アメリカ合衆国、首都ワシントンDC 国務省
翌日
ワシントンDCへ到着した使節団はホテルへ一泊したのちに国務省の会議室へ案内された。
クワトイネの外交官たちはアメリカ外交団と会議を始めた。
会議室には接待用の高級な装飾と机と椅子が用意され、机にはワインボトルやグラスがいくつか置いてある。
会議には国務省から数名の外交官とカナダから派遣された外交官を含めた国務長官が進めた。
「初めまして私はアメリカ合衆国、国務省長官マイク・ボンサンと申します。」
「私はカナダ連邦代表の外交官ジュリー・ペイジレットと申します」
「は、初めまして私はクワトイネ公国使節団ヤゴウと申します。」
「わ、私はロボルト卿の…」
とクワトイネ側も紹介が終わるとマイクは両手を広げ歓迎の形を表す。
「我が国へようこそ、クワトイネ公国の使節団のみなさま、どうぞ最高級カルフォルニアワインをご用意いたしましたので、おかけください。」
と使節団と外交団は座り、まずはお互い社交辞令を交わす。
クワトイネ側ではこの会議でアメリカがクワトイネ側へ何を要望したいのか、具体的に決める場と聞いており、最も警戒していた。
ロサンゼルス市、超大型飛行機、圧倒的流通システム、文明力など見させられたあとで、どんな要望が来るか、予測できないでいた。
もしかすると服従か?属国…植民地…
悔しい話であるが、我が国が逆立ちしても圧倒的差がついており、まず勝つことはあらゆる面で不可能である。
もはや使節団の頭の中で蛮族と認識するものは一人もおらず、先日この国の代表アメリカ大統領に会った時は蛇に睨まれたカエルの状態であった。
もちろん、今までの対応からして、決めつけるのは早計ではあるが、それでもどうしても不安がよぎっていた。
さあ…何が来る…と不安を持ちながらしんみりとした雰囲気を出していた。
「では世間話はここまでにして、本題に入りましょう。農務省ビル担当官よろしくお願いします。」
「農務省のビルと申します。単刀直入で掲示いたしますと我々は自給できるだけの食料は生産しておりますが、一部の食料は供給が足りず、食料を求めています。必要なリストをまとめた書類は2ページの上の欄に載っております。」
書類にはアメリカでは生産できないヨーロッパ・アジア・アフリカ・南米・オーストラリアなどしか生産できない食料が載っていた。
アメリカには世界中の植物の種や情報を豊富に持っていることは有名ではあるが、一から生産することは相当な投資をしなければならず、それなら他国から輸入したコストが安くなるという点と異世界の動植物を輸入する名目ができるということが考慮され、輸入が決定された。
例えば南米で生産されているコーヒー豆類、東南アジアで生産される野菜や果実などが圧倒的に不足している状態だ。
クワトイネでは天然資源は少ないが、良質な野菜・魚類・果実・肉類・穀物製品が生産され、生産される食料の幅が広いことは事前の情報でわかっていた。
さらにそれらが全く品種改良もしないまま、勝手に育つというのだから食糧生産大国のアメリカ側としても注目していた。
「うむ……年間あたりの総トン数も1500万トンですか」
「はい、貴国は農業が非常に盛んな国と伺っております。食料自給率が100パーセントを超えているので、どのくらい輸出可能なのか、知りたいと思っています。お互いの理解をもう少し時間をかけられればよかったのですが、いかがでしょうか?時間を改めて聞いた方がよろしいでしょうか?」
「いえ、大丈夫ですよ、そうですね……現段階でいくつかの小目に該当する食料は我が国では良くわかりません、水産資源でも我が国の技術では到底供給を確保できるほどの量が獲得できないのも理由の背景にはありますが、それ以外でした十分輸出することは可能です。もちろん国王の許可が入りますが…」
