裏稼業とカカシさん(旧題:裏稼業の何でも屋が出向く先には必ずカカシが待っている件) 作:chaosraven
お待たせしました。
今回は以前投稿した -32- の続き、第三兵器産業廠での会議の展開となります。
そのため、前話とは若干時間軸が巻き戻った時点でのお話になる点、あらかじめご承知おきください。
「お前に、例え世の全てを敵に回しても”子供達”を守り抜く覚悟はあるのか?」
会議室に冷えた声色で響き渡る言葉。それは、ルードの目の前で毅然とした形で立つ役員の女性『リーサ・スタインフェルド』へと向けられたものだ。
”覚悟”を問う彼の言葉にリーサは一切の逡巡せず、真っ直ぐルードを見据えて言い切った。
「あります! たとえ工場長や同僚の皆、果ては私の家族が敵になったとしてもっ、私は”子供達”を守り抜く覚悟がある!」
断言された彼女の言葉にルードは己の座っていた椅子を蹴り飛ばし、この場にいる誰もが見たことも無い凄まじい剣幕で声を張り上げた。彼は、そうしてでもリーサを止めなければならない”立場”だから。
「本気でそのような事をぬかしているのかァッッ!!?」
「”子供達”を守るにはこうするしか無いんだよッッ!!!!」
ありったけの力で机を叩きつけ、ルードに被せるように渾身の力で想いを張り上げた。鋭い視線が互いに交錯し、両者の荒い息遣いだけが響く。周囲の役員や人形たちはこの二人の出す覇気に飲まれて、息をするのも忘れ両者の応酬を見ていた。
「貴方には”立場”というものがある、だから、部下の私たちがこれからやろうとしている事を止めなきゃいけない義務がある。それは理解しています」
リーサは肩で息をしながらも、落ち着いた口調でルードの立場を理解している事を述べる。
けれどもルードを見据えた視線はそのままに、彼女は自身の”内なる想いと覚悟”を打ちあけた。
「でも・・・”立場”に従ってこのまま事が流れていくのを見ているだけなんて、技術者としても、この子達の”母”としても決して出来ません!
何かが起こってからじゃ遅いんです! お願いしますッ、全責任は私が取ります! ”子供達”に搭載された遠隔操作モジュールを取り外す事を、許可して頂けませんか・・・?」
「母様・・・」
感極まり、グシャグシャに顔を歪めながらも工場長であるルードに直訴するリーサ。そんな”母”の直訴にウロボロスも込み上げるものを堪えられず、また目を潤ませていた。
それは、この場にいる他の役員達も同様だった。
頭を下げ続けるリーサの姿を見て彼らはすくっと立ち上がり、潤んだ目をギュッと瞑りながら同じように頭を下げた。
一生を棒に振りかねない危険な所業に自らも手を染めるという”覚悟”を、彼らはルードに示して見せたのだ。
大切な部下達の示した様を見て、ルードは遂に決心を決めた。
大切な部下にこのような顔をさせて、最低最悪の上司ではないかと内心で自嘲しながら。
彼女たちの覚悟が本物であることを認めたルードは、エージェントが位置を正してくれた椅子へと腰掛ける。
「・・・スタインフェルド主任」
「・・・は」
彼は鋭い視線を緩め、”覚悟”を見せた部下へ慈しむ想いを以ってリーサを見据えた。
「・・・よくぞ言い切ってくれたね。君の内に秘めた技術者としての想い、確かに伝わったよ。そしてすまない。私の可愛い部下達にこんな涙を流させるなんて、上司失格だ」
「そ、そんな・・・」
リーサは先の剣幕からは打って変わった様子のルードに戸惑いを隠せない。
しかし、彼自身から向けられる視線には怒りではなく優しさが込められていること、それは彼女にも通じていた。
ルードはそんな彼女の様子を見て、会議机に肘をついて口元を隠すように両手を重ね合わせた。
「・・・私は、君たちを試していた。私に訴える中で少しでも迷いが生じるところを見せたならば、どんなに君たちが頼み込んできても決して首を縦にふるつもりはなかった。ハハハ、久々にあそこまでキレたよ。私も本気で怒ると怖いだろう?」
「そ、それは、その・・・」
苦笑を浮かべるルードに対しなんとも言えぬ顔のリーサ。
