裏稼業とカカシさん(旧題:裏稼業の何でも屋が出向く先には必ずカカシが待っている件)   作:chaosraven

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 最新話です。
 今度こそ前回みたいな大ポカ文章では無い(はず)です。

 主人公達が揃って不在になるお話第二弾()


-32-回り続ける歯車

 

 

 

 上層部との会議を終え、本社のエントランスへと戻ってきたルード。

 突然言われた会社の大きな事業計画、およびそれによって生じるメリットとリスク。それをたった数時間の間で全てを飲み込むには、彼にとってはとても大きな衝撃を与える内容であった。

 

 来たときとは変わり、疲れ果てた様子を隠せないルード。そんな彼の元に、メイド服を身につけたシニョンヘアの女性が静かに歩み寄る。

 

 

「・・・お疲れさまでした、工場長。僭越ながら、私がテレポートで第三産業廠までお連れ致します」

 

「・・・あぁ、エージェントか。済まないね、よろしく頼むよ・・・」

 

「畏まりました。・・・お手を」

 

 

 彼女はルードの右手を握り、空いた自身の右手で十字を切ってテレポートした。

 瞬間的に彼らの姿は本社から自身のホームである第三兵器産業廠に転移し、戻ってきた安心感からか思わず大きなため息を零したルード。そんな彼を、エージェントは自らの”父”を”娘”が気遣うように心配そうな顔を見せた。

 

 

「・・・お父様」

 

「お父様、か・・・。君にそう言われたのは、君を”人形として”初めて立ち上げたとき以来だったかな。懐かしいね・・・」

 

「そう言われればそうですわね・・・その、随分と気分が優れない様ですが・・・上層部とのやり取りで一体何があったのですか?」

 

 

 もしかしたら今聞くべきでは無いのかもしれない。

 だが、普段なら部下の技術者と共に”ロマン”を追求するような、はっきり言ってハッチャケ過ぎな所もあるルードが、今やここまで内に抱えるものが出来てしまったという事実。こんな”父”の姿は今まで見たことがなく、そしてそれはきっとこの工場に勤める彼の部下達もおそらく同じ。

 自分を”人形として立ち上がらせてくれた”ルードには笑顔でいてほしい、ロマンを追い求め続ける様なエンジニアであってほしい。エージェントは、暗いところへ墜ちてしまった”父”の心に明かりを灯したかった。

 

 

「・・・そう、だな。あまり時間も無い。済まないがエージェント。第一会議室に今の時点で工場に残っている全役員とここにいるハイエンドモデル達を集めてほしい。そして、私の話すことが全社員に伝えられるように機材の用意も頼む。君を含め、全員に至急伝えなければならない事がある」

 

「全員に・・・」

 

 

 至急話さなければならないこと、しかも全社員に加えハイエンド全員にまで。

 もしや、上層部との会議の中で鉄血の未来を大きく左右するような何かが決まったのだろうか?

 ただ事ではないオーダーに加え時間が無いという言葉、エージェントはただならぬものを感じ直ぐに了承する。

 

 

「畏まりました。直ちに手配致しますわ。お父様は先に向かって心を落ち着けて下さいな」

 

「・・・ありがとう。もし次に彼に会ったら、なんとしてでも君の購入契約をしてもらえるように営業(マーケティング)をしないといけないね」

 

「まぁ・・・ありがとうございます」

 

 

 クスリ、と小さな笑みを浮かべ、エージェントは再び十字を切って転移した。

 直後十数秒の間を置いて、自身の端末がメールを受信したことを知らせる。

 

 ーー緊急の召集令につき、役員級及び第三にいる全ハイエンドモデルは直ちに第一会議室へと向かって下さい。当工場に所属する全社員にも同様に至急伝える事があるため、社内内線#0005を開き、工場長からの伝達があるまで待機願います。ーー

 

 そのように書かれたメールを見て、さすがいざという時の彼女は仕事が早いものだと感心する。こんなに早く展開されては、私が心を落ち着ける時間もあまり取れそうにないな、なんて苦笑を浮かべながらも、ルードは第一会議室・・・かつてスケアクロウの能力を無断で使ってたことを彼に問いただしたあの場所へと向かう。

 

 

「・・・ふぅ。さぁ男ルード、覚悟を決めるべし」

 

