「お風呂に入りたいです」
夕方、ベッドから起き上がるなり、彼女はそう言った。
「ずーっとお風呂に入っていなかったので体がくさいです。仁くん、お風呂どっちですか?こっち?」
「風呂っていうか、シャワーしかないけど……いや待て、トガちゃん怪我してるだろ。風呂はよくないんじゃねえか」
「大丈夫です。たぶん」
「多分じゃだめだろ。おとなしくしてたほうがいいぞ。っていうかトガちゃん全然くさくないよ?」
「くさいですよ。汚いです。汚い自分は嫌です。お風呂に入ります」
「待て待てトガちゃん。ちょ……トガちゃんストップ。タンマ。止まってトガちゃんちょっと言うこと聞いてってば!!」
「むう……なんですか」
さっさとシャワールームに行こうとする彼女を無理やり引きとめ、重い切り傷を湯水にさらすのがどんなに危険か力説する。彼女はふくれっつらをしながらそれを聞いていた。
「じゃあどうすればいいんですか。私、これ以上自分の体がくさいのは耐えられません」
「濡らしたタオルで全身を
「むむ……仕方ないですね、今回はそれで妥協しましょう」
案外素直に聞き分けてくれてほっとしたのもつかの間。彼女がおもむろにカーデガンを脱ぎ、ブラウスのボタンを外してあられもない姿になってしまったので、俺は心臓が止まるかと思った。
「ちょ、ちょっとトガちゃん!?」
「何ですか?」
「何ですかじゃない!! 何でいきなり服を脱ぐんだ!?」
「だって……脱がないと体を拭けないじゃないですか」
「いやそれはそうだけど……俺の目は気にしないの!?」
「だって仁くんには、意識がもーろーとしてる間に、服を全部脱がされて体中さわられちゃったじゃないですか。今さら恥ずかしくありません」
「手当のために必死だったんだよ、俺も! つーか、表現!! 俺が強姦魔みたいになってる!!」
たしかにあのときは血まみれで転がり込んできたトガちゃんを懸命に介抱して、傷の手当てをするために服を脱がせはしたけども! でも、そのときだってデリケートなところは極力見ないようにしたし、やましいことは何一つない。……多分。
「仁くん、今、そのときのこと思い出してますね。顔が赤くなってます。変態さんですね」
「ち、ちがうっ!! これはその、トガちゃんがいきなり服を脱ぐから……」
「私は服を脱いでいる間に、はやくタオルを濡らしてきてください。前のほうは自分で拭けますけど、背中とか拭くのは手伝ってほしーです」
「え? あぁ……ええ?」
「よろしくお願いします、仁くん」
少々強引でも、こんなに可愛らしくぺこりと頭をさげながらお願いされたら、NOという選択肢は無い。回れ右してタオルを準備した。
そのあと、時間をかけて彼女の背中を拭いた。
彼女の体には、ヒーローたちにつけられた傷がまだ生々しいままで、こんなひどい傷を負ってしかも一人で逃げ回るのはどんなにつらかったろうと想像してしまって、俺は思わず泣いてしまった。
「仁くん泣き虫です」
と言われてしまったが、涙ってのは自分の意思で止められないんだからしようがない。俺は泣きながら、はやく彼女のケガが全快しますように、と心の底から祈った。