神聖ミリシアル帝国
港町 カルトアルパス とある酒場
中央世界にある誰もが認める世界最強の国、神聖ミリシアル帝国。
その交易の流通拠点となっている町、港町カルトアルパス ここは、各国の商人たちが集う町であり、商人たちの生の声は、各国の事情を現す生の声として、情報源としても、非常に価値があるため、商人の姿に紛れ、各国のスパイたちの集まる町でもある。
神聖ミリシアル帝国は世界トップの魔法文明先進国であり、街並みには高度な魔導技術を使用した夜間に街を照らす空中に浮かぶ街灯、木製と金属の船が上空を飛び交い、数十mほどの高層建造物など高度魔法文明としての光景が見受けられる。
とある酒場では、酔っ払った商人たちが、自分たちの情報を交換していた。
樽のような体をして白い髭を生やした男が豪快に話し始める。
「おい聞いたか?第2文明圏の列強レイフォルが、新興国家に敗れたらしい」
「ああ、確か第八帝国だったよな?おい、誰か第八帝国について知っているやついないか?」
ローブをかぶった顔の青白い男が話し始める。
「ああ、知っている。
第八帝国は通称らしいぜ、本当の国名はグラ・バルカス帝国という国らしいな。
俺は、レイフォルの首都レイフォリアで香辛料の商売をしていたが、あの恐ろしい日は今でも忘れない。
ある日、突然首都近辺の警備が厳しくなって、いつもはちょっとしか配置されていない首都防衛用の魔導砲が設置された台場に、大量の人員と、予備の魔導砲までたったの数時間で設置された。
さらに、首都近辺にある竜騎士の基地に大量のワイバーンロードが全国から飛来してきた。
いったい何が起こるのかと、商人たちでも噂になったよ。
兵隊に聞いても、「今は話せない」の一転張り、第八帝国が攻めてくるのでは?といった声もあったが、皆列強であるレイフォルの勝利は疑っていなかったし、不安になる者もいなかった。
そして、それは変化のあった翌日の夕方やってきた。
昼頃から、ワイバーンロードが何度も編隊を組んで海の方へ飛び立っていったが…
帰っては来なかった。今思えばこの時点でおかしいと気がつくべきだった。
港に戦艦が現れたんだ!とてつもないデカイ戦艦だったよ。山のような戦艦、そして陸地からでもはっきりと見えるほどの、とてつもなくデカイ砲を積んでいた。
俺は、あんなデカイ船は、生まれて初めて見たよ。
戦艦は、レイフォリアの沖合6kmくらいに停船した。台場の魔導砲の完全な射程圏外だった。
そして、それは砲撃を放った。
一隻の砲撃など、たかが知れていると思ったが、その威力は炎龍でも作り出せないのでは無いかと思うほどの威力があった。
台場の魔導砲は一発で消滅したよ、
レイフォリアに対する無差別砲撃は怖かった…。
とにかく逃げて逃げて逃げたよ。やつらは、とてつもなく強い。たった一隻で、列強の首都を消滅させたのだ!!列強ムーもあれには負けるぞ。世界はグラ・バルカス帝国に支配されると思う…」
「おい待て、レイフォルに勝つとは確かに強いが、世界最大の魔法文明を持つ神聖ミリシアル帝国に勝てる訳が無いだろう。格が違いすぎる。」
「機械文明のムーも、ミリシアル帝国に順ずる強さがあるからなぁ。ムーにも勝てないだろう。なんだかんだ言っても、文明圏外の蛮国にムーは負けんよ」
「その蛮国にレイフォルは負けたんだよ」
「レイフォルなんて、列強といっても…言っちゃ悪いが、最弱の列強だろう?
