裏稼業とカカシさん(旧題:裏稼業の何でも屋が出向く先には必ずカカシが待っている件)   作:chaosraven

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-SP65:05-闇の終わり

 

 

 

 暗闇に支配された森の中を足音を立てないように慎重に進む。

 既に放棄された筈の軍の倉庫。だが段々と建物に近づくにつれ、周囲を警戒している軍用人形の姿が確認できた。

 

 

「あれは、軍用人形(サイクロップス)? やっぱりな・・・」

 

 

 何故放棄した設備を未だに警戒して守っているのか? つまり俺の、いや”俺たち”の読みは当たっていたということだろう。

 

 森に入ってしばらく経った頃、喫茶鉄血にいるはずの代理人から俺の端末に”見たことの無い信号形式”で突然メッセージが飛んできた。

 恐らくはこの地区のどの民間基地局も経由しない、鉄血が自社で保有する通信設備から直接俺に送ってきたもの。まったく、いつの間に俺の端末と”直結リンク”を結んだんだ? 流石は鉄血ってか。

 

 いつどこで敵が見ているかも分からないため、念のため暗視用のアイバイザーに文章を転送してから確認したところ、なぜ代理人が俺にメッセージを送ってきたのかが分かった。

 というのも、1号がボロボロにされてから完全に機能停止するまでの間、鉄血独自規格の救助信号を上空の通信衛星に向けて発信し続けていたらしい。それが微弱ながらも奇跡的に衛星に届き、鉄血本社にいるアーキテクトのデスクにまで通じたという訳。その信号の規格の名は『ESシグナル』。1号の稼働記録に残っていた謎のコード『E.S.Signal Code』とはそういう事だったのだ。

 

 その規格自体はスケアクロウのボディにも搭載されていて、彼女自身が発したとても微弱なコードもアーキテクトが地区を行き交う膨大な電波からキャッチしたのだそう。

 とっくの昔にお蔵入りした欠陥だらけの規格とあったが、少なくとも今はそれがあったことでスケアクロウがまだ生きてる事が分かった。それだけでも十分すぎる成果だろう。

 

 壊れかけのボロボロの身体で俺に擦り寄せながら、最期の最期まで仲間に救援を求めて信号を発し続けていた1号を思うと、悔しさと不甲斐なさに遣りきれない気持ちになる。

 だからこそ、1号の決死の奮闘に俺は応えてやらなきゃいけない。

 いずれここへやってくるであろう代理人たちのためにも、この手でスケアクロウを救い出す。俺の責任を果たすために。

 

 俺は端末と繋がったままになっているアイバイザーの()()()()をONにした。

 

 

「敵の数は見たところ10体弱。・・・こういう時、異世界から来たっていうもう一人の”俺”ならどうするんだろうな? 弾見て避けるだけの身体能力がありゃ、相手が軍用人形でも体術だけで始末しちまうかもな」

 

 

 なんて考えてみるが、俺はあの”俺”ほど化け物じみた身体じゃない。なら、俺に出来る範囲でとっとと事を片付けるしかない。

 リボルバー・・・ナガンM1895をカスタムしたものにサプレッサーを装着し、弾が入ってるかを確認する。

 弾倉には7発の弾丸がきっちり込められている。撃鉄を倒し引き金を引いた瞬間、込めた弾が敵の命を刈り取る為に放たれるのだ。

 見た所、ここに人間の兵士はいないようではあるが。

 

 しかし、人形の処刑人(シャルフリヒター)を名乗っていながら自分も人形を使うとは、とんだ指揮官様もいたもんだ。それとも何か? 軍用の”第一世代自律人形”はただの『木偶人形(指示待ち人形)』だから、自分が抹消すべきと考える第二世代(自律人形)とは違うってか?

