裏稼業とカカシさん(旧題:裏稼業の何でも屋が出向く先には必ずカカシが待っている件) 作:chaosraven
どうでもいい事ですが、ハイスペゲームPCを導入したので色々とやりたい事をやるで。
(なおやる事は主にフォトショと動画編集で全然ゲームをやるつもりは無い)
『予定通り、行動を開始した様だ。そちらの様子はどうだ?』
「目障りな灯りが消えて、一際綺麗で眩い花火が幾つも上がりましたよ。さて、この後は彼の部隊も
『全て叩き潰すまでだ。元より内地の平穏な地で、精々がお巡りの真似事位しかやった事のない
「仰る通り。それでは、
『当然だ。ではな』
電話が切れると、グリージョは手に端末を持ったまま窓の外を見下ろす。
彼がいるのはR20地区居住区に立つ32階建ての高層ホテル、その28階の一番端にある1室。居住区はホテルを含めグリフィン基地を残して先の爆発で既に停電しており、真っ黒な市街地をキャンパスに燃え盛る炎がよく映える。
今頃は炎の近くでスコーピオン社の兵士が歓びに身を震わせてるのだろう。これから起こる祭りは、彼らにとって全身にワクワクが滾るイベントだから。
この爆発は通信や電気系統のインフラを寸断し、敵の行動を抑制する為の布石、本命の動きはこれから。憎しみすら抱く相手に相当の痛手を与えてやる、なんと気持ち良くて楽しい事か。
そう思っているであろう姿も見えない兵士達を、グリージョは虚無に近い凍てついた眼で見下ろした。
「残念。MAGがここに居る時点で、フォスターの
・・・フッ、俺が言ってあの反応ってことは、フォスターもアダムに状況を連絡していないみたいだな」
独り細々と呟くとグリージョは燃え盛る市街地から目を離し、少し遠くを見据える。昼間であれば見える廃墟と瓦礫ばかりのスラムも今は闇の中。その中に潜伏している自らの片腕に向けて、彼は端末の発信ボタンを押した。
「ロッソ、予定通りだ。スコーピオンが制圧された後がお前の出番だ。暫く待っていろ」
『暇潰しにここの人たち食べて良い?』
カクン、肩から崩れ落ちそうになった。
「良いワケあるか。ちゃんと"待て"が出来たら褒美をやる」
『私タコであって犬じゃないんだけどなぁ〜? まあ良いわ、いっぱいしてね?』
「時間見てな」
電話を切り、端末を胸にしまう。
とその時、ドアのノックと共にホテルマンが呼び掛けてきた。
『お客様、緊急事態です! 避難の準備をして下さい! 最低限の貴重品だけお持ちになり、すぐにフロア端の階段からフロントへお下りくださいませ!』
ドア越しに聞こえる声は切羽詰まったもの。まだ事態の詳細は掴めてない様だが、複数箇所で同時に爆発なんて、何がどうしてそうなったのかはまともな頭なら直ぐに答えが出る。
特に高層階では避難するにも時間が掛かるし、尚のこと速やかに宿泊客全員を無事に帰したいのだろう。プロフェッショナルとして責務を全うしている訳だ。
グリージョが把握している限り、ホテルへの襲撃はプランに無かった筈だが、だからといってここで避難しないのも違和感を与える原因になる。
とりあえずは素直に言う事を聞き、機を見て街を見下ろせる地点へ移動する事にした。
「承知しました。すぐに避難します」
『お急ぎください! 何が起こってるのかまだ判明してませんが、テロの可能性が否定出来ません! 速やかに避難を!』
そう言って扉から走り去っていったホテルマン。他の部屋には既に声掛けし、一番端にあるここが最後だったのだろう。
大した荷物もありはしないが、言われた通りの身軽な格好で部屋を出て階段へ向かう・・・その前に、彼は端末をタップし別の回線をコールした。
「ヴィオーラ、アダム・リドヴィツカヤの側に送り込んだ”眷属”を
『りょーかい。次の獲物はあのデカ男か。ヒョロっこいヘンブリーよりも