「が?」
(ほう、食料の名前は地球のものであるが、どうやら名前も一緒みたいだな…)
「我が国にはこれほどの食料を貴国へ運ぶ手段を持ち合わせておりません。内陸の方へ大穀倉地帯が集中しており、それらを港へ運ぶだけの交通手段がありません。たとえ港へ運べたとしても、それらを積載するだけの大型船はありません。」
アメリカからの要望は供給するだけの量を確保するだけは可能だ。
だが年間1500万トンの食料を輸出するのは非常に困難であり、例え自国の軍船、商船を全て動員しても運ぶことは不可能である。
「なるほど…では、インフラ関係が問題解決すれば輸出は可能ということですか?」
「はい、もちろんです。」
マイクはジュリーへ目配せした。
アメリカとカナダ3側として予測した通りと言えた。
中世の時代で1500万トンの食料を安全に新鮮な状態でアメリカへ運ぶことが不可能なことは最初の段階で知っていた。
なぜなら、いくら魔法があっても船舶は金属製ではなく、木製の戦列艦やガレオンなど帆船しかないからだ。
そんなもので運ぶのも不可能だし、運ばれても非常に困ることであった。
投資はかかるが港湾施設やインフラはアメリカ側が進めることで有利な企業進出や将来的にアメリカ製品に依存する。
クワトイネ公国側にとってこのことは気付くことはなかった。
そもそもアメリカやカナダにとって通商条約の方が重要であり食料などはクワトイネと貿易しやすいよう設定しただけにすぎない。
「クワトイネ公国側さえよければ港湾施設の改築とクワトイネ国内の穀倉地帯へ進むインフラ、鉄道関係の整備は我が国とカナダから政府援助資金を出し、我が国で整備いたしますが、いかがでしょうか?」
」
!!!!!!!!!!!!!
クワトイネ使節団がざわつく。水と食糧はタダを言われるクワトイネ公国において、食料輸出により、国が潤い、さらに、港と鉄道のインフラ整備をアメリカが買って出た。
これほどの好条件があろうか。
会議はその後も続き、港湾施設の改築やインフラ関係の企業を進出させることにも好意的であり、調査によりクワトイネ側にとって必要ない資源地帯へ工場進出させるなどいくつかの条件も快諾した。
もともと農業が中心の工業などは第一次産業ほどしかない、クワトイネは農業、林業、漁業(水産業)が中心で、第二次産業は全くない。
*第一次産業は農業、林業、漁業(水産業)を中心とする産業を示す
*第二次産業は、第一次産業が採取・生産した原材料を加工して富を作り出す産業を示すことだが、具体的には電気・ガスなどを生み出す発電所や精製施設などが該当される。
これによって第二次産業を主な業種とする企業はいくつか候補が上がり、アメリカの凍りついた経済を動かすための第一歩となった。
後に建設したインフラや港湾施設、公共施設についていくつかの条件を出されたが、何事も順調に進んだ。
会議は良好に終了した。
10日後・・・・・・・。
クワトイネ公国とアメリカ・カナダは以下の条約を締結した。
クワトイネ公国ならびにアメリカ合衆国・カナダ連邦における同意事項。
○ クワトイネ公国は、アメリカ・カナダに必要とする食料を輸出する。
○ アメリカ・カナダはクワトイネ公国のマイハーク港の拡充、マイハークから穀倉地帯へのインフラを、両国の資金により整備する。
○ アメリカ合衆国・カナダ連邦及びクワトイネ公国は、国交樹立に向けた話し合いを継続する。
○ 為替レートを早急に整備する。
○ アメリカ・カナダはクワトイネ公国からの食糧一括購入の見返りとして、今後1年間はクワトイネ公国国内のインフラ(水道、電気、ガス)の整備を行う。
その後は、為替レートによる食料額に応じた対応を行う。
○ アメリカ・カナダ、クワトイネ公国は、不可侵条約締結に向けた話し合いを継続する。
