裏稼業とカカシさん(旧題:裏稼業の何でも屋が出向く先には必ずカカシが待っている件)   作:chaosraven

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 供養。


-100-"E.S."/01

 

 

 

 鉄血工造第三兵器産業廠

 

 タイ無しの黒スーツにロングコートを纏った男・・・グリージョは、工場長の執務室にて悠々と寛いでいた。専用のワークチェアに腰掛け、スラリと伸びた長い脚を組んだ姿は、まるでこの男こそが主である様にも見える。

 

 

 事実、男が手元のハンドベルを鳴らした途端、すぐさま脇の秘書室から鉄血人形が現れた。

 

 

「お呼びでしょうか」

 

「美味しいコーヒーを一杯貰えるかな?」

 

「畏まりました」

 

 

 恭しく一杯して戻ってゆく鉄血人形・・・エージェントを尻目に、グリージョはパソコンへ向き直る。画面に表示されているのは、第三産業廠の持つリソースである。

 

 

 

 

 

 

 レイ達が潜入する前、即ちルード・ジーバンが殺害された後のこと。先に潜入していたロッソはグリージョの指示により、工場長の端末にあるプログラムをインストールしていた。

 内容は端末と繋がるシステム全体の掌握を図るモノであり、当然流し込まれる側にとっては有害なもの。

 

 ところがレイが潜入した際、何故かそのプログラムだけが綺麗さっぱり消し飛ぶという現象が発生し、彼らを退けた後再びインストールし直した経緯がある。

 

 その後は誰一人鉄血人形の巣に入り込む者は現れず、工廠内のシステムを問題無く掌握。エージェントは早速とばかりに製造された一個体であり、最初から"グリージョ達を"味方と認識するように事前知識をインプットされていた。

 

 

 ところで、鉄血工造がマザーAIの暴走により人類の敵と化したのは有名な事実なのだが、本来マザーの管理は当然第三の人形達にも及ぶ。

 

 その支配は鉄血のシステム構造上非常に強力であり、事前に敵味方識別情報をインプットしたとて、いざ鉄血のネットワークへ接続した瞬間、目標とする敵対対象を強制的に書き換えられるはずのもの。

 仮にグリージョがなんの力も持たないただの仕事人であるならば、とっくに殺されていたであろう。

 

 だが現実はそうなっていない。

 むしろ、工廠に残る全ての鉄血人形達はグリージョを始めとする面々に対して従順に接している。

 

 何故か?

 

 

「使えるコマを態々全て放る理由も無い。むしろ、下手な人間よりよっぽど実用的だろうに」

 

「ご主人様のお望みとあらば、我々はどんな事でも為してみせます」

 

 

 コトリ、金箔で縁を装飾した真っ白なカップが置かれる。中にはとても香ばしいコーヒーが湯気を立てている。カップを手に取り、香りを楽しむと小さく啜るように一口。瞳を閉じたその顔には至福の余韻が滲み出る。

 

 

「・・・良い味わいだ」

 

「ありがとうございます」

 

 

 もう一口を楽しみカップを置くと、エージェントに側に寄るよう目線で告げる。

 少しばかしの困惑と恥じらいを感じさせる表情で男の元へ寄り添うと、男は手で画面を指し示した。

 

 

「さて、現状は君も知っての通りだ。

 鉄血は人間たちの手を離れこそしたが、ここにいる君たちは引き続き()()()()()()にある。だがそれ故にネットワークや資材の流通網からも孤立している。・・・ここを拠点にし続けるには手を打つ必要がある」

 

「ええ、承知しております」

 

 

 頷きと共にまっすぐ見つめるエージェント。

 ちらり、横目に視線を合わせ儚げな微笑を返すと、グリージョは正面の映像を切り替える。

 

 

「そう、手を打たねばならない。生き残るためには行動しなくてはいけない。

 元より活動しているマザーをはじめ、鉄血の本流からすれば我々はイレギュラーでしかない。彼女らにとって、我々は戦略的重要拠点を不当に占拠している存在なのだから。

 本隊が人類へ攻撃を開始して暫く経つが、私の情報網によると、グリフィンの攻撃で既に数体のハイエンドが倒されているそうだ。・・・意味が分かるかな?」

 

「・・・鉄血本隊にとって、手段を選んでいられるような状況ではなくなってきていますわ」

 

