裏稼業とカカシさん(旧題:裏稼業の何でも屋が出向く先には必ずカカシが待っている件) 作:chaosraven
昔は開いても2週間とかそこらで上げられてたのに、今との差は何なのだろうか・・・歳だな()
例にもよってこの世界線にてトンデモ物理法則が働いてる事を解説しておりますが、コーラップス自体そもそもトンデモ物質だしこのくらいは許される・・・・・・よね?
「お待ちしておりました、レイ様」
「此方こそ、急なお願いにもかかわらずありがとうございます」
グリフィンS10地区居住区に建つとある複合ビル。その地下に居を構える店がある。
『カフェ&バー ピット』
表向きは文字通りの飲食店だが、実は様々な武器を取り扱う武器店という裏の顔もある。無論、レイが訪れた目的は後者である。
貸切の札が掛けられた重厚な木の扉を開け店内へ。微笑で迎える
清掃用具などが立て掛けられた通路を進むと更に扉が2つ。そのうちの1つを開けると、モダンな雰囲気の店内と大きく異なる空間に出る。
メーカー、国別に整然と並べられた数多の武器。壁面のラックに掛けられていたりガラスケースの中に配置されてたりと、見せ方の差こそあれ、どれも一目見て手入れの行き届いた品物であることが分かる。
その中央。商談をする為のカウンターの内側に、この空間の主が紳士然とした立ち姿で待っていた。
「お話は伺っております。イエローエリアへ出向かれるとか」
「ええ。流石にE.L.I.D.相手にPDWでは非効率ですので、A級相手ならなんとか出来る武器をと」
「かしこまりました」
ガンスミスは壁面のガンラックへ手を伸ばし、掛けていた真っ黒なガンケースを持ち上げるとその上に置いた。ケース一つとってもチリやホコリが見受けられない几帳面さは、彼が己の仕事に確固としたプライドを持って臨んでいる事を示している。
客として直に世話になったのは今回が初めてだが、レイは内心ガンスミスへの評価を上げる。
白手に包んだ手がケースの固定金具を外し、ケースの中身と相対する。
そこには程良く艶の消されたブラックの弾が抜かれたSCAR-Hが。数日前の戦闘で、嫌という程能力の高さを思い知らされたバトルライフル。それが今、新たな自分の得物候補として目の前にある。奇妙な巡り合わせに目を細めるレイ。
「Mk.17。SCAR-Hの方が聞き馴染みがあるでしょうか。バレルを変えれば6.8mmクリードモア弾も使える拡張性の高いバトルライフル。ベルギー製の傑作です」
レイはガンスミスに目線で触れる許可を得ると、徐に銃へと手を伸ばし、普段の得物と比べ重みのあるそれを構える。
フレームは頑強でガタツキは無い。細かな隙間を見てもチリホコリ1つ無く、この個体は隅々まで整備が行き届いてる事を証明している。
「・・・まさか、これをオススメされるとは思いませんでした」
数日前の戦闘の記憶が思い浮かぶ。
フレイム・スコーピオンズ社所属の敵兵士が揃ってこの銃を使っていた。当たれば人体などひとたまりもない強力な攻撃を放つ上に、あの戦闘では搭載されたID識別チップによって鹵獲して使う事も出来なかった。使えると思って引き金を引こうにも引けず、その結果生じた隙を突かれた時には肝を大きく冷やしたものである。
改めてこの巡り合わせに思わず口を開いたレイ。
対するガンスミスはにこやかな笑みを返すばかり。妙に何かを含む様に感じ、訝しげに見返した。
「そちらのお客様にオススメされたものですから」
ガンスミスの口から何気なく出てきた言葉にレイは片眉を上げ、続いて溜め息を。ソムリエはレイの後ろを見ており、導かれる様に振り返ると。
「やあ、久しぶりだな」
そこには影に紛れる様に佇む一人の男。戦地で共闘し、見覚えのある顔が暗がりからショールームへやってくる。しかしその姿はレイにとっては見慣れないもの。重装備も良いところな戦闘服ではなく、店の雰囲気に合わせてカジュアルにスーツを着こなした男・・・ブリッツに対し、隠す気も無いとばかりにジットリとした細目を向けた。
