裏稼業とカカシさん(旧題:裏稼業の何でも屋が出向く先には必ずカカシが待っている件)   作:chaosraven

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 えー、やっちまいました。一ヶ月半も掛かってしまいました。
 お待ち頂いてる方にはおわび申し上げます。申し訳ございません。

 代わりにと言ってはなんですが、今回は22000字程の大ボリューム(ただし読み応えがあるかどうかは保証しない)ですので、お時間あるタイミングでどうぞ。

 例にもよってレイの動きは無茶苦茶かつ主人公補正が掛かってますので、ご承知おき下さいませ。


-95-"Two-up"/15 A.S.T.

 

 

 

 スコーピオンズ拠点から数km離れた市街地の一角。

 レイの指示を受けたスケアクロウは、路地を縫う様に走るセダン車を睨む様に見下ろしながら飛んでいた。

 

 

「見つけましたわ。ナビゲーター、この車で間違いないんですのね?」

 

『あぁ良かった、スケアクロウさん。その車で間違いありません。追跡をお願いします』

 

 

 追いかける分には問題無い。だが彼女はふと疑問を抱く。本当にただ追いかけるだけで良いのか?と。

 レイが態々自分を指名した理由は見当が付いている。高空に浮かぶドローンにとって、ビルの隙間の路地は目が届かない谷間(しかく)になってしまう。これでは空から見えないルートを通られれば見失う可能性がある。重要な救出対象が乗っている中で、一瞬でもロストすることは何としても避けたい。

 だからこそ、空から直に敵を追跡できる自分を急ぎ送ったのだ。ナビゲーターのオペレートがなくても自分の意思で飛行可能で、ヘリと違って地下通路や屋内に逃げられても追跡出来るから。

 

 だが一方で、彼女も敵の神がかったドライブテクを目の当たりにしている訳で、ただ追いかけるだけでは冗談抜きに逃げられるかもしれないという危機感が浮かんでいた。

 ルートも複数に分け、かつ現地の様々な状況に応じて即別ルートにスイッチ出来る様には整えているはず。

 

 現状こそMAGを始めとしたグリフィン部隊に押し込まれてるスコーピオンズだが、当初の同時多発テロやその後の制圧行動においては敵ながら見事な手腕で作戦を進めていた。何故敵地のど真ん中で淀みなく実行出来たかと言えば、入念な現地調査(したしらべ)を行ってきたからだろう。

 

 それは即ち、今日来たスケアクロウよりも逃走者達の方が街の事をよく理解してるということ。上空から地形に左右されずに追跡出来るとはいえ、事前情報があるかないかのハンデは依然大きく残っている。

 

 そんな中で互いに攻撃せずに追って追われての関係に終始すれば、思わぬ行動を取られた矢先に見失ってしまう可能性も否定出来ない。少なくとも相手はそれが出来るし、やり慣れているプロの兵士だ。

 

 故に、彼女は問うた。

 

 

「・・・妨害程度の攻撃は良くて?」

 

『必要であれば。なるだけ人質の身が危険にならない様にお願いします』

 

「・・・・・・無理難題ですわ」

 

 

 物理的に車を止めようとすれば、当然ドライバーはそれを避けようと無理な動きをする。その際、乗っている人質にもダメージが行くのは避けようが無い。

 

 一応、エンジンルームを直に撃つとかタイヤ目掛けて撃つとか言ってない分、彼女なりにそれなりの配慮を込めた形ではある。だがそうだとしても、敵を足止めするのに中の人間の事まで細かに気を配る余裕など普通ありはしないのだ。

 何よりもまず逃げられないために足止めする。それが最優先事項なのだから、命さえあれば後で幾らでも治療させれば良いというのが一般論であろう。

 

 無論、そんなことはナビゲーター自身も百も承知である。しかしそれでも、管制側として言わなくてはならない。

 

 

『・・・今ブリッツ指揮官に人質の様子について確認しましたが、指揮官が視認した限りではどうやら体力的にかなり衰弱している様なのです。

 難しいオーダーなのは承知の上です。なるべく人質の身にダメージが行かない様にご配慮頂けると幸いです』

 

 

 返答を受け、スケアクロウの瞳に冷徹な光が鋭く灯る。脳裏に過ぎったのはいつぞやの依頼で目の当たりにした、ライフル人形達が()()()()()()を浴びせられていた姿。

 無理やり捕らえられ、その身に幾度も暴力を振るわれ、欲望のはけ口に————

 

 激情が巡る手前で大きく頭を振る。

 感情に任せるな、冷静にやるべきことを遂行する、レイが常に言っている事だ。

 

 人質が敵にどんな暴力を振るわれたのかは問題ではない。傷付き、衰弱している。その事実だけあれば自分のすべき事は見えてくる。

 

 眼下の敵をスケアクロウは鋭く見据える。

 右手には指揮棒を、周囲に浮く三機のビットが発射体制を整えさせて。

 

 シュっ、

 指揮棒が振るわれた次の瞬間、自衛用一機を除く二機のビットがセダン車後方に接近する。

 指揮者の脳内には、人質に大怪我させない様にどうやって動きを抑えるかが幾つも思い浮かんでは消えていく。

 

 はっきり言って、中の人間に怪我させるなと言われれば車を止める事など不可能に等しい。

 止まれと言って真正面に布陣した所で、敵は何の躊躇いも無く跳ね飛ばすだろう。じゃあ他にどうやって止めるか? 足回りか動力源を壊すのが一番手っ取り早いが、それだと今度はギリギリの運転をしてるのが災いして、少し姿勢を崩した途端周囲にぶつけてクラッシュさせる可能性がある。それ以前に建物の隙間路地をメインルートで駆け抜けてる中では、仮に車を止めた所で迅速に救出出来るスペースを確保するのも難しい。

 

 更に言えば、無理に車を止めればそれこそ敵がヤケになって人質を殺してしまうかもしれない。そういう意味でも救出には人手がいる、車を止めてから迅速(敵が手を出す前)に救い出すためには。

 

 

(・・・私一人で止めるのは却って危険ですわね。現実的なのはレイ達、ないしは味方が追跡に入れるまで、なんとか私が足止めして時間を稼ぐこと)

 

 

 一つ頷き、ナビゲーターへ返答する。

 

 

「—————了解。出来る限り、これ以上傷付かない様抑えますわ」

 

 

 再び指揮棒を振るう。今度は正面を指し示す様に。

 二機のビットはセダンの進行方向上、路地から出た市民道路(サブストリート)上に乗り捨てられた車に、正しくはそのエンジンルームに向けて、高出力のメーザーを撃ち放った。

 

 

(さぁ、覚悟はよろしくて?)

 

 

 


 

 

 

 逃げた敵を追う様伝えた直後、背後の工場から再び轟音が鳴り出した。

 毎秒数十発もの弾丸を発射する機関銃、M134ミニガン。それがたった一人の生身の兵士相手に本気で火を吹き始めたのだ。

 

 俺は腰に留めてたP90を構え、塀から飛び降りると全速力で工場へ急いだ。

 

 

「あんにゃろう・・・分が悪い仕事を先におっ始めやがって」

 

『私が認識出来ていた限りでは、工場に入ってから実際に戦闘が始まるまで少し間が開いています。恐らく稼げる限り時間は稼いだ筈です』

 

「っつうことは相手が先に焦れて始まったワケか・・・だとしても、このカードで対決は無茶が過ぎる」

 

 

 片や生身の兵士、片や装甲に守られ機関銃を扱う兵士。せーのでカードを切ったらとんでもないジョーカーが出てきた様なモンである。

 それに工場自体も建設時点で戦場になるなんざ欠片も想定してない筈だ。ミニガンの苛烈極まる銃撃では、恐らくあの中のどの遮蔽物もブリッツを守りきれる盾にはなれない。

 直ぐにボロボロになって、その度に隙を縫ってブリッツは新たな遮蔽物へ身を寄せる。それがいつまで続けられる? 中の機械は粗方運び出された後のガラガラな空間で、どれだけアイツが身を隠せる物がある?