一般国に比べれば遥かに強いが、他の列強にくらべると、実力は遥かに弱い…。」
「お前らはグラ・バルカス帝国の恐ろしさを知らないから、そんなことが言える」
酔っ払いどもの話は続く。
「そういえば、ロデニウス大陸でも戦争が起きたな」
「ああ、確かロウリア王国だろ?あの国は人口だけは列強以上にいるな」
「ああ、そこへこの前交易に行ったが、隣国のクワトイネ公国に宣戦布告して、亜人の殲滅を目標としていたな…」
「亜人の殲滅?無理に決まっているだろう。さすが蛮族の国!」
「だが、途中でアメリカとカナダっていう国が参戦してな、あっという間に敗北したよ。
脅威の侵攻速度で攻め込んできたらしい、聞いたところによると見たことのない鉄竜や鉄像が現れたと思えばあっという間に首都を占拠しやがった。
ロウリア海軍の4400隻の大艦隊もアメリカ海軍に太刀打ちすらできなかったらしい。
しかも4400隻がたったの20隻の艦艇に大損害を受けたと聞いている。
クワトイネ公国やクイラ王国もその国と国交を締結したらしいが、その二カ国は凄まじい速度で発展しているらしい。
アメリカとカナダは今後も、世界に名を轟かせる国になるかもしれん!」
「はあ?戦争で一人も戦死者が出ない、たったの20隻に4400隻が撃退された?お前、正気か?
それはどう考えても情報操作された情報だ。あり得ない。」
「しかもロウリア王国が敗北した?どこかの列強国がアメリカとカナダに味方したとしか考えられないな」
「一度も名前を聞いたことのない国が勝利することなんてあり得ない。お前もう少しまともな情報を拾ってくるんだな」
「し、しかし、見たことのない鉄竜や鉄像が現れた情報もあるぞ!
それにこの情報はロウリア王国裏情報だから間違いない!」
「お前考えても見ろよ、鉄でできた飛行機を作るだけの技術を蛮族が持つわけないだろ、神聖ミリシアル帝国やムーならともかく」
「よくある戦場伝説ってやつさ」
「まあ、グラ・バルカス帝国やアメリカ、カナダがいくら強かろうと、神聖ミリシアル帝国とは、格が違うさ。絶対に勝てないよ。結局、中央世界はいつまでたっても安泰さ!古の魔帝が復活でもしない限りな」
「そうだな、がはははははは!」
(くっ、信じられないのも無理はない、俺も信じられないさ!今も頭に焼き付いた轟音とともに通ったあの鉄竜…あれは神聖ミリシアル帝国やムーなんてものじゃない…もっと速かった…それにあれほどの化け物を作るなんてとてもミリシアル帝国でも無理じゃないか?)
「でも聞いたか?パーパルディア皇国から出撃した艦隊が文明圏外の国へ戦争しに言ったらしいだがよ」
「ああ、第3文明圏の列強国だろ?それがどうした?いつもの通り一つの国を壊滅させて、属国を増やしたか?」
「いや、それがよ、俺もパーパルディア皇国エストシラントで繊維関係の商売をしていたが、戻ってきた艦隊がたったの4隻だけだった。
しかも竜母艦も撃沈されたらしい。」
「何?竜母艦も?一体どんな国と戦争した?ムーにでも喧嘩を売ったのか?」
「どうやらフェン王国っていう国らしいだが、そこの港の発展具合がどうも変だ、第3国による関与の可能性が高いらしいぜ」
「ほう、フェン王国はワイバーンすら持っていない剣術の国だろ?そんな国に手を貸す列強国か文明圏の国家などいるのか?」
「恐らくいないだろうが、どうも最近の東方の各国の技術の進歩が異常だ…。」
「異常?」
「ああ、ロデニウス大陸クワトイネ公国との香辛料取引もしているが、つい半年以上前まで小規模だった港湾が灰色の石で加工された巨大建造物が建った大規模な港湾設備に変わっている。」
「巨大建造物?」
「そこにはつなぎ目のない黒い道、正確な四角い形の建造物、金属でできた建物もあった。
それに港には大型船も停泊していて、その大型船は全長200mを超えていた。
それも複数あったな…
内部の方でも半年前までなかったレールの上に金属の魔導車が走り回っていたんだ。
それだけじゃない、道には我が国のような魔導車複数走り回っていて、半年間で一体何があったと思った。
それがクワトイネだけじゃない。クイラ王国も同様だった。
その開発に必ずと言っていいほど名前が出るのは「アメリカ」「カナダ」だ。
正直に言えば…この街光景とそれほど差がなくなってきている。」
「おいおいおい、冗談はよしてくれよ、第一半年で港湾施設を建設することは不可能だし、200mの大型船?お前夢でも見ていないか?
