終局特異点で死んだぐだ子がアヴェンジャーとして召喚される話   作:九条空

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2年前に書いたまま放置してあるのを発見したので投稿しておきます


ハンス・クリスチャン・アンデルセン

「聞いたぞ。貴様も『無辜の怪物』のスキルを持っているらしいな?」

 

 あまりに脈略なく話しかけられると小心者の私はとてつもなく驚いてしまうからやめておくれよ。

 ご飯が喉に詰まったらどうしてくれるのだ。

 

「死んでも死なんだろうが」

 

 いやサーヴァントだから確かにそうなんだけど、この世界を守る戦いやってる中で、死因:窒息死(ご飯中)をやらかすのは勘弁願いたいぞ。

 さすがに恥ずかしいだろう。まあ存在が恥ずかしいのですけれどもね、バグってるからね。

 

「そのバグとやらが少しは消えてスキルが一つ読み取れるようになったと騒がれていたから話しかけてやった」

 

 アンデルセン先生の好奇心を疼かせるほどの何かがあるわけじゃないと思うけどな。

 だって私だぜ?

 

「その己の自信のなさへの自信はなんなんだ」

 

 なんなんでしょう。

 

 とりあえず、さもしく一人でご飯を食べている私にわざわざ話しかけてくれたアンデルセン先生にはなんでも話すよ。

 アンデルセン先生に聞き取れるかどうかはやってみないとわからんが。

 バグる判定がどこにあるのかは未だに私もわからんのです。

 

「お前は自ら一人で飯を食らっているのだろう?」

 

 いや違うよ友達いないだけだよ。

 

「わざわざ人のいない時間を見計らって食堂に来ていることなどカルデアにいる全員が知っているわ、バカめ」

 

 マ? 草生える。

 別に隠そうと思ってたわけでもないけど。

 

「サーヴァントが嫌いなのか? それとも人間全てか?」

 

 いやそんなことないけどなんで私が全てを憎む魔王かのように質問して来ているんですかアンデルセン先生。

 

「貴様のクラスはアヴェンジャーだろうが」

 

 ああ、そういうこと。

 私が憎んでいるのは■だから、そんなことは全くな……ええ? これ言えないの?

 

「チッ、憎しみの対象を特定することはできんか」

 

 ご期待に沿えず申し訳ないな。ええー? 申し訳ないな……そんなに大層なことじゃないのに。

 

「クラスを決定するほどの憎しみの対象についての情報が、大したことないわけなかろう」

 

 いやあ、でもこんなこと誰でも思ってると思うんだけどな。

 自己肯定感低いじゃん日本人って。■■のこと嫌いな人多いでしょうってええ? ここも言えないの。

 

 クラスについては、私はそもそもバグだからあんまり関係ないと思うぞ。

 それ以外に当てはまるものが特になかっただけで。

 アヴェンジャー以外だったら強いていうならキャスターだろうけど、それこそあまりに適性が薄い。

 

「貴様、軍師だったのだろう? 戦場に出ることも度々あったと聞いている。武器の類は一度も持たなかったのか」

 

 軍師的なポジションってだけで軍師ではない、軍師なら別にいた。

 武器かあ、持たなかったわけではないな。

 ちょっとした護身術として剣振らされたり槍突かされたり弓引かされたりしたことはある。

 

「何が適性がないだ」

 

 いやいやいや、全部全く才能なかったし、実戦で使ったことないし。

 一応自衛のために覚えとけっていうお節介が多かったんだよ、私の周りには。

 

「その言い草では生前は随分人気があったのだな、今と違って」

 

 最後の言葉余計だぞアンデルセン先生。

 人気……人気〜? あれはただの契約上の関係であって、いやまあ信頼関係がなかったわけではもちろんないけど、人気という言葉で片付けていいものなのかあれは。

 

「……ほう。では愛か」

 

 あい。

 

 あい、愛か。

 ふふふははは。いやはや先生らしいお言葉で。

 

「何をわかったように口を利いている。貴様と愛を語らったことなど一度もないだろうが」

 

 あっはっは。そうですね。

 しかしあなたの物語はよく愛を説く。それから、あなた本人も未だに。それは否定の形をとることが多いけど。

 それを私は知っている。あなたと話したことはなくとも。

 

「お前、俺のファンか? さっきから先生先生と煩わしい。いちいち名前を呼ぶのに何文字使う気だ」

 

 ハンス・クリスチャン・アンデルセンという人物に敬称をつけるのならば先生以外にあり得ないでしょうが。

 それから、それほど熱心な読者ではなかったけれど、もちろん本は読みましたよ。全部。

 

