裏稼業とカカシさん(旧題:裏稼業の何でも屋が出向く先には必ずカカシが待っている件)   作:chaosraven

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 大変お待たせしました。
 前回蝶事件もこれで終わりとか言ったんですが、この辺の描写を欠くわけにはいかず・・・幕間という形での投稿となります。

 ここんところペースが落ちてて申し訳有りませんが、何卒気長にお待ちくださいます様お願いします。


-48.5-幕間

 

 

 

「・・・ところで、鉄血の面々には工場長の最期を伝えるのか?」

 

 

 溢れ出した想いの分だけ涙を流し、幾分か落ち着きを取り戻したスケアクロウに対し、敢えて俺は問うた。このタイミングで酷な事を聞いてる自覚はあるが、言うなら言う、言わないなら言わないというのは早めに決めなくてはいけない。

 

 あんな惨い最期を遂げたと知れば鉄血の面々・・・特にテレポートを実行したエージェントの心はこれ以上無いほど打ちのめされると思う。昨晩スケアクロウを寝かしつけた後にアインスやリーサからテレポートしてきた時の状況を聞いたのだが、ギルドに来てからのエージェントは終始俯くか泣いてるかという有り様だったらしい。

 工場長が彼女の強制コントロールコマンドを行使し、強制発動させたテレポートで避難させたそうで、リーサ曰く転移するその瞬間まで彼女は工場長に向け手を伸ばし続けていたという。

 

 工場長はその手を取らずに部下と"娘達"を逃がし、結果タコ女に喰い殺されてしまった。この結末を知れば彼女がどれだけ傷付くかなんて考えずとも分かる。

 伝えればとても大きなトラウマを刻みつけるだろう。でもだからといってウソをついて誤魔化して、彼女たちを真実から遠ざける事は果たして本当に良いことなのか?

 

 

 ・・・スケアクロウには酷な選択を強いる様で申し訳無いが、どちらを選ぶか決める権利は俺には無い。それは、俺が”家族(彼女たち)”からは一線引いた位置にいる”部外者”だからだ。

 彼女たちに工場長の最期を伝えるのか否かは当事者であり、彼女たちの”家族”であるスケアクロウだけが決められる事。直接ではなくとも、"父の最期"を目撃した彼女だからこそ、皆の心に忌憚なく伝えられると思う。

 

 この問いに対し、スケアクロウは暫し目を瞑って考える。

 

 

「・・・伝えますわ。リーサや部下の皆、リーリャ姉さんや妹たちには、お父様の最期を知る権利がありますもの。

 きっと精神的に打ちのめされると思いますけど・・・それでもやっぱり、誤魔化して真実から遠ざけるのは違う様な気がして・・・」

 

 

 スケアクロウが出した結論は『伝える』だった。

 正解は無い、どちらが正しいのかなんて誰にも決められないこの問いに、彼女なりに悩んで出した答えである。

 俺は、彼女の答えを尊重する。

 

 

「・・・分かった。スケアクロウ、すまないがベッドの背もたれを起こしてほしい。キミから見て右下に回転式のハンドルがあるから時計回りに回してくれ。あと俺の端末も取ってくれないか?」

 

「分かりましたわ」

 

 

 体が起こされた俺は、渡された端末を起動して工場長のデスクから移せた分のデータを確認する。

 ・・・移せたのは主にハイエンドを含む人形や工場の設計図面のPDFデータ、人形の詳細な仕様情報、それからパスコードロックの掛けられた暗号データに・・・タコ女がわざと残してた胸糞悪い動画ファイル。そのくらいか。

 

 データの移動割合としては半分もいってない筈。正直言うならもう一度忍び込んででも残りのデータを回収したい所だが、今回の潜入で第三兵器産業廠の警戒レベルは一気に跳ね上がっただろう。それに工場に忍び込んでいたタコ女、あんな奴がたった一人”興味本位”で工場にいる訳が無い。必ずバックに何らかの組織がいる。

 奴が工場長の執務室で擬態していたということは、工場長のデスクの中か工場のコンピューターに奴・・・いや『奴ら』が求めるデータがあったからに他ならない。

 当然自分たち以外の勢力がそれを狙って侵入する事も考えるだろうし、事実俺たちが工場に潜入したのだ。移しきれなかったデータを回収しに行ったところで、『奴ら』の仕掛けたトラップを踏む可能性が高い。

 

 なんらかの手がかりになるかもしれない暗号データだが、ファイル形式上俺の作ったコード解析ツールが使えないようだ。下手に触ってデータが飛ぶのが一番不味いため、パスコードのヒントを見つけない限りはノータッチにしておくべきだろう。ヒントを見つけられれば良いけどな・・・。

