こうして、お誕生日のお祝いが出来ること、とても嬉しく思います!
ケーキに立てられたロウソクの灯りだけが照らす空間。
その火を、息を吹きかけ、消していく。
最後の一本が消えた瞬間、静寂になり――
「「「「「「お誕生日おめでとうーーーー!」」」」」」
店の照明が戻り、何発ものクラッカーの音が食堂に鳴り響いた。
「あ、ありがとう…!」
人差し指で右頬を掻きながら、声を出す。
皆に見られる中で、感謝の気持ちを伝えるのは、少し気恥ずかしい。
島に最初に来たときの歓迎会を思い出す。
もうあれから約二年。
『渡りの人』と歓迎されたあの時とは、随分と状況が変わったよなー、と周囲を見渡す。
蒼、のみき、良一、天善、が居るのは変わらず。
それに加えて藍、カウンターの反対側には、しろはも居る。
特に変わったのは、しろはだろうか。
誕生日のパーティーをここで行うのが決まったとき、真っ先に、料理担当として名乗り出てくれた。
その能力を十二分に発揮し、テーブルには、美味しそうな品々が、所狭しと並べられている。
「もー! そんなに照れることないでしょうに!」
当然のように隣の席に座ってきた、蒼が肩をぶつけてくる。
「いってえ! 仕返しだ!」
無防備な腰を両手でくすぐる。
「あ、ちょっと! く、くすぐったいわよ! こ、こらー!」
唐突の刺激にあっさりと敗れ、体をくねらせる蒼。
ついつい、二人っきりのときのノリで、熱くなってしまう。
「ほらほら、ここがいいのかな~?」
慣れた手つきで、無防備な腰を擦っていく。
「あー、鷹原…それぐらいにしておいたほうが…」
「おーい、羽依里、後ろ後ろ…」
のみきと良一のこちらを心配する声。
「…へ?」
振り向けばそこに"ヤツ"がいた。
「『私の』蒼ちゃんに何をしているんですか?」
「………あ、あははー!」
笑ってごまかしてみる。ダメかな。
「藍~! 助けて~!」
蒼は、さも当然のように、藍の広げた腕の中へ、逃げ込んでいく。
「蒼ちゃん、もう大丈夫だからね。…羽依里さんには、あとでお話がありますから」
「ええ~…」
赤子をあやす様に、蒼の背中を撫でつつも鬼の形相。
いや、その子、俺の彼女なんですけど…。
* * * * *
藍のお話をたっぷりと聴き、蒼を無事、俺の隣に返してもらったあとは、みんなそれぞれ、料理を食べつつ談笑。
「あ~、確かに…歓迎会以来よね、こうやって集まったのって」
「だろ? 妙に懐かしくてさ。あの時は、まだ名前も知らなかったっけ」
「六波羅探題と平将門とか言い合ったわね…!」
過去の出来事を、しっかりと覚えていた蒼が、人差し指をピン、と立てて答える。
「そうそう! 思えば、ほぼ初対面の女の子相手に、よくあれだけ喋れたなーって思う」
「女子に免疫がないって言っておきながら、今じゃアレだから信じられないわね~」
「アレ…?」
向かいに立つ、怪訝そうにしろはが訊いて来る。
「あ、あー! えっと…その…あ、アレよ…」
この場で言うのはまずい、ということに気付いたのか、言葉を詰まらせる。
「…蒼は羽依里と付き合って、余計にエロくなったね…」
「エ、エロちゃうわ! って否定できないあたしがいるーーー!」
しろはにまで言われる始末。
もはや俺と蒼の関係は島全体の周知事項だった。
話を変える為に、目の前の料理に手を伸ばす。
「しろはの料理は、お店の味だな…うめぇ」
「ん~~おいしっ! これには勝てないわね」
「蒼だって料理、してるんでしょ?」
「まぁ、こいつのために、頑張ってるけどね~」
今度は肘で小突かれる。
腰を的確に狙ってる気がするのは、先ほどの仕返しか…?
ここで、また反撃すると、『お姉様』の厄介になるため我慢。
「蒼の料理は、毎日食べたくなる家庭の味だから!」
「フォローありがと、しろはの料理は別格だから気にしてないわよ~」
「ふふ。やっぱり二人、仲睦まじいね、ちょっと羨ましい」
俺達を見る、しろはの優しい笑顔。
相変わらずぼっちを貫いているようだが、やっぱり少し変わったな、と時の経過を感じる。
* * * * *
「いや~羽依里もすっかり、島民だよな! な!」
いつの間に脱いだのか、普段通りの格好になっていた良一に背中を叩かれる。
「うむ。今では鳥白島の卓球神として尊敬している」
反対側から肩に手を置かれる。
天善からは、よく分からない尊敬のされ方をしている。
「自分でも、まさかここに居着くことになるとは思わなかったよ」
「そして~! あの蒼と、めでたく付き合い始めるとは、やるなっ! この、このっー!」
「あたしも、こいつと、ここまで仲良くなるとは、ちょっと思ってなかったわね」
「だが、歓迎会のときの二人は、既にかなり仲が良さそうに見えたぞ」
過去の話で盛り上がっていく。
「だな! 確か、最初はー…」
良一が思い出せそうで、思い出せない! という表情をする。
「行きずりの関係」
「そう! それ! 行きずりの関係だっ!」
後ろで、聴いてた藍から助け舟。
え、なんでそこまで知ってるの!?
