ベッドから起き上がると、マスクをかぶった仁くんがこんなふうに話しかけてきました。
「起きるの遅えな! 早起きしねえと生活リズムが乱れるぜ!」「ヒーローから逃げてきて疲れてるんだろ? もっと寝てな!」
「……ふふ。仁くんは朝から面白いです」
仁くんはときどき、一人で二人分しゃべります。今みたいに、何かしゃべった直後に正反対のことを言ったりもします。だから、お話してるととっても楽しいです。
でも、どうして顔だけマスクなんでしょう? マスクは戦闘服のときだけ着けるのかと思ってたんですけどね。
「ほら、テーブルの上にトガちゃんのための朝食が用意してあるぜ! 食べな!」「全部俺のモンだ! 食うなよ!」
これは「食べろ」ってことでいいんですか? うーん、テーブルの上に置いてあるカップスープに手を伸ばしても何も言わないし、おまけにスプーンまでくれたし、食べていいってことですよね。
ポットのお湯をそそいで、スプーンでくるくるかきまぜると、オニオングラタンスープのいいにおいが立ちのぼりました。んー、おいしそう。いただきます。
「慌てて選んだからトガちゃんの好みとか考える暇なかったんだけど、それで良かったか?」
「いいですよ。この味けっこう好きですし。そもそも居候の身で贅沢は言えないですから」
「そうか。ちなみにトガちゃんはスープだと何味が好きなんだ!?」
「んー、味にはとくにこだわりがなくて、ポタージュ系のとろっとしたやつが好きです」
「そうか! 今度からポタージュにするな! あ、今日はパンも買ってきたぜ!」
「朝からパンを食べると口の中がパサパサするので、遠慮しときます。スープだけで大丈夫です」
「そうか! ならこのパンは俺が食っちまうぞ!」
「どーぞ召し上がれ」
仁くんとお話している最中も、熱々のスープをふうふうしながら慎重に口に運びます。お腹が空いてはいるんだけど、猫舌だからあんまり早く食べれません。猫舌ふべんです。ふうふう。
「で、ケガは大丈夫か? だいぶ悪いんじゃないのか?」
不安げな声で、仁くんが訊いてきました。
数日前に私が仁くんの部屋にたどり着いたときはまだだいぶダメージが残ってたから、心配してくれてるんだと思います。仁くん優しいです。
仁くんが介抱してくれたし、何十時間もぐっすり眠らせてくれたから、ずいぶん楽になりました。私、こう見えてけっこう丈夫なんですよ?
「へーきです。寝てたら楽になりました」
「ホントか? 念のため
「心配性ですね、仁くんは。本当に大したことないので気にしないでください。トガは打たれ強いんです」
「ならいいんだけどよ」
そう言いながらも、仁くんはやっぱり心配そうです。世話焼きですね。この世話焼き加減、敵っぽくありません。むしろヒーローっぽい感じです。そう言えば、仁くんのマスクと戦闘服も、ちょっとヒーローっぽいですよね。ああいうコスチュームのヒーロー、昔アメリカにいた気がします。
「ホントにだいじょぶです。あ、傷痕見ますか? もうだいぶ治ってますよ」
傷口の回復具合を見せるために、私はスカートをまくりあげました。
「ホラ、ふくらはぎの
「ちょ、ちょっとトガちゃん!」
「?」
「け、怪我が治ってきてるのはいいとしてだな……そういうふうに肌を見せられると、ちょっとオジサンどきどきしちゃうっていうか……」
「……えい」
「うわっ!?」
スカートをさらにまくりあげると、仁くんは両手で顔を
「仁くん、なんで見てくれないのですか?」
「いやいやいやっ、見ちゃいけないだろどう考えても!!」
「じゃ、見なくてもいいです」
私はそう言ってスカートから手をはなしました。で、ほっとした仁くんがこっちを見たタイミングを見はからって、できるかぎり大きな動作で足を組み替えました。
「そうそう、それでいいん……ぶっ!!!」
「今度は何ですかあ?」
「足をっ! う、動かすな!! 動かさないでお願い!!」
「えー? どうしてですか?」
「動かすとまた……ス、スカートの、な、な、中が、見えそうになるから!!」
「わー、仁くんえっちですー♪」
「トガちゃん絶対わざとやってるでしょ!?」
その後も仁くんは、食事中私が足を組み替えるたびに、両手で顔を覆ってました。女の子に対する
「もう! トガちゃんの
「『はれんち』?……フレンチの親戚ですか?」
「恥を恥とも思わないってことだよ!」
「へー。勉強になりました。仁くんはボキャブラリーが豊富です」
「ああっ! だから! 足! 見えそう!!」
そんなこんなでご飯タイムは終了。ごちそうさまでした、おいしかったです。
仁くんは何にも食べてないけど大丈夫かな? まあいっか。元気そうだし。
お腹がいっぱいになったら、何だかまた眠くなっちゃいました。二度寝しましょう。疲れたときは眠るのがいちばん。トガはまだまだ疲れているので、ゆっくりじっくり休むのです。それじゃあ仁くん、お休みなさい!