ロデニウス沖海戦の結果はロウリア王国に大きな震撼を与えた。
派遣した無敵艦隊が突如出現した第三勢力によって簡単に打ち砕かれたのだから、その衝撃は大きい。
ロデニウス沖大海戦での大敗北は、前線での士気低下を招く懸念から、最前線の兵に対して、その情報は遮蔽された。一部の高級幹部を除いて派遣軍には一切情報が漏れないよう隠蔽しようとしたが、敗北は噂となって流出した。
ホーク騎士団の所属するロウリア王国東部諸侯団クワトイネ先遣隊でも混乱状態となっていた。
威力偵察に出たホーク騎士団第15騎馬隊を中心とする小隊規模の偵察部隊などが、ギムの東方約25km付近で消息を絶った。
生き残った魔導師によると、敵部隊の魔力は一切探知されていない。
高威力の魔法が発せられた形跡が無いにも関わらず、誰一人帰らないことに司令官は不審に思っていた。
威力偵察に出ていた騎馬隊は精鋭部隊であり、大軍に包囲殲滅された可能性はあるが、全ての部隊が全滅することなんて考えられなかった。
通常、部隊が例え7割が全滅したとしても必ず伝令係を送るよう訓練されている。
2000人ほどの兵士が一夜にして消息を絶った地域もある。
さらに占領下であったシュリアナート市を中心に報告が途絶えていた。
「どうなっている!?我々は本当にクワトイネの亜人と戦っているのだろうか!導師ワッシューナよ…どう思う?意見を述べよ」
東部諸侯団を取りまとめるジューンフィルア伯爵が問い糺す。
「魔力探知には、一切反応が無く、誰も気がつかなかったので、ワイバーン等の高魔力生物の使用は無かったものと思われます」
「では何だと思う?」
「まさかとは思うのですが…。」
「何だ!」
「最近、導師の間で…導師魔信掲示板に記載されていたのですが…あまりにも現実離れしており、荒唐無稽な書き込みなので…」
魔導師ワッシューナは冷や汗をかきながら冷静に言う。
「うむ」
「マイハーク攻略部隊が、第三勢力によって船団の三分二を失い大敗、さらに敵船に向かっていたワイバーン350騎が全滅し、作戦は失敗に終わったと噂が流れています……。」
!!!!!!!!!!!!!!!!
その場にいた全員に衝撃が走る。
「いや、ちょっと待て!今回の派遣船団とワイバーンは、それだけでクワトイネを征服出来るほどの大部隊だった。
仮にその戦力で列強パーパルディア皇国に攻め入ったとしても、彼らの艦隊包囲網を力でこじ開け、上陸させられるだけの量と戦力だ。1海戦の戦力としては、フィルアデス大陸史上最大かもしれない。それが負けただと?たかがクワトイネに!?あり得ない!」
「いえ……ギムの粛清後に、アメリカという国が参戦してきたらしいのですが、彼らの操る船は、とてつもなく大きく轟音と共に船を1撃で沈めるほどの魔導を連続して放ち、ワイバーンに対しては、追尾してくる光の槍を使い、光の槍が当たったワイバーンは粉々に吹き飛び、更にワイバーンよりも圧倒的機動力と高速性能を持った飛行物体も確認されていると…導師掲示板に、私の同期生が書き込んでいました。
もしかすると今回もアメリカが関係しているのかもしれません…」
一同は考え込む。よくある戦場伝説なのか、突拍子も無い話だが、まさか本当なのか。
船を一撃で沈めるほどの性能を持つ船、ワイバーンに追尾してくる光の槍、ワイバーンより圧倒的な性能を持つ飛行物体…どれも信じがたいものである。
もし、そんなものが実在するとするなら、それは古の魔法帝国に登場する兵器だ。 だが、古の魔法帝国は存在しないし、魔帝軍の技術は神聖ミリシアル帝国が全て独占しているはず
一体アメリカやカナダ軍は何なのだ!?
異質、未知の軍であるアメリカ・カナダ軍にワッシューナは恐怖を感じ始めていた。
話はそのまま平行線を辿ってばかりで一向に進歩がなくただ時間ばかりが過ぎた
彼等としても先遣隊配備のワイバーンが150騎から75騎に減らされたことを疑問に思っていたが、話が事実なら納得できる。
「小隊はともかくホーク騎士団といえば勇猛果敢で、全滅した隊の騎士長も戦闘に関してはかなり優秀だ。馬も他の騎士達が使う馬よりはるかに速い。それが簡単に全滅とは……。」
ロウリア王国東部諸侯団クワトイネ先遣隊の将たちを悩ませる事態があと一つあった。本隊からの指令書、指令主は主将名だが、問い合わせは恐怖の副将アデムである。
指令書にはこうある。
『城塞都市エジェイの西側3km先まで兵を集めよ。そこで、本隊合流まで待て』
ジューンフィルアは、指令書を読んで、ますます胃が痛くなっていた。
城塞都市エジェイ、国境の町ギムや、周辺の村々とは訳が違い、クワトイネ公国がその生存を賭け、来るべき対ロウリア王国戦のために作り出した町である。
町そのものが要塞であり、城であり、基地である。
ギムとは防御力の次元がちがう。
城塞都市エジェイはギムから東に約50kmの場所に位置する。
だが、先遣隊として威力偵察部隊を派遣した結果、誰一人残らず全滅。
現在地から東に20km行った場所で全滅!!