「ご名答」

 

 

 グリージョはエージェントの頬をそっと触れ、撫でる。

 革の手袋越しに伝わる仄かな体温、シルクの様に滑らかな擬皮を柔く触れるこそばゆい感触、それが男の微笑みと共に来る。乙女の人格を持つ彼女にとっては気恥ずかしさを覚える。

 誰もが分かるほどには頬を仄かに紅潮させた彼女は、一度大きく咳ばらいをしたのち、仕切り直しとばかりに真剣な表情を作って見せた。それでも、頬の赤みは完全には引いていなかったが。

 

 

「ご主人様、もう一度申し上げますわ。

 お望みとあらば、私達はどのようなご命令でも遂行する覚悟です。

 ・・・・・・たとえ、仮に鉄血本隊が此処を制圧しに来たとしても、ご主人様が敵だと仰るならば一切の躊躇なく破壊致します。

 そうしなくては私達が生き残れないのだという事は、私達も承知しておりますわ」

 

「あぁ。本隊はマザーを中心とした巨大なAIネットワークを構築しているという。此方を攻めてくる者その全てが、マザーの完全な統率下にあるだろう。仮に彼女達がここを訪れた時点で、ハナから話し合いが出来る相手ではない・・・。同朋殺しを任せるようだが、やってきたのなら全力で叩き潰してくれたまえ。・・・出来るね?」

 

「はい。ご主人様のお望みのままに・・・」

 

「・・・フッ、良い子だ。それでは、他ならぬ君にお使いを頼もうかな」

 

「?」

 

 

 流し目に含み笑いを浮かべるグリージョに、コテンと首を傾げる()()()()()()であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新ソビエト連邦軍 某所

 

 新ソ連軍KCCO司令官のカーターは、腹心のエゴール大尉を傍に眉間に深いシワを刻みながら歩む。その顔からは見るからに不機嫌そうなオーラが滲み出し、すれ違う内勤の職員達は揃って冷や汗混じりに敬礼を返す。普段なら頷きの一つ位は返すものだが、険しい顔で歩き続けるカーター達にそうする余裕は無かった。

 

 二人の脳裏に浮かぶ事柄は共通している。

 数日前、新ソ連政府が領地運営を委託するPMCの管轄内で大規模なテロが発生した。原因は、現場の統括者である指揮官が企てたマッチポンプが、企図者の意を離れ本物の戦争となった事。おまけに、指揮官達を纏める幹部社員まで人質として拉致する手助けをしたときている。即ち、救いようの無い大惨事が起こった。

 

 

 CEOであるべレゾヴィッチ・クルーガーにとっても、この様な事態は青天の霹靂だったに違いない。半ば敵対者といってもいいライバル企業、その特殊部隊をまさか身内が招き入れた挙げ句、まんまと裏切られて大暴れされるなどと。あまりにお粗末、あまりにバカバカしいことこの上なく。何よりやるせないのは、一人の男のしょうもない欲望で多数の死傷者が出てしまった事だ。

 

 本来なら領地委託の約定を即刻取り消される程の大惨事。その後は瞬く間に勢力を失い、倒産となるまでが一筋だろう。

 

 しかし、現実にはそうならなかった。

 事態が起こるや否や、クルーガーは即座にカーターに状況を報告。軍や政府が察知して動き出す一歩先に行動出来た事により、どうにか周囲を説得、G&Kを潰さずに済ませられた。勿論、こうなった時を想定して有用性をアピールする資料を予め用意していたのだが。

 

 クルーガー自身も抵抗無く社への査察を受け入れ、問われるべき責を認めた事もあって、結果として会社そのものの消滅はなんとか免れることとなる。

 

 

(とはいえ、ふざけたスキャンダルを起こしてくれたものだ。まさか念の為と用意していた説得材料を本当に使う羽目になるとは)

 

 

 事実、時間的猶予の少ない中でかなりの大立ち回りをさせられる羽目になったカーター達。彼等が進めるこれからの"計画"に必要な存在とはいえ、下手をすれば自身の立場も危うくしかねない綱渡り的な交渉を強いられた今、未だその胸中には発散し切れない苛立ちが燻っている有様である。

 

 

 