 チッ・・・考えれば考えるだけ嫌な予感が頭を過ぎる。

 

 そんな俺の思考を見透かしたかの様に、ナビゲーターが静かな口調で言った。

 

 

『ですから・・・・・・ブリッツ指揮官をよろしくお願いします』

 

 

 彼女の言葉と共に、スラムで出会ったブリッツの元の人形達が脳裏に過ぎる。

 大きく胸を張りながら鼻息荒くタグを見せてきたLWMMGを始め、その誰もがブリッツを指揮官として尊敬し、仲間として認めている。決して欠けてはならない一人として。

 

 だが今、その誰もここにはいない。

 ブリッツは死ぬかも分からぬ危機に立たされている。それを一番早く助けに向かえるのは俺一人。

 自分達の大事な指揮官(リーダー)の運命を俺に託すという、つまりはこの俺に酷く重い責任が委ねられたのだ。

 

 ————どうしたって、やらない訳にはいかないんだ。

 今更逃げるなんて出来やしねえ。こうなったら最後の最後までやるしかない。

 

 だから俺は、敢えてニヤリと笑いながらこう返してやった。

 

 

「任せろ。黒い光線(ブラックレイ)の実力、よーく見てな」

 

 

 

 -----

 

 

 

 工場に着いた。現在地は搬出入用の正面口、分厚い鉄板の両開き戸の前。しかし扉の半分程の高さを境に、上側には飛んできた7.62mm弾による膨らみが幾つもボコボコ出ている。俺は内部の様子を音で探ろうと、身を伏せ耳を寄せてみる。

 

 喧しい轟音が間を置いて途切れ途切れに鳴り響く一方で、内部で反響するブリッツの息遣いも僅かながらに聞き取れた。・・・分が悪い相手に粘ってる様だが、流石にパワードスーツにガトリングの組み合わせを相手取るのは負担がデカ過ぎる。ましてやあれだけの重装備、逃げ回るだけでも体力の消耗は大きい。直ぐにサポートに入らねえと。

 

 なんて事考えてたら、今度はミニガンの銃声が止まる事なく鳴り続け出した。まさか、遮蔽物ごとブリッツを抉り取るつもりか?

 

 進入路は複数ある。今俺がいるのは地上からの資材や製品の搬出入を行うための搬入口、これは正面ゲートを向いた面に大きく設けられている。ただし、銃撃による銃創が幾つも浮き上がってる為、此処から入るのは流れ弾を貰うリスクが高い。それに正面から入れば敵にも丸見えであろう、開けた瞬間即撃ち殺されるかもしれない。からここは使えない。

 

 次に両側面中程に設けられた勝手口、そのうちオフィス側の面は連絡通路に直結している。それと、二階部分に上ってキャットウォークに入れる上層部の入り口が片面両端部に一つずつ。工場の長辺四隅付近に二階から直で中に入れる入り口がある。

 一階部分は既にブリッツ達の戦闘でめちゃくちゃになっているだろう、入ったとしても敵に気付かれるリスクが高い。即ミニガンで歓迎されてお陀仏になる未来が容易に想像出来るため、実質二階以外からの侵入はあり得ない。

 

 俺は急いで地上から上がれるサビ混じりの鉄階段を上り、工場の外周部へ上がる。キャットウォークへの入り口は直ぐに見つかった。嵌め込まれた窓ガラスからは中の眩い光が漏れ出ていたから。内部は結構な明るさで照らされてる様だが、ドアに対しての光軸を考慮すると、照らしてるのはあくまで地上フロアで二階ではなさそうだ。

 しかし二階にいても眩しいと分かる明るさのため、あの光源下で戦ってるブリッツにはやり難くて仕方ないだろう。広範囲を照らされていては身を隠すもクソもない。

 

 その上、敵は未だミニガンを撃ち続けている。これだけ撃ってれば銃身もオーバーヒートしかねないのに、それを承知でブリッツを炙り出そうとしている。

 先に音を上げるのはミニガンか、それともブリッツを守る盾か? 発泡時間を鑑みてそろそろ決着はつく。ただし、結果がどっちに転ぶかは分からない。クソ、急がねえと。

 

 俺はドアノブに触れ、ゆっくり回そうとする。ところがここから中へ入られるのを嫌ったのか、鍵が掛かっていて開けられない。

 

 

「・・・チッ、急いでるってのに邪魔くせえっ」

 

 

 その時だった。

 バトルライフルの発砲音がバラバラと鳴り出した直後、喧しく轟いていたミニガンの射撃が止まる。

 ・・・・・・オイ嘘だろ? どっちに転んだ?

 

 鞘から高周波ブレードを抜き、電源を入れるとドアと枠の隙間部分に刃先をそっと押し込む。慎重に、でもスピーディーに。刀身からの力を直に受けてあっという間に赤くなる金具。そのままゆっくり刃を進め、鍵の回転に連動する四角い棒(デッドボルト)と、ノブに連動する三角棒(ラッチボルト)を根元から切断してしまう。

 これでボルトの突っ張った部分はトロヨケに残ったまま、ノブを持って引っ張れば戸を開けられる。後は・・・

 

 

「うしっ、あとはトラップの類も確認して・・・んぁっ?」

 

 

 慎重にドアを開けようとしたその時、爆発音と共に中の光が消失した。何が起こったのか理解するのに数瞬、やがて下の動きを把握出来た。

 

 

「・・・ふぅ。賭けには勝った、ってとこだな」

 

 

 ブリッツは生きている。さっきの音は恐らく、別の遮蔽物に移動する時に牽制弾をバラ撒いたのだろう。つまりはそれだけブリッツの隠れてた盾がギリギリまで撃たれてたということ。しかしほんの少しの隙を突いて壊れかけの盾から脱出された事で、敵も限界手前まで撃ち続ける理由も無くなった訳だ。そんでもってインターバルに入った所をブリッツが爆発物を明かりに投げつけて無力化、これでようやく対等な条件になった。焦らせやがって。

 

 

『視界を潰したつもりか? 甘いな!』

 

 

 ドア越しにノイズ混じりの声が聞こえた。聞き覚えがある声だ。パクった無線機の向こうで徹底抗戦を呼びかけた男、確かイアンとか名乗ってた副隊長様だったか。ってことは逃げたのはボスと人質か・・・。

 なんて考えてる間に再び轟音が鳴り始める。

 

 静かにノブを引っ張り、ゆっくり戸を開けてゆく。内側のノブに紐か何かが括り付けられてるとか、ノブの位置がズレることで、仕込まれた赤外線センサーが動きを感知して・・・なんて事を警戒しての事だ。

 ご丁寧に鍵まで掛けてる為、中に客をもてなす余興(トラップ)があっても可笑しくない。急いでる中時間を取られて苛立ちが募るが、焦って死んだら色々と笑えない。慎重に進める。

 

 が・・・・・・

 

 

「・・・チッ、ブラフかよ」

 

 

 そっと中に入った俺は、思わずそう呟いた。

 視認出来る限り、機械や爆発物の類は一切見受けられない。というより、ありとあらゆる機材を運び出された後の空白地帯そのままで、強いて仕込むなら元からある配管等に紛れ込ませる様な形しか起こり得ないのが分かる。

 そして敵からすれば、そもそもここまで来られた時点で最悪の展開であり、態々パワードスーツで返り討ちに出来る体制を整えてる中に今更トラップを仕込む意義も薄い。

 よほどG&Kに恨みを抱えてるようだから、少しでも敵を殺そうと徹底してる可能性はゼロじゃないだろうが、既に人質はここから脱出させており、今ここに残る敵はブリッツの足止めを目的にしてる。そう考えれば、やはりこんな細々とした所にまでデストラップを仕込むには理由が薄い。

 

 幸い戦闘音のおかげで近くの状況は音でもちゃんと拾える。・・・うん、やっぱり可笑しなポイントは付近にはねえな。これなら狙えそうだ。

 