第二に魔導車は我が国かムー帝国のような一部の列強国しか持っていない。
魔導車一台購入するのに高級なのにそれが複数も?
明らかに現実離れしすぎているぞ?
それにその話が本当ならアメリカやカナダは中央世界に迫る技術を持っていることになるぞ?
あり得ないな」
と鼻で笑う
「いや、だが、確かにこの目で見たんだ。
その時に新しくできたカーマートというお店で買ったんだが、この繊維を見てみろ」
男性は高品質の紙袋から黒いダウンジャケットを取り出す
「これは…随分品質の高い繊維だな…全部均等に正確に縫い合わせてある…」
「ああ、ここまでの品質を作る職人は今まで見たことがない」
「・・・だが、結局は服だろ?その程度なら神聖ミリシアル帝国だってあるさ!そのアメリカやカナダという国は恐らく列強国が支援している可能性が高いだろう。そうでなければ蛮国がそんな技術を持つことはできない。
どの国が支援しているか、知らねえが一応警戒はしたほうがいいかもな、ここまでの品質なら十分神聖ミリシアル帝国の繊維と対抗できるしな」
「いくら民芸品の品質が高かろうと武器もまともに作れないような国家に神聖ミリシアル帝国やムー帝国が劣るわけがないだろ」
「がはははは!!」
酔っ払いどもの楽しい夜は更けてった。
クワトイネやクイラで見た商人の話はアメリカエネルギー企業などが工場、巨大な港湾施設、交通網を建設したからだ。
何もない状態から半年でクワトイネ公国やクイラ王国は電気・水道・ガスが通るようになった。
国内全体で凄まじい勢いでアメリカ・カナダ企業による開発が行われてきた。
企業による両国を中心とする国々は雇用、生産、消費、需要、供給を全て生み出し、結果アメリカやカナダにとっても、各国にとってもお互い非常に良好な関係となっていた。
アメリカやカナダに関わった国はまさしく産業革命状態であり、それによって職人や商人ギルドによる運動も社会現象の一つとなった。
そのおかげでアメリカやカナダを歓迎する声が日に日に上がって行き、同時にアメリカやカナダの技術・科学を盗み出そうと諜報合戦が水面下で行われるようになり、アメリカの国防総省やCIA、NSA、連邦捜査局などが国内、国外を問わず奮戦することになった。
アメリカとカナダによる東方の各国は国力を増強させ、列強国に迫るまで技術促進が行われている。
このまま成長すれば5年ほどで列強国を超える技術力にもなり得るだろう。
パーパルディア皇国 皇都エストシラント第3外務局
第3外務局長カイオスは焦っていた。
フェン王国へ制裁を加えるために二度目に送り出した艦隊がボロボロの状態となって姿を表したからだ。
最初は5隻、その後に4隻と合計9隻ほどしか帰ってこなかった。
それが意味することは失敗。
しかも竜母艦も撃沈されたということ。
これを最初聞いた時、夢か、と思った。悪い悪夢だと。
現実へ引き戻されるかのように次々と来る第二次皇国監査軍東洋艦隊の損害報告と水兵、ヴァルロアート提督を含む負傷者の報告…
もう、頭が真っ白になった。
い、一体どこの国と戦争した?
間違えて列強国の艦隊と鉢合わせてしまったのか?
