裏稼業とカカシさん(旧題:裏稼業の何でも屋が出向く先には必ずカカシが待っている件)   作:chaosraven

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 大変お待たせしたどころの話じゃない長期間のブランクとなり、お待ち頂いていた読者の方には誠に申し訳ございません。

 やっとケリ付けられる所に来たので投稿させて頂きます・・・。


-98-"Two-up"/18 After

 

 

 

 

「・・・ねえ」

 

「なんですの?」

 

「難儀なものよね」

 

「全くですわ。色々と」

 

「色々とね」

 

 

 午前5時頃。

 スケアクロウとUMP45は、スーパースポーツと呼ばれるタイプの黒いバイクに乗り、R20地区の地下に広がる下水トンネルを疾走していた。

 理由は言わずもがな。I.O.P.社の正式ラインナップに存在するUMP45はともかく、スケアクロウはグリフィンが交戦状態にある鉄血工造の製品。姿を晒せば余計な混乱を招くと共に、彼女自身の身も危険に晒されてしまう。暴走個体とは別の個体と言ったところで、聞き入れられず即撃たれるだろう。鉄血のハイエンドモデルは、グリフィン人形と比較してそれほど単体の戦闘能力が優れているから。

 

 見えてる危ない橋をわざわざ渡る理由は無い。ということで、先程下水道を移動した際にナビゲーターから提供された地図を元に、今度は基地の真下に向けて移動している所である。

 

 なお、早くても50km/h辺りがMAXスピードで、基本は40km/h近辺での走行である。流石にレイのようにぶん回すスタイルで行く勇気は無かった。

 それと余談だが、45はスケアクロウの腰に腕を回して抱き着く形で密着しての同乗だ。

 

 

「ところでさ」

 

「なんですの?」

 

「アンタがレイを気に入った理由を聞きたいんだけど」

 

「藪から棒になんですの?」

 

 

 唐突な質問に面食らうスケアクロウ。チラと左のミラーを見やれば、そこには小憎たらしさが同居した愛嬌ある笑みの45が。見なかった事にして前を向く。目敏く察知した45がへその辺りの肉を摘んだ。

 

 

「————ゅんっ!?」

 

 

 前のめりに車体に跨っているため、体型に拘らず腹の辺りの皮膚は自然と集まる。そこを摘むという予想もしてない新手のちょっかいに、息がすり切れた様な何とも言えない悲鳴を漏らしたスケアクロウ。驚きのあまり少しバランスを崩しかけるが、重力操作も利用して何とか立て直す。

 

 

「こたえてよ?」

 

 

 敢えてミラーに映る様に頭を傾ける45。妙に不満げというか不機嫌そうな顔をしており、言うまで逃がさないという内心を表していた。

 一方スケアクロウも、唐突に体を触られて機嫌を損ね始める。

 

 

「いきなり他人のお腹を摘む様な無礼者に答えることはありませんわ」

 

「手厳しい」

 

「貴女の悪戯でコケそうになりましたの。大人しく乗ってなさいな」

 

「いーじゃない。減るもんでもないし」

 

「お黙りなさい。大体、そういう貴女こそ何故レイに気を向けてるんです?」

 

「話したくないわ。私と、レイだけの・・・大切な記憶だから」

 

「————は???」

 

 

 

 -----

 

 

 

 あれから暫し無言のまま走り続けた二人。やがて基地の真下にある連絡階段まで到達するとスケアクロウはバイクを仕舞い、入り口を指で指し示した。

 45は先程基地が敵の侵入を許した事を鑑み、念のため自らの得物を構えながら扉の前へ。スケアクロウが分厚い防火扉をゆっくり開き、45が瞬間的に隙間から中に入ってクリアリング。異常なし。地上へ続く階段があるのみで、人の気配は無い。

 

 

「クリア」

 

「センサー類にも反応ありません。行きましょう」

 

「ええ」

 

 

 先の発言が尾を引いてるのか、事務的に冷たい声色で淡々と告げ上っていくスケアクロウ。一方の45も特に気にした様子は無く、普段通りに武器を構えながらコツコツと階段を上っていく。

 

 そのままの状態が続くこと数分。地上階と通ずる扉を視界に捉えた所で通信が回復。二人に無線が入る。

 

 

『お二人ともご足労ありがとうございます』

 

「あら、ナビゲーターじゃない」

 

『どうも。そちらから見えてる扉を開けて基地に入って下さい。非常用の避難通路ですので、第三者に見られる事はありません。案内役の方が待ってますので、以降はその方に従って下さい』

 

「おっけー」

 

「分かりました」

 

 

 通信が終わった所でちょうど階段を上りきった二人は、扉を開ける。

 そこには白衣を纏った女性が一人、缶コーヒー片手に壁にもたれて立っていた。俯いた頭。前に垂れたボサボサの長い髪のせいで横顔は微かに口元が見える位。僅かに尖り、リップすら塗られていない唇からほぅっと漏れる小さな溜め息。一瞬サボりの医者かと身構えた二人だが、彼女の纏う白衣には赤黒い痕が幾つも着いているのに気付く。それは彼女が医療従事者として全力で当たってきた事の証であろう。

 事実、よく見ればその髪は少しばかりツヤが出ている。すなわち、彼女は気が休まる暇も無い状況をずっと戦い抜いたということ。

 

 一息遅れて扉が開いたことに気付いたのか、女医はゆっくりと顔を上げて二人を見る。

 その時45は彼女によく似た人物を連想し驚く一方で、医者は残ったコーヒーを一息に煽ると頬をピシャリと叩き、打って変わって明るい声で言った。

 

 

「やぁやぁ待ってたよ。ナビゲーターから話は聞いてるよん。それと貴女は初めましてだね? 私はアフィニス、グリフィン系病院の医者だ。それじゃ挨拶も程々に早速行こうか。時間が限られてるから、疲れてるとこ悪いけど協力してね」

 

「へ? ぺ、ペルシカ?」

 

「行きましょう。時間は有限ですわ」

 

「ちょ、ちょっと!」

 

 

 疑問に答えることもなく中へ入っていく二人を慌てて追いかける。片方はペタペタ踵を鳴らしながら、片やフヨフヨ浮きながら進んでいく。アフィニスの向かうがまま暫く歩くと、上部にVIPと書かれた扉の前に。アフィニスが胸元の名札をリーダーに翳すとロックが解除され、ゆっくり押し込み開いていく。

