裏稼業とカカシさん(旧題:裏稼業の何でも屋が出向く先には必ずカカシが待っている件)   作:chaosraven

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 ごめんなさい、年末まで仕事があってそのあと年越しとか諸々様々な理由があって年跨いじゃいました()

 先日無理を言ってコラボ話を投稿してくださった喫茶鉄血『https://syosetu.org/novel/178267/』さんのお話の別視点&続きの内容となっております。
 バトンリレーで書いていくという事で、どんな方向に進むのか予想ができないからこそ面白いコラボ形式だと思いますので、皆様もよかったら是非(殴


-SP47:04-エージェントさんのやってた喫茶店で”また”色々お世話になった件(完結)

 

 

 

「・・・・では、今回もまた?」

 

「あぁ、寝て起きたらまただ」

 

「デジャヴかと思いましたわ」

 

 

 なんやかんやあって店に入れてくれたエージェントに感謝しつつ席に着くと、彼女から今回はどのような経緯で世界を跨いだのかを問われた。

 前に聞いた言い分から察するに、この世界にはかつて自分のいた世界で死を遂げて転移してきた者も恐らくいるのだろう。

 だって、店の裏に連れてかれて開口一番『あちらで死んだ、というわけではありませんね?』なんて聞かれたのだ。生きてる内に迷い込む者もいれば、死して迷い込む者もいるということ。でなきゃあんな聞き方はしない。

 

 とりあえず、俺たちが提示した『皿洗いと店じまいの手伝い』を対価にすることを条件に、前にここに来た時に出してもらった飲み物をそれぞれ頂く。

 

 

「ふぅ・・・やっぱり美味いなここのは」

 

「ふふっ、お褒めにあずかり光栄です」

 

「・・・あのバホ姉にも爪の垢を飲ませたいくらいですわ」

 

 

 隣のスケアクロウがボソッと言った。・・・平行世界とはいえ、本人が目の前にいる中でそれ言っちゃうのかい。

 だが第三兵器産業廠での姉妹のやり取り見た感じ、彼女が自身の”姉”にこう思うのも正直無理はないかな、とも思えてしまう。

 同じ人形のはずなのに世界が違うとこうまで違うのか、内心そんなとこだろうか。

 

 コーヒーを啜りながらそんなことを考えていると、正面に立つエージェントがふと何か思い出したようにポンと手を打ち、このような事を聞いてきた。

 

 

「そういえばお二人とも、今日はどのようにお過ごしの予定でしたか?」

 

「今日? あぁ、クリスマスか」

 

「特に何も考えてはいませんでしたわ」

 

 

 こっちの世界じゃ非常におめでたい聖夜の一節となってるのだろうが、残念ながら日々を生き残るだけで精一杯なあの環境ではそれを祝えるのはごく一部の富裕層くらいなものだ。

 まぁとは言ったって、さっきはちょっとばかし小っ恥ずかしい空気になったりもしたもんだが・・・それも多分この世界に来てなかったらあんな空気感にはならなかったと思う。

 

 俺たちの表情から、凡そのこちらの世界の実情を察したのだろう。何か言おうと口を開きかけたその時、それよりも早く動いた奴がいた。二体ほど。

 

 

「クリスマスに、男女揃って何もしない!? そりゃないよ二人とも!」

 

「そうそう! むしろナニがあってもいい日なんだよ!」

 

 

 ナニがあってもいい日なんだよって、あのな・・・。

 カップルだったらこれ幸いとデートしたあとホテルに直行して〜なんてやる日でもあるの()()だが、俺たちはあくまで戦友や仕事上のパートナーではあっても男女の仲ではない。この世界の”俺たち”がどうなのかは知らないけどさ。

 

 

「「うわ、出た」」

 

「二人とも、プレゼントはお説教がお望みですか?」

 

 

 突然現れたマヌスクリプトとアーキテクトが鼻息荒く熱弁する。一瞬で能面染みた顔にトランスフォームしたエージェント、同時に額に青筋も浮かぶ。

 前来た時には罰ゲームと迷惑料を兼ねていたとはいえ、マヌスクリプトには”俺たち”がキザな格好のコスプレをやらされた過去がある。こう言うのもなんだが、いざ自分が目を付けられたら面倒くさそうな人形という認識である。

 ・・・元の世界でマヌスクリプトを作ろうとか考えてる技術者、まさかいないだろうな??

