裏稼業とカカシさん(旧題:裏稼業の何でも屋が出向く先には必ずカカシが待っている件)   作:chaosraven

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 エンターテイナーと傭兵。
 そこから分かる通り、コラボの話です。

 今回は設定とキャラたちだけ拝借しての投稿となります。
 複数回に分けて続きますので、よろしくどうぞ。


-SP65:01-ミセス鉄血と傭兵

 

 

 

 U02地区へと一直線に伸びるハイウェイ。

 現在の時刻はマジックアワーを過ぎた頃。等間隔で置かれたオレンジの街灯がアスファルトと防音壁を照らすその道を、一台のサイドカーが走り抜けていた。

 

 ロシアのとあるバイクメーカーで作られたそれは、製造から既に数十年という時間を経ながら尚も現役で走り続けている。見た目には大分ガタが来ていることから持ち主はオンボロと呼んでいるものの、内部のメンテナンスは丁寧かつ神経質なまでに繊細に行われており、まだまだもっと長い時間を今のオーナーと共に走っていくのだろう。

 

 さて、そんなサイドカー付きのオートバイには一組の男女が乗っている。

 一人はライディングスーツに身を包み、バイクに跨り運転する男性。もう一人もまたライディングスーツにフルフェイスのヘルメットを着用し、一切姿を隠した身なりでも隠しきれない優雅さを纏った長身の女性。

 言わずもがな、エンターテイナー”ミセス鉄血”ことスケアクロウと、彼女が専属の護衛として雇っている傭兵のレイである。

 

 しかし、いつもは良好な関係を築いているはずの二人の間に会話はない。ある時に複数のトラブルが発生して以来、二人の間には妙な沈黙と気まずさが漂い続けていた。

 正直に言うと原因はどちらもどっこいどっこいといった所なのだが、おそらくそれを二人に言っても認めようとはしない・・・と思われる。

 先日『喫茶鉄血』に二人で訪れた際に、スケアクロウ側には何かしらの内心の変化はあったようだが・・・。

 

 

「・・・次の街に着いたら、先に寄ってほしい場所があるのですが」

 

 

 この状態になってからでは久方ぶりと言っていい、スケアクロウからレイへの会話のトス。レイは唐突に起きた出来事に、真っ黒のヘルメットの内側で眉をひそめる。

 とはいえ、せっかく相手から投げられたボールを返さぬ道理は無い。レイもまたおもむろに口を開く。

 

 

「別に構わないが・・・なんでまた?」

 

 

 了承の意を伝えた上で、至極もっともな疑問を投げかける。が、それに対する返答はレイの期待するものとは少し遠かった。

 

 

「で、できれば聞かないでいただけたらと・・・」

 

 

 俯き気味に言い淀むスケアクロウの様子をミラー越しに捉え、レイは彼女が何を目的にそのような事を言い出したのかと思案し始める。

 向かう場所があらかじめ決まっているのであれば、前もって伝えた方が早く効率的に到着できるのは誰でも分かる。ましてやハイエンドなら尚更だ。

 にも拘らず敢えて目的地をぼかすというのは、きっと彼女なりに考えがあっての事なのだろうと適当に当たりをつける。

 

 

「まあいいさ。雇い主様の依頼だからな」

 

 

 その瞬間、少しだけ空気が張り詰めたのには気付かないフリをしたレイであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『目標はポイントεを通過、ハイウェイ308をU-02地区に向けて概ね想定通りに進行中です』

 

「結構。プラン通りに続けてくれたまえ」

 

『了解』

 

 

 高所にある、ビル一階層丸々をぶち抜いた広い部屋。蛍光灯も何も点いていない真っ暗なはずの空間は、簡易な折りたたみ式の長机に置かれた5つのモニターの放つ光によって、辛うじて視界を確保できる程度の明るさを得ていた。

 こんな異質な空間でただ一人、モニターを見据えながら立ち続ける男。男は先ほど仲間からの報告を受けた無線機を机に置くと、歪んだ笑みを浮かべ一人零した。

 

 

「ミセス鉄血、明日は素晴らしいショータイムといこうじゃないか。

 テーマは他ならぬ『君の』終焉、永遠の終わりを告げる破滅のショーをね」

 

