キャスターが最強のSHINOBIを召喚したそうです   作:ざるそば@きよし

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マダラが少しだけ本気を出すようです

 力の奔流――流れ込んでくる魔力(チャクラ)

 乾いていた身体が満たされていくのが分かる。砂に沁みこむ水のように力が浸透していく。

 だがまだ足りない。供給された魔力は生前の三割にも届かずに打ち止めとなった。あの女が止めたのだ。力を与え過ぎる事を恐れて。

 

 余計なことを――思わず心の中で毒づく。何から何まで足を引っ張りたがる雇い主にほとほと嫌気が差す。

 力を発揮できる時間は多く見積もっても一時間程度。先の事を考えると絶望的なまでに短い時間だ。

 

 だがそれでも、目の前の敵を倒すには十分過ぎる。

 

 歓喜と共に力を振るう。放出された膨大な魔力が、主の意志に従って徐々に形を成していく。

 そうして現れたモノ――青い燐光を放つ巨大な骸骨。

 これこそが須佐能乎(スサノオ)。万華鏡を開眼した一部の者だけが操れる究極の瞳術であり、全てを制圧する破壊の権化。

 

 出し抜けに髑髏の右腕がバーサーカーを掴み取った。拘束を解こうと腕の中で巨人がもがくが、まるで捕獲された昆虫のようにびくともしない。

 それを階段下に向かって無造作に投げつける。叩きつけられた肉体がボールのように地面を跳ね、石段を破壊しながら一番下まで転落していく。

 

「バーサーカー!!」

 

 最下段に居た少女マスターが悲痛な叫びを上げた。信じられないとばかりに自らのサーヴァントに向かって駆け寄っていく。

 主の悲鳴によろめきながらもバーサーカーが起き上がる。奇妙な角度に折れ曲がった首を左手で戻し、脇腹に突き刺さった自分の剣を強引に引き抜く。ぽっかり開いた腹の穴から盛大に鮮血が吹き出したが、それも不死の加護によってすぐに塞がった。

 

 殺意と怒りに満ちた両目は今もマダラの姿を捉えている。戦闘を切り上げる気配はない。

 

「そう来なくてはな」

 

 眼下の男に負けないほどの闘志を見せながら、マダラは更なる戦いに身を投じるべく、悠然と階段を降りていった。

 

 ◇

 

 ……あれは、一体なんだ?

 解放されたアサシンの宝具を目の当たりにしたメディアは思わず息を呑んだ。

 

 彼の宝具は魔力を特定の形状に変化させる技であり、そのあり方はどちらかと言えば魔術に近かった。英霊の象徴とも呼べる宝具にしては少々陳腐で、実にありふれた使い方だ――その桁違いの規模と高過ぎる魔力の収束率を無視すれば。

 

 契約を通じてアサシンに送り込まれた魔力は、メディアが街から集めてきた魔力の半分以上にも及んだ。対軍宝具すら連発出来るだけの膨大なエネルギーをまるで手足のように扱うその様は、まさに驚嘆に値すると言っていい。

 加えて全身を纏うように展開された高圧縮の魔力は、全方向からの攻撃を遮断する鎧であると同時に敵を攻撃する矛の役割も果たしている。文字通り攻防一体の技であり、消費される魔力量を除けば、一分の隙も無い完璧なスキルだ。

 

 まさかこれほどの力を持っていたとは。

 奴の尊大な態度は気に食わないが、そう振舞うのも頷ける。純粋な力とは、ただそこに存在するだけで相手に畏敬の念を抱かせ、支配する者としての風格を与えるものなのだ。

 

 これは本当にあのヘラクレスを倒してしまうかもしれない。

 

 死の運命を目前にしていたメディアの胸の内に、僅かな希望が見え始めていた。

 

 ◇

 

「な、なんなの、こいつ……」

 

 掠れた言葉がイリヤスフィールの口から漏れた。幼い身体は声と同じくガタガタと恐怖で震えていた。

 

 狂化の戒めを解いたバーサーカーの“性能”は、今までの比ではない。その強大な力はマスターであるイリヤスフィールの制御すら困難になってしまう程であり、ランク下げは過剰な魔力消費を抑えると同時に、暴走を防ぐための鎖だったのだ。

 それを全て解放にも関わらず、敵はそれを相手に一歩も引かないどころか、劣勢を押し返し始めている。

 

 疾風のような早さで石の大剣がアサシンに向かって襲いかかった。空気を切り裂き、大地を抉る一撃。少し前までそれは敵にとって死を意味するものだったが、今やその価値は完全に失墜していた。