 

 

「まぁまぁ代理人、落ち着きなよ」

 

「どうせ代理人も何かしてあげようとか思ってたんでしょ? なら一人でやるよりも三人の方がいいって!」

 

「すげーな、半ギレのエージェントに物怖じしてねぇぞ」

 

「鋼のメンタルですわね」

 

 

 時々目元をヒクヒクさせながらも、とりあえず二人の話に耳を傾けるエージェント。っていうか、受ける側としてはこれ以上俺たちが払える対価以上の物を貰うわけにはいかないんだが・・・。

 この世界で使える金を一銭も持ってない以上、マジで店じまいの手伝い位しか貢献できることなんてねえぞ。

 

 という俺の考えを他所に話はポンポン進んでいく。

 思ったよりもエージェントも乗り気のようで、止めるのかと思いきや、二人にさらに先を促し始めた。

 

 

「・・・・・いいでしょう。それで、何か案でもあるのですか?」

 

「外のモンスターマシンあるじゃん? あれをちょちょっと改造してプレゼント!」

 

「「「却下で」」」

 

「えぇ〜〜〜!?」

 

 

 バカやろう。悪気はないんだろうけど、”あの人”の残した形見を弄らせる訳にはいかねえってばよ。

 すると今度はマヌスクリプトが、(多分)あまり見せない真剣味あふれる表情で声を上げる。

 

 

「普段着ないような服でクリスマスを過ごす!」

 

 

 出てきた言葉にカクンと体が崩れる。

 アーキテクトがそうならお前もそうか・・・つくづく欲求に忠実な人形たちだな。

 

 

「・・・お前が着せたいだけだろ?」

 

「そんなこと言ってぇ・・・前にこっちの君が着た時は興味あったんじゃない?」

 

 

 正直に言っちゃった方が楽になるぜ〜い?と言わんばかりのニヤけ顏で・・・おい待てコラ顔が近い。ゴマスリするにもそこまで顔近づける必要はねえだろ。

 しかもぶっちゃけた話、ホストの服装なんか着せられても別にどうとも思わねえよ。仕事で女装したことだって何度かあるし、それと比べりゃホストのスーツくらいどうって事もないのだ。

 

 ところがスケアクロウはというと、眉間に皺の寄ったジト目でマヌスクリプトを見据える。

 この世界の”自分”が着せられた服が『結構際どいラインまでスリットの入ったチャイナドレス』だったことを思い出し、まさかそんな物を着せようという魂胆じゃないだろうな?という疑心があからさまに出てきている。

 そして隠すまでもなく、ストレートに聞いた。

 

 

「またいかがわしい服でも用意しているんでしょう?」

 

「ん〜? いかがわしい服ってのはどんな服のことなのかな〜スケアクロウちゃん?」

 

「そ、それはその・・・・・い、いかがわしい服はいかがわしい服ですわ!」

 

 

 ・・・カウンター食らってスケアクロウが沈みおった。 

 初々しい反応に心底楽しそうにケラケラ笑うマヌスクリプト。その脳天に拳骨を落とそうとエージェントが頭上で握りこぶしを作り・・・投下直前にふと何かを思いついたらしいエージェントは、数瞬前まで拳骨しようとしてたなんてカケラも見せない所作でマヌスクリプトにそっと耳打ちする。

 ふむふむ・・・この変わり身の早さは”こっちもあっちも”似た者同士らしい。

 

 

「マヌスクリプト、ーーーーーーーー」

 

「え? まぁあるけど、それでいいの?」

 

「えぇ、構いません。 ではレイさん、スケアクロウ、少々お待ち下さい」

 

