裏稼業とカカシさん(旧題:裏稼業の何でも屋が出向く先には必ずカカシが待っている件)   作:chaosraven

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 大っ変長らくお待たせ致しました。
 本編17000字オーバーですので、お手隙のタイミングでご覧下さい。


-92-"Two-up"/12 To goal?

 

 

 

「にゃぁっはっはー!! お掃除の時間だよー!!」

 

 

 そんな声がインカムと右耳から入ってきた。

 喧しく鳴り続ける機銃掃射の音と共に。

 

 スレイプニルの駆るヘリに乱暴に相乗りした俺達は、そのまま目的地であるR20所属のD小隊の元へ急行。地上の人影が敵か味方かは人形部隊の視界リンクと、ヘリに付随して浮遊するスケアクロウのビットの映像を元に、ナビゲーターの解析ですぐに判明。結果、小隊が立て籠もってるビルの周りにいるのは全員敵と分かった為、容赦無く上空から弾をバラ撒き始めた、という所である。

 

 ヘリが接近してきてるのはローター音で敵も分かっていただろう。姿を見るや否や、即座にRPGだのジャベリンっぽいのが飛んできたのには流石に焦ったが、そこはビットが上手く迎撃弾を撃ち込む事で対処。

 更にナビゲーターが俺達の視界を介し、RPG発射時の爆炎や、ジャベリンの推進剤点火地点から射手の位置を割り出し表示。ヘリにとって最も危険な火器を効率的に排除出来る様整えてくれた。

 

 俺達は最優先目標に向けて、両側方に設置されたドアガン・・・M134ミニガンから銃弾をバラ撒き、ヘリにとっての脅威目標を真っ先に排除。結果、空の敵に抵抗が難しい兵士のみが残される。そうなれば後は簡単だ。

 

 建物の陰に隠れようとも、乗り捨てられた車に身を隠そうとも、このドアガン相手では盾代わりにもなりやしない。

 7.62mm弾はそれだけ強力な威力を持つ弾丸であり、しかもそれを秒速何十発という凄まじい速度で撃ち込まれるのだ。流石に戦車のように分厚い装甲は貫けないが、少なくとも今、地上にある遮蔽物を貫通して敵兵を始末するには十分過ぎる力と言える。

 

 程なくして、機体両サイドからの容赦無い機銃掃射により、D小隊が立て籠もってる建物周辺は粗方クリーンになった。後は隠れた生き残りが出てこないかを警戒しつつ、着地出来るスペースにゆっくりと降下していく。

 やがて地上に無事に着陸すると、まず俺達が降りて周囲の状況をチェックして行く。俺とティナで前方を、スケアクロウはビットと合わせて全周囲の視界を警戒。

 

 

「クリアっ」

 

「後方もクリア」

 

 

 ヘリが巻き起こす風にジャケットやマントをはためかせつつ、二人が言う。

 俺は喧しく響くローター音に負けない様に、腹から声を張った。

 

 

「うしっ。避難民とD小隊を回収しよう! ナビゲーター、小隊へデータリンクをっ、スケアクロウはそのまま見つからん所に隠れててくれっ。それとビットを上空に展開して監視、万一生き残りがいたら処理は頼む!」

 

「了解」

 

『俺はここで待ってるぞ。なるべく早く連れてきてくれよ?』

 

「勿論だ!」

 

『OK。気を付けてな』

 

「ありがとうっ。行くぞティナ!」

 

「らじゃっ」

 

 

 俺とティナはP90を構えながら、立て籠もってる建物へと急ぎ向かう。たった100m少々の距離。しかし乗り捨てられた多数の車のせいで、目的地点に着くのになんと2分も掛かってしまった。

 この状態では陰に隠れて隙を伺う生き残りを考慮せねばならず、またそこら中で追突しまくってるので途中途中ボンネットに乗っかったりしなきゃいけない。そうやって身を露出した所にワンショット・・・或いは俺がやったように、事前に車体の下に潜り込ませた爆弾を起爆する。その可能性が否定しきれないのだ。

 ヘリがローターを回しっぱなしにしてるため、その音が邪魔をして音の反響を拾って敵の位置を探れないというのもある。

 内心障害物を乗り越える度に冷や汗流しながら移動してきたが、幸い"行き"に於いては不安が当たることは無かった。

 

 

(問題は帰りだな・・・動きに慣れてない民間人をどう庇いながらフォローするか)

 

 

 頭の痛い問題だ。

 一番理想は建物の直ぐ側にヘリを着けることだったが、ご覧の有様ではどうしてもそれが出来ない。車の上に伸し掛かってってのも物理的に出来なくはないだろうが、そうした動きを想定してないヘリの脚部に無理な負荷を掛けるのも危険。

 結果、ごちゃごちゃした道を寿命縮めながら進む障害物競走をしなきゃいけないってわけだ。

 

 たった2分と取るか、長い2分と取るか。

 

 

「(・・・行きはヨイヨイ帰りはなんたらってな。次が本番だ。二人ともフォロー頼んだぞ)」

 

『ええ』

 

「いえっさー」

 

 

 そして建物の前に立つ。俺はP90を右手に持ったまま両手を上げ、攻撃意思が無い事を示しながらゆっくり歩いていく。その間、ティナは後ろ向きに警戒する。

 

 

「誰だっ!」

 

 

 次の瞬間、即席のバリケードに隠れてた戦術人形達が一斉に銃を向ける。

 外での機銃掃射は聞こえていたが、立て籠もってた為に正確な状況を把握出来てないといったところか。

 或いは味方が弾丸バラ撒いた事は察してるが、俺が懸念してる様に、撃ち漏らした生き残りが味方を装ってここに来たと思ってるか。

 

 この暗さ、そして撃ち殺したら直ぐに燃える死体、なるほど。敵の格好を明確に認識出来ていないのであればこの反応も頷ける。

 俺は露出した口元に笑みを浮かべて語りかける。

 

 

