星と楓の異世界戦記(旧 2019年打ち切り)   作:ミュラ

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9真相か、嘘か?

 

 

ロデニウス派遣艦隊、旗艦ジェラルド・R・フォード級3番艦エンタープライズ

 

ロデニウス沖海戦に圧倒的勝利を収めたアメリカ軍は2300隻以上の敵艦を撃沈した。

海戦終結後、パターソン提督は漂流者の救助を指示した。

各艦で小型ボートやゴムボードなどを動員し、全員を救助した。

救助した負傷者は重症の兵士から治療が行われた。

 

「そうか…生存者は8798人ほどか…」

 

「はい、パターソン提督、救助した生存者もほとんどが負傷しており、現状我が艦隊だけでは対応が困難となっています。

本国から病院船を要請する必要があるか、と思われます。」

 

「分かった伝えておこう、捕虜の様子はどうだ?」

 

「はい、大人しいものですが、貴族と思われる士官クラスの対応に乗組員も手を焼いているようです。」

 

「貴族、か…我らにはあまり縁のないものだからな、丁寧に対応するように、彼らは仮にも我々より遅れていようと軍人であることに変わりはない…ましてや原子力空母やイージス艦を含む艦隊に帆船で挑むのだから勇敢な軍人だ。」

 

「イエス・サー!」

 

「・・・これで奴らは暫く動けないはず、あとは海兵隊、陸軍と空軍の仕事だな。」

 

恐らく地上戦も一方的な戦いとなるだろう。

 

相手は近代兵器を待たない、中世の軍隊だが合衆国が最も警戒しているのは魔法・魔術。

魔法・魔術はクワトイネからの協力を得て、合衆国に新設した研究所で研究しているが、目覚ましい成果は出ていない。

 

先の海戦も攻撃魔法はあったものの、こちらの艦艇には一切被害を受けず、航空部隊に至っては上空へ打ち上げている花火でしかなかった。

クワトイネの魔導士でも、最も威力のある攻撃魔法で対戦車ミサイルに相当すると研究機関は報告書を出しているが、厳重な警戒は必要だな…

 

 

ロデニウス派遣艦隊は生存者を救助し、そのままクワトイネへ帰投した。

 

 

中央暦1639年6月3日

 

ロウリア王国東方討伐海軍

 

残存するロウリア艦隊は何とかロウリア王国交易の中心地であるマームロット市へ帰還した。

マームロット市とは王都ジン・ハークより北西部数百沿岸部の軍港を備えた軍事的に重要な拠点だ。

ここには軍港のみならず他国からの貿易船や輸送船で常に停泊している。

規模としては第3文明圏のパーパルティアほどではないが、それでもロデニウス大陸の中で最大級と言える。

 

満身創痍となった艦隊にマームロットの住民は驚愕した。

無敵艦隊と謳われた艦隊が実に6割撃沈され、3割が大破寸前まで追い込まれた状態で帰ってきたのだから。

最終的にロウリア艦隊は帰還中に船体のダメージに耐えられず沈没した艦艇を含めると2400隻以上が損失した事となる。

船内には未知の軍による攻撃で負傷した兵士で溢れかえり、着いた港湾施設の医療関係施設では混乱も起きるほど負傷者が運ばれる。

しかし、最も驚愕したのは王や軍部だった。

戦力のほとんどが実質消失するなど古の魔法帝国との戦争でもない限りあり得ない。

これを受けた軍部は対策を練っていた。

 

(実際のところ生き残りの兵士から得られた情報が信じられないものばかりで対策立てようがなかった。)

 

ロウリア王国海軍の敗退は交易する商人から周囲の地域へ知れ渡った。

 

 

 

 

艦隊が軍港へ戻り、大使館で震えていた人物がいた。

パーパルディア皇国の観戦武官ヴァルハルだった。

彼の乗る戦列艦は運よく撃沈されなかった。

彼の任務はロウリアの4400隻の艦隊がどのようにクワ・トイネ公国を消滅させ、記録することだった。

蛮族に相応しいバリスタと、切り込みといった原始的戦法でこれだけの数をそろえたらどうなるのか、個人的興味もあり、彼はこの任務が楽しくなり、希望した。

 

しかし、現れた船は、彼の常識をも遥かに超えたものだった。

 

見たことのない鉄龍の登場、赤トンボのような飛行物体

 

帆船を増速させる「風神の涙」を使った形跡が無いのに、圧倒的に速い。

そもそも帆が無い。

100門級戦列艦よりも、大きい船であるにも関わらず、巨大な大砲を1門しか積んでいないのを見て思う。

何かの冗談か?