しかも占領下であった村やシュリアナート市からの情報が突如遮断された。
何度も確認するために兵士を送ったが、誰一人帰ってこなかった。
つまり、エジェイへ行くための地点に騎馬隊を含む威力偵察部隊を全滅させるほどの強力な敵部隊が潜んでいることになる。
そこへ何も対策をせず、進撃するのは自殺行為であり、少なくとも大損害を負う可能性がある。
しかし、アデムの指令に逆らえば、自分を含め一族全員が死刑となるため、絶対に行かなければならない。
城塞都市へ攻略するにはその施設の倍の人員と兵器が必要となり、膨大な戦力を保たせる補給も当然必要となり、結果時間を必要とする。
準備を怠ったわけでもないが、兵力も攻城兵器も満足に揃えてない上、先の先遣隊の全滅である。
ジューンフィルアは不安を抱えたまま、ロウリア王国東部諸侯団クワトイネ先遣隊 本隊約2万名の兵は、東方へ進撃し始めた。
城塞都市エジェイ
城塞都市エジェイには、クワトイネ公国軍西部方面師団約3万人が駐屯し、この部隊は西部方面のクワトイネ主力部隊と言ってもよかった。
エジェイはクワトイネ側にとって最重要軍事拠点であるため、駐屯している戦力も当然ながら、豊富であった。
内訳は、ワイバーン50騎、騎兵3000人、鉄砲隊80人、弓兵7千人、歩兵2万人という大部隊である。
長年、ロウリア王国に備え、日々訓練し、各部隊精鋭と言える。
将軍ノウは今回のロウリアの進攻をこの城塞都市エジェイで跳ね返せると思っていた。
高さ25メートルにも達する防壁はあらゆる敵の進攻を防ぎ、空からの攻撃に対しても、対空用に訓練された精鋭ワイバーンが50騎もいる。
クワトイネ有数の精鋭部隊を豊富に持っているエジェイはいかなる攻撃であっても、攻略することは困難で、難攻不落の城塞だ。
まさに鉄壁、まさに完璧、いかなる大軍をもってしても、この都市を陥落させることが出来るとは思えなかった。
「ノウ将軍、アメリカ軍の方々が来られました。」
政府から協力するよう言われているため協力しているが、彼は正直自国に乗り込んで来たアメリカ・カナダ軍が気に入らなかった。
アメリカは我が国の領空を犯し、力を見せ付けた後に接触してきた。信じてはいないが、ロウリアの4400隻の船の進行も、たった20隻で撃退したという。
たった20隻で100倍どころか、200倍以上の勢力に挑み、勝利した?
バカも休み休み言え、というものだ。
一体どんな手段を使って勝利したか、知らない。
しかし、陸戦は何といっても、数がものをいう。今回、アメリカやカナダが送り込んで来たのは、第一騎兵師団や第39カナダ旅団群とかいう、1万6000名弱と2000名弱の兵力だ。
奴らはエジェイの東側約5kmのところに星型の基地を作って駐屯している。
政府が許可を与えたらしいが、国土に他国の軍がいるのは良い気分ではない。
基地からは昼夜奇妙な騒音が鳴り響き、変な飛行物体が飛んでいた。
1万8000名という数も、伝え聞いているカナダは4000万人という人口から考慮すればわからなくないが、アメリカの人口3億人以上という人口からすると、ずいぶんやる気の無い兵力だ。
いずれにせよ、自分たちがロウリアを退ける事が出来るので、彼らの出番は無い。
この国は我々が守る
他国に自国を守られたくないという軍人としての意地でもあった。
コンコン
ドアがノックされる。
「どうぞ」
将軍ノウが立ち上がり、彼らを迎える。
「失礼します」
一礼し、室内に入る人間が3名
「アメリカ合衆国アメリカ陸軍、第一騎兵師団のマタビッシュ大佐です」
自分の着ている気品のある服とは違い、シンプルな服を着た人物、こやつが今回のアメリカの派遣軍の将軍というのが、ノウには信じられなかった。
「これはこれは、遠いところから良くおいで下さいました。私はクワトイネ公国西部方面師団将軍ノウといいます。この度は、援軍を派遣して頂きありがとうございます。感謝いたします。」
まずは社交辞令から入る
ノウは挨拶しながらもアメリカ軍の第一印象に派手で豪華な装飾や色でもなく、はっきり言えば地味で全く覇気を感じなかった。
これが派遣軍を率いる軍の長というものなのか?