「全部。全部とは! お前、俺が生涯書いて来た本の数を知らんだろう!」

 

 知ってますよ。

 いやごめん嘘こきました、具体的な数字は覚えてません。

 

 でも全部読んだというのは本当だ。■■に確認とったし——ここ言えないのか。まあ言えないか。

 

「その言えなかった部分は人物名か?」

 

 あー、まあ、具体的な名前を言ったわけではなかったけど、人物を特定する言葉でしたね。

 

 それを言われてわかったのだけれど、今日アンデルセン先生と話してバグったのは全部人物を指す言葉だな。

 この世界にいない存在のことは基本的に言えないということか。

 ■は一応存在してるけどバグってるからいないっていうことね、なるほどなるほど。

 

 しかし■って言えなくなる時の条件は謎だな〜? 普段は言えてるのにな。

 私は■を憎んでる。ほらこれ言えないの意味わからないでしょう。

 

「その人物は俺の小説のファンか?」

 

 どっち? ■の方? ■■■■■■の方?

 

「両方だ」

 

 前者ならばそうです。後者は……え、知らん。

 でも誰よりもアンデルセン先生の小説には詳しいでしょうね、■■だし。

 

「ファンでもないのに俺の小説に詳しいとはなんだ。文学者か?」

 

 文学者が研究する作家を好いてないことってあるの?

 いや文学者のこと知らないからわかんないけど。

 

 あー、先生、先生は自分の小説が好きですか?

 

「はぁ? 何を気持ちの悪いことを言っている。ここで好きだと答えれば俺はただのナルシストだろう。己の作品に対する感情として好意というのは適切ではない」

 

 じゃあその人はアンデルセン先生の小説が好きじゃないってことになるのかな多分。

 

「ますます意味がわからん。なぜ好きでもない小説について詳しいんだそいつは」

 

 自分で■いたからですよ。あっはっは言えねえんだこれ。まあこの部分言えたら人物特定できちゃうもんな。

 

「全く、面倒臭いパズルをやらされている気分だ。この不愉快なバグさえなければ、貴様という人物など早々に暴けるものを」

 

 でしょうね。いやそもそも暴くだけの何かがあるわけでもないんだけどな。

 

「そいつはお前の恋人か?」

 

 ファッ!? なんでそうなった!?

 

「随分親しげに話すだろう」

 

 それだけで恋人判定絶対おかしいでしょ先生、別にスイーツ脳ってわけでもないのに。

 っていうかアンデルセン先生に■■■■■■と恋人だったのかって聞かれるこの状況面白すぎるでしょ。

 

「何を面白がっているのかわからんが、では友人か」

 

 だったらいいなと思います。そしてあなたともそうなれればと。

 

「ハッ! 今まで散々誰とも関わることを避けていたくせに何をほざいている」

 

 いや〜それはそうなんですけどね。

 でも結構しんどいんですよ、彼らに似ている人たちと接するの。

 

「お前が憎いのはその彼らか」

 

 まさか!

 大好きな人たちですよ。だからしんどい。

 知ってる人に知らないかのように接せられるのってしんどくない? しんどいよね?

 あれ、これは全部言えるんだ。

 

「では今も苦痛か」

 

 アンデルセン先生と話すのは楽しいですね。でも少し悲しい気分にもなる。

 ■■■■■■を思い出すから。彼との思い出がなくなってしまったかのように感じる。

 

「そんなに似ているのか?」

 

 ウン……そんなに似ている。

 似ているというか実質同じなのでは? 言えるんだこれ。もう答え言ってるようなもんじゃないのこれ。

 

「貴様、マシュにも誰かを重ねているのだろう」

 

 それ知ってんだ先生。

 でも情報が古いですね、もう重ねていません。

 

「では俺とももう重ねるな」

 

 いや無茶言うな。

 突然の無茶振りなに〜!? 怖い怖い何?

 人間の感情がそう簡単にコントロールできないことなど先生はよくご存知でしょう。

 

「マシュと俺では何が違う」

 

 その質問ウケるな。

 全然ちげえだろうふふあっはっはあっごめんなさい全然バカにしてないです。

 

 真面目に考えると、なんだろうな。

 マシュと重ねていた■■■は、特別だったんですよ。

 

「特別思い入れが強いのだったら尚更面影を追いかけるものだろう」

 

 いやいいなその言葉エモい。さすが作家先生は言葉選びがちげえや。

 

 特別思い入れが強かったから、面影を追いかけられなくなったんですよ。

 決定的に、マシュと■■■は違うのだとすぐに理解できた。

 

 は〜でも■■■■■■との思い出だっていっぱいあるのになんでアンデルセン先生と重ねるのをやめられないんだろうか。

 デミサーヴァントとサーヴァントの違い?