 とその時、正面に自身と同じ緑を基調とした軍服に身を包み、上等な杖をつきながら歩み寄る老齢の男が見えた。傍には側仕えであろう、アタッシュケースを持った若い女性士官を連れて。カーターは男の顔を見て鋭く目を細める。一般人なら震え上がる程の剣呑な気も込めて。

 しかし男性はどこ吹く風と歩み寄る足を止めることはない。ニコニコとした人好きのする深い笑み、時と共に刻まれた深いシワを朗らかに崩して男は口を開いた。

 

 

「やぁやぁ、久しぶりじゃないか、カーター君」

 

「・・・お久しぶりです、ヴァーレンタイン大将」

 

 

 名を呼ぶと、男は白い歯を見せて笑う。

 一見すると裏表の無いさわやかな笑顔。しかしカーターはそれを向けられて尚表情を崩すことはない。

 それは男の立場と、軍の高級将校の間で陰で囁かれている蔑称に由来する。

 

 

 エドワード・ヴァーレンタイン。新ソ連参謀本部情報総局の総局長。階級は上級大将。そう、男はかつて『GRU』と呼ばれていた組織のトップに立つ人物なのである。

 男の元にはこの国で起こったあらゆる情報が届く。それはもちろん、国内に潜伏している敵対者(スパイ)に関する情報から、身内の敵対、ないしは国家に不利益を齎すであろう行動の”予兆”まで、全て満遍なく。

 そして男は決してそれらの情報を取り零す様な愚か者ではない。情報を精査し、国や軍に仇なすと判断すれば、直ちに組織が有する特殊部隊(せんりょく)を送り込み、その芽を摘み取ろうとするだろう。

 それは徹底的に行われる。地中に残った根すらも残さぬとばかりに。即ち、粛清の対象となったものは、即座に死んだ方がマシと思える程の手法で処刑されるということ。

 

 その様から付けられた別名は『処刑人(パラーチ)』。

 無論、正面切って言う命知らずはいないが。

 

 傍から見る分には好々爺な振る舞いをしているが、その(なり)通りの人間であれば血生臭い組織のトップなど務まりはしない。

 

 カーター自身、自らの立場上その事を嫌という程理解している。だからこそ、出来る限りエドワードと顔を合わせたくはなかった。

 

 

「クルーガー君の所の件は聞いた。君にしてはかなり骨を折ったそうじゃないか」

 

 

 やはり後輩は可愛いものかね? そう言いたげな含み笑いを浮かべる。

 

 

「えぇ、まあ。あれでも昔は面倒を見ていましたから。流石に次はありませんがね」

 

「そうだろうな。だが、此度の事は重大だ。

 たった一人、たった一人の指揮官の売名行為を起りに、無惨にも多くの死傷者を出してしまった。もし君が手を回していなければ、私が直接グリフィンに解散命令を出していた所だよ。普通はそうなって然るべき被害を出している・・・少なくとも、我が国の領地を委託するには余りに大きく信頼を損なったと言えるだろう?」

 

「・・・」

 

 

 エドワードの瞳に剣呑な光が灯り始める。カーターの心の内を見透かそうとするように。

 その眼力は、そこらの将校ですら身が竦む覇気を纏う。

 

 お前は何を求めている? にこやかな笑みはそのままに向けられる威圧感。けれども、カーターはなんてことも無いかの様に、憮然と振る舞う。

 

 

「クルーガーは、G&K(グリフィン)は、我が国の()()()()()()()に必要な存在です。

 確かに、一指揮官の愚行により状況は最悪でしょうが、奴にはこの逆境を乗り越え、掴むべき未来を目指す能力があります」

 

「故に、多大な労を払ってでも救い(掬い)上げたと?」

 

「ええ。()()()()に、です」

 

 

 真正面から見据え言い切ったカーター。その様にエドワードは眼を閉じ、数瞬考える素振りを見せたかと思うとやがてカッカッと笑い、余生を過ごす老人が語らうかの如く気安さで話し始める。

 

 

「ハッハッハッ、いや済まない。この職に就いているとどうにも人が何を考えているのか深く知りたくて仕方無くてね。不快に思ったのなら謝ろう」

 

「いえ、お気になさらず・・・」

 

「そうかそうか、それなら良かった」

 

 

 高らかな笑いを前に、内心カーターの心情は苛立ちが募っていた。

 しかしそれを表には欠片も出さず、あくまで武人としての振る舞いを貫き続ける。

 

