裏稼業とカカシさん(旧題:裏稼業の何でも屋が出向く先には必ずカカシが待っている件) 作:chaosraven
相変わらず進みが遅くてゴメンなさい・・・
「・・・さて、改めてご説明させて頂きますね」
テレポートした先で突然声を掛けてきた女性に連れられる事暫し、旧市街地のとある建物の会議室らしき部屋へと案内された私たち。全員が椅子に掛けると同時に、女性はやんわりと笑みを浮かべながら正面中央に立つ。
さながらセミナーを受け持つ講師と受講者といったような状況に、皆訝し気な顔を隠そうともしない。だが肝が座ってるのかそれとも単に鈍いだけか、そうした空気を意に介することなく女性は口を開く。
「我々は、表に出せないような非合法な仕事を専門に請け負う闇ギルド『
女性改めアインスは、そう言って深々と一礼をしてみせた。
一方、彼女の立場、彼女の属する組織の存在を理解した私たちは驚く。
非合法な仕事を専門に請け負う闇ギルドと、いつどうやって工場長はコネクションを持ったのか。なんのために?
部下や人形のことを第一に考えてくれている一方で、実は彼も手を汚す立場にあったというの?
「・・・ウチの工場長とこのギルドは、いつから関係が?」
恐る恐る、彼女と工場長が繋がりを持ったキッカケを尋ねてみる。
「初めてルード様からコンタクトがあったのは数ヶ月ほど前・・・御社のハイエンドモデルの一体が強奪されたため、秘密裏に取り戻して欲しいという依頼でした」
「ハイエンドモデルが強奪・・・?」
思い起こされるのは数ヶ月前に起きた、当時”たまたま”『第二兵器産業廠』にいたスケアクロウが武装組織によって強奪された事件。
原因はハイエンドモデルを保管する機密区画への立ち入り権限を持つ役職者が、ハイエンド奪取を目論む武装組織に多額の金銭で買収されていたこと。もはや警備体制も何もなく、警備員に変装した実行部隊が役職者に手引きされて堂々と工場に侵入した挙句、まんまと持ち出されてしまったという赤っ恥極まりない大失態である。
起こった経緯があまりにも酷いため、事を”世間に一切公表せずに解決しろ”という無理難題を上層部が吹っ掛けてきたのは忘れもしない。公的権力や武力を用いず、誰にも悟られる事なくどうやって解決しろというのだと、臨時に開かれた緊急会議で議論が紛糾したことをリーサは思い出す。
結局、最終的には工場長のツテにいる『やり手の傭兵』に依頼するという事で落ち着き、そして私たちの求める通りの完璧な仕事で、特に大したダメージも無く彼女は無事に帰って来てくれた。
あの時はとにかく何事も無くて本当に良かったと安堵し、涙も流してしまった位だったが・・・まさか実は『傭兵』ではなく『裏社会の仕事人』に依頼していたとは思わなかった。
言われてみれば、確かに頬骨にある傷などはいかにも”らしい”とは思う。でもこのご時世、体に傷の一つ二つあるなんてそう珍しい事でも無い。そうか、”彼”が・・・。
「・・・なるほど。このギルドはレイ様が所属している、という事ですね?」
リーリャ・・・エージェントも、今の内容でピンと来たみたいだった。
このギルドは私たちにとって決して無関係な組織ではない、ひとまずは少しだけ警戒を緩めても良さそうだ。
「ええ。いつも我々の組合員がお世話になっておりました」
柔らかな笑みを浮かべ、私たちに対してお礼を言うアインス。
しかしそれもすぐに鋭い視線へと変わり、見渡すように私たちを見据える。
「・・・先ほど、第三兵器産業廠からルード様よりギルドに、『依頼』という形でメールが届いたのです。大まかに言えば、これからハイエンドモデルの能力を使ってギルドの近くに部下たちをテレポートさせるので、彼女たちを助け迎え入れてほしいといった旨のものでした。
報酬はご自身の口座にある全額、それと軍から支払われる、対E.L.I.D戦線へのハイエンドモデル派兵のギャランティでなんとか了承してくれないか、とも。
鉄血工造が誇る優秀なエンジニアたちをどうか拾ってあげてほしい、必ずギルドの活動に貢献してくれる筈ですと、そのような事が本文に記されていました」
「工場長・・・」
出会った時にアインスの言った、工場長から事情は伺っているという言葉の意味がようやく分かった。
・・・一体自分の全財産を投げ打ってまで部下たちの未来を守ろうとする上司が、果たしてこの世の中にどれだけいるだろう。
私たちを人形の暴走から守るために自分だけあの場に残って、私たちをここにテレポートさせた工場長。ギルドにそんなメールを送ってたという事は、人形の暴走が起こった時点で既にこうするつもりだった・・・。
「・・・クソっっ!!!」
「母様・・・」
悔しさのあまり、私は力のままに拳を机に叩きつけてしまう。
ギリギリ歯が軋む音がするけど、そんなこと気にもならない。
今日ほど己の無力さを呪う日は、多分後にも先にも私の人生に於いて他に無いだろう。
人形を子供のように大切に想う気持ちを認め、尊重してくれた最高で大切な上司。
あの時もそう。ノーマルモデルの遠隔操作モジュール取り外し強行を決定した時も、あの人は自分がすべての責を負うのだと頑として譲らなかった。私たちの誰にも責が生じる形は断じて認められないと言って。
私たちは会社をクビになる覚悟でモジュール取り外しに臨んだものの、私たちが手を加えた時にはとっくにファームウェアの更新なんて終わっていたのだろう。私たちの抵抗を嘲笑うかの様に、ノーマルモデル達の暴走、そして工場の従業員たちの大虐殺が起こってしまった。ああなった以上、工場に残っていたら絶対助からないなんて子供でも分かるのに・・・。
そう言ってにっこりと笑った工場長の顔が思い浮かぶ。私たちがあの場から完全に飛び去るその瞬間まで、子供の旅立ちを見送るかの様な優しい笑顔を浮かべ続けていた工場長。あの時、あの人は何を想って私たちを送り出したのだろう?