 そこにそんなに違いがあるとは思えないな。

 

 あ〜わかった。わかっちゃったな〜。

 マシュには藤丸立香がいるからだ。

 

 なんだろうな、これはあれか、好きな子が私を好いておらず別の誰かを好いているのが解釈違いなのですぐ別人だとわかりましたね! ってことですか。いやはや痛々しい。過激派オタクか私は。

 

「恋仲なのはそいつとの方だったか」

 

 いやちげえ〜!!!!!!

 だからなんでそんなに今日恋バナするんですかアンデルセン先生?

 私恋人いませんでしたよ生前。一人も。あっこれは暴露できるんだ言いたくなかったな言っといてなんだけど。

 

 そんなに私と愛を語らいたかったんですか?

 ごめんなさい聞いといてなんですけど絶対にあり得ないので返事しなくていいですよ。

 

「まさに無駄口だな」

 

 うめえこと言いなさる。は〜さすが作家先生だぜ本当に。

 

「だから先生先生とやかましいと言っただろう。三度は言わんぞ」

 

 ああそういう? 呼び捨てでいいよってことですか?

 えっ何突然のツンデレやめてくださいときめくじゃないですか。

 

「ときめくな。気色悪い」

 

 特にひねりのない罵倒が一番心にくる。

 

 ええ? 呼べるかな……呼んでみるか。

 ええと、アンデルセンせん……間違えた。アンデルセン。

 

 言えた。言えるんだ〜すげ〜。

 

「何を感動している」

 

 改めて、バグる条件がよくわからなくなったという話です。

 では……アンデルセン、本題に入ります? めちゃめちゃ前置き長くなっちゃいましたねすみません。

 私が呼び名を変えてもらいたがっていることに一切気づけないせいで。

 

「そのせいではないわ馬鹿。そもそもさっきのも本題だ」

 

 そうなの?

 ああそっか私について知りたいんでしたね。ずっと私の話をしているからずっと本題か。

 

 でも一番聞きたいことはまだ聞いていないでしょう。

 

「わかった風な口を利くなと何度言わせれば分かるのだ貴様は」

 

 ごめんやっぱ■■■■■■と若干重ねてしまうな。

 

 でも合ってるでしょう、アンデルセンは図星を突かれると罵倒で返してくることが多いからな。

 まあそれとは関係なく普段から刺々しい言葉を使うが。

 

 けれど、特に今回みたいな取材では、あなたは無駄を嫌う。

 今日のやりとりであなたが口を開いたのはほぼ私への質問、つまり本題についてだ。

 罵倒だけ、といった無駄が出るのは動揺した時が多いんですよ、知ってました?

 

「……わかった風ではないな。貴様は何を知っている」

 

 まあわかった風にしてるだけの時が多いけど、わかったつもりになってるだけかもしれないけど。

 知っているさそりゃあ。私は■の■ス■ーだったんだからな。微妙に言えてないいや微妙じゃなくて言えてないなこれは。

 マ■■ーは禁句か? いやでも微妙に言えるのは何。

 

「未来視じみたことができると聞いた。過去視もできるのか?」

 

 え〜どうなのそれは。できないってことでいいのかな。

 でもなあ、アンデルセンは私に言ってないけど、■■■■■■が私に言ったから、アンデルセンにとっては私が知らないはずの己の過去を知られているっていう状況にはなるかもな。

 

 それこそ、さっきの癖みたいに。

 まああれを言ったのは私じゃなくてシェー■■■アなんだけど。結構言えてて草。

 

「過去視ができるのは俺だけか」

 

 そうではない。同じ状況は他のサーヴァントやカルデア職員にも発生する場合があるだろう。

 ただサーヴァントは全員ではないね。

 生前の私と契■してなかったサーヴァントもこのカルデアにはいるから。うんごめん微妙にバグった。

 

 具体的にいうとキャスニキにはできるし、エミヤにもできる。

 マシュにもできるし、ダ・ヴィンチちゃんにもできる。

 

 そのくらいかなあ私から言えるのは。過去視できるって言っておいた方が周りを混乱させないかもね。

 

 そしてごめん、また話が逸れてしまった。

 いや私の話ではあるから本題ではあるんだろうけど、一番聞きたいことはこれではないよな。

 

「……無辜の怪物についてだ」

 

 はぁ、そうきたか。そういや開口一番に言ってたね。

 