 漆黒の刃が火花をまき散らしながらアサシンの手前で停止する――彼の全身を覆う青い骸骨のような何かが、刃の進行を完全に防いでいた。

 

「■■■■■■■■!!!!」

 

 猛る咆哮と共にバーサーカーが岩石の刃を押し込む。追加された怪力はその肋骨に僅かな亀裂を走らせるに至ったが、それだけだった。横合いから伸びてきた右腕に全身を殴りつけられ、巨人の身体が再び階段の一番下まで押し戻された。

 

 これまでに不死の祝福は何度使用されただろうか? 計算ではまだ余裕があるはずだが、このペースで消費すれば、いずれ底をついてしまうかもしれない。

 

 今は下がって建て直しを図れ――冷静な自分が警鐘を鳴らす。不利な試合をいつまでもするべきではないと合理的な判断を提示している。

 

 だがそれは決して認められないことだった。ヘラクレスこそ最強のサーヴァントだと信じていたイリヤスフィールにとって、尻尾を巻いて逃げ出すことなど、絶対にあり得ない行為だった。

 

「こんなの嘘よ……私のバーサーカーは、世界で一番強いんだからッ……!!」

 

 自らに言い聞かせるような少女の叫びとは裏腹に、僕であるバーサーカーはその命をまた一つを散らし、自らに与えられた祝福を失っていった。

 

 ◇

 

 力と力――その衝突。

 

 爆撃のような威力の剣が振るわれる。髑髏の手刀が迎え撃つ――二度目の鍔迫り合い。

 先ほどとは違う完全な拮抗。だが生憎と、こちらの腕は二本だけではない。

 

 マダラが更に魔力を注ぎ込み、須佐能乎がその姿を変えた。巨大な髑髏が膨れ上がり、二面四腕の鬼神へと進化する。

 両肘から生えた新たな二腕が魔力の刃を敵に振るう。防ぐ手立てを持たないバーサーカーの両腕が、肩先から真っ二つに切り裂かれる。

 両腕を失い、バランスを崩したバーサーカーがたたらを踏む。続いてその土手っ腹を、左の抜き手が思い切り突き刺した。

 

「■■■■■■!!!」

 

 獣のような咆哮と共に青く光る腕が真っ赤な鮮血に染まる――また一つ敵の命を刈り取った事を実感する。

 更にもう一撃加えようとした所で蘇ったバーサーカーが反撃に出た。突き刺さった須佐能乎の腕を思い切り握り込むと、そのまま力任せに持ち上げる。

 

 三度目の浮遊感――咄嗟に須佐能乎を解除しようとしたが、それより早く鬼神もろとも上階に向かって投げ飛ばされた。

 

 流石にしぶとい。それでこそ大英雄というものだ。

 

 常識外れな敵の頑強さに敬意すら覚える。まさかこの須佐能乎を相手にその身一つで挑んでくる者が居ようとは。

 浮遊の時間が終わり、地面が近づいてきた。須佐能乎の腕をクッションにして難なく門前の踊り場に着地する。

 

 同時に下方からバーサーカーが切迫してきた。落ちていた腕から自らの剣を回収し、マダラに向かって振りかぶる。

 

 既に何度目とも知れぬ鈍い音が夜空に鳴り響く。形成された魔力の鎧が再び石の刃に抗う。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!」

 

 渾身の怒りを乗せたバーサーカーの咆哮――先ほど以上のエネルギーを剣先に向かって込めていく。

 

 バキバキという歪で耳障りな音がマダラの眼前から鳴り響いた。大英雄の力の前に魔力の鎧が悲鳴を上げている音だった。須佐能乎の胴体に更に大きな亀裂が走る。

 崩壊を悟ったマダラが素早く須佐能乎を解除する。完全に砕かれる前に鎧の中から脱出し、続く追撃を距離を取って避ける。

 

 戦士たちに一瞬の静寂が訪れる――底冷えするような冬の木枯らしが両者の間を吹き抜けていく。

 

 ――いいぞ! いいぞいいぞ!!

