裏稼業とカカシさん(旧題:裏稼業の何でも屋が出向く先には必ずカカシが待っている件) 作:chaosraven
仕事が忙しかったりバカ殿が上の無茶を保身に走ってなんでもうんやりますで受けて現場大混乱したりと、怒涛の日々を過ごしている筆者・・・メンタル死にそう()
タイトルの通り、ついに・・・ついにようやく! 終わります!
長々とお待たせして本当申し訳ございませんでした。
今回もお詫びという訳じゃないですが、3万字近い分量ですのでお手隙のタイミングでどうぞ。
02:34
フレイム・スコーピオンズ本社 社長室————
「・・・社長? 如何なさいましたか?」
重厚な造りをしたドアをノックするも、中からの反応は無い。疑問に思い、扉の向こうにいる部屋の主へ呼びかけたのは秘書を務める女性。
日も上らぬ真夜中。本来であればとっくに自宅で床についているはずの彼女は、今夜行われているある”特殊任務”のため、社長であるアダム・リドヴィツカヤと共に執務室へ詰めていた。
秘書はアダムからコーヒーのお代わりを頼まれ、社長室の隣にある秘書室でコーヒーを淹れてきた所である。
トレイに二人分のカップを載せ、扉をノックするも反応が無い。呼びかけに応じる事もない。
不審に思った秘書は、トレーを持ったままそっとドアノブに手をかける。
「!!? 社長!!」
視界に入ったのは、執務机に上半身を投げ出した様に伏すアダムの姿。その右手には飲み終えたばかりのコーヒーカップが。
急いで駆け寄り脈拍を確認するも、既に彼の拍動が再び刻まれる事は無い。
コーヒーを淹れに席を外したほんの一瞬の間に、仕える主人が突然の死を遂げた。
言葉にしても訳が分からない。しかも見方によっては自分が毒殺したとも見られかねない状況。全身を冷や汗が伝う。
「・・・いいえ、先ずは関係各所に連絡を入れないと。私一人だけで捌ける問題じゃない」
そう一人呟くと、秘書は社用携帯から常勤取締役たちの番号に片っ端から掛けていった。
その足元に忍び寄る、黒い鎧を纏う蠍には一切気付かずに。
-----
フレイム・スコーピオンズ本社ビル。その周囲には本社を囲むように幾つかのビルが立つ。いずれも
その中の一つ。エントランスへ通ずる道の手前になんの変哲もない黒い商用バンが停まっていた。
運転席に座るのは黒づくめで統一した服装の男・・・スコーピオンズ管轄地域をメインに情報屋を生業とする彼は、日付を跨ぐ直前頃に『フォックス』の名を持つ同業者に依頼され、スコーピオンズ本社の様子を遠目に伺っていた。
唐突に頼まれた仕事に疑問を抱いた彼だが、前金だけでも相場より2割高い額が即座に振り込まれたのもあり、一先ず依頼された通り本社の様子をマークしていたそんな折、彼の前で異変が起こる。
「(VIP用の地下エントランスに次々車が入っていく・・・? しかもどれも経営陣の通勤車だ。なんでこんな時間に?)」
経営役員が移動に使う公用車のセダンが、人目を避ける為の地下駐車場にどんどん入っていくのだ。それも1台2台ではなく、10台以上という数。即ち、役員がほぼ全員が未明に本社に集まったという事。明らかに会社の運営を左右しかねない出来事が起こったと分かる。
(役員がほぼ全員来るなんて、まさか社長が自殺でもしたか? ・・・普通に考えてまずありえねえが、そのレベルの大事件が起こったってのだけは間違いなさそうだ)
男は助手席に置いたバッグから細長い黒い棒と薄型ノートパソコン、それとヘッドフォンを取り出し、頭に着ける。棒の先は本社の社長室がある辺りの窓へ。
超指向性ガンマイクと同等の性能を持ったツールで音を・・・正確には目標物へレーザーを照射することで窓の振動を捉え、キャッチした情報を接続したパソコン内のソフトウェアで解析、高解像化し、保存とヘッドフォンへの音声出力を同時に行う。これによって男は中で行われている会話を盗聴する事ができる。
暫くマイクを向け続けていると、車から降りた役員たちが続々と室内へ入ったらしく、ヘッドフォンから人の動きが読み取れる様になった。
『————が突然死したと連絡が入って来てみれば・・・これはどういう状況なんだ? 誰か分かるか?』
突然死、という穏やかじゃない単語が流れてきた事に男は眉を顰める。
・・・死んだ? 誰が? マイクは社長室のあたりの音を拾っている。ということは??
(まさか、アダム・リドヴィツカヤが中で死んでるのか?)
訳がわからない急展開に目眩を覚える男だが、気を取り直して盗聴に集中する。
『連絡を寄越した張本人までが横たわってる状況・・・痴情の絡れかね?』
『んなわけなかろう。社長もこの秘書もそんなタマじゃない。彼らも我々と志を同じくする者なのは皆も良く分かってる筈だ』
『分かってる。タチの悪い冗談を言ってすまなかった。だがな・・・この状況だけを見たらそう取れるのも無理無いと思わないか』
『・・・二人揃って眠る様に死んでいる。苦しみといった物は伺えん。毒でも飲んで心中したとも取れる。真実は定かじゃないが』
『・・・・・・分からないな。だがいずれにせよ、CEOが死んでしまったのは我が社にとって由々しき事態だ。そしてその情報を持っているであろう唯一の証人も・・・』
『とうの昔に召されておる。これでは真実を追うのも難しいかもしれぬ。とにかく、極秘に現場検証と遺体の搬出を行おう。検死しない事には何故死んだのかも分からぬ』
『賛成だ。・・・とりあえず、直轄の警察と鑑識の連中を呼ぶか』
『うむ。その後の発表については議論した上で改めて行うとしよう』
『よし。同士諸君、それで異論は無いな?』
『『異議無し』』
『うむ。では早速動こう』
その後は多くの足音が遠ざかり、一人残った役員らしき男が電話で人を呼び出す声が聞こえてくる程度。
これ以上の情報は現時点では得られないと判断し、男は録音を止めヘッドフォンを外すと、即座に車のキーを回してイグニッション。ギアを1速に入れて走り出した。
-----
事件の主犯であるユリアと救助対象のヘリアントスを背負った俺たちは、背後から鳴り響く敵のものであろう途切れぬ銃撃音を尻目に、ナビゲーターの案内の元ヘリの着陸地点まで向かっていた。
MAGが飛ばしたドローンの観測によれば、少なくともブリッツの正面以外に怪しい存在は捉えていないらしい。
この事件において、フレイム・スコーピオンズがかなりの兵力を投じてきてる事は事実。しかしそうは言っても、無制限に兵力を送り込める訳では無い。
ならば、どうせハナからまともに管理もされていないスラム街より、多くの市民が活動する市街地側でテロを起こそうとするのは道理。無謀極まる作戦だと
コイツが起きていりゃ、展開してる残りの全ての敵戦力を吐かせる位はしてやりたいところだったが・・・死んだ様に意識を手放したコイツにそれを期待するのは無理がある。それに、下手にくっちゃべったところへ機密保護で燃え始めようもんなら敵わない。
そんな時、味方の周波数から無線が入った。走りながら応答する。
『やっと繋がったッ! レイ!! 無事なの!?』
焦り混じりの声。その主はさっき別れた416である。・・・やっと繋がったとはどういう意味だ?