「・・・来ると思ってたよ」
「おっと、サプライズは失敗だったか?」
「自分の
そう言って、レイは再び溜め息を吐く。
実はピットに到着する数刻前、アインスから突然連絡が入っていた。
内容は『クルーガーがギルドの連絡先を吐いた挙げ句、アンタの居場所を教えなければウチに
要は言う事聞かなきゃ万全な戦闘態勢を整えた上でカチコミ掛けてやると脅しを掛けた訳である。しかもそれを他ならぬ
下手に抵抗すればギルドの機能が麻痺しかねないと悟ったアインスは、レイの行き先を素直に伝えたという訳だ。
なので、レイからすれば店にブリッツが来るのは当然の出来事であり、しかも居場所を聞き出した強引な手法に対して・・・包まずに言うとドン引きしている。内心、関わっちゃ不味いのと関わっちまった等と考えていたり。
そうしたレイの感情を知ってか知らずか、ブリッツは親指で背後の壁・・・カフェのある辺りを指し示しながら言った。
世間話をするには重い神妙な面持ちで。
「少し、話さないか。コーヒーでも飲みながら」
「・・・分かった。付き合おう」
「決まりだな」
「また後でお邪魔します。他にも色々と揃えたいモノがありますので。一応、必要なモノのリストをお渡ししておきます」
「かしこまりました。お話が終わる迄にはご用意させて頂きます」
商談は一時中断。二人はカフェへと向かう。
カウンターに着くなり、フィーがコーヒーを二人分差し出した。ここに来るまでの時間を予測して淹れたのだろう。完璧なタイミングだった。
まずは一口。本物のコーヒー豆を使った芳醇な香りが鼻腔をくすぐり、ほのかな苦みと共に口内に広がる。乾き気味の唇を潤すには十分だ。
「・・・お宅も俺も時間は貴重な身だ。前置きは抜きにしよう。何を話したい?」
レイは真剣な眼差しでブリッツに問う。
あの戦闘による騒動は今やグリフィンどころか新ソ連の西側近辺全体を賑わす物となっている。渦中の、それも当事者であるブリッツにも当然その影響は及ぶだろう。
仮にそれが無かったとしても、彼は現役のS10地区を管轄する『指揮官』である。日々の忙しなさは大凡レイの比では無い。
そんな立場のブリッツが態々レイの行き先を強引に聞き出し、自らの足で直接会いに来たという事は、そうするだけの理由が無くてはならない。
レイの言葉に一つ頷くと、ブリッツは懐からあるものを取り出してそれに答えた。
見た目はごく一般的なフラッシュストレージの一つ。無機質な黒い外装と、国際的に使われる規格の端子を備えたよくある記憶媒体だ。
「こいつは?」
「教会で磔にされていた人形。それから回収したホログラフィックメモリーのデータをサルベージしたものを、それに移し替えた。言っただろ、解析次第情報を共有すると」
そう言われて、レイは得心した顔になる。
レイとブリッツが初めて会った教会跡。あの場でブリッツは
とはいえ、本来なら関わる筈が無いし、関わってはいけない立場の両者。それでも世間的な
「ああ、あれか。よくサルベージできたな」
「ホログラフィックメモリーは衝撃に強いし、見た目以上に頑丈だ。破損も無かったし、閲覧するだけなら大した労力も無かった」
ブリッツはカウンターに置いたメモリーをレイの手元へ押す。
「なるほど。後で確認しとく。・・・どうせ、悪趣味なスプラッター劇だろうがな」
「・・・見るときは覚悟しておけ」
小さくもハッキリ聞き取れる声で、彼はそう告げた。
大袈裟でもなんでもない、記録されている映像には凄惨な光景が刻まれているのだろう。短い時間とはいえ、共に命を懸けて戦ったレイはブリッツのそうした機微を察した。
「————フッ、人形が潰されただけならまだマシなもんさ。だが、忠告には感謝するよ」