 わざわざ暗号化してあるからには、この中身にも重要なデータが入っているのは間違いないはず。・・・これで中身が工場長の集めたエロ画像とかだったら一生恨んでやる。

 

 

 今回の件、残念だがハナから詰んでいたと言わざるを得ない。俺たちの努力だけではどうしようもない状況まで進んでしまっていた。

 収穫といえば、手に入れたハイエンドたちの設計情報があることで、万一スケアクロウたちが損傷してもなんとか出来るという保険を得られたことか。

 

 ・・・。

 

 

「・・・例の映像データは必要か?」

 

「・・・一応、端末ごとお借りしても?」

 

「あぁ、構わないよ」

 

 

 端末を受け取ると、彼女は大きく一礼する。

 やがて再び立ち上がった彼女の顔は、先ほどまでの悲愴感はもう無かった。

 ほんの小さな微笑を浮かべると、踵を返し一言。

 

 

「・・・必ず仇は取りますわ」

 

 

 聞いた事もない凍てついた声と同時に、部屋の扉は静かに閉じられた。

 声に籠もった激しい憎しみが覇気となって部屋を支配する。

 

 ゾッとした。彼女の”ナニか”が目覚めた様な気がして思わず手を伸ばすも、彼女はとうに俺の手の届かぬ場所へと去っている。

 

 

「・・・一応、スケアクロウが皆に伝える瞬間を見守らせてもらうか」

 

 

 何もなければそれで良い。でも何かが起こるような気が、あの冷え切った言葉を聞いた直後から胸騒ぎがする。

 俺は誰かに自分を下の階に運んでもらうため、手元のナースコール(俺の療養の為に急遽取り付けた)を押したーー

 

 

 

 -----

 

 

 

「・・・リーリャ姉さん。それに皆」

 

「・・・サーリャ?」

 

 

 レイの部屋を出た私は、エントランスで姉さんたちを見つけ声を掛けた。

 皆今回の出来事に落ち込み、心が参っているのは言うまでもありません。ここからさらに”お父様”の最期を伝えるという、誰が見てもとても酷な事を私はこれからしようとしています。

 

 でも、皆には乗り越えてもらわなきゃいけません。いつまでも立ち止まっている事は”お父様”も望まないでしょうから。

 そして・・・あの”女”へ復讐を。

 

 

「サーリャ・・・? どうして、そんなに強く拳を握っているの?」

 

「・・・なんでもありませんわ。それより、皆に伝えなければならない事があります。・・・”お父様”の事です」

 

「っサーリャ! 何か分かったの!?」

 

 

 姉さんが途端に私の両肩を掴んで詰め寄ります。

 私たち姉妹の事をより気に掛けてくれていたお父様がどうなったのか、その結末を誰よりも知りたいのは姉さんでしょう。姉さんの瞳には一縷の望みが宿っている様にも見えますが、私はこれからその希望を打ち砕くことになる。そう考えると少しだけ躊躇う気持ちも込み上げてきますが・・・私は真実を伝えることを改めて決心し口を開く。

 

 

「”お父様”は・・・工場で亡くなられました」

 

「え・・・」

 

「そんな・・・」

 

「・・・くっ」

 

 

 皆一様に驚いた様な、あるいは受け入れられない事態に直面した様な顔を浮かべます。

 その中でもやはり姉さんは強張った表情で、けれども口元が震え、体が震えている。私の肩を掴む力も強くなる。

 

 

「サーリャ・・・嘘、でしょう? お父様が死ぬなんて、そんなこと無いって・・・」

 

「リーリャ姉さん」

 

「嘘よ! お願い、嘘だと言ってよサーリャ・・・」

 

「姉さん」

 

「本当にそうだと言うんなら証拠を見せなさい! お父様が死んだと判断するに足る証拠が、工場にはあった筈よ!」

 

「あります。死の瞬間をテレビ会議用のカメラが捉えていましたから。その映像データが・・・証拠ですわ」

 

 

 次の瞬間、姉さんが崩れ落ちた。

 呆然とし、その両目からは涙がこぼれ落ちる。

 

 

「・・・本当なの? 本当に、お父様は死んでしまったの??」

 

「・・・ええ」

 

「・・・映像データを見せて。どんなに惨くても、見届けなきゃ」

 

「・・・お父様の最期ははっきり言って凄惨そのものと言って良いですわ。それを見る覚悟はありますの?」

 