「だろうな。頼んだぞ」
グリージョは端末を仕舞い、扉を開けて階段へ。
「さぁ、
ニヤリと笑いながら、彼は階段を駆け下りていった。
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爆発直後、R20地区基地全域にけたたましく警報が鳴り響き、所属人形達は"全員が"集まれる講堂へ急ぎ、
数分後、身なりが崩れない程度の早足で来た指揮官『ハロルド・フォスター』は、唯一壇上で待っていたリー・エンフィールドからマイクを受け取ると、キッと鋭い目で部下達を見下ろし口を開いた。
「諸君、緊急事態だ。つい先程居住区で複数の爆発が発生し、居住区はほぼ全域が停電となっている。さらにだ」
ハロルドは手元のリモコンを操作し、講堂の数ヵ所に空中投影ディスプレイを表示させた。そこに映されているのは、影になって分かりにくいが、暗い色の戦闘服を着込んだ人物の首下から胸下までだと辛うじて分かる程度。大凡穏やかなシチュエーションではなさそうと分かる。
「爆発発生とほぼ同時に、グリフィンの秘匿回線に割り込む形でクルーガー社長の元にこの映像が送り付けられた。・・・まずは見たまえ」
リモコンを押し、全ての映像が一斉に再生される。
『グリフィン&クルーガー社の諸君。我々はグリフィンによって不当な立場に追いやられた者だ。我々はグリフィンへの積年の恨みを晴らすべく、グリフィンR20地区への攻撃を実行した。
また同時に、ベレゾヴィッチ・クルーガーCEOの事実上の右腕、ヘリアントスのコードネームで呼ばれる女を拉致した』
声紋分析をさせないためだろう。話者の声は幾重も加工が重ねられ、ノイジー極まりない不快な音に仕上げられている。
その声が発したヘリアントスを拉致した、その言葉に講堂内がどよめく。
階級こそ上級代行官、いわば中間管理職にあたるが、実際は話者の言う通りクルーガーからの信頼が厚い重要な人材である。
何が起こったのかとどよめき収まらぬ講堂。
すると、映像の中で話者は腕を画角の下に伸ばし、何かを持ち上げた。
それはグレー掛かったセミロングの髪。話者はそれを鷲掴みにして無理やり持ち上げ、髪の主の"今"をカメラに晒した。
『いっ、うぅ・・・』
髪を引っ張られた痛みに呻きながら、微妙に焦点の合っていない目でカメラを見つめるのはヘリアントス。
暴行を受けた様で顔には土埃が付着していて、口端からは口を切ったのか血が流れた跡が。
極めつけに、普段殆ど肌を露出しない彼女の肩がカメラに映ってる事、外れかけた下着の紐が見える事が、今彼女がどんな目に遭わされてるのかを嫌でも思い起こさせる。
『この女の命が惜しくば我々の要求を全て受け入れろ。10分後にまたメッセージを送る。諸君らが理性的な決断を下す事を期待している』
映像が止まる。
ハロルドはこの話者を憎々しげに見据えながら、力強く人形達へと呼び掛けた。
「以上が、ヘリアントス上級代行官を拉致した者達からのビデオメッセージだ。
先程当地区で起きた爆発も、ほぼ間違いなくこの者達の仕業とみて良いだろう。加えてだ、コレを見たまえ」
ハロルドは再度リモコンを操作し、今度は監視カメラの映像を切り出した画像を投影する。
既にソフトウェアやAIによる高解像度化処理が行われた後であり、ハイウェイをR20地区に向けて走る車のナンバーまで鮮明に描画していた。
「この映像は昨日、ハイウェイのR19ジャンクション付近で記録されたモノだ。我が基地にも滅多に来ないタイプの車のため、見覚えのある者も少ないだろう。コレは特に高価格帯に位置するセダン車だが、特筆すべきはこの車が付けたナンバーだ」
映像に映る車のナンバー付近を拡大し、その横に併記する形で全グリフィン社用車のナンバーリストを展開。該当の番号をマーカーで示し、車のソレと一致しているのが分かった。
