裏稼業とカカシさん(旧題:裏稼業の何でも屋が出向く先には必ずカカシが待っている件) 作:chaosraven
ハロルド・フォスター拘束から少し後————
「・・・スコーピオンズは順当に押されてる様だな」
R20地区市街地。招かれざる客によって大きく破壊され、廃墟となった商業ビルの屋上にて。
所々煤や土埃を付けた黒のロングコート、タイ無しの黒ジャケットに黒シャツ、黒いベストに黒のスラックスと革靴と、全身汚れ塗れの黒づくめ(黒い上に周りが暗いので分かりにくいが)の姿をした男・・・グリージョは呟いた。
左手を空にかざし、スッと伸びた五本の指先から小さな紫電が流れては消えてを繰り返す。
その細められた眼は鋭さを含み、宙空に浮かぶ月明かりを鬱陶しげに見据える。しばしそうしているとやがて男は瞳を閉じ、二、三度首を振るとインカムに右手を添え口を開いた。
「ヴィオーラ」
『なんだい?』
「時間だ。王を
『・・・ぬヒィっ。りょーかい!』
喜びの奇声と共に回線が途切れる。
続いて周波数を切り替え、今度は近くにいる同志へと繋ぐ。
『ハァーイ?』
「お前の出番が近い。何時来ても良いようにしておけ」
『あらぁ? やっと私に食べられちゃう可哀想な男の子が来てくれるのねぇ。待ちくたびれちゃったわぁ』
食べる、というフレーズが出てきた事にピクリと動く眉。
「食うなと言っただろう。・・・まさか、スラムの住人を食ってないだろうな?」
『食べてないわよ、貴方の指示だもの。冗談よ? ジョ・ウ・ダ・ン』
「・・・・・・分かってるなら良い。ともかく、もうじきそちらに目標が向かうはずだ。
『ンフフ、りょーかい』
回線が切れると、グリージョは青く光る眼を再び細め、静かに呟いた。
「————必ず終わらせる。それまで精々足掻けよ、兄弟」
月明かりと、地上で燃える炎だけが街を照らす夜。武装勢力による蜂起を許し、街全体が混乱に陥って数時間が経過していた。
漸く敵の正体、拠点の位置、事の発端となった身内の捕縛を終わらせ、いよいよ最終局面に向かってるといった頃。
レイはグラップリングビームを右手に持ちながら建物の屋上を飛び移る、所謂パルクールで拠点へ向かっていた。
武装蜂起初期の混乱で地上は障害物が多く、また敵の生き残りが身を潜めている可能性もある。出会せば戦闘は避けられず、時間や体力のロスに繋がる。それよりは屋上を飛び回る方が時間のロスは防げるし、障害物や敵に捕まることもないため早く辿り着けるはずである。
そう考えたレイは、万一落ちても命綱になる道具も持っているのを良いことに、かなりのハイペースで次々と飛び移っていく。
屋上のスペースは建物によって様々で、中には殆ど助走出来ない所もある。しかし彼は勢いを殺すこと無く、思い切りの良い走りで暗闇の摩天楼を駆ける。
レイがそこまで急いでいるのには理由があった。
「アイツが無茶なカチコミする前に間に合わせねえと・・・」
アイツ、というのはS10地区指揮官のブリッツの事である。
レイ達がD小隊と避難者の救援を終えた後、同じS10地区管制官の通称ナビゲーターから、ブリッツと共同で敵拠点を制圧してほしいとの連絡が入ったのだ。
曰く、ブリッツ率いる部隊がB小隊の救援を完了後、なんとナビゲーターはおろか
映像からは敵が人質に何処までしたのか分からないとはいえ、人としてまともな感性を持つ者ならば、大なり小なり怒りと共に冷静さを欠く事も当然のこと。恐らくブリッツにとっては堪えがたい激情を抱く出来事だったのだろうと、レイは察する。
だがしかし、だからといって敵拠点に真正面から単騎突撃を試みるのは無謀としか言いようが無い。あまりにも冷静さを欠き過ぎている。
大口径弾を扱う銃を正確に制御出来る技量の持ち主達、そのアジトに単騎で行くだけでも自殺行為というのに、真正面から行ってどうこう出来るとは思えない。
どれだけ優れた兵士でも、ベテランだとしても、物理的に対処出来る域を超えている。それは素人でも分かる事だ。
たった一人増えただけでどうにか出来るとも言い難いが、単騎か二騎かでは大きな差がある。いないよりはいる方がマシ、という事である。
