キャスターが最強のSHINOBIを召喚したそうです   作:ざるそば@きよし

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決戦の場は大混乱になっているようです②

 

 嵐の様な勢いで飛んで来たのはまたもや武器だった。剣、槍、斧、鎚――他にも特殊な形状の暗器や、およそ武器に見えない奇妙な道具もいくつか混じっていたが、その全てが先ほどアーチャーが放った宝具と同じく、凄まじいまでの魔力を有していた。

 突如襲いかかってきた武器の群れに対し、アサシンは再び宝具を展開すると、士郎を庇うように立ち塞がった。

 骸骨が腕を十時にクロスさせ、絶対防御の構えを取る。

 守りを固めたおかげか、何本かの武器が髑髏の身体に突き刺さりはしたものの、本体であるアサシンや士郎にまでその凶刃が届く事はなかった。

 二人の後ろに控えていた凛とセイバーにも目立った負傷はない。唯一、別の場所に立っていたランサーだけは僅かなかすり傷を負ったようだが、それでも戦闘不能にまでは至っていなかった。

 武器の飛来が止んだのを確認すると、全員が改めて地下室の入り口に目を向けた。

 戦場に足を踏み入れたのは、またしても誰もが予想すらしなかった人物だった。

 

「――久しぶりだなセイバー。この度は夫である我が、直々に迎えに来てやったぞ」

 

 仰々しい声と共に現れたのは、士郎と凛がイリヤスフィールの城で見たあの金髪の男だった。襲いかかってきた武器は、彼がバーサーカーを倒した時に使っていた物だったのだ。

 

「アイツはイリヤを殺した……! どうしてこんな所に……!?」

 

 紙のように白くなった顔で士郎が叫ぶ。

 目の前の男は明らかに危険な存在だ。バーサーカーを倒した実力は勿論だが、躊躇うこと無くイリヤスフィールを殺害し、その心臓を抜き取った点から見ても、とてもまともな神経を持ち合わせているとは思えない。

 下手に動けば、自分たちも彼女の二の舞にされてしまうだろう。

 だがそんな叫びすらまだ足りぬとばかりに凛が声を張り上げた。

 

「待って! それよりもアーチャーが居ない! 今の一瞬で逃げられたわ!」

 

 彼女の叫びを聞いた士郎が弾かれたように周囲を見渡す。

 攻撃が来る前まで、確かに赤い弓兵の姿は部屋の端にあった。だが今やその姿は影も形も見当たらなかった。

 

「馬鹿な!? 一体どうやって……」

 

 攻撃に気を取られていたとは言え、壁に追い詰められた状態で前と横一方を塞がれ、出口も封じられていたのだ。いかに三騎士クラスのサーヴァントであろうとも、そう簡単に逃げられる筈がない。

 ならばと近くに潜んでいるかも知れないアーチャーを探す士郎だったが、すぐに別の答えに行きついた。

 アサシンが開けた天井の穴――地下室から教会の屋根まで一直線に貫通した宝具の爪痕が、アーチャーの脱出経路をはっきりと物語っていた。

 やられた。

 士郎は思わず天を仰いだ。恐らくアーチャーは、全員の注意が逸れた一瞬の隙をついて天井の穴まで素早く移動すると、そこからまんまと教会の外へと逃げ仰せたのだ。

 偶然が折り重なった結果とは言え、まさかあそこまで追いつめた相手にむざむざ逃られてしてしまうとは――あまりの手際の良さに、怒りや悔しさを通り越して、もはや関心すら覚えてしまった。

 

「クソッ……セイバー! 急いでアイツを追いかけるぞ!」

 

 激しい口調で士郎が指示を飛ばす。ここでアーチャーを逃してしまえば、いずれまたどこかで命を狙われる羽目になる。相手はマスターを失っているとは言え、それが安全に繋がるとは到底思えない。

 手段さえ選ばなければ、サーヴァントが魔力を補給する手段はいくらでもあるのだ。

 だが必死に訴えかける士郎の言葉とは裏腹に、肝心のセイバーは動かなかった。

 それどころか彼女の全意識は、今や目の前に佇む金髪の男にのみ向けられていた。

 

「そんな……ありえない! なぜ貴方がまだこの時代に残っているのです!“アーチャー”!」

 

 セイバーから飛び出た衝撃の言葉に士郎や凛、そしてアサシンまでもが眉を顰めた。

 彼女は確かにいま、目の前の男を“アーチャー”と呼んだ。だがそれは、たった今この場から遁走した赤いサーヴァントのクラスではなかっただろうか?