「このナンバーは本社所有のVIP専用車に割り振られたモノ。例えばクルーガー社長や上級代行官殿の様な方を乗せるための車だ。
本社に問い合わせたところ、本日K-13地区で開かれる重要な会議へ向かうため、昨日上級代行官殿がこの車に乗って本社を出発している事が分かった。しかし予約していたホテルに一向に姿を見せる事は無く、当日の今日の会議にも現れなかった事から事件に巻き込まれた可能性を懸念していた所へ・・・先の映像が送りつけられたというわけだ。
先の爆発もあって、もしやと
ヘリアントスが此処にいる可能性がある、ハロルドが告げた瞬間再び大きなどよめきが講堂に響き渡る。
しかし同時に、人形達の瞳には強い使命感の炎が灯る。私達がヘリアントスを見つけ出し、酷い目に遭わせた敵を必ず倒すのだと。
部下達の目を見たハロルドは満足気に一つ頷くと、スピーチ台を両手で突っ張る様に強く叩き、腹から声を張り上げた。
「諸君らに命ずる! これより第一部隊から第六部隊に分かれ、各自居住区内を捜索。敵を排除し、上級代行官殿を救い出せ。プランは追って諸君らに通知する。以上、直ちに武器を取り、総員出撃!!」
『了解!』
「お待ち下さいフォスター指揮官」
が、そこへ冷や水を浴びせる者がいた。
武器商人の取引調査のため、クルーガーの命で派遣されていた特殊部隊『MAG』、その指揮官のブリッツだ。
彼は副官のLWMMGと共に完全武装の戦闘服姿で講堂に入ると、整列する人形達を掻き分けるように・・・いや、彼の持つ気迫に圧されて人形達が避けたため出来た空白を真っ直ぐ進み、壇上のハロルドに向けこう言い放った。
「その役目は我々が請負います。当地区の部隊はまず、一刻も早く居住区の住民の避難誘導をお願いします」
「なんっ・・・何様のつもりだ!」
一刻も早く動かなければヘリアントスの命が危ない、そう言いたげな目でブリッツを睨む。彼の周囲に立つこの地区の人形達も同様に。
一方のブリッツは、四面楚歌な空気にも全く動じる事は無い。先と変わらぬハキハキとした口調で以て、自身の意見を告げた。
ヘリアントスが危険に晒されているのは勿論だが、危機に瀕している命は彼女だけではないのだと。
「今現在、この爆発により一番混乱しているのは我々ではなく、居住区にいる民間人及び非戦闘員です。
こうした有事、ましてや敵対勢力による襲撃が疑われる場合、我々がすべき最優先の行動は一人の
我々MAGは今日ここに来たばかりでこの地区の地理に疎く、的確な避難誘導が行えない可能性があります。ですがフォスター指揮官の人形達はどのエリアのどこに避難施設があるかを把握している筈です。
上級代行官の救出ももちろんですが、それ以上になすべき事がある。・・・ここで長々と話しているこの時間すらも惜しいのです。一刻も早く避難誘導に移らなければ、多数の人命に関わる事態に発展しかねません。どうかご理解を」
「くっ・・・現場指揮官風情が偉そうに!」
ギリリ、歯が軋む音がした。
先の提案と言い、ハロルドは本格的にブリッツに敵意に近い感情を抱きだしたらしい。そう判断したブリッツは敢えて大袈裟に溜め息を吐くと、ナビゲーターを呼び講堂のディスプレイにテレビ通話画面を表示させる。
程なく繋がったのは、そもそもの一件をブリッツに任せたグリフィンのCEOクルーガーその人。ただでさえ厳つい表情により眉間に皺が寄ったその顔は、誰が見てもピリピリしてるのが分かる。
いきなりその顔が大画面で出てきた事で、ハロルドも思わず面食らってしまう。
『どうしたブリッツ指揮官』
「社長に一点ほど確認が。上級代行官の拉致を表明し、この地区へ攻撃したと思われる敵武装組織の一件ですが、代行官の捜索及び敵部隊の鎮圧は我々MAGが行うと言う事でよろしいでしょうか?」