 

 途方もない喜びがマダラを包んでいた。まだ敵が戦ってくれる事に、まだ抗う意志を見せている事に途方もない喜びを感じていた。

 一方的な展開などそもそも本意ではない。強者と強者がぶつかり合い、鎬を削ってこその戦いだ。

 そして目の前の男は、自分が求めているそれを完全に満たしている。

 

 こちらの魔力にはまだ余裕がある。敵の命もまた同じだろう。ここからは先に尽きた方の負けだ。

 

 マダラがそう考えた時、至福の一時は唐突に終わりを告げた。

 

 ◇

 

「もういいわバーサーカー! 戦いは終わりよ!」

 

 涙声の少女マスターが訴えかけるように巨人に向かって叫んだ。その悲痛な表情はこの場に現れた時のものとはまるで違っていた。

 

 響き渡った主の悲鳴に、鬼の形相だったバーサーカーの表情が僅かに変化する。溢れていた闘志が徐々に萎んでいき、嘘のように大人しくなる。

 狂っている筈の男に他者を慮る思考があるのかは分からなかったが、いずれにせよ彼は戦闘中止の命令に服従したようだ。

 

 白け切った場の雰囲気にさしものアサシンも溜息を吐きながら矛を収めた。不意打ち警戒の為に宝具は展開したままだったが、今夜はこれで手打ちにするしかないと諦めている表情だ。

 

 誰も彼もが今夜の終焉を予期していた。しかし、一人だけそれを終わりの合図と認めぬ者が居た。

 

「逃がさないわ!」

 

 アサシンの背後に控えていたメディアが黒い弾丸を再び少女に向けて撃ち放った。凄まじい速度で侵入者の命を刈り取ろうと襲いかかる。

 

 主人の命を守るべくバーサーカーが再び間に入り込む――大きな背中を盾にして全ての弾丸を受け止める。

 鉛色の上半身を弾丸が穿ち、いくつもの穴が生まれていく。だが彼に苦痛の色はなかった。煙を立たせながら彼は少女を抱きかかえながら門を抜けると、あっという間に夜の街へと消えていった。

 

「なんて事……まさか逃げられるなんて」

 

 口惜しそうにメディアが唸る。数分前まで漂わせていた絶望感はアサシンの奮闘によって形すらなく消え失せていた。

 

「あいつが居なくなれば、聖杯戦争なんてもう勝ったも同然なのに……」

 

 全てのサーヴァントを把握したわけではないが、少なくともヘラクレスの英雄としての「格」は、そこらの英霊などとは比較にならない程に飛び抜けている。この聖杯戦争において最大の敵と言っても過言ではないだろう。

 それをみすみす逃してしまった――今こうして生きている事すら奇跡に近いとはいえ、逃してしまった魚は大きい。

 咄嗟に追撃に出るべきかとも考えたが、アサシンはここから動けない以上、戦うとなれば自分ひとりだ。手負いとは言え、あのヘラクレスを相手に打ち勝てるとは思えない。

 

 苦々しい事実と歯がゆさに思わず溜息を吐いたメディアだったが、不意に自らに向けられた鋭い殺気を感じた。

 そこには宝具を展開したまま静かに自分を見つめるアサシンの姿があった。

 

 ◇

 

 意外な展開によって大量の魔力を得たマダラは、忌々しい振る舞いを繰り返す厄介な主をどうするべきか考えていた。

 力を使える今ならば、すぐにでも始末することは出来るだろう。供給された魔力を全て生存に回せば、何日かは現界していられる。その間にどうにかして新しいマスターを手に入れれば、晴れて自分は自由の身だ。

 問題は質の高いマスターを短時間で手に入れられるかどうかだが、全くアテがないわけではない。手段を問わなければ何とでもなる。

 

 考えていた予定とは少し違うが、来るべき時が多少早まったに過ぎない。

 彼の心は決まった。

 

 キャスターと目が合うと同時にマダラは彼女に幻術を仕掛けた。反撃の可能性を先に排除し、一瞬で勝負を決めに掛かる。

 

 どうやら向こうもこちらの意図を掴んでいたようだった。己に掛けられた幻術を素早く解くと、魔術で牽制を仕掛けながら足早に寺の中に後退していく。

 

 飛来する弾丸を須佐能乎で弾きながらマダラは追撃を開始した。一足飛びで山門を潜り抜け、本殿にたどり着かれる前にキャスターを捉える。

 

 須佐能乎の巨大な腕が彼女の身体を掴みかける。脆弱な女の身体を握りつぶそうと迫っていく。

 しかしその時、唐突にその歩みが止まった。

 

 いつの間にかマダラの周囲の空間が奇妙な歪みに覆われていた。それに連動して須佐能乎もその動きを止めている。まるで空間そのものを固定されているかのようだった。

 

「……魔力を手に入れた途端、私を殺しに来るなんてね。万一に備えてこれを用意していなければ、今頃どうなっていたことか」

 

 伸ばされた腕から距離を取りながらキャスターが言う。敵が侵入してくる事を予期してあらかじめ罠となるような魔術を用意しておいたのだろう。こと防衛に関しては油断も隙もない女だ。