 

 ニコリと笑って何やら店員たちに指示を出し始めるエージェントに首を傾げる。それでもエージェントなら気にする事は無いだろうと思い、大人しく待つ。

 それが悪手だと思い知らされたのは、その直後の事だった。

 

 

「では、よろしくお願いしますね・・・・・始め!」

 

『確保ーー!!!』

 

「なっ!? おわぁあああああああ!!??」

 

「ちょっ!? いきなりなんですのおおおおお!!??」

 

 

 エージェントの合図で店員たちが一斉に散り、狼煙を上げたアーキテクト達が真っ先に俺たちに突っ込んでくる。何か危機的予感を感じ、咄嗟に脚を振り上げ反撃するが・・・

 

 

「あはっ♪」

 

 

 俺の動きを完全に見切っていたアーキテクトにはまんまと躱され、後ろに回られて羽交い締めに拘束される。

 あーもう仕方ない、嫌な予感がプンプンするが彼女らとは敵対してる訳じゃないからな。多分何かしらの服を着せられるんだろうけど、捕まっちまった以上は大人しくしておこう。

 ・・・おかしな真似したら前に頭を倒してフルスイングのヘドバン決めるが。

 

 結局スケアクロウもマヌスクリプトから逃げる事は出来なかった様で、俺もろとも店の奥に連行させられて着替えさせられる。・・・ところでさ。

 

 

「アーキテクト」

 

「何かな?」

 

「キミは野郎が目の前でパンツ一丁になってもここにいるつもりか?」

 

「??? そだけど?」

 

「・・・」

 

 

 こちらの世界のアーキテクトは異性の肌色に耐性があるらしい。俺たちの世界の方は・・・うん、ジョーク一つとってもモジモジしてたから完全にウブっ子だわ。

 ともかく俺が着替えてる間もこの部屋を出るつもりは無いらしい。それどころか、着替え終わった後にジャケットに差してるハンカチとか、ちょっとした部分の形を整えたりしてくれた。

 これ、マヌスクリプトの仕事じゃねえの?

 

 それに対する返答は・・・

 

 

「うーん? でもね、スケアクロウの衣装の方が着させるのって難しいんだよね。それに女の子だからやっぱり綺麗に着飾って欲しいとも思うし?

 だから衣装を作った本人で、服の扱いにも慣れてる方についてもらったってだけの話だよ」

 

 

 との事だ。

 スケアクロウの方が着させるのに手間かかるって、どんな服を着せようとしてるんだか・・・。

 

 内心少しばかし不安な気持ちも抱えつつ、アーキテクトが持ってきてくれた姿見を見ながら蝶ネクタイの位置の微調整などをしていく。

 

 

「・・・うんうんうん! やっぱ元が良いから映えるねぇっ!」

 

 

 なんども頷き、オーバーなくらいのリアクションで似合うと言ってくれるアーキテクト。

 これならきっとイチコロでしょっ!と何やら意味ありげな言葉を残しながら、俺をグイグイ店内へと押し戻してくる。

 

 戻ってきた店内は先ほどの落ち着いた雰囲気のそれとはガラリと雰囲気が変わり、照明が落とされ暗がりとなった空間の中央に、一つのテーブルと椅子二つだけがポツンと置かれている。

 どうやら俺たちが着替えさせられている間に、わざわざスタッフ総動員で周囲の席を端に寄せ空間を広く取ったらしい。それだけではなく、店内にも複数のキャンドルが灯されていて、落とされた電気照明の代わりに暗い店内を仄かに照らす。

 そして、ただ一つ用意されたテーブルには純白のクロスが敷かれ、クリスマスというこの日を演出するように真ん中にもまた一つのキャンドルが仄かに光っていた。

 

 とはいえ、ここまでの強引な流れには思うところもあってか思わず口を吐いて出てしまった直後、隣に見慣れない人物が現れた。

 

 

「まったく、なんなんだ一体・・・・ん?」

 

「エージェントがまさかこんなことをするなんて・・・・あら?」

 