 

 男は腰に提げたコンバットナイフを取り出し、するどく研ぎ澄まされた刃を舐める。

 刹那、斬り払う様に腕を振り抜き、ナイフを壁に投げ刺した。

 

 

「ジ・エンドだ」

 

 

 再び笑みを浮かべた男は、モニターの電源も消さずに部屋から立ち去っていく。

 

 男が投げたナイフは壁に貼られたポスターに写る、ある人物の胸へと突き刺さっている。

 中心からやや左寄り・・・『人で言えば心臓のある位置』を寸分違わず深く突き刺した男の投擲には、被写体となった人物への憎しみの強さが表れている。

 

 それはU-02地区の小児科病院で行われる、世界を駆けるエンターテイナーの公演を知らせるポスター。

 ナイフは『スケアクロウ』の心臓へと、強い憎悪のままに深々と刺さっていたーー

 

 

 

 -----

 

 

 

 U-02地区は高台と平野、二つの地形を併せ持つ広い街だ。十数年前、一部の土地の行政執行権をPMCに移譲した際に設立されたこの地区は、昔から夕景の眺めが最高な高台の公園が観光スポットとして有名で、噂に聞くとプロポーズをした場所がここだという夫婦も多いらしい。

 それ以外にもここは熟練の技師が多く集う工場町(こうばまち)として栄えた場所で、実を言うと俺がこの街に来る理由のほぼ100%は工場の技術者目当てである。

 製造から数十年が経ち、とっくにメーカーでの対応が終わっているオンボロ。コイツを直せるエンジニアが圧倒的に少なくなってきてる現代で、数少ないオンボロのメンテを依頼できる職人たちがここにはいるのだ。どうかこの優れた技術を受け継いでいってほしいと思う。閑話休題。

 

 

 さて、エンターテイナーとして多忙の身であるスケアクロウが次に公演に臨むのは、この地区にある中規模の公会堂だ。

 今回のステージはパフォーマーとしてのスケアクロウの格を考えると少し小さめの会場(ハコ)ではあるが、彼女がここでの公演を引き受けたのには理由がある。

 

 というのもU-02地区には、先の有名どころとは別に難病を抱える多くの子供達が治療に励む大きな小児科病院がある。ステージとなる公会堂は実はこの病院の中の一施設なのだ。

 

 キッカケはスケアクロウのパフォーマンスをテレビなどで見た子供達から、病院でパフォーマンスをしてほしいという直筆のオファーが届けられたこと。クレヨンで描いたスケアクロウであったり、お供のダイナーゲートやスカウトだったり、子供たちが一生懸命彼女に向けて描いた出演依頼状である。

 スケアクロウは自分のパフォーマンスがそうした子供達にとっても生きる希望となっていることを改めて再認識し、手紙が届いたその日の内に国際回線で是非と依頼を快諾したというわけ。

 

 彼女はパフォーマンス以外でも子供達のために何かサポートできないかと考え、当初は病院の中だけでやるはずだったイベントを少し拡大して数日に分けて行うことにした。

 初日は治療や免疫力の関係で病院から出られない子供達のため院内のスペースで、二日目は病院の公会堂で一般の観客も招きチャリティーステージとしてパフォーマンスをする。チケット代は全て病院や医療団体に寄付をし、治療に多額のお金が必要な家庭に少しでも支援が行き渡るように整えた。

 

 

「次の世代を担う子供達に私の芸で少しでも希望を与えられるのなら、いくらでもパフォーマンスをしてみせましょう」

 

 

 そう言ってはにかんだ彼女に一瞬見とれたのは内緒だ。

 

 それから出演依頼を受けた後、バレンタインやらホワイトデーやらを挟んで一気に気まずい関係になっちまった俺たちだが、受けた以上は報酬に見合うクオリティの仕事を提供する責務がある。

 楽しみにしてくれてる子供達の前でこの気まずさを引きずるのもアレなので、目的はともかく彼女がこちらに会話をトスしてくれたのは有り難かった。

 

 しかし、その内容が着いたらすぐに寄ってほしい場所があるというのだから、彼女が一体何を企図してるのか少し不安でもある。

 まさかレストランなんかでクビを宣告されるんだろうか? 今回の彼女とのトラブルでは一時期、なまじそうされても文句が言えないくらいに怒らせてしまった様なので、いざ本当に突き付けられても動揺しないように覚悟は決めておいた方が良さそうだな・・・。

