嘘つき仁くんと壊れたトガちゃん   作:あすな朗

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彼女が部屋にやって来た

 

 俺の一日は、一本のアメスピと観察から始まる。

 

 例えば、俺のベッドで横になっている女の子の可愛らしい寝顔をじっと見つめるのも、「観察」の一環。

 

 いや、ホントに信じられないくらいのかわい子ちゃんだぜ。よく見りゃ目元にクマができちゃいるが、それを差し引いても十分おつりが来るくらいの可愛さだ。

 

 動物に例えるならアレだな、フェレット。真っ白でふわふわしたイタチみたいなヤツさ。ちょっと開いた口から鋭い八重歯がのぞいているのも、フェレットを連想させるな。安心しきった表情でスースー寝息を立てている彼女を見てると、何だかこっちまで幸せな気分になっちまうね。

 

 それにしても、なんでこんな女の子が俺の部屋のベッドで寝てるのかっつー話だよ。いや、ホントのこと言うと、なんでこんなことになってんのか俺もよく分かってねえんだけどな。

 

 つい最近のことなんだ。こいつが「変身」の個性を使って士傑(しけつ)高校だかの生徒に化けてたんだが、それがバレてヒーローどもにリンチされかかって、命からがら逃げのびた。

 

 で、転がり込んだのが俺の部屋だったってわけ。

 

 死柄木(しがらき)のところに行けばもっと安全だったろうに、なんで俺んとこに来たのかはわからねえ。

 

 ただ、正直な話、俺はけっこう嬉しかった。ピンチになったときに頼ってくれるっていうことは、この子が俺のことを仲間だと思ってくれてるってことだろ?

 

 そう、俺は誰かの仲間になりたかったんだ。

 

 俺が俺でいいんだと、誰かに認めて欲しかったんだ。俺そのものを、誰かに必要としてほしかったんだ。

 

 俺の個性は「二倍」。一つを二つに増やすシンプルな力だ。自分を分身させ分身にまた分身させ……あっという間に自分だけのチームが完成する。

 でも、そんなものは本当の仲間なんかじゃねえ。そのことを、俺は身をもって味わった。

 だからこの子が俺のことを仲間として頼りにしてくれてるってことは、俺にとってメチャクチャ大きなことなのさ。 

 

 さて、もう昼前だ。そろそろメシでも用意しねえとな……

 

 まあ、冷蔵庫の中にはろくなモンがねえし、あったとしても俺がコックじゃろくな料理は作れねえ。コンビニ行くか。パンとカップスープでも買やあ、立派な朝ゴハンになるだろ。

 

 そう思って家の近くのコンビニに行くと、なぜかドアが粉々に破壊され、店の中はもぬけのカラだった。レジ泥棒だな、こりゃ。神野区の戦いでオールマイトが引退してから、欲望に誠実な連中が徒党を組んで計画的に行動しはじめた。ここのコンビニも、そういう連中の餌食になったということなんだろうなァ……。

 

「ったく、勘弁してくれよォ!!!」

 

「ヒーロー! こっちこっち!!」

 

 少し離れたところから、そんな声が聞こえてきた。やれやれ、朝っぱらから賑やかなことだ。

 

 俺は商品をいくつか上着のポケットにねじこむと、無人のレジカウンターの上に代金を置いて、コンビニを出た。わざわざ金を支払ったのはプライドってやつだな。全国に指名手配されてるいっぱしの「(ヴィラン)」として、ちっぽけな便乗犯になりたくねえ……っていうプライド。レジ強盗に押し入られた直後の無人のコンビニでカッパライだなんて、「神野の悪夢」を引き起こした『敵連合(ヴィランれんごう)』のメンバーがやることじゃねえ。そうだろ?

 

 帰り道、遠くで爆発音が聞こえた。

 おおかたさっきのレジ強盗とヒーローが戦ってるんだろう。まあ、よくある出来事だ。興味も湧かねえ。

 

 それよりも。

 

 俺の部屋にはあの子がいる。帰ったら彼女を起こして、一緒に朝飯を食べよう。今の俺にはそれしか考えられないね。

 一人の女のことばっかりずっと考えてるのって、なんか恋みたいだよな。でもさ、これは恋じゃないんだ。俺は仲間の役に立ちたくて、仲間に喜んでほしいんだ。それだけなんだ。

 

 

 

 

 ……それだけ、なハズなんだけどな。

 

 

 

 彼女に何をしてあげたらいいのか……彼女は何がしたいのか……

 気づいたら、そんなことばっか考えちまってるんだ。 

 

 

 

 

 これってやっぱ、恋だよな?

 

 いや、恋じゃねえ。

 

 恋だって。どう考えても。

 

 黙ってろ、うるせえな。恋なんかじゃねえさ。絶対。

 

 

 

 

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