○ クワトイネは整備された公共施設やインフラ関係のメンテナンスや維持費の負担額を3年後に話し合いにより負担すること。
使節団にとっては、とても良い条件で、アメリカ・カナダと良好な関係を構築することを実現し、アメリカとカナダ、クワトイネは、今後切っても切れない友好関係を築き、運命共同体となって、この世界の奔流に挑むこととなる。
クワトイネ側としては今後の会談次第ではアメリカ・カナダとの軍事同盟・安全保障条約も視野に入っており、仮想敵国ロウリア王国に対抗すべく、日夜暗躍することになった。
クワトイネ公国との国交締結が順調に進み、アメリカとカナダは異世界の国家との外交は順調そのものだった。
クワトイネ公国の隣国であるロウリア王国やクイラ王国とも外交官を送る予定であった。
外交が順調に進んだことを報告として聞いた大統領執務室で座る人物はほくそ笑むのであった。
ホワイトハウス安全保障会議
クワトイネとの外交成功はアメリカ側にとって異世界国家との貿易確立の前進となった。
クワトイネは中世時代の文明レベルでしかないが数年かけてアメリカとカナダが支援すれば立派なインフラや公共施設を持つようになり、食品・インフラ・公共設備関係の企業やサービス業界、自動車業界などが進出予定であった。
会議室の一番最も周りを見渡せる席にいるのはアメリカ大統領であった。
「以上トワトイネ公国と友好関係を築くことに成功し、将来的に企業進出が可能な国家となりました。」
「おー…」
「さすがですな…」
「これで少しは希望が見えますな」
「しかし、まだ安心はできませんぞ、海外事業を中心に大打撃を受けた企業は金融的危機でもあるのだ。この異世界をもっと接触しなければ我々にとって有利な条件で外交を進めることは今後難しくなるだろう。」
と経済界の議員は発言する
「はい、諸君、我が国で生産できない食料を確保したことと友好国を得られたことは非常に大きい。
今後二カ国の他に文明圏の国家、中央世界と呼ばれるこの世界をまとめる列強と呼ばれる国家との繋がりも今後として注目しており、私はこれに積極的に推進したいと思う。」
「文明圏?」
「中央世界?たいそれた名前だな……」
「まさに異世界ですな…」
「大統領、一つご質問よろしいでしょうか?」
「なんだね、国防長官」
「この世界は中世のヨーロッパ同様と聞きます、そんな世界で果たして友好は順調に続くものでしょうか?」
「いえ、クワトイネやクイラではうまく行きましたが、当然断った国もあります。中には我々を蛮族と罵り追い払った国家もいました。」
「蛮族?」
「彼らにとって我が国とカナダは転移したのだから、知らないのも当然と言える。今後の外交方針の中では我が国を知ってもらうことで最悪の事態を避けることとし、彼らと対話することが今後の大きく影響するでしょう。」
「大統領…最悪の事態とは一体何でしょうか?」
「戦争です。この世界は中世同様であるならば歴史をよく知っておられる方はお分かりでしょう。
紛争・内乱・戦争・革命は当たり前の世界において地球のように我々が持つ価値観・考え方・思想・概念が通用しない場面も存在します。
事実、訪問したロウリア王国という国は我が国がクワトイネと国交を締結したため、我が国へ属国を宣言し、外交官を斬り捨てられる寸前まで状況が発生しました。
我が国民を守るためにできる限り戦争は外交の最終手段とし、話し合いで解決することを目標としています。」
「戦争ですか…お言葉ですが大統領、中世の技術力・国力・軍事力程度しか持たない国家であれば戦争が起きても問題がないのでは?そのような国であれば我が国の沿岸警備隊でも対処が可能ではないでしょうか?」
「そうとも行きません。なぜなら彼らだけではなくこの世界には魔法や竜、亜人、海獣がいるからです。