 扉の先は最低限の非常用照明以外の一切が点いておらず、非常通路の方が明るいという本来とは逆の現象が起きていた。

 

 アフィニスは白衣のポケットから懐中電灯を取り出すと明かりを点け、暗い廊下を進みだす。

 

 

「リソースを基地の維持と医療チームに割いてる関係でね、この区画にはほぼ電気を回してないんだ。元々ここの指揮官が色々と()()()()()するために設けたみたいでね、こんな状況じゃ誰も使いやしないってわけ。おかげで、ある意味VIPな患者を隠すのに丁度よかったんだけどさ」

 

 

 そう言って、アフィニスはある個室の扉を開ける。打って変わって真っ白な光が溢れ、暗がりに慣れていた全員の目に痛く刺さる。

 

 中へ入ると、そこには1床のベッドと、それを取り囲む様に配置された複数の機械。ベッドの主は身動ぎ一つせず静かに眠るのみ。

 

 

「この女はさっきの・・・」

 

「そ。実行グループの指揮官。何も吐かずに死なれるとマズいってんで一先ず寝かせてる。けど、問題はここからだ」

 

「ナノマシン、ですわね?」

 

「うん。それをどうにかしないことには根本的な解決にはならない。だからさっさとケリ付けて自殺されないようにしたい所なんだけど・・・」

 

 

 アフィニスは横目で流し見る。

 未だ目覚めぬユリア・リドヴィツカヤは、まるで物語に出てくるお姫様の様に眠っている。しかし、情報漏洩対策のナノマシンが彼女にも投与されていることは、スケアクロウのハッキングによって判明している。

 

 即ち、いつその身が燃え始めるか分からないのだ。一つは宿主の生命活動が止まった時。ではそれ以外では? 宿主が心から死を望んだ時なのか。それとも、捕らわれたとナノマシンが判断した時点で発火するのか。仮にそうだとして、判断基準は? 宿主の記憶を参照? ネットワークに接続して? そういったあらゆる情報が不足している。

 

 つまり、時間の猶予は無い。

 

 結論に至った人形達は顔を見合わせ頷く。

 

 

「おっけー。それじゃ早速やりましょ。ナノマシンへアクセスするってなると、やっぱ首が一番血流多くてやりやすいかしら?」

 

「そうですわね。ここはどちらかがアクセスポート役になって、もう一人がハッキングするのが手っ取り早いかと」

 

「なら私が端末になるわ。ハイエンドがやる方が効率良いでしょ?」

 

「心得ましたわ」

 

「じゃあ私はその間にオーバーライド用の端末作っとくよ。万が一遠隔で燃やそうとしても阻止出来る様にね」

 

「お願いします。・・・では、始めますわ」

 

 

 その言葉に頷いた45は床に膝を着くと、ユリアの首に右手を添えて頭を垂れた。人形としての最低限の機能以外全てのリソースを開放し、アクセス端末になる準備が整った。

 スケアクロウは彼女の左手を握ると、目を閉じてアクセスを開始する。コンピューターとしてのOSは互いに異なる二人だが、ハードとして考えれば実はそこまで構造理論に差異は無い。

 そもそもがコンピューター理論をベースに大きく発展させて作られているので、メーカーが違うという点はあれどその大前提がある以上は、異なるフォーマットも置き換えて考えれば進めるのは彼女にとってはそう難しい事ではなかったりする。ハイエンドだから出来る事とも言えるが。

 

 故にスケアクロウはそのつもりでいた。

 

 

(・・・? このコード構成・・・確か、デストロイヤーにも————ッッ!!?)

 

 

 UMP45の中に、見知った()()()()のコードを見つけるまでは。

 

 どういうことなのか。UMP45はI.O.P.の人形ではなかったのか? 予想し得ない事態に混乱しかけるスケアクロウ。だがその時、45の言った台詞が頭を過ぎる。

 

 

————話したくないわ。私と、レイだけの・・・大切な記憶だから

 

 

 彼女の言葉がこの事実と関係してる? いや、偶々かもしれない。

 いずれにせよ、事が終わった後で聞けば良い。

 

 予想していなかったことではあるが、端末代わりに使うにあたって鉄血人形と共通項を持つ45はスケアクロウにとって置換作業の手間が無くなる分うってつけといえた。

 ・・・一瞬、彼女の記憶を覗きたい欲求が出てくるが、努めてそれを己の内に封じ込め、アクセスを開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Pi Pi Pi Pi Pi...

 

 端末から小さく着信を告げる音が鳴り、俺は目を開けた。

 404小隊が移動に使うハンヴィーの中。俺とティナ、404のナイン、416、G11の5人は、仮眠も兼ねた休息を交代で取っており、今は先に1時間程休んでいたティナ、ナイン、G11と入れ替わって416と共に体を休めていた所である。時計を見ると俺たちが休憩に入ってから15分が経過しており、多分416のグレード的には電脳のキャッシュクリアはほぼ終わってるだろう。人間の俺は全くもって休んだ感じがしないが。

 遮光カーテンのおかげで薄暗い車内。フルフラットに倒された座面から徐に体を起こすと、端末を立ち上げ発信者を確認する。

 

 

【UMP45】

 

 

 45から?

 はて、何かトラブルでも起こったか?

 

 

「俺だ。どうした?」

 

『他人様の携帯から失礼するよ』

 

 

 電話に出たのは45ではなくにゃははんと笑う女医ことアフィニスだった。唐突な医者の登場に面食らうが、その理由は尋ねるまでもなく相手から語り出した。

 

 

『今キミたちが捕まえた女指揮官をどうにか延命させようとやってるんだけどね?』

 

「は? え、延命? まさか燃えたんですか!?」

 

 

 思い描いたのはあの女の全身が青白い炎に焼かれてる姿。せっかく捕まえたのにと思ったが、一度点火したら燃えカスになるまで燃えるのに延命もクソも無いと思い直す。

 実際、アフィニスの言った内容は言葉の綾というやつであり、彼女は苦笑混じりに俺の想像を否定した。

 

 

『ちゃうちゃうちゃう。自殺されると困るっていうんで、体内のナノマシンをどうにかしましょって話じゃない? で、キミのパートナーとコレの持ち主が今一生懸命ハッキングを試みてるんだけどさ、まぁー難航しそうなのよこれが』