が、向こうのこれまでの動きを確認するのは後でも出来る。今は保留にしておく。
「416か。安心しろ、人質も主犯も無事だ」
『そっちも大事だけどっ、貴方達はっ? 爆発音が聞こえたわ。すぐに合流した方が』
「お察しの通り車がぶっ飛ばされて面倒な事にはなってるが、味方のヘリがすぐに来る手筈になってる。こっちの心配はいらない。それより、キミ達も急いでここから離れろ。すぐにだ」
『なっ・・・それってどういう意味?』
突然今いる場所から離れろと言われ、訳が分からないと返す416。その反応も当然だが、丁寧に解説してる時間がない。
「最悪の敵と鉢合わせた。恐らく、このテロの全ての黒幕だ。ヤツは危険過ぎる。とにかくここから離れるんだ」
『話が見えないわ。そんな奴がいるなら尚のこと一度合流した方が・・・』
「説明してる時間が惜しい。とにかく、言うことを聞いてくれ。頼む」
諭す様に、決して独断で動く真似はしないでほしいと、間を開けて呼びかける。
『・・・レイがそこまで言うなら。分かったわ』
俺の意思を汲み取ったのか、納得こそ仕切れないものの一先ずは従ってくれると言ってくれた。
それで良い。何はともあれ、この場から離れてくれれば良い。
「聞き入れてくれてありがとう。次に会う時まで元気でな」
『お互いにね』
交信終了。
改めて全方位に意識を向けると、ティナに背負われたヘリアントスが俺に向けて口を開く。
「・・・彼女にも迷惑を掛けてしまったな」
「その分割増でギャラ出せば良好な関係のままさ」
「むっ・・・・・・それもそれで厳しい。合コンもあるし、恋愛必勝コラムの執筆も大した稼ぎになってないというのに」
「恋愛必勝コラムぅ??」
小声でボソッと呟いた内容はバッチリ俺の耳に届いた。・・・合コンねぇ。まぁ、良い相手を見つけて家庭を持つってのも、ある程度の年になると真剣に考えなきゃいけない重要な要素だ。
その割に、当人の口ぶりだと稼ぎの内の結構な額を割いてる様にも取れる。はて、負け続きなのかと思った所に恋愛必勝コラムというフレーズが引っ掛かった。
ヘリアントス・・・確かひまわりの学名だったな。それに恋愛必勝コラム・・・まさか。
「・・・・・・ヒマワリ代行官ってのはアンタのことか?」
「!? な、なぜ分かったっ? いやそもそも、何故部外者である筈の貴殿が知っている?」
あぁ・・・理解した。あんな内容を必勝法と思い込んでるんじゃ、そりゃ合コンでも連敗するわ。
『お、おかえりなさいっ、ダーリン!』
赤くなった顔で言ったわーちゃんを思い出す。今思えばあの時点で既に俺に
意中の人を意識させるためにダーリンと呼んでみよう? やるにしても最低限の関係値ってのがあるだろう。一方通行の感情でいきなり言った所でヒット出来る確率は高くない。それきっかけで意識し始めるパターンもあるにはあるだろうけども、やっぱりそれも少なくとも友達とか、ある程度気心知れた位にならないと通じないと思う。そして、そーいうのは社会である程度長く生きてりゃ自ずと理解出来てくるモノだとも思う。俺個人の意見を押し付ける気は全く無いが。
思うに、この人は多分本気の恋愛というものを実は経験してないんじゃなかろうか。周囲の環境的に男と触れ合う機会が多くなく、或いは居ないわけじゃないが仕事上の付き合い位しか無くて、そもそも向こうも積極的にアタック掛けて来ないとか・・・ブリッツの上司でクルーガーの側近でもあるらしいから、多分立場が高すぎて歳の近い異性はアタックしにくいのかもしれない。
そうこうしてる内に段々歳も重ねていって、いよいよこれからの人生考えると手段を選んでる場合じゃなくなって、とりあえず合コン行きまくってなんとか機会を得ようとしてるってところか。
ま、いずれにせよだ。
「アンタは男女の関係性をもっと深く考察するべきだな」
「なんっ・・・」
見なくても分かる。口をパクパクさせて身体を震わせてると。
彼女なりに言いたい事はあるんだろうが・・・っと、この問答は終わってからで良いか。
バイザーに表示されたスケアクロウからのメッセージを見て、俺は気を引き締め直す。
「それはどういう意味だ」
「おっと、その続きは終わってからにしよう」
「むっ・・・」
不満げな反応のヘリアントスを尻目に、事態の深刻さを改めて認識する。
『敵自ら第三兵器産業廠の名を出しました。”確定”ですわ』
金髪ポニテ=タコ女。となると、残った二人がどこまで持ち堪えられるか。俺たちがどれだけ早く動けるかに掛かってる。
一つ息を吐く。終わりが見えるここまで生き残ってこれたんだ。最後の最後で終わっちまう訳にはいかない。
警戒しながら駆けること数分。ナビゲーターが指定するランデブーポイントに到達。端末を立ち上げて火事以前の地図を確認。元々片側2車線の道路が十時に交差する、至って普通の交差点だった場所。その筈だった事実は、燃え残った周囲の建物の基礎や風化して土くれと化したアスファルトの名残でようやく見て取れる程度。
日が少しずつ登り始めてるからこそ、物悲しい雰囲気が辺りを包みつつあった。
「ご主人ご主人。なんかさ・・・ヤな予感するのって私だけかな?」
しきりにキョロキョロ見渡しながらそんなことを口にするティナ。
フラグを立てるような不吉な発言。通常なら勘弁してもらいたいものだが、タコ女がここまで状況を引っ掻き回してくれてるので、その可能性は十分にあり得る。例えばタコ女と同じように、赤外線すら誤魔化せる擬態能力を持った新たな量産式タコ女軍団とか。それによって上の
ティナの言う通り、ブリッツと別れてからここまではスムーズに来れた。特に何の障害も無く。スコーピオンズは恐らくはスラムに兵力は展開してないと考えれば当然の流れではあるものの、それにしては妙な静けさが周囲を包んでいる様にも感じられるのは考え過ぎだろうか。
「・・・・・・同感だ。何か仕込んでそうな予感がする。注意しよう」
「いぇっさ♪ ・・・いざ交戦ってなった時に備えて一旦下ろす?」
そう言って背負ったヘリアントスを親指で指し示す。ピクリと眉が動いたが、生憎俺たちは彼女の部下でもなんでもないのでスルーする。
それに、敵が来た時人間大の重りを背負って迎撃に入るのはやはり現実的じゃない。ユリアは拘束したままに、ヘリアントスには拳銃でも持たせてヘリが来るのを待つのが最適解だな。
「そうしよう。・・・身を隠せるモンがほぼ無えのはやりにくいとこだな」
懸念事項としてはそこである。建物の影に隠れてといっても、この惨状で防弾性は期待出来るわけもなく。仮に出てきたとして、例えばスラムの住人を扇動してこちらに向かうよう仕込んでた場合、敵が銃を持ってたらその時点でかなり厳しい耐久戦になるであろう。逆に近接武器だけならまだやりようはある。こちらの持つ武器でもなんとか抵抗は可能だ。
「ナビゲーター、ヘリの到着まであとどのくらい掛かる?」
『現在スレイプニル機が給油を終え離陸したところです。ランデブーポイント到着までは6分程を見込んで頂ければ』
「6分か・・・すぐになるか、それとも長い6分になるか」
白み始めた空を見て、大きく息を吐いたその時————
聴覚が土くれの地面を擦る音を聞き取った。
「————あ?」
「にゃぁははは・・・やっぱ来たね」
足音はどんどん近付いてくる。それも一人二人とかじゃない。全方位からゆっくりと、けれど着実に此方へと向かってきていた。
『!! ランデブーポイントに人影が大挙して向かっています! 推定200人以上・・・そんな、一体どうやって・・・!』
「光学迷彩かなんかでも使ってたのかもな。タネも経緯ももうどうでも良いが」
ティナに目配せして頷き合う。アイコンタクトの後、P90を北方向から来る敵影に合わせつつ、バイザーの望遠機能を使って敵の姿を拡大してみる。
手には瓦礫らしき物体、他は錆びたナイフや何も持ってないのとか。銃の類は視認出来ない。服装は誰も彼もボロボロで汚れている、即ちこっちに向かってるコイツらはスラムの住人だと分かる。
だが可笑しい点がある。
「・・・ご主人、みんなものすっごいお目々トンじゃってない?」
血走った目は大きく開かれ、焦点がズレている様にも見える。それに口からは涎を垂らしてる奴も見られる。大凡まともに脳が機能してないと一目で分かる有様。