フラッシュメモリーを受け取ってレイはポケットにしまい、またコーヒーを一口含んだ。
「まずは、そうだな。俺たちがHVIを救出した後に遭遇したあの女についてだ」
ブリッツは端末を操作して、画面に一枚の画像を表示させカウンターに置いた。彼が着用するスマートグラスは小型のカメラが内蔵されており、オペレーターに視点を共有することでより正確なサポートを受けられる様になっているのだが、表示させた画像はそのカメラが記録した映像を静止画として切り出したもの。ブリッツが相対した、グレーのパンツスーツを纏う女である。
「思った通り、この女が裏で動いていた。教会で捕らえた教徒に確認した。この女が教徒たちを扇動し、武器を提供し扱いを教え、フレイム・スコーピオンズの侵入を手助けし、スラムの住人にナノマシンを投与したと見て間違いない」
「・・・だろうな」
それについてはお互い予想していた事なので、特に大きな驚き等も無い。最後まで良いように引っ掻き回された事実に対して、消化不良のモヤモヤが残っている位だろう。
ブリッツが口を開く。心なしか顔を伏せて。
「・・・ついでに、アンタがこの女をタコ女と呼んでいる理由もわかった」
まさか文字通りだとは思わなかった。そう小さくブリッツは呟くと、レイも同意を示す様に頷く。
人生の中であのようなとんでもない存在と出会うなど、誰も考えない。レイ自身、初めて出会した時は無我夢中で逃げるしかなかった。一度触手に絡め取られれば終わる、かと言って抵抗しようにも撃った側からどんどん再生していく理解不能の身体。
ブリッツはあくまで人としてのカタチを保った状態で交戦したが、それでも女の人外な要素を目の当たりにして動揺したのは間違い無い。
もし、あの場で本性を晒していれば————
二人の背筋が冷える。
コーヒーを一口含んで気を取り直したブリッツは画面を横にスワイプする。次に出てきた画像は、機関部が破壊されたストックレスのVector。
「銃自体は何の変哲もないただのVectorだが、マガジンは違う。アンタが見せてくれたストレージ技術を使ってほぼ無尽蔵に弾丸が撃てるようになっていた」
「弾さえあれば理論上は無限に撃てるってか。・・・チッ、あの女、やはりデータを抜き取ってやがったか」
レイの脳裏に、第三兵器産業廠の工場長室に置かれたデスクトップPCが思い浮かぶ。
デスクトップを開いた瞬間直ぐ目に付く様に置かれた動画ファイル。中身はデスクの主が喰い殺されるという、悪趣味極まりない凄惨なモノ。態々そのような真似をしている以上、レイ達が潜入した時点で中は一通り洗った後だったのだろう。
まだ公表されていない鉄血のストレージ技術が流出していても可笑しくはなかった。
「その事なんだが、幾つかアンタに聞きたい事がある」
「・・・聞きたい事、ね」
「第三兵器産業廠とはなんだ?」
レイを見つめるブリッツからは剣呑な雰囲気が漂い始める。言外にお前が知っている事を全て話せとばかりの圧力。一般人なら身の毛がよだち、恐怖からの震えが身体を襲うだろう。年齢に見合わぬ豊富な戦闘経験より来る覇気が、3人だけの店内を包んだ。
しかし、この場にいる者はいずれもそのような気に当てられるのは慣れている。レイは特に驚きも何もせず、ただただ冷静に口を開いた。
「鉄血工造第三兵器産業廠。現役時にはハイエンドの生産も行っていた、鉄血が保有する工場の中でも大きな施設だ。俺とスケアクロウの始まりの場所であり、あの事件の直後、俺たちがタコ女と初めて出会した場所でもある」
「・・・ゲート」
小声でナビゲーターに呼び掛けるブリッツ。程なく彼の端末に検索された情報が表示される。
画面をスワイプして一通り情報を見通した所へ、工場長の紹介ページでその指が止まる。徐に口を開くブリッツ。