 聖杯戦争において、聖杯から召喚されるサーヴァントは一つのクラスつき一名のみであり、その法則に例外はない。

 だとしたら、目の前に立つ二人目のアーチャーとは、一体何者なのだろうか?

 

「再会の挨拶がよもやそれとは。些か雅さに欠けるな」

 

 誰もが抱いている疑問を当のアーチャーは嘆息で受け流すと、深紅の瞳をおもむろに士郎たちへと向けた。まるで汚らしいものでも見るような極寒の視線は、慈悲や容赦といった感情を一切持ち合わせてはいなかった。

 

「まあいい。積もる話は邪魔な雑種どもを片付けてからだ。怪我をしたくなければ上手く避けろよ。セイバー」

 

 軽い身振りに合わせてアーチャーの背後に歪みが生まれ、空中に新たな武器が出現する。文字通り、彼の“弾丸”とも呼べるそれらは、凶悪極まりない矛先の全てを士郎たちへと差し向けていた。

 

「……マズい!逃げろ遠坂!」

 

 またもや士郎が叫んだ。アサシンが守る事を命じられたのは、あくまでも自分の身柄だけで、凛やセイバーの安全は最初から勘定に入っていない。最初の攻撃は運良く当たらずに済んだが、狙いを定められたらどうしようもなかった。

 

「リン! 私から離れないで下さい!」

 

 意図を察知し、セイバーが凛の前まで下がって来た。敵は明らかに無差別攻撃の意思を持っている。ここで凛を守らねば、マスターを務める人間が誰も居なくなってしまう。

 そうなればセイバーに待ち受けているのは、魔力切れによる消滅だけだ。

 

「――待てよ」

 

 と、二度目の攻撃を前にランサーが口を挟んだ。彼はこの場で唯一、二人目のアーチャーの正体を把握しているであろう存在だった。

 

「テメェ、なんだってこんな所に出張って来やがる。マスターの差し金か?」

 

「……なんだ。まだ生きていたのか。狗」

 

 まるで初めて彼に気がついたような口調でアーチャーが答えた。巻き添えすら厭わない攻撃や態度から察するに、やはりこの二人は完全な仲間という訳ではないらしい。

 挟み撃ちにされる可能性は低いと分かり、ひとまず胸を撫で下ろした士郎たちだったが、だからといって決して安心する事は出来ない。令呪さえ用いれば、マスターはサーヴァントの意思など簡単にねじ曲げることが可能なのだから。

 

「質問してんのはこっちだ。答えろ。こいつはマスターの命令か?」

 

「奴には奴の考えがあるように、我には我の考えがある。セイバーを捕らえていた不遜な雌狐はどうやら死んだようだが、この際だ。特別に我手ずから貴様にも引導を渡してやろう」

 

 アーチャーが言葉を終えると、それと呼応するように周囲の空間が歪み、狙いを定める武器が更に増えた。彼は味方であるはずのランサーすら、この場で葬るつもりのようだ。

 容赦の無い裏切りにランサーも即座に武で答えた。持ち前の赤槍を低く構え、飛んでくるであろう武器に意識を集中させる。

 自らに向けられた抵抗の意志など全く気にもせず、アーチャーは自らの右手を振るうと、背後に控えさせていた武器の束を、一斉に前方へと解き放った。

 

 ◇

 

 轟音を響かせながら、五人の命を刈り取ろうと殺到する武器、武器、武器。

 飛来する幾つもの凶器に対し、サーヴァントたちは果敢に挑みかかった――セイバー、ランサーは得物を巧みに操りながら襲いかかる武器を打ち払い、アサシンは展開した宝具を盾にしながら士郎を守る。

 小細工無しの攻撃とは言え、その威力は絶大だ。大量の魔力を内包した武器は、触れただけでもサーヴァントに多大なダメージを与えられる。生身の人間に至っては、掠っただけでも木っ端微塵だ。

 現にセイバーやランサーに打ち払われた武器が壁や天井に刺さる度、その部分が爆発したように弾け、半壊の地下室を更に容赦なく砕いていく。

 このまま攻撃が続けば、いずれ地下室を含めた教会全てがまるごと崩壊してしまうのではないかと思うほどだ。

 