まるで初期のE.L.I.D.感染者、A級と呼ばれる状態に近い様な姿でこちらに迫ってきていた。
どういう経緯でこうなったのかは知る由も無いが・・・まぁ間違いなくタコ女が何かやったということだろう。
「あぁ見えた・・・絶対体に仕込まれたか何かされてるだろうな。感覚的にはA級E.L.I.D位かもしれない」
「うへぇ・・・お話もクソも無いって事じゃん」
「そうだな。さあ構えろティナ、一発も無駄にせず仕留めるぞ」
何せ数が多い。推定200人以上ということは単純に言ってP90のマガジン4つ分の敵がいるってことだ。
今本体に装填されてるのと予備マガジン6つの計7マガジン、そこにFive seveNの装填済含む3マガジンで計410発。
後はリンゴが3つとスタン2つ。ストレージの中にはまだ幾らか弾はあるが、俺にはその中身を取り出す術が無い。
「ティナ。ダメ元で相談なんだが、俺が持ってるストレージにティナからアクセスできるか?」
「んぇ? うんっ、やってみようっ・・・・・・むりだね♪ 弾切れたら私のあげるよっ」
「あぁ、その時は頼むぞ」
背後にヘリアントスと拘束されたままのユリアを挟み、俺とティナは互いに背中合わせに前を向く。十字路の片側二本を二人で受け持つ形で。
バイザー左下には俺とティナのトータルの残弾数が、右下にはヘリ到達までの予想時間がカウントダウンで示される。残り時間は4分50秒と。助かるね。
P90の有効射程は200m程度。つまり、1発で確実に仕留められる最長距離はその程度。一人二人が来るなら全く問題無いが、四方から多勢で迫ってくる場合は話が変わる。
俺は北側と東側、ティナは南側と西側へ伸びる道を受け持つ。そのいずれからも緩慢な歩みで敵がやってきている。
・・・1発も弾は無駄に出来ない。少なくともヘリが来てくれるまでは。
「・・・オァ? ウゥゥゥ、アァァァァァッ!!!」
P90の有効射程200m圏内。そこにさしかかる寸前、住人は俺たちの姿を認識すると一瞬戸惑った様な声を上げる。が、間も無く仇に襲いかかるが如く雄叫びを上げ、腕を振り上げ駆けて来た。得物を持ってようがなかろうが、どいつもこいつも
一番先頭の奴に狙いを定めヘッドショット。次に近い奴へ滑らかに照準をズラして発射。その次に近い奴へと撃ち抜き、さらに狙おうとしたところへ、先頭だった奴の体が急に青白い炎に包まれた。
「あ?? ・・・チッ、そういうことかよっ」
次いで殺した順に死体に火が付いていく。スコーピオンズと同じ、情報保護を目的とした死体の焼却機能。即ち、ナノマシン。
住人たちはなんらかの方法でナノマシンを投与され、今こうして利用されている。使い捨ての都合の良い駒として。胸糞悪い感情が湧き上がる。
「な、こ、これは・・・?」
「考えるのは後だ! 頭伏せて屈んでろ!」
本来なんの罪もないスラムの住人が、俺たちを妨害するための捨て駒にされている現実。仮にも統治者側であるヘリアントスは唖然とした顔で目の前の光景を見た。
だがそうなった答えを出すのは今じゃない。どんな理由があっても、どんな経緯があっても、俺たちに敵意を持って襲いかかってきてる以上は敵として此方も応じなきゃならない。じゃなきゃ俺たちがやられるのだから。話し合いが通じる状態じゃない以上、応戦して殺す以外の手段は、無い。
照準を動かし、此方に近い敵から順に一発一発をヘッドショットで当てていく。フルオートならまだしも、セミオートで一弾ずつ当てる位なら比較的容易い。何度も使ってきた相棒だからこそ、クセは体が覚えている。
しかしそれでも、敵の数が多い。そして200m圏手前に入った途端、何故か早足になって俺たちの方へ向かってくる。一人残らず例外無くだ。何かしらの意図があってナノマシンによってこの様に行動を制御されている? そう思える程妙に揃った動きを見せる敵。
射程圏内に入って来た奴から順に始末を続けていくが、ハイキャパシティマガジンを使ってると言っても限りがある。最後の弾を撃ち出し、下部の廃莢口から薬莢が落ちる。即座にマガジンをリリース、予備マガジンを取り出し装着。コッキングレバーを引き、薬室に弾丸を装填する。残り6マガジン分。
その間に近づきすぎてる敵の一体を足を撃ち抜き後続を縺れさせたところへ、巻き込まれてこけた後ろの敵をヘッドショット。仲間が燃え出した熱で呻きながら暴れ出す敵を視野に捉えつつ、射程圏内に入った敵の始末を再開する。時々、この様に巻き込む形で足止めをしつつ。
なにせ隠れられる遮蔽物が交差点の真ん中には存在しない。敵の接近を許せば一気に死が近付く事になる。絶対に肉薄させてはならない。
「焼夷手榴弾でもありゃもう少し楽だったんだんだがな・・・」
面積に対して敵の密度が多い。一定範囲をまとめて攻撃できる武器があれば多少は楽になっただろうが、細い弾丸では一発一発を無駄にすることなくドタマをぶち抜くしか無い。迫り来る数に対しての殺傷効率は悪い。が、やるしかない。
「いっそのこと持ってきてる
「それをやるならもう一人投げる専任者が欲しいな」
「だーよねー」
現状投げる役割をこなせそうなのはユリアしかいないが、容疑者をフリーにして後ろから刺されたら溜まったもんじゃないので却下。
04:03
敵を殺せど殺せど、後ろから次々と出て来る。そのどれも例外無く頭が飛んだ状態で、当然話し合いにすらもならない。
たった5分程度の短い時間の内に、あっという間にそこらのゾンビ映画の様な光景が俺たちを包んだ。即ち、タコ女は車をぶっ飛ばした後に俺たちがここをヘリのピック地点にすることまで読んでたということ。
スラムの住人が何人いるのかは知らないが、こんな焼け跡だらけの瓦礫の街で暮らせる人間は多くない。にも拘らず、俺たちを包囲して数で押しつぶせそうな程の人口・・・このためにわざわざスラム全域からここに集めたとでもいうのか?
「くっそッ・・・最後の最後まで良い様に弄ばれてやがる」
胸の内に強い不快感が込み上げる。共に怒りも。
おかげで頭に血が上って思考が冴え渡る。狙うべき一点へスピーディに照準し、引き金を引く。肩が強く押し込まれる感触と共に撃ち出された5.7mm弾は、真っ直ぐ敵の額へ紅い穴を打ち開ける。それを繰り返す。
03:09
後3分か、長えな。
撃ち尽くしたマガジンをさっさとリリース、新たなマガジンを装着、薬室に弾を送り込んで照準、発射。残りマガジンは5。
バイザーにはナビゲーターがカメラで視認できた順に最も近い敵からターゲットレティクルが表示される。その数は10人まで。情報過多になりそうだが、このくらい常に出してくれてないと始末が追いつかない。左右二方向の道から、200m程を境に急に駆け足になるスラムの住人達。アスリートの200m走からすればもちろん大分遅いが、だとしてもこの距離を駆け足で来られればあっという間に懐まで入られる。その前に始末しなきゃいけないのだ。一人残らず。
また撃ち尽くしちまった。マガジンをリリース、予備のを装着してコッキング。残りは4つ。発射・・・あ? 照準点から僅かに右にズレやがった。どう見ても風や手ブレの影響じゃねえ。
・・・チッ。連続射撃の影響が無視できないレベルになってきた。この間隔で撃ってりゃセミオートでもバレルに熱は籠るし、中の溝も少しずつ摩耗していく。照準点から無視出来ないズレが生じかけてる。
やむを得ない。俺は右手でP90を腰のホルスターへ、左手でFive seveNを引き抜き構えて発射。焼け石に水な時間稼ぎだが、やらないよりはマシだ。
「ご主人! 精度が落ちてきたよっ! もしかしてヤバい!?」
「
「うぇぇんっ! ジリ貧はキライだぁっ!」
「誰だってそうだ!」
言うや否や、バイザーに表示されるティナの武装がFive seveNに切り替わる。リアルタイムで連携して処理してくれる存在がいる事で、味方の状況を不足無く把握することが出来る。
ナビゲーターがいなくとも連携自体は可能だが、その場合はティナの電脳や俺の端末のリソースを割いて処理する必要がある。安全な所に置かれたスパコンと携行サイズの電子機器と、どっちが早く処理して確実かは言うまでもない。
おかげで俺達は頭のリソースを戦闘に集中させられる。この差は非常に大きい。