「胡蝶事件の直後と言ったな。暴走してる鉄屑の巣に態々乗り込んだのか?」
「ああ。そうしないとウチにいる鉄血達を直す術が失われるんでね、防衛体制が整う前にデータを貰う必要があった。その結果、工場長のデスクに何かやってたタコ女と鉢合わせた挙げ句、タコ足に蹴り飛ばされて死にかけたが」
「・・・よく生きてたな」
映像で見たタコ足を思い浮かべたのだろう。頬を引き攣らせながらそう言った。
レイ自身、当時のことを思い出す度に肝が冷えるのだ。最早人外を通り越した奇天烈な怪物と初めて出会って正気を保てるのは特撮ヒーロー位だ、なんてらしくない事を呟きかけて首を振った。
「医者曰く内臓をシェイクした様な状態だったらしいね。もしまた出会したら気を付けろ。アイツのタコ足、本気出したら人の眼で追えない速さで伸びてくるぞ」
「・・・聞けば聞くほどフザけた化け物だな。仮にこの女・・・便宜上ジェーンと呼んでるが、ソイツの機嫌次第では俺は殺されていたかもしれないな」
「ああ、だろうな。何せ平気で人を
「・・・」
重い沈黙が場を包む。
ヒトの形を保った時ですら、まともな決定打を与えられなかった女。もしあの時、撤退せずに本性を見せて自分に襲い掛かって来ていたら? レイの言う事が事実ならば、それこそ殆ど為す術もなく蹂躙されていただろう。
ましてや彼の口から出た平気で人を喰い殺すという言葉。人が人を喰うなんて惨い真似は早々見ることない光景だ。道徳的にも精神的にも忌避される所業のハズが、まるで実際に見たかの様な口ぶりでこの場に発された事。しかも此処だけでなく、あの戦いの場でも言っていた。つまり、何か一つでも歯車が掛け違っていれば————
「・・・気付かない間に、とんだ綱渡りをさせられたな」
今更ながらドッと疲れが湧いてきたとばかりに、大きく溜め息を吐いたブリッツ。
「お宅が今見てる工場長、彼が奴に喰われた被害者だ。
鉄血の暴走に気付いた瞬間、僅かな生き残りと
・・・スケアクロウや生き残ったハイエンドらにとっては"父"とも呼べる存在だ。
————あの野郎、デスク据付の会議用カメラを使って、態々自爆を止めるとこから喰い殺すまでを動画に収めてやがったのさ」
「ッ」
なんだそれは。狂ってる、考えられない、ブリッツの中で言いようのない怒りが心中を巡る。同時に納得した。スケアクロウが見せた憤怒を。
「その様子だと、タコ女に対するスケアクロウの憎しみを見たんだろ?」
「ああ。俺も、似たような感情を抱えてる。気持ちは分かる」
そう返すと、得心した顔つきのレイが言った。
「そうかい。よく分かってるだろうお宅にも一応忠告しとくが、頭まで熱くしたら死ぬからな?」
「見縊るな。感情に振り回された先にある結末なんて見飽きてる」
今更言われずとも分かり切っている、そう言わんばかりの顔を見せるブリッツ。カップに残るコーヒーを口に含む。
「フッ・・・結構。それで、聞きたい事の2つ目を聞こうか?」
「ストレージ技術についてだ。アレは悪用されれば重大なテロをも簡単に実行出来てしまう危険な代物だ。事実、ユリア・リドヴィツカヤ率いるスコーピオンズも、ジェーンの手引きでストレージを知り、パワードスーツや大量の武装をR20地区に搬入していた。
あの技術には重大な危険性が含まれている。少なくともかつて鉄血が企図していたような、纏まった金を出せば誰でも手に入る様な構造は絶対に作ってはならない。
教えてくれ。あの技術を知っている、或いは運用可能な存在は何人いる?」
ブリッツの危惧している部分はレイもよく理解している。見た目は全く性質の異なる物に偽装した上で、大量の武器や危険物を持ち込む事が可能となる。ストレージ技術は彼の言う通り、それそのものが重大な危険性を孕んでいる。それをフレイム・スコーピオンズが今回の事件で証明してしまった。
