だったらいいなーという妄想でした。(ただ、それだと蒼の「光る蝶をみた」に対して肯定してないとおかしいのであまり深く突っ込まないでください!)
お二人は公式設定で名前がないですね。お名前募集したいです。
「お父さん、はい! あたし達からのプレゼントよ」
「父の日のプレゼントだからね。いつもありがとう、お父さん」
「二人揃って、プレゼントを渡してくれる日がくるとは・・・ありがとう・・・」
「ちょっと! 貴方、泣かないでくださいよ、もう」
六月十六日。
父の日をこうして、家族四人で過ごせることに感動を覚える。
子供の頃から何年もの間、ベッドの上で眠っていた娘の藍。
そして、藍の目覚めと入れ替わるかのように、眠りについた娘の蒼。
二人の娘が同時に瞳を見開き、再び祝ってくれる。
この平和を齎してくれたのは、島外からやってきた『彼』のおかげだと訊いている。
「だって……二人揃ってなんだぞ…これが嬉しくないわけあるか」
「お父さんって、羽依里みたい」
「確かに、羽依里くんと、この人って似ているわね」
「お父さんも夏に島にやってきて、お母さんと会ったんだよね?」
「そうよ。この人も『渡りの人』でしたからね」
「…まぁな」
昔のことを思い出す。鳥白島にやってきた時のことを。
「ねぇねぇ! 二人の馴れ初め聞かせて!」
「私も気になる」
二人の娘に挟まれ、せがまれる。
向かいに座る妻にアイコンタクト。
話してあげてもいいんじゃない? と瞳で返事が返ってくる。
「では、話そうか――あれはもう二十年以上前のことだ」
* * * * *
その年は特別に暑い夏だった。
八月の上旬。私は大学の夏休みを利用して『珍しい蝶がいる』という情報を追いかけ、とある離島を訪れていた。
その島は、外からやってきた私のことを『渡りの人』と歓迎してくれ、暖かく迎え入れてくれた。
泊まる場所は、役場に連なった宿舎。狭い寝床だったが、自らの研究で来た身。屋根のある場所で眠れるだけでありがたい。
食堂は島に一軒しかなかったが、営んでいる若い夫妻はとても仲睦まじく。また、振舞われたチャーハンの味は、一度食べたら忘れようのない、衝撃的な感動を齎す、素晴らしく美味しい味だった。
島は一日あれば、ぐるりと周れてしまえるぐらいの広さ。
とはいえ、自然の一つ一つに目を向けていれば、あっという間に時間は過ぎる。
旅の目的は蝶の観察だったが、島に伝わる風習や、それこそ景色なども興味深く、飽きが来ることは一切ない。
本土へは島で行われるという、八月下旬の『海の祭事』を見た後に帰ろうと思っていた。
島の駄菓子屋に立ち寄る。
「かき氷、お一ついただけますか」
「100万円だよ」
100円のところを、100万円と言い、相手を驚かせるノリか。
都会では中々味わえない、田舎の雰囲気にほんわか。
財布から100円玉を取り出し、店を受け持つ女性に手渡す。
「あと99万9900円足りないよ」
「え、えっ…?」
「これはこの店の鉄板ネタだよ。100円でいいさ。味はどれにするんだい?」
様々な色のシロップ達が入った容器を指差し、訊ねられる。
見上げた島の綺麗な『蒼穹』を連想させるブルーハワイ味を指定する。
「味はどれも一緒だけどね」
「おおー! それも鉄板ネタってやつですね?」
「色とかで違って思えるだけで、味が一緒なのは本当だよ」
「なんと…初めて知りました…」
「はいよ、ブルーハワイ味」
てんこ盛りのさらさらした氷の上から、流水の如く螺旋を描いて味付けられた、かき氷を渡された。
土地の雰囲気も合わさり、美味しさが特別なものとなる。
口の中のシャリシャリとした心地良い食感。冷たさにより引き起こされるアイスクリーム頭痛。
「っくー…冷たい」
かき氷をたっぷりと味わった後はまた散策。
島の反対側の港まで向かう田舎道の途中。
少し逸れたところに、ぽつんと一本、ちょうどよく寄りかかれそうな大きな木が立っていた。
散策をと思っていたが、デザートを食べた後の休憩、ということで早速、私は木の元に座り込む。
たくさんの緑の葉が日陰を作り出している。
暑い夏でも自然に囲まれ、風に吹かれ、日陰にいれば心地良い。
こうして木に背を預け、目を閉じ視覚情報を遮断していると、多くの音が聴こえてくる。
蝶を追い、やってきただけだったが、何だかとても居心地が良い。
眠気がやってくる。歩き続けた疲れか。
このまま眠ってしまうのもいいだろう。都会では絶対に出来ない事も、この島でなら問題ない。
大きな木と共に、昼寝と洒落込んだ。
* * * * *
浅い意識の中。急に甘い香りが辺りに、というか私に迫ってきた。
今までに嗅いだことのない香り。
いつまでも嗅いでいたい香り。
心の底から癒されるのを感じる。
だからか、なんだか安心して、より深い眠りにつけそうだった。
首が傾く。
重力を受けて、続けて体が傾く。
私の体はそのまま地面へと倒れこもうとした――
――が、そうはならなかった。
意識が覚醒。すぐさま瞳を開く。
柔らかな人の腕の感触。私の倒れ掛かった体は、華奢な腕に抱きとめられ、バランスを保っていた。
その『女性』と目線が合う。
大学生にもなって恥ずかしい話だが、女性経験が皆無だった私の、最初の経験。
普通、男女の立場が逆なのでは・・・?