「俺達は味方だ、敵じゃない。ストリートの向こう100m程先にグリフィンのヘリが来てる。いつ敵がここに来るか分からない、急いでくれ」

 

「・・・証拠は?」

 

 

 銃を向ける一人、暗がりでも分かる露出度の高い格好をした人形が言った。

 はて、ナビゲーターにデータリンクを頼んでおいた筈だが・・・。

 

 そう思い、インカムから無線を飛ばそうとしたその時————

 

 

「「!」」

 

 

 建物の側に隠れていた生き残りが突如姿を現した。数は二人、俺から見て両端から身を乗り出し、銃口を此方に向けようとしている。トリガーには指が掛かっている。

 直ぐ様後ろ向きのティナが時計回りに振り向きだしたのを察知。ならば俺も同じ方向へ体を向ける。お互いに標的がダブらず、かつ最も早く敵を始末できる様に。

 ティナは左、俺は右の敵へ狙いを定め、得物の矛先を敵へ向けようとする。しかし、此方が引き金を引き切るよりもほんの僅かに、相手が引き切る方が早かった。

 

 

「っ!!」

 

 

 引き金を引き、弾がシリンダーを通って出ていくその瞬間、体に弾を撃ち込まれ姿勢が崩れる敵兵士。本来思い描いていた射線とは異なるブレた軌道で放たれた弾丸は、俺のバイザーの左側面を掠る形で飛んで来た。

 外装が削り取られ、中の基盤にもダメージが入る。バチバチと嫌な音が聞こえ始め、咄嗟にバイザーを投げ捨てた次の瞬間、ボンっと音を立ててショートしてしまう。焦げた臭いと共にプスプス小ちゃな煙を上げるそれ。

 誰がどう見ても呆気なく最期を迎えてしまったと分かる状態だ。

 

 

「だ、だいじょーぶご主人?」

 

「あぁ、頭は無事だ。心配すんな。・・・・・・チッ、余計な手間掛けさせてくれる」

 

 

 恨み言を撃った本人に投げかけるも、間もなくその遺体は青白い炎に包まれ灰になっていく。

 後に残るのはやり場のない怒りだったモヤモヤ感。とりあえずバイザーだったものを拾い、バッグに仕舞うフリをしてストレージに回収すると、改めて人形達へ向き直る。

 

 

「・・・とりあえず、今燃えたのはお互いにとっての敵だと思うんだが、まだ信じられないか?」

 

 

 そう問いかけるも銃口は此方を向いたまま。

 さて、信じてくれない事には残る民間人を避難させられないのだが、どーやって彼女らをヘリまで連れて行こうかと思案していたところ、状況をモニターしているナビゲーターからこの場の全員へ無線が飛んできた。

 

 

『D小隊の皆さん、ナビゲーターです。今皆さんの前に立っているのは、クルーガーCEOからの正式な要請を受けて戦闘に参加している傭兵の方とその所有人形です。我々が保証します。

 ————安心してください、彼らは味方ですよ』

 

 

 その言葉を聞いた瞬間、銃を構えていた人形達が一斉に膝から崩れ落ちた。

 今まで緊張状態にあった全身から力が抜け、半ば叩きつけられる勢いで銃が床に落ちる音が響く。

 そして、俺の呼びかけに応答した露出度の高い格好した人形が、嗚咽を漏らしながら叫ぶ様にこう言った。

 

 

「————やったっ、やったよっ! やっと助けが来たんだっ!! やっとみんなを安全な所に送り届けられるよっ!!」

 

 

 その声を皮切りに、ずっと必死に防戦してきていた人形達が櫃を割った様にボロボロ泣き出す。

 彼女達の姿を見て、守られていた民間人からも次々に歓喜の声が上がる。いつ終わるかも分からない絶望から脱出出来る、その喜びがオフィスの中で広がっていった。

 

 そうなるのも無理は無い。

 この地区の人形達にまともな戦闘経験はほぼ無い。悪く言えば新兵に毛が生えた程度の実力しかないのだ。

 それが突然の武装蜂起と同時にプロフェッショナルの兵士と戦うことになり、まるで生きた心地のしない極限状態での攻防を強いられる事になる。無我夢中に戦い、ダミーを消耗しながらもなんとか主機を維持しながら民間人を守り抜いた。敵が甚振る様にジワジワ攻めてきていたからとはいえ、本当によく耐え抜いたものだと思う。

 そんな地獄の様な戦いが漸く終わりを告げる。なんとしても民間人だけは守らなきゃいけない、その重責から解放される時が見えたのだ。全員が涙を流すのも当然のことであった。

 

 しかし、このエリアでの戦闘はまだ終わっていない。此処に来るまでの道のりに敵兵士が紛れてる可能性がある以上、今ここで緊張を完全に解いてしまうのは不味い。

 

 歓喜に身を震わせる中へ水を差す様だが、改めて気を引き締めてもらうため、俺は大きく手を打ち鳴らした。

 

 

「気持ちは理解出来るが、まだ避難が終わったわけじゃない。ヘリに乗って基地に着くまでは気を抜かないでほしい」

 

 

 そう言うと、民間人の一人が何故と問うてきた。

 

 

「だが、アンタ達がマシンガン撃ちまくって掃除したんだろ? 安全じゃないのか?」

 

「そうできれば良かったんだが、ストリートが今どんな状況かはアンタ達も知ってるだろう? ああもゴチャゴチャしてるせいで、ヘリに着くまでに車を乗り越えたりで移動には時間が掛かる。それに隙間に生き残りが隠れてる可能性を否定出来ない。

 更に言やあ、ヘリのローター音を頼りに、近くに展開する別の部隊がここへやって来るとも限らない」

 

「なっ・・・」

 

「だからこそ時間との勝負になる。粗方掃除した今、ここに残ってる時間が惜しいんだ。全員、気を引き締めてヘリまで全力でダッシュしてほしい。俺達がアンタ達を守る。後ろを気にせず、ヘリに向かって一直線に進むんだ。

 ————最後の山場だ。あと一息、みんな頑張ろう」

 