 

 いや、正確に言うと見慣れない人物では無かった。

 むしろ毎日顔を合わせている大切なパートナーの、この雰囲気に合わせて身繕いをした彼女の姿に俺は視線を奪われた。

 

 黒一色のドレス。胸の上までを隠す服のラインが一直線上に袖上のラインに重なるように仕立てられていて、必然的に肩や鎖骨の下まで露出する、彼女の着る服装にしては少し大胆な作り。

 引き締まった腰は健康的なラインでキュッと細まっていて、そこから下半身に行くにつれてふわりと花弁のように広がっていくヒラヒラのスカート。

 鉄血ハイエンドの象徴となるモノトーンカラーも意匠に取り入れたのか、黒一色のスカートの中にはライトグレーの布地も・・・いや、生地の色自体は全て同じで、どれだけ布を重ねるかによって色の濃淡を表しているのか。

 緻密な生地の足し引きのバランスによって、ドレス全体のライトグレーからブラックまでそれぞれの色の配置も絶妙で・・・。

 

 こう言ってはマヌスクリプトに失礼かもしれないが、もし何も聞かされずにお披露目されていたら『スケアクロウのために作ったドレス』だと言われても本気で信じてたと思う。

 そのくらい、俺の前に現れたスケアクロウの姿は魅力的なものだった・・・。

 

 

「ふふふ、お二人ともよくお似合いですよ」

 

 

 と、そこへ出てきた俺たちをエージェントがカウンターから出て出迎える。

 彼女にしては珍しく、いつも見せるクールな笑みではなく目まで弧を描いた心からの笑みを浮かべていた。

 スケアクロウに向ける視線も”本当の妹”の晴れ姿を見るような、なんとなく”姉”としての優しさや慈しみを感じられるものであった。

 

 ただ、彼女も俺もそもそもお着替えする羽目になったのは他ならぬエージェントの号令があったからなので、その点について理由を聞かせてもらう必要があるんだけども。

 

 

「おいこらエージェント、なんのつもりだこれは?」

 

「まさかあなたもバホ姉の同類だとは思いませんでしたわ」

 

 

 ば、バホ姉と同類・・・結構えげつねえ責め方だな。

 さすがにそのような言葉を頂いてしまうと彼女も感じるところがあったのかもしれない。

 

 ほんの僅かだけ申し訳なさげな顔を浮かべつつも、エージェントは俺たちをテーブルへと案内した。

 

 

「突然このようなことをしてしまったことは謝罪します。 ですがせっかくこういう日に来ていただいたので、私たちからのおもてなしです。 今日はお二人の貸し切りですよ」

 

 

 貸し切り、という言葉とともに”もう一人のエージェント”がクロッシュの乗った二人分の皿を持ってきてテーブルに並べる。クロッシュを持ち上げると、なんと中から小さなクリスマスツリーの砂糖菓子が乗ったケーキが現れた。

 まさかのサプライズに驚く俺たち。目の前に音を立てない丁寧な所作でソーサーとカップを置くと、エージェントは紅茶を注いで一礼する。

 

 

「ではお帰りの時間まで、ごゆっくりお過ごし下さい。 メリークリスマス」

 

 

 ニコリと笑うエージェントにつられ、二人で顔を見合わせて笑いあう。

 元の世界ではまず経験し得ない、年に一度の聖夜の出来事。

 

 なんだ、意外とこっちのエージェントも茶目っ気があるんだな。なんて事を考えながらナイフでケーキを切り分けていく。

 

 久々の天然物のケーキだ。こんなサプライズまでしてくれた『喫茶 鉄血』の面々に心からの感謝を捧げつつ、俺たちは束の間の聖夜を楽しんだ。

 

 

 

 -----

 

 

 

「・・・そんなにフーフーするくらい熱いなら、無理しないで冷めるの待ってから飲んだら?」

 

「・・・紅茶は温度が命でしてよっ! つーん!」

 

 

 猫舌スケアクロウが拗ねるという一幕はあったけど。

 