 ブリッツと相対する敵のスーツは、一般的なパワードスーツと異なり全身を装甲で覆い隠すタイプのモノだ。右腕には据え付けられたミニガンが、左腕には高さのある装甲板を持ち構えており、おそらく片膝をついて屈み込めばボディの大半をカバー可能といったところ。

 ますます歩兵一人でどうこう出来る相手じゃない。

 

 ストレージからL96 AWMを召喚し、静かに銃を構える。そのタイミングで、俺が掛けてるスマートグラス越しに見ていたであろうナビゲーターから連絡が入った。

 

 

『敵の弱点は各関節駆動部、それと唯一露出している頭部です』

 

 

 ご親切に、スマートグラス越しの視界に敵パワードスーツ・・・A.S.Tのウィークポイントがマークされる。敵の動きに合わせて絶えず指標も動き続ける。

 狙うべきポイントは関節と頭、それと苛烈なまでの攻撃を止めるためにはミニガン自体を破壊する方が確実だな。少なくともアレを無力化するだけで、直に相対するブリッツは相当楽になる。

 

 

「了解。まずはあのM134(デカブツ)を沈める。アレさえ片付けられりゃ、ブリッツにも幾らかやりようはあるだろ?」

 

『ええ。少なくとも今の劣勢状況は変えられる筈です』

 

「分かった。初手はそれでいこう」

 

 

 キャットウォークに身を伏せ、柵の隙間から僅かに銃口を覗かせ階下の敵を狙う。

 ブリッツの視界越しに既に解析を終えていたのか、視界の情報に新たにミニガンのウィークポイントが示される。

 それは、銃身を回転させるモーターユニット。ミニガンは構造上、銃身の回転に連動して給弾→装填→撃発→排莢がスムーズに行われる。ぐるぐる回すだけで一連の工程が完結する優れたメカニズムだが、回転の動力源を奪われれば一瞬でただの重りになる事も意味している。

 

 ・・・しかしまぁ、体感的には遠くの敵をヘッドショットするのと同じ位小さな的だ。それでも、敵の主力火器を止められればかなり楽になる筈だ。

 

 すぅー、息を吸って頭に酸素を回す。

 ボルトを引き、暗視スコープを覗く。人差し指はトリガーに、引き絞ればマグナム弾が飛んでゆく。

 

 時間にすれば数秒、しかしその間守りに徹して動かぬブリッツに対し、スーツの男は僅かに首を捻ると銃撃を止めた。次の瞬間、なんとブリッツが姿を晒しフルオートで攻撃を始めた。

 しかしそれを見越しての行動か、敵は特に動揺も見せず射線に向けて左手の装甲シールドを構えると、間髪入れずブリッツに向けて突き進み始めた。あまりに厚い装甲により、7.62mm弾は当たっても片っ端から弾かれていくのみ。おまけにブリッツからすると突っ込んでくるのは想定外だった様で、迎撃こそ続けていてもその顔には少々の焦りが見て取れた。

 だがその一方。盾に身を隠しながら突っ込む姿勢のため、右腕のミニガンは此方側に曝された状態である。狙うのは今だ。

 

 僅かに銃口の向きを修正し、直ちに引き金を引き絞った。コレで流れを此方に持ってこれれば————

 

 刹那、スローモーションの様に景色がゆっくり動く。ゾクリとした悪寒が身を包む。敵の殺意が俺を射抜く、そう感じたその時。

 

 ガインっ、という何かが何かを弾く音が響いた。

 

 見れば、いつの間にか俺が狙った射線の先には弾薬箱(マグケース)があって、ミニガンのモーターは本来の位置から横にズラサれていた。

 

 いや、そんなことより今の音って————

 

 

「!!!??」

 

 

 考えてる暇など無かった。

 敵は元々後ろに向けていた右腕(ミニガン)を此方に向け、その銃身から無数の弾丸を撃ち放ってきた。キャットウォークの端から端まで、撫でる様に濃密な弾丸の雨を浴びせる。

 

 銃口の向きに目が行った瞬間、考えるより前に体が動いていた。右手にL96を握ったまま咄嗟に入ってきた扉へ駆け出し、外に出た瞬間うつ伏せになって頭を抱える。直後、無茶苦茶な数の弾丸が二階の窓ガラスを粉砕し、砕けた破片が無数に降り注いでくる。

 

 

「ッ!」

 

 

 顔まで飛んできた破片が頬を撫で、切り傷を残す。

 時間にすれば10秒にも満たない僅かな時間。しかしその間に撃ち出された大量の弾丸は、キャットウォークのある二階部分を大きく破壊した。

 たった数秒で、だ。

 

 

「クソッッ!! 野郎、気付いてやがったのか!!」

 

 

 自分が狙われている、かつその射線上に何を狙ってるのかまで察知した奴は、俺が引き金を引き切る直前に体の位置をズラしてみせたのだ。背部の緊急脱出ハッチを覆う形で配置された背中の弾薬箱(マグケース)を射線に晒し、こちらの奇襲を無力化する。

 言葉で言えばこうなるが、果たして世界にどれだけ、鈍重な筈のパワードスーツでこんな器用な真似が出来る? そこから分かる事は一つ。あの敵はスーツを完璧に使いこなせるエースということ。

 今この局面において、もっとも敵に回したくない人種が敵として立っている。その事実に拳を床に叩きつけ、歯噛みする。

 

 だが、パイロットが優秀でも搭載する兵器自体は他の市販品と同じ。無理な扱いをすれば直ぐに壊れる、それは自らの死に直結しかねない。そしてエースに属するであろう敵がそんな真似をする訳がない。

 

 数秒の間に大量の弾丸を放つミニガンは、銃身が抱える発射時の熱量も相当なものになる。撃ちっぱなしにする事は出来ない。今、奴からの攻撃は止まっている。

 銃身冷却(インターバル)に入ったと捉えた俺は、身体を起こしつつ身を屈めた状態で壁面を背にL96のチェックをしようと試みたその時、俺の動きを察知した敵からいきなり第二射が襲い掛かった。

 

 

「うぉっ!!」

 

 

 頭を前に倒し、なるだけ身体を丸めるが、撃った数発が近くの窓枠の一部をぶち抜いたらしい。飛んできた破片はなんと暗視スコープの中央部に突き刺さり、見るも無惨な形で壊れてしまう。

 

 

「ぬぁっ・・・・・・」

 

 

 声にならない声が漏れた。

 厄介な事になってしまったから。

 

 敵の弱点を突くのに必要な装備が壊れてしまった、これは由々しき事態である。

 予備で持ってるのは暗視機能等無い通常の光学スコープのみ。あの暗い中で、しかも例えグラスを暗視モードにしたところで狙いにくくて仕方ない。スコープ越しの視界を暗視モードで見た所で視認性はたかが知れているのだ。それでも無いよりかはマシだが。

 

 ともかく無い袖は振れない。

 お釈迦になった暗視スコープをマウントから取り外してストレージへ、入れ替わりに通常のスコープを取り出し装着する。

 

 あとは・・・・・・

 

 

「あのスーツ、高性能なセンサー着けてやがんな?」

 

 

 すなわち、動けば直ぐに狙われるということ。

 隙になるのは、ブリッツをミニガンで狙い撃ち、インターバルに入った僅かな時間くらい。俺の行動を把握してた事から動体検知や熱源探知(サーモグラフィー)、頭にゃ暗視機能も着いているだろう。気付かれない様動くのも難しい。

 

 

「・・・歩兵相手に禁止カード切りやがって」

 

 

 思わず口を吐いた愚痴。しかし幾ら言ったところで状況が変わる訳もない。

 敵に一番悟られにくい移動方法となると、匍匐でひたすらゆっくり場所を移動するくらい。だがその分だけブリッツの体力が削られる。かと言って少しでも大振りな動きをした途端、敵のミニガンはこちらへ狙いを定めるだろう。あークソ、どうやって打破する?