 

 俺はそう言って、全員を見渡す。この地獄から全員で脱出する、その強い意志が人形からも民間人からも感じ取れた。良い傾向だ。協力して互いをフォローし合おうという連帯感が生まれている。

 俺は彼らに頷き返すと、ストレージからハイヤー用で持ってきてたスマートグラスを取り出し、身に着ける。バイザーと違って顔に密着しないため、動き回る時には使いにくいのだが、使えなくなった以上は文句も言ってられない。せめてデータリンクを可視化してくれるデバイスが無いと、彼らを守りきる上で大きな不安を抱えてしまう。

 

 直ぐ様電源を入れ、端末を介してナビゲーターへリンクを申請する。即座にコネクト完了し、ティナとスケアクロウが認識している状況がガラスに表示される。

 ・・・致命的なタイムラグは無し、か。基本的なOS構造をバイザーと共通化してたのが幸いしたようで、接続には何の問題も起こらずに済んだらしい。

 準備が整った俺は銃を構え、外の警戒を続けるティナに振り向く。

 

 

「ティナ、先兵を頼む。殿は俺が務める。それとD小隊は避難民をカバーする様に展開してくれ。途中かなりの障害物を乗り越えなきゃならない、疲れてるだろうが手を貸してやってほしい。

 さぁ皆っ。さっきも言ったが、ここからはスピード勝負だ。1秒でも早くヘリに到達する、それだけを考えて全力で突き進んでくれ。準備は良いか?」

 

『あぁっ!』

 

「アンタ脚怪我してるだろ? 俺が背負ってくよ」

 

「あ、ありがとう・・・」

 

「立てるか? あともうちょっとだ、一緒に生き延びようぜ」

 

「・・・あぁ、そうだな!」

 

 

 そうしたそれぞれの声を上げつつ、避難民全員が駆け出す用意を整える。その周囲を5人の人形達が囲う形で布陣し、先頭をティナ、後ろを俺がフタして陣形が整った。全員が残りの弾薬を確認し、射撃準備を完了したのを確認した俺は、自らもグラスを掛けて準備万端となったティナへ声を張った。

 

 

「よし・・・進め(Move)!!」

 

「らじゃっ!!」

 

 

 駆け出したティナに続き、縦長の陣が動き出す。描くのは乗り越え易い障害物を結んだ最短ルート。しかし、俺達でも2分掛かった道のりを彼らはどのくらいで動けるか。

 そして生き残りがいやしないか、来るときには動かなかった爆弾が作動しやしないか、最後尾を付きながらそんな悪い予想が常に頭を巡る。緊張が全身を強張らせる。

 

 最初の障害物。背の低いセダンのボンネットだ。ティナはコレを助走を付けて一気に乗り越えたが、そんな曲芸地味たスピーディな動きが彼らに出来る訳も無い。

 それを理解していたティナは周りの車に身を隠しながら、すぐ後ろに付く避難者を引っ張っていく。彼らが身を露出している時間を少しでも短くするためだ。

 

 後続の人形が乗り越えた所で彼女は前に向き直り、役割を交代して銃を構え前進し始める。隙間にもキャパがある。出来る限り後ろが詰まらない様にフォローしつつも先の警戒も行うという、かなり頭を使う仕事を熟しているが、その動きには淀みが無い。進み出しは順調だ。

 

 その後も何台かの障害物を乗り越えていき、道半ばの所まで来た。だがこの時点で既に2分以上が経過。やはり障害物を乗り越えるという慣れない動きで手間取ってしまっている。急がないとヘリにも危険が及びかねない。

 

 俺の中に焦りが出てきたその時だった。

 

 

「ぐぁっ!?」

 

 

 視界の端で何かが光った、そう思う間もなく避難者の男の肩に弾丸が突き刺さった。

 

 

「! 伏せてッ!!」

 

 

 人形の一人が声を張り上げ、皆が一斉に車の陰に身を隠す。頭が追いついてない者へは上から押さえつける形で車の陰に隠れさせる。

 間を置かず、ナビゲーターからの戦術リンクがグラスに表示される。被害者の動き、怪我した箇所を射抜く弾道、ヘリの起こす気流、そして展開しているビットからの情報を加味した大凡の射手の位置が示される。

 

 

スケアクロウ(サーリャ)!! 上から撃て!」

 

『わ、分かりましたわ!』

 

 

 流石にグリフィン人形の側で鉄血人形のモデルを叫ぶ訳にもいかず、彼女自身の名前を呼んで指示する。

 マズルフラッシュもあったため、即座に動けば逃げられるより早く彼女の方が仕留められる筈だ。

 早速見慣れた光が地上へ一直線に刺さる。そして青白い炎が仄かに周囲の車を照らしたのが見えた。

 

 

「急げ!! とにかく走るんだ!!」

 

 

 前を行く避難民や人形達に発破を掛ける。

 数は多くないはず。だが明確に何人生き残ってるのかが分からない。何処に隠れてるかも分からない。何処から撃たれるかという恐怖が彼らの中に広がり始める。

 しかしそれで足を止めれば、それこそ奴らの思うツボだ。いつヘリの音を追って新手が来るか分からない以上、ここで立ち止まって生き残りが撃つまで待つのは悪手でしかない。無我夢中で良いから、とにかく前へ進ませる必要があった。

 

 けれども、敵は此方の意思を嘲笑うかのように・・・いや、命ある限り一人でも多くのグリフィンの者を殺すつもりでいるらしい。

 

 

「ガッ!?」

 

「きゃっ!」

 

 

 足を怪我した女を背負って前を走る男が、ボンネットに乗ったところへ足を撃たれてしまった。なんとか陰に滑り込んで身を隠せたが、バランスを崩して倒れこんでしまった。

 幸い、スケアクロウやナビゲーターがマズルフラッシュを視認していた為か、間髪入れずレーザーが敵を仕留められた。青い光も確認。

 