 

「あなたには少しきついお仕置きが必要みたいね」

 

 ゆらりと彼女が腕を振るう。すると次の瞬間、まるで花が開くようにマダラの胸部が内側から穴を作った。

 肋骨が花弁のように展開し、持ち主の肉体を食い破る。大量の血がこぼれ落ち、石畳を真っ赤に汚した。

 

「どう? 身体の中からこじ開けられていく気分は? バーサーカーに勝つことは出来なくても、これくらいの芸当は出来るのよ? このまま死ぬ寸前まで嬲り尽くしてあげるわ」

 

 その言葉を真にするべく、キャスターが魔術を続けて行使する。動きを封じられ、避ける事すらままならないマダラは胸だけでなく、腹や手足ですらも内側から破壊される事となった。

 

「飼い犬が主に噛みつく事など決して許されないのよ。私に刃向かえばどういう事になるか、愚かな貴方にもこれで理解できかしら?」

 

「―――けか――」

 

 と、マダラの口がかすかに動いた。身動き一つ取れない固定空間の中では、やはり彼であってもそれがやっとの事なのだろうか。

 

「何? 命乞いの言葉なら聞いてあげてもいいわよ?」

 

 かすかに聞こえた言葉を読み取ろうと、キャスターがわずかに近づいてくる。

 瞬間、マダラの写輪眼が一際ぎらついた輝きを放った。

 

「それだけかと言ったのだ。キャスター!」

 

 言うや否や、マダラの体内から更なる魔力が噴出し、須佐能乎の全身を瞬く間に包み込んだ。まるで彼の怒りに呼応しているかのように。

 

「こ、これは……!?」

 

 信じられないとばかりにキャスターが瞠目する。彼の宝具にまだ先がある事など、まるで想定していないようだった。

 

 放出された魔力は上半身だけだった須佐能乎に新たな下半身を形成させ、大地に向かって脚を立てた。その圧倒的な大きさに比べれば、人など砂粒程度にしか思えない。

 固定化されていた空間が増大した質量に耐えきれずに崩壊する――閉じ込められていた鬼神が再び野に放たれる。

 ぞっとするような冷たい視線を向けたマダラが言う。

 

「本気で怒ったのはこちらの方だ。いい加減、消え失せろ」

 

 死の宣告と同時に巨大な刀が振るわれた。己を縛る主を滅ぼすべく、キャスターに向かって襲い掛かる。

 巨大な身体のせいで緩慢な動きに見えるが、その速度はバーサーカーにも引けを取らない。数秒と待たずに忌々しい女魔術師の身体が粉々になるだろう。

 青い光が風を切って迫って行く――本懐を果たそうと突き進んでいく。

 

「―――ッ!! 止めなさいアサシン! 私に逆らう事は許さないわよ!」

 

 叫び声と共にキャスターの右手に刻まれた令呪が輝きを放った。契約の光は瞬く間にマダラの身体を強ばらせ、攻撃の意志を中断させる。

 どおん、と轟音がキャスターのすぐ横で鳴り響いた。令呪によって僅かに逸らされた攻撃は、代わりに本殿に続く石畳を悉く破壊し、美しかった寺院の庭を木端微塵にしていた。

 

「……命拾いしたな。だが残る令呪はあと一画だ。それを使い切った時が、お前の最後だと思え」

 

 口惜しそうにマダラが展開していた宝具を解除し、砕けた石畳に着地する。身体中に開けられていた穴を魔力を使って強引に治癒させると、山門に向かって歩いて行く。

 その背中には、未だに主に対しての殺意がありありと籠っていた。




以下のステータスが更新されました。

【CLASS】アサシン
【マスター】メディア
【真名】うちはマダラ
【ステータス】筋力B 耐久D 敏捷A 魔力A+ 幸運D 宝具A++
【宝具】
『須佐能乎(スサノオ)』
ランク:A++ 種別:対軍宝具 レンジ:1~50 最大捕捉:100人
圧縮された魔力で巨人を生み出す。使用される魔力の多さに比例して『骨の一部』→『上半身のみの骸骨の巨人』→『二面四腕の鬼』→『鎧を纏った巨大な天狗』とその姿を変えていく。魔力で形成された身体はとても頑丈で、第一段階ですら並大抵の攻撃では傷一つ付けることは出来ないが、弱点として内部から本体を直接攻撃されると防御する事が出来ない。
またイザナギとは違い瞳力を使う術ではないので、例え何らかの形で視力を失っていたとしてもこの宝具は発動することが出来る。

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