巨大海獣でも現れて艦隊を襲ったのか?
いや、むしろそっちの方がまだ、現実的だし、海獣に襲われた方がまだ、名目上救いがあった
頼むから、そっちであってくれと希望的観測を抱いていたが、無慈悲にも彼の元へ報告書が届く。
第二次皇国監査軍東洋艦隊 戦闘記録
艦隊は皇都エストシラント港湾から出撃し、数日ほどでフェン沖へ到着。
ヴァルロアート提督はワイバーンロードの戦闘継続能力を考慮し、フェン王国首都から10km地点で展開する予定であった。
道中で遭遇したフェン王国海軍は少数ながら撃滅し、順調に進撃。
フェン王国首都まで少しのところで巨大船2隻と遭遇。
1隻は白い目立つ船であり、後方にいたもう1隻は白と黒のラインが入った巨大船。
艦隊は白い船と戦闘を開始した。
ここまで記録は正確に取れていたし、順調だった。何も問題ない。
だが、そこからが異常であった。
45隻対1隻なんて子供でもわかるような結果を大きく覆し、白い船は船首に取り付けられた大砲によって数分で4隻が轟沈。
その後、ヴァルロアート提督は竜母からワイバーンロードを出撃させ、白い船を撃沈しようと総力戦となった。
しかし、白い船はダンダンと音がなるたびに戦列艦に着弾していき、1発も外さず、全ての砲弾を命中させた。
さらにダダダダダと連続音が鳴ると戦列艦や甲板に出ていた兵士が蜂の巣となり、ワイバーンロードも光の弾幕により4騎ほどが撃墜。
白い船は光の槍を放つとそれはまるで自分の意思を持っているかのように正確に戦列艦へ全て命中し、被弾した戦列艦は消滅した。
白い船はその後火災を発生させながらも信じられない急加速と急発進する能力を持っていた。
あと少しのところで上空に展開していたワイバーンロードは全て鉄竜によって撃墜、その後新たに灰色の巨大船5隻が介入したことにより艦隊は正確な百発百中の驚異の命中性能と威力、さらには射程5000などの射程距離を持った砲撃によりヴァルロアート提督は負傷、第二次皇国監査軍東洋艦隊は壊滅した。とあった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんだ、これは…
船は水上で移動するため、当然波の影響で揺れるし、砲弾を相手の艦艇へ命中させるには数で撃つしか方法はない。
そのために戦列艦には100門級や150門級などが存在する。
さらに射程は列強国でも2000なのに、それが5000?
そして、信じがたいほどの加速能力、魔法は一切関知されず、全てのムー帝国のような機械式だと?
もし、この報告が本当であれば第二次皇国監査軍東洋艦隊は超機械文明国家へ喧嘩を売ることになる。
だが、そんな現実離れをした報告に外務局の局員や政務官も誰も信じられなかった。
一体全体どうやったらこんな支離滅裂な報告が出来上がるのだか…
くそ、この提督も病んでいるのか!?