Five seveNの弾が切れる。マガジンをリリースして新たな弾を装填、コッキング。照準を最も近い敵の額に合わせ、発射。頭を撃ち抜かれた敵は、脳からの指示を失い脱力した足を縺れさせながら燃え始める。
間髪入れず射線を横へスライドし照準、発射。頭部に命中。間もなく身体が燃える。
02:04
あと2分。たった2分? いや、まだ2分もある。
未だうじゃうじゃいるゾンビのなりそこないが四方から迫りくる。とてもじゃないが、そもそもがPDWだけで格闘出来る量じゃない。〆の嫌がらせに相応しい配置の仕方だ。反吐が出る。
その時、呻き声と銃声に混じってヘリのローター音が聞こえてきた。空気を切り裂く音が、戦地から遠く離れたスラムの空に響き始める。つまり、ヘリが確実に此方に向かってるということだ。
『皆さん、あと少しで到着します! それまで持ち堪えて下さい!』
「あぁ、了解!」
「そう簡単には負けないよ!」
下がっていたモチベーションが戻ってゆく。俺はFive seveNを撃ち尽くすとリロードしてから、ホルスターに入れて腰のP90を構える。
射撃途中で銃を持ち替えた為、残弾数は残り34発。狙いを定め、引き金を引く。・・・やはり照準と僅かなズレが出始めてる。近距離ならともかく、200mも離れてると誤差も大きくなる。本来真っ直ぐ脳に突き刺さる筈の弾丸は、敵側頭部を抉る様に飛んでいった。ダメージを与えつつ着弾の衝撃で身を倒すことはできたが、まだ絶命はしていない。チッ、1発無駄にした。こんな時にハンデを抱えちまうとは。
けれど、細かくレティクルを修正してる暇は無い。さらに言えば、症状が出てるということは撃てば撃つだけどんどんズレてく状態に既に陥ってるということ。都度調整していく? バカバカしい。直したそばからすぐズレてくんだ、尚のこと修正する意味は少ない。
今までの経験で得たコイツのクセ、それと先の射撃から読み取れる現状を参考に、照準点より気持ち左寄りに向けて発射。僅かにズレた射線は銃口の向きに修正が加わった事により、正しい軌道で目標を射抜く。
ヘッドショットを受けた敵は仰け反りながら燃え始める。見届ける事なく射線をスライド。次の敵の頭部へ重ね、僅かに左寄りに修正して発射。余計な行程を挟んだ為、ピンポイントに額ど真ん中とはいかなかったが、それでも脳を損傷出来る位置に着弾。頭蓋を貫通して中のミソを掻き回した。
次の敵へ狙いを定める。同じ様に頭を狙い、そこから銃口を僅かにズラして発射。命中。目標が燃えたことで仕留めたのを確認する。そのルーチンを繰り返す。敵が迫る限り。
00:57
ふと、タイマーが3回素早く点滅した。ほんの一瞬視線をそこに見やると、気付けばヘリ到着まで1分を切っていた。ローター音は着実に大きくなってきている。銃声が無ければ鉄の羽音が一番響いてたであろう程に。
マガジンをリリース、新たなそれを装填しコッキング。Five seveNに持ち替え、懲りもせず尚も迫る敵を撃つ。此方はまだコンディションの悪化は少なく、ほぼ狙った通りの弾道で敵を貫く。しかし拳銃故に、弾数は多くない。あっという間に撃ち尽くす。残りのマガジンは取り出せない
Five seveNをホルスターへ、P90を構えて最後の抵抗に入る。
00:36
ローター音が喧しく響き渡る。流石にここまで近付くと住人達も動きを緩やかに、音の発信源を探ろうと視線をあちらこちらと見渡し始める。
見せた隙を逃す訳はない。気を取られてる内に出来る限り近い敵を始末していく。
何故なら、ヘリが来れば上昇風に煽られて狙えるもんも狙いにくくなる。ましてやハンデ抱えた状態のコレで正確に狙うのは難しい。
そのことをティナも察したのだろう。一瞬背後に目をやれば、ちょうど俺を見ていたティナと目が合う。即座に頷き返し再び目線を前に。音から此方へ意識を向き直した敵を近い順に片っ端から倒す。
00:15
「! 来たよご主人!!」
喧しく響き渡る羽根の音。その発信源が遂に明瞭に視認出来る距離までやって来た。ようやく・・・ようやく終わりが来た。
『皆さんっ、上空から敵を殲滅します! 伏せて下さい!』
「オーケイッッ!!」
「やっちゃえ!!」
ナビゲーターの指示の直後、俺達は後ろで守ってた二人のすぐ横に身を伏せる。と、次の瞬間————
『
耳慣れない新たな声が無線に入ると同時に、ヘリの両サイドから一斉射撃が降り注いだ。ローター音に負けず劣らずの空気を叩き割る様な銃声。銃口から撃ち出される弾丸は、圧倒的なエネルギーで食らった人体を容赦無く引き裂いていく。
その時、スケアクロウからのメッセージが視界に表示された。
『敵が逃げましたわ。赤外線、電磁気、生体反応等いずれの
は? タコ女が逃げた? なんで? 一回キレたらどこまでも追ってきそうなヤツが自分から逃げた? 何を企んでる?
考えられるのは逃げたフリをして隠れてるパターン。いやだが、赤外線は擬態があるからいくらでも誤魔化せるとして、電磁気や生体反応のどれにも反応が無いとなると、もしかしたら本当にその場から逃げたのだろうか。或いは本気で擬態すればそれらすら完璧に誤魔化せるのか?
もう一つ考えられるのは、ヘリがブリッツの救援に来る前にさっさと逃げたってところか。上から機関銃を撃ちまくられたら流石のヤツも分が悪いだろうから、自分が劣勢に置かれるのを嫌って逃げたとも捉えられる。ヤツの性質上油断も何もあったもんじゃないが。
だって逃げたフリして擬態、油断したところを食い殺すつもりだとしたら、今が絶好のチャンス————
最悪の展開に思い至った俺はインカムへ叫んだ。
「今すぐ全方位に撃ちまくれ!! 擬態されたら赤外線じゃ視えねえ!!」
『!!? りょ、了解!!』
ヘリの爆音と銃声のせいで聞き取りにくいが、無線の向こうからはビットを連射する音が聞こえ始めた。が、それもすぐに終わる。
そしてこの間も続いていた蹂躙劇はやがて終わり、ヘリのホバリングする音だけが響く様になる。俺は静かに顔を上げると、周囲にはただあるがままのスラムが広がっているのみ。撃ち殺された瞬間例外無くナノマシンが体に火を放ち、残るのは燃え切ったカスだけ。それもこの強風の中ではまとめて撒き散らされてしまう。結果、今までの迎撃戦が無かったかの様な光景が広がる事になった。
と同時に、再度スケアクロウから無線が入る。
『・・・周囲に特に変わった変化はありません。正真正銘、敵の反応はありませんわ』
試した結果はシロ。あぁ、どっと疲れた・・・。
「・・・・・・ふぅ、なら良い。お疲れさん、スケアクロウ」
『すみません・・・油断してましたわ』
「良いんだ。何も無いならそれで」
『いきなりどういう事だ? ヤツについて何か知っているのか?』
ブリッツから無線が入る。
突然全方位にぶちまけろと叫んだ挙げ句、スケアクロウも言う通りにメーザー弾を撃ちまくったのだろう。急な俺達の行動に微妙に理解が追い付いてないのか、困惑が混じった声で問われた。
「さっき、女が第三兵器産業廠の名を出したとスケアクロウからメッセージが送られてきててな。
ブリッツ、カルト教徒が言ってた使徒様とやらの特徴を覚えてるか?」
『あぁ。・・・そういう事か?』
俺が危惧した事態をブリッツも察した様だ。いや、存在そのものが完全なバケモノ故に、未だ自身の中での戸惑いを飲み込みきれてない雰囲気ではあるが。
無理も無い。だがああして直接相対した以上、何らかの人外な点を見ていても可笑しくない。ただでさえ銃弾なんざ全然効かない上に、傷付いても片っ端から修復されてくアホみたいな体質とかな。
「俺達は第三兵器産業廠・・・鉄血の工場でそのタコ女と出会ってる。体表の質感から表面温度まで、ヤツは人型の部分を含めて完璧に周囲の環境と同化出来る。だからこそ嫌な予感が巡って叫んだんだ。緊張が緩んだところを
食い殺す、と言った瞬間、誰かが息を呑んだのが聞こえた。
『どうやら、また助けられたようだ。感謝する』
「気にすんな。そんじゃあ、ヘリに積むもん積んですぐそっちに向かってもらう」
『了解』
交信終了。ローター音以外の環境音が途絶えた周囲を見渡す。
風に撒き散らされて死体の跡すら残らぬ光景に、思わず口を吐いて出た。
「・・・・・・綺麗さっぱり消えちまったってワケか」
「死んだら燃えるナノマシンってホント便利だよねぇ・・・おかげで証拠らしい証拠が何一つ手に入らないじゃん」
