キャスターが最強のSHINOBIを召喚したそうです   作:ざるそば@きよし

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 マダラ「柱間柱間柱間柱間柱間柱間……」

 メディア「柱間って誰なの……?」


キャスターはマダラの扱いに困っているようです

 ランサーの戦いから早くも数日が経過した。

 あれ以来、敵サーヴァントが現れるような気配は無く、平穏な日々を保っている。マスターである宗一郎の生活にも今のところ大きな支障は出ていない。街からの魔力供給についても安定しており、戦うための地盤についてはほぼ完成したと言っていいだろう。

 後は残りのサーヴァントについてだが、街の外れにある森に結界を張られたのを確認した以外、詳しい事は分からない。まだ召喚されていないサーヴァントが居るせいで、誰もが様子見に徹しているのだ。

 ならば今は自分も情報と魔力を出来るだけ収集し、先の戦いに向けて備えておくべきだろう。

 だというのに、メディアの心と胃は既に大きな不安に脅かされていた。

 

「あの男……一体どうしたらいいの……」

 

 重苦しい息を吐き出し、頭痛の種になっている男について思案する。

 はっきり言ってアサシンは手の付けようが無い悪札だ。下手に魔力を与えれば叛逆される可能性がある上、宝具を抜いた戦闘力でも三騎士を圧倒する実力を持っている。

 令呪の拘束と魔力供給、それに依代にしている山門の関係もあってか、まだ向こうに大きな動きはない。だが気を抜けば何か起こすと言わんばかりの雰囲気を醸し出しており、ひと時も監視の目が離せない。

 

「計算外よ。あんな奴が出て来るなんて……!」

 

 メディアとしては、ある程度の実力を持っていて、使い潰しても問題ないレベルの英霊が呼べればそれでよかったのだ。魔力については過剰な供給を控え、戦闘の時だけ自分が別のやり方でバックアップする。そうして時間を稼いでいる間に敵陣営の滅亡を待ち、数が減ってきた所で令呪を使って特攻を仕掛け、敵諸共まとめて始末する――そういう算段だったのだ。

 

 なのに一体どうしてこうなってしまったのだろう。

 

 最初に目にした時、一目で気に入らない男だと思ってしまった。誰も信じず、誰からも利用されることを嫌う眼を見て、まるで“魔女”と呼ばれた醜い自分が鏡映しに現れたように感じた。

 だからこそあの男が憎かった。下手に出る事もしたくなかった。大嫌いな自分自身に謙るような真似は、たとえ死んでも御免だった。

 

 ここまで拗れてしまった以上、今さら関係の修復など出来る訳がない。生き残るために最後まであの男の手綱を握り続けるだけだ。敵の数が減る終盤まで耐える事が出来れば、後は令呪を使って自害を命じ、速やかに始末すればいい。

 

 本当は今すぐにでもそうしてやりたい所だが、ランサーをはじめとした三騎士クラスやバーサーカーが残っている以上、この時点で手放す訳にはいかない。まだまともに始まってすらいない聖杯戦争を、キャスタークラスである自分一人で勝ち抜く事など、絶対に不可能なのだから。

 

 しかし何と滑稽な事だろう――神代の魔術を遍く極めた筈の自分が、敵だけでなく味方からも怯え、隠れ潜む事しかできないなんて。

 

 だがどんなに蔑まれようと、どんなに罵られようと知った事ではない。今の自分には宗一郎という大切な人がいる。何も聞かずに受け入れてくれた唯一の人がいる。あの人を守れるならば、眼を逸らすような悪事も、人の道を外れた行為も全く苦にならない。

 

 必ず勝って宗一郎と共に生き残る。

 その強い意志だけが、今のメディアの行動理念だった。

 

 ◇

 

 敵が来なくなったことで、再びマダラは置物としての日々を過ごしていた。

 退屈な時間は川を流れるようにゆっくり経過し、彼の心を削り取るかに思えたが、今の彼は戦いではなく別の事に興味を向けていた。

 それは階段の頂上から僅かに見える景色――平穏な冬木の街並みだった。

 

「平和な世の中……か」

 

 聖杯から与えられた知識では、この日本という国は数十年前の敗戦を境に戦うことを放棄し、平和な国作りを目指したのだという。

 何を馬鹿な、とマダラは思った。人は戦いを止める事など出来ない。弱い国はいずれ強い国の餌食となり、その中でまた争いが生まれるのが世の常だ。戦う事を放棄する国など聞いたことがない。