『構わん。フォスター指揮官、荒事はブリッツ指揮官に任せ、R20所属の人形含む全スタッフは、直ちに居住区にいる民間人及び非戦闘員の避難誘導に移れ。それが一番
この事態に態々電話が来た時点で、ブリッツとハロルドの状況を理解していたのだろう。社のトップとして有無を言わさぬ気迫で話を纏めてみせた。
事実、居住区の現状を放置すれば犠牲が出る可能性がある。それは統治者として最も起こしてはいけない事態であり、場合によっては会社の存続に関わる可能性も秘めている。
幾らスポンサーの息子と言えども、これ以上ブリッツとの問答で時間を消費するのは到底容認できない事であった。
片や漸く仕事に移れると、片や己のプライドを傷付けられた事から、それぞれ異なる口ぶりで返答をした。
「了解」
「くっ・・・了解」
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居住区で起きた複数の爆発、そして停電。
よからぬ事企んでんじゃと導き出した矢先のこの展開、目元が引き攣る。
さあこっからどうやって事態の沈静化を図ってくんだ? 面倒くさそうな問題が山盛りの丼になって出された気分である。
幸いなのは仕事出来る奴が現場にいるってことくらいか。暗所用の高感度にしたバイザー越しに基地を見て、そう思った。
基地から二つの黒いポッチが飛び立ち、それぞれ別の方向へ飛び去って行く。あれはUAVの類か? 攻撃機か補助機かは分からんが、事が起こって直ぐに飛んだのを見るに、恐らく飛ばしたのはブリッツだろう。
なんて考えてたその時、件の人物達から俺たち全員にコールが掛かった。
「どうした?」
『どうも御三方、ナビゲーターです』
「あぁ、丁度ブリッツに連絡しようとしてたところだ。何があった?」
『端的に申し上げますと、この地区でテロが発生しました』
「「「あ?」」」
やっぱりな、思った通りだよこんちくしょう。
という俺の思いを他所に、端末の画面や端末と繋がってるバイザーに次々とデータリンクが表示され・・・オイ待てバイザーにまでウィンドウ幾つも出すんじゃねえ見えねえだろうが。
『失礼、其方の端末とバイザーのリンクの仕方をチェックしてました。では改めて情報を端末の方に表示します。人形のお二方にもデータリンクしますね』
「えぇ・・・」
「どーもー」
完っ全に俺たちの通信形式が丸裸にされてしまった事にまたしても目元が引き攣るが、気を取り直して画面に集中する。
表示されているのは動画ファイルの再生待機画面。首元から胸上までをカメラに映した黒い戦闘服の人物が映っている。中央の再生アイコンをタップし、動画の中身を見てみる事にした。
内容は戦闘服の男? 酷いノイズが混じるレベルに音が加工されていて断言は出来ないものの、格好から見て多分そうだろう。ともかく、その男が自分達はG&Kに不当に虐げられた者を名乗り、この地区に攻撃を行った事と、クルーガーの右腕たる女性を拉致した事を示す物だった。
映像の中で男が髪を掴んで持ち上げた女性・・・コードネームはヘリアントスと言うそうだが、顔に付いた土埃を見るに靴で踏んづけられるといった暴行を受けている様だ。口を切ったのか、口端からは血が滴った跡が見られるし、腫れぼったくなった目元、ボサボサの髪、肩から外れかけた下着の紐が、彼女が碌でもない目に遭わされていると分かる。
・・・助け出しても暫くは精神不安定、か。
いつぞやの
「それで、そっちはどう動く事になってんだ?」
『R20地区の部隊には民間人の避難誘導に当たってもらっています。攻撃された地点の制圧及びヘリアントス氏の捜索は我々MAGが』
うん? 敵を制圧するのは分かるが、人質の捜索までやるのか?