再び笑みを浮かべると、真剣な顔で役員達とハイエンド達を見渡してみせた。
「だが、怯えるどころか君は私の言葉に被せるようにして声を上げた。覚悟を持っていなければ、あそこまで激昂した人間にあの返しをする事は出来まいよ。
君は”母”として何があっても”子供達”を守るという、確固たる意志を持っているということ。そして、君の周囲にいる他の役員達も君と想いは一緒のようだ。
だが・・・君の直訴には一つだけ、私がどうしても容認できぬ所がある」
「な、何故ですか!? この子達のことを大切に思っているのは工場長、貴方も同じはずです!」
容認できぬという言葉に、再び立ち上がるリーサ。自身の想いを理解し、受け止めてくれたからこそ先の言葉が出たのではないか。
彼の態度の真意が分からず、リーサは問いかけた。
「そうだ。本社に逆らい、遠隔操作モジュールの取り外しを強行し、せめてこの工場にいる人形だけでも起こるかもしれない最悪の事態を回避させてやりたい。それはこの場にいる誰もが思っていることだ。
しかし、それを『君の責任のもとに』実施するということ、それだけはどうしても容認することはできない」
「何故!!?」
「本社への”反逆行為”を指揮するのは
『ッ!!?』
その言葉に、役員や人形達、内線によってこの模様をリアルタイムで視聴している従業員すべての顔が驚愕に染まる。
彼らもまた、ルードの”覚悟”に触れたからだ。
「この度の件、発案したのも実行を指示したのもすべて『
リーサ・スタインフェルドの名前は、諸君らの名前は、鉄血に逆らった重罪者としてではなく、本社に反旗を翻した工場長に無理やり従わせられた”哀れな従業員”として載れば良い」
己の死地を見定めた熟練の老兵、彼の決意を目の当たりにしたリーサはルードをそう喩えずにはいられなかった。
「そ、そんな・・・工場長にすべての責任を押し付けるなんてっ、そんなこと私にはとても出来ません!」
だが、今まで志を共にし、敬愛する上司にすべてを押し付けて逃れるなんてこと、リーサはそれこそ到底認められなかった。
この場にいる役員達も、モニター越しにこの状況を見ている社員達も、それは同じ。
「工場長お一人に責任を集める!? なんのために我々がいるのですか!」
「そうです! 役員だって相応の責任を負う立場であるのに変わりはありません! 貴方一人にこの責を背負わせるわけにはいきません!」
口々に出る部下からの言葉。
全てが自分を思ってのものであり、ルードは彼らの優しさが自らの心にすっと染み渡るのを感じた。
だが、未来ある若者に反逆者のレッテルを貼らせることをルードは許容出来ない。
老い先それほど長くない自身こそがこの”罪”を被るに価する。もしこの反逆に彼らを加担させてしまったら、もしかしたら上層部が刺客を放ってくることだってあるかもしれないのだ。
なにせ裏に生きる者達とのパイプを上層部が持っていたからこそ、
ならば、彼らにも責任を生じさせてしまうのは如何様でもあってはならない。
「諸君! 何の為に、組織に『最高責任者』という肩書きが存在すると思う?」
「それは・・・ですがっ」
「こんな時だからこそ『最高責任者』という肩書きが十全に効力を発揮するのだよ。私が全責任を負う。未来ある君たちの人生を真っ暗な闇に突き落とす訳にはいかない。罪を背負うのは、この先あまり時間の残されていない私こそが相応しい。・・・分かるね?」
「分かりません! 私たちは工場長も揃って、初めてこの『第三』の経営執行役員が揃うのです。貴方一人が責を追う必要なんて無いっ! 私たち全員で抱えるべきもn「いい加減聞き分けたまえッッッッ!!!」っ!?」
なおも抵抗を見せるリーサたち役員に、ルードは再度凄まじい剣幕でもって声を張り上げる。
「未来とはとても尊いものだ。明るい方にも暗い方にも、どの様にでも変化し得る無限の可能性が秘められている。だが、それはあくまで君たちの様に若い世代の話。私ほどに年を取れば、やりたい事が出来てもそれを実行できるかどうかは分からない。体は時と共に老いる、老いた体では出来ない事の方が圧倒的に多いのだから。