 

 その時、ポーチの中にチャフを幾つか紛れ込ませてるのを思い出した。

 スタン、通常の破片式と合わせて3つずつ取り出していた筈。中身を探り、それを一つ取り出す。

 

 

「ナビゲーター、聞こえるか?」

 

『なんでしょう?』

 

「敵のセンサーが優秀すぎて身動きが取れない。このままじゃジリ貧になる、チャフ使っても良いか?」

 

『それは・・・』

 

 

 ナビゲーターが口籠る。それも無理はない。

 ブリッツが装備するスマートグラスは、多分だが暗視機能や仲間が誰を狙ってるとか残弾はどのくらいかなど、様々な情報をナビゲーターを介して受け取っているデバイスだ。それを最大限活用していくためには上空のドローンとの交信を絶えず行う必要があるが、チャフグレネードは飛散する無数の金属片によって電波を乱反射させるアイテム、つまり状況によってはブリッツの行動も一時的に制限する事につながってしまう。

 ただでさえ不利極まる戦力差を耐えられているのは、ブリッツ自身の強靭な肉体と確固たる兵士としての経験、それに加えてナビゲーターが齎す数多の情報を絶えず受け取っているから。それを一時的とはいえ遮断する事によってどうなるか、最悪の結果を招く可能性を高めるのは否定出来ない。

 

 けれども、敵の目を誤魔化さないことにはこちらも身動きが取れない。動けば即座に狙われる、これでは一矢報いるのも難しいジレンマだ。堅実に行けるならそうしたいが、残念ながら一か八かの賭けをしなくちゃならん場面に来てしまっている。

 

 人質の事もある、こんなところでいつまでも止まってられないぞ。

 

 焦りが思考を狭めようとするその時、やり取りを聞いていたブリッツが小さな声で言った。

 

 

『構わない。やってくれ』

 

 

 敵に聞こえない様にボリュームを抑えた声。聞いてて分かった。アイツはこんなキツイ中でも欠片も諦めてねえことを。ブリッツの中の芯は折れていない。どんだけ絶望的でも絶対折れてやるかと、そう言わんばかりに堅く通った芯を感じた俺は、内心心地良い高揚感を覚えながら問い返した。

 

 

「いいのか? 効いてる間はお前も幾らか制限が掛かるぞ」

 

『むしろ好都合だ。ヤツの"(センサー)"を誤魔化してる間にミニガン(デカブツ)を潰す。アレさえ無力化出来れば脅威は大きく減る。道を切り開ける。出来る筈だ、俺とお前の実力ならな』

 

 

 まさかこの期に及んで出来ないなんて情けないこと、言わないだろ?

 そんな風に笑い掛けながら言われた様な気がした。

 

 コイツめ————

 

 俺の口に笑みが浮かぶ。

 現場指揮官を名乗るだけあって、流石に現場で共に戦う仲間をどうやる気にさせるかはよく心得てる様だ。

 簡単に乗せられてる様にも感じるが、不思議と不快に思わない自分がいる。

 

 

「・・・OK。やるか」

 

『頼んだぞ』

 

 

 さて、賭けるか。

 ストレージにL96を仕舞い、右手に持ったチャフグレネードを見る。

 

 コイツを有効に効かせる為には、ヤツの直上ないしは直近で炸裂させる必要がある。観測機器の近くで弾ける事で、それだけ多くの金属片が飛び散り滞留でき、より長く眼を弱体化させられる。だがそうするには一旦、この場で振り向いてから力入れて投げ込まなきゃいけない。

 その僅かな動きすらも見逃さず撃ってくるか否かで俺の生死が決まる。————首筋を冷や汗が伝った。

 

 その時だった。

 

 

『囮は任せろ。だからキッチリ決めろ』

 

 

 ブリッツから無線が入ったかと思えば、俺の返答を待たず敵に攻撃し始めた。ミニマップが示す動きは、点在する支柱に隠れながらの敵に向けた攻撃。有効打とも言い難いそれは、続けることで少しでも俺から気を逸らせる為の囮。

 スマートグラスの表示が変わった。鬱陶しく思ったのか、敵がブリッツの方へ動き始めた。ただし、出せる速度よりもかなり鈍重に、一歩を踏みしめる様にのっそりと。

 一瞬引っ掛かるモノを感じたが、それでも此方への意識が多少なりとも割かれてるならチャンスだ。

 

 今だ————

 

 チャフのピンを抜き、セーフティが解除される。起爆まであと5秒。

 俺は即座に振り向き、割れた窓を通して思いっきり投げ入れた。

 

 

「ッッ!!?」

 

 

 00:04-

 

 敵と()()()()()。全身を死の予感が駆け巡る。

 ヤツは予測していた。一見悪あがきなブリッツの攻撃は、別の狙いがあっての事なのではと。

 

 ブリッツの攻撃には盾を出し、俺に対してはすぐ対処出来る様にミニガンを右側へ向けていた。それも、銃口を真横に向けて。少し腕を上げれば直ぐにこちらを狙える姿勢を整えていた。

 

 右腕を上に向ける。既にモーターは動き始め、即死弾を放つ銃口も回り出している。

 投げ入れたその瞬間、俺は無我夢中で通路を駆け出していた。構造上、ミニガンは弾が飛んでくるまでほんの僅かな猶予(じかん)がある。

 装填され、弾薬に点火されるまでのほんのコンマ数秒のうちに、出せる全速力で敵から離れる必要があった。チャフが炸裂し、敵の観測機器を弱体化させるその時まで。

 

 00:03-

 

 刹那、コンクリートすら抉り取る死の針が、幾重にも連なって俺のいた辺りを破壊する。

 弾が無茶苦茶なスピードで当たる度に肝を震わす音が背後から鳴り響く。掠りでもしたら即OUT、死ぬ以外の未来は潰えるだろう。

 だから走る。破壊されて落ちた壁や窓だったものが散乱する外の通路を、なりふり構わず全力で駆ける。

 

 00:02-

 

 じゃないと、死ぬ。

 俺も、奴と戦ってるブリッツも、人質も。

 

 死ぬわけにいかない、殺されるわけにいかない。

 生きて帰んなきゃなんねえ。

 

 00:01-

 

 そうだ、なんとしても。

 

 00:00-

 

 

「————爆ぜろッッ!!!!」

 

 

 次の瞬間、銀色に光る花弁が宙を舞い踊った。

 それと同時にナビゲーターからのデータリンク、具体的には工場内部のブリッツと敵の位置情報に僅かなブレが現れたが、少なくともこっちにとっては大した問題じゃない。

 アイツの実力なら、眼を潰す最大のチャンスに変えられる。

 

 

 

 

 

「ガッ——————————」

 

 

 散乱した瓦礫に足を取られ、全身が前へ吹っ飛ぶ。その後ろからは閃光を放つ銃弾の流れが迫る。ほんのごく僅かしか開いてない差が縮まる。ゼロになろうとする。=死、周りの光景がスローモーションに流れる。

 

 

「がはっ!!」

 

 

 瓦礫まみれの通路に体が叩きつけられる。衝撃でグラスも外れて前へ投げ出された刹那、俺のすぐ真上を追尾する銃弾の流れが通過し、破壊した瓦礫を更に降らしてくる。俺はただ頭を抱えて身を守るしか出来ない。

 弾丸がぶち抜いたガラスに窓枠だった金属の塊、貫通して抉り取られた壁面の建材やら、色んなものが全身に降ってくる。無差別にボコボコ殴られた様な痛みが体中を襲う。

 

 

「ぐっ・・・うぅ、かはっ、ハァ、ハァ、ハァ・・・」

 

 

 あぁクソ、全身が痛え。痛くて苦しくて、息を整えるのすらままならねえ。タコ女に腹殴られたとき以来久々に感じる気持ち悪さ。吐き気すら出てきた。

 今すぐ休みてえ、動きたくねえ、一息吐かせてくれよ。そう言いたい位、身体が危険信号を発していた。

 