 

「は、はぁ・・・?」

 

 

 電子戦に特化した二人がアタック掛けて難航する? そりゃまた、ユリアの体内をめぐるナノマシンは随分と強固なセキュリティを有してるようで。

 立場を鑑みれば、今みたく生け捕りにされて情報が盗み出される可能性も考慮して当然だけども。

 

 しかし、現状は俺の予想とは少々異なるらしい。

 

 

『難航とは言ったけど、実を言うとハッキング自体は成功してるんだ』

 

「はい?」

 

『ナノマシン持つ者同士で繋がったネットワークならともかく、個人の体内にある機械そのものを物理的にハイスペックにするのは困難だからね。彼女のナノマシンそのものを丸裸にするのは出来たワケさ。

 た〜だね、如何せん自社開発の独自OSを使ってくれてるもんでちょっと問題が起こっててさ。具体的に言うと、遠隔から強制発火させるコードがどこに紛れてるのかが分からないんだ』

 

「ほう・・・」

 

 

 自社開発のOSとなると、当たり前だがスコーピオンズのエンジニア以外誰も見覚えの無い規格でコードが組まれてる訳だ。

 とはいえ、二人が丸裸にすることは出来てると言っているので、システムはゼロベースで全く異なるという訳では無いのだろう。ただ、ちょこちょこ既存のシステムとちょっと法則性が異なったりして作業が難航してる、といったところか。

 

 

『彼女の記憶を参照したり、強い感情の動き・・・恐らく脳内物質の分泌や体温心拍数のバイタルサインで判断するんだろうけど、とにかくその辺に関しての掃除は出来たみたいだ。

 ただ、目的上向こうから遠隔で燃やす機能も当然あるだろうし。他には実はナノマシンが公共軍用問わず絶えず電波を拾ってて、ネットから向こうのシステムに定期的に接続してるとしたら、一定時間経過で捕まったと判断して燃やすとかも考えられる。

 残念ながら、その辺の万が一の予防策にあたるタスクのコードがまだ見つかってないんだ』

 

「なるほど・・・」

 

『私らは皆、既に出来てるものをアレンジするのは得意だけど、ゼロからのプログラム作成は少々畑違いでね。出来ない事は無いけど確実性に欠ける。その点キミはパソコンのパスワードを高速で解析するソフトを自作したって言うじゃない? そんなわけで出来たらキミの力も借りたいなぁと。謝礼ついでに体の状態も診てあげるよ』

 

「ふむ・・・では俺はどのように動けば?」

 

『その説明はこの子に任せるよ』

 

「え?」

 

『どうも、レイさん。先程ぶりですね』

 

「ナビゲーター?」

 

 

 さらなる人物の登場。それももう恐らく関わらないと思ってたブリッツ達のオペレーターが出てきた事に驚く。

 しかし、アフィニスが彼女を巻き込んで俺に連絡を寄越してきた事で、俺に何をして欲しいのかを理解した。

 

 俺は隣で眠る416を起こす。

 

 

「・・・ん、なに、かしら?」

 

「おはよう416。起き抜けですまないが、ノートパソコンあるか? ナビゲーターとのコネクションに耐えられるやつ」

 

「えぇ・・・ちょっと待ってて」

 

 

 寝ぼけ眼でトロンとした瞳を瞬かせ、徐に四つん這いで助手席のグローブボックスへ向かう416。姿勢上スカートの中身が見えそうになるが、頭が立ち上がったばかりでまだそこまで意識が向いてない様なので、俺はリアガラスへ振り向きながらナビゲーターへ返事を返す。

 

 

「今416にパソコン用意してもらってる。ナビゲーターはそっちと繋げて、俺に必要なデータを送ってくれ」

 

『承知しました。お手数ですがよろしくお願いします』

 

「はいレイ。電源も今繋ぐわ」

 

「ありがとう416」

 

 

 差し出されたのは防塵防水対衝撃性を重視したゴツいノートパソコン。彼女達はフィクサーの俺とは違って戦場も主な仕事場の一つに入るため、とにかく薄型コンパクトというのは彼女らの需要には合わないのだろう。パソコンを立ち上げると、ログイン画面でパスワードを求められた為一旦416にパス。ログインが済んでデスクトップが立ち上がった所へ、俺の端末から目敏く察知したナビゲーターがパソコンへアクセス開始。コード作成に必要なデータが次々書き込まれて保存されていく。

 次から次へウィンドウが出ては消えてを繰り返し、中には幾つもの黒バックのコード画面も高速でスクロールしては消えていくのを見て、416は引き攣った顔を浮かべていたが、ひとまずは気にしない事にする。

 

 やがて必要なデータのみがデスクトップに1つのフォルダとしてまとめて配置されると、再度ナビゲーターから声が掛かる。

 

 

『お待たせしました。そのフォルダ内に必要な情報をまとめておきましたので、ご活用下さい』

 

「助かる。ありがとう」

 

『いえ、それでは』

 

 

 無線が切れるが、回線速度を見るにナビゲーターとの接続自体はつながったままの様である。

 それなら好都合だ。俺は纏められたフォルダの中から『最初に必読』と名前があるテキスト・・・中身は推測されるコードの入力法則が記載されたテキストファイルを開き、中に書かれた情報を読んでいく。いつ発火プロセスが実行されるか分からないのでじっくり見てる時間はないのだが、流し見で覚えたのが実は穴があったりすると自殺を阻止できないなんて事にも繋がりかねない。そうなるとユリアを死なせた責任が全部俺に降り掛かってくるため、緊張感を持って上から順に法則を頭に叩き込んでいく。

 

 なるほど・・・根本的なところは普及機のそれと似通った部分が多いが、細々としたところでフレーズの配置箇所や単語自体に差異がある。勝手が違うせいでコードの発見に手間取るのも分かる。むしろ、ユリアの意思で発動するトリガーをどうにかできただけでも優秀だろう。

 

 そうしてテキストの中の内容を取り込むと、次にナノマシンのプログラムを全文コピーしたファイルを展開する。

 真っ黒な画面に映し出される何百万もの行で構成されたプログラム。この中のどこかに、ユリアの意思に依らず体を燃やすトリガーが隠されている。

 

 こんな胸糞悪いシステムを作ったやつのことだ。どうせ変な置き方をしてたり、一見すると全く別のタスクを実行するのが、あるキーワードの後に置く事で全く別のタスクを実行するフレーズの一つになってたりといった、意地の悪い作り込みをしてると思われる。

