キャスターが最強のSHINOBIを召喚したそうです   作:ざるそば@きよし

24 / 35
決戦の場は大混乱になっているようです①

 

 どうも奇妙な状況になった。

 勝利を確信し、油断したキャスターを刃で貫く所までは描いた通りだった。その殺し方も含めて、何から何まで完璧だった。

 その上で後からやって来るであろうランサーと決着を付ける手筈だったが、アーチャーと間桐桜が想定外の行動に出たせいで、計画にいくつかの狂いが生じてしまった。

 

《一体どういうつもりだ? 間桐桜》

 

 契約によって築かれたパスを使って離れた主に思念を送る。少なくともこちらの邪魔はしないと踏んで再契約を持ちかけたのだ。これが始末したばかりの元マスターと同じだというのであれば、この先の処遇も考えなくてはならない。

 

《お願いアサシン! 先輩を助けて! 先輩には……先輩にだけは死んで欲しくないの!》

 

 しかし詰問の答えとして返って来たのは、予想に反して必死の声だった。

 おまけにその口調は命令というよりも懇願に近い。まるで自分の命を乞うかのような懸命さだ。

 彼女の態度に僅かに疑問を抱いたマダラだったが、すぐにその中にある真意を嗅ぎ取った。

 

《そうか。お前は確か、この小僧に惚れているんだったな》

 

 桜がまだライダーと契約していた頃、マダラは周辺の人間関係を調べる目的で彼女を密かに監視していた。

 その際に発見したのが衛宮士郎とセイバーだったが、思えば当時から桜は明らかに士郎に好意を抱いていた――もっとも、向けられている当人は、その感情に気付いてすらいない様子だったが。

 ともあれそう考えれば合点がいく。大方、好いた男が殺されそうになったのを見て、どうにも我慢が出来なくなったのだろう。色恋沙汰ではよくある話だ。

 既に令呪まで使われた以上、下手に抵抗してもこちらが一方的に不利になるだけである。ならば速やかに目の前の敵を排除し、元の戦いに復帰するほうが懸命だろう。

 マダラは小さく溜息をつくと、考えを切り替えることにした。

 

《やむを得ん。今回だけは大人しく従ってやる。だが次はないと思え。あと一度でも俺の邪魔をしたら、たとえ貴様がマスターであっても容赦なく殺す》

 

 厄介なマスターに一方的に思念を叩き付け、改めてマダラは目の前に立ちはだかる弓兵に視線を向けた。相手もまた、邪魔者である自分への敵意を剥き出しにしていた。

 

「キャスターの腰巾着風情が、本気でオレと戦うつもりか?」

 

 鋭い視線でアーチャーが警告を発した。いつの間に用意したのか、両手には新しい双剣が再び握られている。邪魔をするのなら容赦はしないと言わんばかりの剣呑さだ。

 だがそんな彼に怯むどころか、マダラはアーチャーを鼻で笑うと、冷ややかに見つめながら言った。

 

「安心しろ。砂利と本気で喧嘩するような趣味はない」

 

 魔力が安定した今のマダラにとって見れば、アーチャーなど物の数ではなかった。流石に生前の自身と比べれば一歩及ばないが、それでもマスターを失ったサーヴァント如きに後れを取るような理由はない。

 格下をあしらうような物言いに、アーチャーの顔が険しくなった。普段は何を言われても飄々としている彼だが、三下扱いはよほど癪に障ったらしい。

 二人から放たれる殺気が徐々に地下室全体を覆っていく。刃のように張り詰めた空気が、その場に居る全員を再び刺激していく。

 僅かな無音の後、先に動いたのはマダラの方だった。全身を覆う青い骸骨――須佐能乎の右腕が、アーチャーに向かって勢いよく伸びていく。

 巨大な腕は一見緩慢なように見えるが、実際の動きは俊敏だ。現にあのバーサーカーですらやすやすと捕らえ、その動きを完全に封じ込めている。

 

「チッ……!!」

 

 攻撃を察知したアーチャーはそれが避けられないと分かるや否や、持っていた剣を二本とも迫り来る腕に向かって投げ放った。直後、それがにわかに激しい爆発を起こし、凄まじい衝撃と噴煙を前方に発生させた。

 爆風と衝撃によって、迫っていた腕の動きが僅かに逸れる。その隙間を縫うようにしてアーチャーは素早く距離を詰めると、そのままマダラに向かって新しく取り出した双剣で斬りかかった。

 

「――――ッ!!」

 

 金属に似た甲高い音が響き渡り、アーチャーの表情が苛立ちに歪む。

 黒白の刃は正確にマダラの身体を捉えてはいたものの、肝心の二つの刃は一ミリも本体に届かせてはいなかった。須佐能乎による分厚い守りが、それを許さなかったのだ。

 攻撃の失敗を悟り、アーチャーは即座に距離を取ろうとしたが既に遅かった。次の瞬間には横合いから飛んできたもう一方の腕に殴り飛ばされ、彼の身体は地下室の壁に思い切り叩き付けられていた。