「あぁっ・・・」
「リーリャお姉ちゃん・・・」
「姉さん・・・」
あの時の様子を思い出したのか、再び顔を覆って泣き崩れるエージェント。
寄り添う様にアーキテクトとゲーガーが支えに入るけど・・・一度、一人の時間を作った方が良いのかもしれない。
「・・・こんな時にこう言うのもなんですが、もうじき夜も更けてきます。部屋を用意しましたので、とりあえずはお休みになられては如何でしょう? 一旦時間を置いて、心を落ち着けるのも一つの手かもしれませんから・・・」
ボロボロな私たちの様子を察してくれたのだろう。アインスがとてもありがたい申し出をしてくれた。
裏社会なんて、私たちが考えるよりもきっと碌でもない環境に身を置いている彼女にも、今の私たちの姿には何か思うところがあったのかもしれない。
「・・・アインスさん。申し訳ないですけど、お言葉に甘えさせていただいても?」
「もちろんです。横になれば体だけでも休めますから・・・」
アインスはそう言って静かに目を伏せる。まるで痛々しくて、見ていられないという風に。
せっかくの申し出があったことだし、今夜はギルドの厚意に甘えさせて貰うことにしよう。
正直、今日一日で起こった出来事があまりに衝撃的すぎて、あらゆる意味で消化しきれていないのが実情だ。私も、部下たちも、人形たちも・・・。
眠ることは多分できないかもしれない。でも、体を休めるだけでも多少気の持ち様は変わってくる。時間を置けば、少しだけでも心の整理は進むかもしれない。
・・・ねぇ。どうしてこうなってしまったの?
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野盗の人形とのチェイスを終えて数刻、夜も更けた頃にギルドにようやく辿り着いた。
結構無茶な運転をしたおかげで、スケアクロウは若干車酔い気味である。スマン・・・。
オンボロをガレージに押し込み、ギルドへと入るとすぐに、受付嬢の序列二位『ツヴァイ』のコードネームを持つ女性に呼び止められる。
「おかえりレイ、アインスが話したいことがあるってさ。すぐそこの第一会議室で待ってるよ」
「アインスが? ・・・分かった」
こんな時間まで待ってでも話したいこと? よほど重大な事態でも起こったのか?
スケアクロウはまだ帰れないのかと不機嫌そうな顔をしているものの、内容次第ではとんでもない展開が待ってる可能性も無いわけじゃない。
なんども死線を潜って疲れ切ってるのは分かるが、もう少しだけ我慢してくれと彼女に手を合わせる。
「・・・致し方ありませんわ」
「理解が早くて助かるよ」
ということで、目的の部屋の扉をノックして中へ入る。
「・・・待ってたわレイ」
「待たせたな。んで、この時間まで待ってでもすぐに伝えたい情報ってなんだ?」
既に夜も遅いため、前座に世間話をするよりはさっさと本題に入った方がお互いに良いだろう。
そう考え、単刀直入に切り込む。
対して、アインスから齎された情報は・・・俺の思っていたよりも遥かにとんでもないものだった。
「・・・鉄血工造の人形が暴走した? ちょっと待て、どういうことだ?」
「ルード・ジーバン様からギルド宛に緊急の依頼メールが届いたのよ。詳しくはさっき貴方の端末にメールを転送したけど、要は鉄血製の所謂ノーマルモデルに分類される人形のAIが暴走を起こしてるって状態ね。本来、許可なしには実行不能な”人間の殺害”という行為も可能となっている。これにより、鉄血製の人形たちの大半はーー」
「ーー人類の敵に回った、と?」
「
暴走が起こったのはつい数時間前。夜明けと共に逐次色んな所から情報が入ってくるでしょう」
これはまた恐ろしい事件が起こっちまったものだ。
鉄血工造はI.O.P.とシェアを二分する大手の人形メーカー。彼らが今まで世に送り出した人形の総個体数はどれだけになるか、そのうちどれ位人間に敵対可能な状態なのかは正直考えたくもない。
つうことは、通りすがりに追いかけてきたあの人形たちも・・・。
「・・・なるほど。道理であの時、スケアクロウのハッキングを受け付けなかったわけだ」
「・・・ええ。暴走した原因はともかく、人間の殺害すら許可なしに行えるようなメンタルの状態では、外部からの信号なんてまともに受け付けないでしょう。それにあのプログラムも、私の知らない全く新しい配置パターンで構成されていましたし・・・」
「ふーん・・・」
エージェントたちが血相変えてテレポートしたのも頷ける。鉄血の未来が一瞬で潰えるレベルの最悪の事件と言っても過言じゃないだろう。