我々の常識が全く通用しないものが溢れている世界において技術的格差があっても安全とは言えません。
亜人の方は友好的な付き合いはできますが、竜・海獣などは言葉が通用せず、中には脅威を持つものも現れる可能性もあります。
現在、我が国は国内問題が多く抱えております。
アメリカ総戦力のうち3割が消失した今や再建に多くの時間を有します。
例え短期間で再建できたとしても大規模な国家総力戦など我が国の負担でしかありません。」
議会は事前に知っているとはいえ、騒然となった。
「現在、調査中ではありますが、万一魔法による侵略や攻撃に備え、対策中であります。」
「失った戦力を回復するだけではなく、増強する必要もあるのではないのですか?相手がどんな手段を用いるか、わかりません。しかし、それらを調査しつつ対策として軍備を増強する方がいいのでは?」
「確かに…」
「未知の世界において我がアメリカは国内問題を一刻も収束させ、この世界を知ることである。
アメリカを回復させるために最大の努力をすることを私は全力を注いで回復させる。
そのためにも現段階ではまだ、情報が少ない状況の中、憶測で判断するのは早計というものだ。
軍備や魔法については次の議会とし、方針としてカナダと連携し、世界の全容を掴み、文明圏との接触という形式でよろしいですかな?」
議会のあちらこちらから拍手が上がる。
アメリカは数週間ようやく暴動や大混乱から立ち直りつつあるが、まだまだ傷は深く、かつてのアメリカを回復させるために奮闘するのであった。
クワトイネ公国からクイラ王国やロウリア王国の情報が入ってくるにつれホワイトハウスはロウリア王国との交流は厳しいと分析した。
なぜならロウリア王国とクワトイネ公国・クイラ王国は敵対関係であり、ロウリア王国が亜人殲滅のために近々戦争するかもしれないからだ。
流石にこの状況にアメリカ政府内でもクワトイネ公国との国交締結は早期ではないのか?という意見も出たが、アメリカに鎖国という文字はない。
確かに自給するだけならアメリカ国内だけで十分可能だ。
だが、モンロー主義でやっていけるほど国内は余裕がなく、ゆっくりと衰退してしまうだろう。
後のクイラ王国となら十分、国交締結に値する国となった。
さらにクワトイネ公国からいくつかの面白い情報も得られた。
それはクイラ王国には作物が育つ土壌はなく、植物すら育たない土地
しかも鉱脈は豊富にあるが鉱物の屑ばかりで、金銀銅鉄はあまり産出されない。
さらに平地には燃える黒い水が溢れているということだ。
これにアメリカ・カナダ外交官は注目した。
北米の原油埋葬量は採掘されていない原油は多く存在するが、できれば他国から輸入したい。
地球でもアメリカは大量の原油を輸入することで国内の原油埋蔵量を温存する政策意図もある。
なので、クワトイネ側にクイラ王国へ仲介役として頼み、クワトイネ側はそれを了承した。
クイラ王国 王都バルラート
クイラ王国は中東のような岩山と砂漠、高原ばかりが広がり、特に産業は全くと言っていいほどない。
クワトイネ公国のように緑の自然には恵まれず、作物も燃える黒い水や屑鉱石の鉱脈のせいで全く育たない。
特に産業がない、クイラ王国はクワトイネ公国などを中心に優秀な戦闘団を抱えており、傭兵や人材派遣によって外貨を得る。
そして、その外貨でクワトイネから食料を購入することで何とか食料を得ていた。
ロウリア王国との関係は冷え切っているため、クイラ王国側もクワトイネは国家の生命線と言えるものであった。
クイラ王国の外交を司る王宮貴族メツサルは、『急な要件』ということで会談を希望してきたクワトイネ公国の大使を部屋で待つ。
(急な要件とは一体何だろうか? まさかロウリア王国に変化が?)