 だとしたら実に愉快な思考回路をしてやがる。本気で打ちのめしてやりたいくらいね。

 

 

「・・・お前たちのボスがスケアクロウに手を出した以上、お前たちも等しく俺の”敵”だ。悪いが刈らせてもらうぞ」

 

 

 影を縫うように物陰から物陰へと移動し、建屋から最も遠くに立つ兵士へと接近する。

 銃を構えながら周囲を警戒している人形。まさしく機械兵といったその風貌の通り、奴には一切の感情は無い。

 

 事前にプログラムされた通りのまま、奴は隠れている俺のすぐそばまでやってきた。

 

 

「・・・!!?」

 

 

 後ろから奴の体を抱え込み、一気に後ろへ投げ倒す。倒れた奴の頭目掛けて間髪入れずリボルバーで一発。大幅に発砲音の抑えられた射撃は、他の人形に音を拾われる事もなく一体目を始末した。

 一瞬で物言わぬ鉄の塊になったそれを目立たぬ位置に寝かせて、次の人形の元へと忍び寄る。

 

 

「? ・・・。!!?」

 

 

 敵の後ろで敢えて一瞬だけ気配を晒し、振り向いた側から回り込む。警戒を解かぬままゆっくり前を向いたところへ、目玉に突きつけた銃から一発、始末する。

 立つ力を失った人形を抱え込み、ゆっくりと地へ寝かせる。するとそこへ、金属の擦れ合う音がこちらへ向かってくるのが聞こえた。

 リンクしていた筈の人形二体と接続が切れ、状況確認のために何体かがこちらへ接近しているのだろう。

 

 即座に放置されていた木箱の裏に隠れた俺は、シリンダーを回転し撃った分の弾を手早く詰めていく。

 残りの敵は八体。こっちに近付いてきてるのは四体か。

 さっさとケリつけて残りもぶっ壊す。きっとこの中にスケアクロウが捕らわれているはずだから。

 

 

 バシュっ、バシュっ、バシュっ、バシュっ

 くぐもった音が四回、静寂なはずの森の中で静かに響く。

 こちらに向かってきていた四体の人形を全て沈黙させ、残る四体が来るまでの間に再び撃った分の弾を装填し直す。

 

 数分と経たぬ内に、再び様子を確認しに人形たちが姿を表す。

 それをまた、素早く確実に電脳を撃ち抜いていく。

 

 

「・・・警備の人形はこれで終わりか?」

 

 

 周囲の音や気配に気を集中させるが、こちらに敵意を持った存在は特に感じられない。

 俺は弾を込め直し、奇襲を警戒しながらボロボロの倉庫へと踏み入った。

 

 そこは中に置いてあった物の大半はとっくの昔に運び出され、だだっ広いがらんどうな空間。所々開いた隙間からは月明かりが差し込んでいて、暗視装置が無くとも目視で倉庫内の様子をうかがい知る事ができた。

 倉庫の奥の方、複数の隙間から月明かりが集中して差し込む一点で、十字架に磔にされたスケアクロウ。十字架から少し離れた所に鎮座する、黒く大きな一台のウーファー(ドールズジャマー)。そして、磔となった彼女を取り囲うように複数台配置されたカメラ。

 ・・・まさか連中、今この瞬間をリアルタイムで中継してやがるのか? ジャマーで絶えず苦しめている瞬間を? クソがっ!

 

 

「スケアクロウ!!」

 

「・・・レ、イ?」

 

 

 倉庫に響く俺の声に、やはりジャマーに苦しめられているのだろう、痛みをこらえている風のスケアクロウが小さく反応を返す。

 とんでもない状態にされている彼女の元へ駆け寄り、まずは体を拘束している黒いリングを外そうと手を触れ・・・る直前で、他ならぬスケアクロウから制止された。

 

 

「ダメ、です。このリングには、一つ一つに、起爆装置が組み込まれていて・・・」

 

「・・・なんだって? このリングが?」

 

 

 一見するとただの拘束具。しかしその実は、不用意に解錠を試みれば即座に起爆する死の鎖。

 そんな危険物が、彼女の主要な関節部のほとんどを抑え込むようにして打ちつけられている。その数は首と腰、両手足首と肘と膝の計10個。

 

 どうやら、敵は本気でスケアクロウを壊したくてたまらないらしい。どれだけ憎しみを溜め込めばこんな所業を為せる? 一つだけでも事足りるだろうにそれを10個も、徹底的に木っ端微塵にしてやりたいと思わなきゃ出来ないことだ。