 その時だった。

 

 ブリッツの銃声が確かに鳴り響いた。

 ほぼ同時に、着弾した箇所がショートする様な、そんな音も。

 

 

「・・・ははっ、やるなぁアイツ」

 

 

 宣言通り、見事に得物(ミニガン)を潰したのだ。

 まぁ当たり前か。あんな優秀なサポートがあってかつあの実力が合わされば、潰すのも問題無く遂行出来るだろう。

 

 

『ブリッツ指揮官がミニガンのモーター部を破壊しました」

 

「・・・っく、ハハッ、凄えな、ミニガンぶっ壊したか」

 

 

 これで、後は重たい機体とデカいシールドが残るのみ。スピードで翻弄しながら隙を突いて弱点を落とせば良い。

 そう思った次の瞬間、エアが吹き出す音と共に金属の重量物が落下する音が中で響き渡った。

 

 ・・・・・・。

 

 

『・・・たった今、敵がミニガンと背面の弾薬箱(マグケース)をパージしました。重量物を捨てて身軽になる方を採ったようです。

 ・・・それより大丈夫ですか? 此方からレイさんの姿が見えるのですが・・・』

 

「あー、コケただけだ、気にすんな。ぐっ・・・」

 

『レイさん!?』

 

 

 ゆっくりと体を起こす。今日の仕事で散々アドレナリンが出まくってるだろうに、それでも全身にじんじんと広がる鈍痛。堪らず溜息を吐くが、なんとか立ち上がってグラスの元に歩く。

 

 此方も降ってきたモノに当てられガラス面が割れており、視界に被せる形で情報提供するという、一番の存在理由はもう使い物にならないだろう。だがナビゲーターがコレのカメラでコケた俺を見れたということは、中身の機器自体はまだ生きてる部分がある。グラスを手に取り、ツルの部分を頭に当てて脳波(コマンド)を送ると、左手で持ち抱える様にL96が具現化された。

 

 しかしその直後、マガジンを取り出そうと再度入力するも反応が無い。今のデータのやり取りが精一杯だったようで、此方も完全に沈黙してしまった。

 

 今手元にあるのはP90と予備マガジン6の計7つ分、それと牽制用のFive seveNと予備マガジン2つ合わせて計410発弱。ただしこれらの弾ではパワードスーツには掠り傷しか与えられない。実質俺はこの分の重りを背負いこんじまった事になる。

 それとスタンとチャフが2個ずつにリンゴが3個、そして残り4発のラプアマグナム弾を入れたL96 AWM。スコープは通常の光学式、その上暗視機能を使えるデバイスは手元には無い。狙うなら何かで狙撃ポイント付近を照らす必要があるというオマケ付き。

 

 

「・・・ケッ、踏んだり蹴ったりだな。・・・・・・まぁ、金貰う以上やらねえ選択肢はねえわけだが」

 

 

 しかし、ブリッツがミニガンを破壊出来たこと、これは非常に大きなアドバンテージになる。見た目通りの装備なら、もう敵に遠距離攻撃が出来る兵装は無い。接近してシールドで殴るなりスーツのパワーで握り潰すとか、出来るのはそのくらいだろう。グレネードランチャーとか予備の武器をどっかに仕込んでなきゃ、の話だが。

 

 

 工場内で戦闘音が鳴り出した。重い機体が一気に詰め寄る様な大きく響く足音と、それを迎え撃つブリッツの銃声。着実に削られてるだろうに、敵はまだ諦める気が無いらしい。

 

 往生際が悪いヤツめ。トドメを刺すにゃとにかく動きを止める必要があるな。腕じゃダメだ。まだ動き回れる。頭も無理。中の暗さで暗視装備無しであの的を撃ち抜くのは物理的に困難。とすれば、残るポイントは脚。正確には普段装甲に覆われている内部機構。片脚が駆動不良に陥れば、あれは一気に鉄の重しとなってまともに動けなくなる。幾ら後ろの重りをパージしたとはいえ、それでもアレ自体の重さは人間一人が動かせるモンじゃない。

 後ろから脱出されるまでの僅かな時間にはなるが、ブリッツの実力なら一気に懐に入って頭を撃つのもギリギリ出来る、だろう。お互い体力的に消耗してる現状だが、そこはもう仕損じない事を信じて託すしかない。

 

 まずは一発、一発さえ撃ち込めばトドメまで持っていけるはず。

 

 ・・・これならイケるか? あのスーツはシールドを構えて身を守る時、防護範囲を広く取るにはどうしても膝を折って盾の裏に収まる必要がある。その時、普段は装甲でカバーされてる膝の内部組織が露出するはず。そこを狙えるのは————

 

 

「上、か」

 

 

 俺は先程ビルから見た工場の屋根を思い浮かべる。三角に作られた屋根の頂点のラインに、太陽光を取り入れる為の大きめの天窓が等間隔に3つ並んでいた筈だ。

 キャットウォークからの狙撃ではダメだ。斜め側面からでは、こちらの立ち位置に対して装甲に覆われている面積が広くなってしまう。暗所の狙撃となれば狙う的は可能な限り大きく捉えられる位置に布陣するべきだ。つまり、屋根上からがベスト。

 屋根を見上げる。壁や中の支柱は大分ボロボロにされてるだろうが、ブリッツや俺相手の戦闘では天井まで撃つ理由が無く、屋根上自体は原型を保った状態であった。

 

 狙撃地点の環境は良好に近い。・・・よし。

 吸って、吐き出す。まだ体に痛みは残るが、あんまり休息に時間を使うわけにもいかない。

 

 

「ブリッツ、ナビゲーター、そのまま聞いてくれ。

 俺はこれから奴の動きを止める為に屋根から脚部関節をぶち抜く。ところが暗視デバイスがスコープもグラスもバイザーも全部お釈迦にされてな、狙うのは俺の裸眼と予備で持ってた通常の光学スコープだけ。これだと暗すぎて流石に無理だ。

 無茶承知で頼みがある。奴の姿を5秒・・・いや、3秒照らし、かつ左右どちらかの膝の関節を露出させるよう誘導してほしい。要は盾を構えた防御姿勢になったのを照らせって事だ。出来るか?」

 

 

 ブリッツのインカムが音を拾う。中から響いているのと同じ音がコンマ秒遅れで耳に入る。

 一番の脅威が無くなったとはいえ、それでも危険なのに変わりない状況の中で、ブリッツは自信を持ってはっきりこう答えた。

 

 

『任せろ』

 

 

 たった一言、しかし彼の言葉に込められた力強い響きが俺の内にも響いた。

 ・・・ふっ、頼もしいね。おかげでちょっとだけやる気が出たよ。

 

 

「・・・悪いな。頼んだぜ、()()()()

 

『む? ————フッ。幸運を祈る、レイ()()()

 

「その呼び方はやめろ」

 

 

 なんだよ二等兵って、一番下っ端じゃねえか。

 ちょっと上がった気分がちょっと下がったが、これもブリッツなりの激励なのだと思う事にして、グラップリングビームを天窓の枠に向けアンカーを撃ち放つ。

 ぐるりと枠を一周し絡みついたのを確認。強めに引っ張っても脱落しないのを確かめ、俺は体重を掛けて壁伝いに登ってゆく。

 

 三角屋根は角度自体はそれほど急ではないため、一度屋根に上ってしまえばあとは支えなしでも上がってゆくことが出来る。とはいえ、未だ全身が痛む中。普段通りのスピードで上ることは出来なかったが。

 

 天窓のそばに着く。3つあるうち、最も正面ゲートから遠い位置の窓だ。ブレードを取り出そうとしたその時、視界が急に暗くなった。

 

 

「ん・・・雲が月を隠したか。しかも大きく厚みもある・・・都合が良い」

 

 