「捜索? 人質がこの地区にいるのか?」
『ええ。フォスター指揮官の情報では、昨日ヘリアントス氏を乗せたグリフィンの社用車が、最寄りのジャンクションをこの地区に向けて移動しているのを監視カメラで確認しています。
今日の爆発、合わせて先のメッセージではっきりR20地区に攻撃したと宣言しているので、状況証拠だけで見ればこの地区にいる可能性が高いという訳です。まぁ、今のところ何とも言えないですが』
それもそうだ。ナンバーなどやろうと思えばいくらでも偽装出来る。なんならパナメルカーラだって、どこぞの運び屋セダンみたいに取付部ごとクルクル回って自由にナンバー変えられる仕様になってるからな。
人質を乗せた本命と、色もナンバーも揃えた囮がココに来た可能性もあるのだ。その場合、無事に人質を救い出すのは絶望的になるわけだが。
ところで、ナビゲーターの口ぶりを聞くに社用車と同じナンバーの車が来てるという情報はどうやらボンボン指揮官が齎したらしい。
・・・ますます怪しい。もしマッチポンプを企ててるんなら、上司が囚われの身になるなんて場面は絶好の好感度稼ぎになる。それに監視カメラで確認したって言うが、百歩譲って(恐らく)中身AIの
事前に犯人側と通貨時刻を打ち合わせといて、その時間通りの監視映像を切り出して用意しといたって方がまだ説得力がある。
・・・つう事は、俺のこの推測が間違ってなきゃどっかに絶対人質はいらっしゃると見ていい訳だ。
「ほーん? なるほどねぇ・・・社長からの前情報聞く感じ、この状況だとてっきりここの指揮官は我先に上司捜しに動くと思ったんだが」
『! ・・・よく分かりましたね』
一瞬息を呑み、感嘆した様にナビゲーターは言う。
はぁ、予想は当たってるらしい。
「やっぱりな。でなきゃ、ここまで仕込んだ意味が無い」
『仕込んだ・・・?』
「あくまで推測だが、多分間違ってないと思うぜ。二人とも、ナビゲーターに調査結果をリンクしてやってくれ。そうすりゃ意味が分かる」
『はぁ・・・』
困惑混じりに返すナビゲーター。・・・多分中身はAIなんだろうに、随分人間臭い反応を返すもんだ。スラムで留守番してる
暫しデータをアップロードしていたが、それが終わると相手は数十秒ほど黙りこくる。そして再び回線が繋がる。
『これは・・・つまり皆さんの最寄りのゲートが抜け道になっていると?』
リンクされたデータに目を通した彼女は、ローテンションな声で俺たちに問うた。
「ああ。物理的に基地との接続が切断されてるというオマケ付きでな」
『は?』
間の抜けた呆けた声。
また数秒程沈黙が続き、信じられないと言葉を漏らした。
『本当ですね・・・。ゲートへアクセスを試みましたが、確かに基地のシステム経由だと入れません。それにゲートの監視システムと繋がってないのに基地へ通報が入ってないのも可笑しい・・・』
「そのあたりは基地の方に細工か何かをされてるのでは? 私はそこまで入れませんので、そちらが今確認出来るのならやってしまってはいかが?」
『調べてみましょう。既にブリッツ指揮官の依頼で当基地は掌握してますので』
「お、おう」
さらっととんでもない事をブチまけられた後、再び数分程の沈黙。ただし今度は端末の画面に居住区全体を映した戦略マップが表示され、情報が逐次更新されていく。
待ってる間も時間を有効に使えという彼女の気遣いを有り難く受け取り、俺達は常に変化する戦況から現場の様子を伺おうとした。
R20所属の人形は6隊に分かれて避難誘導に当たってる様子。だが、スラムを除いた居住区だけの広さに対し住民の人口は多い。一点集中の復興政策を推し進めた弊害か、計測されてる通信量に比して部隊の動きが鈍く、何処も避難が順調に進んでる様には見えない。
あるいはボンボン指揮官が碌すっぽ指示出さないせいで混乱してるのかもしれないが。
このままだと更に被害が出るように思える。
一方のMAGは、ビーコンを見るに実にスムーズな動きで吹っ飛んだ所へ移動している。緊急性の高い状況故のスピード感を持った動きは流石だ。多分この地区での動きは慣れてないだろうに、周囲の状況把握を的確に行ってるからこの速度を維持出来るのだ。
前線から離れた内地のため、恐らく訓練ばかりでまともな戦闘経験の無いこの地区の人形との進行スピードは雲泥の差。積み重ねた経験が如実に結果として現れている。
・・・こりゃ部隊を円滑に動かす
『御三方』
「ん?」
『一通り調べましたが、特にウィルスやトロイの類の侵入はありませんでした。その代わり・・・』
「その代わり?」
『ゲートとの接続途絶の警報を受け取った後、通知を切った形跡が見られました。その後ゲートに修復作業を展開した履歴も無く・・・レイさんの仰った意味が現実味を帯びてきました』
身内による非道なマッチポンプの可能性を認識し、うんざりした声で話すナビゲーター。
彼女やブリッツ、それとクルーガーには同情の念を禁じ得ない。
「ふぅ・・・いくら金にならないっつってスラムをほっ放ってたにしても、有事にはそのまま盾になるゲートまで無視するとは流石に考えにくくてな。でもココを無力化して連中の侵入口にすりゃ、こんなザル管理じゃ事実上統治側の誰にも分かりゃしねえ。スラムの住人が見てたとしても口封じすりゃ済む。
それにスラムと居住区の関所にいる人形だって、さっきのホログラフィックメモリーっつったか? アレ用のツールを指揮官権限で悪用すれば、人形が見た記憶データの改竄なんてぶっちゃけいくらでも出来るんじゃねえの?