「アメリカの師団長殿、ロウリア軍はギムを落とし、まもなくこちらエジェイへ向かって来るでしょう。しかし、見てお解かりと思うが、エジェイは鉄壁の城塞都市、我が軍の精鋭部隊が駐屯する上、航空兵力を持っています。これを抜く事はいかに大軍をもってしても無理でしょう。」
ノウは続ける
「我が国は侵略され、ロウリアに一矢報いようと国の存亡をかけ、立ち向かおうと思います」
ノウは鋭い視線をアメリカ兵へ向けながら続ける。
「アメリカの方々は、東側5kmの位置にある、あなた方が作った基地から出ることなく、後方支援をしていただきたい。ロウリアは我々が退けます。」
ノウは(邪魔者はひっこんでいろ)という意味を込めて言った。相手も国の命令で派遣され、プライドがあることを承知の上で。
そのことはアメリカ側にも意味をしっかりと捉えていた。
(なるほど、邪魔者は引っ込めということか)
マタビッシュは異世界の戦争が中世で行われた伝統を重んじた形式の戦争を元に行われる可能性が高く、異世界の兵士に限らず、王族や貴族もプライドが高い人が多くいるというCIAの情報は確かなようだ。
アメリカ軍としては折角援軍に来たのに邪魔者扱いをされるのは良い気分はしないが、穏便に済ませるために不愉快になるような表情はせず、了承した。
アメリカは異世界に転移してから最初にコンタクトを取ったトワトイネを中心にCIAなどアメリカ諜報機関が探りを入れていたのだ。
アメリカ側にとって、異世界の人種は白人が多く、言語の壁がないことが最も都合がよかった。
なぜ、言語の壁がないのかは全く不明であるが調査では英語は通じるが、フランス語、スペイン語、ドイツ語、中国語などは一切通じず、英語のみが通じた。
調査の結果、米国やカナダ以外のこの世界に存在する国家は近世ヨーロッパ時代のような政治体制、部分的にではあるが技術的発達として近代的な兵器、そして何より驚愕したのは魔法だ。
魔法は魔導師と呼ばれる人々やエルフなど素質の高いものにしか扱えないが、外傷を瞬時に回復させるポーションや農業へ農薬・殺虫剤などを一切使用しない魔法による農業政策、一人の人間が対戦車ロケットレベルの火力を扱う攻撃魔法など。
アメリカは魔法を最大限に警戒するのと同時に自国に取り込めないか、と研究も始まっている。
今回のロウリアとの戦争には魔法がいかに戦争に使われるのか、調査する目的も背景にはあった。
「解りました。我々は基地から後方支援を行いましょう。一つ要請したいことがあるのですがよろしいでしょうか?」
「なんでしょうか」
「敵の位置、戦局を伝える必要があるので、観測要員と機材を50名ほどエジェイに置かせてもらえませんか?」
「・・・いいでしょう。」
アメリカの将は退室した。ノウは思う。5km後方から支援してくれとは、皮肉であり、実質的に5kmも離れていたら、何も出来ない。つまり何もするなという意味である。
彼らにプライドは無いのだろうか?