 

 

「逃げて。レイに、死んでほしくない・・・」

 

「バカ! 出来るわけねえだろうが! 何か方法は無いのか・・・?」

 

 

 なんとしてでもスケアクロウだけは助けたい。

 何かいい結果に持っていける方法が無いか? 彼女の周囲を探し続けていると、それを嘲笑うような第三者からの声が突如この倉庫に響いた。

 

 

『方法ならこれから私が教えよう。ショータイムの前の余興だ』

 

 

 ノイズ混じりの”加工されていない”老齢の男の声。

 振り返ったその先には、KCCO(正規軍)の上級将校用の軍服に身を包み、サングラスを掛けた背の高い男のホログラム。

 真っ黒のレンズに目を隠してはいるが、体格や顔に刻まれた皺は俺が予想したあの将校とはっきり一致していた。

 

 

「・・・どういう意味だ、処刑人(シャルフリヒター)。いや、『エドワード・ヴァーレンタイン中将』と言うべきか?」

 

 

 俺の言葉に、ヴァーレンタインはサングラスを外して嗤って見せた。

 まるで、これから起こることが楽しみで仕方ないといわんばかりに・・・。

 

 

 

 -----

 

 

 

『早速だが余興に入ろう。始めろ』

 

「っ! ぐぅぅっ・・・」

 

「スケアクロウ? ジャマーか!?」

 

 

 ヴァーレンタインの言葉のあと、急に呻き苦しみだしたスケアクロウ。

 さっきまでも何かに堪えるような顔ではあったが、今彼女が味わっているものはそれよりも苦しい痛みなのが感じ取れる。

 

 

『大切なショーの前の大切な余興だ。楽しませてくれたまえ』

 

「・・・何? っ!!?」

 

 

 言うや否や、特殊アーマーを着たフルフェイスの兵士たちが”何もない空間から”突如現れ、一斉に俺へと銃口を向ける。

 反射的にリボルバーを構えはしたが、何かすれば即座に撃ち抜かれるであろうこの状況。残念だが今の俺にこれを打ち破る手は、無い。

 

 ・・・まさかこのために”光学迷彩”が使える特殊アーマーまで投入してやがったとは。情けない話、全く兵士たちの存在に気付くことが出来なかった。

 ここで抵抗してもすぐに殺される。せめて代理人がここに助けを寄越してくれるまでは時間を稼がないと。

 俺の人生がここで終わったとしても、スケアクロウだけはなんとしても必ず生きて帰らせる。必ずだ。

 

 ・・・っ、また胸に痛みが。クッソ、せめて事が終わるまでは持ってくれ、俺の体。

 俺はリボルバーを地面に置き、静かに両手を上げた。

 その様を見たヴァーレンタインは、満足そうにクツクツとした笑みを浮かべながら口を開いた。

 

 

『理解が早くて助かるよ。こうなって決死の大博打を打ったところで結果は見えきっている』

 

「・・・それで、何をしようって?」

 

 

 ヴァーレンタインは歯を見せ嗤った。

 楽しくて楽しくて仕方ない、湧き上がる愉悦感を隠そうともせずに嗤う。

 奴は俺に銃を向け続ける部下の一人に命じた。

 

 

『ふむ・・・アーデン。一発嬲ってやれ』

 

「はっ」

 

 

 兵士の一人が俺の前に立ち、大きく振りかぶった拳は俺の鳩尾へと吸い込まれた。

 内臓が弾けるかと思うほどの強いパンチに、俺はたまらず蹲って大きく咳き込む。

 

 

「かはっ、ゲホッ、ゲホっ・・・」

 

『次はリヒター』

 

「了解しました。フンッ!!」

 

「ごッ・・・」

 

 

 間髪入れずに背中から叩きつけられた踵。呼吸もろくに整わないなかで叩きつけられ、俺の体はか細く必死に酸素を求めながら無様に這いつくばる。

 痛いとかそういう次元じゃない。とにかく苦しくて、気を抜いた途端意識が落ちそうだ。くくっ、流石に殺しのプロのパンチは効くぜ・・・。

 