 

 ◇

 

「嘘だろ……? アイツがまるで子供扱いだなんて……」

 

 目の前で起こる出来事に圧倒された士郎が思わず呟く。

 アーチャーが歴戦の戦士である事は、ついさっきまで対峙していた士郎には痛いほどよく分かった。アサシンが間に入っていなければ、間違いなく今ごろ自分の胴体は真っ二つに切断されていた筈だ。

 だと言うのに、そのアーチャーがまるで相手になっていないという事実が、士郎にはまるで信じられなかった。

 

「どうした? さっきまでの勢いはどこに行った?」

 

 壁に叩きつけられ、土煙の中に消えたアーチャーに向かってアサシンが言う。嘲けながらも実力を推し測るような物言いは、まだ相手が奥の手を全て曝していない事を理解していた。

 

我が骨子は捻れ狂う(I am the born of my sword)……」

 

 濛々と舞う土煙の向こうからアーチャーの呟きが聞こえた。独特な言い回しの詠唱――それは彼が宝具を使う際に詠唱する呪文だった。

 

「……まずいぞ! アイツも宝具を使う気だ!」

 

 以前アーチャーがキャスターと戦った時も、同じ呪文を口にしていたのを覚えている。あの時は盾を出していたが、今回も同じだとは限らない。何しろ向こうは、どこからともなく武器を出すことができるのだから。

 士郎の叫びにアサシンは僅かに反応を示したが、すぐに獰猛な笑みを浮かべて前を見据えた。その顔はまるで、楽しいイベントが目の前に迫っているかのような表情だ。

 そうしている間に地下に舞っていた土煙が徐々に晴れ、アーチャーが再び姿を現した。双剣を手放した彼の手には無骨な黒い洋弓と、異常なまでに拗くれた歪な西洋剣が番えられていた。

 

「受けてみろ――偽・螺旋剣(カラドボルグII)ッ!!」

 

 裂帛の勢いで真名を解放し、アーチャーが引き絞っていた弓を放つ。

 すると次の瞬間、矢として番えていた剣が凄まじい速度で飛来し、アサシンとその後ろに控えていた士郎に向かって、猛然と襲いかかってきた。

 

「そう来なくてはな」

 

 自らに向かって飛び込んで来る宝具に対してなお、アサシンは焦りを見せる様子はなかった。それどころか、待っていたとばかりに宝具である青い骸骨に魔力を収束させると、その力を更に解放させた。

 最初に変化があったのは外見だった。半透明の髑髏に肉が付き、その姿が二面四腕の鬼神へと移り変わる。

 高密度の魔力で作られたそれは、一目見ただけで分かるほど途方もないエネルギーの塊だ。その防御力は言うに及ばず、破壊力も今まで以上になっているに違いない。

 鬼神はそのまま四本の腕を勢いよく振りかぶると、恐ろしい速度で迫り来る矢に向かって、その拳を思い切り叩き付けた。

 

 音速を超えた速度で魔力と魔力がぶつかり合う――僅かでも対応を誤れば、跡形もなく消し飛ぶ危険な鍔迫り合い。

 

 最初の一本目、二本目の腕は敵の宝具の前に成す術もなく吹き飛ばされたが、続く三本目の腕が威力を相殺すると、遂に四本目の拳が剣の矢を弾き飛ばし、やがて天井に凄まじい大穴を開け放った。

 

「冗談だろ……宝具を真正面からねじ伏せたぞ……?」

 

 目の前で巻き起こった驚きの光景に、士郎も思わず呆然となる。

 こちらも宝具を展開していたとは言え、真正面から飛んできた敵の宝具に対し、まさか力でねじ伏せようとするなど、一体誰が考え付くだろうか。普通なら回避を試みるなり、防御に徹するなりしてその場を凌ぐのが常識だ。

 しかしこの男はあえて真正面からそれに挑み、そして見事に制圧してみせた。

 にわかには信じがたい偉業を成し遂げたアサシンだったが、それだけでは終わらなかった。彼は身体を覆っていた宝具を解除すると、腰に備えていたポーチからクナイを一本取り出し、そのまま右側へと素早く躍り出た。

 彼が進み出た先――鍔迫り合いの衝撃によって再び濛々と舞い上げられた土煙の中、士郎を狙って背後へと回り込もうとしているアーチャーの姿があった。

 

「ッ!?」

 

 弓兵の顔に驚きが走る。

 派手に放たれた宝具の矢は、彼の切り札であると同時に敵の目を眩ませる囮だった。アサシンの堅牢な守りを正面からの宝具で削り取り、それによって生じた隙を見計らって背後の士郎を急襲するという、二段構えの作戦だったのだ。

 目の前に突如現れたアサシンに戸惑いながらも、アーチャーの対応は見事なものだった。構えた短剣で相手の攻撃を素早く捌き、守りの薄くなった士郎に手を掛けようと果敢に前進を試みる。

 