一応は
さて、そんな事を考えながら飛び回っていたところへ、掛けているスマートグラスの案内指示に新たな行き先が示される。
片方は同じ敵拠点の位置を示しているが、もう片方はそこから少し離れた地点を示している。動きは無い。
一瞬眉を顰め、次いでナビゲーターの言わんとする事を察したレイは一旦足を止め、新たに示された方向に向かうルートを頭の中で構築していく。
「ナビゲーター。新しく出したのがブリッツの位置か?」
『ええ。先に合流して頂いた方がスムーズに展開出来ると判断しました』
「分かった。ちょっとばかし危なそうな道はあるが、そっちに向かう。んで、アイツは今何やってらっしゃるんだ?」
再び屋上の反対側に寄り、助走をつけて柵を飛び越えるレイ。先より低い屋上に受け身で転がりながら、スピードを落とさず次の足場へ駆ける。
『ブリッツ指揮官は現在、敵拠点にほど近い高階層ビルに侵入後、屋上から観測機を使って偵察しています』
ピクリ、眉尻が僅かに上向く。
レイが当初聞いた話からはイメージと現状に差があるらしい。
静止を振り切ってというブリッツの行動から、てっきりレイはかなり強い怒りを抱えていると想像していたのだが、乗り込む前に偵察を経ようとしている辺り、今のところ感情的な面は表出していない様にも思える。
ここでレイは改めてブリッツの精神状態を確認しようと思い立つ。
もし怒りに任せて無謀な突撃を考えてるのなら、それはなんとしてでも止めなくてはならない。
そんな事態を引き起こせば、グリフィン側の士気に大きく関わる展開が目に見えているためだ。
無論、冷静さを保っているなら問題無い。自分も出来るサポートをするだけである。
「・・・なぁ、お宅の指揮官殿は今どのくらいお怒りなんだ?」
次の足場に向けてビームを射出し、身体を引っ張り上げながらレイは問う。
彼の問いに対して。
『怒りを覚えているのは間違いないでしょう。ですが、突入の前に偵察行動を挟んでいる通り、あくまで任務遂行を第一に据えて動いています。少なくとも感情に身を任せてる状態ではありません』
予想よりも良い回答にレイは眉を上げ、フッと笑う。
「あらそう。理性保ってんなら何よりだ・・・っとぉっ!!?」
その時。
ビームで掴んでた柵が突如ポキリと折れて支えを失ってしまう。
咄嗟に折れた箇所から数m離れた位置に射出。即座に巻き上げ体を持ち上げ、なんとか屋上に乗り移った。
バランスを崩したまま屋上に体を持ち上げたため、受け身姿勢からゴロゴロ転がりながら着地するレイ。
『大丈夫ですか!?』
「生きてるよ。あぁ死ぬかと思った」
そう言いつつも既に進行方向の逆側へ駆け足で向かうと、直ぐに目的地へ走り出すレイ。
今起こった事は元より分かりきっている危険の一つ。いちいち怖気付いてられないとばかりに、レイは鋭く前を見据え走る。
『ブリッツ指揮官の元まで、進行方向上の建造物をあと16軒です』
「了解。ところで聞きたいんだが」
『なんでしょう?』
「アイツ弾や物資足りてんのか?」
チラリ、ブリッツの位置を示す矢印の先を見やる。進路上に存在する建物の中では一番高いビルで、かつその建物と敵拠点の間には低い雑居ビルが立ち並ぶのみ。上から様子を覗き見るには絶好のポイントだ。
『ご心配なく。ビルに向かうまでの道中で既に補給を済ませております』
「えぇ? どうやっt」
その時、レイのグラスに味方のドローンアイコンが一瞬表示される。丁度付近の上空を飛行しているようで、それを見た彼は得心した顔になる。
「・・・なるほど、随分便利なツールがあるようで。羨ましい」
『まぁまぁ』
小言はともかく。
目的地の隣の建物まで来ると、レイは一旦ビームを使って地上に降りる。そのままスピードを殺さずビル側面まで来ると、屋上を囲う柵に向けて一直線にビームを射出した。
引っ張っても落ちてこないのを確認すると、頭程の高さに右足を付け、次に体を横倒しにして地面と平行に。壁面に垂直立ちになった状態で、高速で巻き上げながら走り出した。