 

 自らに喝を入れ、第一会議室までの道のりを歩み続ける。

 やがて扉の前に辿り着いた彼は深呼吸を一つ、気を引き締めて扉を開けた。

 

 そこには自分以外の役員全員、そしてエージェントに招集を掛けさせたハイエンドモデル達が起立して待っており、まさか既に全員揃っていると思っていなかったルードは面食らう。

 

 

「・・・皆、早いんだね?」

 

「工場長が緊急招集というからこそ、我々も出来うる最速で集合した次第です」

 

「おや、少し元気が無いようですね? それほどまでに我々にとって重大な事が?」

 

 

 さすがに役員なだけあって、頭の回りは早い。

 同時に自分を心配してくれる部下達の優しい視線を受け、それだけで少しばかし目が潤むのを感じるルード。

 いつまでも入り口に立ったままというのもアレなので、疲れた内心をなるべく出さない様気をつけながら、最奧の自身の席に腰掛けた。

 

 

「エージェント、用意は?」

 

「こちらに」

 

「ありがとう」

 

 

 音割れする事なくはっきりと声を拾える位置にマイクを配置し、彼が口を潤すための水を手元に置くと一歩後ろに下がり控えるエージェント。今の彼女は、レイやスケアクロウと接してる時とは似ても似つかぬ、静かに主人が求める仕事を的確に遂行してみせる出来るメイドとしてその場に立っていた。

 

 

「ゴホン。さて、まずは唐突にこの様な騒ぎを起こしてしまった事を諸君らに謝罪しなければならない。その上で、我々には時間の猶予はあまり残されていない状況に置かれている。質問等は後で受け付けるので、まずは私が話す事を口を挟まずに聞いてほしい」

 

 

 一口、冷たい水を口に含む。

 ・・・おそらくボトルに柑橘系の果物の切り身を漬けているのだろう。水の中に僅かに香る風味に少しだけ気持ちが安らぐ。

 

 

「結論から言おう。”近々”我が社は、販売する全人形のAIを総括するマザーシステム『ELISA』を導入する」

 

「なっ!?」

 

「そ、それって・・・」

 

 

 ルードの発した言葉、それは工場の役員たちにも大きな衝撃を与えた。

 マザーシステムの導入、全人形の上位に位置付くということ、その体系がもたらすメリットと起こりうるリスク、彼らはそれらを即座に認識した。

 

 

「そんなっ!? これほどの大きな計画を何故”近々”というタイミングで工場長に知らされるのですか!」

 

 

 ”近々”という言葉が他ならぬ工場長の口から発せられた事。その意味に気付いた役員が思わず立ち上がり声を荒げた。

 

 何故なら、システム導入のための用意をするのは自分たち現場の人間、さらに言うなれば現場の最高責任者が工場長であるルードなのだ。

 これほどの規模の作業は一周間二週間で出来うるものでは到底無い、計画的に事を確実に遂行していかなければならない案件であり、故にもしルードに前もってシステム導入の旨を共有されていたのなら、現場の担当者である自分たちもとっくに知っていなければならないはず。

 

 つまり、ルードはこの事を本社の会議で”初めて知らされた”という結論に役員たちがたどり着くのは自明の理であった。

 

 

「・・・質問は後で受け付ける。

 それに伴い、出荷した人形も在庫として残っている人形も全て、実施されるマザー導入に対応するべくファームウェアのアップデートを行わなければならない」

 

 

 鉄血が作る人形は、I.O.P.とは違って種類自体はそこまで多くはない。

 もちろん、それぞれの人形ごとに特定の状況に適した戦闘プログラムを別途パッケージとして開発してはいるものの、そもそもが使用する武器ごとに人形の外見や個性までもがらりと変わるI.O.P.製人形と比べれば、制作しなければならないソフトの種類は少なくて済む。

 

 そう、作らなければならないソフトの数が少なくて済むという自社製品の特徴を活用し、先の上層部との会議では役員たちに先手を打たれてしまったのである。

 

 

 ルードや役員たちが懸念しているリスク、それを払拭するにはマザーシステムを導入する前の段階で、万一にそなえ強制的に稼働停止させるといった防御策を講ずる事が絶対条件である。