この技術がどこまで知れ渡っているのか、更に広がる可能性がどの程度なのかをなんとしてでも知る必要があった。
万が一ストレージ技術を利用されてテロの被害が拡大した事が世間に露見すれば、要らぬ混乱が大規模に起こるのは想像に難くない。そしてそうなった時、グリフィンに抑える力が残ってるかも微妙な所である。
故に対応を間違えることは絶対に出来ない。その為には今時点で分かってる情報が要る。
ブリッツの考えを察したレイは、自らも端末を取り出してある図を見せた。
「まず、アレを機能として持ってるのはウチにいるハイエンドのうち、カタログに載る以前の段階で作られた
画面に表示されているのは、カタログに載っていない3人の戦術人形・・・アーキテクト、ゲーガー、そしてウロボロスの写真である。
レイはウロボロスを指で丸く囲う様に動かすと、頭部に着いているアクセサリーを指し示した。
ブリッツも見覚えのある物を確認し、頷く事で先を促した。
「で、ストレージの事を知ってるヤツだが、俺が把握してる限りではギルドにいる俺含めたメンバーとギルドマスター、それと鉄血から逃げ延びた元技術者4人、そして彼女達が出向いた先の16Labとやらにいる一部の研究員と、その辺りじゃないか?
あーあと、それ繋がりで45とナインの脚に着いてる外骨格にも機能が内蔵されてるからあの4人も知ってる」
『404のお二方については私も確認しています。基地への潜入で有効活用していました』
ブリッツの端末から聞き覚えのある女声が流れる。彼らをサポートする『ナビゲーター』である。
「そもそも工場で獲得したデータは404を通してI.O.P.に渡してるから、この時点で情報に接触出来る人物は限られる筈だ。それがどこまでの範囲になるかは俺にも分からないが、確実に言えるのは少なくともペルシカリアとかいう研究員は把握してる」
「Dr.ペルシカリアが? ・・・なるほど。確かに、彼女ならベースさえあれば如何様にも出来てしまえるか。それに鉄血から出向した技術者もいる」
「そういう事。にしてもお宅、相当その研究員を信頼してるんだな?」
「ああ。俺の戦闘服やスマートグラスは、どれも彼女が手掛けた物だ」
「へぇ? 羨ましい事で」
カーチェイスの際に借りていたスマートグラスを思い出し、レイは言葉通り羨ましそうにブリッツを見た。とても優れた代物だった為、叶うことなら是非自分にも作って欲しいと思う程には。
尤も、あくまでオモテの人間である彼女と接点を持つのは容易い事ではない。
この辺りは立場と繋がりが上手く噛み合ってのものなので、羨みこそすれど程々に話を切り上げる事とする。
ブリッツもこの話はこれで終わりと決めたのか、一呼吸を置く。そして、鋭い眼光を灯した両眼で真っ直ぐレイを見据えた。
「分かった。・・・なら、最後の質問だ」
端末を何度か操作し、ある画像を表示させる。
それが意味する事こそが、強引な手を使ってでもレイとコンタクトを取った最大の理由であった。
彼はその画像をレイに見せ付ける。
「アンタ、兄弟はいるか」
「————ッ!?」
画面に映るそれを見た瞬間、息を呑み大きく目を見開いたレイ。
映っているのは高所から撮影された映像の拡大像。最新の技術を駆使して画素の補填やデジタルノイズを効果的に除去したそれは、市街地らしきビルの上から右手を空にかざし、上空を飛ぶ
そして、男の顔は他ならぬレイと瓜二つと言って良い。ブリッツがレイに対し、ある種の疑念を抱くのも当然の事だろう。
————回答次第ではこの場で始末する、改めて自らがここに来た目的を再確認し、一挙一動を見逃さんとレイを見据えた。
しかし、レイは程無く落ち着きを取り戻すと同時に、ぐったりと椅子の背もたれに身体を預けてしまう。少々予想を外れた反応に、怪訝な顔付きになるブリッツ。