暫く上り、やがて屋上が近付くと減速。柵に直接手を掛け掴むと、体を持ち上げ柵の内側へ。
走った後で荒くなった息を整えつつ、双眼鏡越しに敵拠点を見るブリッツの背後へ気配を消して忍び寄る。
彼との距離が5m程になったところで、レイは一旦近付くのを止める。というのも、ブリッツが登ってきたであろう階段室が丁度その位置にあったため。壁面へ徐ろに背をもたれさせると、ストレージに隠しておいたタバコの箱を振って一本取り出し咥える。
そしてポーチからライターを取り出すと、ビル風に煽られない様手を添えて火を点けた。
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「・・・・・・ふぅ————」( ´ー`)フゥ~
禁じられたニコチンが久々に身体に染み渡る。
まだ契約を交わす前、一服してた一本を突如ギルドに現れた相棒に消されてからというもの。なんだかんだ今日まで禁煙を続ける事が出来たのは、俺の人生史上心から誇るべき実績だろう。
まぁ、相棒の言うことも分かるのだ。実際、タバコを吸うことで心肺機能に重大な健康リスクを抱えるのは常識。こんな仕事してるんだから、尚の事リスクを進んで抱え込もうとするのはバホ以外の何物でもない。分かりきってるからこそ、俺だって頭のどっかに止めたほうが良いかと思う気持ちは、実はなかったわけでもない。
じゃあなんであの日まで止めなかったかと言えば、結局このニコチンがもたらす一時のリラックス効果がかなり大きいからに他ならない。
そう。例えば今まさにこの場面のように、どーしようもないクソ下らん争いに仕事として関わんなきゃいけなくなった時とかにゃ、この一服は掛け替えのないリラックス効果を齎してくれるのである。
・・・再会した暁にはまず間違いなくニオイでバレるだろうし、拗ねるかキレるかの未来が待ってるのは目に見えてるが、流石の俺も昼間からぶっ続けで動いて疲れた。
もうそろそろ休みたいが、かと言って酒飲むわけにもいかない今。手っ取り早くリラックスするのに最も適した嗜好品はコレしか無いのだ。
というわけで、ブリッツの仕事の邪魔にならん程度の距離を保ちつつ、実に久しぶりのリラックスタイムを味わう事にした俺。
ブリッツも吸うなら一本分けるし、吸わないなら吸わないで、この距離なら嫌でもタバコ臭が漂ってきて後ろ見るだろうしな。
そんなことを考えながらニコチン接種を続けてたその時。
「————ん? ッ!! ・・・・・・いつの間に」
鼻につくニオイに気付いたブリッツは瞬時に此方へ銃を向け、誰もいなかった筈の背後に俺が立ってるのを見て目を丸くした。
「よう。また会ったな」
「・・・聞いてないぞ。何故ここにいる?」
『ライトさんを心配させましたので、敢えてお伝えしませんでした』
「・・・・・・ゲート」
ハァ~っと、今までの疲れをドッと吐き出す様に大きく溜め息を吐くブリッツ。心なしかグラス越しの目はじっとりとした形を描いており、もしナビゲーターが目の前にいれば確実にその目を彼女に向けていただろう。
しかしそれも長く引き摺ることはなく、続いて俺が咥えるタバコに目をやった彼は、僅かに首を傾げつつ口を開く。
「アンタ、吸うんだな」
「ついさっきまで禁煙してたけどな。こんだけ動いてんだ、一本くらい大目に見てくれよ」
肩を竦めて苦笑を返すと共に、タバコを彼にかざしてみる。首を横に振られた。
元軍人と聞いてたが、ブリッツはタバコに縁が無い様だ。
ストレージに箱を仕舞い、代わりに携帯灰皿を左手に呼び出す。蓋を開け、今にも零れ落ちそうな灰を落としてやると、短くなったタバコをもう一息吸い込んだ。
「・・・ところで、実際に偵察してみた感触はどうなんだ?」
「あぁ。それなんだが、ゲート」
『了解。お二人の端末にそれぞれリンクします』
端末を取り出すと、画面に今いる地点とその周囲、それと敵の拠点となる敷地の状況を示した戦略図が表示される。
合わせて、さっき見かけたこの辺を飛び回るドローンもアイコンで表示されており、ジャマーないしは電波妨害機器が無ければ、実質ナビゲーターがAWACSとして此方のサポートに入れる事を表している。