 さらに防御策も一つだけではダメで、複数の方法で人間が人形の電脳にアプローチ出来るようにする事、そのための動作テストも行って確実に安全を保証できるとエンジニアたちが自信を持って言える様でなければならないのだ。

 

 

”人が作り出したものに絶対は 絶対 にありえない”

 

 車に匹敵するサイズの”超大型バイク”を生み出した、伝説のエンジニア『レナート・ルカレッリ』の言った言葉である。

 ルードはエンジニアを志したときに知ったこの言葉を心に刻み、鉄血に入社してからも自身の作ったモノが買ってくれた人を絶対傷付ける事が無いよう、エンジニアとして腕を振るってきた。

 

 

 だからこそルードは会議において、システムが誤動作を起こした時の大きすぎるリスクを指摘し、せめて自分たち現場による安全策が講じられるまでは導入実施を先送りにするよう強く提言した。

 

 だが、上層部から帰ってきた返事は『既に鉄血人形全機種のAIに対応させるためのファームウェアは完成している』というものだった。もちろん、プログラムの製作者はDr.リコリス。

 

 つまり、上層部はいつでも鉄血人形のAIを更新できる状況にあり、現時点で機能できる人形全てのAIの更新が終わった時点で、マザー(エリザ)を上位AIとして彼女たちのネットワークに組み込めてしまうのだ。

 現場を挟むことなく・・・。

 

 

 ルードは目をつむり、上層部とのやり取りの中でI.O.P.のシェア拡大に対し極めて露骨に嫌がる様子を見せた役員たちを思い返す。

 

 彼らはI.O.P.を”奴ら”という言い方で呼び、憎悪の感情すらも宿している節もあった。

 今回の上位AI導入という計画はI.O.P.に一矢報いる切り札として実行すると彼らは言った。だがルードにはその結果を追い求めるあまり、消費者に人形を売り出す上で絶対に守らなければならない安全措置を疎かにしている様に思えてならなかった。

 目先の結果しか見えておらず、走り続ける自分のすぐ真下の小石一つに蹴躓く様な・・・このままでは蹴躓いた先で会社が大コケしてしまうのではないか。彼はどうしても嫌な予感を拭えずにはいられなかった。

 

 

「私はアップデートを実施するまでには安全策を講ずるために時間が掛かる事を伝え、実施の先送りを上層部に提言した。

 ・・・だが、帰ってきた答えは『更新用のファームウェアはもう完成している』というものだった」

 

 

 その言葉に役員たちは驚愕に染まる。

 

 

「バカな・・・。我々以外にどうやって」

 

「上層部には技術畑の人間はいないはずじゃ・・・」

 

「諸君らの動揺する気持ちは十分理解できる・・・してやられたよ。

 彼らは、上層部は、まさに”天才科学者”と呼べるある人物を極秘裏に本社に招き入れていた。マザーAIも、依り代となる人形は既にその科学者の手により完成しており、あとは統括下に置かれる人形たちの更新(ファームアップ)さえ終わればすぐにでもリンクできる状態まで計画は動いている。

 ・・・実のところ、時間が無いというのはこういう意味だ。上層部は事を急き過ぎている。だが、それを止める事は残念ながらわたしの力では出来なかった。

 この方針を決定する会議に、私を始め工場長たちを招かなかった理由は間違いなく事の進みが遅れる事を嫌ってのものだろう。安全策を用意するために計画の実行が遅れる事を認められない、だから”後出し”で我々に伝えたのだ。

 彼らは少しでも情報流出の可能性を減らしたかったと言っていたが、そんなもの今日のように我々を直接本社に招聘すれば良いだけのこと。あまりに見え透いた嘘を悪びれもなく付かれたということは、もはや我々が今更何を言ってももう彼らには届かないのかもしれないな・・・」

 

「・・・」

 

 

 一通り話し終えたルード。

 鉄血人形の置かれる状況が大きく変化しようとしているのを前に、この会議室を重苦しい空気が支配する。

 だが数分と経たぬ頃、ウロボロスの設計主任を務めた役員『リーサ・スタインフェルド』が立ち上がった。

 ルードはもちろん、彼女に生み出されたウロボロスを含めた全員は、彼女が何を言うのか分からず困惑する。

 

 

「・・・工場長。提案があります」

 