「あのー…倒れそうだったので、思わず……ご迷惑でした?」
「い、いえ! ど、どうも…ありがとうございます」
澄んだ瞳をしたその女性は、島の住民だろう。
凛とした佇まい、丁寧な物腰。そして、柔らかな雰囲気と甘い香り。
香りの持ち主はこの女性か。
「ふふ…道端でお昼寝してる人なんて、初めて見ましたよ?」
「絶好のお昼寝スポットだったもので…」
「変な人」
「あ、いえ! 決して怪しい者では! 私は島の――」
「蝶を見に来た大学生さん?」
途中で言葉を続けられる。
狭い島だから、外から一人学生がやってきている、ということは知れ渡っているのだろう。
「夏休みを利用して、研究のために来ました」
「ふふ…そうでしたか。何もない島ですが、楽しんでいってくださいね」
「都会では味わえない経験に溢れていますよ! 素敵な場所だと思います!」
「お気に入りましたか。永住されてもいいんですよ?」
「えっ、え?」
「ふふっ…それでは、また」
その言葉と笑顔と、甘い残り香を置き、女性は背を向けて去っていった。
トンボ玉が付いた髪留めで、一纏めにされていた長い髪がそよ風に揺れる。
「また……か」
寝ぼけた私の脳が見せた、甘い夢だったのでは?
そんな不思議な一瞬だった。
* * * * *
夢のような一時を過ごした日の夜。
暑さに寝付けず、軽く夜の散歩に出掛ける。
外灯もない島の道は、少し民家から外れると、あっという間に月明かりだけが支配する銀の世界へと変わる。
念のため、と懐中電灯は持ってきてみたが、今夜は月が綺麗だ。必要もないだろう。
島の中央を突き抜ける田舎道を再び歩く。
気付けばまた、あの木の傍まで来ていた。
木に背を預け、座り込む。
…ここに来れば、またあの女性に会えるような気がした。
私の中で、よく分からない感情が渦巻いている。
研究一辺倒で生きてきた、これまでの人生に差した、暖かい光。
この感情の正体を確かめたい。
もっと知りたい。
知識欲がどんどん膨れ上がる。
そういえば、名前すら聞けていない。
明日、島の人に聞いてみるか。
少し涼み、目的も達成したため、帰路へ。
立ち上がり、ふと、山のほうへ目を向けると、暗闇の中にぽつんと輝く存在を見た。
それは――『蝶』だった。
ゆらゆらと虚空を舞う、その姿はまさしく蝶だ。
だが、今までに見た如何なる存在とも違う、不思議な雰囲気を纏っている。
虹色に煌くそれは、通常の種が舞う速度よりもさらに遅く。
スローモーションでも見ているかのように、一方向へと意思を持って飛んでいく。
山の中か。
そのまま眺めていると、見失いそうだったことに気付き、私も山の中へと入っていく。
山の中は既に何度か足を踏み入れている。
そこまでの標高があるわけではなく、それこそ遠足気分で登っていけるぐらいだった。
目の前を先ほどの蝶が飛んでいる。
この蝶はなんという種だろう。
羽が輝く種がいるとは聞いたことがある。だが、これはそんな輝きとはおそらく別次元。
そう。別次元なのだ。
見ているだけで何故か涙腺が緩み、悲しい気分になる。
触れてみたい、という欲求と、触れてはいけない、という生物としての本能が相反する。
そしてこの蝶が向かう先には一体何が…。
私はただひたすら、暗い山道を歩き続ける。
何十分か、一時間は歩いていないとは思う。
蝶を追い、歩き続けていると、視界が急に開けた。
そこは辺り一面に濃い緑色の葉と、それに白い花が咲き誇る空間だった。
銀の光を上空から浴びる場所には、これまた一本の大樹。
そして、その根元に――
眩い光を反射する、白を基調とした巫女服を着た女性。
そして片手に持った灯籠の光には、先ほどの蝶と、さらに数頭の同じ蝶が集っていた。
それは傍目に見て、神聖な儀式であると、一目で分かった。
女性が灯篭を根元にある祠に治める。
一礼をし、儀式が終わったのか、こちらへ振り向いた。
「え……」
「あら……」
昼間のあの女性だった。