「・・・兄弟、ね。あぁ、ヤツは俺の事を確かにそう呼んでいた。事実、これだけ顔がそっくりなんだから、まあ間違い無く血縁やら色々と関係はあるんだろう、と思う」
「・・・何?」
要領を得ない不明瞭な回答に、ブリッツの眉間に深くシワが寄る。無論、レイ自身も答えられるならはっきりと答えている。そう出来ないのは、自分自身にも状況が解っていないから。
「分からねえのさ。自分が何者で、どんな経緯で生まれたのか。ヤツと出会した時、俺だって驚いた。
・・・俺は赤ん坊の時点で親に捨てられ、たまたま仕事帰りに通り掛かった育ての父に拾われて、そこで徹底的に仕込まれた後に今日までフィクサーとして生きてきた」
「なら、コイツは?」
「ああそうさ。訳が分かんねえだろう。けど、俺自身も頭ん中がぐちゃぐちゃなんだよ
ヤツと出会して、ヤツに殺されかけて、スケアクロウ達になんとか助けて貰って生き延びてみりゃ、今度は気失ってる間に見た夢でガキの頃の自分が何処かの研究室にいる様を見て・・・。
俺の記憶は何が正しい? 何が真実の記憶で、何が偽りの記憶なんだ? 夢で見たのはなんだ? ドッペルゲンガーは何なんだ? 俺は・・・何なんだ?」
「・・・」
そう言って、頭を抱えてカウンターに突っ伏してしまうレイ。彼の言っている内容をいまいち掴みきれず、ブリッツも沈黙するしかなかった。
今の独白からわかる事は、レイの出自は不明、記憶の真偽が定かではない、画面に映る男をドッペルゲンガーと称していること位。
ブリッツは瞼を閉じ僅かに思案、目を開くと何てことないようにこう言った。
「ああ、なるほど。アンタ、意外とバホだったんだな」
「ああん?」
今まで数人の知り合いにバホと呼んで呼ばれてきたレイだが、まさかブリッツからも言われるとは思っておらず、上げた頭はきょとんとした顔付きであった。
「大事なのはどう生まれたかじゃない。どう生きてきたかだ。
俺もそうだ。自分がどう生まれたかなんて知らない。だがどう生きてきたか、どう生き抜いてきたかは覚えている。それで十分だ。
アンタだってそうだろ?」
「どう生きてきたか、か」
天井の向こうにある空を見つめる様に脱力するレイ。洒落た空間には相応しくない格好だが、それを咎める者は誰もいない。
数分ほど沈黙が続くと、唐突に身体を起こしたレイは自身のコーヒーを一気に煽る。
「・・・あーやめやめ。答えが出ねえ事悩んでも仕方無いっての。見苦しい所見せて悪かった」
「気にするな。
ともかく、アンタにはこの男と味方として関わった事は無いんだな?」
「ああ」
「分かった。なら、次はコレだ」
ブリッツが端末を操作、新たなアプリケーションを立ち上げた。
ローディングの後表示されたのは、R20地区をスラムも含めた全体を高空から撮影した写真。彼がゲートと小さく呟くと、市街地に建つとある小さな商業ビルに視点がクローズアップしていく。
「ここがドッペルゲンガーの立っていた場所だ」
「ああ。それで? 何が気になってる?」
「・・・戦闘終了後、作戦記録を取るためにゲートにUACSがキャッチした電波のログを参照させていた所、グリフィンやスコーピオンズ、アンタ達のどれとも異なる周波数帯が地区の全域に展開されていた。観測データを元に改めて現地を調査。市街地には民間回線用とはまた異なる小型のアンテナを発見した。スラム街に至っては、態々瓦礫に偽装して設置している」
「・・・つまり?」
「アンテナとキャッチした電波を重ねると————」
ナビゲーターにより再び全体像に戻った地図の上に幾つものアンテナを示す赤いピンが示され、それらを赤いラインで結んでいった。
すると、そこには蜘蛛の巣の如く網目状の模様が浮かび上がる。
「————こうなる、というわけだ。市街地は元々あるアンテナを含んでいる都合上、多少歪になっているが。それでも全体的にはかなり整っている。まさか偶然こんな形になるわけもない」