 なにせ解除されたら秘密が抜け出てしまうのだから。絶対解除されない様に作り手側も全力で隠蔽してる筈。

 

 

「上等だ。やってやる」

 

 

 カーソルを一番上に持っていくと、矢印キーをひたすら連打か押しっぱなしで読み進めていく。

 

 目にも止まらぬ速さで流れていくコードの列。単純な数だけでも数百万もの文字列が縦に並んでる為、幾ら連打したところで中々スライダーは下に動いていかない。この中からデータを探し出すのは骨が折れるが、明確にどのコードがというのが分からない以上は手探りで探し出すしかない。

 

 これは? 違う。もしかしたらこれか? いや違う。

 

 気になる箇所を見つけては違うと見送るのを繰り返す。何度も、何度も、ひたすらキーを押し続けては視野に入るコードを追いかける。

 

 そんな地道な作業を続けること30分弱。クッソ眠たい中格闘し続けた俺は、間隔を大きく開けながら『TASK:○○』というフレーズが複数紛れ込んでいるのを見つけた。コロンのあとには数字が組み合わせられている。しかも、他のタスクコードのど真ん中に平然と組み込まれているものもある。

 大体数万行から数十万行に一個という間隔の為、複数紛れてるのを見つけるだけでも相当読み込まないとならない。

 

 しかしながら、プログラムの解析自体はまだ2/3といった辺り。そろそろ気絶してたユリアが目を覚ましても可笑しくない。時間が無い。

 

 

「ナビゲーター、聞こえるか?」

 

『なんでしょう?』

 

「プログラムの中にあるTASK:○○(ホニャララ)というフレーズをピックアップしてくれ。俺の方で幾つか目視で見つけたんだが、コロンの後ろが皆違うワードが入ってるのが気になる」

 

『了解』

 

 

 程なく俺の端末の方に検索結果が表示される。該当するフレーズの数は22件。

 コロンの後のフレーズはいずれも全て数字が割り振られていた。

 

 TASK:114

 TASK:101

 TASK:109

 TASK:111

 TASK:116

 TASK:101

 TASK:58

 TASK:107

 TASK:105

 TASK:108

 TASK:108

 TASK:46

 TASK:46

 TASK:46

 TASK:69

 TASK:88

 TASK:69

 TASK:67

 TASK:85

 TASK:84

 TASK:69

 TASK:33

 

 プログラムの中に配置されたこれらのフレーズ。検索を掛けてその周辺のテキストを見比べてみる。コードの先頭だったりケツだったり、タスクの中のど真ん中にあったりと、パッと見たところ配置法則に規則性は見られない。ただ、共通性を含んだフレーズが22個も書かれてるという事は必ずこれらに何かの意味を持たせている。敢えて散りばめている事から察するに、恐らくだがコイツらが目的のコードではなかろうかと思う。もちろん、現時点じゃ確定とは断言出来ないが。

 

 しかし、TASKの後の数字は何を示してるんだ?

 2桁だったり3桁だったり、同じ数字が連続していたり。考えろ。意味も無く書くわけが無いんだから、何か必ず意味があるはずなんだ。

 

 意味を持って記述する・・・当たり前だが書かなきゃ作業を実行出来ないから書かざるを得ない。だけど今みたいに覗かれた時にバレて欲しくもない。ならどうする?

 コイツらの様に散りばめて配置する、どうでも良い様なあるコードを隠しトリガーにして配置させる、或いは意味がリンクした別の文字で表記している、とかか。

 ・・・・・・考えてみろ。似た様なコードをピックアップされて羅列されれば、例えそこらじゅうに散りばめてても意味が無くなってしまう。だから書いたとしても馬鹿正直にタスクの名前を書くワケがない。少なくとも俺がエンジニアだったら別の文字に置き換えて誤魔化す。

 

 別の文字に置き換える?

 数字が何かを置き換えたものなら? 順番に表す事で意味が分かる? 単体では意味が無くなる?

 その時、俺の知識と線が繋がった。

 

 

「・・・もしかしてこの数字、ASCIIコードか?」

 

 

 ASCIIコード。

 正式名称『American Standard Code for Information Interchange』は、今から大体100年前にアメリカで制定された情報通信用の文字コードで、当時のアメリカでやり取りするのに必要なアルファベットや一部の記号を含んだ文字コード、つまりコンピューターが打ち込まれた文字を文字として認識させるためのものだ。

 二桁だったり三桁がばらついてるので、表記の仕方は恐らく10進法。それに当てはめてみたらどうだ?

 

 114は小文字のr。101は小文字のe。109はm、111はo、116はtで101は同じくeだ。

 並べると『remote』となる。遠隔・・・これは引き当てたかもしれない。

 

 58は:、107はk、105はi、108はl。これも置き換えると『kill』だ。

 

 46は.(ピリオド)、69は大文字のE、88はX、67はC、85はU、84はT、33は!(エクスクラメーションマーク)

 これらをアルファベットに置き換えると『EXECUTE!』になる。

 

 TASKの後に表記された数字は『remote:kill...EXECUTE!』を散りばめて配置する為のもの。EXECUTEはプログラムにおいては実行するという意味があるが、単語自体には実行から転じて刑を執行するなんて意味も含まれている。

 スコーピオンズにとって不都合な事が起こらない様に、タスクの実行と兵士の遠隔処刑を掛けたミーニングをさせているワケだ。このシステムを作った奴らの性根が知れる。

 

 さて、キーとなるフレーズは見つかった。しかし問題はここからが山場となる。

 

 先も述べた通り、これらのフレーズはコードの頭やど真ん中やケツと、場所によって配置されている箇所がどれも異なり規則性が見られない。

 もしかしたら此方が把握していないある法則に則っての配置なのかもしれないが、思うにその可能性は低いのではと踏んでいる。どのフレーズも配置場所がテンでバラバラというのは、それだけプログラムのメンテナンス性悪化に直結するからだ。

 機密保持を担うシステムだからこそ、バグが出て正しくタスクを実行出来ず生き残ってしまうのを最も嫌う筈。解析される可能性も考慮しなきゃいけないにせよ、一番重要なのは捕まったときにちゃんと殺せる状態を整える事だ。