 俺は無事な避難者達を先に行かせ、痛みに顔を歪める男の元へ駆け寄る。側では背負われていた女が涙混じりに、叫ぶ様に声を掛けていた。

 

 

「お願いっ、死なないで! 貴方が死んだらっ、貴方が死んだら、私は・・・」

 

「・・・アッハハ、最期にこんな美人さんに看取ってもらえりゃ、俺の人生も捨てたもんじゃ、なかった、ってか」

 

 

 ・・・・・・なんか悲劇のラブロマンスが始まってるんだが、とりあえず怪我の程度を診させてくれよ。まぁ7.62mm弾が突き刺さった以上、脚の中身が重症なのは間違いないが。

 

 

「意識はあるな。どこに撃たれた?」

 

「あ、アンタか。此処だ、膝の辺り」

 

 

 ムードをかち割って登場した俺に、ちょっぴり気不味さを湛えた顔で答える男。言われた患部を見てみると、確かに大きく開いた銃創から血が出ているのが分かる。腿を撃たれるよりはマシだが、それでもこの出方だといずれ出血量が危険な域になるだろう。それに着弾時の衝撃で膝の関節が壊れてる可能性もある。

 

 俺はストレージからロープとナイフ、それと応急キットをバッグから取り出す。まずロープを手頃な長さに切断し、それを2本分作る。2本のロープを患部の上下できつく結び、圧迫することで止血を図る。

 本来は当て布を止血帯で包み、棒か何かに括り付けてキツく締まるまで回して固定するのだが、短時間で治療に入れる目処があるならばやり方を変えてもさして問題は無い。長期間待つ必要がある時は、30分程度の間隔で一旦緩めて血流を流してやる必要があるが。閑話休題。

 

 彼の様に出血が多い怪我の場合、患部を直接抑えても出血は止まらない。患部に血を送るルートを圧迫して流血量を少なくする事で、失血性ショックが起こるのを遅らせられる。治療するまでの時間を稼ぐのだ。

 出血が穏やかになったのを確認がてら、一旦素手になった俺はキットから消毒液とビニール手袋を取り出し、手指消毒してから手袋を着ける。続いて清潔なガーゼを手に取ると、上から消毒液を塗りたくってやる。この時点でこれからされることを察した男。か細い悲鳴と共に、俺を悪魔を見るような目で見てきた。

 気にせずそのまま男の傷口に押し当てる。

 

 

「ぎぁぁぁぁぁっっ」

 

 

 あまりの痛みに白目剥きながらビクンビクンする男。その様に女はさっきとは別の意味で不安げな顔になるが、やるかやらないかで男の未来が大きく変わる重要な処置故に、どうかご容赦頂きたい所である。

 

 

「傷が膿んだ挙げ句足を丸々切断なんて嫌だろ? 必要な応急処置だ。恨むなよ」

 

「か、彼は大丈夫なんですか!?」

 

「早く病院に突っ込んじまえば別状は無いはずだ。だが・・・」

 

 

 そう言って俺は二人の脚部に目をやる。

 女の方は片方の足首に包帯を巻いている辺り、恐らくは逃げる時にコケたかなんかで捻挫したってところか。早く動くのは出来ないため、男が背負ったようだ。

 一方の男は膝の近くに弾丸が当たり、関節がどうなっているか分からない。出血も多く、歩かせるのも無理だ。

 

 

 ・・・仕方無い。彼女の姿を晒したくはないが、二人を安全に運べる一番確実な手段はコレしかない。

 インカムを掴んで口元へ、相棒に小さな声で呼び掛ける。

 

 

「・・・サーリャ。二人を運べるか?」

 

『よろしいんですの?』

 

「一刻を争う怪我だ、直ぐにヘリに運びたい」

 

『分かりましたわ。そちらに向かいます』

 

 

 俺は二人に向き直り、威圧感を纏いつつ口を開いた。

 

 

「二人とも、ちょっと強引な手法で運ばせてもらう」

 

「「へ?」」

 

「参りましたわ」

 

「「誰!?」」

 

 

 フヨフヨパワーで文字通り飛んできたスケアクロウ。マントを羽織り、顔もフードで隠しているため、二人が正体に気付いた様子は無い。

 俺は手早く包帯でガーゼごとグルグル巻きにすると、キットを纏めて仕舞いこむ。

 ついで彼女に目を向けると、銃を構え移動する用意を整える。

 

 

「怪我人に配慮した最高速で飛んでいってくれよ」

 

「了解。さぁ二人とも、お手を」

 

「あ、あぁ・・・」

 

「ええ・・・ですが、貴方は?」

 

 

 不安げに俺を見る二人。俺の行動から一人この場に残るのを察したのだろう。罪悪感を覚えているようだ。

 気持ちはありがたい限りだが、彼らが向ける心配は無用と言える。何故なら。

 

 

「心配無用。それにアンタらを乗せたらどのみち定員オーバーだ。俺たちはハナからそのつもりで来てるから、気にせず逃げてくれて構わない」

 

「私たちも戦う術は持っておりますの。お気持ちだけ頂戴しますわ」

 

 

 ぺこり、頭を下げて感謝を示すスケアクロウ。ツラの一つも見せてやりたいが、叶わぬ故の精一杯の謝意といったところか。

 そういうわけで、俺は気を引き締めて二人に向き直ったちょうどその時。

 

 

『こちらスレイプニル! 避難者とD小隊が無事に到達出来たぞ! 後はお前らだけだ!』

 

 

 避難者達がヘリに着いたと報告があった。よし、これでここでの役割も終えられそうだ。後はこの二人をヘリにぶち込めば。

 

 

「直ぐに連れていく! 急患が居るっ、彼女に直接デリバリーさせるから、もうヘリを飛ばしてくれ!!」

 

 

 粗方の収容が終わり、後は飛んで送り届けられる怪我人のみ。地上に留まり続けるほどヘリが危険に晒される以上、離陸出来るならもう飛んでもらった方が良いだろう。

 