 

 

 -----

 

 

 

 突然押し掛けたにもかかわらず快く迎え入れてくれたばかりか、とても大きなサプライズまでしてもらった『喫茶 鉄血』には本当に頭が上がらない。

 洒落た雰囲気の食事会を終え、元の服装に戻った俺たちは改めて店じまいの手伝いをしていた。

 

 端に寄せていた多くのテーブルの配置を戻し、雰囲気づくりのために灯されたキャンドルらを片付け、自分たちが使った食器洗いもやらせてもらう。

 本来、無銭飲食なんてやらかしたらこの程度では済まないのだ。この辺も柔軟に考えてくれるエージェントには感謝だ。

 

 

「・・・そういえば、レイさん」

 

「うん?」

 

 

 ジャブジャブ食器を洗っている横で、洗った食器を布巾片手にフキフキしてるエージェントに声をかけられる。

 ちなみに余談だが、スケアクロウはなぜかアーキテクトとマヌスクリプトにまた捕まり、店の3階にある従業員用の部屋で姦しく話をしているらしい。

 もっとも、スケアクロウを連れ出そうとした二人をエージェントが発見した瞬間、彼女の激おこメーターが一瞬振り切りかけたみたいだが、俺たちが先ほどの貴重な経験を出来たのはあの二人の行動によるところも大きいので、なんとか宥めて上に上がってもらった。

 

 

「以前訪れて頂いた際に、コーヒーの豆を差し上げたと思うのですが・・・お味の方はどうでしたか?」

 

 

 チラリ横目で伺うと、少しだけ不安そうな顔のエージェント。つっても、さっき洗ってる時より若干視線が下に下がったって程度の違いだけど。

 さて・・・どう説明したもんかな。

 こっちの世界だと豆挽く道具が高くて、しかも一般に流通するような代物じゃないせいで未だに一粒も挽けてないのだ。

 

 でもそれを言っちまったら余計気を遣わせそうだし、うーむ・・・。

 

 

「あーその事なんだけど・・・」

 

「どうかしましたか?」

 

「こっちだと、豆を挽く道具自体がそもそも一般に流通してなくてな? もらっておいて申し訳ないんだけど、実はまだ一粒も挽いてないんだ」

 

 

 その言葉を聞いたエージェントが驚きに目を見開く。

 おそらく他の世界から来た転移者たちから、コーラップスが起こった世界の実情はなんとなく聞いてるとは思うが、まさかコーヒー豆を挽く道具すらまともに手に入りにくいとは流石に思わなかったのかもしれない。

 毎日自分たちが使う極めて身近な道具だし、あって当たり前のものが無いというのは少し考えにくいよな。

 

 

「・・・そんなに、そちらの世界の情勢は逼迫しているのですか?」

 

「天然物、つまり自然に存在する植物や動物を使った食材ってのはまあほぼ手に入らないよ。それはコーヒー豆も例外じゃない。

 キリマンジャロとかコロンビアとか、前来た時に色々な産地の豆を使ったコーヒーを飲ませてくれただろ? コーラップスはそうした産地も含めて、地球上のほとんどを人の住めない環境に変貌させてしまった大事件なんだ。

 そんな事があって俺たちの世界で今でもコーヒー豆を作ってるのは、国家の勢力が衰退した今なお都市としての生きてられてる所の産業用プラントとか、その程度のもんだ。そもそも豆自体の流通量が絶対的に少ないし、合成食材ではない自然由来のものだからそれだけでも価値が跳ね上がる。

 そんなもんで豆を挽く道具も大量生産なんて事はしない。作ったところで売れない以上、仮に作るとしても完全受注生産だし、おまけにまともな鋼材とかも手に入りにくいから材料費が高くついて、結局これも価格が高くなる。

 そうまでして手に入れた所で結局豆が無きゃただの置物にしかならないから、滅多な事じゃなきゃ出回らないってわけ」

 

「そうなのですか・・・」

 

 