「・・・あぁ、そうだな」
ブリッツの言う通り、ラインは一部で歪な線となっている箇所もあるが、それは全体のほんの一部に過ぎない。蜘蛛の巣は地区全域を殆ど歪むことなく綺麗な形で覆っていた。それはすなわち、アンテナを介して戦闘中の無線を秘密裏にキャッチして覗き見ていたということ。
流石のナビゲーターも、複数部隊のオペレートを同時遂行してる状況では逆探知にリソースを避けなかったとはいえ、黒幕と思しき存在に高みの見物を決め込まれた彼らの感情は穏やかではいられない。
「ナメられたものだ。この男は俺たちの無線を傍受し、高みの見物を決めていた。コイツが黒幕だ」
「俺も同感だ。それに、何もなくても自分で電気を生み出せるヤツなら、大した機材が無くても自分で電波をキャッチする位は出来そうだ」
「————何だって??」
本性がタコ脚の女というジェーンに続き、黒幕と見てる男がさらなる人外だと言われたブリッツ。流石の彼も唐突に放り込まれたこれには驚きを隠せず、大きく開かれた目でレイを見た。
「ちょっと待て。今何て言った? 自分で電気を生み出せる?」
「ああ。紫に光る電流を右手からな」
「・・・何でそれを知っている」
詳しく話せと示すブリッツ。自ら発電出来る存在だとどうして言い切れるのか、明確な根拠を出せとばかりの眼力である。
「根拠は2つ。先ずは初対面の時だが、ヤツは俺と似たような背丈で、出会した時の格好もただのロングコートにジャケットを着ただけ。何処かしかにバッテリーを仕込むスペースなんか全く無かったし、そもそもはっきり視認出来るほどの電流を服の内に収まるサイズのバッテリーで出せるとも思えない。これが1つ目だ。
2つ目。ヤツはロングバレルのデザートイーグルを使って、俺が撃った5.7mm弾にビリヤード出来る程には規格外の身体能力を持ってる。
よくよく考えると、自分で電気を生み出せるならそれも理屈は通る。神経を通るのは電気信号だから、自らの電気エネルギーを上手く使えば身体能力強化も可能なんじゃないかってな」
レイが述べた根拠に対し、ブリッツはいよいようんざりした顔で疲労感を滲ませる。
「・・・クモかと思えば電気ウナギだったか。お次はなんだ?ホタルか?」
彼の反応も当然だろう。
下半身がタコになる女が現れたかと思えば、自家発電出来るとされる男まで出てきたのだ。しかもその男は自ら共闘した男とそっくりで、客観的に見るとレイにも何か裏があるのではと勘繰りたくもなる状況なのだ。頭が重く感じるのも無理は無い。
尤も、彼は一瞬その考えを浮かべて直ぐに振り払った。本当にあるかどうか分からない事を考えた所で結論は出ない。レイも口にした通り、判断するには余りにも情報が少なすぎるから。
自分はグリフィンの指揮官、レイは協力関係にある
ブリッツは思考を切り替える様に残るコーヒーを飲み干し、席を立った。
「聞きたい事は全部聞いた。ありがとう」
そう言って、ジャケットからコーヒー2杯分の代金と少し余るぐらいの紙幣をカウンターへ。見上げる形となったレイが口を開く。
「帰るのか?」
「ああ。これから任務のブリーフィングがある。鉄血に対する大規模な反攻作戦だ」
大規模な、と聞いてレイは若干顔を顰める。
先の騒動のせいで、はっきり言ってグリフィンの評価は殆ど地に落ちたと言って良い有様である。企業である以上、ブランドにマイナスイメージがつく現状は一刻も早く打破する必要がある。
ブリッツの言うそれは起死回生の一手として、会社全体で取り組もうとしているのだろう。尤も彼の顔付きを見るに、事を急いて生じる不都合を懸念している様だが。
「忙しいな」
「お互いにな。あのスケアクロウの
そっくりさん? 妙な言い回しに眉を上げるレイだが、態々仕事に戻るブリッツを呼び止める程の事でもないため聞き流した。