 とはいえ、飛んでるヘリに積荷をぶち込まれるなんて経験普通はないワケで、それを聞いたスレイプニルはまたも驚愕の反応を返して来る。

 

 

『だ、大丈夫なのかそれ!? まあ良い、分かった! 直ぐ運び込めよ!』

 

「そういうわけだ、飛べっ、サーリャ!!」

 

「行きますわっ!!」

 

 

 俺はピンを抜いたスモークを幾つか取り出し、近くに投げて煙を吐かせる。ヘリの風に煽られて直ぐに流れてしまうが、やらないよりはマシになる。その代わり、投げ込んだ奴の位置もほぼバレるがな。

 その間に最初は優しくふわりと、スケアクロウが手を取った二人を持ち上げる。だがそのままじっとしてると良い的になりかねない。程なく出せる限りの加速をして、同時に離陸し始めたヘリに向かって飛んでいった。

 

 直後、煙の出処から俺の居場所をある程度察した敵が数発の至近弾を撃ち込んでくる。大凡の狙いなので当たる事は無いだろうが、それでもそばで瞬間的に金属が擦れる音が響くのは気分が良くない。用も済んだ以上、早く抜け出したい所だが・・・。

 

 

「さーて、どう抜け出そうかねぇ・・・」

 

 

 C4で適当なとこふっ飛ばした隙に乗り越えるか? 敵は恐らく俺のいる辺りに目を向けている筈。下手に顔出して乗り越えようとするとハチの巣にされるだろう。なんとか気を引く手段は無いかと探していたその時、バッグに入れっぱにしていた敵の無線機が入電を知らせる音を鳴らした。

 

 ギクリ、パクったのがバレたかと身が強張るが、とりあえずは管制官に仕事を任せる。

 

 

「! ナビゲーター!」

 

『了解、解析します』

 

 

 間も無くスピーカーから声が聞こえた。声は男、加工の類は聞いた限りは感じられない。味方に対する連絡のため、特に対策してないのだろうか。

 

 

『同士諸君、副隊長のイアンだ』

 

 

 副隊長自らのコンタクト。それも諸君と言っている辺り、どうやらこの無線は展開する全ての味方に向けているようだ。男は続ける。

 

 

『まずは本作戦に参加してくれた皆に心からの感謝を言わせてほしい。そして済まなかった。敵の抵抗は・・・我々の想定を遥かに超えていた』

 

 

 想定を遥かに超える抵抗・・・ブリッツ率いるMAGが健闘したことで、連中は思わぬ大損害を被っているらしい。ということはアレか? この無線は命を無駄にせず投降しろという呼び掛けだったり?

 

 まぁ・・・多分問答無用で全員処刑だと思うが。

 

 

『本作戦において様々なイレギュラーが重なり、我々は作戦続行が不可能なほどの大打撃を受けてしまった。本来ならば撤退し、これ以上の戦力の浪費を避けるべき所だが・・・』

 

 

 男は一拍置いて切り出す。

 

 

『本作戦は公式のものではない。故に我々が我々であることを示す証拠は決して残してはならない。そのために誇りある部隊章も、ドッグタグも身に着けずにここに来た。諸君らも、既に覚悟は出来ていると思う』

 

 

 ・・・ん?

 覚悟だと?

 

 そのフレーズに嫌な予感がした。

 

 

『これより、本作戦はE段階に移行する。各員己に課せられた使命を果たし、最期の最期まで戦い抜け。

 諸君らと共に戦えた事を心から誇りに思う。お互いの使命を全うし、地獄で再会しよう。さらばだ』

 

 

 ブツリ。

 副隊長を名乗る男は、展開する全兵士へ玉砕上等の徹底抗戦を呼び掛け無線を切った。

 どのみち処刑されるであろう事は分かりきっている、敵の手に落ちる位なら最期まで抗って死ぬ方を選ぶと、そういう意思のようだ。

 

 言いたい事は理解出来るが・・・・・・はぁ。期待してないが、これで投降呼び掛けても返事は銃弾が飛んでくるってわけだ。この様子じゃ恐らく、本当に最後の一人になるまで徹底して抗い続けるぞ。

 

 と思ったそばから、今の指示を聞いた生き残りが再び俺を狙って撃ってきた。

 

 

「うわっ! ・・・・・・どいつもこいつも往生際が悪い!」

 

 

 ストレージからパクったSCAR-Hを取り出し、構えたまま陰に隠れる。

 ヘリが飛び去った事で周囲にはある程度の静寂が戻っており、今度は音の反響を拾って敵の位置に目星を着けることが出来ていた。

 

 喧しく響く発砲音から、どこに隠れて狙ってきてるのか既に絞り込めている。

 俺はそっと近くのボンネットに銃身を載せて、敵が姿を現すと同時に撃てる体勢を整える。引き金に指を掛け、引き絞った瞬間奴らと同じ7.62mm弾が真っ直ぐ飛んでいく。

 

 

 ! ツラを出した!

 

 

 同時に引き金を引き絞る。だが、銃はチャキンっと音を鳴らしただけで、弾丸を撃ち出さなかった。

 引き金を引いた瞬間肩に来るはずのリコイルが来ない。代わりに鳴った音が、まるでスローモーションのようにゆっくり響く様な感覚を覚えた次の瞬間、俺は晒していた上半身を勢いよく陰に隠した。同時に敵から飛んでくる弾丸が、体のあった辺りを射抜く。

 

 

「正体隠してる癖にID銃使ってんのかよ!? ざっけんなクソッタレが!!」

 

 

 これでは鹵獲された時に銃本体に内蔵されたチップから製造元、どこ所属のどの兵士にID認証を通すかといった様々な情報が明るみに出てしまう。

 死ねば武器諸共燃やしてチップをお釈迦にする腹積もりだったのか、それとも遠隔で基盤を焼き切る策があるのか知らんが、死体燃やしてまで徹底的に正体隠してる割に所々こういった抜けを感じるのは一体何なのだろうか。

 それこそ、教徒連中が持ってた様にロットも完璧に削り取った裸の銃を使えば良いものを。なんで中途半端に足が付きそうな武器を使ってるのやら。

 

 

 さて、こうなると完全に敵に俺の位置がバレたワケである。逃げようにも車の下を潜っては逃げられず、車体の上を乗り越えて行くしかない。身を晒した途端、今度こそ敵は俺を正確に射抜くだろう。詰まるところ、釘付けだ。

 

 P90の5.7mm弾では、この距離では敵の装備も相まって有効打を与えられない。対抗策としてはL96を取り出して狙撃する位しか無いが、はてどーしたもんかねぇ。

 

 

 とりあえず、そこらに転がってた小石を手に取り、それを敵に見える高さへ放り投げてみる。

 

 ダダダッ!!