あり得ない。1度は海の生物、2度目は謎の勢力により介入。
念のためにフェン王国との繋がりを持つ国から調べる方が早いだろう。
もしかするとフェン王国へムーが支援しているのかもしれない。
ああ…皇帝陛下になんと報告したら良いのか…
と胃痛を抑えるように腹に手を置き、考え込むカイオスであった。
この出来事は第3外務局のみならずパーパルディア軍全体でも衝撃的ニュースであった。
特に竜母艦が轟沈したことは多くのパーパルディア軍の航空兵士に衝撃を与えた。
当たり前であるが竜母艦はワイバーンロードを20騎以上搭載することが可能な洋上での航空戦力を運用することを想定された戦闘艦である。
それ故、竜母艦はワイバーンロードの運用を主眼として置いているため、基本的に後方から攻撃する。
となれば生き残る可能性が非常に高いはずなのに、敵船は護衛艦隊を蹴散らして竜母艦を攻撃したというのか
しかも、ワイバーンロードは1騎も帰還しなかったとのこと。
一体敵は何なのか
これに大きな反響を及んだ。
第二次皇国監査軍東洋艦隊を壊滅させた要因である謎の勢力について第3外務局は本格的に調査へ乗り出すのであった。
このままでは列強国として他国に舐められるなど不満やストレス、怒りは先に逃亡した5隻の乗員に向けられ、この日から乗員や提督は冷淡な扱いを受けることになる。
第2文明圏最強の国 列強国 ムー 統括軍所属 情報通信部 情報分析課
ここは、国の諜報機関であり、情報を分析する部署である。
様々な国の情報が集まり、分析する。
情報とは重要であるが、この国の人々は情報をあまり重要視しないため
軍人や民間からは
・何をやっているのか解らない部署
・無意味な事をしている部署
・ コソコソといつも何かやっている
など決して良い感情を持っておらず、忌み嫌われている。
情報分析官であり、技術士官のマイラスはレイフォリア襲撃の際に魔写された、グラ・バルカス帝国の超弩級戦艦グレードアトラスターの写真を分析して、冷や汗をかいていた。
「……何ということだ…」
ムー帝国は世界で魔導文明が主流の中、科学文明に有用性を見出し、機械や科学の発展に常に力を入れていた。
神聖ミリシアル帝国のような魔導文明は一切持っておらず、世界で唯一産業革命を起こしている国家だ。
軍関係者や政府は最も先進国であるムーより進んだ技術を持っている超弩級戦艦グレードアトラスターのことは絶対信じない…
これほどの戦艦を建造するグラ・パルカス帝国はムーよりも進んだ科学文明なのかもしれない。
それは超弩級戦艦グレードアトラスターは
全長260を超え、明らかな30cmを超える主砲を3門3基搭載することは到底不可能だ。
しかし、それを上の人間が認めることはない、むしろ臆病風に吹かれたと罵倒される未来しか見えない。
はあ……分析も報告も胃が痛いものばかりだ。
我が国の最新鋭戦艦は『ラ・カサミ級』
ラ・カサミ級戦艦の最大の特徴は世界で使用されている大砲をより大きく搭載口径を大きくするために船体の中央に回転式砲塔を持つことで30・5cmという超巨大砲も搭載できる画期的な機構を備えている。
さらに30・5cmとなれば砲弾や装薬は自然と大きくなり、これを後装式だけで装填するのはほぼ不可能だ。
そこで半自動装填システムを実現することで、弾薬庫から砲塔へ弾薬を昇降機で運ぶことで巨大な砲弾でも装填を可能となった。
これらによってこれまでの戦列艦の常識を超えた戦闘艦となった。
列強国で使用される風神の涙による高速を得る推進方法から、蒸気タービンを活用した蒸気推進式に変更した。
蒸気機関をここまで発展させたのはムーだけだ。
性能面としては…
・排水量15140トン
・全長131.7m
・全幅23.2m
・機関15000馬力
・最大速力18ノット
・兵装 主砲30.5センチ連装砲2基4門
副砲15.2センチ単装砲14門 他
このスペックは、中央世界の神聖ミリシアル帝国の魔道機関を搭載する戦艦とも十分渡り合える性能を持っている。
列強国のレイフォルやパーパルディア皇国の帆船に圧勝するものは言うまでもない。
機械文明を最先端進んでいる先進国ムー帝国は自国のみしか発達させていない科学技術を一切他国には輸出しなかった。
これはムー帝国の他国に対するアドバンテージとなるからで、他国は大多数の国家は科学に対する認識は魔術と比べても関心が薄かった。
このスペックは、中央世界の神聖ミリシアル帝国の魔導船とも渡り合える可能性を秘めている装備である。
レイフォルや、パーパルディア皇国の帆船に圧勝するのは言うまでもない。機械文明最先進国ムーは、彼らの国とは別格であり、神聖ミリシアル帝国に迫る可能性を持った国である。
しかし…。
マイラスは頭を掻き毟る。
グラ・バルカス帝国の超弩級戦艦グレードアトラスターは、情報によれば、30ノットくらい速度が出ていたらしい。
あの大きさだと、おそらく排水量は7万トンくらいあり、砲も38センチか、もしかしたら40センチくらいあるのではなかろうか?