「ああ、本当に都合のいいツールだよ。人道軽視も甚だしいがな」
「どーかんだね」
胸に湧く虚しさを抱えつつ、改めて周囲がクリアになったのを確認した上でユリアを背負い上げると、ヘリが着陸できるスペースを作るために交差点の端に移動する。
程無くヘリが着陸準備に入り、車輪が接地すると見覚えある顔が降りてきたのに驚く。
「さっきぶりね、レイ」
「また会えたね!」
「45! それにナインと・・・ブリッツの相方のえーっと、LWMMGで合ってるのか?」
「ええ。ライトで良いよ」
UMP姉妹の後ろから顔を覗かせたのは、風にはためくローツインの銀髪が特徴の機関銃を持ったLWMMG?・・・ブリッツやナビゲーターはライトとか呼んでた戦術人形。近しい存在にしか呼ばせない名前かと思ってたが、味方であれば呼ばれても気にしないらしい。
「分かった。でだ、ライト達は45達とここの二人を
「?? 乗ってかないの?」
帰るなら一緒に乗ってった方が早いのに。そう言わんばかりの顔である。気持ちはありがたいが、俺達はそう出来ない理由がある。
「立場上、オモテを堂々と歩ける人間じゃないもんでね。おおっと代行官殿、俺の正体が気になるんならお宅んとこの
言外にウラの住人だと示した途端、露骨に背後からピリピリとした殺気が向けられたので慌てて弁解する。というか、後処理をクルーガーに丸投げしてやった。実際間違った事は言ってないし、全てを説明する責任は俺には無い。
クルーガーに言及したこともあり、一先ず話はそちらに聞けば済むと納得した様である。
「・・・助けてくれた恩がある。今回は私の胸にしまっておこう」
「そりゃどーも。さ、早く乗った乗った」
「・・・今回だけだからな」
乗り込む最中、ジットリした横目で言われる。二度も念押ししなくたって分かってるって。
「念押さなくても聞こえてる。それと後はこの女も持ってってくれ」
「・・・誰? この人」
何故か気を失った状態で俺に背負われている正体不明の銀髪の女。そう言うのも当然だろう。
俺はヘリの床にゆっくりとユリアの身体を横たわらせる。すると彼女の纏う戦闘服が露わになり、得心した顔で肩を竦めた。
「そういう事だ。多分、実行犯側唯一の参考人になる。苦労して取っ捕まえたんだ、無事に送り届けてくれよ」
「分かった。責任を持って運ぶよ」
頷き得物を置くと、ユリアの身柄を機内に引き摺り込むライト。それが終わるとヘリアントスの身体にシートベルトを装着させて、いよいよ離陸準備が整う。
「・・・本当に乗っていかなくて良いの?」
「問題無い。ブリッツにはよろしく伝えておいてくれ」
「ん、分かった。それじゃあ皆、気を付けて」
ライトは頷くと機内の座席に座る。俺達も機体から離れると、間もなくヘリはローターの回転数を上げて離陸。2km先のブリッツの元へ飛び立った。
飛び去ったヘリを見送ると、45達は俺に向き直る。
「さてと・・・ようやくお仕事も片付いた事だし、さっさと帰ってシャワー浴びて寝たいところだけど、レイ達はどうするの?」
「スケアクロウと合流した後は、乗ってた車の残骸を回収してから帰るつもりだ。本格的に日が出てくると動きにくくなるしな」
ロケラン食らって吹っ飛んだ為、最早パナメルカーラに廃車以外の道は残っていない。
とはいえ、車載AIの『
元々車体の真下で爆弾が吹っ飛んでも自走可能状態を保てる様設計されており、その性能を担保する為に車の各弱点部には強固で軽い素材で拵えたシールドを装備していた。
今回の場合、それを上回る破壊力の弾を容赦なく撃ってきやがったためどうしようもなかったのだが、とにかくカルフェル本体であるセントラルコンピューターは回収する必要がある。
伊達に俺よりも長い時間を稼働して学習し続けていない。パナメルカーラは残念な事になっちまったが、今まで積んできた膨大な学習データは仮に車を移し替えたとしてもきっと役立ってくれる。
・・・そうしないと、
「車の残骸?? もしかしてオンボロぶっ壊されたの?」
「いや、壊されたのは別の車だ。・・・・・・ウチのギルマスの私物だった車でな」
それを聞いた途端、45もナインも揃って心の底から憐れむ様な顔を向けてきた。
45に至っては目の前で目を瞑り十字を切ってくれやがる。
「御愁傷様」
「どんまい、としか言えないかなー・・・あはは」
「キミ達ぁ他人事だと思って・・・!」
実際他人事だし、起こっちまったもんはどうしようもないのだが。
「・・・はぁーあ。ともかくそんなわけで、俺たちは乗り物がオンボロじゃない二人乗りのバイク一台しかない。礼にギルドで持て成すから、俺たちを送ってってくれないか?」
「報酬は?」
「生の茶葉」
「乗った。それじゃあ一緒に行きましょう。まずは車ね」
「助かる」
先に
元々俺と404のメンツは決して不仲じゃないし、というかむしろ同業としては仲の良い部類に入る。何回か仕事を共にしてそれなりに関係も深まってるし、こういう時に力を貸してくれるのは非常にありがたいものである。なんて思っていると————
「ねぇレイ? 提案があるんだけど」
「ん?」
「ギルドで
「あ???」
唐突に放り込まれた意味の分からない発言に、俺は最大級の疑問とYou何言っちゃってんの?という思いを込めて45を睨んだ。
ちなみにナインもティナも45の言葉を処理しきれず顔面がフリーズしてる。
そんな様子の周囲など気に留めず、いつもと変わらない笑みのまま続ける彼女。
「だって、今回の件があってグリフィンの株価や評価は間違いなく暴落するでしょ。何せ、現場を総括する立場の上位士官が拉致された上、自社の管轄地でライバルPMCによるテロ攻撃が起こって死傷者多数。おまけに実行犯を招き入れたのはまさかの指揮官本人とその取り巻き達。ガバガバ過ぎて、私がクルーガーの立場だったらこの時点で夜逃げ考える位にはまあ面倒臭い状況じゃない? こんな不祥事起こした訳だから、当然監査とかもかなり深いとこまで入ってくるでしょうし。
要するに、グリフィンが404小隊を生かしておける状況をキープできるのかってなった時、私としてはしょーじき全然希望を持てないのよねぇ・・・。私たちだってお仕事でやってる以上、沈みそうな泥舟と運命を共にする気も無いし。
それだったら、同じ裏稼業でグリフィン、っていうかクルーガーとも繋がりがあるレイのところに厄介になるってのは、切れるカードの中では悪くない選択肢じゃないかって思うのよ。クルーガーから見ても縁を切ったとはならないし、向こうにしても表に出せないものは監査が届かない”外”に避難させた方が都合良いでしょ?」
というごもっともらしい言い分を連ねる45。確かに、彼女の言い分は現状を正確に認識した上での発言である。
45の言う通り、今回の一件でグリフィンがやらかした不祥事は大別して3つ。
まず、上級代行官という上の役職に就く人材をまんまと拉致された事。
管轄内で大規模なテロを起こしてしまった=防げなかったこと。
そして最後に、テロは敵単独の行動ではなく、他でも無い地区の指揮官自身が敵勢力を招き入れてテロの準備を手助けしたということ。特に3つ目はグリフィンにとって最低最悪の大スキャンダルだ。
この裏切り行為によって、何の関係も無い民間人に多数の犠牲者が出てしまっている。よくある賄賂だなんだの汚職事件とは天地の差がある重大事項。恐らくの確定事項として言えるのは、まちがいなくハロルド・フォスターとその一族は処刑、その他近しい連中も一生豚箱暮らしになるってところか。或いは書類上死んだ事にしてクソみたいな僻地で一生飼い殺しにするとか。ま、到底それだけで責任取り切れる被害じゃないが。
当然、こうなった以上は領地管理を委任してる新ソ連政府だって出しゃばってくるだろうし、ライバルPMCや敵対的なマスコミはここぞとばかりにグリフィンを叩く。会社としては三番目のスキャンダルはなんとしてでも隠し通したい所だろうが、政府が出てきた時に完璧に隠し通せるかは疑問が残る。個人的には最初に全部曝け出した方が、後で実はこうでしたとバレるよりよっぽどダメージは少ないと思うが。
ともかく、一番目と二番目に関してはグリフィンに否定や隠蔽する手段は無い。元々がマッチポンプのために仕組まれた誘拐劇だ。多分奴は人を集めてヘリアントスが拉致された事を公表してる筈だ。布石となるきっかけをより多くの者に見られてる方が都合が良い。誤魔化す事は不可能だろう。