 

「や、止めてっ!! お願いだから止めて!!」

 

『それは出来ない。今は()()を調理している最中だ。メインディッシュの君が口を出す領分ではない』

 

「いやぁっ!! レイっ! レイっ!!」

 

『クハハハハハ! 絶望に染まれ! 我々をもっと楽しませろ! 嬲り尽くせっっ!!』

 

 

 心からの歓喜の籠ったヴァーレンタインの命令を皮切りに、兵士たちが次々と寄ってたかって俺をリンチし始める。

 情けや容赦なんて欠片も無い、人形を嫌う兵士たちの憎悪と怒りの籠った一撃一撃が俺の命をガリガリと削っていく。

 

 

 顔を、

 

 首を、

 

 胸を、

 

 腹を、

 

 背中を、

 

 腰を、

 

 足を、

 

 腕を、

 

 手を、

 

 指を、

 

 

 この体のすべてを討ち滅ぼすかの様に徹底的に壊そうと、兵士たちは暴行を続けた。

 フルフェイスのアーマーに隠れて見えなくとも、分かる。

 兵士たちの顔に浮かんでいる感情は、間違いなく”愉悦”であると。兵士たちは今、楽しくてしょうがないのだと。

 

 

「ぐ・・・ぷはっ!」

 

「レイ、レイ・・・」

 

 

 一旦リンチが止まった。

 もう意識がまるでぐちゃぐちゃで、四つん這いになることすらも出来やしない。這いつくばってるなか、内臓から溢れた血が食道を逆流して口へと駈け上がる。

 せり上がる吐き気にたまらず腕だけで顔を浮かし、登ってきたものを一息に吐き出した。酸っぱい匂いと、鉄の匂い。赤と黄色の混ざった可笑しな色の体液。これを吐き出したのが俺だと思う間もなく、腕が限界を迎えて頭を打ち付けた。

 こんなザマの俺の周りで聞こえるのは侮蔑と愉悦の籠った兵士たちの笑い声と、ジャマーの痛みに耐えながらも俺のために涙してくれるスケアクロウの泣きじゃくる声だけ。

 

 ・・・泣くなよスケアクロウ。なーんも気にすることはない。

 すべてはこんな事態を招いちまった俺の責任だ。専属護衛として犯した俺のミスを俺の命で以って片を付ける、それだけの事じゃないか。

 だから、泣くな。お前だけは必ず助けるから。

 

 

「・・・どう、した? こんな、モンか?」

 

 

 体が熱い。

 全身で内出血が起こってるせいか、体が燃え上がるくらいに熱い。

 あぁ、間違いなく死ぬなこりゃ。なんて思いながらも、荒い息を吐きながら俺はヴァーレンタインに空っぽ(ニヒル)な笑みを返した。

 

 

『くたばりかけでよくそんな口が聞けるものだ。もっともこちらとしては虚勢にしか見えないがね。そろそろギブアップしたらどうだ?』

 

「はっ・・・終わるわけ、ねえだろうが。ここで、折れるとでも?」

 

 

 尚も終わりを認めようとしない俺に、浮かび続けていた笑みを収めたヴァーレンタインが鬱陶しそうな表情へと変わる。

 その顔にはもう楽しもうという気はない。憎々しげに俺を見下すだけ。

 奴は大きなため息を零すと、皺の刻まれた口をおもむろに動かし始めた。

 

 

『・・・やれやれ。人の姿を模しただけの鉄の塊相手に何故こうも人は魅入られ、果てには己の命まで懸けてしまうのか。私たちにはまるで理解の出来ない行いだ。狂気とも思える』

 

「・・・・・・」

 

『命令一つで容易く生者を殺せる。全てはプログラムで、全ては人の手によって”造られた”ものであり、そこには真なる魂も真なる信も、信なる忠義すらも存在し得ない。究極的には0か1の二つだけが全てを形作っている。

 我々人類とは根本的に違う存在。人形とは正しく()()()()()この世にあればそれでいい。心? 感情? 人間らしさ? そんなものがあって何になる? 木偶人形が生物の心を真似た機能(モノ)を搭載したところで滑稽なだけだろう』