 だが目の前に広がる光景には戦の匂いが全く感じられなかった。まるで自分が夢見た幻術のように変わらない毎日が連綿と続き、人々は何食わぬ顔で平和を享受していた。

 

 ――柱間。お前の夢の先はここにあるのかもしれないな。

 

 自分が死ぬ寸前、戦友は言った。『俺たちは届かなくてもよかったのだ。後ろを付いて来てくれる者、託せる者を育てておくことが大切だった』と。もしかしたら、この国の住人はそうする事で平和を勝ち取ったのかもしれない。

 

 ああ――今の忍界は一体どうなっているのだろう。

 

 戻る術の無い故郷の世界に、マダラは僅かに思いを寄せた。

 

 ◇

 

 底冷えするような冬の丑三つ時。穂群原学園校舎の屋上に二人の人影が佇んでいた。

 一人は女、長身の身体を器用に屈め、何やら屋上の床に何か模様のようなものを書き込んでいる。血のような赤い線で描かれた禍々しい紋様は、どこか邪教の儀式を連想させた。

 

「マスター。魔法陣の設置が完了しました」

 

 屈めていた身体を起こしながら女が言った。アイマスクのようなバイザーを着けているせいで顔の印象は分からないが、バランスの取れたプロポーションと季節外れの黒いチューブトップが、どこか常人とは違う妖艶な雰囲気を漂わせてる。

 

「よし。あとは周囲を覆う結界だけだな。早速張りに行くぞ。ライダー」

 

 傍らで女の作業を眺めていたもう一つの影が言った。こちらは比較的整った顔立ちの少年で、真冬という事もあってか分厚い防寒着を着込んでいる。顔に張り付いたキザったらしい表情が、鼻持ちならない印象を見る者に与えていた。

 

「それなのですが」

 

 と、ライダーと呼ばれた女が口を挟んだ。何か思う所があるらしい。

 

「どうやら私たち以外にも街の人間から魔力を集めている者がいるようなのです」

 

「……なんだって?」

 

 少年は訝しげな表情を浮かべた。

 

「おい。それはどういう事だ? 僕たち以外にそんな芸当ができる奴がいるっていうのか?」

 

「恐らくはキャスターのサーヴァントではないかと。地脈を利用して人々から魔力を吸い上げているようです。と言っても、命に影響が出ない程度のようですが」

 

「どうしてそんなことが分かる」

 

「結界を張った時、僅かですが地脈の中に加工された跡があるのを見つけました。私のものとは違うタイプですが、間違いなく魔力を吸収する魔術が使われています」

 

 女の言葉に少年はしばらく考え込むように唸り声を上げた。

 

 自分以外にも他人から魔力を集めようとしている人物がいる。これは大きな問題だ。食べる口が二つになれば、当然一人当たりの分け前は減る。しかも相手の方がより広範囲に吸収を行っているのだとしたら、魔力を貯める速度は段違いだ。

 邪魔者は早く排除するに越したことはない。それにサーヴァント同士の戦いとなれば、ライダーの力を試す絶好のチャンスでもある。

 

「……おいライダー。そいつがどこから魔力を吸い上げているか分かるか?」

 

 少年の質問にライダーは小さく頷き、遠方にある山を指さした。

 

「地脈は水と同じように高い場所から低い場所へと広がっていきます。地脈をそのまま利用しているのならば、敵は高い場所――恐らくあの山の頂上に居るのではないかと」

 

「あそこは確か……一成が住んでる寺があったな」

 

 だとすれば、敵は間違いなく柳洞寺の中だ。

 まさかこれほど早く敵を発見できるとは、まったく自分の才能が恐ろしい。と、少年は思わず自己陶酔に陥りそうになった。

 

「予定変更だ。今から柳洞寺に向かうぞ。キャスターって奴がどんなサーヴァントなのか、この眼で拝んでおかなくっちゃな」

 

 少年の命令にライダーは再び頷くと、彼の身体を抱えてその場から消えた。

 

 ◇

 

 誰かが地脈に触れた。

 

 メディアはすぐに異常を感知した。自分と同じ事を考えた者の仕業。間違いなく他のマスターかサーヴァントだ。

 可能性を考えなかった訳ではない。足りないモノは余所から調達する。魔術や戦いに秀でた人間ならば、誰でも思いつくコトだ。

 そのためにわざと痕跡を残しておいたのだ。詳しく見なければ見つけられない程の小さな痕跡。それは発見されると同時に警報(アラーム)となって自分に情報を知らせる事になる。留意するべき敵が発生したことを。