 袈裟掛けに斬りかかったアーチャーの刃が空を切った。対するアサシンの動きは身体を数ミリ程度動かしただけ。お互い初めて戦う相手の筈だが、彼は既にアーチャーの動きを完全に見切っていた。

 続けざまに飛んで来る斬撃を全て躱すと、追い払うようにアサシンが相手の鳩尾に向かって蹴りを放った。

 

「ぐあっ!?」

 

 あっけなく吹き飛ばされ、再び地下室の壁に叩き付けられるアーチャー。

 善戦するどころか相手にすらならない――アサシンが放った言葉通り、まるで大人が子供を一方的にあしらっているような状態だった。

 

「今のは少し面白かったぞ。もっと他の技はないのか? あるなら早く見せてみろ」

 

「……まさかアサシンがここまで手強いとは……完全に状況を見誤ったな……」

 

 奥の手であった宝具すら簡単に防がれ、なおも余裕の表情を浮かべるアサシンに流石のアーチャーが歯噛みする。

 そんな彼の表情から次の手が無いことを悟ると、アサシンは実につまらなそうな表情を作った。

 

「どうやら今ので終わりのようだな。ならさっさと失せろ。目障りだ」

 

 興味が失せたと言わんばかり声に、士郎はあんぐりと口を開けた。

 

「な、何言ってんだ! あんた、アイツをわざわざ見逃すって言うのか!?」

 

 好きで戦っている訳ではないとは言え、曲がりなりにも敵はサーヴァントなのだ。聖杯戦争に勝つという目的を考えれば、ここで倒しておいた方がアサシンにとっても損ではない。

 だが彼はそんな士郎の考えなど知ったことではないようだった。

 

「勘違いするな。俺はマスターからの命令で、仕方なくお前の面倒を見てやっているだけに過ぎん。奴の実力も大体分かった。遊んでやる価値もない以上、俺にはもうどうでもいいことだ」

 

「そんな……」

 

 抗議の声を上げる士郎に叩き付けるように言い放つアサシン。

 すると、そんな二人の会話に一人の女性が割って入ってきた。

 

「ならば彼の相手は私が引き継ぎましょう」

 

 新たな声に二人が思わず振り返る。そこにはさっきまで弱っていた筈のセイバーが、万全の甲冑姿で佇んでいた。

 

「セイバー!」その様子に士郎は驚きの声を上げ、ついで疑問の表情を浮かべた。「でもどうして……身体は大丈夫なのか?」

 

「はい。シロウ。心配をかけてすみません。魔力はリンが何とかしてくれました」

 

「遠坂が?」一瞬首を傾げた士郎だったが、すぐにその言葉の意味を飲み込んだ。「……そうか! 遠坂にはまだ令呪が残ってる。っていうことは」

 

「そ。あたしがセイバーと再契約を結んだのよ」

 

 と、いつの間にか後ろに立っていた凛が答えの先を請け負った。

 

「土壇場の判断だったし、他人のサーヴァントを横取りするような形になったのは不本意だけど、半端者のアンタと再契約させるよりはよっぽどマシでしょ」

 

「あー……それは確かにな」

 

 納得したように士郎が頷く。魔力量が少ない自分よりも、量質ともに豊富な凛がマスターになった方が、セイバーとしても全力が出せるのは明白だった。

 

「そういう事です。たとえ貴方がシロウの未来の姿であったとしても、私が真にマスターと定めたのは今ここに居るシロウただ一人! その命を狙うと言うのなら、私は一切容赦はしません!」

 

 息を吹き返したセイバーにさしものアーチャーもたじろいだ。これ以上戦う気のないアサシンはともかく、万全の態勢となったセイバーを相手にするのは、いくら何でも分が悪すぎる。

 形勢の不利を悟り、アーチャーが撤退の気配を見せようとすると、今度は入口の側から敵意を含んだ声がした。

 

「おっと。まさかこの後に及んで逃げようってんじゃねえだろうなぁ?」

 

 声の主はランサーだった。彼もまた、目の前で起きたアーチャーの裏切りに怒りを滾らせていた。

 

「テメエみたいなクソ野郎をオレがわざわざ見逃がしてやると思うか? アサシンの野郎がどうであれ、テメェをこのまま逃がしたんじゃ、オレの気が収まらねえんだよ!」

 

 更なる敵の登場にアーチャーの顔が一層苦しくなる。マスターであり共闘者でもあったキャスターを失い、必殺の宝具も防がれ、もはや戦闘するだけの魔力も危うい状態でサーヴァント二体に前後を挟まれている。

 アーチャーはもう終わった――この場にいる誰もがそう思った時、出し抜けに地下室の入り口から夥しい量の何かが、この場に居た全員に向かって放たれた。

 




お久しぶりです。
色々あって投稿までに間が空いてしまいましたが、マイペースに書いていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。

※別ジャンルの話なのですが、ウマ娘で本を作りました。
良ければ読んでいただけると嬉しいです。
https://www.melonbooks.co.jp/detail/detail.php?product_id=1412385
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。