 

 3点絞りで弾が飛んできた。しっかりマークしてやがる。どうにかして目逸らさねえと動けねえなコレ。

 ということが分かったので、そろそろ急病人搬送も終わった頃かと見た俺は相棒へ呼び掛ける。

 こんだけマズルフラッシュ焚いてんなら、そろそろ位置は彼女達も把握出来てるはずだからな。

 

 

「スケアクロウさんや、釘付けにしてるヤツを始末してくれないか?」

 

 

 ビュンッ、レーザーが真っ直ぐ地上へ伸び、青い光が仄かに灯った。

 

 

『これで動けまして?』

 

「ああ、ありがとさん」

 

 

 一応チップ解析すりゃ証拠にはなるかと見て、ストレージにSCAR-Hを収めP90を構え直して動き出す。

 その後は特に攻撃されることもなくヘリの離陸地点に到達。丁度いい建物に隠れた所で避難者の誘導を終えて待っていたティナ、そして怪我人を運んできたスケアクロウと合流した。

 出会い頭、やれやれと首を振るティナ。

 

 

「いやぁ、そろそろ敵さんも最後の段階に入ってくれないかな? いい加減ここまで長引くと流石に疲れちゃうよ」

 

 

 うんうんと頷くスケアクロウ。割と短い時間で地区の広範囲を移動して回っているので、疲れが出てきている様だ。

 気持ちは分かる。俺達は事が起こってからというもの、なんだかんだ大した休息も取らずに動き続けている。しかも経緯が経緯なだけに気分も乗らない、嫌な仕事を延々とさせられてる感覚は否めない。

 

 

「同感だ。だが残念なお知らせがある。敵は最後の一人まで徹底抗戦するつもりらしいぞ。さっきパクった無線機にそんな様な指示が入ってきてた」

 

「うへぇ・・・捕虜になる位なら死ぬってやつ?」

 

「だろうな。————ところでナビゲーター?」

 

 

 インカム越しにナビゲーターに呼びかける。

 今現時点の状況整理と確認、その上で次どう動くかを決めるためだ。

 

 

『はい。ではまず現状の確認から』

 

 

 端末を取り出すと同時に、ナビゲーターからのリンクによって再び地区の戦況が表示される。

 

 

『現在、市街地に展開していた現地部隊はE小隊を除いて戦闘を終了、基地に戻り補給を済ませた後、残るE小隊の元へ向かう手筈となっています』

 

 

 ということは、B小隊の元へ行ったブリッツ達も敵を片付けたようだ。他の隊は戦える人形を最低限の処置を施して応援に、戦えない人形は避難者の誘導とかを担当する形に収まるか。

 

 ところで気になる点が一つある。

 

 

「E小隊に応援寄越すって話だが、その指揮もブリッツが取るのか? 幾らなんでも無茶じゃないか?」

 

 

 現地部隊の"本来の"指揮官が使えない今、現時点でここに居る指揮権保有者はブリッツしかいない。

 しかしブリッツは進行形で戦場に立っている。下手を打てば即殺される場所にいて、自分の指揮下以外の離れた部隊まで統率するのは、それこそスケアクロウだとか指揮に特化した能力がないと物理的に厳しいはずだ。

 

 という俺の懸念はナビゲーターも百も承知で、ブリッツが大き過ぎる負荷を抱えない様にヘルプを依頼していたようである。

 

 

『ご心配には及びません。同じR地区に所属する指揮官の一人に依頼し、当地区部隊の指揮権を委譲しました。ブリッツ指揮官とも何度か共闘経験がありますので、信頼性という点で見ても問題ありません』

 

 

 ハロルド・フォスターという前例があったため、俺達がG&K指揮官への不信感を抱いてると考えたのだろう。

 彼女はブリッツの名を出した上で、此方が懸念を抱える必要は無いと示してくれた。

 

 

「共闘経験のある指揮官、ね・・・ポンコツじゃなきゃこの際なんだって良い。出来る指揮官が参加するんならそっちのことはソイツに任せるだけだ。で、他は?」

 

『次に無線機の件です。先程の着信から発信場所の逆探知を試みたところ、敵の本拠点と思われる場所を発見しました。

 実はこの少し前、基地に潜入したUMP45さん達がメインコンソールにアクセス、地区内の通信履歴から敵拠点と思しき地点を既に割り出しております。そこにきて無線機への着信があり、辿ったところ発信地点が一致、特定に至りました』

 

「・・・やっと見つけたか」

 

 

 敵の本拠地を叩ければ、いよいよ主犯格の元に辿り着くことが出来る。

 このしょーもない欲望から始まった戦闘も、ようやく終わりが見えてきたって訳だ。

 

 

『合わせてコンソール内の通信履歴や機器の使用状況のログを復元したところ、ハロルド・フォスターが敵武装組織侵入の手引きをした事が明らかになりました。最早言い逃れは出来ません。それに——————————』

 

「それに?」

 

 

 暫く無音が続く。言うか言うまいか悩む何かがあっての様だが、やがて実に人間臭さ溢れる溜め息を吐いたのち、徐に彼女は語り始めた。

 

 

『彼、本当に決定打を自分から提供(オウンゴール)してくれましたから』

 

「「「・・・・・・・・・」」」

 

 

 言葉に出来ない虚しさがこの場の全員を包んだ。

 資料を見た時から仕事できるタイプには見えなかったが、最大級の自爆を本当にやらかすとは思わなかった。そんなバホなこと普通やるか? やったわ。やったからこうなってるんだった。

 

 

「・・・・・・今度から縁故就職組にはより一層厳しいテストを設けるのを強く勧めるよ」

 

『今回の件が終われば、恐らく私が言わずともブリッツ指揮官がクルーガー社長に提言すると思います。それと敵の正体も、そのオウンゴールによって判明しました。まぁ、その前にある程度ブリッツ指揮官は目星を付けていた様なのですが』

 

 

 おや?