 無辜の怪物は在り方を後世で換えられた人物が取得する、本来の人格や姿を歪めるスキルだ。

 基本バッドステータスと言っていい。まあプラスな面もあるんだろうけど。

 

「同じスキルを持つ身として気になってな。お前にはどんな呪いが降りかかっているのかと」

 

 アンデルセンは人魚の鱗生えたり火傷してたりで大変だもんな〜。

 申し訳ないんだけどわかんないんだよね、私そんな困ってるぜってことないもの。

 呪われてるなって思ったことないぞ。

 

「ほう? 自覚がないタイプか。狂化の類は貴様からあまり感じんがな」

 

 狂ってる人には狂ってることが自覚できないから私の口からは狂ってないよとは言えないが、アンデルセンが言ってくれるのならそうなのだろう。

 

 そもそもバグでスキルは名前だけ、効力発揮してないとかはあるかもね。

 ああ、そもそもバグが無辜の怪物ってことは?

 バグのせいで会話に困ってるから呪いに近いのかとも思ったが。

 

「なるほど。愛するものたちの名を口にできぬ呪いか」

 

 何そのメルヘンな呪い?????

 

 絶対違うよ。

 私がバグる時に口にしていること、固有名詞だけじゃないからね。

 

 私という存在を明確に世界に認知させない呪いとかの方がまだわかる。全部言えたバグるかと思った。

 

「ほう。なるほどそれは興味深い。貴様という人間を捉えきれないのは、無辜の怪物の効果かもしれんということか」

 

 うーん……そうかもしれないしそうじゃないかもしれない。

 私は生前めっちゃわかりやすい人間だなって評価されてたから、アンデルセンに捉えにくいと評価されるのには違和感を覚える。何らかの認識阻害が起こっている可能性はあるな。印象操作とか。

 

 もしかすると人と仲良くなれなくなる呪いとかかもね。

 捉えきれない人間、っていうのがアンデルセンにとって嫌いな人物像なのであれば、その人にとって嫌いな雰囲気を醸し出す呪いとかさ。みんなから嫌われやすい呪いってことになる。

 

「別に嫌ってはおらんわ。興味深い観察対象だ」

 

 見てて飽きない面白生物扱いですね。嫌われるより全然いいな。

 ■■■はそういう呪いみたいなものを受けてたみたいだから……ん? そのワードが言えないことはわかってたがなんか変な感じがしたな今。

 

 それはともかく、やはり先生は取材がうまい。

 ドクターロマンよりよほど。

 アンデルセンが嫌でないのなら、私の霊基のバグった穴を埋めるために、わかったことがあれば彼に報告しておいてくれるとありがたいよ。

 

「いいだろう。もとよりそのつもりだ」

 

 ありがとう。

 それからそうだな……いややっぱりやめた。

 

「何だ、言え」

 

 直球で命令してくるじゃん面白いな。

 言いにくそうなことをそのままにしておいてあげる気遣いが一切見られなかったぞ。

 

「言え」

 

 重ねて命令されたら断れないな。

 

 たまに一緒にご飯食べてくれたら嬉しいなって。それだけ。

 

 何で突然額に手を当てて頭が痛いですポーズとったの?

 言うのためらったことなんだから相手を不快にするかもしれないなと思って引っ込めた言葉だったんだろうなってわかりつつそれでも聞いたんじゃなかったんかよ。それで不愉快になっても私は責任取らないぞ。

 

「不愉快になると分かって聞いたがその不愉快を隠してやる気にもなれなかった」

 

 辛辣すぎて泣ける。

 

 え、どうしたアン■■■■。今日ツンデレのデレなさすぎじゃない?

 ちょっと待ってバグったのは何……え、いやそうかそっちの名前を呼んだつもりになったのか。

 ああ〜これは恥ずかしいやつ。と言うか申し訳ないやつ。■■■■■■と重ねるのをやめられない。

 

「いい。重ねても構わん。食事も構わん。また取材もする」

 

 か、寛容〜。ありがとう、好きだわ〜。

 でもめっちゃ疲れた感じで退出していったのは何。大丈夫かな。

 

 アンデルセンは嘘つかないから構わんって言ったのは本当だろうけど、構わないけど不愉快にはなるからめんどいなみたいなそういう……? ちょっとわかんないですね。

 

 取材し終わった後って大体、ネタが来たぞネタが、って感じで去っていくことが多いんだけどな。

 あんな疲れた感じで去っていくの見るの初めてだ。■■■■■■とは違うってことか? わかんね。

 

 それはそれとして仲良くしていけたらいいなあ。

 今回は全然手応えないけどな! 仲良くなれた感じなかったけどな!

 

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