 

 

「・・・ここが岐路、か」

 

「何か言いましたか?」

 

「いや、なんでもない。それよりもうすぐU-02地区に着くから、道案内出来るようにだけ備えておいてくれ」

 

「・・・ええ」

 

 

 相変わらず無口、そんでヘルメットに隠れて顔も見えないから、お姫様が何を思ってるのか余計に掴めないな。

 ・・・ふぅ、真っ暗で星が瞬いていた空がいつの間にか清々しい青へと変わりつつある。朝だ。

 長時間のツーリングもそろそろ終わりが近付き、いよいよ入り口のゲートのすぐ近くまで辿り着いた。さて、俺の未来はどっちに転ぶかな?

 

 

 バンッッ!!!

 

 

「「 ・・・あ? 」」

 

 

 明らかに鳴ってはいけない不吉な破裂音と同時に、ハンドル制御が利かなくなる。暴れる車体をなんとか路肩に収めて止まり、状態を観察する・・・といっても、破裂音がした時点で何が起こったのかは分かりきっているが。

 見てみれば案の定、バイク側の前半分を支えていたはずのタイヤがバーストし、切れ切れになった黒いゴムがホイールに絡みついている。

 

 ちっくしょう、タイミングが悪すぎて笑えない。ビンテージ級のバイクだからこそ、S-09を出る前に本腰入れてメンテを徹底したはずなんだがな・・・。

 このために全ての車輪を新品のタイヤに取り替え、タイヤがバーストする最もな原因である空気圧も再三チェックし調整を行った。にも拘らず弾け飛んだのは製造時点で不良を抱えたタイヤを掴まされたか、或いは何らかの外的要因が絡んでるかとなるが、ここまで吹っ飛んでは詳しく調べるなど出来そうもない。

 はぁ・・・なんてこったよオイ。

 

 サイドカーに乗っていたスケアクロウは顔を覆っていたメットを外し、呆れも篭った様子でやれやれと首を振った。

 

 

「・・・メンテナンスをしっかり済ませてたのは私も知っていますが、こうなった以上は止むを得ませんね」

 

「・・・面目次第も御座いません」

 

 

 古いものをいつまでも使い続けるというのは、時にこうしたトラブルを引き起こすもの。

 もちろんそれを理解した上でそれでもコイツに乗り続けているのだが、まさかこの状況での故障、しかもよりによって変えたばかりのタイヤがバーストしたのは笑えない。

 しかも、このゲートからオンボロを診てもらってる整備工場、仮に贔屓の工場でなくてもここから工場町の辺りまで行くには結構な距離がある。おまけに工場町に軒を連ねる工場は全体を通して立地が悪く、オンボロを乗せられるサイズのレッカー車では近くまで進むことが出来ないというダブルコンボ。

 

 つまり、これからオンボロを手押しで工場町まで運んでいかなきゃいけないが、スケアクロウをそれに付き合わせたら今日予定していた病院との打ち合わせに間に合わなくなる。

 俺の失態で仕事に穴を開ける事だけは避けなくちゃならん。

 

 

「仕方ありません。先に地区内の整備工場に向かいましょう」

 

「あー、その、とても言い辛いんだが・・・」

 

「??」

 

 

 無表情でコテンと首をかしげるスケアクロウ。

 普段なら可愛げある仕草に見えるそれも、この状況ではミスした手前彼女が苛立ちを抱えてるようにも見えてしまう。

 実際問題誰だって苛立って当然なので、出来るだけ穏便に話を進めるには手早く説明を済ませるに限る。

 

 

「・・・実はな、オンボロを直せる工場はこのゲートから結構離れた所にあるんだ。工場の近くを通る道もすごく狭く入り組んでて、コイツを乗っけられるサイズのレッカー車では工場まで辿り着けないから手押しで運ぶ必要が有る。それに付き合ってると、先方との打ち合わせに間に合わなくなるだろう?」

 

 

 内心冷や汗かきながら状況を説明すると彼女は目を細め、まるで何言ってるんだと言わんばかりの顔で凄んできた。

 