 アイツの中では45の調査で判明する前に目星付いてたのか。

 ふむ・・・確かに、使ってる武器や体のナノマシン、どう見ても素人じゃない連携の取れた動き、そして送られてきたビデオメッセージからある程度は絞れるか。

 

 G&Kに割を食わされた恨みがあり、自律式の機械兵力は俺が遭遇した限りは一切使っておらず、兵一人がそれぞれプロ並の戦闘力を持つ・・・。

 薄々勘付いたが、事実だとしたらこの瞬間燃えてる火種が、今とは比べ物にならない大爆発を起こす可能性が出てきた。

 当たってほしくないんだが、一先ず答え合わせといこう。

 

 

「ほーん? どちらのプロが仕掛けてきたんだ? そこは俺も気になる所だ」

 

『・・・フレイム・スコーピオンズ社、敵はフレイム・スコーピオンズの特殊部隊と推察されます。フォスターが敵の社長と直接衛星電話で連絡していたため、敵部隊がスコーピオンズ社所属であるのは間違いありません』

 

 

 結果は驚きを隠せないモノ。言われてみればと納得出来るが、よりによって仕掛けて来たのが同業のライバル、それもこの新ソ連領東欧エリアでは大手と称される5社の一つとは。

 というかだ、場合によってはG&Kとスコーピオン・・・サソリとの全面戦争になりかねない、とんでもない局面の真っ只中に俺達は巻き込まれた事になる。

 

 ・・・・・・しょーもない欲望が、地獄への片道切符を掴み取ったってわけだ。

 そんな思いと共に、俺は乾いた溜め息を零さずにはいられなかった。

 

 

「・・・・・・随分なビッグネームが出てきたな。っつうことはあれか、ボンボンはアダム・リドヴィツカヤと連絡してて墓穴掘ったってわけか」

 

『そうなります』

 

 

 つくづく救いようの無い大バホ野郎だ。無様も甚だしい。

 

 さて、敵の正体と拠点が判明した現状、本拠地に攻め込まない理由は無い。

 となれば当然出向かなきゃいけないんだが、ここで俺は一つの重大な懸念事項を思い出した。

 

 

「そういやナビゲーター」

 

『はい?』

 

「結局、ヘンブリーから回収したクラスのジャマーは発見出来たのか?」

 

『それなのですが・・・は? え?』

 

「あ? おい、どうした? 応答しろ————って、切れてやがる・・・」

 

 

 彼女の側で想定してない出来事が起こったらしく、戸惑いの声を幾つか上げた後突然無線が切れてしまう。

 

 一体何が起こったのか此方は知る由も無いが、接続の回復を待ってる時間は惜しい。

 

 先程副隊長とやらが無線で言ってた『E段階』というフレーズも気になる。損耗の程度を述べた上で呼びかけた玉砕上等の徹底抗戦・・・敵は敗北を悟った上でそれでも死ぬまで戦えと言っている。

 だったら最終段階だとか、なんとしても足掻けとか、普通はそんな言い回しをするもんだろう。敢えて付けたアルファベットのEは何を示してる? 何を企んでやがる?

 

 E、E、E・・・Escape? 逃げる??

 

 いや、こんな安直で良いのか? もう少し捻ってもと思う。だがここまで追い込まれた奴らなら、いつそうしても可笑しくは無い。人質もいて、金を得るための金蔓は未だ奴らが握ってる。

 時間稼ぎしてる内に人質と現場の指揮者を逃がすのは当然の行動だ。時間が経てばどんどんG&Kの態勢も立て直され、逃げ場が無くなる————逃げるなら、今。

 

 考え俯き出した俺の顔を、下から覗き込む顔が二つ。

 

 

「どうしますの?」

 

「とりあえずこっちで動く?」

 

 

 ・・・考え込むのは後にする。一旦思考を止めた俺は、備えの手を打つためにストレージからパナメルカーラのキーを取り出してティナに渡した。

 

 

「・・・そうしよう。二人は一旦スラムに戻って車を取ってきてくれ」

 

「・・・私、車は動かせませんわよ?」

 

「だいじょーぶサーちゃん。私が運転できるよんっ」

 

「なんですって」ガビーン

 

 

 自分はまだ教えてもらってないのに、いつティナに教えたんですの!?と驚愕されるスケアクロウさん。しかし毎日一緒に過ごしてた中で、そのような時間は欠片も過ごしてないと直ぐに思い至った彼女。じゃあ何故ティナが運転出来るのか。コテンと首を傾げた。

 

 

「イマドキの戦術人形は一番安いグレードでもなきゃ、基本的に運転技術装備(ドライバーパッケージ)は標準装備だよ。実際、運転出来ないと移動するのに不便も多いし」

 

「そ、そうなんですの?」

 

「あぁ、そーらしい。人形を戦力に据えてんのはG&Kだけじゃないからな。全てのPMCがヘリで部隊を運べる訳でもないし、今でも作戦で使う乗り物の中じゃ車が大勢を占めてる。運転出来るProgram(オプション)は必須事項だ。

 ちなみにティナに関しちゃ最初からインストールされてると取説に書いてあった」

 

「な、なるほど・・・」

 

 

 今時の人形って進んでるんですのね、とボソッと呟くスケアクロウ。

 そういや貴女とお姉様(エージェント)はハイエンドの中でも一番初期に造られたんだっけか。・・・ホントかどうかはさておき。

 