 

蛮地に無いはずの大砲があった事には感心したが、大砲はそう当たるものでは無い。

命中性能の低い大砲だからこそ、100門級の戦列艦が存在するのだ。

しかし、そんな常識はあっさりと破られた。

彼らの船は、3km放れているにも関わらず、1発で命中させる。しかも巨大な大砲であるため、1撃で船が撃沈する。

さらに驚くべきは、ワイバーンの波状攻撃を防いだ事。

 

我が軍であれば、竜母を使用し、ワイバーンにはワイバーンをもって対抗する。

地上からワイバーンを確実に撃墜する方法はない。

蛮地よりも性能が遥かに良いため、多少数の差があっても確実に勝つ。

そもそも、大砲は空を飛ぶ物に当たるはずが無い。

それが常識だった。

しかし、彼らはワイバーンにさえ、初弾で命中させた。とても人間業ではない。

飛行機械はムー国の飛行機械よりも遥かに高速で大きく、ワイバーンを一方的に気散らした。

速度もワイバーンを遥かに超え、気がついたときには既に真上を飛んだ後であった。

あの飛行機械は最低でも500kmは出ていただろう。

そうでなければあの光景に映る圧倒的な機動力・速度・加速能力・聞いたことのない音…

ムーのように二枚の主翼とプロペラがなかった…

もしかするとミルシアルから援助を受けている…?

 

さらにあの飛行機械は東方から接近してきた。

東方は海ばかりで飛行場を建設できる場所はない。

つまり、奴らは我々と同じ竜母艦…いや、ムーやミルシアルと同じ航空母艦を?

あのめちゃくちゃな命中性と連射能力…

 

恐らく第一文明圏国家が技術提供していることも考えられる。

 

 

 

クワトイネにとんでもない化物が味方に付いた。

それもただの蛮国だけではなく下手すれば文明圏にも影響を及ぼす強大な軍事力を持った国

 

これでは我が国の戦略が根底から崩される!!!

 

彼らの存在を知らずに、事を進めると、パーパルディア皇国を脅かすかもしれない…いや、必ず脅かす…

 

…容易には信じてもらえないだろうな…だが、信じてもらえなければ、滅ぼされる。

 

…痙攣が止まらない手を必死に抑え、見た光景がフラッシュバックする

 

一方的な虐殺

 

あの地獄を本国で起こさせてはいけない…

 

ヴァルハルは、魔伝によりロデニウス沖海戦の戦闘記録を本国に報告した。

 

 

 

 

一方少し時を遡った陸軍陣営では…

 

ロウリア王国 ワイバーン本陣

 

敵主力艦隊発見の報を受け、その攻撃に飛び立った350騎、悲鳴と共に通信を途絶して3時間が経過した。

司令部に重苦しい沈黙が流れる。

何故通信が無いのか?そして、時間になっても全く帰ってこない竜騎士達、司令部は焦燥に包まれていた。

 

「何故帰ってこないのだ?」

 

問い合わせに答える者はいない。

 

通信では…

 

『何だ、あれは…!?』

 

『こ、こっちにくるぞ!旋回しろ!』

 

『何でついてくるんだ!?ぎゃあああああああ』

 

『は、早く散開せよ!避けろおおお!!』

 

『こちらエローラ隊1番騎!部隊は壊滅!敵は誘導魔法を使用した光の矢で攻撃してきた模様!我、これより敵艦隊を視認!

大型戦闘艦へ突っ込む!!!』

 

一体、何が起こっている…

 

まさか?全滅!?

 

ロデニウス大陸の歴史において、ワイバーンは最強の生物である。しかし、貴重な種でもあり、数が揃えられない。

ロウリア王国の500騎というのは、ロデニウス征服を前提に、パーパルディア皇国からの援助を得て、6年かけてようやくこの数に達した。

圧倒的戦力であり、確実にロデニウス大陸を征服できるはずであった。

そして、敵主力の報を受け、飛び立っていった精鋭350騎は圧倒的に歴史に残る大戦果を挙げて帰ってくるはずだった。

しかし、現実は一騎たりとも帰ってこない。

考えたくない。考えたくないが、全滅した可能性が高い。

常識的に考えて、敵が大艦隊だったとしても、350騎のワイバーンを全滅できるとは考えられない。

まさか、敵は伝説の神龍バハムートでも使役しているのだろうか?

ハーク様になんと報告したらいいのか、解らない。

そもそもどうやって全滅させるというのだ…?