 

 

 人間らしさを持った”今の”人形たちを全否定するヴァーレンタイン。言葉だけ取れば人権団体が口を揃えて言うような内容とほぼ近しいが、どうしてかこの男のセリフからは人権団体の連中とは異なる言葉の重みを感じ取れた。

 まるで人形によって自身の何かが変えられてしまった当事者だからこその重みというか、それには大きく通った軸芯があるように思えたのだ。

 

 

『私たちが何故君達を標的に選んだのか。冥土の土産だ、教えてやろう』

 

 

 俺たちを狙った理由、それをこの男は自らの口で”証言”して下さるらしい。

 わざわざここまで用意を整えて襲撃した、そうまでしたいと思ったワケがなんなのか。是非とも聞かせてもらおうか。

 

 散々殴られて壊れかけたアイバイザーの片隅に浮かんだ、端末から”転送された新たな文字”に内心ほくそ笑みながら、見下すヴァーレンタインに顔だけ向けた。

 

 

『・・・私にはかつて妻と二人の子供がいた。軍人の私と一緒に人生を歩むと言ってくれた、掛け替えのない大切な人だ。

 だが彼女はテロに巻き込まれ死んだ。普及したばかりでまだ社会のルール作りが整っていない戦術人形を悪用した、大きな被害をもたらした無差別テロだよ。今から30年ほど前のことだ』

 

 

 ・・・その事件は現代において最悪クラスと称される出来事の一つだ。

 頭の狂った科学者の男が自分の買った戦術人形のプロトコルを無理やり書き換え、銃火器店を襲撃したのち強奪した銃で民間人を無差別に殺戮した。

 このテロによって百人以上の民間人が犠牲となり、後に自律人形に関する様々なルールを制定する契機となった大事件である。そして同時に、ドールズジャマーが生み出されたきっかけとも言える。

 

 

『私はそれ以来、自律人形には否定的な立場であり続けていた。あらゆる事の決定権はあくまで人が握るべきだと主張し続けた。

 だがあの凄惨な事件を経て、世の時代が進むことを選んだ未来は自律人形の”更なる”社会進出だった。それを主導したのはお前の古巣(Sangvis Ferri)だよ、スケアクロウ』

 

『ここにいる者は全員、あのテロによって大切な友人や家族を失った”当事者”たちだ。

 ここにいる者達全員が、人形の手により大切な友人や家族を殺された。

 プログラム次第で思考も何もかもをどうとでも出来る”人形(機械)”のせいで、私たちの幸せな時間は無情にも奪われたのだ』

 

「・・・・・・」

 

 

 なるほど、な。ヴァーレンタイン達が人形に敵意を持つ理由は至極当然、当事者であれば誰だってそう思っておかしくない。

 他者の意思によって家族や友人を無理やり奪われたのなら、それは殺してやりたいほど憎みたくもなるだろう。

 そしてそんな事件があってなお自律人形の進出加速に社会が舵を切ったとなれば、心中が憎悪に狂うのも十二分に理解できる。

 

 けれど、30年前に無差別攻撃を実行したのは当時武力行使を命じられた暴走人形であって、スケアクロウが直接こいつらの大切な人たちを手に掛けたワケじゃない。

 今こいつらがやっていることは完全な逆恨み。まるで理屈が通っていないのだ。

 

 ヴァーレンタインを睨み、スケアクロウを傷付けたことの怒りを込めて口を開く。

 

 

「・・・なら、なんでスケアクロウを、人質にした? 彼女は、お前達の身内を、傷付けたことは、無いはずだ」

 

『確かに。この人形自体には何の非も無い。私が殺してやりたいほど憎んでいるのはお前だよ、レイ』

 

「なに・・・?」

 

 

 俺を殺したいほど憎んでいる?

 俺とヴァーレンタインに何の関係がある?

 

 テロがあった時にはそもそも俺は生まれてすらもいない。それにこの男とは今日が初対面だ。

 なら、なにが理由でコイツは俺を憎む?