 

「ともかくそう言うことだ。奴らに逃げられても追っかけられる態勢を作っておきたい。それにジャマーの件も気掛かりだ。もしかしたらアジトの周辺に集中して配備してる可能性がある」

 

 

 ジャマーを排除しきれたかどうかの正確な返答は無かったが、口篭る様に『それなのですが・・・』と言った辺り、恐らく一番脅威となる型のジャマーは発見出来てないのだろう。

 電源を喪失させた中でそんな高出力のジャマーを同時に幾つも展開するのは難しいだろうし、となるとやはりアジトの周囲に限定して展開させてる可能性を考慮すべきか。

 

 

「もしそうだと行っても私達死んじゃうもんね。りょーかいだよご主人!」

 

「近くまで送りましょうか?」

 

「いや、一人で行く。二人はバイクに乗って急いで取ってきてほしい」

 

「ですが、徒歩ですと時間が掛かるのでは?」

 

 

 近くまでなら浮かして運んでやるぞと言いたげな彼女に、俺はグラップリングビームを取り出し笑って返す。

 

 

「ショートカットするのに最適なツールがここにある。つうわけで心配は無用、車をよろしく」

 

「あいっさっ」

 

 

 ティナが気持ち良い返事をする一方で、何故かぶっすり頬を膨らませて不満を示すスケアクロウさん。どうやら密着出来るチャンスをフイにされた事がご不満の様だが。

 

 

「後で、な? OK?」

 

「むぅ・・・分かりましたの。・・・・・・つーんですわ

 

「なぜ拗ねる」

 

「イチャイチャは後にしようよご主人サーちゃん」

 

「良いから動くぞ。行動開始だ」

 

 

 切り替えた二人は、ストレージからバイクを取り出しキーを回す。スケアクロウが前、後ろからティナが腰に手を添えつつ銃を右手に構えるスタイルだ。まぁ、多分大丈夫だろ。

 そのまま駐車地点に向かう二人を見送ったその時、途切れていたナビゲーターからの通信が復活した。

 

 

「さっきは何があった? 思いもしない事が起こったようだが」

 

『先程は失礼しました。実は先の敵の呼び掛けが終わった後、基地に潜入していたスコーピオンズの部隊が攻撃してきたのです』

 

「何ぃ??」

 

 

 基地にサソリが忍び込んでやがっただと? そいつらが動き出したせいで余計な混乱や被害が起こり・・・いや待て?

 

 

「確かに驚く事だが、もう基地のシステムは抑えてるっつってたよな?」

 

『ええ。直ちに隔壁を閉鎖し、逃げられないよう手を打ちました。その後は捕虜以外の道が無いと知るや全員が自決するという、後味悪い結果に終わりましたが』

 

「・・・徹底してるな。最早灰になったところで正体がバレてるってのに」

 

『そう思います。さて、判明した敵本拠地の位置をマップにマークしますね』

 

 

 端末、そしてグラスにそれぞれ目的地が示される。

 現在稼働していない廃工場が奴らの根城だったらしい。オフィスと工場を同じ敷地に置いた企業の跡地のようだ。

 このスペースならこれだけの数の敵が紛れ込むのも十分対応出来る。お誂え向きな物件をフォスターは提供していた訳だ。

 

 続いてナビゲーターから今回の仕事での一番の懸念事項が伝えられる。

 

 

『先程尋ねられたジャマーについてですが、ヘンブリーが運んでいたクラスのものは未だ発見出来ていません。恐らく、この本拠点に配備しているのではと考えています』

 

「・・・だろうな。それじゃあ俺は現場に向かう。ブリッツも現地に来るのか?」

 

『・・・えぇ。静止する副官を振り切って駆け出してしまいましたよ』

 

 

 脳裏に浮かぶのは、教会でドッグタグを見せてきたLWMMGの姿。ブリッツに行くなと手を伸ばしたものの、任務を果たさねばと行ってしまったのか。

 大切に思われてる様で。

 

 

「ほーん、アイツも愛されてんだな」

 

『笑い事じゃありませんよ。援護を待たずにたった一人で真正面から突っ込もうとしてるんですから。私やライトさん・・・失礼、LWMMGの静止も聞かない程ですから、内心相当の怒りを抱えてる筈です。

 このまま馬鹿正直に突っ込ませたら、どれだけベテランでも流石に無茶が過ぎます。レイさんには是非とも、ブリッツ指揮官と”共同で”制圧に当たって頂きたいのです』

 

 

 それを聞いた俺の頭の中に、持ってる銃を構えて修羅と化したブリッツが単身敵陣に突っ込む姿が思い浮かんだ。

 ・・・・・・・・・いや、いくらなんでも無理だろ。フルパワーで脳筋ムーブかましたって流石に死ぬわ。

 

 

「わぁった。俺も急いで現場に向かう」

 

『よろしくお願いします』

 

 

 通信が切れると同時に、俺は近くの建物のてっぺんに向けて照準を合わせ、発射。瞬間的に伸びてゆくビームの先がしっかり固定できたのを確認すると、巻き取り身体ごと屋上へ持ち上げる。

 

 グラップリングビームはストレージに収めず、右手に持ったままに。俺は屋上から見下ろし、比較的高さの近い建物をマークして頭の中でルートを構築。

 地上を進むと障害物が多いが、屋上を飛んでゆく分には邪魔な物が無い分多少のスピードアップは図れるはずだ。あとは変なところで落っこちないように気を付ければ良い・・・よし、イケるな。

 

 

「さぁ、もう一働き頑張るか」

 

 

 俺は次の着地点を見据えると、一旦反対側の端に寄る。

 息を大きく吐き、吸って————

 

 

 勢いよく駆け出し、柵を飛び越えた。




 長い・・・長いコラボが、ようやっと完結の目処が見えてきた()

 どーでもいいことですが、最近Dream Theaterの動画をつべで見ててハマりました。DVD買いたい。
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