思いがけない再会に心が焦る。
「ここは空門の神域です。夜、夏の間は島民は立ち入っては行けないことになっています」
「あ、え、私は……」
「ですが、貴方は『島民』ではありませんでしたね。だから大丈夫です」
「えっと、そういうものなんでしょうか…?」
「私が決めたんだから良いのですよ。それよりどうしてこんなところへ?」
何とも強引な考えだったが、ここの管理者?であろう彼女が、許可するのだから良いのだろう。
「蝶を追いかけて……」
「こんな夜中に? 夜に蝶は飛ばないのでは?」
「虹色に煌く蝶」
「……………」
その言葉を出した途端、彼女は押し黙り、ふんわりとした雰囲気から一転。厳かな雰囲気を纏いだす。
「その蝶には触れてはいけませんよ」
「何故です?」
「……とても悲しいから」
「よく分かりません……」
「まぁ、私も知らないんですけどね」
「変な人だ」
「あら…会ったばかりの女性に言います、普通?」
「あ…ごめんなさい、つい…」
彼女と話していると調子が狂う一方だ。
それと、同時に落ち込んでいた気分が、一瞬で嬉しい気持ちへと変わる。
きっとそれは、初めての恋の瞬間。
理解したのはもう少し後だったが。
毎晩のように山へ赴き、彼女と落ち合い、他愛もない会話をする。
誰にも内緒でこっそりと会うのが楽しくて。
昼間は会っても、軽い挨拶だけ。
また夜になると、楽しくお喋り。
あるときは一緒に山の祭事を手伝ったり。
あるときは一緒に食堂で食事をしたり。
そんな日々を過ごし、気付けば八月も終わりに近づいていた。
「お気をつけて」
「……ありがとうございます」
短いやり取り。
本土へと帰る日。
彼女に見送られ、私は自分の心の中の気持ちを整理していた。
フェリーに乗り込む。
優しく手を振る彼女の顔は、少し寂しそう。
想いを伝えないで良かったのか。
葛藤を抱えた私を乗せたフェリーは進みだす。
「あの!」
「なんですー!?」
彼女が突然大声を上げる。
「忘れ物ですー!」
そう言い、手に持った『何か』を虚空へと放り投げる。
綺麗な放物線を描き、私の頭上へ。
「え、えっ!?」
急な出来事に驚いたが見事にキャッチ。
投げ込まれたのはトンボ玉の髪留めだった。
これは彼女が普段から身に付けていたものだ。
それを何故…?
「それがないとできませんからー! 絶対返しにきてくださいねー!」
トンボ玉は魔よけの効果があるという。
それがないと出来ない、ということは…つまり山の祭事か。
「わかりましたー! また『夏』に来ますー!!!」
お互い不器用な者同士だったのだ。
上手く言葉は伝えられなかった。
でも、また来年もきっと会える。
髪留めからは、大好きな女性の香りしていた。
* * * * *
「こうして、父さんと母さんはめでたくお付き合いを…って」
「ふふ…二人とも寝ちゃってますね」
「可愛い娘たちと、奥さんに囲まれて幸せだな、私は」
私の肩に寄りかかり眠っている二人の娘。
空門の御役目を継ぎ、次の世代へとその役目をさらに継いで行く。
蒼の彼氏である、羽依里くんは、確かに私に似ている。
昔の自分を見ているみたいで、面白いのだ。
「あら。急に笑い出してどうしたんですか『変な人』?」
「羽依里くんのこと考えててな」
「『娘はやらんー!』って言うおつもりですか」
「あれだけ愛し合っているんだ、認めているさ」
「では、私達も負けてはいられませんね?」
ずっと話を聴いていてくれていた妻が立ち上がり、私の傍までやってくる。
「私は蝶を追いかけて、君を見つけたんだったな」
「見つけられてしまいましたね」
「…いつまでも愛しているよ『変な人』」
「もう! 愛していますよ」
あの時と変わらず、トンボ玉を揺らす彼女。
たまには、神域に行ってみようか、なんて。
ただ、最近は夜な夜な島を出歩く、若い男女が居るという。
昔の自分達とそっくりな行動をしているらしく、再び笑みが零れた。
【蝶を追い、君を見つけた-父の日- 終わり】