「・・・なんだね?」

 

「現時点でこの工場にいる全ての人形から、遠隔操作モジュールを取り外しましょう」

 

『!?』

 

「か、母様っ!!?」

 

 

 遠隔操作モジュールを取り外す・・・つまり、ファームウェア更新を含めた”鉄血側から遠隔で人形に直接アプローチする手段”を削除しよう、リーサはそう言ったのである。

 リコリスが製作したプログラムが果たして人形たちを絶対に暴走させない”確実な安全策”であるかどうか、それを鉄血のエンジニアである”自分たち”が検証していない以上、現場の担当者としてマザー導入にGOサインを出すことは出来ない。

 だが上層部がそれを強行できる状況にあるのであれば、物理的に強行実施が出来ないように現場で対処するしかない。彼女はそう提言しているのである。

 

 無論、これは完全な越権行為であり、同時に上層部の意に反する反逆とも呼べる。

 実行すれば彼女の居場所は確実に消し去られる、彼女にとって人生をフイにしかねない提案であり、リーサがいなくなる未来を容易に想像できた他の役員たちはさらなる驚愕に包まれた。

 

 

「リーサ君」

 

「はい」

 

「・・・自分が何を言っているのか分かった上での、発言なんだね?」

 

 

 久しく見せていなかった、強い威圧感を与える視線を以ってリーサを見据える。

 大抵の人間はルードに睨まれれば目線が泳ぐなどの反応を見せるが、リーサはそれには動じず、逆に強い決意を持って見つめ返してきた。

 

 

「もちろんです工場長。

 かつて技術者ルカレッリの言った『人が作ったものに絶対は”絶対に”ありえない』とは、この工場に勤める者に限らず全ての技術者が魂に刻むべきもの。だからこそ、鉄血の人形をお買い求めくださるお客様に、いつ暴走するかもわからない製品を提供するなんて真似は絶対にできません。

 安全策が()()()()なのにも拘らず、上層部が全ての人形へシステム導入を強行しかねないというのなら・・・我々現場の人間がストッパーとならなければならない。

 ”子供達”がお客様に牙を剥く可能性が1%でもあるのなら、それが0になるまで徹底的に排除しなければいけないのが我々の役目のはずです!!」

 

 

 決死の覚悟を以って、リーサは言い切った。

 その表情は、守るべき者を自らの命に代えても守り抜く”母”のそれだったと、彼女を見据えながらルードはそう感じた。

 同時に、最愛の部下達にこの様な顔をさせてしまったことへ、自身の力不足を呪わずにはいられなかった。

 

 

「・・・そうだよな」

 

「リーサ主任の言う通りだ・・・」

 

「俺たちの子供達は俺たちが守らないと・・・」

 

 

 周りの役員たちもリーサの想いを感じ、技術者として真に為さねばならない事を見出したようである。

 だが、それは鉄血工造に謀反することと同義。そして内心はどうであれ、工場長(ルード)はそれを阻止しなければならない立場。

 

 彼は立ち上がり、かつて(レイ)にしか浴びせた事のない本気の圧をリーサへと向けた。

 

 

「っ・・・」

 

「リーサ、君が言っている事は我が社に対する明確な反逆となる。その程度の事わざわざ言わなくても分かるだろう?

 私は、君だけでなく大勢の部下を預かる身として、君一人の行動で全員に大きな迷惑が掛かるような事態を見過ごすわけにはいかない。

 私には道を踏み外そうとしている君を止める義務がある故、いざとなれば命令という形を持って君を拘束する用意もある。エージェントや君の生み出したウロボロス、その他のここにいる人形もそうだ。

 できる事なら、君の可愛い”子供(ウロボロス)”に母を捕らえさせるなんて真似は私もしたくないのだよ。

 ・・・さて、その上で君に問おう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーお前に、例え世の全てを敵に回しても”子供達”を守り抜く覚悟はあるのか?ーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ルード工場長、やる時は本気でやる男である。

P90に名前を付けるとしたら?

  • そのまま『P90』でいんじゃね?
  • 『ナインティ』でいんじゃない?
  • ナインとティを逆さにして『ティナ』とか?
  • いやいや変化球で『きゅーまる』はどうよ?
  • 良いアイデアがあるから感想に書くぜ
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