「ほう……雑種にしてはなかなかに頑張るではないか。ならこれならどうだ」

 

 単純な攻撃だけでは埒が明かないと判断したのか、アーチャーが攻撃の方法を変えた。直線的な軌道ばかりではなく、曲線的な軌道や不規則な動きを加え始めたのだ。

 

 十二発目――S字を描いて飛んできた短槍をセイバーが弾き損ね、跳ねた刃が肩をかすめた。

 十八発目――槍で弾き飛ばされた筈の曲刀がにわかに軌道を変えて飛び戻り、ランサーの脇腹に背後から突き刺さった。

 二十四発目――回転しながら飛来する鎚がひび割れたアサシンの骸骨に食い込み、続けざまに飛び込んだ斧がひびの隙間から彼の頬を切り裂いた。

 凛はセイバーの後ろで迫る恐怖と戦っていた。士郎もアサシンの後ろで息を呑んでいた。どちらも一歩間違えば死に繋がる暴力の嵐を、その場でただじっと過ぎ去るのを見守るしかなかった。

 三十五発目――ようやく宙に浮いていたアーチャーの武器が全て眼前へと射出され、再び部屋に静寂が訪れた。

 

 何度目とも知れぬ土埃とが部屋の傷跡を濛々と隠し、一面の視界を遮る。まるで絨毯爆撃でも受けたような破壊の爪痕は、もはや地下室の原型がどうなっていたのかすら分からなくさせていた。

 と、煙の中を切り裂いて反撃が飛んできた。魔力で作られた三つの青い勾玉が、返礼とばかりにアーチャーに向かって飛来する。

 予想外の逆襲にアーチャーは不愉快そうな顔で後ろに下がると、武器と同じ要領で虚空から煌びやかな拵えの盾を三枚引き寄せた。それらは勾玉の軌道を塞ぐように空中に毅然と立ち塞がると、勾玉がもたらす爆風と衝撃を押しとどめた後、再び虚空へと消え去った。

 

「――薄汚い雑種が、王たるこの我に矛を向けるかッ!」

 

 冷え冷えとしたアーチャーの目に強い殺気が宿る。場を支配している筈の自分が、逆撃されるとは思わなかったのだろう。プライドを傷つけられた怒りからか、その顔は怒りでどす黒く染まっていた。

 

「流石にバーサーカーを倒しただけの事はある。同じアーチャーでもさっきの砂利とはひと味違うようだな」

 

 粉塵が晴れた先でそう言ってのけたのは勿論アサシンだ。彼は宝具を再び鬼神状態に変化させ、それが持っていた数珠繋ぎの勾玉のいくつかを、さながら飛び道具のように投げ放ったのだ。

 

「ならば俺も全力で応えよう――この“完成体・須佐能乎”でな」

 

 狂気じみた笑みを浮かべてアサシンが言葉を続ける。先ほどのアーチャーでは物足りなかったとばかりに大量の魔力を放出すると、纏っている鬼神に向かって全て注ぎ込み、その姿を更に強力なモノへと変化させていく。

 アサシンの宝具である須佐能乎――それが真の姿を見せる瞬間だった。

 

 ◇

 

 危機的状況から奇跡的に生還を果たしたアーチャーは息をつくと、改めて混沌の巣窟となっている教会へと向き直った。

 まさかこんな状況になろうとは。キャスターの宝具を利用して自らに掛けられた令呪の命令を解除し、改めて衛宮士郎を殺すという当初の計画――あと一歩の所で成就する筈だった贖罪が、今や何もかもが台無しになってしまった。

 今の自分にはもはや何もない。頼れるマスターもいなければ、次の戦闘をこなせるだけの力もなく、目的を果たせるかどうかすらも不確かだ。

 幸いにもアーチャークラスには単独行動というスキルが付与されており、他のクラスよりは多少現界に融通が利くが、それだけだ。魔力源となるマスターが居なければいずれ魔力は枯渇し、消え去る運命にある。

 とは言え、先々の事を考えるのは後回しだ。今はただ安全を確保することを優先するべきだろう。

 そう思ったアーチャーがひとまず新都の方へ足を向けようとしたその時、不意に教会の方から凄まじい音が聞こえた。

 彼が再び視線を向けると、そこには教会の屋根を突き破りながら、とてつもなく大きな青い物体が姿を現していた。

 