問題はそもそもジャマーが配備されてるのか、配備されてるとしてどこにどう置かれてるのかである。配備されてないならそれはそれでかなり楽になるんだが、それだとヘンブリーが運んでた意味が分からないため、まず考えにくいだろう。数は不明だが絶対あるという認識で向かうべきである。
『さて、現時点の敵拠点の状況をお伝えします。
元々この施設は工業用機器を生産する為の工場と、経営用のオフィスビルが敷地内に同居する構図となっています。ですが、3ヶ月前に運営会社が経営不振により倒産し、現在はグリフィンが物件の所有者として一時的に管理している状態です。そこにハロルド・フォスターが目を付け、フレイム・スコーピオンズに拠点として提供したものと思われます』
新たなウィンドウが立ち上がり、工場とオフィスの設計図面、及び査察の際に収録したと思われる3Dホログラフィックデータが表示される。
ふむ・・・内部構造は典型的なオフィスビルと工場そのもの。ビルは内部に階段とエレベーターが、外に非常階段を設置。工場は高い天井に外枠部をキャットウォークが張り巡っているが、中に機械等はほとんど残っていない様子。差し押さえられて諸々売っ払われたあとの廃墟といった状況のようで、これなら確かに大部隊の人員や装備を整えるには十分な空間だろう。まぁ敵も馬鹿じゃない、建物の中には持ち込んだりその場にあったもんでバリケードや遮蔽物位は作ってるはず。どちらに人質がいるか分からないが、どっちにせよ攻めるのに苦労しそうである。
『この内、ブリッツ指揮官の偵察で得た情報とUACSの観測で得た情報を鑑みますと、恐らく拠点に残っている敵の数は20名前後と推測されます。
敷地内での活動が活発になっている様に見受けられる割に、外に出て警戒に当たる兵の数が少ないためです。グリフィンサイドの全兵力が射殺ないし自殺を観測できたキルスコアを考慮すると、恐らく敵指揮官と人質を守れる最低戦力のみ残し、残りの大多数を地区襲撃に割いたと考えられるかと』
「本拠地守ってる割にかなり手薄だな。・・・つーことはだ」
「ああ。間違いなくジャマーを配備している。じゃなきゃいくらなんでも薄過ぎる」
全員、同じ結論に至ったようだ。
「ところで例のジャマー。配備してるとしてもし出力MAXで使えば、俺たちどころか自分らも仲間とやり取り出来なくなるんだろ。折角ナノマシンを体に入れてまで対人形戦を整えたってのに、自分で自分の首絞められんのか?」
俺の問いに対し、ブリッツは一つ頷いて返す。
「確かに。フルパワーで使えば自分達も危険に陥りかねない。アレはいわば諸刃の剣だろう。だが俺たちは既に奴らを相当追い詰めている。使う可能性は決して低くないと思うが?」
仰る通り。しかし、奴らの講じた一番の切り札は大した意味を得られない。何故なら————
「分かってる。けど、人間の俺たちに使ったところでどうせ大した効果は無い。精々が俺たちが一時的に管制下から完全に孤立するってくらいだ。むしろ、仲間と連携出来ない内に連中を始末出来るチャンスじゃないか?」
「お前・・・出来るのか?」
「闇に紛れて始末ってのは俺の専門だ。反対にお宅はドンパチが専門。一個小隊規模が残ってたら流石にキツかったが、推測どおりの人数なら、まぁなんとかお互いの得意分野を活かして上手いことやれそうだと思うワケさ。勿論、キチンとプランは練ってな」
「ふむ・・・」
どうする? ニヤリ笑って問うと、ブリッツは顎に手をやる。
暫し考え事・・・大方俺が表に出られる人間じゃない事とか、それに付随して起こる問題とか諸々を頭の中で考えてるんだろうが、結局は人質救出を急ぐ事で結論付けたらしい。
僅かに俯かせてた頭を上げ、真っ直ぐ俺と目を合わせて口を開いた。
「・・・わかった。なら俺の考えを言ってもいいか」
「もちろんだ。指揮官のお手並みを拝見させてもらおうか?」
再び笑いかけてやる。今度はハロルド・フォスターの一件を匂わせる皮肉も込めて。ちょっとした憎まれ口というヤツである。