 月明かりがあると、天窓を通る光を俺自身の体で遮る格好になるため、当然床に映る俺の影で敵に即バレしてしまう。しかし雲に隠れてる今なら、俺が窓を遮っても大した変化は生じない。まさに今撃てと言わんばかりの天候だ。

 

 ・・・もっとも、機体のセンサー類が未だ健在なので、俺が何をしようとしてるのかは敵にはバレバレだろう。ただ、俺を潰す手段が直にこっちに来るしかなくなった為、今は目先の脅威(ブリッツ)を始末しようとしてるだけである。

 それでもマシだ。さっきは上手く避けられた挙げ句手痛く反撃されたが、超危険物(ミニガン)を無力化した今ならブリッツがゴリ押しで攻めるのも難しくない。

 兵士としてアイツは間違い無く一級の実力者だ。それは相手のパイロットも同じ事だが、レベルの高い者同士が本気でぶつかり合えば外野に気を向ける余裕なんかありはしない。

 

 センサーで俺の位置を把握してる? 大いに結構。そのまま動かずジッとしてりゃ良いだけだ。熱源探知(サーモグラフィー)で俺の居場所や姿が丸見えでも、少なくとも動かなければ動体センサーは反応しない。動かず構え続けるのは慣れてる。動きを感知されるなんてポカはしない。誤魔化しきる。

 そんでもって、ヤツの直ぐ側で動き回る実力者がいる。ソイツとガチでやらなきゃならない状況で、果たしてどこまで俺に意識を割いていられる?

 

 今日会ったばっかだが、これだけはハッキリ言える。

 ブリッツ(アイツ)はそんな余裕与えるほど甘くない。好機と見れば徹底的に突いていく、けれど引き際は決して見誤らない。敵として厄介極まりない実力者の本気を受けて、外野に気を回してる余裕なんかありゃしない。必ずどっかで隙が出来る。その瞬間を、ぶち抜いてやる。

 

 

 

 改めてブレードを取り出し、L96本体を通せる位の穴を慎重にくり抜く。その際ガラスが溶けて生じた僅かな隙間に指を入れ、くり抜いた切れ欠けをホールドするのも忘れない。

 

 欲を言うなら窓そのものを取っ払った方が視界もクリアで狙いやすい。しかしこの窓はあくまで光を取り入れるために作られており、開閉ができない構造になっている。そこはどうしようもない。最低限、スコープも突っ込める位の大きさで開けられれば、狙撃への影響は小さく抑えられる。

 

 くり抜いた穴にさっそく銃身を通し、狙う用意を整える。俺の位置はナビゲーターがブリッツにリンクしてくれている。もっとも一番肝心な情報、即ち射線がどこ向いてるのかを伝えることは出来ない。グラスが壊れてしまったため、俺の視界から得られる情報が諸々取得出来ない状態にある。が、そんな情報はいちいちリンクしなくてもブリッツが経験則で適当に割り出すだろう。こういう便利な装備が無きゃ仕事が出来ねえなんて、兵士としてはへっぽこも良いところだからな。無きゃ無いでどうにか出来る様にするのが兵士ってもんだ。そうだろ? ブリッツ。

 

 

「位置についた」

 

 

 インカムに呼び掛ける。現状、スコープの視界は真っ黒に等しい。いや、微かな光で床面が辛うじて見える位といったところか。ただいずれにしろ、この暗い空間を動き回る敵の、それもその一部分の小さな的を通常のスコープで狙撃するなんてのは正気の沙汰じゃない。

 せめてバイザーが生きてれば、ブリッツに面倒掛けさせずにもう少し自力でどうにか出来たものを。

 

 ドスドス足を踏み込み動く音と、逃げるブリッツの銃声が絶えず響き続ける。しかし行動の中でどちらか、或いは二人が射線上を通過しても、スコープ越しでは精々が黒っぽい影が通り過ぎたようにしか見えない。

 ・・・最悪な条件で思わず笑いそうになる。

 

 

『お膳立ては任せろ。お前は一点を撃ち抜く事のみに集中しろ』

 

 

 敵と追い掛けっこを続けるブリッツからの返答。アイツからしたらトラックが突っ込んできてるようなもんだってのに、それでもブリッツ自身の調子に大した変化は感じられない。流石はプロってところか。粛々とやるべきことを遂行するだけ、って言わんばかりの落ち着き様だ。

 ふぅ・・・こんな状況なだけにどうも無意識のうちに焦りが出てしまうが、あぁそうだ。冷静に、けれども迅速(スピーディー)に確実な仕事をするんだ。

 片方が仕損じなきゃこんな壁クリア出来る筈だ。だから、落ち着け。

 

 深く息を吸って、吐く。それを繰り返して、頭に酸素を送ると共に思考も冷やしていく。

 

 

「わぁってる。テーブルに乗りさえすりゃ一発で〆る」

 

『フッ、そうかい・・・始めるぞ!』

 

 

 その直後、ブリッツが敵に向けてフルオートで撃ち放った。発砲音からして、サブに持ってたMP7あたりか。高速で撃ち出すことで生じたマズルフラッシュによる僅かな光、それと弾が装甲に当たり弾かれた際の火花。これらが短い時間で高密度に繰り返された事で明るさが稼げ、朧げながら再び敵の姿を拝めた。

 

 右腕のデカデカと存在を主張してたはずのミニガンは無い。撃てないなら不要として取っ払ったらしい。そのためメインの武装は左腕のシールドのみ。ブリッツの攻撃から身を守りつつ、突っ込んで轢き潰す為の近接武器として使ってる様だ。

 背面にあった筈の弾薬箱(マグケース)も同様。背中はそれまで見えてなかった緊急脱出用ハッチが露出しており、本当に不味い時にはここから抜け出す事も可能になっている様だ。

 

 身軽になった分、結構なスピードでブリッツを追い掛けまわす敵。撥ねられでもしたらまず助からないし、スピードが上がった分だけブリッツもより体力を消耗してしまう。早くケリを付けないと、逃げたボス達を追いかける前にこっちがバテちまうだろう。

 

 さて。ブリッツが中を照らしてくれたおかげで、この位置から地上までの高さ、敵の膝がどの辺りのポジションに来るのかが分かったため、それを狙える倍率にスコープの視野を調節する。

 射線のズレは考慮しない。この短い距離では俺の手元が狂わない限りまずブレることはないし、風の影響などほぼ無いと捉えて良い。従って、レティクルの位置はこの銃にとってのデフォルト、視野のみこのスコープにおける中望遠域に持っていく。望遠端では流石に目標に寄り過ぎてしまう。

 

 視野を調整した俺は、静かにボルトを引いて弾丸を薬室に送り込む。トリガーガードに人差し指を掛け、スコープを覗かない左眼で窓からの視界を俯瞰し構える。

 

 

 ・・・・・・最高だね。

 俺が狙えるベストな位置に()()()()てくれた。

 

 

「準備完了だ。何時でも撃てる」

 

『よし・・・そろそろ追い掛けっこは終わらせよう!

 

 

 短い返答の後、大きく声を張ったブリッツ。敵に呼び掛けた。

 敵も敵でいつまでもケリが付かない展開にいい加減焦れていたのか、

 

 

『ほお? 漸く死ぬ覚悟が出来たか?』

 

 

 それまで鳴っていたデカい足音は止み、ゆっくりブリッツへ近付きながら敵は言った。スピーカー越しではあるが、その声には動揺や焦りといった感情は伺えない。

 メインウェポンが使えなくなっている中でも余裕を崩さない様子に、ブリッツの小さな舌打ちが入った。

 

 しかしそれを悟らせる事なく、ブリッツは堂々とした姿勢を崩さず返す。工場内に声が響き渡る。

 

 

「生憎、そんな物は持ち合わせちゃいない」

 

 

 否定。敵の表情は伺えないが、まぁどんなツラになってるかはイメージがつく。

 ブリッツは構わない。間を置かず言葉を続けた。

 

 

「コイツは対戦術人形用に開発された特殊徹甲弾の試作品(サンプル)だ」

 

 

 恐らく、わざわざ手に掲げて相手に見せたのであろうそれを、自らの得物に収め弾丸を装填した。見えずとも音で分かる。

 

 

「性能テストでは距離50mから軍用人形のイージスのシールドをぶち抜いた上に、本体のコアまで貫通した。さて、その鉄屑で耐えられるか?」

 

 

 ほーん??? テストじゃ()()()()のイージスを盾とコアをまるごと串刺しにしたってか。

 ・・・いや待て。鉄血のカタログ品はともかく、正規軍で運用されてるイージスってそんなにヤワだったっけか?? 民生向けにスペックを落とす必要がある鉄血型と違って、軍で使ってるのは対E.L.I.D.も想定した妥協ほぼ無しの強化仕様になってるはずだ。そんなものを盾はおろか本体のコアまで一気に貫通するとなると、徹甲弾っつってもかなりの火力で弾をぶっ飛ばさないと物理的に不可能だ。そしてそれが、ブリッツの銃でまともに扱える様なモノなのか?