 

 覗かれた地脈の場所は学校だった――宗一郎が通う場所。ならば尚の事、この敵を放置する訳には行かない。

 

 幸いにも敵はこちらに向かって近づいて来ている。絶好の機会だ。こういう敵は後の禍根とならないよう早めに始末しておくに限る。

 それにいい加減あの男も暇を持て余している事だろう。新たに敵がやって来た事を知れば、その機嫌も多少良くなるに違いない。

 

「アサシン。新たな敵が山門に近づいているわ。到着したらすぐに始末しなさい」

 

 門前で今も退屈しているであろう男に向かって、メディアは敵の接近を知らせた。

 

 ◇

 

 敵の存在を知らされた時、マダラはゆっくりと自分の中の何かが起き上がるのを感じた。

 日がな一日、平和な風景を眺めている生活も思えば悪くなかったが、やはり自分にとって最大の娯楽は戦いだ。背筋が凍るような命の駆け引きを行っている時が、一番充足感を得られる時だ。

 唯一の不満はあの女の指図で戦わされているという点だが、あれには必ず落とし前を付けさせると心に決めている。今はまだ有効な策を見つけられないでいるが、このままにしておくという選択肢は無い。

 

 だがそれよりも、今はこれからやって来るらしい敵に意識を向ける方が重要だ。

 

 次もまた三騎士クラスだろうか? それともバーサーカーやライダーだろうか? 年甲斐も無く期待感が胸の内から溢れ出てくる。

 

 敵の接近を今か今かと待ち望んでいると、石階段の最下層に黒い人影が姿を現した。

 

 ◇

 

 ライダーのマスターである少年こと間桐慎二は、石階段の一番上に佇む不審な人物に視線を向けた。

 待ち構えるように立っている事からして、一般人じゃないのは間違いない。十中八九、敵の一派だろう。

 敵はキャスターだけかと思っていたが、これはこれで面白い。簡単にクリアできるようではゲームにならない。こうして少々歯ごたえがある方が、戦いも盛り上がるというものだ。

 そんな風に考えていると、傍らのライダーが小さな声で言った。

 

「マスター。あれはキャスターとは別のサーヴァントです。ここは一度身を引いて態勢を立て直した方がよろしいかと」

 

「あ? お前何言ってるんだ?」

 

 敵を目の前にして逃げる? 一体この女は何を言い出すのだ?

 ありえない提案に胸の奥から怒りの感情が沸いてくる。

 

「折角ここまで来たんだぜ? 敵が何人でも関係ないだろ? 全部やっちまえよ、なあ?」

 

「…………」

 

 しかし彼女は再三の命令にも耳を貸そうとせず、未だ戦う素振りを見せようともしない。

 まさか、ビビってるのか?

 思わず慎二はライダーの横顔を覗き込んだが、身に着けたバイザーのせいで肝心の表情は分からない。分かるのは自分の命令を聞くつもりはないという、ふざけた事実だけだ。

 

 仕方ない。聞き分けの無いサーヴァントには躾が必要なようだ。

 

 軽く舌打ちした後、慎二は懐から一冊の本を取り出した。赤い表紙に金色の文字が描かれた分厚い本。それを開きながら短い呪文を唱えた後、改めて自らのサーヴァントに命じた。

 

「――ライダー。今すぐあいつを殺してキャスターも倒せ。これは“命令”だ」

「……ッ!!」

 

 瞬間、ライダーの全身に青白い電流のようなものが流れた。バチバチという痛ましい音と共に稲妻がライダーの肌を焼き、口元に苦悶の表情を浮かび上がらせる。立っていられないとばかりに膝を折り、迫り来る苦痛に耐えている姿は、傍から見ても何とも痛々しい。

 そんな制裁をたっぷり数十秒ほど続けた後、慎二は電流を止めると再びライダーに命じた。

 

「もう一度言うぞライダー。あのサーヴァントを殺せ。今すぐにだ」

 

 電撃の制裁が相当に効いているのだろう。覚束ない足取りでゆっくりと立ち上がったライダーは緩慢な動きで鎖の付いた杭のような武器を構えると、吐き出すように言葉を返した。

 

「……了解、です。マスター」

 

 言われるがままにふらふらとライダーが頭上の男に向かって進んでいく。

 戦う前に自ら傷を負わせると言う蛮行をしたにもかかわらず、サーヴァントの従順な返答を聞いた慎二の表情はこの上なく満足げであった。




 お疲れさまでした。
 次回はライダーvsマダラになります。

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