ブリッツは踵を返して店の扉へ。戸を開けて外へ一歩出たその時、目線は前を見据えたまま呟く様に言った。
「アンタとは、またどこかで会う気がする。そこが戦場でない事を祈るよ」
返事を待たずそっと扉を閉め、ブリッツは立ち去っていった。残されたレイは目を閉じ、天井に顔を向けて閉じていた瞼を開ける。細められた青い瞳は、何処かこれからの未来に対し達観したような雰囲気を纏う。
彼は吐き捨てる様に言った。
「————その願いは多分叶わねえさ。次会う時ぁきっと、俺かお前か・・・どっちかが死体だろうよ」
皮肉めいた言い回しに、カウンターに立つフィーも一瞬眉を顰める。この地区はブリッツが管理を任された土地であり、付き合いも当然長いだろう。捉えようによってはブリッツに対する悪意ともなる言葉に不快感を覚えた様だ。
レイも一瞬の空気の軋みを聡く気付いたが、彼も彼でこの店とはビジネスでの付き合いしか無い。
フィーの機微を努めて無視し、徐に立ち上がったレイは向き直る。
「ご馳走様です。今後ともご贔屓に」
「そちらも、どうぞ
敢えて強調する様に言われたのを会釈で返すと、ガンスミスの待つ店の奥へ戻るレイ。再び戸を開ければ、リストアップしていた品物を全て揃えて待っていた。
「お疲れ様です。お話は終わりましたか?」
「ええ。長い事お待たせしました」
「いえ、お気になさらず。さて、リストにあったご注文の品です。全て動作確認を終えてあります」
レイがリストアップしたのは、主に先の戦闘で破損ないしは紛失したアタッチメントや作戦行動に必要な道具類である。
例えばライフルに装着する暗視スコープ、薦められたSCAR-Hの下部に装着するグレネードランチャーやショットガンといったサブウェポン、双眼鏡に予備で持ち歩くマガジンと弾、各種手榴弾などなど。
それらは全て積み重ねれば乗ってきたオンボロのサイドカーは完全に埋まってしまう量だったが、無い袖は振れない事を痛い程思い知っているレイ。むしろ、出向く先を思えばこれでもまだ足りないかもしれないと思っている程である。
既にチェック済みとの事だが、ガンスミスと共に自身でも改めてチェックを行う。これには説明を受けながら使い方を再確認する意図も含んでいる。
レールへの各アタッチメントの脱着、装着した後の使用感など、予め一度使う事で感覚を把握しておく。
そして一通り確認作業を終わらせた二人は品物をそれぞれの箱に戻した後、以前取引を行った地下駐車場へ何度か往復してオンボロへ運び込んだ。
「お手間をお掛けしまして。おかげで助かりました」
「お気になさらず。搬出も仕事の内ですから」
やはり全てを積み込んだサイドカーは満杯になり、人が乗れる余裕など無くなってしまった。ルーフを完全に閉じて外から見えない様にした上で、レイはガンスミスに向き直る。
「ありがとうございました。それでは、今後ともご贔屓に」
「此方こそありがとうございました。どうかお気を付けて」
レイは頷いて見せると、ヘルメットを被りオンボロに跨る。程なくキーを回してイグニッション、大排気量のアイドル音が地下空間に騒々しく響き渡る。
最後に後ろのガンスミスに振り返り会釈すると、暖機しきるのを待たずにゆっくり発進していった。
駐車場を出て暫し市街地を走る。
とその時、端末と接続していたオンボロの液晶メーターにアインスからショートメッセージが届いた。
『準備出来た。待ってる』
これで次の目的地まで向かう手段は整った。
後は自分が帰り次第、装備を整え直ぐに向かう事になるだろう。
レイは流れ行く正面の景色を見据える。市街地からハイウェイへ移りゲートを通過すると、ギアを変えてアクセルを回す。
「・・・またな、戦友」
呟く程度に放たれた別れの挨拶は、誰の耳にも届くことなく、オンボロのエンジン音に掻き消されていった。
次回
さよなら、レイ(殴