彼の頭の中を、様々な可能性が駆け巡る。
ロウリア王国は、人間種以外の種を亜人(人間に満たない存在)と蔑む人類至上主義の国である。ロウリア、クワトイネ、クイラが存在するロデニウス大陸の統一を目論む覇権主義国で、特に最近は緊張状態が続いている。
メツサル自身もドワーフと呼ばれる種なので、もしロウリア王国の支配に陥ればどうなるか、わかったものではない。
会談内容について思いを巡らせていると、部屋の扉が開いた。クワトイネ公国の外交官ペインが、緊張の面持ちで入室してくる。
メツサルも立って出迎え、挨拶もそこそこに二人は席に着いた。
「急な要件とは一体何でしょうか?」
「実は我が国へ『アメリカ合衆国』と『カナダ連邦』という国家が我が国へ来訪し、我が国はアメリカへ使節団を派遣しました。」
「アメリカ合衆国?カナダ連邦?それがどうかしたのですか?」
国家と国交を締結することは珍しいことではない。ロデニウス大陸以外にも訪れる国家は存在する。
ペインは話を続ける
「我が国は両国との国交を締結いたしました。」
「…なるほど」
国交を締結するならば一声かけてもらいたかったのだが、と少し不満があったが、気にせず進める。
「そこで貴国へ是非ともご相談したいことがあって、今回秘密裏に会談を申し込みました。
両国はクイラ王国とも国交を結びたいらしく、我が国に仲介してほしいと頼んで来たので参りました」
まだ『急な要件』とは言えず、それが引っかかっていたメツサルが切り出した。
「して、当初お急ぎのお話だったようですが……何か特異な事態でも?」
先手を打たれたペインは、しばし沈黙する。ややあって、重い口を開いた。
「実は……そのアメリカとカナダという国があまりにも特殊すぎるのです」
身構えていたメツサルだが、『特殊な国家』という形容が理解できず肩透かしを食らう。
ペインはクワトイネ公国とアメリカ合衆国との接触から使節団の話をした。
メツサルはにわかに信じられず、目を剥いた。
「……信じられません。その話が本当だとすると、文明圏内国家……いや、列強国と同等……もしかしたらそれすら超える国ということになる。そんな国が今まで知られなかったはずがない!!」
超大国科学文明国家、ペインが持ってきた上質な絵(写真)にはニューヨークのビル街や工業地帯などが写っており、その絵が信じがたいものが写っている光景に驚愕するのと同時にあり得ないという頭の常識が邪魔をする。
さらにカナダ連邦の写真にはカナダ オンタリオ州トロント市のシンボルタワーCNタワーが載っており、圧倒的高さに驚愕する
*CNタワー 高さ553.33mという世界有数の電波塔
「その通りです。しかし彼らは『突如、異世界から国ごと転移してきた』と申し立てているようですが、彼らの国は本当です。魔法を一切使わず、科学という力が彼らの文明の源のようです。」
「魔法を…ありがとうございます。しかし新たな脅威ですな、アメリカとカナダの種族構成はどのようになっているのかはご存じでしょうか?」
メツサルは人間種以外の比率が気になって尋ねた。
仮に人間種の比率が多い国の場合、他種を迫害している可能性も考慮する必要がある。
「それが……人間種のみで構成されているようなのです」
「な……なんと!!ではドワーフや獣人族、エルフは存在しないというのでしょうか?」
「……はい」
「ロウリア王国のように人間種以外は迫害しているのか、もしくは攻め滅ぼしたのかもしれません。そんな国とは関わりたくないものです。」
メツサルの強まった語気を、ペインは穏やかに制する。
「ご安心ください、彼らは確かに人間種しかおりませんが、ほかの種族に対して非常に寛容的です。