そんなデカイ船を、30ノットもの高速で移動させるなど、いったいどれほどの出力が必要になるのか…。概算で、7万馬力くらい必要なのではないか?
しかも砲数も格段に多い。
砲撃の威力は、口径の3乗に比例する。
つまり、この戦艦と、ムーの最新鋭戦艦ラ・カサミが打ち合えば、ほぼ確実に負ける。奇跡でも起きない限り、叩き潰される。
このような、高度な艦は、もしかしたら、砲撃精度も我が方よりも上の可能性がある。
「写真を見ただけで負ける事が解るとは…。これは…技術レベルが50年くらい開いていないか!?」
技術士官マイラスは、ムーの行く末を案じていた。
もう一つの資料を見た。
はるか東方の国家間の戦争記録と新興国家の軍事資料であった。
東方はムー帝国とはかなり距離があるため、影響は少ないだろうと判断されていた。
東の文明圏外国家ロウリア王国とクワ・トイネ公国との戦争が勃発、初めは誰もがロウリア王国の圧勝と分析していたが、それを覆した国の船らしい。
その国はアメリカ合衆国、カナダ連邦
諜報員によればアメリカに関することはなぜか、わからないが、クワトイネ公国とロウリア王国を中心に多数が行方不明となったが、魔写した者の情報によればアメリカ海軍の軍艦 チャフィーという名前の艦艇らしい。
全長150を超え、灰色の船体に1門の主砲。
そして、2基の対空用と思われるガトリングが搭載されていた。
「うーん…全く解らん」
まず船体は大きいのに、砲をたったの1門しか搭載していない。
よほど連射がきくのか、もしくは砲撃精度に自信があるのか・・・。連射するにせよ、1門よりも2門付けたほうが、威力は高いし、当たりやすくなる。
設計思想が全く理解できない。
砲が高価すぎて、1門しか設置できないのだろうか?
理解できない装備が所々見受けられる。
それになぜ、旧式のガトリングを使う?
ガトリング自体ムー帝国にも存在しており、それは手回しガトリングガンのことだ。
この艦に関しては、用途が全くもって理解できない。
「訳の解らない国が、突然出てきたな…。」
そして、もう一つの写真を見る。
その写真は軍艦ではあるらしいのだが、全く理解できない。
「この船は軍艦なのか?」
それはアメリカ軍のビアトリクス級駆逐艦であった。
ビアトリクスは高いステルス性能を保つために主砲や光学兵器は船内へ収納されており、初めて見る人間は全く意味を理解するのが難しい船
マイラスから見れば四角い直角的な船だと思った。
しかし、全長に関してはさっきの船よりも大きいらしく、これが一番の謎であった。
本当に軍艦なのか?いや、何のために作られたのか、全くコンセプトがわからない。
似たようなものなら神聖ミリシアル帝国の魔導戦艦だろう。
ということはアメリカやカナダは神聖ミリシアル帝国からの支援を受けているのか?
いや、それにしてもこんなデザインの船にはならないはずだ…
だが、もう一つ気になる情報もあった。
それはクワトイネ公国やクイラ王国、グラミアム王国などで見られるようになった鉄竜だ。
魔写は撮ることは叶わなかったが情報によればワイバーンよりも早く、轟音を鳴らす飛行物体らしく、もしかすると彼らは魔導機関ではなくレシプロエンジンを…?
いや…ムー以外で蒸気機関や外圧式機関(スターリングエンジン)はなかったはず…一体?