まぁこれから一緒に仕事しようって所に態々悪態つく理由は無いのだが、そもそもこのクソ忙しい
・・・つまり、それだけ肉体的にも精神的にも疲労してるのだと察してもらいたい。
ブリッツも俺が込めた皮肉をちゃんと受け取った様で、一瞬困った顔を浮かべた。が、直ぐに切り替えて一息吐くと、自分の端末を俺に見せてきた。
「まず
ブリッツは人質の居場所を断言しながら、表示された工場の見取り図をピンチアウトで拡大していく。
彼の中で確固たる根拠があるようで、工場の丁度中央辺りに指を当てて見せる。
「ほーん。根拠を伺っても?」
ブリッツは空いた手を上げると握り拳を作る。
「理由は3つ。目に付きやすい。隠れる場所がない。待ち構えるのに最適。
人質が万が一拘束を解いて逃げ出してもすぐに対処でき、一人二人目を離したところで人質は監視の目から逃れられない。
仮に一瞬の隙をついて逃げ出しても隠れられる場所がない。すぐに捕まえられる。
最後に、ノコノコと救出に来た人質救出チームを待ち構えて反撃できる。人質という存在もあるからな。流れ弾の恐れもある。こちらとしては迂闊に交戦も出来ないという訳だ」
順々に指を立てながら、簡潔に根拠を述べていくブリッツ。
なるほど、確かに筋は通ってる。俺は画面を見て思った。
中に置かれてたであろう機械はほとんどが運び出された後。すなわち、少なくともG&Kが査察に入った時点では内部はスカスカの倉庫みたいな状態と化している。
ココに敵が作戦開始まで籠もってたであろうと考えると、恐らく中は査察時点と大して変化は無いと言える。
つまり、ブリッツの推理は正しく的を射ている訳だ。何かしら
「なるほどな。で、それを踏まえてどう動く?」
「戦力を分散させるよう仕向ける。纏まってこられると厄介だが、散らばってくれるならやり易くなる。その為に俺とアンタで役割を分ける」
「ふむ・・・」
敵戦力の分散は大賛成だ。
あの練度の敵だ。正面からケンカ売りゃあ、一人だろうが二人だろうが結果は同じだ。どっちも死ぬ。物理的にキャパオーバーである。何かしら策を講じて、正面からケンカせずに済むやり方を考えなきゃならん。
救出役がやられましたなんて笑い話にもならねえ。バッドエンドまっしぐら、失敗は出来ない。俺自身にとっても、仕事を請け負ったギルドにとっても。
とはいえ、救出するには中に入る必要がある。となれば、まずオフィスの屋上に陣取る見張りを潰すのがセオリーだろう。
上からの目があるのと無いのでは、潜入時に発見されるリスクに大きな差がある。
・・・ここからならL96で狙えるな。
懸念点を強いて上げれば、マグナム装填マガジンの為に始末しきれないのが一人残っちまう点。まぁ、一発薬室に送り込んでから満タンのマガジンを入れれば一応始末は出来る。
攻撃を受けた時点でビルの中に引っ込みそうだが、一際射程の長い二人さえ殺れれば、後は他の連中が持ってるのと武器は同じ。ブリッツにもやりようはある。
同じことを考えていたのだろう。或いはナビゲーターから俺の持ってる装備を共有されたか。チラッとオフィスビルに目をやって、ブリッツは言う。
「まずは屋上にいる見張りを排除する必要がある。アンタに任せたいが、行けるか」
「任せろ。一発で仕留める。で、その後は?」
そう聞くと、ブリッツはとんでもない事を言い放つ。
「ああ、簡単だ。オフィスビルに爆薬積んだトラックを突っ込ませて爆発させる。何人か巻き込めれば重畳だな」
「・・・・・・ああん?」
耳を疑う正面から壁をぶち壊そう発言に、俺は思いっきり
一方当人は至って真面目に言っている様で、俺がこんな顔をするのを逆に怪訝そうに見返す始末。
聞き間違いということにして、もう一度問い掛けた。
「・・・悪い、よく聞こえなかった。もう一度言ってくれねぇか」
「ビルにトラックを突っ込ませる」
「You何言っちゃってんの??」
真顔で同じフレーズを繰り返した彼に、俺はツッコまずにはいられなかった。
人質を助けるんだろう? 敵をなるだけ刺激しないようにしつつも迅速に動かなきゃいけないんだろう?