 ◇

 

 瓦礫を振りまいて現れたのは、巨大な――あまりにも巨大な何かだった。

 近い見た目のモノで形容するならば“天狗”が近いだろうか。古代の武将を思わせるような服装と長い鼻は、さながら日本の御伽噺に登場する鴉天狗そのものだ。

 ここまでならさほど驚くには値しない。アサシンの宝具が姿を変化させることは既に知れ渡っており、更に別の姿があったとしても別段おかしくはない。

 問題は桁外れなその大きさだった。

 宝具の全長は十メートルを優に超え、魔力で作られた身体の半分以上が教会の屋根を突き破って屋外に露出してしまっている。その大きさたるや、足下にいるセイバー達がまるで豆粒に見えるほどだ。

 

「お、大きい……」

 

「これが……本当のアサシンの宝具……」

 

 天狗の足下――眼前に聳え立つそれを呆然と眺めながら凛、そしてセイバーが呟く。二人ともあまりに巨大な宝具の姿に圧倒され、もはや戦いどころではなくなっていた。

 

「“これ”を使うのは本気になったバーサーカーを始末する時と思っていたが、貴様になら期待が持てそうだな」

 

 天狗の顔――ちょうど額の奥の部分に控えているアサシンが、アーチャーを見下ろしながら言い放つ。防衛対象である士郎もそのすぐ後ろに控えているが、何が起きているのか全く理解できないと言う顔だ。

 ぐっ、と天狗が右手に持っていた刀を振り上げた。全てが膨大な魔力で形作られたそれは、単純な一振りだけでも壊滅的な威力を発揮するに違いなかった。

 

「――ッ!? 逃げろ遠坂!セイバー!」

 

 ようやく状況を察知した士郎が悲鳴じみた声を上げた。これだけの巨体が攻撃すれば、周囲への被害も甚大な物になる。どこに逃げれば安全かなど皆目見当もつかなかったが、とにかくそう言うしかなかった。

 一方、標的となっているアーチャーは憤然たる顔でアサシンを睨みつけていた。王を自称する彼の口ぶりからして、見下ろされるという行為自体が、彼にとっては耐えがたい屈辱に違いなかった。

 

「痴れ者が……! この玉体に刃を向けるだけに飽き足らず、かように我を見下すかッ!」

 

 怒号めいた声で一喝すると、またしてもアーチャーが虚空から道具を取り出した。

 黄金とエメラルドで作られた船のような形の何か――恐らくは今までの武器と同じように宝具級の何かだろう――に彼は素早く身体を乗せると、それがにわかに空中へと浮かび上がっていく。

 そのまま天狗の頭よりも少し高い位置まで船を上昇すると、続けて大量の武器をずらりと空中に展開させた。

 もはや数える事すら億劫になるほどの武器たちを従え、憤怒の視線でアーチャーがアサシンを見据える。

 受けて立つ、と言うことだろう。

 天空を浮かぶ王と、それを相手取る異形の巨人――それは名を馳せた英雄同士の戦いというよりも、どこか神話めいた争いに見えた。

 

「面白い。この須佐能乎を相手にどこまでやるか、試させて貰おうか」

 

 ニヤリと笑い、アサシンは改めて刀の狙いを船に定めた。天狗の巨体が躍動し、巨大な刃が船に向かって振り下ろされる。アーチャーが乗る船とのサイズ比は、遠目から見てもまるで小さな玩具と大の大人だ。

 再び起こる宝具同士の鍔迫り合い――破壊と破壊の激突。

 膨大な魔力量で編み込まれた須佐能乎の刃は、相手が誰であろうと一切容赦はしなかった。目の前に立ち塞がるいくつもの武器を触れた順から次々と砕き、傷付け、破壊させては再び虚空へと送り返して行く。

 対するアーチャーも、武器の破損など織り込み済みだと言わんばかりに、壊れた先から使い捨て、新しいものを次々と取り出しては、迫り来る巨刃へと差し向ける。

 全てを込めた一振りの刃と無尽蔵に送り込まれる武器――対照的な両者だが、その力は互角ではなかった。

 巨人の刃が徐々に均衡を破り、アーチャーに向かって押し込んでいく。対するアーチャーも憤怒の顔で更に追加の武器を送り込むが、勢い付いたアサシンの前には焼け石に水も同然だ。