 なので、これらのフレーズの前後の何処かにタスクとして機能させる為のトリガーがあると俺は読んだ。ネタさえわかってしまえば、それを探し出すのは人間がやるよりも遥かに早く確実に出来る存在に任せた方が良い。

 

 

「ナビゲーター、フレーズ後ろの数字の意味が分かった。ASCIIコードの10進法で置き換えたのを順番に並べると『remote:kill...EXECUTE!』になる。間違いなく遠隔処刑に関連したタスクだろう」

 

『なるほど・・・となれば後はそれを阻止するプログラムを作れれば————』

 

「そういきたいのは山々だが、話は簡単じゃない。このフレーズの置かれてる場所がどれもこれもバラバラで規則性が見られない。

 こんな破茶滅茶な置き方をしてるのを見るに、恐らくどこかにこれらのフレーズに意味を持たせる為のトリガーが紛れ込んでると俺は考えてる。すまないがもう一度プログラムの全文をチェックしてほしい。それさえ分かれば、仮にタスクが実行されても強制的にオーバーライドするプログラムが組める筈だ」

 

『了解。解析に入ります』

 

 

 ナビゲーターとの通信が途切れると、俺は再度パソコンに向き合いスクロールを再開する。

 既にかなりの時間が経過している。何度も言うが、時間の猶予は無い。

 

 とその時だった。

 

 

『解析完了。共通するフレーズ群の先頭末尾を括る様に『SYSTEM:11433』というフレーズが記述されていました。こちらの方でプログラムの仮想環境を構築、タスクの遂行をテストしてみましたが、やはりこのフレーズが起動キーとなっている模様です。そしてこれら一連のタスクを丸ごと削除した状態で再度実行してみましたが、全体の進行への影響は見られませんでした』

 

 

 ということは————

 

 

「でかしたっ。全部消して確定しちまえ!」

 

『了解』

 

 

 そのフレーズを纏めて消してしまえば、オーバーライドするプログラムを作らずとも強制自殺を防ぐ事が出来る。

 ナビゲーターが構築した仮想環境・・・本番環境に実装する前に、本番と同じ環境で構築したダミー上でテストして確認出来たと彼女は言った。

 

 あの戦況であのオペレートが出来た彼女の性能(スペック)であれば、戦闘終了後の現状はリソースが有り余ってるであろう。即ち、人間を遥かに凌駕する頭脳が細かく動作をチェックして問題無いと結論付けたのだ。それも、オーダーの意図を正確に汲み取る優れたAIが。

 

 であれば。

 後は書き換えたコードをユリアのナノマシンに適用させるだけだ。

 ・・・もしかしたら不具合か何かが起こって、身体に発作だの何だのの副作用が出るかもしれないが、こればっかりは彼女以外にナノマシン持ちの人間がいないので調べようがない。なるようになるだけだ。

 

 

 パソコンの画面が勝手にスクロールしては文字が消えていくのを3分程待っていると、指示した仕事が終わったらしい。

 

 

『書き換え完了しました』

 

「ありがとう。スケアクロウ、45、聞こえるか? 強制自殺を防げる様にこっちでプログラムを書き換えた。今からナビゲーター経由でデータを送る。それをユリアの中のナノマシンに打ち込んでやれ」

 

『分かりましたわ』

 

「頼んだ」

 

 

 通信を終えると、念の為変更したデータを別名保存で確定。元データと変更後の両方を俺の端末にコピーした後、パソコン側のデータを削除。電源を落とし、横でずっと作業を見ていた416に返す。

 

 

「お疲れ様。ゆっくり休んで」

 

「あぁ・・・徹夜明けのパソコン作業は目に堪えるな。一回外の空気吸ってくる」

 

「ええ」

 

 

 ハンヴィーの扉を開けると、途端に早朝の光が容赦無く網膜に突き刺さる。仮眠用に内部を遮光していたのもあって、暗がりに慣れていた目には痛みを感じる程。

 堪らず目をギュッと細め、それでも耐えきれず片手で瞼を覆っていると、右腕をツンツン突かれる感触が。

 

 

「おつかれ〜ご主人。で、このあとどうするの?」

 

「どうするのったってな・・・スケアクロウ達が戻って来ないと動きようがない。このまま待機だ」

 

「りょーかい♪ じゃあ今度こそご主人ちゃんと寝ないとねっ」

 

「あぁ・・・言葉に甘えて良いんならそうさせてもらおうかな」

 

「良いと思うよ♪ 404の皆もどのみちフリーで動けないし、どうせギルドに来るんだし、休むなら今だよっ」

 

 

 ああそうだ、完全に忘れてた。一旦ギルド預かりにするかどうかの話もしないといけねえんだった。

 完全に自分の中でスイッチが切れてしまったようで、どうにも気怠いというか眠気が一気にぶり返してきてるのだが、思えば最後に連絡してから既に2時間近く経過している。

 そろそろ連絡の一つ入れておかないとマズイだろう。

 

 俺は端末からギルドの回線を呼び出しコール。ワンコールでアインスが出た。

 

 

『レイ。あれから2時間経ってるけど、進捗はどうなの?』

 

「さっきナノマシンの中身を解析して一旦目処がついた所だ。実際にデータを移植して身体にどんな影響が出るかはやってみないと分からん。

 データ移植が終わったら二人に戻ってもらって、それからギルドに帰るつもりだ。404の件はどうなった?」

 

『ヌルに確認したら許可が降りたわ。それとレイ、伝言があるわ』

 

 

 ピクリ、反射的に目尻が動く。

 

 

「・・・・・・ヌルは何て?」

 

『代金は仕事で払ってもらう。分割のみで一括払いは認めないが無金利で勘弁してやる、だそうよ。クソ、アイツめ

 

「————だっはぁぁぁ。分かった。ってか最後何か言ったか?」

 

『いーえ? とにかく気を付けて帰ってきなさい。話はまた改めて』

 

「了解」

 

 

 通信が切れると共に、全身を更に疲労感が襲う。

 

 ぶっ壊れたパナメルカーラは防弾仕様の特別なエクゼクティブハイパフォーマンスモデルである。しかも、大戦前に造られた超希少モデル。現代では非常に個体数が少なく、市場価格はメーカーが完全受注生産で受付してたときの倍近くになっている。