初手に上からの監視役を始末したその次、なんで二手目にいきなり吹っ飛ばすんだ。潜入するのに邪魔な監視役を始末した後に敵全員に襲撃をお知らせする様な行為、俺は堪らず正気を疑い見返した。
コテン、小首を傾げられた。
・・・・・・駄目だこりゃ。
指揮官殿のお手並み拝見とか言ってみたが、俺は彼に対する印象を修正しなきゃいけないらしい。
この男、完っ全に現場で銃持って動き回る典型的な部隊長タイプだ。間違っても戦局を見渡し、自軍営全体を指揮統率する
俺は額に手を当て、敢えて大袈裟に溜め息をついてやる。
「・・・お宅」
「なんだ?」
「敵を分散させるっつってんのに、一箇所に集める様な真似してどうすんだ」
『そうですよ! 何考えてるんですか!』
俺はともかく、同僚の筈のナビゲーターにまで突っ込まれる始末である。
しかしブリッツは待て待てと言わんばかりに右手を挙げる。まだ話には続きがあるんだから、まずはそれを聞けと。
「まあ待て。続きがある。アンタの言う通り、そうしたら敵が一箇所に集まるだろう。正に狙いはそれだ。俺が暴れてヤツらの注意を引く。その隙にアンタがHVIを探しだし救出しろ。敷地から出てしまえば、人形達はジャマーの影響を受けずに応戦出来る」
彼の言い分を聞くとこうだ。
まずスナイパーを始末→敵が浮足立ったところへ突然爆薬満載トラックを突っ込ませる→騒ぎになって入口に集まったところを応戦、ついでに置いてきた人形部隊も呼び寄せ、敷地の外から交戦→俺はその隙に何処かから侵入して人質の捜索・救出をする、という流れを描いてるらしい。
まぁ、聞けば確かにまともな案とは思う。追い詰められた敵が人質に何するか分からない、現状が時間との戦いでもあるのを無視すればな。
当然そんなことはブリッツも百も承知、だから俺に忍び込んで探し出せと言っている訳で。
つまり、人形部隊を呼び寄せるのは今すぐやるとしてだ。爆薬満載トラックの用意に時間が掛かりそうというのが一つ。その動きは屋上から丸見えだろうし、気付いた敵がブリッツを狙うのは確実で危険が伴うのが二つ。そんでもって人形達がここへ急行するのに何分掛かるのか、ヘリで来るか徒歩で来るか知らないが、そこまで待ってる余裕があるのかが三つ。いずれにせよ悠長に構えてる状況ではない。
加えてブリッツの眼を見るに恐らくだが、部隊を呼び寄せた後到着を待たずに攻撃を仕掛けるつもりでいるようなのだ。幾ら人数が少ないと言ってもあの練度、それに単騎で戦うのは無理があり過ぎる。どれだけベテランだろうが、エースと呼べるだけの実力があっても、俺もブリッツも所詮人っ子一人に過ぎない。人間の体で出来ることには限りがある、囮役を一人でこなすのは危険過ぎる。最早博打と言っても良い。
とどめに、下手したらその爆発を切っ掛けに奴らがキレて人質を殺っちまう可能性もある。少なくとも敷地内に潜入して態勢を整えるまでは、派手な動きは避けるべきだ。
「・・・つまりあれか? 敵が囮に集中しているから俺に対する敵の数も減る。お宅はそれを戦力の分散と言ってんのか?」
「理解してくれたようで結構だ」
実に堂々とした肯定。胸を張って言い切った。
・・・・・・・・・・・・。
「・・・・・・・・・・・・ハァーーー」
吐かずにはいられない溜め息を吐くと、俺は半ば睨む様に目を細めて言ってやった。
「無理に決まってんだろ。お宅の実力は今日1日で十分わかっちゃいるが、いくらなんでも一人であの連中相手に囮役は流石に無茶だ。それにそんな派手に刺激しようもんなら、それこそ敵もキレて人質を殺っちまうかもしれない」
「じゃあどうする」
僅かばかりにムッとした顔つきになったブリッツは、鋭く細めた目を俺に向ける。そこまで言うからには代案があるんだろうな?と言いたげに。
「見張りを始末するのは一緒だ。上からの目があると此方も動きにくいからな。
違うのはその前後の動き。お宅は前もって入口付近に忍び寄って待機、俺が監視役を始末した後そっちに指示を送るから、一人ずつ敵を始末しながら捜索に当たれば良い。