「・・・お願い」

 

「皆もです。覚悟はありますか? 辛いのなら、無理に見る必要はありませんから・・・」

 

 

 私は姉さん以外の鉄血の仲間にも目を向ける。社員だった彼女たちは皆、お父様のことを心から慕っていた人ばかり。ゲーガーたちは作られてからそんなに日が経っていないとはいえ、あの方が人形に対しても心からの愛情を向けてくれていた事は理解しているはず。

 そんな人の惨い最期を見届けるのは勇気と覚悟が要る事。無理をしてまで動画を見る事は無いのです。

 

 ですが、皆の顔は一瞬の逡巡の後決心したものとなる。

 見る覚悟が出来たのならば、私はそれを見せるだけです。

 

 

「・・・分かりました」

 

 

 レイの端末を立ち上げ、私は手を震わせながらあの女が残していた動画ファイルを再生します。モザイクも何もない、一切加工されていない動画。映し出されたのは異形の存在とのやり取りの後、絶望に満ちた断末魔を上げながら無惨にも喰い殺されていくお父様の姿。

 

 誰もがあの女の姿に畏怖を覚え、その結末が誰も予想もし得無い喰い殺されるというモノだった事に反応は様々でした。リーサたち人間はグロテスクなあまりその場で戻してしまい、姉さんを除くハイエンドたちは目と耳を塞いで震えてしまう。

 姉さんはーー

 

 

「あは、あははは・・・」

 

「姉さん・・・?」

 

 

 乾いた笑みを浮かべ、嗤う姉さん。ですが、その顔は壊れたように両目を大きく見開き、止めどなく湧き出す涙が頬を伝って零れ落ちていきます。

 

 

「私が・・・私がお父様の手を取っていれば、こんな事には・・・あははは」

 

「り、リーリャ?」

 

「あははは、あはははっ、あはははは!」

 

 

 大声で笑っていた次の瞬間、姉さんは自分の腕を殴り始めた。

 

 

「クソっ! クソっ! クソっ! クソっ!! クソッッ!!!」

 

 

 歯を食いしばり、何度も何度も腕を殴りつける姉さん。突然の自傷行為に慌てて私たちが取り押さえようとしますが、リミッターありとは思えない強い力にあっという間に振り解かれてしまう。

 

 

「私が手を伸ばしていれば!! 私がお父様を無理矢理にでも引きずり込んでいれば!! お父様は死ななくて済んだのに!!」

 

 

 ボロボロと涙が溢れ、己の激情のままに叫び、それでも殴るのを止めない。

 姉さんは無力さに絶望し、お父様を助けられなかった己を戒めているようにも見えた。

 

 

「なんで掴まなかった! なんで伸ばさなかった! このっ! このっ!! このぉっ!!!」

 

 

 腕を高く上げ、最後の一撃を振り抜こうとしたその手を後ろから誰かが掴みました。

 それは、アインスと女医に両脇から支えられたレイでした。彼の後ろには車椅子があり、まだ怪我も碌に癒えていないのに、痛みを堪えてまで姉さんの自傷行為を止めに来た様です。

 

 

「・・・もう止めろ」

 

 

 彼の顔には姉さんが痛ましくて見るのも辛いという思いが現れている。

 それでも、これ以上傷付けたくないと言わんばかりの強い視線で、姉さんを正面から見据える。

 

 

「貴方に何が分かる!? 肉親の様に大切に想っていた人があんな死に方を遂げて! 私がもう少しだけ手を伸ばせば、この未来は変えられていたかもしれないのに!

 私は”父”すらも救えなかった! 鉄血最強だとかそんなもの一切関係無い、たった数センチ程度手を伸ばせたかどうかの違いでお父様はあんな死に方をした!

 最愛の”父”すら救えない人形(わたし)なんかよりお父様が生き残るべきだった! こんなわたし(デク人形)消えてしまえばーー

 

 

 乾いた音がエントランスに響いた。

 険しい顔つきで右手を浮かべるレイと、左頬に紅みが差した姉さん。姉さんは突然熱と痛みを発し始めた自分の頬に、何をされたのか認識しきれていない様子を浮かべています。

 

 

「・・・エージェント、いや”リーリャ”。お前は今、やってはならないことをした。分かるか?」

 

「・・・えっ?」

 

 

 痛む身体を押してさらに姉さんに近づくレイ。そして、胸ぐらを掴み鬼気迫る表情で叫ぶ様に言った。

 

 

「何のためにお前をここへ逃がしたと思ってる!? なんで『後は頼む』と名指しでお前に言ったと思う!? お前に期待してるからだろ!? お前ならこの先の未来を変えてくれるだろうと、希望を託したからだろ!?