 

 ・・・考えにくい。少なくとも、軍用モデルのイージス相手にそんな華技食らわせるにゃ、もっと口径がデカくて炸薬量も多い弾じゃないと多分無理。こればっかりは物理的な要素に限界がある。突破するには相当の技術革新が無いと不可能だろう。

 極め付けに、この敵に対してのみ特効性があるような強力な弾を、何故今になって見せびらかしながら装填するのかって話だ。そんな弾を持ってるなら、一々言わずともどっかのタイミングでこれに変えて撃ち込めば良い。そうしなかったのはつまり————

 

 

「・・・・・・大根役者だな、アイツ」

 

『本業ではありませんので、そこは言わないであげて下さい・・・』

 

 

 つまり、ブラフで時間を稼ごうとしてるという訳だ。まぁ・・・即興とはいえ敵が冷静に分析すりゃすぐバレそうな嘘で誤魔化しにいってるので、演技力が物言うスパイの適性はあんまり無さそうだが。

 

 カチャン、銃を構える音が響く。これから撃つのは”特殊徹甲弾”だと、そう思わせようとしている。

 ブリッツの言った事は、同業者である敵からすれば一見眉唾物。そりゃそうだ、ローモデルじゃなく軍用モデルのコアを盾ごとぶち抜いたなんて聞いた事が無いだろう。そんなヤワな作りをしてたらそもそも軍は兵器として採用しないしな。だから、目の前の敵(ブリッツ)は大嘘ぶっこいてると普通は思う。

 

 しかしだ。もし仮に事実なら? 信じられないような結果を齎すものがもし実在していたら? 同時にそう考えてしまうのも指揮官の性というものか。

 仮に事実であれば、ただの7.62mm弾ですら少しずつ削られているパワードスーツの装甲が、宣言した通りの貫通力を持つ弾に耐えられる道理はない。無論、シールドに当てれば話は別だ。しかし本体が行動不能になれば、自らなど捨て置き、逃げた隊長と人質を追いかけるだろう。即ち、足止め役を果たせなくなる。

 

 常に最悪を想定し出来うる対策を考慮しながら動く、戦場に生きる者全てに通ずる当たり前のこと。であれば、敵が今取るべき行動は何か————

 

 

「!」

 

 

 敵はブリッツの誘いに乗り、大きな盾に身を隠した。その際、普段は装甲に覆われている内部機関が膝を折ったことで露出しているはずだ。まだ真っ暗でシルエットしか見えないが。

 その時だった。

 

 

『ゲート』

 

『レイさん、用意を』

 

「————スゥっ」

 

 

 息を吸ったのと同時に、柱の一箇所が突如煌々と青白い光を放った。その光は今まさに晒されている内部機関(ウィークポイント)を照らす。

 

 

『!?』

 

 

 暗がりに突如現れたその光に、敵は一瞬硬直してしまう。

 だが敵は己の経験と実力から、次には即座に事態を認識して対処行動を始めるだろう。それが出来る人物であるのは、今日の戦いを通して身を以て理解している。

 

 ならどうするか?

 対処されない内に仕留めるだけ。素早く、確実に一点を。

 

 光ったその瞬間、俺はすぐに銃身の向きを整え、中央の十字線に照準。トリガーガードに掛けていた指を引き金に乗せて————

 

 

「『終わりだ』」

 

 

 強く引き絞った。

 刹那、大きなリコイルが肩を押し込むと共に、ラプアマグナム弾が目標に向けて勢いよく撃ち出される。

 時間で言えば瞬きにも満たない、まさに刹那。初速約930m/sで撃ち出された弾丸は、目にも止まらぬ速さで正確に露出した膝を貫いた。

 

 

『がぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!??』

 

 

 スーツに覆われているとはいえ、脚部の内側にはパイロットの本物の足がある。マグナム弾に生身の足もろとも粉砕する勢いで貫かれ、到底耐え難い激痛に敵は絶叫した。

 痛み、そしてスーツ自体も片足が機能不全に陥った。その機を逃さない。ブリッツは敵に肉薄する。もともと折っていたスーツの膝を足場にして、得物の・・・正しくはそのアンダーバレルに取り付けたショットガンの銃口を敵に突きつけ————

 

 

『ッ?』

 

 

 まさしくトドメを刺そうとしたブリッツ。しかしアイツの指に掛かった引き金は引かれなかった。

 

 何故なら、敵は懐に飛び込んだブリッツをフリーの右腕で捉えており、腕の内に抱え込む様に強くホールドしていたから。

 

 ここでキマると思ってただけに、俺はすぐ次の弾を装填しようとし————何故か嫌な予感が過ぎった。

 そしてそれはブリッツのインカムを通して拾った敵の肉声により、はっきりとした悪寒となって背筋を巡ることになる。

 

 

『流石だ・・・! 俺がここまで追い詰められるなんてよ・・・!』

 

 

 完全に粉砕された膝が激痛を発する中、それでもまだ心が折れてないと分かる不敵な物言い。

 続く男の言葉に、俺は今日一番の焦りを覚えた。

 

 

『だが俺もプロだ・・・。託された仕事(任務)は必ず果たす・・・! だからよ、ここは二人で仲良く有終の美を飾ろうぜ・・・!』

 

 

 この瞬間敵が何を企んでるか察し、急いで窓からL96を引っ張り出して背中に背負い込むと、左手に持ったグラップリングビームのアンカーを窓枠に括り付けビームの伸長速度を設定し、右手にブレードを取る。

 

 

「・・・チィッ! 最期の最期まで見苦しい悪足掻きだッ!!」

 

 

 考えてる時間も惜しい。

 ビームを伸ばしたまま窓枠に片足を掛けると、眼下で照らされたままのブリッツが必死に逃げようともがいてるのが見えた。

 

 

『クソッ・・・離せっ、離せよクソッタレッ!』

 

 

 今までにない本気の焦りを含んだ声。しかしどれだけ優れた兵士であっても、機械相手では覆しようのない地力の差。形振り構わず必死に脱出しようと動くが、生身の力では拘束を解くには遠く及ばない。

 

 

『カウントダウンらしき音が鳴ってます!! このままでは!?「分かってるッッ!!」

 

 

 んなもん、ヤツの言葉聞いた時から分かってる。

 二人で有終の美を飾るなんて言い回しは、お前も道連れに死ねって言ってんのと同じだ。

 

 させねえよ。

 今死なれたら俺の評価に関わる。報酬にも関わる。色んな事に関わる。余計な問題が重なって出てくる。ノーセンキューだ。

 だから、何がなんでもクルーガーにはブリッツを死体で返すわけにはいかねえんだよ。

 

 俺は窓枠に乗ってブレードの切先を下に向けると、思いっきり踏み込んでジャンプした。

 次の瞬間、ブレードが貫通したところに俺の体重がのし掛かる事で、呆気なく窓ガラスは砕け下へ降り注ぐ。

 

 その音で二人が上を向くのがスローモーションの様にゆっくり見えた。

 