歯ァ黄色くなるほど葉巻吸える奴の下に、職業意識の高い職員が何人いるかも分からねえしな」
「・・・」
ズブズブな関係を良しとする者の周囲に、まともな組織運営を目指す奴がいるとは思えない。
嫌気が差してとっとと辞めるとか肩身が狭くてとかの理由もあるだろうが、何より旨味を求める奴が正道を貫く人間を近くに置く理由が無いのだ。
この基地は上に行くほど同じ様に旨味を吸って生きる人種で占められてるに違いない。でなきゃ、ここまでスラムが長期間放っておかれることも無かったのだから。
俺の毒に返す言葉も無い、といったところのよう。
しかし、ここで沈黙してても事件解決が遅くなるだけ。とりあえずは話を切り上げ本題に移ろう。
「まぁ起こっちまったのを嘆いたって仕方ない。さっきも言った通り、ゲートは今物理的に基地と接続されてない。基地のコンピューター経由だと流石のアンタもアクセス出来ない。だが————」
「私やティナ、あるいは彼の端末を経由して無線でコンタクトする事は出来るでしょう。必要であれば彼に許可を取った上でアクセスしてもよろしくてよ?」
『・・・了解。必要と判断できた際は遠慮なく提言しますね。さて、これからのお話なのですが』
改めて端末に現状の状況が表示される。
基地を除きほぼ全域で停電、加えて通信系も死んでいて、民間用の回線は一切繋がらずと。
ジャミングが発されてる訳では無い為、
攻撃されたのは主に電源系統と通信用の基地局及びその関連施設とみられる・・・か。
通信インフラさえ復活すりゃ仕事もやりやすくなるんだがな・・・で、俺達はどう動けば都合がよろしいわけ?
『ご覧の通り、現状は通信が著しく制限されている状況にあります。が、そこは一時的にはなりますが対応は可能です。ブリッツ指揮官が万が一劣勢に立たされた場合を見越して、通信アンテナを搭載した大型ドローンを二機持ち込んでいます。
ドローンを飛ばして広域をカバーすることで、MAGの作戦行動に生じる支障は最小限に留まってます。
御三方にはMAGのサポートに入って頂きたいと。併せて404小隊も敵拠点の把握に動いています』
つまり、G&Kサイド総出でこの地区のどっかにいる敵を探し出すってわけだ。
「OK。それじゃあナビゲーター、臨時で俺たちの案内も頼む」
『もちろんです』
「それと分かってると思うが」
『はい?』
「スケアクロウの姿が万一目に付くとパニックになりかねないんでな、こっちはウラの人間らしく別ルートで移動させてもらう。
つうわけでだ」
人が移動できるくらいの下水道の入り口まで、まずは案内よろしく。
それと地図もあれば尚のこと良し。
基地のシステムを掌握したんなら、俺が求めてる情報位すぐに出せんだろ?
オペレートは任せるぞ、ナビゲーター。
俺が吹っ掛ける様に言ったのを察したのか、彼女は存分に私の実力を味わえとばかりの高揚感溢れる声色で言った。
『了解しました。
そろそろ幽霊姉妹∞の周回だけじゃなく、双連乱数クリアしてかないと(汗)
次回、レイ達が本格的に動き出す(予定)