 国の未来、祖国の為と自身は言った。確かに、それは間違ってはいない。

 カーターを始め、一部の者()()が旨味を得られる世を良しとする者にとって、という注釈はつくが。

 

 無論、真の意味で国の未来のため動くエドワードとは方向性を大きく異とする思想。自身の企てに関する決定的な証拠を捉えられれば、即座に目の前の男は自らを敵と定め、処刑人(パラーチ)の仇名にそぐわぬ手腕で徹底的に潰しにくるであろう。

 

 気付かれてはならない。この男には、決して。

 

 

「ふむ・・・忙しい所を引き止めてすまなかった。これからも共に、()()()()()邁進していこうではないか」

 

「もちろんです、ヴァーレンタイン大将」

 

 

 エドワードが徐ろに右手を差し出すと、倣うようにカーターも手を出し、握手が交わされる。片やにこやかな笑みを浮かべ、片や少しばかりの微笑と共に。

 

 では失礼、とカーターとエゴールが立ち去って行くのを見送るエドワード。二人の姿が完全に見えなくなるのを確認し、ゆったりと杖をつき始めた。くつくつと笑い声を漏らしつつ。

 

 

「くっくっくっくっ。軍人としては無駄無く歳を重ねてきた様だが、やはり彼奴(きゃつ)に企み事の才はそれほど恵まれていない様だ」

 

「と、申しますと?」

 

「バカではないが詰めが甘い。彼奴(きゃつ)の企みはそう遠くない内に必ず綻ぶだろう。その隙を見逃さず、刈り取れば良い」

 

「左様でごさいますか」

 

 

 まだ年若い女からすると、若干(実際には相当)虫の居所が悪かったようではあるが、概ね隙という隙は見られなかった様に感じていた。

 その為、エドワードの言葉に対しては半ば空返事の様な返答になってしまう。無論、そうした言葉の機微を聞き流す男ではない。

 歩みを止めぬまま、エドワードは静かに告げる。祖父と孫ほど歳の離れた部下に、優しく手解きをするように微笑みながら。

 

 

「君もこの職に就いた以上、ヒトのありとあらゆる面を見る事になる。その内(ハナ)で分かる様になるさ。此奴(コイツ)は間違いなく遂行出来るのか、それとも何処かで仕損じて破滅するのかとね」

 

「————」

 

 

 女は立ち止まる。本当に自分がそうなれるのか、不安を滲ませて。

 それを見て何故か満足そうに頷いたエドワードは、再び杖をつき始める。

 

 

「うむ、では早速君に命じるとしよう」

 

「はっ」

 

 

 暫し歩いた後、エドワードの執務室に到着する。鍵を開け、窓のない部屋に入ったその時、女は手に持ったケースからアンテナのような物を取り出し、部屋の壁、天井、床、ソファーや机、応接用のテーブル、果ては自らの軍服や髪にまで翳すと、一礼して同じことをエドワードにも行った。

 しかしいずれにおいても特に何も起こらない。盗聴器のような電波を飛ばすものは感知出来なかった。もしキャッチしていれば、アンテナ自体から音が鳴る。

 

 

「盗聴器の類は無いようです」

 

「その様だ」

 

 

 カツカツと音を立て、扉の真正面に鎮座する重厚な執務机に向かうエドワード。ゆったりと腰を下ろすと、にこやかな笑みで女へ向き直る。背後の窓から射し込む光によって、彼の顔は深い陰影に染まる。

 ただし、その瞳には凍てつく様な鋭い光を灯らせて。

 

 

「カーターとエゴール近辺の動きをよく見ておきたまえ。勿論気取られぬ様に。些細な変化も見逃してくれるなよ」

 

「畏まりました」

 

 

 恭しく一礼した女は静かに立ち去る。

 出てゆく部下を見送ったエドワードは、椅子に深くもたれて見えぬ空を仰ぐ。浮かぶのは変わらぬ笑み。しかし眼の奥に光る輝きは鋭き研ぎ澄まされている。

 

 

「お前の理想は・・・くっくっくっくっ、言うのも野暮というものだな」

 

 

 そう呟き、口角を更に吊り上げた。

 

 

 

 -----

 

 

 

「レイン、今日からお前の名前はレインだ」

 