俺はスナイパーを始末した後、ビルを降りて拠点に向かうが・・・」
そこで俺は自分の端末の画面を見せる。見取り図の幾つかのポイントをタップし、指を指して示してみせる。というのも、
「見取り図、んでもってお宅の見た情報を鑑みるとだ、ジャマーが仕込まれてるのは恐らく此処とココと、あとこの辺り」
ドールズジャマーは人には聞こえない特殊な妨害波を繰り出すジャミング兵器の一種。使う場合に備えて、出来る限り広範囲をカバーできる様布陣するのが自然だろう。
当たり前だが、壁や建物といった障害物があっては上手く行き渡らない箇所が出来てしまう。もっとも、近くの電子機器諸共まとめてお釈迦にする出力では気にしなくて良いのかもしれないが。
とにかく、敷地内の出来る限り広いエリアを影響下に置くには、なるだけ周囲に障害物の少ないポイントに置くのが都合が良い。となれば、場所は自ずと見えてくる。
「まずはビルの屋上に1基、次にコンクリート塀の四隅に1基ずつ。恐らく、ビル上部から放射される事で死角になるビル周囲をカバーする様に内向きに放射する配置になってる。んで最後は工場の中、人質周辺をカバー出来るポジションに置いてるだろう」
俺はバッグから双眼鏡を取り出し、拠点の様子を伺う。
敷地内を動き回る兵士達の振る舞いは遠目で見てもピリついており、奴らも相当今の状況に苛立っているのが分かる。が、一先ずそこは置いておき、視線を屋上に寄越してやると・・・あった。
何故かビルの屋上、階段室横にポン置きされている海運用コンテナ。その隣にデカデカと鎮座する黒い縦長の物体。状況を鑑みるに間違い無い、あれがジャマーだ。
続いてコンクリ塀の四隅、その内ここから見える二隅へ目をやると、角にせせこましく置かれた同じ物体があった。多分反対側、こっちからは見えない側の隅にも置かれてる。
ほぼ全ての目標の位置は分かった。後はどう動くかだ。
「ふむ・・・。一ついいか」
「うん?」
「アンタの言いぶりを聞くに、俺も敵拠点に潜入する形を思い描いてるんだろう。だが、この重装備では忍び込むにも限界があるぞ」
そう言われてブリッツの格好を上から下へ流し見る。
確かに。彼の格好は陸軍の兵士がフル装備になった姿そのまま。隠れて忍んで進むにもガチャガチャ音が鳴るであろうその形は、お世辞にも
しかし、そこはさして問題ではない。監視役が消された時点で敵が来た事は奴らに伝わる。即ち、絶対に存在を悟られてはいけないというほど気配を消す必要も無い。出会ったら始末し、人質を捜索する。ただし周りに気付かれない様注意を払いつつ。それで十分なはずだ。
「そりゃ全力疾走すりゃガチャガチャ煩いだろうよ」
「そうだ。だからこそ俺が囮に————
「寝言は寝て言え。そもそも監視役を撃った時点で敵は攻撃されたと認識するんだ。そこにネズミが入り込むのはなんらおかしい事じゃない。喧しくしない程度に気を付けて出会い頭に殺る位、お宅ならお茶の子さいさいだろ?」
「ああ。だがアンタは? 屋上の敵を始末したあとどう動くつもりだ?」
「それはな————」
俺はニヤリと笑い、ストレージから時限式の起爆装置とC4の塊を4つずつ取り出した。
さながら3DCGを構成していくように俺の足元へ具現化したそれを、ブリッツは少しだけ見開いた目を向ける。
「・・・どういう手品だ?」
訝しむブリッツに、バッグからウロボロスの髪留めを出して見せる。
「こいつはちょっとデカめのヘアアクセの一種だが・・・何を隠そうコレは鉄血が開発した技術だ。一部のハイエンドモデルは武装がデカいもんでな、場に応じて仕舞って持ち運べるって訳さ。要するにお役立ちグッズだよ。それも、戦場に革命を起こすレベルのな」
「・・・」
顎に手をやるブリッツ。頭の中で世に出たハイエンドの姿を思い浮かべてるのかもしれない。
代表的なとこで言えば、真っ先に思い浮かぶのはエクスキューショナー辺りか。右腕のブレードユニットはかなり巨大で、よく重量バランスを崩さず製品化出来たものだと感心するくらいだが、物理的にはアレも問題なく収容できるだろう。