グリフィンは浴びせ掛けられる数多のバッシングを、ただ首を垂れて受け止め続けるしかない。それに監査の手も、元々の監査役だけじゃなく第三者委員会だのなんだのと大々的に組織され、チリの一つすら摘み上げる様に容赦無く追求されていくだろう。
つまるところ、この一件がグリフィンという会社に齎す影響は計り知れない規模であるということ。一瞬でも舵取りを間違えればあっという間に倒産しかねない、一寸先も見えない暗闇で綱渡りするような局面を歩む事になる。
そんなところにもし万が一・・・例えば、監査の手が入った時に役員が自分可愛さにゲロって404小隊の存在が露見しようもんなら、所属人形は全員強制的に
おまけに、小隊自体が公表不能の作戦を遂行するための秘密部隊であるため、世間にバレてしまったらグリフィンは再起不能になる。グラついてる柱にトドメを刺す事になる。
以上の背景事情を鑑みれば、404小隊は一時的にグリフィンを離れた方が良いという彼女の言い分にも納得出来るところはある。戦力面で見ても優秀だし、裏工作に慣れてるのもデカい。何も考えなくて良いなら今直ぐ欲しい人材だ。だがな。
「言いたいことは分かったが、どのみち俺一人で決められる事じゃない。ウチに着いてから改めて話そう。どうせ決断は早めに下さなきゃいけないだろうし」
「おっけー。前向きに検討してくれると嬉しいわ」
「それに関しては何の確約も出来ないとだけ言っておく」
「ケチ」
「無茶言うな」
そんなやり取りをしつつ歩いていると、前方からローター音がこちらに近付いてくる。
空へ目を向けると、丁度基地へ戻ってゆくヘリが頭上を飛んでいった。
「・・・お疲れさん」
「何か言いまして??」
「うぉあっ!!?」
「ひゃあっ!!?」
ブリッツ達を見送った矢先、誰もいない筈の真後ろから相棒の声が聞こえて飛び上がるくらい驚いた。
驚かした張本人も俺の叫び声に飛び上がるくらい驚いた。
予期せぬ再会に心臓が激しく鼓動を刻む。荒い呼吸を落ち着けることしばし、胸に手を当て同じ様に息を整えてるスケアクロウに言った。
「あぁー、心臓に悪い。脅かすなよ」
「そんなに驚くとは思いませんでしたもの」
「・・・ふぅー、まあ良いや。キミもお疲れさん。ありがとな」
「・・・いいえ、どういたしましてですわ」
徐に握り拳を作った左腕を彼女に向けて突き出す。
それを見て意図を察したスケアクロウも、右手の握り拳をコツンとぶつけてきた。
ようやっと、ほんっとうにようやっと、山場をなんとか超えられたのだ。
日が上り、廃れたスラムを真っ白な光で照らしてゆく。・・・俺には眩しすぎる光だ。さっさとズラかろう。
周囲の警戒は怠らずに、けれども先と違い鬱屈した気持ちではなく冴えた感覚で歩く事もう少々。
大分火が収まったパナメルカーラの元へとやって来た。・・・変わり果てた車の姿を目にした瞬間、澄み渡った開放感が一気に絶望に塗りつぶされる。
「・・・うわぁ」
「あらまぁ・・・」
「なんてことですの・・・」
「うへぇ」
「・・・・・・・・・だはぁーーーあ」
何度吐いても消化しきれないクソでかいため息が漏れた。
やーっべ、どうしよう。てか、どうしようもねえよこれ。中身のカルフェルまで死んでたら本当にどうしよう。
「・・・私、こんな時の為に一応投げ込むタイプの消火剤・・・っていっても試作品だけど、使う?」
「・・・使わせて頂いても?」
「どうぞ?」
「・・・ありがとう」
45はストレージから消火剤を3つ取り出すと、その内一つを俺に手渡した。
見た目は全体を青く塗られた500ml程のボトル。ラテックスに近しい質感で、光を受けるとテカる。持ってみると中身がクニャクニャ動く感触。力が加わるとその部分が変形するが、目的上ガワの素材は外からの力に強くない筈なので程々に。
俺は徐に車に近付くと、燃え続けるエンジン近辺に向けて消火剤を投げた。硬い金属の塊にぶつけられた消火剤は弾け、その瞬間中身の化学反応によるものか、消火剤が勢い良く爆発。周囲の空気を吹き飛ばすと同時に瞬く間に炎を消しとめてしまう。
残骸となった車体のシャーシには消火剤らしき白い薬液が撒き散らされ、同時に破裂した際の爆風によって俺の体前面にも少なくない飛沫となって飛んできた。
・・・想像よりデカかった爆発に、ビチャビチャになった俺含め皆呆気に取られてしまう。ついでに言うとバイザーの視界も飛んできた白っぽい液体がトロトロ垂れていく様が描画されてしまい、それが気持ち悪い物を連想させて益々気分が下がった。
「・・・なんだコレ?」
「炭酸カルシウムに薄い塩酸、それと燃料系や可燃物の燃焼を止める強力な消火剤。”例の技術”を使ってるから、見た目や実際の重さよりもぎゅっと詰まってるってペルシカが言ってたわ。・・・・・・その、ここまで吹っ飛ぶとは思ってなかったの。ごめんなさい」
そう言った45、ナインやスケアクロウ達の前髪やら服にもポツポツと飛沫が飛んできたのが見て取れた。
申し訳無さそうに召喚したタオルを45から受け取り、薬剤まみれになった顔を念入りに拭き取りながら口を開く。
「・・・お互い様だ、気にしてない。要は発生させた二酸化炭素で火元周辺の酸素を追い出しつつ、消火剤もぶち撒けて根元から無理矢理火を止めるってワケか。しかもストレージ技術を利用してるから、見た目よりもかなり効果は高いと」
「そういうことみたいね。改善点も見つかったけど。さ、火も消えた事だし早く探しましょ」
「んにゃ、それは帰ってからで良い。スケアクロウ、キミのストレージに仕舞ってくれるか?」
「これごと持ち帰るんですの?」
なんで態々廃車を丸ごと持ち帰るのか、そう言わんばかりの怪訝な顔つき。
「持って帰らないと何言われるか分かんなくてな。雷落ちるのは確定だが、せめて少しでも威力は削ぎたい」
「はぁ・・・そういうことなら」
スケアクロウはパナメルカーラに手を翳し、頭に着けたゲーガーのストレージに車体を収納する。
残ったのは車が焼けた後の黒焦げになり、更に滴ってきた消火剤に塗れた土くれのみ。一応仕舞い残しが無いのを確認して、45に向き直る。
「おっけーね。行きましょ」
そうして彼女の先導で歩くこと暫し。先にハンヴィーの元へ着いて警戒しながら待機していた416達と合流。遠目では分かりにくかったが、よくよく見ると周囲のトーンにそっくりな迷彩柄の無骨な車体が瓦礫の中に紛れて止まっており、さらに実際に周囲の煤や汚れなども意図的に付着させる事でより目立たない様工作されている。出発は45の指示を待ってというつもりだったのか、カモフラージュは車を降りた時のままのようだ。
45はこの場に揃った全員を見渡して口を開く。
「416たちには言ってなかったけど、私達はこれからレイのギルドに一緒に向かうわ。ちょっとグリフィンのお先がよろしくなさそうだから、ウラの私達は一旦退避するって感じで認識しておいて。何か質問ある?」
チラリ、俺の顔を見て416が手を挙げる。
「レイの顔見た感じ確定じゃなさそうに見えるのだけど、私の気の所為かしら?」
「気の所為じゃないわ。だって今日突然起こった事だもの、これから話を通すのよ」
「断られたら?」
「その時はフリーで動くしかないんじゃない? 私たち、そこらのへっぽこフィクサーよりはよっぽど動けるし」
45の言い分を聞き、416も仕方無いと腹を括ったらしい。とにもかくにも、たった一日でこうなってしまった以上はその中で出来る事をやるしかない。
「・・・行き当たりばったりだけど、仕方無いわね」
「ふふっ、物分かりの良いメンバーは大好きよ♪」
「今すぐ殴らせなさい」
煽る様な小憎たらしい笑みを返した45に、一瞬でキレ顔にトランスフォームし拳を構えた416を手で制す。
「ともかく先ずは動こう。じゃなきゃ始まらないぜ」
と言うと、二人顔を見合わせ拳を収める。それを見届け、改めてハンヴィーの偽装を解こうとした所へ、俺たちの端末に着信があった。対象者はこの場にいる全員。バイザーにはアインスの名が発信者として表示される。
・・・走り出してから報告を兼ねた連絡をしようと思ってたが、その前に向こうから掛かってきた事になんだか嫌な予感がしてきた。