 

あまりにも常識はずれの出来事に頭を痛めながら次の指令を出すのであった。

 

「・・・先遣隊へ連絡、竜騎士団のうち、半分を緊急に本陣に寄越せと伝えろ、急げ!作戦の見直しが必要なようだな…」

 

 

 

 

中央歴1639年4月30日 クワトイネ公国 政治部会 

 

「…以上が、ロデニウス大陸沖大海戦の、戦果報告になります」

 

参考人招致された観戦武官ブルーアイが、政治部会において報告する。

政治部会の各々の手元には、戦果の記載された印刷物が配布してある。

付近に沈黙が流れる。

 

「で、では、何かね?アメリカ海軍はたったの20隻で、ロウリア艦隊4400隻に挑み、2300隻以上を海の藻屑とし、撃退。さらに、ワイバーン300騎以上の空襲も、上空支援無しで全て退け、撃墜し、その上、20隻には全く被害が無かったというのかね?

人的被害ゼロと記載がある。死者どころか、負傷者もなしだと!?

わが国の艦隊は出る幕が無かったと…。

戦闘開始から60分で約2300隻の船が破壊されただと!?

そんな御伽噺でも出来すぎた話だ…政治部会で、観戦武官の君がわざわざ嘘をつくとも思えないが、あまりにも現実離れしすぎて、信じられないのだよ」

 

「アメリカ軍の被害は無傷だと!?馬鹿も休み休み言え!」

 

誰もが同じ思いだった。観戦武官の彼でさえ、信じられない戦果だった。

 

まだ20隻で挑み、数百隻を海の藻屑にしたということなら常識範囲と言える。

 

彼らは一体、どうやって戦った?本当に犠牲なしなのか?と疑問が抱く中、外側に座っていた貴族が発言した。

 

「外務卿!大体、彼らは必要最低限度の戦力しか持ってないのではなかったのか?」

 

野次が飛ぶ。

本来は、ロウリアの侵攻を防ぎ、国の危機が少し去ったので、喜ぶべきところが多いのだが、あまりにも1会戦の戦果としてはすさまじすぎるので、政治部会にはある種の恐怖が宿っていた。

 

首相カナタが発言する。

 

「いずれにせよ、今回の海からの侵攻は防げた。まだ2100隻残っているが、たった20隻にここまでやられては、警戒して海からの再侵攻には時間がかかるだろう。

それに彼らは20隻だけでも2300隻以上の艦艇を無傷で撃沈し、ワイバーンすら手も足も出なかったような相手だ。彼らはそれで十分と判断しからこそ派遣してきたのだろう。陸のほうはどうなっている?軍務卿?」

 

「現在ロウリア王国は、ギムの周辺で陣地の構築を行っております。海からの進撃が失敗に終わったため、ギムの守りを固めてから再度進出してくるものと思われます。我がほうでは、電撃作戦は無くなったと分析しております」

 

軍務卿は続ける

 

「アメリカとカナダ軍の動向についてですが、先週から上陸したアメリカ海兵隊は首都クワトイネの西側30kmの地点にあるダイタル平野の縦横3kmの貸し出し許可を求めてきております」

 

「ギムと首都の直線上だな…。陣地を構築するつもりなのか?」

 

「前線基地を構築したいとの申し入れがありました。」

 

「あそこは何も無い平野で、土地も痩せていたな……よし!外務卿、アメリカに対して、基地構築の許可を与えよ。好きに使えと」

 

政治部会内でわずかな反発もあったが、アメリカの力無くしてロウリアを撃退できない事は誰もが理解しており、さらにこれほどの力を持つアメリカが万が一牙をむいてきたらどうしようもないことも理解していた。

アメリカの要請を断る理由は無く、アメリカ軍は莫大な兵站能力を発揮し、強襲揚陸艦を中継基地に次々と物資が輸送され、LCAC-1級エア・クッション型揚陸艇によってあっという間に空港、前線基地が建設されていた。

 

 

 

ロウリア王国 

王都 ジン・ハーク ハーク城

 

34代ロウリア王国、大王、ハーク・ロウリア34世は、ベッドの中で震えていた。

先刻発生したロデニウス沖大海戦で、アメリカ合衆国と名乗る新興国が参戦し、ワイバーン350騎が全滅し、さらに、艦船2300隻が撃沈された。

生き残った艦隊も7割以上が中破か大破しており、到底海軍が動ける状態ではなかった。

しかも、こちらからの攻撃による被害は一切確認されていない。ほぼ皆無である。

報告には荒唐無稽な部分が多い。

 

曰く、光の矢が飛んできて、避けても追って来る。

ワイバーンはこれらにより、そのほとんどが撃墜されている。

これは、何らかの新しい魔導兵器と解される。

しかし、次の、距離7km以内に接近した際、に、何かに撃墜されたとある。

何かって何だ?

