すれ違う多くの人々、行きかう車の音。
島にはない、ちょっとだけ騒がしい都会の風景がそこにはあった。
「なあ、蒼…」
「んー? どうしたの?」
急に止まった俺に、反応し、隣を歩く蒼がこちらを向いて同じく止まる。
いつになく真剣な声色のせいか、蒼の表情も引き締まる。
華奢な腕を引いて、体をやや強引に引き寄せ、耳元に唇を持っていく。
この間、僅か一秒。
耳たぶに触れるか、触れないか、ギリギリの位置まで辿り着き、声を発しようとするが――
「えっ、ちょ、こ、ここで!? 家に帰るまで我慢しなさいよ!」
きっと頬は真っ赤染まっているであろう蒼が、先に耳元で叫ぶ。
「…あー、そういうのじゃないから…」
「じゃ、じゃあ…なによ…」
若干、気落ちしたような印象を受ける。
いくら俺でも、こんな街のど真ん中で発情したりはしない。
………。
発情したり…しない…!
本題に戻る。
「後ろからすごーい、視線を感じるんですけど…」
背後に視線を向けると、視界の端、電柱の影…あれで隠れているつもりなんだろうか。
蒼の双子の姉である、空門藍の姿があった。
見た目が美少女でなければ、確実に不審者である。
いや、美少女であっても、あの行動は不審者に該当するが。
「藍は、お目付け役だから、気にしなくていいわよ~」
「なんで、本土に一緒に行くとき、いつもついて来るんだよ!」
「あたしと、羽依里に危険が及ばないように?」
「あー、一応俺も守られる側なのね…」
向こうにいる藍も、別に存在を隠すつもりはないようで、むしろ、蒼と一緒に居る俺に対して「羨ましいです、羨ましいです、そこを代わってください!」とでも言いたそうな表情。
あ、いま、下まぶたを引き下げて、舌を出してる。
あれは「あっかんべー」って絶対言ってる。
アイツ、小学生かよ!
「とにかく! 気にしなくていいから、いきましょ!」
組んだままの右手を引かれて、再び歩き出す。
後ろから突き刺さる、強烈な視線に耐えながらも、手の握りを恋人繋ぎに切り替える。
「あっ…」
後ろにいる藍に、ラブラブっぷりを見せつけてやろう。
蒼の柔らかく、しなやかな指に、俺の指を絡ませていく。
拒まれることなく、そして逆に向こうからも絡み付いてくる。
愛する人の確かな感触を感じつつ。
雑踏の中を、二人でゆっくりと歩いていく。
で、これから何処にいくの?
* * * * *
数分歩き、辿り着いた場所はアクセサリー専門店。
高級感溢れるお店の様相だが、目的地はここなんだろうか。
「ここね!」
「マジで…」
「マジよ」
蒼が店の中へと入っていくので、一緒に入ろうとする。
「あんたはここで待っててね~」
「ええ…どうして」
組んでいた手が離れ、『待て』のサインが出される。
え、飼い犬扱い?
「そりゃ、あんたの誕生日プレゼントを受け取るからよ」
「プレゼント…それなら俺、ついて来ないほうが良かったんじゃ?」
「いいのいいの! 予想はついても、何がくるかは分からないでしょ?」
「何かしらのアクセサリー、だろうな」
「ふふ、それは明日のお楽しみ~、じゃあ、行ってくるわね」
「待ってるよ」
手を振って、蒼が店の中へ消えていく。
さて、その間、暇だ。
周囲に目を向ける。
俺達と似たように、手を握って歩くカップル。
腕まで絡ませて歩くカップル。
腕まで……か。
帰り道の楽しみが一つ増えた。
「『俺も帰りは蒼と、あんな風に腕を絡ませて歩きたいな…』ってとこですか」
「!?」
さっきまで、電柱から、俺達を監…見守っていた不審者――
いや、藍お姉様が隣まで来ていた。
「は? 誰が不審者ですか?」
「心の中まで読むのやめて…」
「おっと、これは失礼」
自然と、こちらの心の中まで覗き込んでくるスーパーお姉様は、ショーウィンドウ越しに店内を見ているようだ。
「蒼ちゃんはこの中で何を?」
「俺への誕生日プレゼントを受け取って来るんだとさ」
「ああ、そういえば、明日は羽依里さんの誕生日でしたね」
「そうなんです、明日は誕生日なんです、プレゼントください」
「フッ…」
鼻で笑われた!?
少しテンションを下げつつも、話を続ける。
「藍さ~ん?」
「私はもう準備済みですので。そういうことです」
「おお~!」
意外としっかり用意してくれているみたいだった。
「蒼ちゃんが戻ってきたみたいなので、私はこれで」
「え、あ、はい」
凄いスピードで、電柱の影に隠れに行く。
藍の走ってる姿は、初めて目撃したかもしれない。
別に、一緒に居れば良いのに。
よく分からないプライドがあるんだろうか。
彼女はまた不審者モードへと移行した。
「羽依里~お待たせ~!」
ドアベルを鳴らし、蒼が店から出てきた。
手には小さな箱。
あの中に、プレゼントが入っているのだろうか。
「それプレゼント?」
「明日渡すからね~」
「気になるなあ…」
「明日まで我慢しなさい」
プレゼントはショルダーバッグに収まっていく。
目的は達したみたいなので、来た道を逆に進んでいく。
自然と手を握ろうとするが、先ほどのカップルを思い出す。
「蒼、腕を…」
「あっ、うん…」
互いの腕を交差し、さらに手は恋人握りで絡ませる。
往来の中で出来る精一杯のイチャつき。
別に競うつもりはないけれど。
それでも、俺と蒼の仲は、どのカップルにも負けないぞ、と。
背後から突き刺さる、意外と優しい視線の主にも見せ付ける。
誕生日前日。
ちょっぴり恥ずかしい思いをしつつも、また一歩進んだ俺と蒼。
さて、箱の中身は何だろうな。
小さな子供みたいに、やたらとワクワクする一日だった。
【突き刺さる藍色の視線-羽依里の誕生日前日- 終わり】