 オマケにアレはギルドに置かれるようになってから、今度は世界に名だたるエンジニアだったウラカンの手によってチューンされており、防弾性を得るための装甲等も現代技術で造られた軽量かつ強化された素材に換装されていた。つまるところ、買った後も同じ車買う位の金額を投じてたということ。それを不可抗力とはいえお釈迦にされりゃ、ヌルの気持ちにも理解は出来る。

 まぁ、俺から言わせりゃロケット弾撃ち込まれて平気なサルーンはサルーンじゃなくて最早戦車だと思う。こんなこと口が裂けても言えねえが。

 

 

「・・・・・・あのタコ女、次会ったら絶対脚引き千切ってやる」

 

「まぁまぁご主人♪ 一回寝て落ち着こ?」

 

「そうね、それがいいわ。完璧な私がちゃんと貴方のことを守るもの」

 

「・・・すまんがご厚意に甘えさせてもらうよ」

 

 

 再びハンヴィーの中に乗り込み、身体を横にする。

 程なく頭を猛烈な眠気が襲い、俺は瞬く間に意識を手放した。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 スラム街の某所。ブリッツとスケアクロウが謎の女と交戦した地点より数km離れた辺り。焼け残った建物が林立するエリアにて、金髪の見目麗しい女が壁に背を預け蹲っていた。

 纏う衣服は銃撃によってただのボロと化しており、彼女のあまりにも魅惑的な肢体を顕にしている。

 

 しかし、女はそんなことは気にも留めていない。自分が裸同然であるよりも遥かに大きな要素がある。

 

 

「・・・・・・むかつく」

 

 

 先程相対した男の顔を思い浮かべる。手持ちの武器で殺せないと分かっていてもなお、自らの任務を忠実に遂行しようとするあの男。普通絶望的な状況に恐怖が表に出そうなものを、最後まで諦めない覚悟を宿した顔付きで自らを見据えていた。

 きっと自分が()()を晒して喰い散らかしたところで、命尽きるその瞬間まであの顔付きは変わらないだろう。ああいう奴はどんな理解不能な状況に出会したとて、自分を見失わずに最期の最期までやりきろうと足掻き続ける。あの男は、きっとそういう男————

 

 

 面白くない。実に面白くない。

 "兄弟"はともかく、カカシちゃんもあの男も憎たらしい。さっきはあの眼光にあてられてついついエクスタシーを感じてしまったが、後から思い返すと生意気に思えて仕方が無い。

 

 

 その時、彼女の耳が何者かの足音を捉えた。

 出来る限り音を立てない様にしているが、かと言って完全に消し切るつもりも無いと分かった。

 それは言わば、固い靴底で土を踏みしめる音。革靴の様な履物でこんなとこに来る者など、彼女の知る限り一人だけだ。

 

 俯かせてた顔を上げ、音の鳴る方へ向くと口を開く。

 

 

「・・・・・・やっほ、グリージョ」

 

「随分なザマじゃないか、ロッソ」

 

 

 歩いてきた男・・・グリージョは、ほぼ全裸に等しい彼女の姿を一瞥して目を細める。

 

 

「せっかく仕立てたスーツもボロ布同然、か。派手にやられた様で」

 

「ほんっと、容赦無く撃ち込んでくるんだもの。防弾も何もない只の布じゃあこうなって当然でしょ?」

 

「まあな」

 

 

 フン、と鼻息一つで踵を返すと、羽織っているコートを脱いでロッソへと放る。

 振り返らずそのまま歩き始めたため、慌てて立ち上がって後を追う。

 

 

「ちょっとぉ、レディへの扱いがなってないんじゃない?」

 

「命令無視して食い散らかそうとしたのによく言う」

 

「うっ」

 

 

 前を見据えたままピシャリと言われてしまい、一瞬硬直するロッソ。

 グリージョは歩みを止め、細めた横目を向ける。

 

 

「まぁいい。脅威査定は出来た。加えて情報を持った人間も粗方始末し終えた。

 フレイム・スコーピオンズは新ソ連政府によって解体され、グリフィンも落ちかけの看板を立て直すのに注力せざるを得なくなる。

 ————カーターの望む結末まで道が開ける」

 

「って言うけどぉ、カーターはどこまで利用するつもりなの?」

 

 

 その時、グリージョはゆっくりとロッソへと振り返った。

 青い瞳は真っ赤に染まっている。彼は右手の手袋を外すと柔和に微笑んで・・・指先から紫電を発した。

 

 

「もちろん使えるところまで使うさ。尤も、ヤツは此方とは別にある思惑を持った男と繋がってる。計画に支障が出ない内は黙認するが、その内此方で手を下す事になるだろう」

 

「それって・・・例のコーラップス技術を狙ってるヤツのこと?」

 

「あぁ。我々の領域へ踏み込もうとしている愚か者さ。・・・いや、我々も()()()()モノを取り戻そうとしている意味では、やってる事は彼等とそう変わらないか」

 

「ふぅん?? まぁ私にはどうでもいいわ。貴方と共に目指す未来を掴めさえするなら、ね?」

 

 

 パチンッ、微笑と共にウィンクをして見せる。

 グリージョはフッと小さく笑うと、またも踵を返し歩き始めた。懐から携帯端末を取り出し、右手からは紫電の光を発しながら。

 

 

「大丈夫? 覗かれない?」

 

「心配無用。たとえ相手がスパコンだろうが量子コンピューターだろうが、俺の(ネット)は決して覗かせはしない。むしろ、網に飛んできたのを喰い散らかしてやるさ。

 それに・・・俺は元々その為に生み出された生体兵器(E.L.I.D. Soldier)だからな」

 

 

 ニヤリと犬歯を見せつけるようにそう言うと、早速端末からコールし始めるグリージョ。間も無く相手との通話が始まる。

 

 

「待たせたな。さぁ、改めて研究の成果を聞かせてもらおうか? ————()()()()

 

 

 

 -----

 

 

 

 あれから数日が経った。

 此方は二人と合流した後一旦ギルドに帰り、パナメルカーラの惨状を目にしたウラカンやアインスが思っクソ顔引き攣らせたり、かと思えば翌日近くの病院に行って身体を診てもらい(擦り傷や打ち身程度で特に問題は無かった)、そして今日・・・。

 

 自分のクルマの状態を確認したギルマス(ヌル)から連絡が来た。

 何を言われるか内心気が気じゃないが、不幸中の幸いでカルフェルはデータもシステムも無事に引っ張り出せたので、そこも加味して処分を検討してくれないかと期待している。

 