つまるところ、やろうと思えばブリッツも装備を全部収めて身軽になれるのである。多分性格的に、自分でテストしてない機器に
「監視役共を始末した後、俺はこれらを四隅のジャマー上に仕掛けに回る」
「どうやって。まさかサルみたいに塀の上を駆け回るわけじゃないだろう?」
「あん? 駄目なのか?」
「駄目に決まってる。それこそ危険・・・いや————」
そこで再び思考し始めるブリッツ。
数秒経った後、あることに思い至ったらしい彼は徐ろに口を開く。
「アンタなら暗がりに紛れていける・・・か?」
「
「ふむ・・・・・・なら、アンタが爆弾を仕込んだ後、爆発を合図に思いっきり暴れるか」
「勿論、身の安全を確保できる体制を整えた上で、な」
忠告を兼ねてしっかり見据えてやる。
ブリッツもそれで納得したようで、大きく頷きを返してくれた。
「それなら・・・やれるな」
「ここらが妥協点だろうよ。万が一ジャマーを発動された時に備えて、電磁波食らったら一発お釈迦になる受信器系は付けない。タイマーは予め指定時刻に起爆するようカウントを合わせておく」
「そして時間と共に一斉起爆。・・・それまでは息を潜める」
「その通り。必要な準備時間で、最も早く人質を救い出せる手段だ」
「よし。乗った」
ハッキリと言い切ったブリッツは、早速持ち合わせる武器のチェックをし始めた。と言っても、あくまで簡易的に見る程度。慣れた手付きで1分も掛からずそれを終えると、ほんの一瞬ウロボロスの
・・・・・・指揮官としては危なっかしい一面があると思ってたが、どうやらブリッツはストレージが孕む重大な危険性を察知出来た様だ。
実際、俺もその危険性を最大限に利用して、エクスキューショナーが捕まったオークションに紛れ込んだのだ。結果はG&Kの特殊部隊やらわーちゃんやらが乗り込んできたせいで、完全に俺は働き損だった訳だが。まぁそれはさておき。
恐らくブリッツの中で俺・・・或いは俺がどこかしかの組織に属す可能性も考えて、その組織もかなりの危険人物にランクアップしたのだろう。加えて、暴走してないとはいえ鉄血ハイエンドを連れ回ってるのもある。
一瞬・・・ほんの一瞬だが、グラス越しに俺を見るその眼に明確な敵意が宿った。直ぐに霧散したので、今はやることがあると切り替えたのだろうが。
・・・やっぱ見せない方が良かったか? だが、45達の潜入をナビゲーターがサポートしてた筈だし、多分監視カメラ越しにストレージの存在はバレてる。遅かれ早かれブリッツにもその情報は行ってただろうから、ここを気にしてても仕方ないか。
咥えてたタバコの最後の一吸いを味わうと、携帯灰皿に短くなったそれを落とす。続いて、C4に時限装置と信管を取り付け、タイマー起動から25分後に起爆するようセットした。
俺は壁から真っ直ぐ上ってきたが、当然ブリッツは階段を上ってきただろう。敵がこのビルに気付かない訳はない、十中八九中にはトラップが仕組まれてた筈。それを躱しながら降りていく時間、スナイピングした後にコンクリ塀の上に乗り移ってから仕込むまでの時間を考慮すると、ここらが一番最短だ。
ブリッツにもカウントダウンを見せると、特に問題は無いとの回答。これで用意は整った。
さあ、あとはタイマーを動かすだけだ。行動開始と共に一斉に押し込めば、嫌でもその時間に爆弾は起爆する。
「・・・最後の大仕事だな」
そう言うと、チラリ俺を見て頷くブリッツ。
直ぐに拠点に向き直り、人質がいるであろう工場を見据えて口を開いた。
「ああ。終わらせよう。このふざけた任務を」
俺達は互いに顔を合わせると、同時に頷く。
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「ちなみにストレージだが、設計図は404経由でI.O.P.に渡ってるぞ。持ってるのは俺の他には45位・・・詳しくはペルシカリアとかいう研究者にでも聞いてくれ」
「・・・・・・何故博士の名前が出てくるんだ??」
言外に敵意は無いよと伝えてみたが、余計に困惑させてしまった様だ。
次回、遂にドンパチが始まる・・・