

 

「藍は、お目付け役だから、気にしなくていいわよ~」

「なんで、本土に一緒に行くとき、いつもついて来るんだよ!」

「あたしと、羽依里に危険が及ばないように?」

「あー、一応俺も守られる側なのね…」

 

 向こうにいる藍も、別に存在を隠すつもりはないようで、むしろ、蒼と一緒に居る俺に対して「羨ましいです、羨ましいです、そこを代わってください!」とでも言いたそうな表情。

 あ、いま、下まぶたを引き下げて、舌を出してる。

 あれは「あっかんべー」って絶対言ってる。

 アイツ、小学生かよ!

 

「とにかく! 気にしなくていいから、いきましょ!」

 

 組んだままの右手を引かれて、再び歩き出す。

 後ろから突き刺さる、強烈な視線に耐えながらも、手の握りを恋人繋ぎに切り替える。

 

「あっ…」

 

 後ろにいる藍に、ラブラブっぷりを見せつけてやろう。

 蒼の柔らかく、しなやかな指に、俺の指を絡ませていく。

 拒まれることなく、そして逆に向こうからも絡み付いてくる。

 愛する人の確かな感触を感じつつ。

 雑踏の中を、二人でゆっくりと歩いていく。

 で、これから何処にいくの?

 

* * * * *

  

 数分歩き、辿り着いた場所はアクセサリー専門店。

 高級感溢れるお店の様相だが、目的地はここなんだろうか。

 

「ここね!」

「マジで…」

「マジよ」

 

 蒼が店の中へと入っていくので、一緒に入ろうとする。

 

「あんたはここで待っててね~」

「ええ…どうして」

 

 組んでいた手が離れ、『待て』のサインが出される。

 え、飼い犬扱い?

 

「そりゃ、あんたの誕生日プレゼントを受け取るからよ」

「プレゼント…それなら俺、ついて来ないほうが良かったんじゃ?」

「いいのいいの! 予想はついても、何がくるかは分からないでしょ?」

「何かしらのアクセサリー、だろうな」

「ふふ、それは明日のお楽しみ~、じゃあ、行ってくるわね」

「待ってるよ」

 

 手を振って、蒼が店の中へ消えていく。

 さて、その間、暇だ。

 周囲に目を向ける。

 俺達と似たように、手を握って歩くカップル。

 腕まで絡ませて歩くカップル。

 腕まで……か。

 帰り道の楽しみが一つ増えた。

 

「『俺も帰りは蒼と、あんな風に腕を絡ませて歩きたいな…』ってとこですか」

「!?」

 

 さっきまで、電柱から、俺達を監…見守っていた不審者――

 いや、藍お姉様が隣まで来ていた。

 

「は? 誰が不審者ですか?」

「心の中まで読むのやめて…」

「おっと、これは失礼」

 

 自然と、こちらの心の中まで覗き込んでくるスーパーお姉様は、ショーウィンドウ越しに店内を見ているようだ。

 

「蒼ちゃんはこの中で何を?」

「俺への誕生日プレゼントを受け取って来るんだとさ」

「ああ、そういえば、明日は羽依里さんの誕生日でしたね」

「そうなんです、明日は誕生日なんです、プレゼントください」

「フッ…」

 

 鼻で笑われた!?

 少しテンションを下げつつも、話を続ける。

 

「藍さ~ん?」

「私はもう準備済みですので。そういうことです」

「おお~!」

 

 意外としっかり用意してくれているみたいだった。

 

「蒼ちゃんが戻ってきたみたいなので、私はこれで」

「え、あ、はい」

 

 凄いスピードで、電柱の影に隠れに行く。

 藍の走ってる姿は、初めて目撃したかもしれない。

 別に、一緒に居れば良いのに。

 よく分からないプライドがあるんだろうか。

 彼女はまた不審者モードへと移行した。

 

「羽依里~お待たせ~!」

 

 ドアベルを鳴らし、蒼が店から出てきた。

 手には小さな箱。

 あの中に、プレゼントが入っているのだろうか。

 

「それプレゼント?」

「明日渡すからね~」

「気になるなあ…」

「明日まで我慢しなさい」

 

 プレゼントはショルダーバッグに収まっていく。

 目的は達したみたいなので、来た道を逆に進んでいく。

 自然と手を握ろうとするが、先ほどのカップルを思い出す。

 

「蒼、腕を…」

「あっ、うん…」

 

 互いの腕を交差し、さらに手は恋人握りで絡ませる。

 往来の中で出来る精一杯のイチャつき。

 別に競うつもりはないけれど。

 それでも、俺と蒼の仲は、どのカップルにも負けないぞ、と。

 背後から突き刺さる、意外と優しい視線の主にも見せ付ける。

 誕生日前日。

 ちょっぴり恥ずかしい思いをしつつも、また一歩進んだ俺と蒼。

 さて、箱の中身は何だろうな。

 小さな子供みたいに、やたらとワクワクする一日だった。

 

 

 

【突き刺さる藍色の視線-羽依里の誕生日前日- 終わり】

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