 

 そうしている間にも徐々に刃がアーチャーの身体へと近づく――このまま行けば間違いなくアーチャーは、船もろとも巨人に両断されるだろう。

 足下で見ていた誰もがそう思ったが、実際にそうはならなかった。

 なぜならアサシンの宝具がアーチャーの身体を両断する寸前、アーチャーの身体がまるで手品のようにその場から一瞬で消え去ったからだ。

 

「……消えた?」

 

 眉を顰めて凛が言った。疑問というよりも呟きに近かった。

 

「恐らくですが、アーチャーの危機を察知したマスターが令呪を使って彼を回収したのだと思います」

 

 隣で見ていたセイバーが疑問に答えた。なるほど確かに令呪の力を使えば遠く離れた場所からでもサーヴァントを回収できる。彼女の言葉は的を射ているように思えた。

 

「そう……まあ当然と言えば当然か。あんなのを見ちゃったらね」

 

 改めて二人が目の前の巨人を見上げる。こうして見ているだけでも腰が抜けそうになるほどの力を前に、むしろあれだけ粘ったアーチャーの方がむしろ異様だと言っても良い。

 と、その巨人がにわかに青い燐光が輝きを失い、何度目かの明滅の後、まるで陽炎のようにその場から消え去った。

 足場を失い、天高くから落ちてくる二人。

 サーヴァントであるアサシンは何事もなく綺麗に着地すると、忌々しげに己の手のひらを見つめた。

 

「…………魔力が切れたか」

 

 どうやら宝具を展開するための魔力が切れたらしい。あれだけの大出力の宝具ならば一撃を放つだけでも相当な魔力が必要になる。むしろ良く持った方だと言うべきだ。

 

「シロウ!大丈夫ですか!」

 

 それから僅かに遅れて落下してきた士郎の身体をセイバーが受け止めた。アサシンに守られていただけあって、大きな負傷はないようだった。

 

「あ、ああ……俺は大丈夫だ」

 

 ほっと安堵の息を漏らす士郎。様々な事が立て続けに起こったものの、キャスターが倒され、奪われていたセイバーが戻ってきた。形だけを見れば、彼らの目的はこれで達成されたのだ。

 

「勝負はお預けか。つまらん結果だな」

 

 逆に不満げなのは、ここまで水を差され続けたアサシンだ。二人のアーチャーとマスターの令呪によって彼が抱いていた計画は見事なまでに台無しにされていた。

 

「いや、そうでもねえぜ」ランサーが割り込んできた。目には未だに闘志が宿っている。「たった今マスターから指示が来た。命を賭してお前をここで仕留めろとな」

 

「ほう」一瞬前の不機嫌さなど一瞬で消え去ったようにアサシンが喜びの口調になる。決着を付けようという強い意志。「そう来なくてはな」

 

 呆れる程の戦闘狂である両者――何か因縁があるらしい二人を三人が交互に見つめる。

 

「お嬢ちゃんたちは今のうちに帰りな。オレたちの戦いに観客は不要だ」

 

 追い払うようにランサーが手を振った。確かに二人から見れば、関係ない士郎たちは単なる邪魔者でしかない。

 これ以上の危険が無いことを確認すると、三人は奇跡的にまだ残っていた地上へと続く階段へと踵を返す。

 最後に一度だけ振り返ると、凛が言った。

 

「――ランサー、今日は色々ありがとう。わたし、貴方みたいな人は好きよ」

 

 一本槍で義理堅いこのサーヴァントの事を、凛は不思議と気に入っていた。たとえ一時的な共闘関係であったとしても、その実直さは紛れもない本物だと感じられた。

 

「ハッ! もうちっと年喰ってから出直して来な」

 

 呆れたように肩をすくめ、ランサーが笑った。気持ちの良い笑顔で答える彼は、やはり凛が想像した通りの人物だった。

 

「さて……これで邪魔者は居なくなった。お互い存分に死合えるってもんだな」

 

 手にしていた槍を改めて構え直し、ランサーが告げた。既にその顔は闘志一色に染まっている。

 申し合わせたようにポーチからクナイを取り出し、アサシンも応じた。

 

「いいだろう。あの時の決着を付けてやる。今度は逃げるなよ。小僧」

 

 ランサーとアサシン――最初の邂逅から預けられていた決着が、ついに定まろうとしていた。

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