それに先ほど挙げた国この半年の間での発展具合が異常な速度で進んでいるという。
ムー帝国から商人が交易のために東方の国へ入国した。
そこには半年以上前は大型の帆船すら建造できないほどの港湾設備やドック施設だったものが、今では超大型船が出入りし、工場がいつの間にか、立ち並んでおり、立派な製鉄所や原油採掘施設?(又の名を石油コンビナートと言う。)などがクワ・トイネ公国・クイラ王国・グラミラート王国を中心に見られるようになった。
まだ、建設中の建物も多く見られ、巨大な超重機も多くあった。
内陸部でも我が国で実用化している蒸気機関車より早く煙を一切出さない鉄道を敷いており、つなぎ目の無い道路
「やはりおかしいな…東方の各国は第3列強国パーパルディア皇国から技術支援を受けているとは聞いているが、パーパルディア皇国にも蒸気機関は確かにあるが、あれは従来の原理とは異なる方式だ…これもアメリカやカナダが関わったせいなのか?」
先進国は発展途上国へ無償で技術支援を行うことは一切なく、必ず何かしらの代償を払ってようやく支援してもらえる。
だが、支援される技術はその先進国が力をつけさせないためにわざと技術は低い設定で支援される。
それでは発展途上国はいつまで経っても技術や文明力が上がっても先進国には追いつけない世界構造となっている。
その観点から見ればアメリカやカナダという国は訳がわからない。
これほどの技術を提供しては、将来的に敵対国となった場合、自国に被害を被ることになるからだ。
グラ・バルカス帝国とはいい、アメリカ、カナダ?という国とも、聞いたことのない国家が突如現れたことによりムーも調査に乗り出していた。
神聖ミリシアル帝国やムー帝国だけではなく、中央政府や東方各国はアメリカ・カナダのロウリア戦争、フェン王国での出来事を中心に徐々に広まり、その噂は新聞にも取り上げられ、『極東に現れた新たな新興国家!?ロウリア王国に圧倒的勝利!』という見出しで世界中の国民はアメリカ・カナダの名前の知名度が上がるのであった。
フェン王国ではフェン王国沖でパーパルディア皇国の第二次皇国監査軍東洋艦隊をアメリカ艦隊が壊滅させた情報は大々的に発表され、その情報はパーパルディア皇国にも届くのもそう時間がかからなかった。
技術士官マイラスの苦悩は続く。
マイラスや商人などが見た建築物はアメリカやカナダの企業が積極的に進出し、建設した工業地帯だ。
まだ、完成ではないが、その建設速度は『この世界』から見て異常であった。
アメリカ・カナダ側は労働力の確保が異世界人によって確保ができているのと政府が積極的に支援しているため、通常では考えられない速度で突貫工事していた。
アメリカ合衆国ホワイトハウス大統領執務室
「へ、へ、ヘックション!!!」
「大統領!大丈夫ですか?」
「うん?ああ、どうやら最近の異世界へ転移してから気候や温度変化に身体が対応してなくてな、そろそろ休みたいものだ。」
「そうですか、大統領まだお仕事のお時間は残っておりますので、この書類もお願いします!」
と秘書官はニッコリと笑顔で分厚い書類を机に乗せた。
「ストップストップ、こ、これは明日分では無いのかね?」
「いえいえ、本日の書類の分です。」
「と、とほほほ…早く仕事を終わらせてエルフと食事にでも行きたいものだ…」
「あら?そんなにお気に召したのですか?」
「そりゃあ、彼らは基本的に美形が多いからね、我々より年上であって、あの美形は正直に言えば反則だと思うのは私の気のせいだろうか?」
「気のせいではありませんか?では、大統領、こちらの書類の仕事を再開しましょうか」
「み、ミス・ポット、少しはきゅ」
「ダメです!お願いしますね!」
「Oh…」
世界中の各国で自国の噂が流れている間でもホワイトハウスは今日も平穏な時間が流れていった。