 まあ、これは俺たちの世界での話だ。他の転移者たちの古巣はまた少し違った状況だったりもするかもしれない。

 無限に可能性が枝分かれした内の一つ。それが俺たちの生きる世界であり、他の人間が生きる世界である。

 

 ただ、俺たちコーラップス後に生まれた世代から言わせてもらうと、北蘭島事件を引き起こした中学生共ホント何してくれちゃってんのとド突いてやりたかったところだが。

 何気無い好奇心がこんな大惨事を引き起こしたのだから、世の中ホントままならないものだと思ってしまう。

 

 

「・・・でしたら、お店の方で使っていないコーヒーミルがありますので、そちらをお譲り致しますわ」

 

「そいつは有り難いけど、でもこれ以上貰ってばっかりなのも申し訳ないな」

 

「良いんです。お店でもう使っていないものですから。それに、豆にも消費期限というものがありますから。是非飲める内に味わって頂きたいんです」

 

「そこまで言うのなら・・・ありがたく頂くよ。何から何までありがとう、エージェント」

 

 

 少々暗い話になっちまったが、雑談をしてる間に皿洗いも無事に終え、店じまいの全行程が終了した俺たち。

 店の奥にコーヒーミルを取りに行ったエージェントを待っている間に、はっちゃけコンビから解放されたスケアクロウが若干ぐったりしながら俺の隣に来る。

 

 

「やけに疲れてるな。三人で何を話してたのさ?」

 

「いっ、言えません! 言えませんわっ!!」

 

 

 ブンブン首を振って全力で拒否するスケアクロウ。ビシッビシッと彼女のツインテールが顔に当たって地味に痛い。

 そこまでされると非常に気になる。前回この世界のスケアクロウに耳打ちされた事も含めな。

 

 そこへ、コーヒーミルを抱えたエージェントが出てきた。

 手元には手書きのメモらしきものもある。

 

 

「レイさん、こちらがコーヒーミルになります。それとこちらのメモは、お渡しした豆が一番美味しく飲めると自負している挽き方と淹れ方のレシピになります」

 

「・・・喫茶店のマスターとしてそういう話を簡単にバラすのってどうなのよ?」

 

「別にライバル店となるわけでもありませんし、私はただ豆挽きからコーヒーを作った経験のない方にも美味しく飲んで欲しいだけですから」

 

 

 そう言ってコーヒーミルを手渡してくれるエージェント。

 そして丁寧なお辞儀を一つ。

 

 

「もう外は暗いですから、道中気をつけてお帰りください。またのご来店をお待ちしております」

 

「ありがとう。ところで帰るついでにもう一つ聞きたいんだけど」

 

「はい?」

 

 

 きょとんとするエージェントに、俺は運転中の事故を防ぐためにこんなことを聞いてみる。

 

 

「あそこの路地を通る以外に、ここから地区の入り口まで行ける道って何処かない? 狭くていつ擦るか結構ヒヤヒヤするもんでさ、それに結構エンジン音もうるさくて周りに迷惑掛けてるかもしれないし」

 

「あぁ・・・それでしたら、搬入車用の大きめの道があるのでご案内しますわ。D、よろしく頼みますね」

 

「分かったよOちゃん!」

 

「「Oちゃん? D?」」

 

 

 Dと呼ばれたもう一人のエージェントの返事、そしてエージェントらしからぬ明るい性格に、改めて俺たちはそのギャップを感じずにはいられない。

 しかしそれを追求する間も無く、突如外のオンボロが勝手にエンジンを吹かし始めた。まさかと思ってポケットを探してみれば、案の定いつの間にか何処かにいったオンボロのキー。

 

 

「ふふ、どうやらもうそろそろ時間のようですね」

 

「また来てね! 今度は鉄血にある私の部屋にもおいでよ!」

 

「コスプレ接客がしたくなったらいつでも来ていいからね!」

 

「それは結構ですの!」

 

 

 スケアクロウ、そんなにコスプレ接客やりたくないんかい。

 俺も好きこのんでやろうとは思わないけどさ。

 