しかも、敵は一発でこちらの船を破壊する魔導を連続で打ち出した。どれほどの魔法力が必要か、想像も付かない。

さらに剣のような形をした飛行物体が轟音を鳴りながら、通った場所に居た戦列艦が船ごとミンチになったという。

僅か戦闘開始から数十分で戦力5割以上の損失である。

常識に考えれば伝説級の魔導師か、神龍でもいないと不可能である。

いや…4400隻いる艦隊へ挑んで、僅か数十分で5割以上撃沈することなんて可能なのか!?

・・・無理だ…いくら伝説の神龍でも倒すこと自体はできるが、時間がどうしてもかかってしまう。

なら、我らは何と戦っている!?亜人族を根絶やしにし、さらなる勢力拡大をするのではなかったのか!!!

 

神話に登場する古の魔法帝国でも復活したのだろうか?何を相手に戦っているのかが解らない。

ロウリア王国は、昔から人口とにかく多いが、人的な質が悪かった。

しかし、この6年間で、ロデニウス征服のため、そこそこの質で、圧倒的数をそろえることが出来た。

しかし、自分たちの兵器が全く通用しない可能性がある。

質がものを言う海と空、しかし、陸戦は数がものを言う。陸戦で、なんとかなるかもしれないが…。王は、その日、眠れない夜を過ごした。

 

 

 

第三文明圏 列強国 パーパルディア皇国 

 

薄暗い部屋

光の精霊の力により、ガラスの玉がオレンジ色にほのかに輝き、影を映し出す。その数は2つ

男達は、国の行く末に関わる話をしていた。

 

「・・・・・・・何?アメリカ?カナダ?聞いたことの無い名前だが……。」

 

「ロデニウス大陸の北東方向にある大陸国です。」

 

「いや、それは報告書を見れば解るが、今までこのような国はあったか?大体、ロデニウス大陸から9000km程はなれた場所にある国だと?それほど離れているのなら発見されないのもわかるが、大陸だと?あり得ない。」

 

「あの付近は、海流も風も乱れておりますので、船の難所となっております。なるべく近寄らなかったので、解らなかっただけではないでしょうか?」

 

「どうだか、近いうちに調査させるのもいいだろう。だが、この報告書は何だ!?

いくら文明圏から離れた蛮地で、海戦の方法も野蛮なロウリア王国とはいえ、たったの20隻に2300隻も撃沈されるとは、いささか現実離れしていないか?」

 

「しかも、100発100中の大砲、ワイバーンよりも高機動力に動く剣の飛行物体、観戦武官も、長い蛮地生活で精神異常をきたしたのかもしれません。今度交代をさせてやりましょう。」

 

「閣下、我が海軍最新鋭100門級戦列艦フィシャヌスが仮に、ロウリアと戦ったら、相手から沈められる事はありません。

距離2kmで、大砲の弾の続く限りロウリアを撃沈できます。いずれにせよ、アメリカがどれほどの艦艇数でロウリアを撃退したのかは、解りませんが、彼らも大砲を作れる技術水準に達していると判断するべきなのでしょうね。」

 

「ほう、蛮族の分際で、大砲か…。今までロデニウスや周辺国家に侵攻してこなかった事実を考えるに、ようやく大砲を作れる技術に達したと判断するのが適当かもしれんな。」

 

「ところで、ロウリアがまさか負けることはあるまいな?我々の、資源獲得の国家戦略に支障をきたす」

 

「陸戦は、海と違い、数が物を言います。ロウリアは人口だけはとにかく多いので、大砲を持ち始めたレベルの国を前にして、大敗することはありますまい。」

 

「今回の海戦の報告は荒唐無稽だ。真偽を確かめるまでは、陛下に報告はしない。解ったな」

 

「了解いたしました。」

 

 

その後、パーパルティア皇国観戦武官ヴァルハルは精神的に異常がありと判断され、その任を解かれ、魔法精神医用療法を受けることになったのだ。

本人はずっとアメリカやカナダの脅威について唱え、パーパルティア皇国は二カ国との接触と同等の国交を締結すべきと訴え、我が皇国は滅亡するとまで喚いた。

結局彼の話に耳を貸そうと思う人もおらず、その1週間後に治療院送りとなった。

 

 

 

 

 

皇国にとってここが最も重要な分岐点であったが、時すでに遅く、ヴァルハルもその時が来るまでずっと魔法精神治療を受けるのであった

 

 

 

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