国力や技術、軍事力も全てにおいて列強国を超えているというのは確かです。
そんな彼らがこちらへ友好的に興味を持っておりますゆえ、決して敵対関係にならないことを強くクワトイネ側としてご忠告として言います。」
「そこまで、か…」
一国の外交を預かる身として、メツサルは冷静さを取り戻す。
「む……少々熱くなりすぎたようです。では私どもも、アメリカ・カナダの使者を受け入れ、まずは話だけでも聞いてみようと思います。忠告に感謝します。」
後日、クイラ王国とアメリカ・カナダのファーストコンタクトとして、会談の場が設けられることとなった。
■ 約1週間後
クイラ王国とアメリカ合衆国・カナダ連邦の初会談の日がやってきた。
両国は海岸から離れた内陸部に位置する王都パルラートへ来るために、事前に飛行許可を取った後、海上の大型船から飛行機械が飛んできた(後にアメリカのオスプレイ、ヘリコプターという名前を後から聞いた。)
突如現れた見たことのない飛行物体を初めて見たときの王都は、すべての軍民が驚愕につつまれた。
両国との会談はクイラ外務局の応接室に移動し、お互い社交辞令から入った。
「初めまして、私はアメリカ合衆国の国務省から来ましたマイケルと言います。この度は貴国とのこのような機会に巡り会えて光栄です。」
「同じく、私はカナダ連邦から来ましたジョージと言います。本日はよろしくお願いします。」
丁寧な挨拶に警戒心を解かないメツサルは、無表情で相手を観察していた。
「ご丁寧な挨拶ありがとうございます。両国のことはクワトイネ公国から噂は聞いております。技術的に非常に高く、高度な文明力を誇る国家とお聞きしました。
ご存知の通り、我が国は大きな産業や名産物もありません。そのような貧しい我が国に何をお望みなのですかな?」
もし、ここで両国からの要望が「生贄のための人的資源がほしい」や、「政治体制に対する介入」もしくは「領土的野心」があれば、追い返す気でいた。
この国は自然が非常に少なく、クワトイネ側から流れる水源も土地の環境によって乏しい。
そのため食糧生産どころか、鉱物資源すらほぼない我が国は非常に貧しく恵まれた領土を持っていないせいで第一次産業すらほぼ成り立っていない。
その状態で何とか国家としての形があるのも今まで我が国の不毛な土地を欲しがる国が居なかったおかげで侵攻されたことが建国以来ほぼないが、敵対勢力が居なかったわけではない。それがロウリア王国
ロウリア王国はクワトイネ公国とクイラ王国が持っている特性を持った王国で、人的資源や食糧生産に関しては2カ国を凌駕している。
その為日々侵攻に怯えながら軍事に何とか少ない資金を抽出し、軍拡を行なって居たが、国民全体で今日すら生き残ることへ必死な状態で軍事力も増えるわけもなかった。
そんな国家として何とか成り立っている国だ。
「我々としては、友人となる予定の国家から卑劣な手段で奪うつもりも、領土的野心も一切ありません。
我々が求めるのは友人となる友好国です。
国交を締結することにより、できるだけ多くの友好国を欲しております。
また、クワトイネ公国大使からお聞きした情報で、貴国には『燃える黒い水』と『金銀銅にならない屑鉱石や鉱脈』が存在すると…
クワトイネ側から貴国で採掘されたサンプルを拝見しました。
是非ともこれらを我が国へ輸出してもらいたい。
為替――お金のレートが未決定なので、これらが決定するまでの間、我々は『インフラ』を輸出いたします」
ほう…随分と超文明国家にしては優しく丁寧でこちらに不利益となる要素は一切ない。
だが、逆に彼らが求めている対象物がクズ扱いとなっている鉱石や燃える水だとは一体どういうことなのだ?