でも諸君らは違う。まだまだ努力をすればどうにでも人生の生き方を変えられる。君たちには”可能性”が残されているのだ。
それを、企業の上層部に反逆を企てたという”ただそれだけの事”でドブに捨てるなんて、決してあってはならない。君たちの将来を私の道連れにするなんて・・・たとえ神が許しても私が許さんッッ!!」
『工場長・・・』
「いいね? この反逆の全ての主導者は私とすること、全ての責は私に掛けられる様にすること、この条件が呑めないのならば私は直ちにスタインフェルド主任、君を拘束させてもらう。
企業の一員として上層部の意向に正直に従うか、それとも”子供達”を守る為に行動を起こすか、二つに一つだ。今ここで選びたまえ」
ルードはひとくちの水を含む。
緊迫した会議室でのやり取りの中で、知らぬ内に口の中がカラッカラになっていた。
ほのかに香る柑橘類の匂いが熱くなった己を静かに冷ましてくれるのを感じつつ、リーサを見据えた。
やがて決心を付けたリーサは、口を震わせながらも自身の下した決断を工場長に伝える。
「・・・分かり、ました。工場長、この度の件、貴方に全ての責任を負って頂きます・・・」
苦渋の表情を浮かべるリーサに、ルードは”父”のような笑みを以って返す。
「うむ・・・そうだ、それで良い。
さぁっ! そうと決まれば早速だ。ノーマルモデルに搭載されている遠隔操作モジュールの取り外し作業に掛かってくれたまえ。刻限は迫っている、すぐに始めてくれ」
『・・・はっ!!』
覚悟を決めた役員たちが、凛々しい顔で足早に会議室を出る。
後に残ったのはルードと、エージェントたちハイエンドモデルの人形たちだった。
「・・・すまない、しばらく一人にしてくれないか?」
「・・・かしこまりました。何かありましたらお呼び下さい」
恭しく一礼をすると、エージェントは他のハイエンドたちを連れ立って退室する。
再び、コップの中の水を口に含む。今度は中身すべてを飲み干し、大きくため息を一つ。
「ふぅ・・・。人生とはままならないものだな。息子や娘のように思ってきた部下たちを泣かせるなど、最低にも程がある。入社した時にはこんなクソ上司には絶対ならないと誓ったはずなのに、歯車は上手く噛み合ってはくれない。システム導入も、上層部のやり方も、何もかも・・・」
ルードは自身の座る椅子に体のすべてを任せ、一切脱力する。他者には見せられないとても緩んだ姿だが、本社での会議から今まで、たった今日一日だけで自分の人生の行く末が大きく変わってしまった。あまりの事の大きさに、正直自分自身で折合いを付けきれていないのもまた事実であった。
「少しだけ、休ませてもらうとしよう・・・」
ポケットからハンカチを取り出し、自分の目の上に被せる。
作業スペースからの内線が来るまでの間、疲れきった己の心と体に束の間の休息を取った。
カーテンの閉じられた窓の外から、彼の姿を覗き見る”影”には最後まで気付くことも無く。
ヌルヌルとした粘り気のある水音が、工場建屋の外壁を伝うように静かに響いた・・・。
あれ、なんか変なのが混ざり込んだ?(超すっとぼけ)
P90に名前を付けるとしたら?
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そのまま『P90』でいんじゃね?
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『ナインティ』でいんじゃない?
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ナインとティを逆さにして『ティナ』とか?
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いやいや変化球で『きゅーまる』はどうよ?
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良いアイデアがあるから感想に書くぜ