 地上までの高さ約15m程度。伸縮で衝撃を殺すにはあまりにも短すぎる距離。飛び降りるにはハイリスクだが、形振り構ってられない。

 衝撃で身動きが取れなくなるギリギリの速度で降下。敵の背後に着地すると、ビームを巻きとりながら痺れる足を無理矢理動かし敵の懐へ。何かさせる暇も与えず、下から逆袈裟掛けに右腕を切り落としてやった。

 

 

「ぐああっ!!」

 

 

 膝に加えて右腕を切り落とされ、本人の血と駆動用の液体が断面から吹き出してゆく。限界を超えた痛みに堪らず叫ぶ敵。同時に、ブチ切った事で油圧系統や電気信号系の一切を遮断したために拘束《ホールド》に必要な圧力が失われ、結果弛緩した右腕からブリッツは脱していた。

 さらにそれまで存在していた右側の重量(ウェイト)が無くなったせいで、機体は瞬間的に左重心に傾く。姿勢を直す暇は与えない。バランスが崩れかけた敵の胸に蹴りを入れて少しでも距離を取ると共に、振るったブレードを流れのまま放り捨て、代わりに空いた右手でブリッツの腰を抱く。

 そして窓枠から外れたアンカーを、今度は辛うじて現状を保ってるボロボロの扉の枠に飛ばし括り付け、フルスロットルで巻き取らせる。結果、俺とブリッツの体はまるでミサイルの様に扉を突き破り、敷地内を何度もゴロゴロと転がった。

 

 

「————逃げ、られたか。すまないな・・・隊長(ユリア)

 

 

 そんな様な声が聞こえた次の瞬間、オレンジ色の閃光が工場の中で広がり、大爆発を起こした。建物に開いた穴という穴の全てから爆発の衝撃波や炎が吹き出し、爆風がこちらに襲いかかってくる。残っていたガラスも残らず粉砕され、吹き上がった内の一部が降り注ぐ。俺たちは頭を抱えて身を伏せて待つしか無い。

 おまけになんと、敵が外した弾薬箱(マグケース)の中の弾丸が爆発による温度上昇で暴発(コックオフ)し、四方八方にあの威力で弾丸が飛んできやがった。コンクリの壁を容易く抉り取る鉄の針がメチャクチャな方向から飛んでくる状況、着弾音が鳴り止むまで生きた心地がしなかった。

 

 やがて状況が落ち着くと、無意識に止めていた息を大きく吐き出す。奇跡的にミニガンの弾に当たる事なくやり過ごせたのだ。猛烈な勢いで刻まれる鼓動を感じながら、俺は隣に寝転ぶブリッツへ呼びかけた。

 

 

「・・・よう、生きてるか?」

 

「・・・三回くらい死んだ気分だ」

 

「・・・そうかい」

 

 

 気分的にはぐったりもいいところだ。死を覚悟したところからギリギリ脱出できたのもあって、ホッと吐いた一息が一気に体の緊張を緩めてしまう様な感覚である。

 ・・・だが、まだ終わってない。最優先事項は未だ解決出来ていないのだから。今こうしてちょっと休んでるその時間すら惜しいのだ。

 先の銃撃による瓦礫シャワーを浴びて余計に重たくなった体をなんとか起こすと、ブリッツへ手を差し出す。

 

 

「立てるか?」

 

「・・・ああ、一つ借りておこう」

 

 

 引っ張り上げる形で立ち上がると、近くに落ちていたHK417を拾いチェックを始めたブリッツ。簡単な確認ではあるが、とりあえず使用に問題はないらしい。

 俺も背中のL96をチェックしようとして・・・止めた。何故なら、正面ゲートの先から見覚えのあるヘッドライトの車が向かってきていたから。

 

 真ん中のメインライトと、その斜め四隅に配置されたポジションライトでXの印象(イメージ)を与える特徴的なヘッドライト。これはまさしく、この地区に来るとき俺が運転してきたパナメルカーラだ。

 突然現れた車に対し反射的に銃を構えるブリッツだが、俺は一度首を横に降りつつ手で制する。

 

 敷地内に入ったパナメルカーラは流麗なドリフトを見せながら俺たちの正面で停止。すると左側にある運転席のドアが開き、数刻ぶりに見た人好きのする笑みを浮かべたティナが言った。

 

 

「おっ待たせ〜、ごしゅじ〜ん♪ 運転(ドライブ)する?」

 

 

 俺たちは互いに顔を見合わせる。

 やるべきことは一つ。互いに頷くと、俺は運転席を降りたティナに持ってる武器諸々を全て預け、乗り込んだ。

 ニュートラルにパーキングブレーキで止められている。

 

 

「ティナ、全部ストレージに仕舞っといてくれ。それからブリッツ」

 

「どうした」

 

「すまないがちょっとそのグラス貸してくれないか? 一番分かりやすく道案内してくれるツールがそれなんだ」

 

「・・・仕方ない、か」

 

 

 自分の装備を貸し渡す事に一瞬迷った素振りを見せるも、市街地の道路がどういう状況なのかを思い出したのだろう。若干の抵抗感は見せつつもとりあえず貸してくれた。

 

 程なくナビゲーターからのデータリンクが視界に表示されるが・・・うわ、何この見やすいナビゲート。さすが軍用品。っと、それともう一つやることがあった。

 

 

「Hi カルフェル」

 

『ご用件を』

 

 

 この車に搭載された車載OS、CarFel(カルフェル)。この車のありとあらゆる動作を制御してくれるシステム。

 

 

「動力配分をメイン4:6に、臨機応変(アクティブ)に制御してくれ」

 

 

 指示しながら姿勢を整えステアリングに手を添えると、勝手に俺のシートポジションに動いていく。

 

 

「張り合わなくていいから」

 

 

 突然妙な事を言い出したブリッツ。多分、ナビゲーターが私だってこのくらい出来るとかそんな様な事を言ったのだろう。

 ・・・ってかもうこれ間違い無くナビゲーターの正体スパコンAIだろ。型落ちも良い所の車載OSに人間のオペレーターが態々張り合うなんて考えにくい。機械、だけどそれなりの疑似感情を与えられたが故にライバル意識が芽生えたってとこか。

 

 藪蛇になりそうだからツッコまないでおく。

 

 

「それから、エンジンのリミッターを解除。出せるところは限界まで出す」

 

『承知しました。動力配分の設定、及び動力系統のリミッター制御を開放します』

 

 

 直後、マフラーからのアイドリング音が破裂音に近しい重低音を響かせ始めた。

 メーターティスプレイにあるドライブモードの項目には『NORMAL』でも『SPORT』でもなく『NO LIMIT』の文字。つまり、エンジンとモーターぶっ壊すのを承知の上で正真正銘のフルパワーでぶん回せるわけだ。

 ルームミラーに目をやれば、後方視界下部に大きく広がる格納式のリアウィングが展開している。

 

 俺はタコメーターを見ながら、アクセルをぽんぽんと踏み込む。

 その度に非常に早いレスポンスでエンジンが吹き上がる。自然とステアリングを握る手に力が籠もる。

 

 

「・・・全員、準備は良いか?」

 

「ああ」

 

「おっけー!」

 

『いつでも』

 

『車体の制御はお任せを』

 

「OK」

 

 

 一瞬目を瞑り、息を吸って、吐く。

 目を開ける、正面を真っ直ぐ見据えながら、右手はシフトノブに。

 

 

「————飛ばすぞ」

 

 

 Dレンジ(ドライブ)に入れた瞬間、俺はスピンしない全力でアクセルを踏み込んだ。




 次でこのコラボ戦役の本編にケリ付けたいけど・・・終わる気がしねぇ(⁠*⁠・⁠~⁠・⁠*⁠)ヌミーン

 長々と付き合ってくださってるSPEC氏に感謝!
 さあみんな、氏のところへ行こう!!↓↓
 https://syosetu.org/novel/186365/
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