全く実力も国力もわからない国
3億という人口を持ち、巨大船を建造するだけの技術もあるならばもっと豪華にできるはず
恐らく彼らは広大な国を維持するだけでも精一杯な国なのかもしれない。
だが、これでいい……我が国は我が軍が守り、他国に守られるほど弱くないことを思い知らせてやろう。
ロウリア王国東部諸侯団クワトイネ先遣隊約2万の兵は、特に障害を受ける事なく、城塞都市エジェイの西側約5kmの位置まで進軍した。
あと3km進んだ場所が、指示された場所だが、ジューンフィルアはここで野営することにする。
いやな予感がする。彼らはこの場所で1週間待機する事を決めた。
(ここまで何も妨害なく進出できた、やはりまぐれダメージをもらっただけなのか?アメリカ軍も一向に姿が見えない…)
ノウは焦りを感じていた。敵兵2万が、エジェイから西側5kmの位置に布陣している。
ロウリアの兵力からすれば明らかに先遣隊であり、こちらから撃って出ると、ロウリア軍本隊が到着する前に、戦力をすり減らしてしまう。
では、城に篭れば良いのだが、問題は敵騎兵が300名ほど昼夜問わず城の外で怒声をあげ、去っていく事をくり返している。
本格的進攻かどうかの判断がつかず、兵が神経をすり減らす。
ワイバーンを使用しての強襲も考えられたが、ワイバーンは夜飛べない上に、着陸時を敵ワイバーンに狙われたら終わりのため、動かせなかった。
このままでは、敵本隊が着くころには、兵はヘトヘトになってしまう恐れもあった。
いくら精鋭とは言っても人間であるため、疲れるし、メンタルも鍛えられていようが、体力には限界がある。
ノウの判断に迷いが出る頃、伝令兵が駆け寄ってくる。
「アメリカ軍から連絡が入りました」
「読め!」
「はっ!我、エジェイ西側5km付近に布陣する軍は、ロウリア軍で間違いないか?ロウリアであるなら、支援攻撃を行ってよろしいか?又、攻撃にクワトイネ兵を巻き込んではいけないため、ロウリア軍から半径2km以内にクワトイネ軍はいないか確認したいとの事であります。」
「基地から出るなと言っているのに……。結局は手柄がほしいのだな、まあ良い。アメリカ軍がどんな戦いをするか、高みの見物をするとするか…。許可する旨伝えろ!」
「はっ!!」
他国に守られるのは軍人としてプライドに癇に障るが、相手の戦力を見える上、敵本隊が出てくれば多少削れる。
ノウは許可した。
晴れ渡る空、その日は雲の少ない良い天気だった。朝は少し肌寒く、空気は乾燥している。空気に埃などの不純物が無いため、遠くの空まで良く見渡せる。
ジューンフィルアは少し高い丘から2万もの兵を見下し、深呼吸する。
空気がうまい。
彼らは士気旺盛だった。交代で300名ほどの騎士が夜間威嚇に向かう。他のものはしっかり眠れる。ギムで奪った食料は美味く、申し分ない。
敵はエジェイに引きこもって戦うつもりのようだ。密偵の情報によれば、ワイバーンは50騎近くいるらしい。脅威ではあるが、使用してこない。
それに最も懸念していた偵察部隊を葬った敵勢力は確認されておらず、恐らくエジェイに立て籠もっているのだろう。
やはり心配しすぎていたようだ。
このまま本隊の到着まで待てば、ワイバーンによる上空支援を受けられる。圧倒的兵力をもって、エジェイを落とせる。
彼はそう思っていた。
(もうすぐ攻撃が始まるだろう、援軍に来たアメリカ軍とやらがどのような軍か、知らないがこのまま戦闘準備をするか…)
とジューンフェルアは兵士に戦闘準備をするよう発令するのであった。
アメリカ・カナダ軍クワトイネ公国ヤンクート基地
基地の陣地には様々な戦闘車両が同じ方向へ砲身を向けていた。
その光景はまるで戦列する大砲が並んでいるようなものだった。
その中にも自走砲が並ぶ中異質な車両があった。
「お、これも持ってきたのか、流石に中世相手に必要ないものではなかったのか?」
「いや、どうやらロウリアとクワトイネに圧倒的な力を見せることで外交的優位を確保するため、全力でいくらしい」
「剣と鎧、大砲くらいしか持たない中世の兵士たちにか、明らかにオーバーキルだな……こいつの砲撃をこれから経験する敵さんたちが可哀想に見えてくるよ」
「・・・剣と鎧、大砲程度の装備しか持たない敵部隊なら、まだ中東のテロリストの方が遥かに厄介なものだ。」
アメリカ・カナダ政府はロウリア戦争を短期で決着することを目的としていた。
国内の問題は徐々に収束してはいるが、回復はしてはおらず、転移の損失は大きい、早く再建するためにロウリアへ圧倒的な戦力で制圧し、ロウリアを民主主義の国家として改変し、ロウリアを親米国家として支援することを目的としていた。
目の前には、アメリカ軍広範囲制圧兵器
MLRS、12発のロケットを内蔵し、1発あたり644個の子弾をばら撒き、サッカー場6面程度をロケット内部に仕込まれた子爆弾が瞬間的に制圧、非装甲物に対して絶大な効果をもたらす。
それが40台西を向いている。さらに、155ミリ自走榴弾砲やM110、 203ミリ自走榴弾砲が多数。展開している敵のほぼ全てを効果範囲に納める。
カナダ軍の自走砲部隊も待機している。
観測班からの砲撃地点へ照準が終わった頃
「敵部隊に動きはないのか?」
「隊列を組み、戦闘態勢を整えつつあります。なお、付近にクワトイネ軍は存在しません。」
「よし、奴らに最高の地獄を味合わせてやるぞ!ファイアーーーーーーー!!!」
轟音と共にロケット弾が連続して発射され、さらに155mm、203mm榴弾砲が砲撃を開始した。