 

「・・・レッカー車を手配して、行ける所まで行ってから手押しで進めば良いのでは?」

 

 

 ・・・あっ。

 

 

「・・・貧乏性の俺にその発想は無かった」

 

「なら、早速手配してしまいましょう」

 

 

 そう言いながら手元の端末を取り出した彼女は慣れた手つきで電話番号を入力し、レッカーの手配をして貰えるように依頼を掛ける。

 が、相手のオペレーターと話している彼女の眉が段々と下がっていく。

 最初に掛けた業者からは応援は望めなさそうで早々に電話を切ると、また次の業者へ掛けて・・・というのを計二回繰り返した彼女は、懐へ端末をしまうと珍しくあからさまにガックリ肩を落として見せた。

 

 

「・・・どういうわけか、地区内全てのレッカー事業者のコンピューターでシステムトラブルが発生してしまってるそうです。原因は分かりませんが・・・」

 

「狙い澄ましたかの様なタイミングの悪さだな。朝からてんやわんやになってて、とてもレッカー業務なんて出来ないってか」

 

「ええ・・・」

 

 

 申し訳なさそうな顔を浮かべるスケアクロウだが、そもそも俺のミスでこうなっているのだから彼女が気に病む理由は全くないのだ。

 むしろこちらが余計なトラブル引き起こして申し訳ない気持ちで一杯である。

 とにかく、足が使えない状況は早く解決しなきゃマズイ。護衛としては完全な依頼放棄になっちまうが、バーストしちまった以上は止むを得ん。

 

 

「OK。それじゃあ先に一人で打ち合わせに行ってくれ」

 

「・・・ですが」

 

 

 尚も気にする素振りを見せるスケアクロウ。

 でも、今回の公演には大事なお客さんが待ってるってことを忘れちゃいけない。

 

 

「オンボロ運ぶのに付き合ってたら打ち合わせに遅れちまうだろ? それに、今回は子供達が待ってる大切な仕事なんだ。大事な打ち合わせに遅れたら『ミセス鉄血』の名が廃るぜ?」

 

 

 俺の言葉にスケアクロウは渋々といった風に頷き、自分の役目を果たすべくゲートの奥へと目線を向けた。

 

 

「・・・分かりました。では後ほど、地区東側にある高台でお会いしましょう」

 

「高台? そこがスケアクロウの寄って欲しかった場所か?」

 

「ええ。待ってますからね?」

 

「あ、ああ」

 

 

 彼女はライディングスーツを脱いで中に着ていた普段の服装に戻ると、茶目っ気溢れるウィンクを寄越してゲートの方へテクテク歩いて行った。お供のダイナーゲートやスカウトもサイドカーから出て、マスターである彼女に付き従うように歩いていく。ぴょんぴょん跳ねるダイナーゲートに合わせて指揮棒を振ってら。

 

 

 ところでこれは全くの余談だが、パフォーマンスする上で欠くことのできない大切な彼女のお供たちには、マスターのスケアクロウから直接個体名を名付けられてたりする。ただし、あまりそういったことに拘らないクールな彼女らしく、肝心の名前に関しては実に適当なネーミングを発揮しており、代理人もこれを聞いた時には思わずこめかみを押さえたらしい。

 

 ちなみに指揮棒に合わせて跳ねてるダイナーゲートたちが1号と2号、漂う様に浮遊しているスカウトたちが3号と4号と呼ばれている。由来は個体のシリアルコードの下3桁。偶然にも001と002のダイナーゲート、003と004のスカウトが揃ったわけである。

 考える気無いだろコレと呟いてしまったが、彼ら自身はどうやらこの名前を気に入ってたようで、言った瞬間にワチャワチャと総攻撃を食らったのは懐かしい思い出だ。閑話休題。

 

 

「・・・さってと、頑張って工場まで押して行きますかな」

 

 

 ギアをニュートラルに入れ、オンボロを押していく。

 

 心配は心配だが、なんだかんだ言って彼女はハイエンドモデルだし、もし何かあっても彼女なら華麗に撃退してしまえるだろう。

 なんなら、生身の人間である俺の方が弱いとすら言えるかもしれないくらいなのだから。

 

 

 

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