 

 

『・・・数ヶ月前、ある人権団体が、人形でありながら大道芸を嗜む自律人形の行く手を阻む様に、街道上で武装し展開した。そうだ、覚えてないとは言わせない。お前が初めてこの人形と出会った一連の”護衛任務”での出来事だ』

 

「っ!」

 

『お前が狙撃した構成員の中には、母を人形に殺された憎悪から人権団体に加わった私の子供たちも含まれていた。

 そうだっ! 私の妻のみならず私の子供たちまでもが、人形に関わる者によって殺されたのだ!! お前が私の子供を殺したのだ!!』

 

「・・・・・・」

 

 

 なんてことだよ・・・。

 つまり俺が、溜まりに溜まってた負の感情を爆発させる最後のトリガーを引いたってわけか。

 スケアクロウの護衛をクルーガーから任されたあの瞬間から、こうなることは決まってたってか。

 

 ・・・・・・ふざけんな。

 

 

「・・・テメェに一つ、言っておくぞ。どうせ、もう死ぬんだ。はっきり、言わせてもらう」

 

『・・・なに?』

 

「テメェの子供を、俺が殺した? 当たり前だ。そうしなきゃ、俺は護衛の仕事を、果たせなかった。俺の為すべきと思ったこと、テメェの子供が為すべきと信じたこと、それがぶつかって、この結果になったんだ。

 俺は、自分のすべき仕事を遂行した。それだけだ。武器を持って、人形を壊すために街道に展開して、テメェの子供らがやってたことは、お前が忌むべき”テロと同レベル”だ。違うか?」

 

 

 結局のところ、あの一件では互いの主義主張が武力という形でぶつかってしまったに過ぎない。人形がいるから人権団体という存在が生まれ、人権団体という存在がいるから人形を護るための傭兵の雇用が生まれた。

 きっかけはヴァーレンタインたちが家族を失った最悪のテロ事件かもしれない。大切な人を奪われたが故に狂ってしまう事だって理解できるさ。でもだからといって、関係のない人形まで巻き込んで全てを根絶やしにする事が本当に正しいことなのか? 武力で以って、力で刻み付ける事が正しい事なのか?

 人権団体の連中はそれを正しいと考え、30年前の事件と同じ様にスケアクロウを破壊しようと企んだ。その行為はまさしく、かつて大切な人を奪った『テロリズム』そのものじゃないのか?

 

 

『ぐっ・・・奴を殺せぇっっ!!!!』

 

「止めてぇっっ!!!」

 

 

 図星を突かれたヴァーレンタインは、怒りのままに遂に俺を殺せと兵士たちに命じた。

 兵士は即座に俺に銃を向け引き金を引く。放たれた銃弾は一直線に俺の体を貫く・・・事はなかった。

 

 

「あ、貴女は・・・」

 

「・・・代理人から信号を受けた時には何事かと思いましたが、まさか貴方ほどの将がこんな暴挙に出たなんて」

 

 

 痛む体を引きずって後ろを見やれば、小柄なモノトーンカラーの少女がバリアを張り、迫り来る数多の銃弾から俺を守ってくれていた。

 背中から伸びる一対のガトリングガンは兵士たちへと狙いを定め、手をかざしつつも隙のない姿勢。

 鋭い視線で兵士らを見つめるモノトーンの少女・・・戦術人形は、凛とした声でこの悪夢の終わりを告げた。

 

 

「エドワード・ヴァーレンタイン。軍司令部からの命令により、貴方を誘拐と殺人未遂その他複数の容疑で拘束する」

 

『じゃ、ジャッジ・・・』

 

 

 直後、新たな軍の部隊がここへ突入し、俺たちを取り囲んでいた兵士たちを更に外周から包囲した。当然、いつでも撃てるよう構えて。

 ・・・フッ、やっときたか。俺に『準備完了』のメッセージ送ってからここに来るまで、ちょっと時間掛かりすぎやしないか? なんて、な・・・。

 

 

 

 -----

 

 

 

「ヴァーレンタイン中将、悪い事は言いません。抵抗せずに投降なさって下さい」

 

『・・・ククククク、クハハハハハッ、アーハッハッハッハッハ!!!』

 