 命掛けて逃がしたお前が自分のことをデク人形なんて言ったら、それこそ何のために工場長は命掛けたのか分からなくなっちまうじゃねえか!」

 

「っ!?」

 

「良いか、お前が言ったその言葉は工場長の死の意義を根本から否定するモノだと知れ! お前が過去の行動を憂いて後悔するのは勝手だがな、いつまでもそこに突っ立ったままでいるんじゃねえ!

 誰もお前がここで立ち止まってることを望んじゃいねえんだ! ここにいる皆も、工場長も! お前の”父親”から託された希望を現実にするにはな、他ならぬお前自身がしっかり前見て進むしかねえんだよっ!」

 

 

 大きく荒く息を吐くレイは胸ぐらから手を離すと、今度は姉さんの肩に優しく手を乗せます。

 彼の顔には先ほどまでの怒りに染まった剣幕は無く、大切な仲間に向ける優しい微笑みが浮かんでいました。

 

 

「・・・後悔したって過去は変えられない。でも、これからの未来は幾らでも変えようがある。

 乗り越えるのには時間が掛かるだろうけど、なんてったってキミはスケアクロウ(サーリャ)の姉だからな。いつかきっと、初めて会った時みたいにお茶目なエージェント(リーリャ)に戻ってくれると信じてる。でもな?」

 

 

 今くらいは心を解放してやっても良いんじゃないか・・・?

 

 レイはそう言って、数歩後ろに下がる。

 

 

「・・・さっきは手荒な真似をして済まなかった」

 

 

 そう言って踵を返したレイが車椅子へと歩く一方、姉さんはレイの言葉をキッカケに先ほどの比じゃない量の涙を零し始めて・・・崩れ落ちそうになった彼女を鉄血の皆が支えに入る。

 

 

「リーリャお姉ちゃん・・・」

 

 

 アーキテクト・・・

 

 

「リーリャ、偶には私を頼ってもいいんだぞ? 主様よりは若干頼りないかもしれないが・・・」

 

 

 ウロボロス・・・

 

 

「私だって! リーリャお姉ちゃんを支えてあげたいんだから! 小さくたってハイエンドなんだから!」

 

 

 デストロイヤー・・・

 

 

「姉さん・・・私たちもいるし、リーサさん達だっている。せめて、姉さんの苦しみ悲しみを、私たちにも背負わせて欲しい・・・」

 

 

 ゲーガー・・・

 

 

「そうよ。一番辛いのはリーリャだもの・・・私だって、貴女の支えになりたいわ」

 

 

 リーサ・・・

 

 

「エージェントの辛さを全部分かってあげられるとは言えないけど・・・私も、少しくらいは背負ってみせるよ」

 

「あの時、エージェントが助けてくれたから私の命がある・・・今度は私がエージェントの支えになるから」

 

「貴女に救われたこの命、今恩返ししないでいつするんだって」

 

 

 殺戮が進む工場内でエージェントに救われたリーサの部下達・・・

 

 

 鉄血からやってきた彼女達の心が、絶望と後悔によって傷付いた姉さんの心を優しく包み込む。

 もう、限界だった。

 

 

「う、うう・・・うぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」

 

 

 姉さんは叫ぶ様に、ありったけの力で泣いた。

 ボロボロと大きな涙を何個も零し、胸が張り裂けそうな位の悲しみの込もった声で泣き叫んだ。

 姉さんを取り囲う様に皆で支え、ともに涙を流すその姿に、私も熱いものが込み上げてくるのを止められない。

 

 

「サーリャ」

 

「・・・ふぇ?」

 

「キミも”妹”だろう?」

 

 

 よっこいせと車椅子に腰掛けたレイは、チラリ私に目配せをしてくれました。

 共に分かち合ってこい。そう言いたげの彼の厚意に甘え、私も姉さん達の元へ。

 

 ・・・今日はなんだか、泣いてばかりな気がしますわね。




以下、推奨BGM↓

・Pokemon Mystery Dungeon - Run Away
・Valkyria Chronicles - Empty Loneliness
・Kingdom Hearts II - Dearly Beloved

P90に名前を付けるとしたら?

  • そのまま『P90』でいんじゃね?
  • 『ナインティ』でいんじゃない?
  • ナインとティを逆さにして『ティナ』とか?
  • いやいや変化球で『きゅーまる』はどうよ?
  • 良いアイデアがあるから感想に書くぜ
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