だが、これらを輸出するだけで我が国には長年問題であった交通網や水道も解決し、さらに彼らは「はつでんしょ」や「てつどう」という彼らの持っている技術を入手することできる。
まさに夢のような内容であった。
しかし、これらを輸出するには大きな問題があった。
「確かに……作物を作るのには使えぬ燃える水は、我が国に大量に噴き出しています。
ただ、あれは液体状の異臭を放つものであって、樽や桶で保存しようにも入れ物自体が染み出し、ダメになってしまいます。
あれらを仮に管道設備を建設し、吸い上げようにも石垣、木材のつなぎ目からも液体が漏れ出し、とても輸出は困難です。
鉱山で一応『燃える石』がございますが、そちらはいかがでしょうか?」
「(管道設備?パイプラインのことか?)いえ、石も素晴らしいものでありますが、あくまでも我々が求めていますのは『燃える水』の方でございまして、燃える水の採掘や輸送などの必要な設備や施設はこちらで作りましょう。
詳しい施設の内容は、こちらの用紙を見ていただければお分かりになられると思います。」
「屑鉱石に関しましても、そちらで扱われる金銀銅以外のもの全てを我々は欲しております。」
1枚はメツサルが読めない字で書かれていた。もう1枚は大陸共通言語のいくつかが記載された対訳表らしく、アメリカ合衆国は本来言葉が通じても文字や文法などが違うのだと初めて気づく。
クワトイネ公国でも英語で通じたのだが、どちらかというとこちらの世界の英語はイギリス寄りが多く、聞きなれない英語もあった。
対訳に沿って読み進めると、その条件はクイラ王国にとって苦痛の種であった各種インフラの整備内容が書かれ、にわかには信じられないような好条件の内容だった。
(す、すごい…国内の異臭の放つ、燃える黒い液体と池、屑鉱石を差し出すだけで、これほどの技術を輸出してくれるとは…これは確実に国が豊かとなる。
ここに書いてあるリストに乗っているインフラだけでもかなり大規模工事となる。
まさか、ここに使う労働力を我が国から?
というか、とてもこれほどの事業が実現するとは思えない。
例え100年ほどの歳月をかけても無理だろう。)
「・・・この条件は本当なのでしょうか?これほどのインフラを完成させるまでに多くの時間と人的資源が必要としますが…」
メツサルが少し不安な気持ちで尋ねると
「はい、我が国とカナダ連邦について紹介資料を作成しましたので、ご簡単にお説明いたしましょう。」
ジョージは空間投影型立体映像をパソコンから展開し、クイラ王国側に見せる。
見たことのない現象が起きたため、ビクついた人も出たが、両国は構わず続ける。
天を貫かんとする高層建設物、豊かな自然、そして美しい四季。インフラ整備のための工事方法や順序を納めたその映像を見て、メツサルは驚愕につつまれる。
ペインが持ってきた絵と同じ光景…いや、もっとだ…
どれもこれも見たこともないような風景、技術であり、『アメリカ合衆国』と『カナダ連邦』という国が、世界の列強国に匹敵するほどの国だと理解するに至る。
映像の真偽を確かめなくとも先ほど見た飛行騎、映像技術
未知の領域ではあるが、確実に言えることは蛮国ではないということだ。
人間種以外の種族は元々国内におらず、差別が原因ではないと知って、メツサルはようやくクイラ王への上申を決めた。
後日、クイラ王国はアメリカ・カナダとの国交を結び、両国からのあらゆる支援によって、クイラ王国史の中でも類を見ない発展した。
さらにアメリカ・カナダの自然再生機関により、クイラ王国は一度も緑を誕生させたことがない土地から植物を植林し、未来クイラ王国は自国では到底望めなかった農業という産業を生み出すことになり、数十年後のクイラ王国は一度も親米国家として崩さず、クイラ王国民からも親しまれることになった。
なお、緑化に成功したのはカナダの機関により、クイラ王国には多くのカナダ人が訪れることになったという。
クイラ王国はクワトイネ公国に並ぶアメリカとカナダの友好国として、世界に名を轟かせることとなる。
アメリカとカナダの企業はクイラ王国から屑鉱石として捨てられていた鉱山や鉱脈を発掘し、クイラにはアメリカが必要とする原油・天然ガス・シェールガス・レアアース・レアメタルさらには石材など天然資源にアラスカより小さな領土にアメリカやカナダの年間消費量の数百年分が埋蔵されていることに政府関係者や科学者、資源関係企業は驚愕し、クイラ王国は両国にとって最重要貿易国として認定された。
さらにクイラ王国のレアメタル・レアアース地帯の地層には未知の鉱物なども発見され、これが後になって大きな影響を及ぼすことになる。