アシナside
意識が朦朧とする。真白い空間に1人きり…不思議な体験だ。
俺は歩こうとするが体に力が入らない。いや…体が存在しないのだ。腕は疎か足も頭も胴体でさえ今この空間では存在がしないのだ…あるのは胸あたりだろうか…だいたい体があったらその辺にあるであろう白い浮遊物のみ。きっと俺の魂だろう…不思議とそう思えた。
目の前から黒い雫が沢山落ちてくる。
『コロセ…コワセ』
普段聞く幻聴にも似た、異質で耳に張り付く声でうわ言のように雫から聞こえてくる
『コロセコワセコロセコワセコロセコワセコロセコワセコロセコワセコロセコワセコロセコワセコロセコワセコロセコワセコロセコワセコロセコワセコロセコワセコロセコワセコロセコワセコロセコワセコロセコワセコロセコワセコロセコワセ』
なんだ……これ…なんだよ…これ!
目の前に雫が垂れ落ちて狐の様な名状し難いナニカを形取る。
やめろ…くるな!
ナニカは狂ったように殺せと壊せを繰り返しこちらににじり寄って来る。それは俺の目の前で立ち止まり、紅くドロリとした手で俺の魂を握りしめてくる。
嫌だ…嫌だ…触るな!!触るな!!さわるなぁ!!!!
『あぁ…あぁ…我が器よ…破壊と殺戮に身を委ね給えよ……どうせ直ぐにひとつになるだから……あぁ我が器よ……自らの本能に…衝動に…堕ちてみたまえよ。』
「うああああああああああ!!!!!!」
魂を!!心臓を!!がしってガシィって
俺は自分の胸を触り確認する。当然ながら
「あっ主殿!?!?!?」
「ハァハァハァハァ……こう……モリィ?」
アァ怖かった……下手なホラー映画より迫力あったぞ…人型の蝙蝠が心配そうにこちらを覗いてくる。
「悪夢でも見られましたか?」
「あっ…あぁとびきり怖いやつを…少しね」
悪夢で体が震えるなんて、子供みたいに思えてくる。だけども俺は……俺はあれを唯の悪夢だなんて思えない…なんか…もっと…
「主……思い出すのはよしましょう。夢は所詮夢でございます。それに意味など有りませぬ。」
「そう……か…そうだよな!」
所詮夢だよな!うんうん
「シャワーでも浴びてさっぱりしてくるよ!」
「では我は夕食の準備をしておきます。」
シャワーを浴びて浴槽に水が溜まるのを浴槽内でボーっと待っているうちに悪夢の事などキレイさっぱり忘れていた。
side蝙蝠
主が飛び起きた時…目が狐の様に細くなって居たが……『獣』には目がないはず…それに人の瞳孔は変化しないはずだ…杞憂に終わるといいのだが。主のエプロンを借りて…
ギャーギャーギャーギャー
隣が煩いな…まぁ関係のない事だろう…
珍しく我が料理を振る舞うのだ…和食がしっくり来るだろう。魚の切り身ぐらいあればいいのだが…
冷蔵庫の中を確認して献立を1つ1つ組んでいく。
切り身があって良かった…これは…きゅうりの漬物か?またいいものがある。これも出すとしよう。
ピルルルル
主の携帯か……
きっと協会の者だろう……主は今疲れているのだ。どのような内容だろうと1晩位はゆっくりして頂かなねばならん。断りを入れよう。というか主のお手を煩わせることも無いのだ…他のやつに任せておけばいい物をわざわざ主に頼むとは…許せぬな
ピッ
「もし…誰だ?」
『…?あんた…誰よ。アシナじゃないの!?アシナをどこにやったって言うの!?回答次第じゃタダじゃ置かないわよ!?』
小娘か……また別の方面で厄介だな…
「我だ…蝙蝠だ。貴様の手当をして、貴様の横に座っていた奴だ。」
『はぁ?そんなやつ………いたわね…てかっなんであんたがアシナの携帯取ってんのよ!アシナを出しなさいよ!アシナを!大体、人の携帯取るなんて普通に考えてする!?』
面倒くさい奴だ。
『要件を言え…手短にな。我も主も忙しいのだ。貴様如きに構ってる暇など無い。』
『はぁ?何よその態度!あったまきた!絶対許さない!次あった時はこまぎr』
プッ
通話を打ち切り、携帯の電源も落としクッションに投げ捨てる。これでやつも掛けてはこれまい。我はエプロンを改めて付けて。冷蔵庫の中身を確認して料理の準備を進める。