 そんでもって、ギルドのとある暗くした一室にて。

 

 

『やってくれたなレイ。不可抗力とは言え、この損失は流石にタダで見逃すワケにはいかん』

 

「・・・」

 

 

 幾重にも加工されて決して声紋分析なんかさせないぞって位の電子音声だが、それでも聞き取れた声のトーンからヌルが相当に憤怒してるのが分かった。激怒じゃない、憤怒である。

 

 

『・・・損失の補填は今後の報酬から分割して天引きさせてもらう。異論は無いな?』

 

「・・・了解」

 

『・・・フン。では早速だが、お前に直に任せたい仕事がある』

 

「・・・それ、元値から幾ら天引きを?」

 

『お前の生活が維持出来るラインだ。さて、データをそちらに送った。確認しろ』

 

 

 ギルドのパソコンに届いたファイルを開く。

 中身は地図座標と目的地、やって欲しい事を記したモノ。それ自体は普段の仕事と変わらないが、問題点が一つある。

 

 

「・・・ほぼ全域がイエローエリアで、所によりレッドエリアもある。調査対象は放棄された研究所・・・こんなトコに一体何があるんで?」

 

『そこはかつて、民間製薬企業の皮を被せて旧ロシア連邦が運営していた秘密研究所だ。研究内容は生物の兵器転用の可能性追求・・・即ち、国際条約など全く意にも介さぬ働きをしていた場所だ。

 やった事の報い故か、コーラップスの降下汚染を強く受けてしまっているがな。

 お前にはこの研究所に潜入し、中にある情報を引っ張り出して欲しい』

 

「俺に死ねと?」

 

『エースを投じてでも得たいモノがあると心得たまえ。それに・・・』

 

「それに?」

 

 

 僅かに逡巡する様な息遣いが届く。言おうか言うまいか考え、意を決したらしいヌルは徐ろに告げる。

 

 

『生前のお前の父(ギルト)がこの研究所について言及していた。私も元々はロシア軍に籍を置いていた身、そうした非人道的な研究など表に出さないだけでどこの国でもやっているだろうと捨て置いていたが・・・』

 

「・・・あの人が、研究所について何を?」

 

『存在だけでも頭の片隅に留めてほしい程度の口ぶりだった。自分が掴んだのは先に言った研究のための機関である事()()だが、とにかく何が何でも忘れずにいてほしい、とな。

 ・・・当時は私も奴が何を考えて言ってるのか測りかねていたが、先日お前が遭遇したお前の生き写しとやら、更に第三産業廠で交戦したタコ足の女と言い、今思えば恐らくこうなることを見越して予め情報を寄越していたとしか考えられん。

 ————ギルトは我々の知らない重大な事実を知っていた可能性が高い。そして関わってしまったからには、ただ手をこまねいて事が起こるのを待つ訳にはいかない。此方も手を打つ必要がある』

 

「それは・・・」

 

 

 スピーカー越しに溜め息が流れる。どうやらヌル自身もどう道を切り開くべきか悩んでるらしい。

 俺を育ててくれたあの人。俺の力はあの人が仕込んでくれたモノ。

 

 何もない所に捨てられていた俺を拾ってくれた人。俺の記憶ではそうなっている。そのはずだった。

 

 

 ——被験体015号の実験結果はどうだ?

 

 ——015号、今日の実験はこれでお終いだ。お疲れさん。

 

 ——・・・ん、んぅ、あ、あれ? もう終わったの?

 

 ——ああ! 016号達も一緒に皆で遊ぼうな!

 

 

 ドッペルゲンガーにやられた後に見た夢がフラッシュバックする。

 15号だの16号だの、ただ管理する為だけに便宜上付けた名前で呼ばれる子供。・・・子供を呼んだ男の声が、今思えばあの人の声に似てるようにも思えてしまう。いや、これは頭の中で勝手にこじつけてるだけ?

 

 

『どうした?』

 

「・・・いや、なんでもない」

 

『・・・そうか。とにかく、どう歩むにせよ手掛かりを得る必要がある。危険極まる環境ではあるが、態々ギルトが言い遺していたのにはきっと意味がある筈だ。

 必要な装備を整え、現地に向かってくれ。武器に関してはギルドが日頃世話になっているガンスミスを訪ねろ。昨日の内に話は通してある』

 

「あぁ、S10地区のとこの」

 

『うむ。ではな、幸運を祈る』

 

 

 通信が切れ、暗くなっていた部屋が明るくなる。

 光に慣れない目を細めつつ、パソコンのデータを端末に移しながらプリントアウト。役目を終えた機器の電源を落とし片付けを済ませると、刷った書類を持って一階の受付へ。

 

 

「・・・どうだったの?」

 

 

 俺を見掛けたアインスが早速声を掛けてくる。俺は黙ってカウンターへ歩み寄ると、手に持った資料を彼女に渡した。

 怪訝な目付きで資料を受け取った彼女は、読み進めるに従い険しい顔に変わってゆく。

 

 やがて読み終えた彼女は紙の束をカウンターに放ると、下手な言い訳は許さないという剣呑な視線で見据えてきた。

 

 

「マジで言ってんの? こんな危険地帯にある研究所へ忍び込めって?」

 

「ああ。ヌル曰く、あの人が生前言及してた場所らしい。ここ最近出会した不可思議な敵と、俺自身との関係のヒントがそこにあるかもしれない」

 

「だからって・・・」

 

 

 こんなの死にに行くもんじゃない。そう言ってアインスは俯き目を伏せた。

 俺自身も出来れば御免被りたい仕事だが、如何せん"自分"という存在の定義について自分でも訳分からなくなってしまっている。

 

 俺は確かに幼い頃にあの人に拾われた。その筈なんだ。

 なのに、夢で見たあの光景も己が経験した記憶の様に、朧げな実感のような感覚がある。

 

 どれが真実で、どれが虚構なのか。

 俺は一体何なんだ? この記憶は本当に俺のモノなのか?