こんな大騒動を起こして果たしてお偉い様がどう収拾つけるのか気になる・・・と言いたいところだが、人形が人間を殺害するという行為を”自分たちの判断で実行可能”になってるってことは、だ。
「本社や関連施設にいた”人間”はとっくに全員皆殺しか・・・」
「!!? そ、そうですわ! 工場長は!? 第三にいる人たちはどうなっていますの!?」
ハッとした様子のスケアクロウがアインスに詰め寄るものの、彼女は目を瞑って二、三度首を振るばかり。
メールには従業員たちに関することは詳しく書いてなかったのか、それとも明確に結果が分かっていて首を振ったのか。
いずれにせよ、それを見てスケアクロウの顔は絶望に染まった。
「・・・さっきエージェントの能力で、第三兵器産業廠にいた数名がギルドにテレポートしてきたわ。
主任研究員のリーサ・スタインフェルドさんと彼女の部下3人、それと人形のエージェント、デストロイヤー、ウロボロス、アーキテクト、ゲーガーの計9名よ。
ルード工場長は・・・彼女たちをここへ避難させるために、工場に残られたそうよ」
「そん、な・・・」
「お、おいっ」
糸の切れた様に崩れ落ちるスケアクロウを咄嗟に支えるものの、彼女は既に気を失ってしまっていた。
工場長があの場に残ったという報せが相当ショックだったのだろう。スケアクロウは姉のエージェントと並び、最初期に造られたハイエンドモデル。彼女も俺の元に来るまではずっと工場にいたわけで、工場長をはじめ、第三兵器産業廠にいた従業員と過ごした時間は他のどの人形よりも長かったはずだ。
そうか・・・彼女にとっての親が”消えてしまった”のか・・・。
絶望のあまり意識までをも飛ばしたスケアクロウに、切なさのあまり居た堪れない様子を見せるアインス。
チラリと天井へ目配せし、やがておもむろに口を開く。
「・・・たまには、レイもギルドにある部屋で休んだら? もう夜も遅いし、無理に彼女を寝ぐらに運ぶんじゃなくてこっちですぐに休ませた方がお互い楽でしょ?」
「・・・それもそうか。そんなら悪いけど、先に休ませてもらうよ。今日やった依頼の決済は明日の午前中に手を付ける」
「うん。おやすみ」
一旦スケアクロウを会議机の上に寝かせ、彼女の首と膝の下に腕を通して抱え上げる。パートナーの温もりと重みを両腕に感じつつ、ギルドの2階、メンバー用の居住スペースにある俺の部屋へと向かう。
しばらくぶりの自室だが、滅多に人が使ってない空間に漂うはずの篭った空気感は感じられなかった。ギルドのスタッフが時々部屋の換気をしたり、ホコリが溜まらないように掃除もしてくれている様だった。その気遣いが今はありがたい。
比較的綺麗に整えられていたベッドに彼女を下ろし、髪が傷まないようツインテールだけさっと解いて毛布を掛けてやる。
静かに眠る表情が、哀しみを帯びている様に見えるのは気のせいではないだろう。
手近な椅子をベッド脇に置き、彼女の左手を優しく握る。
人形相手に何やってるなんて思うかもしれないが、これで大切な俺のパートナーの気が少しでも休まってくれればという願いあってだ。
人間でも人形でも、自分を育ててくれた”親”を失った時の喪失感はさぞや堪え難いもの。それは俺自身が”あの人”を失った時に身を以って理解してる。
立場や状況は違うにせよ、少しは哀しみを分かち合うことも出来るはずだ。
空いた手で、眠るスケアクロウの頭をスッと撫でる。
大丈夫。俺がそばにいる。安心しておやすみ。そう念じながら、彼女の心に届く様に・・・。
閉じられた瞳からこぼれ落ちた雫が、一筋の線を描いたーー
推奨BGM:Final Fantasy XII / 白い部屋
P90に名前を付けるとしたら?
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そのまま『P90』でいんじゃね?
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『ナインティ』でいんじゃない?
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ナインとティを逆さにして『ティナ』とか?
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いやいや変化球で『きゅーまる』はどうよ?
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良いアイデアがあるから感想に書くぜ