 

「それじゃあレイさんとスケアクロウちゃん! 私が案内するので付いて来て下さいね! Oちゃん行ってきます!」

 

「気を付けて下さいね」

 

 

 『喫茶 鉄血』を後にし、Dと呼ばれたもう一人のエージェントの先導で搬入用の道路を進んでいく。

 ああ、さっき通った路地とはえらい違いだよまったく。オンボロがそもそもデカすぎるのがあれだけど、やっぱりあの狭い入り組んだ路地を進むには結構なストレスを感じるんだよな。死角からいきなり人が出てきたら最悪殺す可能性だってあるし。

 

 

「あとはこの道を真っ直ぐ進めば、入り口までたどり着けますよ!」

 

「案内してくれてありがとう。えーっと・・・何て呼べば良い?」

 

「Dって呼んでください! 私はOちゃんの、あ、オリジナルのダミーリンク人形なんです! なのでダミーのDって呼んでくれたら嬉しいです!」

 

「ダミーリンク? それってI.O.P.製人形のような、いわゆる編成拡大とかそういうことか?」

 

 

 鉄血のハイエンドモデルが編成拡大をしてダミーリンクを連れ歩くなんて聞いた事がないが、現実彼女はエージェントそのものの姿をしている人形である。どうやらオリジナルと比べてかなり性格が明るめに設定されている様だが・・・あの店でスタッフとして仕事する上での差別化を狙っての事なのか。それともはたまた”別の”要因があるのか。

 

 

「そうなんです! もっとも、私やOちゃんにはそれほど強力な戦闘能力は無いんですけど・・・」

 

「「マジで(すの)??」」

 

「えっ? 二人とも、なんでそんな疑う様な目で見るんですか!?」

 

 

 いや、だって・・・ねぇ?

 あのエージェントのダミーリンクっつったら、どれだけの破壊力持ってんのよと思うじゃないか。

 

 あんなえげつねえエネルギー砲弾ポンポン撃ちまくって、鉄血最強の名を欲しいがままにしてきたあのエージェントが・・・ねぇ?

 

 多分同じ事を考えたらしいスケアクロウと目が合う。

 アイコンタクトでどう反応するかを確認した俺たちは、静かに目をつむり一言。

 

 

「「いやいやいや」」

 

「それってどういう意味ですか!!?」

 

 

 ガビーンと大きく驚くもう一人のエージェント改めDのリアクションに、思わずクスりと笑みがこぼれる。

 

 

「もう二人とも・・・。と、とにかく! 暗いので本当に気を付けて下さいね!」

 

「ああ。改めてみんなには世話になったから、エージェントの方にもよろしく伝えてくれ」

 

「お世話になりました。機会があれば、また立ち寄らせて頂きますわ」

 

「はい! またのご来店お待ちしてますね!」

 

 

 深々とお辞儀をして見送る姿勢に入ったDを見納め、オンボロを発進させる。

 地区を出てからもしばらく暗い道のりを進んでいくと・・・ちゃんと俺たちの寝ぐらにたどり着くという摩訶不思議な現象が起こった。

 

 

「・・・とりあえず、今日は寝よう」

 

「賛成ですわ・・・。色々あって、楽しかったですが少し疲れてしまいました」

 

 

 ということで、寝る前に今日受け取ったコーヒーミルを豆の入った瓶の隣に置く。

 初めての豆挽きからのコーヒー作りに少しばかし胸が踊るが、今夜はもう遅いので明日の楽しみに取っておこう。

 

 

 ・・・ありがとう、エージェント。

 良いクリスマスを過ごさせてもらったよ。




 遅ればせながら、今年もよろしくお願いします。

 ・・・いろいろさん、Dってこんな感じで良かったでしたっけ(大汗)
 それとごめんなさい、最近加わったメンバーについては把握しきれてなくて出せませんでした(スライディング土下座)

 ちなみになんですが、当方がイメージしたスケアクロウのイメージは以下の感じです。


【挿絵表示】


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