 普通に生きてたら感じる事もないであろう、まるで哲学的な疑問が頭の中を巡り続ける。この問いに答えは出せない。何故なら情報が足りないから。

 

 それは物凄く気持ち悪い。スッキリしないのは腹が立つ。

 俺は自分の出自を知りたい。本当の、俺が今此処に立つ事になった真実を知りたい。

 

 

「・・・恐らく、俺は到底まともな生まれ方をしてないんだろう。例のドッペルゲンガーが俺の事を()()と呼んだり、ヤツの出自と俺には絶対何かしらの関わりがあるのは間違い無い」

 

「それはっ! だ、だけどっ」

 

「知る必要がある。どんな経緯で生まれてたとして、仮に俺がとんでもない化け物になる可能性があるのなら・・・」

 

 

 自分自身で()()()を付ける必要もあるかもしれない。

 口には出さなかったが、アインスはそれを察し、目を見開いた。

 続いて再び悲しげに顔を俯かせると、少しの空白の後手元のキーボードを打ち始める。

 

 

「・・・分かったわ。オスプレイで現地まで送る。ただし、スケアクロウとエージェント以外のハイエンド達は全員連れていきなさい。

 初期型の二人は防護服無しじゃ動かせないけど、残りの4人はアンタの側で戦える」

 

「あぁ。スケアクロウには俺から伝えておく」

 

「その必要はありませんわ。しかも、何故私を除け者にしようとしてますの??」

 

「ん・・・」

 

 

 馴染み深い声に振り返れば、いつものツインテールをメラメラと逆立てたお怒りのスケアクロウさんがフヨフヨしてた。お隣にはニッコニコの笑顔で両手を前に組んで佇むエージェント。姉妹揃って激おこモードのご様子。

 

 

「キミ達姉妹が汚染区域に行くには俺と同じ様に防護服を着るか、外に絶対出ない事が前提だろう。もし途中で防護服が壊れる様な事になっても困る」

 

「それは貴方にも言えましてよ?」

 

「俺が行くのは必要な事であって、それとは別に不必要にリスク抱える理由が無い。不適環境に無理に連れてかなきゃならん程切羽詰まってるワケもなし、ハイエンド達もいるし、布陣は整えられる」

 

「それに、私達404小隊もいるわ」

 

 

 横からヒョコっと顔を出したのはUMP45。その後ろにはメンバー3人も揃っている。

 

 

「デカいのは流石に厳しいけど、A級位なら私達でも十分戦える。いざとなればレイの代わりにハッキングだって出来るし」

 

「ですけど・・・」

 

 

 それでも不安は拭えない、私達も連れてけと言わんばかりの顔をする姉妹。

 俺はアインスと目を合わせ、続いて二人を見据える。視線を逸らさず此方を見返し続ける二人の様子は梃子でも動かなそうで、置いてってもテレポやフヨフヨで勝手に付いてきそうな予感がした。ドッペルゲンガーと出会した時にも後から勝手に俺の元に飛んで来た前科があるし、予測し得ない形で同行されるよりは最初から付いてきて貰った方がマシだろう。

 

 

「・・・分かった。二人も来てくれ」

 

「「!!」」

 

「ただし、防護服無しでは絶対に外に出るな。俺とキミ達姉妹にとって、外の空間は立ってるだけで身体が冒される場所だ。何が何でも絶対に外に出ない事、万が一出るにしても汚染が最小限に収まる間に留める事。良いな?」

 

 

 敢えて目線に殺気染みた覇気を込めて二人を見据える。言ったことは必ず守れ、守れないなら連れていけないと、二人に問うた。

 

 姉妹はそれでも目を逸らさず、揃って頷いた。

 

 ・・・なら、何も言うまい。

 

 

「・・・ご納得頂けた様で何より。それじゃあ、俺は例のガンスミスのとこに武器の調達に行ってくる。出発は得物の用意が出来てからにしよう」

 

「分かったわ。それまでにはフライト準備を整えとく」

 

「頼んだ」

 

 

 チラリ。アインスとアイコンタクトの後、踵を返してガレージへ。そこにはあの人から受け継いだオンボロがいる。

 

 懐から取り出したキーを握りしめる。フォーミュラ社のFのロゴが刻まれたイグニッションキーは、何年も使われ続けてスレやキズが多く付いてしまっている。

 

 ・・・もしかしたらコイツに乗れるのも最後になるかもしれない、なんて柄にも無い事を考えて、二〜三度頭を振って思考を振り払う。

 

 命懸けの仕事なんて普段からやっている。今に限った事じゃない。

 生き残る。またコイツに跨がれる様に。

 

 

「・・・レイ、今日はコイツで行くのか?」

 

 

 ガレージに着くと、そこにはハゲ頭の筋骨たくましいエンジニアことウラカンとアーキテクトが。

 

 

「あぁ。目立ちはするが、偶にはな」

 

「気を付けろよ。調整はしてある」

 

「飛ばし過ぎはダメだよ?」

 

「フッ・・・分かってるさ」

 

 

 当たり前の事を忠告してくるアーキテクトに苦笑を返す。

 飛ばす為のバイクだが、スピードに酔ってお釈迦にしては元も子もない。コイツも替えが効かない大切な存在だからな。

 

 

 シートに跨り、キーを差し込んでACCまで回す。するとディスプレイに本車とサイドカーの線画がアニメーションで表示され、両車のエンジンが赤く点滅して、『Ignition READY...』の文字が出る。

 キーをイグニッションに回してセルをぶん回す。5.2Lのハイパワーエンジンが唸りを上げて動きだすと共に、エンジンの鼓動が全身に重く響き渡る。

 

 

 ウラカンが手に持ったリモコンのスイッチを押し、ガレージのシャッターがガラガラと音を立てて上がり始める。

 

 

「道中事故んなよ?」

 

「命もバイクも勿体無いからね?」

 

「だから分かってるって」

 

 

 再び二人に苦笑いで答えると、ヘルメットを被り、目元には愛用のバイザーを装着。これで発進準備は整った。

 

 ニュートラルのままアクセルを数度捻り、エンジンの挙動を確かめる。・・・良好。流石だよ。

 

 俺は二人へ顔を向け、手を掲げた。

 

 

「行ってくる」

 

「おう」

 

「いってらっしゃい!」

 

 

 シャッターが開ききった。進路前方はクリア。正面へ向き直り、Dレンジに入れてアクセルを捻る。相棒は素直な反応で発進、俺たちはS10地区にいるガンスミスの元へ走り出した。




 エピローグもほぼほぼ出来上がっておりますので、1週間後程を目安に投稿致します。
 あともう少しだけお付き合い下さい・・・。
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