だって、向こうはこの場の7人全員を送信先にしている。つまるところ、端末を通じてバイザーの視界から今誰が俺の側にいるかを把握してる訳だ。
今まではナビゲーターにその処理をさせてたが、彼女は既に俺との繋がりは切れている。となれば、空いた枠にギルドからアクセスして状況把握に使うのは当然の成り行きだろう。
ということはだ。
「・・・どうした」
『全員無事みたいね。皆、先ずはお疲れ様。今さっきクルーガーから連絡があって、例の特殊部隊の指揮官から人質救出と敵指揮官捕縛の報告を受けたって。アンタの事もチラッと言及してたみたいで、とても朗らかな顔してたわ』
「あぁ、そりゃ何よりだ」
この時間からするとブリッツは基地に着いて直ぐに報告を入れたのだろう。クルーガーとしても、肩の荷が下りてホッとしたってところか。
『で、ここからが本題なんだけど』
「あぁ」
『アフターサービスで、スケアクロウとUMP45にそこの基地に向かって欲しいの』
「はぁ???」
「私も?」
なんじゃそりゃ。側から見りゃ敵対してる勢力の戦術人形であるはずのスケアクロウをグリフィンに送れ? なんでそんな事を。
45も45でキョトンとした顔で俺たちを見る。まさかズラかろうとしてた矢先に当の社長自ら仕事を任されるとは思っておらず、どうしたものかといった顔になる。
とその時、スケアクロウに指示していた事を思い出した。
「そういえばスケアクロウ、ユリア・リドヴィツカヤのナノマシンはどうだった?」
尋ねると、彼女は即座に首を振って答える。
「体内に存在するのは確認出来ました。けれど、本格的にハックを試みたところにあの女が出てきたものですから・・・」
加えて言えば、ヘリアントスに見えない様に
「オーケイ、ありがとう。アインス。要するに重要参考人の自殺防止に手を貸せって事だな?」
『そう言う事よ。聞いた話じゃ、戦闘した兵士全員に証拠隠滅用のナノマシンが入ってたって言うじゃない? せっかく捕らえたのに死なれると困るからってね。その縁でUMP45にも協力する様
「うっそでしょ」
『現実よ。諦めなさい』
にべも無くピシャリと言い切られ、露骨に嫌そうな顔で全身を脱力させる45。
そんな彼女の様子など露知らずといった風にアインスは続ける。
『彼女に死なれたら
「・・・待て。本当に誰も何もかもっつったか? 加害側は、スコーピオンズの本社とかはどうなってんだ? 流石にこの規模の戦闘が部隊だけの独断なんてことはない筈だ」
アインスの口ぶりに含む物を感じ、そこから推測出来る事態に頭の片隅が痛み始める。
『・・・実はね。犯人がスコーピオンズかもって目星がついた段階でクルーガーから連絡貰っててね、フォックスのツテで現地を活動エリアにしてる情報屋を雇ってたのよ。もし状況が悪くなれば何かしら動きを見せるかもしれないから。で、その人曰く午前3時ちょっと前あたりに、役員達が通勤に使う
そう言って僅かなノイズが鳴る。入力をマイクから向こうのデータ端末に切り替えたのだろう。数瞬と待たず、情報屋が傍受した音声とやらが再生される。
『————が突然死したと連絡が入って来てみれば・・・これはどういう状況なんだ? 誰か分かるか?』
『連絡を寄越した張本人までが横たわってる状況・・・痴情の絡れかね?』
『んなわけなかろう。社長もこの秘書もそんなタマじゃない。彼らも我々と志を同じくする者なのは皆も良く分かってる筈だ』
『分かってる。タチの悪い冗談を言ってすまなかった。だがな・・・この状況だけを見たらそう取れるのも無理無いと思わないか』
『・・・二人揃って眠る様に死んでいる。苦しみといった物は伺えん。毒でも飲んで心中したとも取れる。真実は定かじゃないが』
『・・・・・・分からないな。だがいずれにせよ、CEOが死んでしまったのは我が社にとって由々しき事態だ。そしてその情報を持っているであろう唯一の証人も・・・』
『とうの昔に召されておる。これでは真実を追うのも難しいかもしれぬ。とにかく、極秘に現場検証と遺体の搬出を行おう。検死しない事には何故死んだのかも分からぬ』
『賛成だ。・・・とりあえず、直轄の警察と鑑識の連中を呼ぶか』
『うむ。その後の発表については議論した上で改めて行うとしよう』
『よし。同士諸君、それで異論は無いな?』
『『異議無し』』
『うむ。では早速動こう』
プツリ
録音データの再生が終わり、回線が再び切り替わる。
周りを見やると、録音を聞いてた全員苦い顔を浮かべている。
かくいう俺も似たようなツラ構えだろう。どうやら、事は思ってるよりもずっと大きな何かが裏で動いてる様だ。
「・・・聞き間違いじゃなきゃ、CEOが死んだと聞こえたんだが?」
『安心しなさい、誰が聞いてもそう聞こえるわ。
この話はまだクルーガーには伝えてない。当たり前だけど、現状スコーピオンズ社からの声明はまだ出てないし、盗聴しただけだからまだ確定情報とは言い切れないからね。けどまぁ、事実として役員の車ほぼ全部が日も出てない未明に本社に集まってる訳で、アダム・リドヴィツカヤとその死に際を知ってるであろう秘書が死んだのは多分事実でしょうね。目的は恐らく————』
「重要な証人の口封じ、か」
俺はスコーピオンズの兵士達を思い返す。
死ねば体内のナノマシンが発火し、死体も何もかもただの燃えカスにしてしまう。徹底的に人としての証拠を残さない戦いに身を投じた訳は、自分達がスコーピオンズの関係者だと悟られない為。
その事実が露見すれば、最悪グリフィンとスコーピオンズで戦争になりかねない。あくまで一方的な復讐を望む彼らにとって、そうなることは絶対に避けたいから。
しかし、実際に戦闘する者だけがこの事実を知っているかと問われれば答えは否。自社の戦力や兵器を派遣する以上、現場クラスより上の経営陣の誰かしらは絶対に認識している筈。ということは、CEOであるアダム・リドヴィツカヤが死んだのはそう言う事なのだろうと自ずと分かる。側から見た時、事が露見した時の事を憂いて自殺したと見れる。真相は闇の中と。
・・・そんな単純な話じゃないのは、タコ女が出てきた瞬間分かった。
結局、奴らの狙いが一体なんだったのかは見えていない。が、わざわざ新興の武器商人を焚き付けて武器を運ばせ、同時に別ルートでカルト教徒にも武器を渡し、挙句ヘンブリーの件でやって来たブリッツ達を招き入れた後、スコーピオンズの武装蜂起を起こさせた。そして最後にはスラムにまで出張ってきて、人質のヘリアントスはスルーでブリッツとの戦闘に注力・・・実際の結果に対して割いた労力や金が全然割にあってない、考えれば考えるほど不自然な構図だ。おかげで何を真の目的に暗躍したのかが全く見えてこない。腹立たしい事に、パズルを完成させるにはもっと多くの
————そしてそれを持つであろうアダムが死んだ。恐らく、自ら選んでではなく、第三者の手によって。
・・・考えてみれば、この一件は筋が通っている様で僅かな違和感が散りばめられている。
グリフィンとの管轄地争いで不利な場所を押し付けられ、それから今日に至るまで苦労を強いられてきた。その痛みと苦しみを味合わせる為の蜂起だとユリアは言った。
確かに、長年積もった憎悪がある時何かのきっかけでついに炎を上げた、そのため彼女たちは文字通り決死の攻撃を行なったと、一応の筋書きは通る。グリフィンとスコーピオンズの関係は長く生きてるやつほど知っているしな。
じゃあ
そう考えた時、候補は絞られる。
仮にタコ女やその面々が事前にアダムと接触していたのなら・・・この一件を起こすための戦力を求めていたとしたなら、グリフィンに恨みを持つスコーピオンズは都合の良い駒となる。
故に、スコーピオンズが劣勢になるや否や送り込んでいた伏兵で証拠隠滅を図った、というのも一応は辻褄が合う。現場を見てないから確実な事は何も言えないが、こうしてタコ女が姿を見せてまで動いている以上、完全に無関係とは考えにくい。
『それと、ね』
「・・・まだ何かあるのか?」
何やら言いにくそうに告げるアインス。声色から読み取りにくい微妙な雰囲気に、俺は先を促す。
『・・・そもそもの発端となったヘンブリー・ステインだけど』
「ああ」
『彼・・・勾留されてた独房の中で死んでるのが見つかったそうよ』
「————なんだって?」
ヘンブリーが死んだ? 何の冗談だそれは?