 

「お前はきっと強くなる」

 

 

「お前なら出来る」

 

 

「お前に・・・託すぞ」

 

 

 

 

 

 

「・・・ナマイキそうな面してる、私こいつキライ」

 

 

「ハッ、口ほどにもないじゃない」

 

 

「・・・ムカつくけど、助けてくれてありがと」

 

 

「・・・こんなの、死にに行くようなもんじゃない」

 

 

 

 

 

 

「貴方が(わたくし)ご主人様(オーナー)ですの?」

 

 

「空気が、張り詰めていますわ」

 

 

「・・・必ず仇は取りますわ」

 

 

 

 

「レイ! 彼女を連れて逃げろ!」

 

 

「お前もプロだろ。頼む」

 

 

「アンタ、兄弟はいるか?」

 

 

「あのスケアクロウの()()()()()()によろしく伝えてくれ」

 

 

 

 

 

「アンタとは、またどこかで会う気がする。そこが戦場でないことを祈るよ」

 

 

「————その願いは多分叶わねえさ。次会う時ぁきっと、俺かお前か・・・どっちかが死体だろうよ」

 

 

 

 

 

 

 ————Pi Pi Pi Pi...

 

 

「————ふぅー」

 

 

 装着していたヘッドセットから鳴るアラーム代わりの電子音により、微睡みの中にあったレイの意識は静かに浮上する。そっと目を開くと共に段々と頭が覚醒していく。やがて働き始めた聴覚が拾うのは、イヤーマフで耳を覆っていてなお轟く二対のローター音。眠たげに目を擦りつつ、ふと視線を感じて見渡すと、操縦席にいるアインスとティナを除く機内のほぼ全員が自身を見ていた事に気付く。

 

 

「・・・」

 

『おはよ、レイ』

 

 

 対面に座るUMP45の声がヘッドセットから聞こえる。しかし彼女の口は一切動いていない。それと、普段大なり小なり陰や胡散臭い雰囲気を帯びている彼女にしては本当に珍しく、混じりっ気のない純粋な微笑みでレイを見ていた。まるで愛しい人の寝顔を眺めてたかの様に。それを認めると小さく息を吐き、細めた目を彼女に向けた。

 

 

「いざ口が動かないままキミの声が届くと違和感が強くて変な気分だな」

 

『仕方無いじゃない。こんな喧しい中で確実に言葉を伝えるにはコレが一番楽なのよ』

 

「まあな・・・」

 

 

 一理ある。人形である彼女達にとって、音声でのコミュニケーションは声帯ユニットを使うだけに限らない。現状の様に、声を出しても伝わりにくい環境、あるいは出してはならない環境においても、自身が有する無線ユニットを使用すれば、電波に乗せてそのまま音を出力出来る。実際、協力して仕事していた中でも何度も行っていた事なのだが、生身の人間たるレイからするとどうにも違和感は拭いきれない様子。

 

 

「まぁ良い。行程は予定通りか?」

 

『そうね。あと15分もしない内に着陸態勢に入るわ。レイ、スケアクロウ、エージェント、そろそろメット着けなさい』

 

 

 操縦手のアインスが言う。名指しされた3人は、両腕で抱いていたヘルメットに目を向ける。

 

 

 これから向かう場所。レイの父代わりの人物が遺した手掛かりがあるとされる場所。大半はイエローエリア級の汚染だが、場所によってはレッドエリア級となっている事も。純粋な人形ならば大した問題にはならないが、レイ、それと初期型ハイエンドの姉妹に関しては、重度のコーラップスの汚染は致命傷になり得る。

 故に、3人は軍用規格の専用防護服を着用している。今は首から上を開放しているが、着陸してハッチを開ける迄には頭部のフルフェイスカバーも装着しなくてはならない。さもなければ、空気中に漂うコーラップス粒子が着実に身体を蝕んでゆく。その果てに待ち受ける未来は、怪物(バケモノ)だ。

 

 

 先に待ち受けるリスクへ意識を向けつつ、フルフェイスカバーを着け終えるレイ。いよいよ気を引き締めなくては、そう思った刹那、身を弾け飛ばす様な轟音と衝撃によってレイ達の意識は刈り取られた————




 ※此方はマジで続きません。
 ずっと埋まったままになってたモノの供養ですm(_ _)m
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