「私が寝てるのを良いことに、蒼ちゃんを好き放題にしてくれましたね」
「あ、その節はどうも…」
「いえいえ、こちらこそ蒼ちゃんが御迷惑を…」
「「って、ちっがーーーう!」」
あの時、蒼と息ピッタリだったやりとりを、何故か藍と行う。
「それ、あたしのネタなんだけど…藍のキャラが最近、おかしいわ…」
「蒼ちゃん、これ、結構楽しいね」
「藍が楽しいなら、まぁ、良いんじゃないかしら!」
そんな、島の仲間達と会話をしていると、自然と、笑みが零れてくる。
『偶然』行き着いた、小さな離島。
でも、そこで不思議な蝶を探す少女に出会ったのは、必然だったのかもしれない。
運命の歯車は、からから、と廻り。
歯車同士が組み合わさって、連動していく。
さしづめ俺は……
『翼を取り戻した渡り鳥』といったところか。
決まった………。
しばらく感傷に浸る。
「お~い! 羽依里~?」
頬っぺたを指でつんつんと突かれて我に返る。
可愛い指で突いていたのは蒼だった。
「蒼…ありがとう…」
目の前に居た最愛の彼女を、抱きしめる。
「ど、どうしたのよ、急に」
「誕生日、祝ってくれるの嬉しくて」
「うん」
「あの夏のこと思い出してた」
「うん…」
「今こうして、蒼を腕に抱けるのが幸せで」
「うん………」
「まだまだ、頼りないだろうけれど、これからも、よろしくな」
「羽依里っ!」
感極まったのか、蒼から唇を重ねてくる。
皆に見られてるぞ、と返すこともなく。
こちらからも、押し付ける。
想いと想いが優しくぶつかり合う。
触れた唇の味は、ちょっぴり涙の味がした。
* * * * *
誕生日のパーティーがお開きになったあと。
家までの帰り道を蒼と二人で、ゆっくりと歩いていく。
皆、気を利かせて二人っきりにしてくれる辺りが、島の優しさだ。
「ね、羽依里。今日は楽しかった?」
「最高に楽しかったよ、ありがとう」
「ふふ。やっぱり笑ってるあんたが一番格好良いわね」
「そ、そう?」
「今日一日で、また一段と好きになっちゃったかも」
少し駆け足で前を行き、こちらに振り返る蒼。
「ここらでプレゼントを渡してくれると、最高にロマンチックなんですけど?」
「今、そうしようと思ってたのに、何で先に言っちゃうのよ、もー!」
「蒼の考えること、分かり易すぎるんだよ。パーティー中に渡してくれないから、どうするのかと思ってた」
「こっちきて~」
月明かりが照らす、田舎道。
気付けば、蒼のお昼寝スポットに辿り着いていた。
そこは、俺達の始まりの場所だった。
俺はここで――
眠っている彼女に出会った。
でも、今、その彼女は俺の目の前で、しっかりと瞳を開けていて。
小さなプレゼント箱を掌に持っていた。
「羽依里、お誕生日おめでとう! 愛してるわよ!」
その言葉に乗せて、箱が手渡される。
「ありがとう! ここで、開けても良い?」
「もちろん! ささ、開けちゃって!」
高級な包み紙を解き、箱の蓋を開ける。
緩衝材が詰め込まれた中。
月光を受けて煌く、銀のネックレスが入っていた。
「あんたは素材は良いんだから、もうちょっとお洒落しなさい! 自分の彼氏には格好良くなってもらいたいもの!」
箱から取り出すと、ネックレスのトップには槌目模様が刻まれていた。
シンプルで中々、飽きがこなさそうな良いデザインだ。
「おお~! 男用?」
「うん。メンズネックレスね! つけてあげる!」
蒼に手渡し、首につけてもらう。
至近距離で感じる息遣いに、少し興奮を覚える。
「できた~! 似合ってるじゃない! 素敵よ」
「もしかして、俺に惚れちゃった?」
「惚れてるわよ。知ってるでしょ?」
「ああ」
「ふふ…」
疑問には疑問で返す。
何度も行ったやりとりだ。
「じゃ、帰りましょうか」
「そうだな」
『あの夏』からもうすぐ二年。
これが俺と蒼の辿り着いた未来だ。
そして、それは、これからも永遠と続いていく。
羽は依り添い、里へと帰る。
【渡り鳥の辿り着いた未来-羽依里の誕生日- 終わり】