『まだ司法解剖はされてなくて正確な死因は不明。けれど遺体に傷等は無くて苦しんだ顔でもなかったというから、恐らくは毒殺。つまり、その時点で独房に入れる全職員が容疑者ってところかしら』
「・・・ヘンブリーも奴らに利用されてた一人ではある。だけど所詮はありふれた武器証人だろ?」
そう。体良く使われたとはいっても、あくまで武器商人としてはまだまだ駆け出したばかりなのだ。消えたところでウラに与える影響力はたかが知れてるし、情報だってそう多くは持ってないだろう。むしろ奴らからすれば、下手に間者を忍び込ませて手を掛ける方がよっぽどリスクがある。バレればそいつを通して別の糸口が見つかる可能性があるんだから。
つまり、そのリスクを取ってでも奴らにとってヘンブリーを殺す必要があったのだ。・・・何のために?
「・・・一応聞く。ヘンブリーが死んだ時の監視カメラは?」
『さーてね。付いてるだろうし映像も残ってるでしょうけど、そこは聞いても教えてくれなかったわ』
「あぁ、だろうな」
『ともかくそんなわけで、アンタ達が捕まえた指揮官の女を失う訳にはいかないの。お疲れのところ悪いんだけど、早速基地に向かってくれる? 出迎えは二人の顔知ってる人にやらせるって言ってたから、そこは安心して』
「・・・りょーかーい」
「分かりましたの・・・」
45とスケアクロウはげんなりした顔で肩を落とすと、徐に俺たちとは逆方向に向き直る。
そしてスケアクロウが手をかざすと、ギルドから乗ってきたバイクが具現化される。で、もう一度こちらをチラリ。
さっさと帰りたいオーラを漂わせるが、理由が理由なので彼女にはもう一働きしてもらわないといけない。俺は目を閉じ首を横に振る。二人揃って大仰な溜め息を吐いた。
二人は互いに顔を見合わせると、覚悟を決めたのか少し気怠い顔でバイクに跨り、走り去っていった。
俺はそれを見送った後、呟く。
「・・・奴ら、何が目的なんだ?」
狙いが分からない。ヘンブリーも、この地区のことも、一体何を目指して展開させたのか。手掛かりが少なく、答えを見出すには足りない。いや、導き出せはするが、それが合ってるかは別の話になるってところか。
現状で分かるのは、グリフィンの社会的影響力の減少とそれに伴う地位降下。スコーピオンズは出しちゃいけない戦に手を出した事による信用と地位の低下といったところ。
5大PMCの中で2社も事件の当事者になってしまい、PMC同士のパワーバランスは確実に大きく変化するだろう。即ち、グリフィンとスコーピオンズ以外の3社が必然的に力が強くなる。
その結果齎されるものは何か。大凡碌でもない出来事ばっかり起こるのは目に見えている。最悪の最悪で、PMC同士の全面戦争にも発展するかもしれない。可能性は低いだろうが、人間の振る舞い一つでいくらでも憎悪は膨れ上がる。決して否定は出来ない。
『一つ言えるのは、事件の解決を待たずにヘンブリーが殺された事で、グリフィン上層部は
「・・・ハッ、グリフィンにとっちゃクソ面白くない事態へこれから向かおうとしてるわけだ」
身内が調子こいて敵を引き込んだばかりに、まんまと黒幕の敷いたレールに乗せられてしまったのだ。迅速に動かなきゃいけないのに、どこに情報垂れ流すかも分からないネズミのせいで慎重に動くしかない。そのせいで必要以上に時間を取られる。1秒すら無駄に出来ない状況で動きを縛られるのは、何よりも大きなダメージのきっかけとなり得る。
そうなることで奴らにとってはメリットがあるのだ。具体的にそれが何なのか分からないのがムカつく所だが。
・・・導き出せない答えを考えてても仕方が無い。どのみちスケアクロウを引っこ抜かれた時点で帰るという選択肢は無くなったので、待つ間出来る事を考えよう。
「オーケイ、状況は分かった。とりあえず後で報告書を送るが、俺たちも一旦ここに残ってスケアクロウを待って帰る。それと一つ相談がある」
『なに?』
「404小隊を一時的にギルドに雇わないかと45から提案があった。グリフィンの状況的に、ウラの特殊部隊は一旦外に出しといた方が良いという判断で」
『あぁ、そういうこと。今すぐ答えは出せないけど、前向きに検討するとだけ伝えておくわ』
「分かった。じゃあまた後で」
『気を付けなさい。最後まで油断しちゃダメよ』
「ああ、心得てるよ」
無線を切って振り返ると、何故かティナが地面に大の字になっていた。
「・・・何してんだ?」
「ん〜? つかれたからきゅーけーい。サーちゃんがお仕事終わるまで帰れないし、この機にスリープしてキャッシュ整理したいかも」
とのこと。スリープだのキャッシュ整理だのと聞くと、本当にこの子は人間じゃなくて人形なのだと変な所で実感させられる。
しかし、人形に限らずコンピューターにキャッシュが溜まってるのはよろしくないので、一旦意識を落とせるなら落とした方が良いだろう。
そしてそれはティナ以外の残った3人にも共通して言えることだ。特に・・・G11は。
「あぁ・・・それなりに頭使って疲れてんのね。キミ達はどうなんだ?」
「私はまだいけるけど・・・出来るなら一回整理した方が良いのは確かね」
「んー、私はちょっとお休みしたいかも?」
「うぉぉぉーレーイィー・・・一緒に寝よ?」
つまり、誰しもどこかしかで一旦寝たいそうで。
今のメンツでは416がまだ余裕がありそうなので、それ以外の3人にスリープに入ってもらうのが都合が良さそうである。
あとG11。上目遣い&コテンと首を傾げながら小声でお願いされると破壊力が大きい。犬みたいに撫で回したくなる。
「分かった。416、寝床にハンヴィーを借りても?」
「もちろんよ」
「ありがとう。そしたらティナ、ナイン、ねぼすけが先に中で寝てくれ。その間俺と416で周りを見てる。それで良いか?」
「分かったっ! それじゃお先に休ませてもらうね」
「あい〜・・・」
「うぇぇ、一緒に寝てくれないのぉ??」ガーン
涙目になるG11の頭に手を乗っけてやる。
「また今度な。さ、早く休め」
ということで3人を車内に寝かせ、俺と416で周囲の警戒に入る。とはいっても、先の戦闘でスラムの少なくない数の住人を殺しちまったから、俺たちの周りに人がいるかは怪しいところだが。
空に日が上る。地上は戦火による淀んだ空気が漂ってるだろうに、まるで露ほども意に介さぬとばかりに透き通った青い空。だか市街地の方へ目を向ければ、地上から上る黒い煙がそこかしこに見える。空と地で描く清と濁のコントラストが、俺の内に虚しさを抱かせる。
こんな時は一服して気分を落ち着けたい所だが、ストレージにしまったタバコを取り出す術はない。寂しい口元に気付かぬフリをして、周囲へ意識を割きつつも空を眺める。
ゆっくりと流れていく白い雲。何処までも澄んだ青い空。・・・・・・はぁ、やっぱ俺には眩しいな。
この数時間後、グリフィンはスコーピオンズ部隊を撃破。途中、ユリアを拘束した事を伝え投降も促したそうだが、総力抵抗の意思は変わらず。
ユリア・リドヴィツカヤ以外の全戦闘員の戦死を以て、R20地区の武装蜂起は終結した————
・・・えー、イントロのお話を書いてから実に1年と4ヶ月近く。遂にコラボの終わりの時が近くなりました。
コラボってこんなに長くやるもんだっけ??と思われるかもしれませんが、主に私のせいでここまで長々と伸びてしまったのです。しかも月一投稿どころか隔月投稿になったりもして・・・本当お待ち頂いてる読者の方々には申し訳ないと共に、改めて深い感謝を申し上げます。
あと一話ほどエピローグが残っておりますが、どうか最後までお付き合い頂ければと思います。
それと、是非コラボ先のSPEC氏の方も読んでいって下さい。そして感想を書いていって頂けると、私も氏も書いてよかったと思えるので是非ともよろしくお願いします。