「な、何がおかしい?」

 

 

 状況が一気に転回したと見るや、狂ったように高笑いをし始めるヴァーレンタイン。

 しかし彼の様子には、自らの企てた計画が崩壊した事への悲観や諦めの念は無い。むしろ、これからが本番だと言わんばかり。

 

 

『レイ! スケアクロウを拘束しているリングには一つ一つに起爆装置が込められていると言ったな? 時間を待たずしてそれを起爆できるスイッチがこの手にある。私は今すぐにでもリングを起爆して、お前たち諸共葬り去る事ができる! まだこの手にカードがあるのにどうして負けを認める? まだショータイムは終わっていないのだよ!!』

 

 

 そう言って奴がホログラム越しに見せたのは、プラスチックで作られた簡素な黒いスイッチ。誤操作防止のカバーは開けられ、スイッチには親指が乗せられている。何かの拍子に手が力めばすぐに押し込まれてしまう。

 自分の手の中が俺たちにとってどれだけ危険なのかを理解している奴は、それは愉しそうに高笑いを続けた。

 

 

『ジャッジ。君がどうやってここに来たのかなんて最早どうでも良い。私が最後に見たかったのは、いびつな関係を築いた人と人形の終焉だ!

 それはこのスイッチを押せば果たされる、これで私の全てが満たされる、私の、私の中で、くすぶり続けた怒りの鉄槌をようやく下すことが出来る! アハ、アハハハ、アハハハハハハハハッッッッ!!!!!

 さらばだ諸君!! 絶望の中で足掻け!!!』

 

 

 その言葉と共に消えるホログラム越しに、奴はスイッチを()()()

 

 

 ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、

 スケアクロウの足元から規則的な電子音が鳴り始めた。

 

 

「っ!!? 全員直ちに退避しろ!! 急げ」

 

「は、はっ!」

 

 

 ジャッジの命令で、敵味方の兵士たちが倉庫から次々に脱出していく。

 後に残ったのは俺とジャッジ、そして囚われたままのスケアクロウ。

 

 一転して3人だけとなった広い倉庫には、段々間隔が狭まっていく”死”へのカウントダウンが響く。それがゼロを刻んだとき、スケアクロウを捕らえたリングが爆発する。

 彼女が、消える。

 

 

「レイ・・・」

 

「ぐっ・・・ちっくしょう、俺は・・・」

 

 

 たった一人すら碌に守れやしないなんて、何が”専属護衛”だ。

 このまま彼女と一緒に心中する? ・・・冗談じゃねえ。スケアクロウにこんな終わりを遂げさせてたまるかよ。

 

 ピピ、

 

 ピピ、

 

 ピピピ、

 

 ピピピ、

 

 ピピピピ、

 

 ピピピピ、

 

 ピーーーーーーー、

 

 

「・・・こんなところでっ、終われるかぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!!!」

 

「ーーよく言い切ってくれました。後は私にお任せください」

 

 

 爆発する直前、虚空から突如現れた代理人がその手で俺たちの体に触れる。

 そして次の瞬間、気付けば見覚えのある”喫茶店”へと俺たちはワープしていた。

 

 もちろん、囚われていたはずのスケアクロウも一緒にーー

 




 大っ変長らくお待たせしました。
 またまたまた一週間超えてしまって申し訳有りませんでした。

 前話での激おこ代理人の決め台詞()はこういう事で、つまりジャッジ出陣を示してました(雑すぎる伏線なのは許してください)。
 大陸では法官の名で呼ばれている人形ですので、こういう身内の悪事こそ彼女の出番かな・・・と。

 ちなみに最後の方で出てきた代理人のテレポートですが、いろいろ氏曰く『喫茶鉄血』世界線の代理人も一応テレポート自体は可能という事で、であればリングに囚われたスケアクロウのボディだけを選択してワープさせるなんて細かい芸当も出来るんじゃないかなぁっと思い、今回こんな登場の仕方をしてもらいました。
 多分原作のエージェントでも出来るんじゃなかろうか?

 さて、次話で本当にオチ付けます。
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